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シナリオ詳細

次元跨ぎ『トワラト』

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――深緑は、七罪冠位怠惰との戦いから少しずつ復興しつつある。
 国土全域を眠りの茨に巻き込んだ大事件。
 しかし醒めぬ眠りの呪いは払われ、誰しもが明日の光と共に歩んでいるのだ――
 だが。其れは、魔に属する存在全てが消滅しえた、と言う訳ではない。
 今日も今日とて深緑の民を悩ませる魔もまた――どこかには存在しているのだ。

「知ってる、イレギュラーズ? 最近ね迷宮森林に『トワラト』っていう魔物が出てるんだ」

 だからこそイレギュラーズ達に語るのはメレス・エフィルだ。
 彼女の言う『トワラト』とは、なんでも深緑の大図書館にある魔術書などに稀に名前が載っている事もある魔物らしい。空に浮かぶ魚――例えるならばトビウオの様な――姿を持つトワラトは『次元に住まう魔』とも呼ばれているらしく。
「次元に住まう?」
「うん。なんていうんだろうね、ほら……妖精郷とか、妖精郷の門(アーカンシェル)のワープゲートがあるよね。ああいう風に、ちょっと小さな自分だけのワープゲートを開くことが出来る魔物なんだって。まぁ本当に移動用で、短距離しか出来ないから妖精郷みたいなどこかに繋がってる訳じゃないと思うんだけどね」
 とにかく、と。メレスが続けるには、そういった特殊な移動方法を持つトワラトが迷宮森林に現れているらしい――このトワラト、困った事に主食が『木』そのものである事だそうで、森林に既に被害が出ている。
 しかも結構な大喰らいらしく、下手をすれば大樹すら喰らう事があるのだとか。
 自然を友とする深緑の民にとっては見過ごせぬ事態である――
「だからね、イレギュラーズ達に退治してほしいんだ。トワラトの出現位置は大体分かってるから……そこで張ってれば、その内出てくると思う」
「成程な――ソイツは結構、手強いのか?」
「攻撃されたらワープゲートを開いて、移動したりして背後を取ったりする事があるみたいだよ。だから抑え続けるのは難しかったりするかな……でも長距離移動出来る訳じゃないから、警戒してれば防げるかも。
 攻撃手段としては魔術を使うって聞いてるよ。
 暴風を吹かせたり……それから次元を『割る』みたいな事もするんだって」
 次元を割る――? 詳しく聞いてみると、どうにも防御を突き抜ける様な一撃を繰り出してくるのだとか。自衛手段もそれなりに宿している、と言う事か……
「そしてね。一番注意してほしいのは――追い詰められると、分裂するんだって」
「――分裂?」
「うん。それで逃げるんだって。一体でも残ってれば、またいつか大きくなるらしいから……逃がさない様に気を付けてね」
 やれやれ。些か面倒な能力もあるようだ。しかし分裂した後は体力や能力値がかなり落ちるらしく――決して逃さない様に事に当たれば反撃の怖さなどはないだろう、との事だ。
 さてどういう風に討伐したものか。イレギュラーズ達は思案を巡らせんと――していた。


 ――トワラトは喰らう。木々の身を。木々の魂を。
 口こそ小さいものの鋭利な牙を宿していれば……まるで、貪り喰らう様に。
 巨大な、トビウオにも似た怪物が木に纏わりついている。枝を千切り、木の皮を剥ぎ、瑞々しき芯にかぶり付けば――あぁ。木々が悲鳴を挙げる。只人には聞こえぬが、しかし確かに断末魔を挙げているのだ――なんと心地よい悲鳴だろうか。
 怯えろ。泣け。どうせ誰も助けになどこれぬのだ。
 恐怖の感情こそが食材のスパイスとなる。お前達はもっと泣け。鳴け。啼け。

『カ、カ、カ』

 トワラトは笑う。木々の嘆きを楽しむ様に。
 トワラトは楽しむ。木々の涙こそが――至高だとばかりに。

GMコメント

●依頼達成条件
 魔物『トワラト』の撃破。

●フィールド
 迷宮森林の一角です。
 周囲は木々で覆い尽くされています――時刻は昼なので視界には問題ないでしょう。
 トワラトの出現ポイントはおおよそ予測されていますので、張っていればその内出てくると思われます。トワラトを逃がさない様に撃破してください!

●敵戦力
『トワラト』×1体
 次元の狭間に住まう魔物、とも言われている存在です。
 木々が主食でありトワラトが出てくると自然環境に影響があるともされています。姿はトビウオの様であり、常に低空飛行しています。しかし抵抗飛行以上の高度は飛べない様ですので、空を飛んで逃げられる……と言った事はないでしょう。

 特殊な移動方法を持っており、小さなワープゲートを開いて移動する……と言う事を行えるようです。超高度な神秘術である空間転移ではなく、あくまでも特殊な移動方法の一種で、あまり長距離の移動は出来ません。またAPの消耗も激しい為、乱発もしないだろうと予測されています。
 ただし使われた場合は、ブロックやマークをしていても奴はすり抜けて別の場所に現れる事があるでしょう。背後を取られ強襲される可能性もありますのでご注意を。

 攻撃方法としては『暴風(【飛】効果アリ)』や『次元砕き(遠貫攻撃。【防無】効果アリ)』などを行ってきます。

 追い詰められると逃亡の意思を見せ始めます――自身の存在を『三つ』に分割し、それぞれ別方向へ逃げるのです。分裂すると残存HPや能力値が全て三等分されます。ので、かなりステータスは落ちます。
 総攻撃のチャンスでもありますので、見失わない様に非戦スキルがあると便利かもしれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 次元跨ぎ『トワラト』完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ


「『次元跨ぎ』――成程。名前の通り、なかなか面白い能力だね。
 食性が木でなければぜひ研究してみたかったけれど、まあ仕方ないか」
「木々を食い荒らすなんて重罪じゃんね。それが深緑ならなおのこと。
 こりゃあ見逃せないよ。そりゃ依頼だって出るもの、さ」
 現場付近の森林地帯へと歩を進めているのは『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)に『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)であった。双方ともにトワラトに対する興味が大なり小なりあったのだが……木を喰らうとは。
 どうにも観察対象などと生ぬるい事は言っていられない様だ。
 故に優れた三感をもってして史之は周囲の様子を探り、ウィリアムは近くに存在せし精霊達に協力を要請する――どこぞにトワラト、或いは見慣れぬ魔が出現していないか、と。
 何はともあれ、まずは見つけねば話にならぬのだから。
「やっと少しずつ森も回復してきたのに、木を食べちゃうなんて! いけない子なのね! あぁ大丈夫よ。みんなの事は、ルシェたちが守るからね! 安心して、任せてちょーだい!」
「木々を食い尽くして森を泣かせるなんて……なんてことを!
 許せない! トワラト……絶対に逃がさないからね……!!」
 同時に、周囲の自然へと声をかけて安堵させんとしているのは『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)であり――そんな森へと害を成すトワラトへ、激しい敵意を向けているのは『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)だ。
 例えば面白い芸を持ってたって逃がしてなんてあげない。
 絶対に報いを受けさせるのだと――オデットは周囲の精霊達に声をかけていく。意志を交え、トワラトの姿を見れば教えてほしいと……森を害す者を排除する事を、手伝ってほしいと。
「……次元を渡る敵、か。なんとも、ファレノプシス様の事を思い出すな……」
 そんなオデットらの様子を見据えながら『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は思案を巡らせる。それはサイズにとって忘れがたき存在……妖精女王ファレノプシスの事、だ。
 幾度思案しても未だにサイズの心を引く。
 幾度も幾度もその脳裏にはあの時の光景が――
 ……いや、止めよう。オデットさんに思考が見抜かれるかもしれない。
 今はとにかく森に害を成すトワラト退治だ――と。
「しかし次元の狭間か……もし未知の領域が存在するのならば、興味深い。この世界には僕達の見えていない、しかし隣に在るとも言うべき知られざる空間があるのかもしれないな」
「あぁ……次元を割る魔物とはな。一体どのような生態であればそのような技術を会得するに至るのか……錬金術を齧り始めた者として興味は尽きないが……」
 深緑の森を食い荒らすならば容赦は無しだ、と。強き決意を瞳に秘めているのは『真実穿つ銀弾』クロバ・フユツキ(p3p000145)の姿であったか。この森は――大きな戦いを乗り越え、ようやくにも落ち着きを取り戻しつつあるのだ。その地の平穏を乱す輩は……決して許さぬ。
 剣をいつでも抜ける様に周囲を警戒しつつ、同時に『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はトワラトに――更にはトワラトが渡る事が出来る次元の狭間にも――思慮を巡らせておこうか。木々を喰うが故に野放しには出来ないが、興味深い点は多い。
 優れた聴覚をもってして周囲をイズマは探る。
 更には、まるで天から眺めるかの様な広い視点も宿せば索敵範囲は広がるものだ……あぁ後は付近に邪魔な障害物がないかも調べておこうか。トワラトがコレを利用してこちらの足止めを測ってたりしては厄介だし、なにより。
「……踏んだりぶつかったりしたら悪いしな」
 これもまた自然の一つなのだからと――彼は優しく、可能な限り均しておいて。
「トワラト、トワラトって結局はどんな生き物かわからないのですよね?
 一体全体どこからそんな生物……魔物? が現れたのでしょうか……」
 結局倒すに他ないけれど、と。紡ぐのは『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)。
 ただ木を食べるだけなら他の動物と何ら変わりはない。
 だけれども魂まで食らうならそれは――只の獣とはまた一線を画す。
 故にこそ。
「……精霊が騒いでいる。近くにいるみたいだね」
「やっつけちゃうわよ……! 食事の時間はここでおしまい!
 もうあなたに木々を食べないんだから!」
 ウィリアムやキルシェが気付くものだ。『奴』が現れた、と。
 トワラト。森を害す、存在よ。この地で許されざるべき、存在よ。
 今こそその命――森の為に滅さん。


 真っ先に駆け抜けたのは――クロバであったろうか。
 敵は一体。されど逃げられる可能性も考慮すれば、じっくりと攻め上がる長期戦よりも瞬間火力をぶつけての短期決戦がイレギュラーズの目標でもあった。故にこそ彼は初手より全力だ。
「これ以上その食事をさせるわけにはいかないからな!!
 大樹すら喰らう、その悪食……見逃せやしないぜ!!」
 戦の加護を自らに齎し、続けざまに繰り出すのは錬金術と斬撃の複合撃か――
 分解の錬金術。命を滅ぼさんとする苛烈な斬撃。
 それらは合わさりて命脈を断つ滅の剣戟に至ろう。
 ――容赦はない。全霊たる一撃を放ちて、トワラトを狙い一閃すれば。
「待ってたぞ、森を荒らす者はここで狩る! 食欲が過剰すぎたな、トワラト!」
「イズマさん、今!」
 直後にはイズマと史之がトワラトへと攻勢を仕掛けよう。自らに宿す音色がイズマの動きを更に俊敏化させ――その超速の儘に彼はトワラトの横っ面を打ち付ける。ワープをするなら、そもそもその源たる活力を奪ってやればいいのだと手は休めぬ儘に。
 同時に史之はイズマと共に撃を連打しようか。
 竜撃の一手がトワラトを穿つ。その間にも彼は優れた感覚の全てをもってして――トワラトの様子を探ろうか。奴が空間を跨ぐのに準備動作はないか。先触れがあれば警告の声も飛ばせる筈だから、と。
「奴も動き始めたな。トワラトは、今は見えていてもどこに現れるか分からない奴だ……オデットさん、十分に注意を」
「ええ! 分裂もするって話だし、最後まで倒し切るまで気は抜けないわね……!」
 サイズやオデットもトワラトを射程圏内に捉えるものだ。成程、事前情報通り確かに大きなトビウオらしき存在だ――あれが次元すら渡るというのだから、混沌には様々な種がいるものである……
 ともあれサイズは素早く動き出せば人の夢、可能性を帯びた加護をオデットへと齎そう。それは前往く彼女の力と成りて――直後には、オデットの手の平に小さき太陽が顕現する。
 それは陽光の結晶。恵みとも言うべき、収束させた魔力の炎塊。
 打ち付ける。或いは、強制的に押し込む様にトワラトへとぶつけてやるのだ。
『ギィィィ――!!』
「わぁ。なんて金切り声……できれば全力で消してしまいたいですね。しかし」
 更にはフルールも戦場へと達そうか。あぁあぁ何たる声であるというのか。
 しかし、と告げた様にフルールは一応、意思を疎通させんとしてみるものだ。
 トワラトは何を考えているのか。トワラトは何を想って斯様な事を成しているのか。

 ――されど奴から察知しうる感情は薄汚れたモノばかりであった。

 何故食事の邪魔をする。ああああ面倒だゴミめクズめカスめ、死ね。
 様々な嫌悪ばかりがトワラトの中にある。欲望の儘に木を喰らいながら、これだ。
 あぁなんと不快極まる存在であろうか。こちらの意や心に沿うものでは全くなく。
 瞬間。トワラトが反撃の一手を紡いでくる。暴風が誰も彼をも退けんと。
 されど、この程度でフルールの歩みが止まろうものか。撃ちこむは焔。苛烈なる色を湛えたソレは紅蓮より強く、激しく、残酷に――燃やし尽くそう。
 穢れた魂すらも天上に還すが如く。
「木々を食べる暇なんて与えない……ううん。木々を見る暇も与えないわ!
 見るのはルシェたちだけにしてあげる! あなたの食事は、これで最後なのよ!」
『――ギ、ギギ!』
 それでもイレギュラーズ達の攻勢は止まぬ。
 キルシェの呪いの詩が、虹色の軌跡がトワラトを穿つのだ。
 ……木々の皆が泣いてるの。痛い、痛いって!
「だから絶対逃がさないんだから……!」
『ガ、ガ、ガ……!』
「おっと――消えたね。これが次元跨ぎ、か」
 さすればトワラトの姿が虚空に消える――キルシェの更なる追撃が空を切る、その様子を確かに見たのはウィリアムだ。彼もまた魔術を振るいてトワラトへと痛烈なる一撃を繰り出していたが……その目前にて奴は消失した。
 成程、たしかに奴の気配がどこにも感じられない――が。
「――後ろだ! 来るよ、皆跳んでっ!!」
「オデットさん、伏せて!」
 史之がすぐさまに声を飛ばす。
 直後にイレギュラーズ達に飛来したのはトワラトが一撃。
 ――次元砕きだ。
 まるでガラスに亀裂が走るかのような音色が響き、激しい衝撃が周囲を襲う――史之が気付く事が出来たのはトワラトを知覚せんと常に己が神経を周囲に張り巡らせていたのも大きな要因か。彼の耳が、嗅覚が、どこぞに現れるやもしれぬ奴めを捉えてみせたのだ。
 警告の声を聞いたサイズはすぐさまに動く。オデットを庇わんとし、そして――再びに姿を荒らしたのであれば再度に撃を仕掛けようか。
 広い視点を持つイズマや、精霊達の力も借りている面々もいれば左程遠い距離まで移動は出来ないトワラトを早めに捉える事は決して不可能では無かった。しかと位置の把握さえ出来ていれば後は数の優位で着実に削れる。
 奴が暴風を舞わせ、次元を砕く様な一撃の旋律を響かせようとしても。
「させないわ! ルシェ達の一人だって、あなたの好きにはさせない!」
「抵抗はそれぐらいか? なら――そろそろ命を置いていってもらおうか!」
 キルシェの治癒術も至れば、戦線が崩壊する程のダメージも与えられないものだ。
 故にクロバが剣撃繰り出す。自らの膂力と共に、全霊の一撃を。
 トワラトの命を――終わらせるために。
 さすれば。
「あっ――分裂したわよ! 逃げるつもりね!!」
「そうはさせない。刺身にでもしてやろう」
「此処からが本番だな……木々のためにも此処で討つ!」
 オデットは見た。トワラトの様子がおかしいと思えば――その影が幾つもに別たれた事に。故にこそ彼女は即座に熱砂の嵐を叩き込もう。逃走の動きを阻害する為に……! 直後にはサイズも加わり斬撃を紡ぐ。
 それでもなんとか次元を渡り距離を離さんとトワラト達は動き出す。
 だが逃がさない。イズマは迅速なる反応を見せ、追うものだ。
 奴の活力は幾度と削らんとしてきたのだ。
 次元跨ぎの力も、苦し紛れ程度にしか使えないだろう?
「俺はコイツを追う。そっちは任せた!」
「覚悟する事だな――そうそう逃さねぇよ!」
 追撃の一手を紡ぎつつ、イズマやクロバはそれぞれの目標を追うとしようか。
 一匹たりとも逃がさない。木々を貪った報いを受ける時だ、トワラト!


 おのれ――なんだこいつらは――なぜ食事の邪魔をするクズ共があああ!
 トワラトは逃げる。逃げる。一匹でも逃げれれば、後はいつか時間をかけてゆっくりと力を取り戻せるのだから。だから走る。駆け抜ける。木々の隙間を縫うように。生きる為に――!
「いいや。お前は此処までだ――逃げられると思っているなら、甘すぎるな」
 しかしそんな一体を追うのはサイズだ。
 彼は幾度もの移動を重ね、あっという間にトワラトに追いつこうか。速力を武器に、一気に切り込んでその歩みを淀ませんとする。羽を狙いて短剣をも投擲すれば、まるで地に縛るが如く。
「分裂するとは……生きる事に貪欲な生態でもあるのですね。
 でも――その魂には罪があるでしょう。ジャバウォックに食べさせたいです」
「精霊達が道を教えてくれるわ……トワラト、此処までね!」
 更に続くのはフルールにオデット達だ。視認しながら追いかけるフルールはトワラトの姿を捉えれば全身を焔へと変じさせる。紅い、その身は神速へと至り――蹴撃をもってしてトワラトを打ち落とそうか。
 同時。オデットは精霊らからスムーズに進める道のりの情報を得ながら突き進みてトワラトを決して見失わぬ。時に飛翔もすれば多少の地形の悪さなど苦も無く超えて……そうして紡ぐは破滅の魔眼。
 朽ち果てよ。天罰執行、魂諸共に。
『ギ――』
 砕かれる。その身全てが。三等分されたトワラトではマトモに抗う事も叶わぬ。
 そして――別の場所でも追撃戦は繰り広げられていた。
「絶対に逃がさない。この先で追い詰められる……一気に距離を詰めよう!」
「つれないなあ、俺達ともっと遊んでよ。御礼に三銭ぐらいはあげるよ――?」
 別地点で追うのはイズマに史之だ。史之は、トワラトが本格的に逃げ出す前に目印として付けたヒレの傷を見据えながら追っている――そうして奴を逃がさぬ様に挑発をも行おうか。
 もしも一瞬でもトワラトの動きが止まれば後は総攻撃するのみ。
 そうでなくてもイズマが事前に調べておいた周囲の地形的に、追い詰められそうな所があるのだ。その地で決着を付けんと、イズマは更に己が足を加速させた。
 ――穿つ。イズマの一撃が超速で飛来し、更には。
「森を傷つけるものに死を。
 ……ただ生きるためにというなら多少は優しくしようかと思ったけど。
 どうも『傷つける事』それ自体がお楽しみのようだから容赦はいらなそうだね!」
 ウィリアムの魔力も至るものだ。分裂体は能力値が低下しており、反撃よりも逃走を優先している――ならば治癒術よりも今は攻勢かと思考し、彼は全霊の一撃を紡ぐのだ。破壊の権化とも言うべき、絶大なる一撃によって。
 見失わぬ。木々の隙間に潜もうとしても透視の力をもってして見破り。
 そして――その息の根を絶たんとするのだ。
『ギィィィ――!』
「煩い声だなぁ――
 妖精達の住処を荒らして逃げおおせるなんて都合のいい話が、あるとでも思ったかい?」
 もがくトワラト。しかし史之は油断せずにトドメをしっかりと刺すものだ。
 竜撃が如き一撃。これが与えてきた木々の痛みだと――知れ。
 これで二体。着実に仕留める事に成功した。
 であればと。他の班の所の援護に向かわんとすれ、ば。
「こらー! ルシェは、絶対絶対見失わないんだから! 無駄よ!」
 最後の一か所ではキルシェとクロバが追っていた。
 根っこや段差に足を取られない様にキルシェは飛行しつつ全力移動し、常にトワラトの姿を見続けるのだ。一瞬たりとも目を離さない。優れた感覚をもってしてその気配を辿り続ける――!
 同時に紡ぐ虹色の軌跡はトワラトの行き先を防ぐ様に。
 怒らせるの。ルシェに視線が向いたなら、その時は――!
「終焉の時だ、トワラト。お前が最後に喰らうのは……自分の犯した罪の記憶だと知れ」
 クロバが斬り込む。彼はトワラトが一手歩む間に、神速の如く幾手も進む。
 であれば誰が逃げ切れようか。イズマが活力を削り続けた事もあるのだ――
 次元跨ぎの力は想像以上に行使出来ていない。
 故に滅そう。これがお前の、終わりの時だ。

『ガ――ァ、ァ、アアアア!!』

 一閃する。瞬きの間に切り伏せた事を、トワラトは理解しているだろうか。
 断末魔。その声が止めば――それは戦いの決着をも意味していた。
 ……トワラトは果てた。これで奴の被害は、もうこの辺りにはないだろう。
「ところでこいつ、おいしそうだね。草食だから魚肉も臭みが少なそうだし。
 後でちょっと調理してみようか――なぁにこれも弱肉強食ってね」
 然らば史之は仕留めたトワラトの尾を握りながら思案を巡らせるものだ。
 焼いて食うか? 煮て食うか? いずれにせよ、今度は喰われる側になってもらおう、と。
「……しかし次元の狭間とは、な。トワラトの調査をしたい所だが、死骸から何か分かるだろうか。或いは深緑の大図書館にでも行けば何か情報があるか……?」
「俺も調べておきたい所だな――場合によってはあちこち侵入できるって事で、またどこで被害があるかも分からないし」
 同時。告げるのはクロバにサイズだ。いずれもトワラトの能力に関して興味がある。
 サイズはオデットなどに心配を掛けぬように、とこっそり思考しつつ……
 クロバは己が剣術にも利用できるのではないかと――例えば次元剣術とか編み出せそうじゃないか。悪く無い響きだ。防を無視出来る様な割断叶えば、見た目にも悪くない。なにより、己が目標にも関わってきそうだと。
「トワラトは倒したわよ! もう大丈夫。ルシェのお水、いる?
 そう、大丈夫なのよ……うん。呼んでくれたらすぐに助けに行くから!」
「精霊さん達もありがとう――他に、被害を受けた場所とか知ってるかしら?」
 そして。キルシェは周辺の木々に優しく語り掛ける様に紡ぐものだ。オデットはトワラト索敵に協力してくれた精霊達に感謝の念も告げておこうか……
 なるべく早く、この地の自然が元に戻る事を願って。
 また何かあったら助けに来るから――と。
 ……刹那。木々の隙間から穏やかな風が。キルシェたちを撫でた。

 それはまるで、大自然がイレギュラーズに感謝を――告げいてるかのようであった。

成否

成功

MVP

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 深緑の復興の隙間にいた魔は打ち倒されました……皆さんのおかげです!
 ありがとうございました!

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