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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>闘志燃やす外道ども

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 新皇帝バルナバスが即位してしばらく。
 鉄帝は6つの派閥に分かれ、それぞれの思惑に沿って立ち回る。
 先帝ヴェルスの治世に戻さんとする帝政派。
 南部戦線の英雄ザーバ将軍率いるザーバ派(南部戦線方面軍)。
 我関せずと政治不干渉を貫くラド・バウ独立区。
 ギア・バシリカを中心に民の救済を願う革命派。
 ノーザンキングスに抗する戦力を持つポラリス・ユニオン(北辰連合)。
 空浮かぶアーカーシュに拠点を持つ、独立島アーカーシュ。
 中でも、焦点となるのは大きく2つ。
 鉄帝各地の補給を担う鉄道網の確保。
 そして、冬に備えて『凍らぬ港』である不凍港を確保すること。
 帝政派、ザーバ派、ラド・バウ独立区、革命派は鉄道網の奪取に。
 ポラリス・ユニオン(北辰連合)、独立島アーカーシュは不凍港に向けて動き出す。

 帝都スチールグラード内に存在する『帝都中央駅ブランデン=グラード』。
 鉄帝国内は、山地が多い上に痩せた土地が多い自然の厳しい場所。
 そんな国が生き残る術としては、闘技場の収益、他国への出稼ぎといった前向きなものから、他国への侵攻といった強硬策などがある。
 お世辞にも恵まれているとは言い難い国であっても、物流は存在する。それを支えているのが鉄道網だ。
 帝都中央駅ブランデン=グラードには、帝都を支える物資が集まる。前皇帝の統治下では国民の働く姿も見受けられたが……。
 汽車は動かずに止まったまま。今は蔓延る賊が好き勝手振る舞い、見るも無残な状況となってしまっていた。
「派手にやってるな」
 かつては拳闘士として名を馳せたクルッピ。
 とある事件後、闘士として生きることができなくなった彼は国内を転々としつつ強盗や暴力を働いたことで拘束、収監されていた。
「俺達も始めるとするか」
「へへ……、腕が鳴らぁ」
「獄中じゃ、力の行き場すらなかったからな……」
 そこで知り合った同じ囚人達はいずれも堕ちたラド・バウ闘士達であり、新皇帝の元で釈放となった後も共に行動していたようだ。

 なお、クルッピら元闘士である囚人達を釈放したのは、新皇帝派の軍人であった。
 しばし時を遡り、帝都内の牢獄にて。
「貴方方は元闘士だそうですね」
 ヴェルクルスと名乗った鉄帝軍人は、近々ブランデン=グラード駅にラド・バウ独立区に属する闘士やイレギュラーズが集まると語る。
 彼等の目的は地下鉄。
 それを確保することがラド・バウ独立区の狙いだという。
「ラド・バウには思うところも多いでしょう」
 彼等は獄中であっても鍛錬は怠ってはいない。堕ちたとはいえ、闘士であった故にその身一つで生きてきた者達だ。
 体を鈍らせることだけは是とはできなかったのだろう。
「その力、今一度試してみたくはないですか?」 
「「おお……!!」」
 一度は潰えた闘志を燃え上がらせるクルッピら囚人達。
 そんな彼等に、ヴェルクルスは後ろに従えた大樹と光る霊を思わせる怪物達を託す。
「貴方方の勝利を祈っていますよ、くくく……」
 牢の鍵を部下に開かせた彼は含み笑いしながら去っていった。

 時は戻り、改めてブランデン=グラード駅。
 構内のあちらこちらで轟音が響きだしたことで、囚人らは戦いが始まったことを察する。
 程なく、こちらへと駆けつけてくる複数の足音に、クルッピはにやりと口元を釣り上げて。
「確かに闘士ではあったがな。勝てばいいんだ、勝てば、な」
 正々堂々とした勝負などこの場の囚人達は求めていない。
 彼等は望むのは勝利。どんな手段を使ってでも強者を謳う者を屈服させること。
 外道へと堕ちた者達は今も闘士となる者を越えるべく、内なる炎を燃え上がらせるのである。


 ラド・バウ独立区に属する者達は、できるだけ国内情勢には不干渉を貫かんとしていた……が。
「いくら不干渉を貫くにしても、冬の備えが必要でございますね」
 鬼桜 雪之丞(p3p002312)が闘士達の思いを代弁する。
 闘士達も状況の推移を見守りたくとも、近づく冬を越す為には食料や物資が心もとない。
「できるなら、鉄道駅を抑えて、供給網を確保したいところだな」
 女性闘士、アリス・メイルが眉根を寄せつつ、集まるイレギュラーズへと状況を語る。
 なんでも、闘士達やラド・バウ独立区に属するイレギュラーズの調査によれば、帝都中央駅『ブランデン=グラード』は賊が巣食っているものの、使うことができそうだ。
「地下鉄の存在も確認されたからな。これが使えれば……」
「物資の補給問題は解決できそうだな」
 イズマ・トーティス(p3p009471)も現状を把握したが、その駅には多くの敵対勢力が入り込んでいる。
 新皇帝派はもちろんのこと、力を誇示しようとする荒くれ者、釈放された囚人達の姿も……。
「後者……囚人達が問題と聞いたが」
 三鬼 昴(p3p010722)の言葉に、アリスが頷く。
「厄介なことに犯罪者となった元闘士ばかりでな。いくら私でも手に余りそうだ」
 中でも、
 それに、囚人達は天衝種(アンチ・ヘイヴン)と呼ばれる怪物を引き連れているという。
 囚人がそのような怪物を手懐ける時間はなかったはず。
 ならば、囚人達を手引きした者がいるのは間違いない。
「これまでの依頼で撃退した犯罪者から、新皇帝派の軍人ヴェルクルスという名が挙がっています」
 『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)がそこで黒幕と思われる存在について話す。
 その軍人は別所で妨害活動に動いているが、そいつは新体制を維持させるべく幾つも手を打っている。
「自分の手を下さずとも、囚人達が勝手に動いて反皇帝派を妨害するって話さ」
 ラド・バウ独立区としては迷惑極まりないが、文句を言っても始まらない。降りかかる火の粉は払うのみだ。
 地下道への道を封鎖している囚人達は、闘士達との戦いを待ち望んでいるという。ならば、力で叩き伏せるのみだ。
「観客もいない場外戦をお望みとはな。叩き潰してやろう」
「皆さん、ご武運を」
 決起するアリスに続き、アクアベルが戦いに向かうメンバー達を鼓舞するのである。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 鉄帝国内において、動きを見せる各勢力。
 その中で、今回はラド・バウ独立区に関わる依頼の解決を願います。
 また、今回は鬼桜 雪之丞(p3p002312)さんの関係者依頼かつ、イズマ・トーティス(p3p009471)さん、三鬼 昴(p3p010722)さんのアフターアクションも兼ねております。

●目的
 全ての囚人の撃退
 及び全ての天衝種の討伐

●状況
 帝都中央駅ブランデン=グラード構内にて、囚人の1人が同じ囚人と天衝種数体を引き連れ、ラド・バウ独立区勢力の活動を妨害しています。
 鉄帝軍人ヴェルクルスに頼まれ、地下道へと通じる地上部の通路の封鎖を託された囚人達。
 ラド・バウに思うところのある囚人も多く、士気は相当高いようです。
 駅の制圧の為、この集団の撃退は必須です。

●敵
○囚人×8体
・クルッピ
 鉄騎種。元闘士。かつては拳闘士として名を馳せていました。
(拙作「闇討ちされる闘技場参加者達」参照)
 スレンダーながらも、卓越した技量を持っていましたが、対戦相手を闇討ちしていた外道です。
 それらの事件が表に出たことで闘士としての人気がなくなり、あちらこちらで弱者を恫喝し、暴行を働いていたところ捕らえられ、収監されていたようです。
 獄中で相当トレーニングを積み、しなやかな肉体で恐るべき威力の技を繰り出します。

・犯罪者×7体
 全員が鉄騎種かつ元闘士。
 いずれも八百長等が発覚して闘士として闘技場に立てなくなり、強盗、暴行等犯罪に手を染めた荒くれ者達です。
 男性2人が機械化した剛腕で殴り掛かり、男性2人が銃火器を発砲させてきます。
 残る女性3人は遊撃を得意とし、軽やかに舞って蹴技と両手のナイフで斬りかかってきます。

○天衝種(アンチ・ヘイヴン)×3体
・ジアストレント(略称:大樹)×1体
 全長7m強。巨大な樹に変じた魔物。
 普段は動かず、獲物が来るのを待ち構えていますが、今回は巨体を生かした殴りつけを行います。
 また、地中から影響を吸い上げることで再生、充填の能力に優れ、それを囚人やラタヴィカにも与える役割も担います。

・ラタヴィカ(略称:光霊)×2体
 全長1~1.5m。流れ星のように光の尾を引く、亡霊のような怪物。
 俊敏性や機動力に優れ、戦場を飛び回ります。
 高威力の物超貫移で体当たりをする他、怒りを誘発する神秘範囲攻撃を行います。

○ヴェルクルス
 元鉄騎種男性の魔種、30代。新皇帝派の中佐。
 今回の囚人達をけしかけた張本人です。
 今シナリオでは登場しません。別所で暗躍しています。

●NPC
○アリス・メイル
 鬼桜 雪之丞(p3p002312)さんの関係者です。
 20歳前後の見た目をした赤髪ツインテールの旅人女性。既婚者。
 実年齢はすでに100を超えている火竜で、ラド・バウにも時折出場する闘士です。
 また、普段は鍛冶師も営んでおり、闘士用の武具の制作、整備も行っているようですが、扱いに困るような武器を作る迷工としても知られます。
 今回の政変を受け、ラド・バウ独立区に参加。所属員の武器を整備しつつ市街地の騒動鎮圧に加わっています。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <大乱のヴィルベルヴィント>闘志燃やす外道ども完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)
約束の果てへ
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

リプレイ


 国内物流を支える鉄道網として、ブランデン=グラード駅は非常に重要な場所だ。
「越冬のため、そして戦いを続けるためにも、物資を運べる鉄道網は生命線となるだろう……」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、ラド・バウ自治区の者達が活動を続けられるよう、必ず抑えねばならないと意気込む。
「漸く訪れた中央駅奪取作戦。各地で次々と戦いが始まっているようだな」
 『筋肉こそ至高』三鬼 昴(p3p010722)は国内の空気が変化したことを実感する。
 あちらこちらで戦火が起こり始めているが、目の前の中央駅でもその兆候が見られる。
「何せ、新皇帝派の息がかかった囚人が巣食ってやがる」
 協力者であるアリス・メイルの話によれば、囚人はラド・バウの元闘士とのこと。
「犯罪者に堕ちた闘士……」
 『白秘夜叉』鬼桜 雪之丞(p3p002312)はいつの時代にも闇討ちする者がいたと語る。
 その者が欲するは、勝利のみ。栄誉は名声ではない。
「あぁ、それはとても。此方側《おに》に近い方かもしれませんね」
 やがて、牢獄へと送られる元闘士。
「刑務所は人々の安心安全の為、囚人を隔離させる側面も、更生させる為に囚人に罰を与える側面もあるわ」
 その環境について、『秩序の警守』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)が語る。
「けれど、囚人を明るい未来へ導く為に支援する役割もあるの」
 今も、刑務所があれば、この中に救われた囚人もいたはずだとセチアは疑わない。
「新皇帝は本当になんて言う事をしてくれたのかしら!」
 ただ、今回掃討すべき相手がそうなったかと言えば……。
「拳闘士は『強さ』という夢を売る仕事でもあるだろう? 獄中でトレーニングして、やる事がこれかなのか」
 呆れる『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)だが、他人のことをどうこう言える職業ではないと考えに耽りつつ。
「……まあ、ヒトに迷惑をかけるヤツの末路は大体決まっているものだ」
「元闘士にもこういう手合いはいるとは聞いていましたが、結局のところ改心するような心も持ち合わせていなかったみたいですね」
 『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)も、結局元闘士の性根は変わらなかったと頭を振る。
「その闘士に似た人達って、魔物を連れているんだよね?」
「天衝種、今回は特に厄介ですね」
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の問いかけに、『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)が頷く。
「ジアストレントによる戦線維持と、ラタヴィカによる補助、それからメインの犯罪者達による攻撃……」
 それ故にこの天衝種さえ崩せば、囚人らの鎮圧は容易だとフルールは分析する。
「まあいいです、思い切り打ち倒して、今度こそ何もする気が起きないくらい徹底的にへし折ってやりましょう」
 ともあれ、今は元闘士らの鎮圧をとシフォリィが決起を促せば、皆呼応して。
「我々も速やかに敵を撃破し中央駅確保を確かなものとしよう」
「一人残らず潰して制圧するぞ!」
 昴、イズマの言葉にメンバー達は同意し、駅へと突入していくのである。


 駅構内を移動するメンバーは改めて作戦を練る。
「こちらは魔種こそいないが敵の数が多く、厄介な能力を持つ者もいるようだ」
 昴は改めて、天衝種2種が厄介な存在だと指摘する。
 個別の担当はいるものの、チームとしての優先討伐順は天衝種である大樹……ジアストレント、次いで光霊……ラタヴィカ、そして、囚人の筆頭格クルッピ、残りの囚人である。
 大樹伐採に向かう予定の雪之丞はアリスへと近づいて。
「アリス様、いえ……アリス。そう呼んでもいいでしょうか」 
「ああ、よろしく頼む、雪之丞」
「アリス。共に敵を打ち倒しましょう」
 アリスとぐっと距離が近づいた気がして、雪之丞は思わず笑みを浮かべる。
 それぞれ認識に齟齬がないかとアーマデルが確認する横で、昴は小さく唸って。
「ヒーラー不在な以上、早期決着を目指して効率的に倒していかねばなるまい」
 チームの状況もあり、昴の意見に異論は出ない。
 その直後、メンバー達は布陣して待ち構える一隊の姿を捉える。
「新皇帝派の元囚人の人達?」
「少し違うな」
 焔が問うと、クルッピが否定する。
「頼まれたのは新皇帝派の男だが、お前達と対することを望んだのは俺達自身だ」
 汚らしい笑みを浮かべた囚人らに、セチアが声を荒げる。
「兎に角! 囚人が居るならば、看守として全力を尽くすまで!」
 看守という言葉に、怪訝そうな表情を浮かべる囚人達。
「元闘士とは言え、その頃から犯罪を犯していた無法者ということでしたね」
 自分の強さに自信がないからこそ、こういうことをするのだろうとフルールは彼等を憐れむ。
「……本当に脆弱な人達。あなた達のような弱者は、新皇帝の政策を聞いて怖くて隠れて震える側でしょうに」
「「んだとぉ!?」」
 フルールに煽られたと感じた囚人らは腕を鳴らす。
「鍛えた自信があるようだな。力試しなら俺が相手になるよ」
 獄中で鍛えた体を持て余す彼等に、イズマが涼しい顔で告げる。
 ただ、天衝種を連れていることもあり、彼等は最初から自分達だけの力で挑む気はない。
「結局のところ卑怯な手を使ってしか戦えない闘士を名乗るのもおこがましい相手、遠慮はしませんから」
「これから沢山の人の助けになる駅は取り返さなくちゃいけないんだ、邪魔をするなら容赦しないよ!」
 憤るシフォリィが身構えると、焔も駅を奪還すべく敵を威圧する。
「上等だ。俺達の力とくと見よ!」
 腕を鳴らすクルッピに続き、囚人ら、それに後方に控えていた天衝種2種も合わせて攻撃を仕掛けてきたのだった。


 攻めてくる囚人及び天衝種をシフォリィは素早く見回して。
(特にジアストレントが厄介ですが、ラタヴィカも無視できません)
 仲間達が最優先で大樹を撃破する作戦だが、シフォリィは光霊の抑えをすべく、真っ先に漆黒の片刃剣を振るいながら、花吹雪が如き極小の炎乱を舞わせて光霊の能力を封じんとする。
 シフォリィが続けて炎を飛ばすことで、彼女は2体とも俊敏性と機動性の高い光霊の動きを止め、仲間が纏めて狙われぬよう動きと止めることに注力する。
「此方の注意を釘づけにされてはたまらないものね!」
 光霊を抑えを担当する前に、セチアが復唱していたのは、刑務所五訓。
「素直な心、反省の心、謙虚な心、奉仕の心、感謝の心」
 それによって看守として生きているという気持ちを新たにすることで自身の能力を高めたセチアは光霊に向けて名乗りを上げる。
「さぁ! 囚人よりも看守の心を奪えるものなら奪ってみなさいな!」
 一時的に能力を奪われた光霊は、言葉に反応してセチアへと突進を仕掛けてくるが、彼女の意識を奪うには至らない。
「貴方達の攻撃なんて看守の前では無力だって教えてあげる」
 セチアは不敵に微笑み、次なる一撃をと身構えていた。
 その間に、こちらも素早く移動していたアーマデルが英霊の残す未練の結晶から音色を響かせる。
 まずは、逡巡。大樹のを全身痺れさせ、根元に泥沼を発生させて動きを鈍らせる。
「樹ならこれで燃やしちゃうよ!」
 焔も続いて遠距離から炎の槍を投擲し、直線状にいた囚人もろとも大樹の巨体を貫いてみせた。
 大樹は幹を燃え上がらせるものの、それだけでは崩れない。
 僅かだが前進した大樹は地面へと根を埋め込む。
 後は気力体力の回復を大樹は試みている。どれだけの回復量があるかなどは不明だが、いずれにせよ、早めに叩かねば長期戦となりかねない。
「まずは一番厄介なジアストレントを倒しましょう」
 改めて、宣言するフルールは仲間の攻撃によって大樹の巨体が燃え上がるのはすでに確認済み。
 ならばと、フルールは全身を焔へと変じさせて刹那舞い上がり、大樹の幹目掛けて紅蓮の焔を纏った蹴りを叩き込む。
 思った以上に火力が出たと実感するフルール。それだけ大樹の幹が燃え上がり、瞬く間に体力を減らしていると確認できていたのは、エネミースキャンによるところが大きい。
「大雑把にでもわかるのはいいですね」
 問題は、戦場を動き回るという光霊。それも今のところはシフォリィがうまく抑えてくれている。油断はならないが、現状は順調だ。
「見るからに硬くタフだが、放置すれば厄介な支援能力を遺憾なくだろう」
 そうなれば、戦いは長引いてジリ損になると昴も疑わない。
 囚人達の支援の為にと前に出てくる敵目掛け、昴は一気呵成に仕留めるべきと突撃する。
 練り上げた「破砕の闘氣」と「金剛の闘氣」を纏った昴は臨戦態勢をとり、大樹の至近から竜撃の一手を打ち込んで態勢を崩す。
「流石はローレットだな」
 これだけの相手をいとも簡単にと、アリスは感心しながらも炎槌を打ち込む。
 雪之丞もまた漆黒の刀を抜いて舞うように立ち回る。
 それは見る者を虜にしてしまうほど、流れるような剣舞。
 だが、雪之丞による切り裂かれる者はそれを見てばかりもいられない。徐々に体勢を崩し、劣勢へと追いやられてしまうからだ。
 大樹は襲い来る近場のメンバーへと枝を叩きつけてはいたが、数で攻めてくるイレギュラーズによって少しずつ追い詰められていたようだ。
 頼みの補給部を断たれる形となったクルッピら囚人達だが、彼等の注意はイズマへと向いている。
「知ってるだろう、イレギュラーズの懸賞金。俺は幾らだっけ……350万くらい?」
 いつの間にか、ワイバーンへと騎乗していた彼は囚人を見下ろして呼びかける。
「「うおおおおおおお!!」」
 実際の額を提示されれば、囚人達のテンションもうなぎのぼり。
 目の前の男を突き出すだけで遊んで暮らせるだけの金が手に入るのだから、当然だろう。
「この中では一番高額だろうな。さぁ、できるものなら狙ってみな?」
「俺だ!」
「どけ、俺が先だ!!」
 我先にとイズマに飛びかかる囚人らは壁を伝って跳躍してから機械の腕でイズマへと殴り掛かり、あるいは軽やかに舞って蹴撃を浴びせかけてくる。
 だが、イズマはフォルテッシモ・メタルを光らせて。
「手段を選ばなければ潰せると思ってる? 俺はそんなに甘くないつもりだよ」
 目を眩ませられればと講じた策だったが、囚人達も咄嗟に光を腕で遮る。
 続けざまに後方からは銃火器から放たれた弾丸も飛んできて、イズマを傷つける。
 飛び道具を使ってくる囚人が最優先と、イズマは気を取り直してそちらに多数の鉛を掃射していくのである。


 事前情報もあり、万全の対策を期していたイレギュラーズは順調に囚人の群れを切り崩していく。
 早くも大樹はその巨体を揺らがせており、今にも倒れそうな状態だ。
 それもそのはず、アリスが幹を炎槌で強かに打ち付け、雪之丞が合わせるように無双の防御攻勢で根を切り払っていたからだ。
 回復行動を阻害する為、アーマデルも怨嗟の音色を響かせる。アーマデルは未練の結晶から音を響かせる合間に大樹を蹴り上げた。
 さすがに空中に舞うことはなかったが、今なお炎で幹を燃え上がらせた大樹を、焔が圧倒的な速力をもって槍で薙ぎ払い、吹き飛ばす。
「ぐあああっ!!」
 然飛んできた大樹に囚人達が驚いていたのは、焔の思惑通りだ。
 さて、自己強化もままならず、回復もできぬ大樹に打つ手はない。
「ジアストレントのサイズや強度なら」
 ここぞと、本命の一撃を仕掛ける昴。
 生物でありながら壁や盾ともいえるほどの巨体を持つ大樹であれば、鋼覇斬城閃も十二分に効力を発揮できる。
 高まる闘氣を纏った拳の連打。乱打を見舞ってからの必殺の一撃は幹に大きな亀裂すら入れる。
 大樹は再び起き上がることすら叶わず、その場で果ててしまった。
 次なる優先撃破対象は2体の光霊。
 シフォリィ、セチアが抑えるこれらの天衝種目掛け、アーマデルがここでも音色を響かせていたことで、それらが空中でぎこちない動きをしているのが確認できた。
 フルールが紅蓮の鳳凰をけしかけて光霊を纏めて燃やすと、攻勢に出たセチアも纏めて攻撃する。
「倒しても構わないのでしょう?」
 しっちゃかめっちゃかの攻撃で自らの強さを示すセチア。
 光霊1体がかき消える傍で壁を駆け上がった焔が真上から槍を振り払い、もう1体を地面へと叩きつける。
 ようやく態勢を整え直したと思ったのも束の間。シフォリィが儀式魔術『銀花結界』を展開し、光霊を閉じ込める。
 抵抗していた光霊は完全に力尽き、結界の中で消滅してしまった。
「なん、だと……?」
 天衝種を難なく撃破したイレギュラーズに、クルッピは驚きを隠せない。
 当然、メンバー達は残る囚人達の鎮圧にも乗り出し、昴が闘氣を操って暴風を巻き起こす。
 巻き上げられ、地面へと叩き落とされる囚人達。
 巻き込まれたクルッピに、雪之丞とアリスが攻め入る。
「年貢の納め時ってやつだ」
 炎のハンマーを猛然と振り下ろすアリスに、雪之丞も相手が殴り掛かってくる勢いを利用して斬りかかる。
「一度で及ばぬなら、倒れるまで何度でも攻め込むまで。勝利への執念こそ、闘士。なのでしょう?」
 雪之丞が自身の思う闘士について、クルッピへと説く。
 ――勝つことへの執念。それは生存意思でもあり、立ち続ける事こそ、存在証明。
「弱くても、及ばずとも、勝つまで立ち続けるなら、死以外に敗北などあり得ないのです」
「知ったことを……!」
 青筋を立て、クルッピはしなやかな筋肉を使って飛び上がる。
 頭上から落下速度を伴って殴り掛かってくる相手の一撃を雪之丞が受け止める間に、焔が呼びかける。
「これだけ強ければ、普通に戦ったってラド・バウで活躍できたはずなのに」
 もし、そうしていたなら、今も一緒に戦えたのかもしれない。
 だからこそ、クルッピの所業が残念でならない焔は、彼を上回る速力で侵略する。
「む、無念……!」
 全身を刺突によって傷つけられたクルッピは大きく目を見開いて地面へと倒れた。
 しかし、同じ囚人達は最後まで抵抗して。
 遠距離から銃火器で弾丸を放っていた敵はイズマが妨害を続け、鉛を奏でることで2体纏めて伏してしまう。
「ここは譲れないんだ、まだまだ続けるぞ」
 囚人らを抑えていたイズマの傷は決して浅くない。神秘の霊薬を使って傷を癒すイズマだが、すでに仲間達が囚人達を圧倒していて。
 女性囚人はしなやかに宙を舞ってメンバーへと蹴りかかる。
 シフォリィはそれを冷静に見定め、相手が地へと降り立ったところで極小の炎乱を舞わせて全身を燃え上がらせつつも1人を倒す。
 アーマデルもまた遊撃の得意な女性囚人達が纏まるタイミングを見て怨嗟の響きを直接聞かせ、1体が落下し敵を失う。
 もう1人は苦痛に耐えながらも宙返りして更なる攻撃の機を窺う。
「本当に望んだのがこれなの? 罪を償えば貴方達が本当に願った未来を目指す事が出来るんじゃないの?!」
 セチアの呼びかけもまるで聞かず、女性囚人は空中で2段回し蹴りを繰り出す。
「私はラド・バウに詳しくない。けれど、貴方達のラド・バウに対する想いが否定だけじゃない気がして」
 衝撃波を伴うほどの威力だったが、セチアは此処で止めてみせると重い連撃に耐えながらも、激しく鞭を打ち付けて地面へと落としてみせる。
 女性囚人は悔しそうに手を伸ばし、気を失った。
 残る男性囚人は剛腕を武器に殴り掛かってくる。
「できれば殺したくないのだけど。大人しく牢獄に戻るなら良し、戻らないなら……」
 儚げな印象を抱かせるフルールだが、囚人は彼女を殴り倒すことすら叶わない。
「……もう死んで? 殺すのは嫌いだけど。……でも、子供の私に殺されるのって、無様ね♪」
 煽りと取った囚人はなおもいきり立ってフルールに殴り掛かるが。
「……そう、私はもう狂っちゃったのよ」
 彼女は紅蓮の鳳凰で相手の全身を燃え上がらせた。
 残る1体は雪之丞が近づく。
 膂力で殴り掛かる相手に、雪之丞は相手の力を利用し、鍛え上げた身体と合わせて機械の腕をも割く。
 心を折るに十分だった一撃に、最後の囚人は両手を上げたのだった。


 事後――。
 駅構内で戦闘となったことで、イズマは戦場近辺に破損がないか、合わせて罠等が残っていないかとチェックする。
 大樹の根が埋まった床のタイルなどは張り替える必要があったが、大きな破損はなかったようだ。
「新皇帝派の中佐が魔種……ですか」
 クルッピらを釈放した男は、この駅で待っていれば闘士やイレギュラーズと戦えると話していたとのこと。
 残念ながら、それ以上有用な情報は得られなかった。
「労働力にでも使えれば、丁度良さそうですね」
 肉体の次は精神を鍛え直すことで、より上を目指せる素質、渇望があるだろうと雪之丞は考える。
 そこで、丁度仕事があるとアーマデルが話を持ち掛ける。
「故郷の我が神(死神/ししん)は大樹の姿とされていてな……」
 善き大樹には畏敬の念を抱くが、悪い大樹は……丁度、倒れたジアストレントがそのまま残っており、薪になりそうだ。
「鉄帝の冬は寒いからな」
「よし、それじゃ早速切り出すか!」
 アーマデルの提案にのったアリスはボロボロの囚人達へと細かく刻むよう指示を飛ばす。
 雪之丞も笑顔を浮かべつつ、アリスのサポートへと回っていたのだった。

成否

成功

MVP

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは結果的にクルッピを倒したあなたへとお送りします。
 今回はご参加、ありがとうございました!

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