シナリオ詳細
<総軍鏖殺>HAGURUMA Verteidigungskampf
オープニング
●平和と破壊、再生と保護
「送り出した歯車兵たち……うまくやってるかしら」
リア・クォーツ (p3p004937)は高い建物の上で一人、冷たい風に晒されていた。
古代遺跡が眠る鉄道駅ルベンの攻略作戦が行われる一方、どうしても手薄になってしまう革命派難民キャンプの守りを固めるべく、イレギュラーズたちは歯車兵の三割近くをこの地に残し、防衛を行わせていた。
防衛といっても、常に誰かが攻めてくると決まったわけではない。立地的にも状況的にもノーザンキングスの略奪集団が襲ってくる場面ではないし、生き残りに必死な小集落が暴徒化したとしてもさしたる脅威にはならない。
なぜならボリスラフはじめブラックハンズたちの力も借り、難民たちにも戦闘訓練が行われていたからだ。この場合、仮に脅威となるなら新皇帝派の軍部がその膨大な軍事力にものを言わせて難民キャンプから物資を『接収』することくらいだろう。
「悩むところだけど……攻略が早まればそれだけ『隙』も縮まるわ。送り出した歯車兵が役に立ってくれることを祈るのみね」
「こんなトコにいたの? うお高ぇ! やっべえ」
伊達 千尋 (p3p007569)がジャケットのポケットに手を突っ込み、肩をすぼめるようにして同じ屋上へと上がってくる。
屋上といってもハシゴを使って無理矢理上ってきたにすぎず、フェンスはおろか雨樋のようなものもない。
いわゆるフルシチョフカ型建造物で、早くて安くて沢山住める大型仮設住宅である。
これがいま、難民キャンプには急ピッチで建造され多くの難民が冬を越すための家ができあがるさまに安堵していた。
「いい街だな……モリブデンを思い出す」
千尋の後ろからぬっと現れたゴリラめいた男。あるいは人間の形をしたゴリラ。
「あっ、この人ね、瑠璃男さん。めっちゃスゲー人だから。知ってる? ギアバジリカんとき一緒に戦ったの」
「ああ……あー……ああ?」
リアはこの、住む世界があまりにも違う人物に曖昧な反応をした。
「瑠璃男だ。できれば仲間達(悠久)も連れてきたかったが……この状況だからな。鉄帝国内に入り込むルートは片っ端から潰されていた。
密航船に紛れて俺一人が来るのが限界でな。だが、俺なりに手伝わせて貰う」
握手を求める瑠璃男。それにとりあえず答えつつ、リアはクォーツ院からの支援が満足に届かない理由を悟った。
鉄帝国は今や冠位魔種の国。『魔種に影で操られていた国』や『魔種によってまるごと閉ざされた国』は存在しても、法的にカンペキに魔種が皇帝になってしまった国は全体未聞であり、周辺諸国が警戒し接触を断とうとするのも無理からぬことだった。天義に至っては攻撃の声すら上がっているというのだから。
瑠璃男は苦笑し、そしてフルシチョフカが並ぶ光景に振り返る。
「まあ、俺の出番は今のところなさそうだがな」
「戦闘員に出番がないのは、むしろ望ましいんじゃあないか?」
声がして皆が振り返ってみると、紫電・弍式・アレンツァー (p3p005453)も屋上へと上がってくる所だった。
見なよ、と顎で示すと歯車兵たちが残りのフルシチョフカ建設をせっせと行っていた。
彼らはキャンプ防衛のために残した大量の歯車兵たちなのだが、見回りに必要な数はそう多くないため残りをこうして建設作業に回しているのだ。
一般人より頑丈で食事や睡眠を必要とせず暑さ寒さに耐え淡々と働き続ける作業員など、この場合うってつけだからだ。
「知っての通り鉄帝は武力正義で食糧事情が結構アレだった国だ。未曾有の混乱が起きた直後の冬なんて、何人死ぬか分かったモンじゃない。こうして目に見えた『安心』が建造されていくのは、キャンプにとってもいいことなんだろうな」
「歯車兵がめっちゃ守ってくれてるのも安心だしな」
だな、と笑い合う。
さて自分達もルベンの攻略に加わるべく移動するか……と考えた、その矢先。
遠くで炎と煙があがった。
そして、何人もの悲鳴。
瑠璃男は素早く状況を察し走り出した。
「千尋、俺は避難誘導に加わる。あっちは任せた。……今は、俺も正しいことをしたい」
燃えさかるのは建築資材。フルシチョフカは板を大量に作って組み立てるという方式をとるが、その板を纏めておいていた場所に火がかかったのだ。
「ふうむ……実に軟弱。脆弱かつ矮小。貴様等には『バルナバス』を爪の先ほどにも感じんな」
空中に浮遊し、その様子を眺めているのは小柄な幼女。いや、幼女の皮を被った鉄帝参謀本部の悪魔――グロース・フォン・マントイフェル将軍である。
「あれだけ師団に抵抗したのだから、『バルナバス』を感じる者が混ざっているかと思ったが。とんだ期待外れだ。来るだけ損をした」
くるりと背を向け、飛び去ろうとするグロース。
すれ違うようにヘルマン大佐が前へ出る。
「任せたぞヘルマン大佐。この場は私が出るに値しない」
「はっ! お任せを! 連中に『バルナバス』のなんたるかを教えて差し上げましょう!」
勇ましく吠えるヘルマン大佐という男は、もみあげから顎まで金毛の髭が繋がった毛深い男で、『金の鬣』という異名を持つ。
手にする武器はナイトランス。フルプレートの鎧には金色の獅子が描かれ、肩にはグロース師団の紋章が入っていた。
「それで良い。貴様も多少は『バルナバス』になってきたようだな」
グロースはにやりと笑い飛び去ると、かわりにヘルマンは天空から急降下をかけて槍を地面に突き立てた。黄金の波動が周囲に広がり、駆けつけた歯車兵たちを纏めて吹き飛ばす。
「フン、脆弱軟弱! 我に立ちはだかる者はなしか!?」
「おっと、これはいけないね」
逃げていく市民達と逆行するようにマリオン・エイム (p3p010866)が前へ出る。
「ここで市民に被害が出れば、皆は革命派を信じられなくなっちゃう! それは大問題だとマリオンさんは考えるわけだ!」
「ほう……?」
「て、いうかさ……」
シラス (p3p004421)がゆっくりとハンドポケットのまま歩み出て、ヘルマンの前に立つ。
「何しにきたわけ? お茶でもしにきた? 代用コーヒーくらいなら出せるぜ」
「知れたこと」
ヘルマンは槍をシラスに突きつけると、にやりと笑った。
「冬を前に我等『正当なる』鉄帝陸軍は戦うための物資を必要としている。貴様等の保有する食料備蓄を全て差し出せ。殺しはしない。我は『金の鬣』ヘルマン。無益な殺生は好まぬのでな」
シラスはちらりと振り返る。燃え上がる建築資材。悲鳴を上げて逃げていく人々。集まる歯車兵はみな統一された槍や単発ライフルで武装している。
確かにまだ殺しちゃいない。しかし、こんなことを放置すれば確実に難民キャンプに大量の死者が出るだろう。餓死、病死、はては自死。そんな地獄を作るために、戦ってきたわけじゃない。
「クソみたいな冗談ぬかすなよ。アンタのやってることは間接的な虐殺だ。
つまり答えはノー。アンタをぶっ飛ばして上官のグロースとやらにも中指をブッたてる」
「大人しく差し出せばよいものを」
ヘルマンが再び槍を地面に突き立て大きな音を鳴らすと、空から無数のモンスターたちが降下、着陸した。
ラースドール(自律パワードスーツ)を中心とした編成だが、グロース師団というだけあってどのモンスターも装備が拡張されている。
「ならば、強制的に接収する! グロース師団の名において!」
- <総軍鏖殺>HAGURUMA Verteidigungskampf完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年12月07日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●この世は争いばかり
安煙草をフィルター越しに吸い込んで、『社長』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)はそれを指でつまむとピンと地面へ放り投げた。
うすく煙をひきながら、回転して落ちる煙草。火のついたままのそれをまるで無視し、キドーは笑みを浮かべる。
「化け物どもが雁首揃えてゾロゾロと……どうせなら使えそうなチンピラでも連れてこい! 我が社でこき使ってやるからよ! ガハハ!」
一流ブランドのスーツをビシッと着こなし毛皮のコートを纏って社長の名刺をダース単位で配るようになっても彼は彼。その本質は欲望と暴力なのだ。
ゴブリンらしい顔で歯を見せると、左右に並ぶ歯車兵たちに命令を飛ばした。
(さて、千尋くん、そして悠久に恩を返す時が来たぜ。勿論、敵にゃ物資の欠片だってくれてやらねェ――)
対するは大量のラースドール部隊。
高熱を発する剣を装備し、ホバー移動によって突進してくる無人自律パワードスーツの群れだ。
キドー一人ではとても対抗できる戦力ではないが、こちらには大量の歯車兵と仲間達がいる。
「蹴散らすぞ。自分らの面倒もまともに見られねェでなァにが『正当』だ! 新皇帝派(ブタ)どもよぉ!」
吠えるキドー。先陣をきるように飛び出したのは『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)だった。
仮面の下で目を光らせ、近づいてくる敵の集団を睨む。
「キドー君は元気だな。良い事だ」
「そういうアンタは」
「元気だよ。実に良い」
左右に随伴してきた歯車兵が腕にカスタムしたサブマシンガンを構える。彼らが射撃を命じると一斉に攻撃を開始した。
ラースドール後衛ラインからの砲撃が始まり、爆発が連続する中をルブラットは加速し、そして最初の一体めがけてミゼリコルディアで斬りかかった。
「折角の機会だ、色々試させて貰おうか――」
星が流れるかのように、『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)の剣がヒグマ型のモンスター『ギルバディア』の胸を切り裂く。
「鉄帝の軍人達とは、これまで何度も戦ったことがあるわ。
敵としては勿論、味方としてだって。彼らは皆誇り高く、強靭だった」
幻想と鉄帝による大規模な争い……俗に言う『ジーニアスゲイム事件』はまだ記憶に新しい。彼らは敵としても味方としても、ある種の『筋』を通していたように見える。
「それに比べれば、新皇帝派は揃いも揃ってまがい物よ。
誇りも何も捨て去った、ただ暴力だけの獣だわ。
あんた達みたいな知性の欠片もない獣に、鉄帝国の地を踏む資格なんてある訳ないじゃない」
怯んだギルバディアを蹴りつけると、ヒールから撃ち込まれた煌めく衝撃がその巨体を吹き飛ばす。
「片っ端から全部、返り討ちにしてあげる」
率先して戦うリア。その一方で『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)もまた率先した戦闘にあたっていた。
「そろそろ、食糧庫を狙ってくる頃合いと思っていたら、案の定か。
まあ、工作員が隠密裏に、食糧庫へ破壊活動を実行されるよりは、対処がしやすく有難いと言うものだ」
追加で空から降下してくる無数のギルバディア。更にラルグという炎を纏う鳥型のモンスターが上空から炎を吹き付けてくる。
一嘉は周囲の歯車兵たちに応戦の指示を出すと、自らは敵の注意を引くべく防御を固め突進した。
「このキャンプには今を生き抜こうとする者ばかりだ。誰にも邪魔はさせん」
腕を六本に増やしその全てで刀を握った拡張ラースドール。恐るべき連撃を前に、『紫閃一刃』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)はそれを更に上回る速度で全ての剣を払いのけ、相手の顔面に剣を突き立てた。
「ヴェルス、ザーバ、パルス、その他多くの鉄帝人達。彼らは強いがある種の礼節があった」
ブスンと煙をふいて仰向けに倒れるラースドール。
「貴様らにはそれがねえんだよ殺したがりのバトルジャンキーめ、間接的な虐殺に加担しておいて正統も正当もクソもあるかってーの。
結局、新皇帝派が闘争を求めてる。自分達にとって都合がいいだけじゃねえか」
相手から剣を抜き、周囲で銃を構える無数の揺らめく陽炎のごときモンスター『ヘイトクルー』たちが射撃を開始。
「所詮は獣、人の言葉は解さない、というわけか」
チッと舌打ちをする紫電。
直後、『嵐を呼ぶ魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)によって放たれた鋭く細い魔力の光線がヘイトクルーたちを纏めて貫通し、連続した小爆発をおこさせた。
「再調達が不可能なタイミングで皆の食糧を奪って行こうだなんて、青空の精霊種、嵐を呼ぶ魔法(砲)戦士のマリオン(スナイパーフォームの女性モード)さんが許しませんッ!」
バッとマントをひるがえし、ウィンクするマリオン。
「もー! あの妖怪性悪ロリ婆は、滅びのアークに永久廃棄するべきだと思います! まる!」
「オラァ! 行くぜテメーらァ!」
本領発揮とばかりに軽トラックの上に乗った『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は二台へ満載にした歯車兵たちと共に、巨大な甲虫型モンスター『オートンリブス』めがけて突っ込んだ。
激突し潰れるトラック。と同時に跳躍し、豪快なスタンピングを叩き込む千尋。
はじけた歯車兵たちは空中でくるんと回転するとそれぞれが着地。片腕にブレードを展開すると次々にオートンブリスへと突き立てていく。
「瑠璃男さん、久しぶりに会ったけど元気そうでよかったぜ。
あの人がいれば避難民たちは安心だ。あの人はマジですげえ人だからよ。
俺は今の『悠久ーUQー』の頭としてあの人にカッコ悪い所は見せらんねえ」
キュッと両手で髪をかきあげると、千尋は笑いながら潰れたオートンブリスから飛び降りた。
「なあそうだろ。俺たちで守った奴らも……ここにはいるんだからよ」
そこへ大量の鴉型モンスター『ヘァズ・フィラン』が殺到。
展開していた歯車兵へ襲いかかり、その腕や頭のパーツを破壊しはじめる。
が、広がっていく『聖なるエネルギーらしきもの』が歯車兵を修復させた。
『古竜語魔術師(嘘)』楊枝 茄子子(p3p008356)がゆっくりと目を開き、薄くわらう。
「まったく、理解できません。
戦いに身を堕とし、民を殺す。
国をなんだと思っているのでしょうか。
民あっての国だと言うのに。食料ならそれこそ、他国から奪うくらいの気概はないのでしょうか。弱者である民からのみ奪うだなんて、恥ずかしく無いのでしょうか」
そこまで喋ったところで、自分にしか聞こえないほどの小さな声でぼそりと加える。
「――ああ、もっと上手くやればいいのに。参考にならないじゃない」
一瞬だけ浮かべたほの暗い目は、偽りの煌めきに覆われる。
そんな茄子子めがけて放たれた黄金の波動。
通常ならばうけきれる筈もない攻撃だが――『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)が間に割り込み鏡のような妖力障壁を作り出すことで防御した。
すぐに割れてちってしまったが、鏡禍のダメージは軽微だ。
(弱い人、困っている人を守り助けること、すべてが僕自身の願いとは言いませんが彼女は恋人はそれを望むでしょうから。僕にとってはそれだけで戦う理由としては十分です)
心の中でそんなふうに呟いて、鏡禍は相手をにらむように垂れた髪の間から見つめる。
「どんな相手だろうが目的は果たさせません、キャンプには被害を出させませんとも」
「良い覚悟だ。だが、そのための力が伴わなければ意味は無い」
『金の鬣』ヘルマン大佐。
槍に黄金のオーラを纏わせ、構え直す。
そんな相手に対して、『竜剣』シラス(p3p004421)は猛烈な速度で襲いかかった。
不可視の糸を大量に展開。影を置き去りにするほどの速度で接近すると相手に位置を絡め拘束しながら魔力を纏った拳や蹴りを繰り出していく。
常人であれば軽く十回は死んでいたであろう達人級のラッシュである。
が、ヘルマン大佐は一瞬にして不可視の糸を強引に引きちぎると体中から発する黄金のオーラでシラスのラッシュを全て弾いてしまった。
更に槍による打撃でシラスの足を払う。
完全に両足をもっていかれた――かに見えたが、シラスは軽やかに反転。地面を手で突くとアクロバティックに体勢を立て直して見せた。
「ほう、やるな――『竜剣』」
「アンタも知ってるクチか。ま、幻想はアンタからすりゃ敵国だったもんな」
「当然の知識だ」
「そーそー常識だぜ常識ィ! こっちには幻想の勇者にして革命派の重鎮、シラス殿がいらっしゃるんだぞ!」
ザッとシラスの右で構える千尋。
「そうですね、こちらにはシラス様がおりますからね。ふふ」
今度は左で構える(?)茄子子。
「何だそのノリは、恥ずかしいからやめろって!」
振り返ると、後ろからじーっと見つめる鏡禍がいた。
「僕もやったほうがいい?」
「やらなくていいよ!」
シラスは顔をぱたぱたと手であおぐと、あらためてヘルマンへと構える。既に敵によって周囲を囲まれている状態だが、ヘルマンはシラスたちを無視してキャンプを襲うなどという愚はおかさないらしい。シラスたちは充分な脅威であり、優先して排除すべき敵とみているのだ。
「とにかく、アンタはブッ倒す!」
「やれるものならやってみろ! この国では結果(ちから)こそが正義!」
●
「馬鹿正直に正面から一対一で戦うなよ!一匹とぶつかったら、すぐさま別の奴が脇から刺せ! そこ、守りがまだらだ! 手強い奴に気を取られ過ぎんな!」
歯車兵たちを率いモンスターの群れを追い返す。これだけをとればそう難しいことではなかった。
キドーが『やりづらい』と感じたのは背にしている建物へ被害を出さないことだ。なにせ仮設住宅。建設が容易なぶん破壊も容易。そして修復もまあまあ容易だが人の入れ替えはやはり激しいコストがかかる。
守りながら戦うというのは、かなりの不利を押しつけられるのだ。
「歯車兵は賊あがりの連中より素直でいいや。ちと可愛げが足りないが。ギャハハ!」
が、だからといって弱ってみせる道理はキドーにはない。『フーアとの盟約』を発動すると、契約(割とキドーがズルしてる)に基づいて周囲の水場から水の槍を形成。次々と撃ちだし始める。
「おう、そっちの様子はどうだい?お医者さんよ!」
「問題無い、が……」
ルブラットはモンスターたちの戦い方に微妙な違和感を抱いていた。
「奴らの殺し方に面白味が無いのはともかく、動機がつまらない。
何かのついでのような理由で虐殺をしないでもらいたい。
だが、防衛の為にと多くの命を手に掛ける私も……」
「あ?」
ルブラットの第一印象はやはりソレなのだが、深く考えると矛盾した部分も多い。たとえば相手が愚かでかつ稚拙な獣であったとして、ヘルマンのような人物が派遣されるだろうか。ましてやこちらにはローレットの庇護や大量の歯車兵がある。モンスターを投入して木っ端略奪者のまねごとをよりによって軍の参謀本部がやらかすのだろうか。
仮にこの行動に『合理的意図』があるとしたら……。
ルブラットはそんなことを頭の中で考えながら、ラースドールの腹を魔力の砲撃によってブチ抜いた。
「女一人倒せないような雑魚は、とっととお家に帰ってお山の大将グロース閣下にでも泣きついたらどうかしら!」
リアが剣を振り抜くと、赤いラースドールが纏めて転倒。中央の一体はあちこちから火花をふいて崩れ落ちた。
「歯車兵、行って! ヴァルファロメイさんに言わせれば、貴方達ももはや家族よ。力を合わせて、ここを護るわよ!」
転倒させたラースドールに歯車兵たちを取りつかせ、丁寧に相手を削っていく。
ぶつかり合いも長く続けば双方の損耗も大きくなる。歯車兵はあとで直せるとはいえすぐというわけにもいかないだろう。更に言うなら100%損失なしで復活できるのかわからない。
「この勝負……長引かせたらこっちの負け、って気がしてきたわね」
「確かにな……」
一嘉は自らの体力を気合いで回復させると、ギルバディアによるタックルをその身を叩きつけることで相殺させていた。
「それに、恐るべきは敵の進行速度だ。こちらが対応できているとはいえ、指揮官ひとりでキャンプへ直接ここまでの部隊を投入できるということは……」
より大きな人的コストを投入すればもっと大規模な攻撃も可能ということではないだろうか。
ローレットによる守りも無限にはない。歯車兵も叩けば壊れるし、6~7割ほどがルベンの攻略と探索に回してある。
「ふむ……」
周囲を見回し、戦況を確かめた。どこも救援の要請をあげていない。一応この戦力で守れているということだが……。
「ここを守り切っても、次がないという保証はない。敵は強大、か」
「このクソ寒くなる時期に、ただでさえ食糧に乏しい鉄帝の難民キャンプを襲うなんて。何人死ぬと思ってるんだ」
紫電は怒りを露わにしながら、斬りかかってくる無数のヘイトクルーたちを纏めて切り払った。
グループ分けし、自分の指揮下にいれた歯車兵と共に敵陣へと浸透し攪乱。陣形を壊したところにマリオンが指揮する部隊による砲撃を加えて崩壊させるという作戦はかなりハマッていた。敵はヘルマンひとりに統率されているらしく命令がそう細かにははされていないのだろう。できることはせいぜい『突っ込んで暴れろ』程度と思われる。
「中にさえ入られなきゃ物資は無事だ。この襲撃はキャンプの住民を不安に刺せるかも知れねえが、追い返せば逆になる。やるぞ!」
「オーケー、任せて!」
マリオンは浮かべたレーザー発射装置に魔力を流し込むと、周囲の歯車兵に撃てと命令を発した。
ライフルによる大量の射撃と共に叩き込まれる魔力砲撃が、敵陣を舐め破壊していく。
すると……。
「ん? 退いていく?」
高所から狙うマリオンの目にはたしかに、モンスターたちが攻撃の手を緩め防御と撤退に切り替え始めたように見えた。
ヘルマンからそうした命令が届いたのだろうか。
「けど、逃がさないよ!」
マリオンのレーザーが防御しながら後退するラースドールの頭部を撃ち抜き、派手に転倒させた。
「茄子子会長回復お願い。あっ、あとで羽衣フーズの漬物頂戴!」
「羽衣フーズ……? 私はクラースナヤ・ズヴェズダーの敬虔な信者ですから……よくわかりませんね。ふふ」
モンスターに取り囲まれた状態でも、千尋や茄子子は余裕そうだった。
飛びかかる狼型のモンスターを千尋は蹴りによって払いのけると、素早くスチールコンテナへとよじ登ってビールの空き瓶が大量に入った籠を引き寄せる。そしてモンスターたちめがけて次々に投げつけた。
「いつか俺らがくらって滅茶苦茶イヤだった戦術だぞオラ! くらえオラ!」
あえてオラついてみせる千尋。
その攻撃によって激しいデバフをおうに至るモンスターたち。
厳密には、鏡禍が鏡状にきらめく剣によって次々に斬り付け作り出した非常に動きづらいフィールドを更に強化した状態である。
モンスターたちは防御ががら空きとなり、本来耐性をもっていた者でも鏡禍の術中へと落ちていく。
「ここから先は通せません。こんな見た目ですけど人間とは違いますので、早々倒れませんよ」
そうした牽制をしかけながら、ヘルマン大佐へと目を向ける。
「国を守るはずが、民を守るはずが軍でしょう? それが民に牙を剝くなんて間違ってるってどうして思えないんですか!」
「勘違いをしているようだが……国と民はイコールではない。もしイコールだというのなら、全ての国の軍人はなぜ失業者を助けない。犯罪者を救わない。国とは皇帝のみを指すものであり、軍とは皇帝の所有物にすぎん」
ひどく冷淡なことをいうヘルマンに、鏡禍は『違います』と鋭くかみつく。鏡禍を肯定するように茄子子が続けた。
「民を蔑ろにする貴方達に、軍を名乗る資格は無いと思います。
何と戦おうとしてるのかは知りませんが、まずは国の長に居座っている暴君……『バルナバス』を何とかしてはいかがですか?」
「『何とか』とはなんだ」
ヘルマンが槍でシラスの攻撃を阻みながら問い返してくる。
茄子子が『おや?』と片眉をあげる。切って捨てるものとおもっていたからだ。
「『皇帝を倒した者が皇帝となる』。この国不変のルールであり、それこそがヴェルス前皇帝陛下がこの国を統治できた理由だ。
だがバルナバス現皇帝陛下を一騎打ちで倒せる者などこの国に存在しない。他の国ですら不可能だろう。軍をあげたところでかなうとは思えんな。
決死の覚悟で多くを失い、同胞を死なせ、結果残るものは『ルールのなくなった鉄帝国』だ。いずれにせよ滅びるのみとなるだろう」
「その結果やることがこんなゲテモノを率いて守るべき国民からカツアゲだと?
恥ずかしくねえのかよ!」
「軍人にあるのは規則のみ! 恥など感じるはずがあるか!
シラスの何度目かの絶妙な攻撃が、ヘルマンによって止められる。シラスと同等の戦闘力を持つ人間などそういるわけではないのだ。ラドバウで例えるならB級上位、あるいはA級に相当する戦闘力を持っていると言うことになるだろう。ただし、『守り』に徹していればの話だ。
そう、ヘルマンはシラスに対してまるで攻撃に出る様子がない。防戦一方なのだ。
そして、彼が人格者であるという噂が本当であると、シラスは薄々感じていた。
彼はずっと『ルール』と『結果』の話しかしていない。この襲撃が彼の意図するものだとも、彼が皇帝に心酔しているともとれないのだ。
従う理由が狂気や魔力のようなものであればともかく、他に理由があるのだとしたら……。
シラスは確信と共に鋭い一撃を放った。
「やっぱアンタにこんなもん似合わねえ」
彼の手にあるのはグロース師団の紋章。それをぎゅっと握りつぶす。ヘルマンははっとして、自分の軍服からそれが奪われたことに驚愕の表情を浮かべた。ただ外しただけではない。制服を素手で破いてその部分だけ取り外したのだ。それも戦闘中に。常人の成せるわざではない。
「貴様らなら、あるいは……」
思わず呟いた言葉をヘルマンは口をおさえることでのみこみ、飛び退く。
「作戦は失敗だ! 全軍撤退! モンスターの2割を盾にし退却せよ!」
「逃がすか!」
シラスが彼を昏倒させるべく襲いかかると、ラースドールが間に挟まり代わりに攻撃を受けた。爆発四散するラースドール。しかしその煙がはれた頃には、追いつくには難しいだけの距離を逃げ切られてしまっていたのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
グロース師団による襲撃は、ローレット側の勝利に終わりました。
難民キャンプには人的被害も、奪われた物資も出ませんでした。
GMコメント
ルベン攻略戦のその一方。
手薄となった革命派難民キャンプに新皇帝派グロース師団の手が伸びています。
この場に常駐させていた『3割規模』の歯車兵を指揮しながら、このモンスター軍団を撃退してください。
●戦場と状況
キャンプ地はロの字型にフルシチョフカ(団地みたいなやつ)が建っています。
その東西南北から同時にモンスター軍団が迫っており、歯車兵はそれを撃退すべく展開しています。
皆さんが結構な数の歯車兵をここに残したおかげでモンスター軍団と歯車兵の力はやや拮抗状態。イレギュラーズの戦闘力が合わさり、かつ歯車兵を指揮して戦うことができれば更に高い戦果を得られるでしょう。
先陣を切って特に強力なモンスターを相手取る。
指揮能力を駆使して歯車兵を運用する。
広範囲の治癒やバフを利用して大勢の歯車兵を効率的に増強する。
そんな戦い方ができるはずです。
モンスター軍団が建造物を破壊しすぎたり、その内側(つまりロの字の中心)に建造された食料庫に到達してしまうとこの依頼は失敗となります。
しっかりと食い止めましょう。
●エネミーデータ
・モンスター軍団
あまりに多すぎて、そして急すぎて詳細が不明ですが、『戦闘力は低いが数は多いモンスター』と『戦闘力は高いがごく少数のモンスター』を同じくらいの比率で東西南北に配分しているようです。
・『金の鬣』ヘルマン大佐
グロース師団のなかでもネームドの軍人です。
高い戦闘能力を誇り、地味に人格者でもあります。
彼らは最初に攻めてきた『南側』にいるため、彼を対応するPCは南側に配置しましょう。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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