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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>イレギュラーズハンター

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――良い仕事が入ってさあ。あ、知らない?

 その言葉を思い出す度に、血の気が引いた。炎堂 焔(p3p004727)にとってパルス・パッション (p3n000070)は大好きな友人であったからだ。
 新皇帝派で糸を引く者がイレギュラーズに懸賞金を懸けたらしい。
 現状で帝政派が恩赦を受け釈放された囚人に懸賞金を懸けていたが……同様の状態に陥ったと言うことだろう。
 新皇帝バルナバスが『その様な策』を講じるわけがない。彼に程近く、直ぐにでもそうした指令を出すことが出来る者が背後に潜んでいるのだろうが――
「……ラド・バウの防衛かい?」
 パルスに呼び出されやって来たのはマリア・レイシス(p3p006685)であった。イレギュラーズの中では一番高額な懸賞金を懸けられているのが彼女である。
「うん。こんにちは、マリアちゃん! 13,500,000Gだなんて大変だね」
「パルス君もアイドル闘士としての名声でかなりの額だと聞いているよ。大丈夫かい?」
 穏やかに微笑んだマリアに「大丈夫!」とパルスは笑みを見せた。マリアの脳裏に浮かんだのは彼女が所属する革命派に出入りしている『黒幕』と成り得そうな『新皇帝派』の男のことだ。
(――まあ、『彼』の可能性は十分にあるだろうね。ウォンブラングでも相対した相手だ)
 直ぐに糾弾できない理由は革命派と新皇帝派『アラクラン』が手を取り合う関係であるからだ。
 当初、革命派が派閥として名乗り上げられた軍事力の大半を『アラクラン』が担っていたとされている。アミナ (p3n000296)等はアラクランは良き隣人であると信じている節もあった。
「それで、ラド・バウ派にアラクランについて調べて欲しいって依頼を革命派が出していたでしょ?
 ボクとマリアちゃんは『高額賞金首』仲間でしょ? イレギュラーズは鉄道と不凍港の制圧に動く事になるし……と、なれば」
「そうだね。ラド・バウの防衛に残っているパルス君を狙う可能性がある」
 その通り! と微笑んだパルスにフラーゴラ・トラモント(p3p008825)は「……誰が来るか、見当は付いたかも」と呟いた。
「……ドージェさん、だね?」
「そうだね、フラーゴラちゃん。あの人は内部に入り込んでた。つまりは『ボク達の元に真っ先に飛び込んでくる可能性』がある」
 ひゅ、と息を呑んだのは焔であった。パルスの手をぎゅっと握りしめた。
 蒼褪め震える焔にパルスは「大丈夫」と笑みを見せる。
「勝算は?」
「あるよ」
 問うたマリアにパルスは自信満々に答えた。
「ボク達が適切な防衛を行なえばドージェさんは深追いしない筈」
「……うん。屹度、『深追いする』タイミングじゃない」
 パルスとマリアが揃っていてもドージェにとっては単独行動となり得る可能性がある現状では大した深追いはしないだろう。
 彼が仕掛けてくるならば『鉄道防衛』に当たっている者達が蹴散らされ、行く先を失いラド・バウを攻めるタイミングだ。
 己が狩られぬ様に虎視眈眈とタイミングを狙ってくるであろうと人相を聞き、目の当たりにしたフラーゴラも確信していた。
「なら、今回は『誰が手配書を出したのか』か。それが『アラクラン』の手引きだと確証を得たいんだね?」
「うん。あとはラド・バウ防衛にちょっと手を貸して欲しいって言うのが本音かも」
 自警団も居る。手の空いている闘士達も防衛には当たるはずだ。
『脱獄王』ドージェを今回は退け、手配書の状況について更に詳しく識る事が出来れば対策も講じられよう。
「……それじゃあ、防衛の策を立てようか」


『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズが敗れ、新皇帝バルナバスが誕生して暫く――混迷する鉄帝では六つの派閥が天を競っていた。
 その状況下でラド・バウ独立区は『政治不干渉』の立場として越冬の準備を整えている。
 中立と言えども相対する新皇帝派は明確な敵だ。彼等に対してのアクションを起こさずにはいられまい。
 極寒となる冬が来る前に、『鉄道網』を新皇帝派から奪還することこそがラド・バウ独立区のオーダーであった。
 ラド・バウにとって最寄りとなるのが帝都中央駅ブランデン=グラードだ。
 地下に『道』が存在している事から制圧、掌握をしておく事で更なる勢力拡大や派閥間交流が為し得る可能性もある。
 多くのイレギュラーズや闘士と共に駅の奪還をビッツ・ビネガー (p3n000095)は狙っていた。
 同様に、ラド・バウ派のイレギュラーズが危惧したのは『懸賞金問題』である。
 ラド・バウファイターは其れなりの地位と名声を有する。新皇帝派から出された懸賞金はイレギュラーズに限らず闘士達にも懸けられていた。
 此度は囚人達の大半も駅攻略に向かうイレギュラーズを狙う動きをしているだろう。
 ラド・バウに残った闘士達はチームを組み自警団と共に警戒に当たっている。
 パルスはラド・バウに残り、ラド・バウ防衛と共に『潜入してくるであろう』囚人から情報を得ておきたいと考えていた。
 ――今回は魔種達も駅の防衛に忙しなくなる。ラド・バウにまで攻め入る状況では無い筈だ。
「それでも、彼は来るよ」
 一人でも動き回ることの出来る脱獄王。
 彼は遊びに来るだろう。大凡、『懸賞金を配布した相手』に「俺ちゃんも動いてましたよ」とでも言い訳をするために。
「『脱獄王』ドージェを中に引き込んで、情報を貰ったら帰って貰えば良い。
 此処で倒す必要は無いよ。ドージェが『誰から指名手配書』を貰ったのか……それが革命派の知りたい『アラクラン』についてに繋がっていればいいなって思うだけ」
 パルスはそれでも囚人達は簡単には口を割らないだろうとも考えている。
 必要となるラド・バウ防衛だけでも満たして置ければそれで最善だ。火事場泥棒的にこの地に来る者は少なからず居るだろうから――

GMコメント

 一方その頃。

●成功条件
 『脱獄王』ドージェの撤退

●失敗条件
 『アイドル闘士』パルス・パッションの死亡

●フィールド情報『大闘技場ラド・バウ』
 おなじみの大闘技場です。自警団や闘士達が警戒に当たっていますが『脱獄王』はするすると潜入してくることでしょう。
 パルスは『闘士控え室』にて待ち構えるつもりです。彼が無暗に周辺に攻撃せずパルスを狙っていてくれれば被害は少なく済むからでしょう。
 控え室は其れなりの広さです。出入り口や通気口などは幾つか存在しており『ドージェに撤退を促すこと』はできそうです。
 また、外部では自警団と闘士達が『駅に行けなかった囚人達』を相手にしているようです。
 (スリや窃盗などの軽微な罪を起こした者達が中心のようですね)

●エネミーデータ
 ・外部の敵『囚人達』
 無数に居ます。天衝種を連れて来た軽微な犯罪の戦闘慣れしていない囚人達です。
 自警団と闘士達に退けられています。其れなりの小競り合いを外でやっているようですね。ドージェはその隙に入ってきました。

 ・『脱獄王』ドージェ
 犯罪者として収容されていた男。恩赦を受けて最近出て来ました。受けなくても出てくるけど。
 ハンティングトロフィーとして人間も含め、パーツを奪い取っていく収集癖があります。とても強力なユニットです。
 日銭を稼ぐ目的と、ついでに「ちゃんとイレギュラーズちゃんたち狩りに来てますよ~」と姿勢を維持するために来たようです。
 遊び半分、パルス殺し(&イレギュラーズ殺し)半分くらいな気持ちです。
 今回深追いするつもりはなさそうですがある程度は真面目にやっておかないと『お賃金を貰えない』とも言って居ます。
「あ、イレギュラーズの目玉でも良いよ。俺ちゃん、綺麗な目玉好きだしね」

●NPC
 ・パルス・パッション
 ラド・バウのアイドル。長くアイドルとして活動していたためにとても有名人です。
 それ故に結構な額の賞金首となりました。かなりの強力な闘士ではありますが、護る者が多いと隙が出来ますよね……。
「皆を護る為ならボクは燃え尽きたっていいんだから」

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <大乱のヴィルベルヴィント>イレギュラーズハンター完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
レイリー=シュタイン(p3p007270)
騎兵隊一番槍
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

リプレイ


 作戦開始。その号令を耳にして、幾人もの闘士がブランデン=グラードへと向かった。「それじゃ、皆宜しくね」と告げたのはパルス・パッション (p3n000070)。明るい笑みを浮かべたラド・バウのアイドルは無数の避難民を抱えた大闘技場の防衛を買って出た。
(そういえばパルスさんとは直接の面識はなかったような……)
 桃色の髪を結い上げた雪豹の娘を眺めた『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)はふと、思う。
 直接的な面識と言えば意識にはないが、ラド・バウの精神的支柱の一人とも言える『アイドル闘士』だ。ある意味では平和の象徴とも言えよう。そんな彼女を失えばラド・バウの士気が著しく低下してしまう。
 それにしても――「……パルスさん可愛い美人だしな……あっ、けけ決して熱烈なファンじゃないぞ!」
「だよね!?」
 きらりと瞳を輝かせたのは『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)。パルスちゃん親衛隊長としてもラド・バウで知られるイレギュラーズの一人である。
「でも、だからこそなんだよね。あの時の人が、また――……!
 絶対にパルスちゃんを守り切って見せるよ、皆に元気をくれる大好きなアイドルだからじゃなくて、大好きで大切なボクのお友達だから!」
「有り難う。焔ちゃん。ボクにも皆を護らせてね」
 にこりと微笑んだパルスに焔は大きく頷いた。モカや焔の言う通り、パルス・パッションはアイドルだ。
「パルス君、私にとって君は目標であり憧れさ。私もステージに立ち、そして演出する者として君の事は尊敬している。
 ……友達の焔君はもっとずっと君のことが大好きさ!
 だからさ、見せつけてやろう。後悔させてやろう! それっぽっちの賞金で私達を討ちに来たのか? ってさ!」
 にんまりと笑ったのは『囚人達』に配られているイレギュラーズ手配書の中でもNO1の懸賞額を誇る『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)。
 彼女自身も舞台に上がることはある。ステージで歌う立場であるならば、ラド・バウと呼ばれた大闘技場でもその名を轟かせる『アイドル』パルスは目標とも呼べるのだろう。
「……パルスちゃんは強いのね。堂々として外の闘士達まで気にかけて。
 ふふ。なら、一緒に戦おう。そして、みんなで生きて、また、ライブを楽しもうね」
 アイドル騎士と名乗った『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)――パルスにはヴァイスちゃんと呼ばれた彼女も自身達ならばどんな危機でも乗り越えられると認識している。
 ラド・バウでライブを行なうのは慰安の為だ。どれ程に恐ろしい出来事がこの国を支配しているか、当事者であるパルスは良く分かっているだろう。
 強者揃いのイレギュラーズの手を借りなくてはこの危機を乗り越えられない。パルスだけではないラド・バウの闘士達は皆、そう認識している。
「パルス殿は会ったことがあるのだろう? 脱獄王」
 三文字で王が着くと別の『決闘』でも始めそうだったと首を振る旅人の『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)。
 脱獄王と呼ばれるならば――それは、そう。「なんかぬるっとしたイメージだな、油断しないよう気をつけよう」と言う結論もでる。
「確かに、なんかぬるっとしてたかも……動きが……」
 駅も気がかりではあったアーマデルは恋人に駅を任せた上で、恋人と縁深き音楽とラド・バウを護らんとしたのだ。
「ぬるっとしてるかは分からないけど……!」
 そう前置きをしてから『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は唇を尖らせた。
「ドージェさんこりないねえ……! ドージェさんにパルスさんはあげないよ……! 代わりにあげるのは……冥土の土産……!」
 それって凄く良いと手を打ち合わせて笑ったパルスの眸に決意が灯される。「あげよう、冥土の土産」とアイドルにあるまじき言葉を紡いだ彼女は『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)と『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)を振り返った。
「巡回をお願い。ボクは此処で待っているから」
「……ああ、任せてくれ」
 頷くブレンダの傍で、ぎゅうと腹を空かせた愛無は静かに頷くだけであった。


 闘技場内部には避難民達が多数受け入れられ、自警団として活動して居た。闘士達もある程度はタッグを組み自身等の平穏とその身を守るために活動をして居るのだろう。
 腹をぎゅるりと鳴らしてから愛無は「ああ、いけない」と独り言ちた。怪我をすると腹が空く。ほら。やっぱり。どうした所で。
(美味そうな匂いがすれば喰いたくもなってくる――構わないだろうか。構いやしないだろう?
 ここで羽目を外しても『練達からは遠いしな』とか思っちゃうんだよ。別に喰い散らかしてもバレやしないだろうって。思っちゃうんだよ)
 この国は食い放題で堪らないのだ。どえだけ腹を膨らませようともご馳走が勝手にやってくる。
「面白いよなぁ。『人間』ってやつは。まぁ、不味いのも多いんだけど。時々『当たり』がある。
 今度のは『当たり』かなぁ。『外れ』かなぁ。楽しみだなぁ。何にせよ、お仕事を始めよう」
 腹が空いたならば獲物の匂いにも機敏になる。妙なところから人間の気配がすればそれは闘技場内に侵入する脱獄王だろう。
 焔やフラーゴラなどと先に相対したことのあるメンバーからの情報を統合すれば『変なところに潜むことが好き』な存在らしい。
「……脱獄王の方から仕掛けてきてくれないかな。そうすれば『ヤ』る理由ができる。それなら仕方ない。是非も無い。僕は悪くない。
 相手さんにその気が無いなら仕方ないが。やれやれ。ラサなら少しは有名なんだが」
 そうぼやいた愛無の視線の先には同じく施設を巡回するブレンダの姿が見えた。ドージェを警戒しながらもそれ以外の囚人が入ってきていないかを監視することが目的だ。二人の目を潜り抜ける可能性は高い。其れだけ『脱獄王』の二つ名は伊達ではないという事だ。
「他の囚人達はどうやら自警団が上手く昨日しているようだな。内部には避難民の姿が多い。
 だが……避難民に紛れられるという点を見れば此程潜入しやすい場所もないだろうな。奴の趣味趣向からすれば血のにおいを辿れば良いが――それも、怪我人がいれば台無しになる」
 ブレンダはぼやいた。内部でもしも接敵した場合は控え室に――パルス達の元に惹き付ければ良い。ブレンダの足元で小さく鳴いた猫が尾を揺らす。
 数の優位でドージェを攻め、早期撤退を促すのが此度の策だ。

「自警団や闘士、囚人の見分けが付くように何らかのサインを必要としたいな」
 アーマデルはそう呟いた。例えば、囚人が定番の『しましま服』を着用してくれていれば良いのだがそれはそうも行かないだろう。
 自警団も結成したばかりだ。バンダナや腕章などをラド・バウが有する技術力を幾許か使用して作成しておけば、誤爆の危険も少なくなるだろう。
「其れを奪われてしまう可能性があるのが痛いが……何にせよ、料理しなくてはならない奴は山程居そうだな」
 モカはラド・バウ内に侵入を目指す囚人を押し止めるべく闘士や自警団達との連携を意識していた。その傍らにはフラーゴラが連絡役として用意したファミリアーが留まっている。フラーゴラの元にはアーマデルの蛇が貸し与えられていた。
「懸賞金狙いの輩は多いな。……確かに鉄帝国の冬は冷え込む。その所為なんだろう
 国家として囚人を庇うことはないだろうし、イレギュラーズに恨みのある囚人もいるだろう。
 そもそも、帝政派は彼等に懸賞金を掛けている以上は保護をする申し出にも応じない。なら、此方を狩る事が効率的な稼ぎになるんだろうな」
 アーマデルにモカは渋い表情を見せた。例えば、アーマデルは1,690,000Goldの賞金首である。新皇帝派がその金額を『配るかどうかはさておいて』、目が眩む金額である事は理解出来た。
「イレギュラーズを狩れば金になる。金になるからイレギュラーズを狩る。イレギュラーズは新皇帝派にとっては邪魔。合理的だな」
「その上、闘士にも懸賞金を掛けておけば『帝都内に存在する武力が高いラド・バウ』に打撃を与えられるのか」
 囚人達を受け流しながらもそう紡ぐモカにアーマデルは『酒蔵の聖女』が反応したことに気づき合図を送った。

 ――シェフより苺へ。お客様が入店した。丁重におもてなししてくれ。私も後を追う。

 追いたいが、相手も上手だ。何処までついて行けるかは未だ分からない。


「ボクは此処で良いの?」
「うん……この、ライトとかサイリウムは使っても、いい……?」
 控え室の中央付近に立っていたパルスは「どうぞ~」と慣れた様子でフラーゴラへと返した。扉や排気口からは離れた場所に位置取る彼女を確認しながら部屋全体をライトで隈無く照らす。
 控え室では迎撃の準備が進められていた。ドージェはパルスを狙ってくるだろうと想定される。彼ほどの存在になれば、狙うならば『高額狙い』でマリアか。それとも『ラド・バウの精神的支柱』であるパルスのいずれかであろう。
「パルスちゃんを狙えば、ラド・バウの士気が下がって狩りやすくなるって事よね。案外頭が良いのかしら」
 そんなことをぼやきながら、レイリーは気配を消して、周辺警戒を続けて居る。どの様な攻撃が飛んできても直ぐにパルスを庇えるようにと注意を怠らない。
「焔君、緊張しすぎても気負いすぎても本来の力を発揮できない。だから落ち着こう。私達ならきっとやれるさ!」
「……うん、大丈夫だよ、ありがとうマリアちゃん!
 パルスちゃんは可愛いだけじゃなくてとっても強いし、それに頼りになる仲間も一緒なんだもんね!」
 アイドルであるパルスの印象が強ければ、護らねばと強く感じることがある。だが、彼女はその前にラド・バウ闘士だ。一人の闘士として名だたるファイター達を下し、勝ち上がってきた実績がある。
「焔ちゃん、皆。ボクを護る……んじゃないよ。ボク達で『皆』を護るんだ!」
 にんまりと微笑んだパルスがレイピアを構えた。その細剣は僅かな魔力が走る。彼女の蒼と赤の瞳にはきらりと決意が浮かんでいた。
 連絡が来たとフラーゴラが頷き、焔は耳を澄ませる。パルスの背中側に立って、不意打ちに備える。マリアの目は天井裏に通風孔、床下など全てに気を配っていた。音も、気配も、そして『外からの連絡』もその全てが此度には必要不可欠な情報である。

 一方――
「控室まで案内するのもお仕事だからな。何なら目ん玉とかあげるよ。
 いっぱいあるし。それじゃトロフィーにならないかな? 目玉でダメなら腕の一本くらいはあげても良いよ。ギブアンドテイクってやつだ」
「そりゃ、いいなあ。イレギュラーズは多すぎてパッと分からないけど、俺ちゃんも『鳩』にちゃんと調べて貰ったんだぜ。
 愛無ちゃんだろ。うんうん。221万Gが『本当に支払われたら』そりゃ特だよな。で、目玉くれるんだったかな」
 目玉を上げるという言葉だけで興味を惹くことが出来たか。愛無は控え室に向かってじりじりと後退しながら目の前の男を相手にしていた。
 モカの備考から逃れるように会えて通気口を使ったのだろうが、逆にその場所で待ち伏せしていた愛無が「来た」とブレンダに告げたのだ。
 血と埃の香りが混ざり合った男は奇怪な場所ばかりを抜けてきたことが良く分かる。目玉に興味を抱いたのは彼の趣味趣向だ。
 前髪を掻き上げて、ブレンダは「綺麗な目玉が好きなのだろう? 私の世界の特別製だ。私に勝てたら勝手にしろ」と唇を歪めて見せた。
「へえ。詳細は?」
「『統率の黄金瞳』――黄金色の魔導式。最も、効果は私の世界で発揮されていたものだが」
 二刀を構えたブレンダの金色にドージェは「いいね!」と手を叩いて喜んだ。ブレンダにとっては忌まわしき象徴であったが、其れも此度ならば利用が出来る。
「僕のを一つくらいならやろう。此処で喰われてくれればいいのだが」
「そりゃ勘弁!」
 軽口を繰り返すドージェの矛先がブレンダに変わった。愛無は「ちぇ」と小さくぼやいてからその腕を伸ばす。
(この瞳が役に立つ時が来るとはな……。
 ふふ、本当に何があるかはわからない。この瞳も私自身の力。これからも上手く使ってやろう)
 向かう先はあと少し。控え室は迎撃準備も出来ているだろう。アーマデルとモカも此方に向かっている。後は『男を追い返す』だけなのだから。


 ブレンダと愛無に惹き付けられてやって来たドージェは「どうも」とまるで気安い友人のようにその顔を見せる。
「私の名はヴァイスドラッヘ! ラドバウの闘士とアイドルを護るために参上!」
「あ、レイリーちゃんだろ? 知ってる知ってる。大物揃えて俺ちゃんのこと待っててくれたワケ?」
「それは、違うけど……」
 フラーゴラが肩を竦めればドージェはくつくつと笑った。男の手にはナイフが握られている。獲物は其れだけか、それとも――『肉体こそが武器』なのか。
 盾と鎧を手に、レイリーが睨め付ける。男を惹き付けなくてはならない。声も、視線も、何もなくとも皆がは自身の動きを直感的に認識してくれるはずだ。自身が盾なら、マリアが矛になってくれるはずだ。不意を衝きフラーゴラの支援を受けた焔も、愛無もブレンダも。前線より舞い戻ったアーマデルやモカも直ぐに体勢を立て直す。
「他の皆を倒したいなら私を倒してからよ! それとも、私の命はいらない?」
「俺ちゃんも強欲なもんでね、『全部』は?」
 笑った男にぞくりと嫌な気配を感じた。レイリーが身構える。鋭い勢いで叩きつけられた短刀は、断つためではない鈍器のように使われているか。
 女の身であれど、歴戦の戦士であるレイリーの腕が僅かに軋む。強いと直感的に認識した――が、負けて等居ない。
「ふふ。たかが1350万Gで私を討つのは割に合わないと思うよ」
 ――ぱちん、と弾ける音が一つ。その後、幾重にも重なり合った真紅の雷はマリアを包む鎧と化す。
 ドージェを見据えた瞳に宿された紅雷は鋭き気配を宿していた。
「確かにそうかもしれねぇなあ。腕1本とか売ったら報酬になるなら、それでも良い気がするけど、どうだい?」
「さあ?」
 揶揄い笑うようにマリアはドージェの資金へと迫った。自身こそが弾丸と化す。紅色の雷は真白に染まり、避けることも赦さず鋭き砲撃と化す。
 頬に、腕にと掠めた気配にドージェは「ひょう!」と喜ばしいと言わんばかりに手を叩いた。
 パルスが危険になれば、パルスが戦う前に焔が動く。パルスは其れを信頼しているだろうし、焔もそうあるべきだと自身で認識しているはずだ。
 ならばマリアが為すのは焔を確実に支える。それだけだと云う様に雷が轟く。
「焔君! 君がパルス君を守るなら君の背中は私が守ろう!」
「うん……! アナタなんかにパルスちゃんを傷つけさせたりなんかしない!
 今なら逃げて良い。追わない。アナタがパルスちゃんを傷付けないならそれでいい!」
 牙を剥き出すように。普段は愛らしく笑っている『焔』は赤く燃え盛った。決意のように、覚悟のように。
 炎堂 焔はパルスのためならば、何処までも強くなれる。
「――イイネ!」
「……いい、とか、言ってる場合じゃないよ……! いくらタコみたいな動きが出来るからって限度があるはず……!」
 面と向かってタコと呼んだフラーゴラに「言うねぇ~」と指差笑ったドージェ。彼の余裕は『脱獄王』と呼ばれるからには其れなりの戦闘能力を有しているからだと言うことが分かる。
 強い。それは相対しているからこそ実感できたことだった。ライオットシールドを手に、フラーゴラは『水』を与える。花(けつい)が開けば、道も拓ける。窮地を越えるには何時だって、手を取り合うことが必要だと知っているからだ。
「俺ちゃんも本気になっちゃいそうだ」
「お断りよ」
 レイリーはぴしゃりと撥ね除けた。ドージェの手にしていたナイフが軋む。刃が欠けたが男は気にする事もしない。惹き付けた刹那。動きを制限するレイリーの元にマリアが飛び込んだ。激しい雷は獣の嘶きの如く響く。
「二人共貴様らが触れて良い存在じゃあない! 君には雷撃以外くれてやるものなどありはしない!」
「いやあ、連携って素晴らしいな。俺ちゃんもさ、娘が居て。『ありゃ、良い仕事』をするけど嫌われてるんだよなあ。
 仲直りして連携できたらどうだろうな。良さそうだろ。そうしようかな。ま、できないんだけど――さアッ!」
 勢い任せにマリアを受け止めてドージェが後方に引いた。逃すまいと愛無とブレンダが追撃をかける。
 だが、此処で倒しきる事が目的では無い。そうであれば更に苛烈な戦闘が始まるだろう。
「いや、楽しいね」
 手を叩いた男が微笑んだ。
「うん、素晴らしい。また今度は『ガチ』でやろうぜ!」
 男が排気口に向けては知っていく背中を焔は見守っていた。引き攣っていた表情筋が緩みへたり込む。焔ちゃんと呼んだパルスがその肩を叩いてからほっと胸を撫で下ろした。
「……皆無事ね」
「無事――だけれど、又来そうだね……」
 まだ懸賞金による被害は始まったばかり。これが始まりだというならば――これから、どの様な局面を迎えるのかはまだ誰も知らない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。まだまだ様子見をして遊んでいるだけのドージェさん。
 そろそろ獲物をピックアップ出来た頃でしょう。次はしっかりと、盗りに来たい事でしょうね。

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