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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>病巣を撃て

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ねえ」

 ワタシが話しかけても、お人形さんは何も言わない。
 手を4本繋いだお人形さんには口がない。
 足を繋いだお人形さんには口を上げたけど、ぱくぱくするだけで何も言わないの。
 何故かしら? ちゃんと喋る為の口はあげたのに。

「ワタシの病気、いつになったら治るのかしら」

 聞いても誰も応えてくれない。
 上半身だけの子は、こっちを見てすらない。
 下半身だけの子は、何処かへ走って行っちゃったの。

「ワタシの病気、いつになったら治しに来てくれるのかしら」

 気が付いたら、ワタシは病気だった。
 触ったものは腐れ落ちる。不思議な糸が指先から伸びて、其れはあらゆるものを切断していった。
 お医者様も、看護師さんも、みんな、みんな。
 だから慌ててワタシは縫い合わせたけれど、もう誰も動いてはくれなかった。
 ワタシ、お裁縫が好きよ。だから、色々と縫ってみたの。だけど、お話してくれるようなお友達はひとつも出来なかった。

「……此処にいたら、遊び相手が来てくれるよって……聞いたのに」

 来ないじゃない。
 xxxの嘘つき。駅の隣だから、きっとすぐ来るよって言ってくれたのに。
 大体、どうして駅の隣なの? 何か駅に理由でもあるのかしら?
 もしかして、駅の方が人気だったりするの?
 思ってはみたけれど、ワタシは此処にいるのが役目だから駅には行けない。

「嗚。ワタシの病気、いつになったら治るのかしら」

 誰も何も言わない。
 ワタシは知っている。彼らはずっと、怒ってる。



 冬が近づいてきていた。
 其れは緩やかな破滅を意味していた。戦闘力にかけては随一と言われるラド・バウ勢力も、天候を斬れる訳がなく。
 以前イレギュラーズが施してくれた防寒処置も、果たしてどこまで巧く効いてくれるか。
 ミセス・ホワイトはずっと自問していた。
 何が出来るか。
 何が足りないのか。
 何が過ぎているのか。
 己には剣を振る力はない。だが、頭がある。其処を今振るわないで、どうするのかと。

「失礼します」
「……どなたですか」
「あ、……すみません。私はクラウディア、……クラウディア・フィーニーといいます」

 亜麻色の髪に青い眸。看護師の格好をした彼女は、少しだけ震えているように見えた。
 外から来たのだろう。ミセス・ホワイトは彼女に見覚えがなく、……そしてこの時期にしては少々、彼女は薄着に見えたから。

「お入りなさい。何かありましたか」
「何か……という訳ではないんですが。医療物資の数が気になっているんです、マダム」
「ホワイトさんで宜しいですよ。……足りない、という事ですか?」
「判りません。ぎりぎりのところです。もし、またこの前のように魔種や人がが攻めて来る事が度々あれば、どれだけあっても物資は足りません。ホワイトさん、病院から物資を運んでくることは出来ないでしょうか? 傷を負ったまま冬を過ごさせる事は、余りにも」

 ――そんな事は、罷り通ってはなりません。

 そう言いたげなクラウディアの表情は悲壮だった。
 ……ミセス・ホワイトは脳裏に鉄道の線路図を描く。補給網を構築するという案は闘士たちや協力してくれているイレギュラーズの中にも複数いた。そして其の中の意見に、“帝都の駅を攻略するのはどうか”というものがあったはずだ。
 ブランデン=グラード駅。あの駅には地下がある。地下鉄だ。其の線路を上手く使えば接敵する事なくあちこちを移動する事が出来る。鉄道を動かす事は流石に出来ないが、安全なルートを確保できるかもしれない、というのは大きな希望だった。
 だが――同時に、嫌な報告もあった。
 ブランデン=グラード駅の隣には、ブランデン=グラード……同じ名前を冠した病院が建っている。そこそこ規模のある、大きな病院だ。……だが、其処は既に“何か”に占領されていると報告が入っていた。少なくとも、我々に友好的でない何かだった。化け物の姿を見たという者もいた。
 故に……駅の攻略に足踏みをしていたのだが。医療設備の充実は可及的速やかに行わなければならない。冬への備えと同時に。そして出来るなら、ブランデン=グラード駅からのルートを伝って、物資のやりとりを……
 ――マダム・ホワイトは溜息を吐く。

 いつもいつも、無茶な難題ばかり。この国はいつだってそう。難題ばかり押し付けて来て、厳しい冬ばかりが来て、悲しい事ばかりが起きて、……其れでも。
 其れでも……あの人が、あの子が愛した国だから。

「レディ・クラウディア」
「はい、ホワイトさん」
「相談をしているイレギュラーズたちを、呼んできてくれますか。……病院ならば心当たりがあります。……ブランデン=グラード医院を攻略します。例え何がいようとも」
 彼らなら打ち倒してくれるでしょう、などと安い言葉をミセス・ホワイトは発しない。
 ただ、こう言う。

「打ち倒して、物資を手に入れるのです」

 決意を。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 とある魔種が、病院に巣食っています。癌のように。

●目標
 魔種“アラクネ”を斃せ


●立地
 帝都にあるブランデン=グラード駅、其の傍にあるブランデン=グラード医院が舞台となります。
 4階建てで、かなりの広さがあります。1階が診察フロア、2階から上は入院患者用のフロアになっていますが、生きている人間の気配はありません。
 既にアラクネは伴った天衝種と共にこの病院をほしいままにしています。
(あくまで本人は、「誰かに言われて留まっている」だけのようですが……」


●エネミー
 天衝種(改造)x多数
 アラクネx1

 天衝種は人体をめちゃめちゃに改造された形をしています。
 改造された故か神秘技を使えず至近で攻撃をしてくる上、かなり打たれ強いです。
 アラクネは触れる事により血肉を腐らせる力と、同じ力を帯びた糸のようなものを伸ばす力を有しています。
 天衝種に守られていますが、彼ら諸共敵を切り裂く事をアラクネは躊躇いません。

●EXプレイング
 ラド・バウ闘士の関係者がいる場合は、護衛の為同行したとして闘士についてEXプレイングで行動を書いて頂いても構いません。
 広い病院内ですから、探索のお手伝いなども必要でしょう。
 他にも何か提案がある場合などご利用下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <大乱のヴィルベルヴィント>病巣を撃て完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年12月08日 22時06分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
リカ・サキュバス(p3p001254)
雨宿りの雨宮利香
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
ゼファー(p3p007625)
凛気
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
オリーブのしずく
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
三鬼 昴(p3p010722)
筋肉こそ至高
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女

リプレイ


 ワタシは、病気だったの。
 ずっとずっと、気が付けば病院にいて、お外なんて出た事もなかった。

「大丈夫、直ぐに治るよ」

 お医者様はみんなウソつき。
 ワタシにそんな気休めの言葉をかけては、悲しそうな顔をする。

 お見舞いに来る人なんて一人もいなかった。
 ワタシにはもしかしたら、両親もいなかったのかもしれないわ。

 ねえ、どうしてワタシ、そんな目に遭わなきゃいけなかったのかしら。
 ねえ、どうしてワタシ、可哀想な子って思われなきゃいけなかったのかしら。
 ねえ、どうしてワタシ――

 そんな時。
 声が聞こえたの。
 “君は怒っているんだね”って。



「ウフ、アハハ! すっごーい、ボロボロの病院ダ!」

 『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)の隣で、少女が楽しそうに笑っている。何がおかしいのか、と『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)が静かに目線を向けるが、洸汰は何も言わないでくれ、と頭を振った。
 そうして、廃病院に響く大きな声でリコ、と名を呼ぶ。

「今日は宝探しだ! この病院にあるいいモノを、オレよりたーくさん見付けたら……」
「……見付けたら?」
「にーちゃんが今度たーっくさん、遊び相手になっちゃうぞ!」
「キャア! ほんと!? わあ、じゃあリコ、一杯頑張るヨ! でも、良いものって何を探せばいいのカナ?」
「お姉さんがヒントをあげましょうか」

 するり。
 まるで蛇のようにリコの耳に唇を寄せて、『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)が囁く。

「おクスリとかぁ、包帯とかぁ。この病院にしかないものが、結構おたからだったりしますよ?」
「あ! こら、リカ! リコに味方してずりーぞ!」
「ウフフ! ウンウン、おクスリとかホータイとか見付ければいいんダネ? 燃やさないで持ってきた方がいいヨネ? じゃあリコ、頑張って探すヨ!」

 光の入らぬ病院に、リコの炎がぼうと灯る。リカは咄嗟に暗視を切り替えて、其の光に目がくらまぬようにした。
 ――とは言ったものの……実際にどれ程の薬品や医療器具が残っているかはリカにも判らない。浮遊しておいて良かったと彼女が思う程、病院は荒れていた。

「誰も皆、考える事は同じという事ね」

 『凛気』ゼファー(p3p007625)が言う。そうですね、とリカは頷いた。負傷者のための備えは、どの勢力もまず考える事。冬を傷付いたまま過ごすという事は、この鉄帝では死を意味するに等しいからだ。

「ま、私たちのタカラ探しは後ね。迷子になったら大変だわ。引率のお姉さん、宜しくね?」
「引率、ですか」

 グリーフが溜息を吐く。けれども、其れは己の役目だと、周囲を警戒しながら10人は進む。リコは何処かって? 既に何処かへはしゃいで行ってしまった後だ。洸汰曰く、心配はないだろうという事だが。

「帝都にある病院すら機能していない……この国では、其れが現実なのですね」
「そうだね。この調子じゃ、電源も入らなそうだ」

 リコという光源が去って行ったので再び暗視を構えながら、『ラブパワー!!!』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が頷く。其の瞳には憂いがある。

「アラクネ……遊びに来たよ」

 遊ぼ、と『玉響』レイン・レイン(p3p010586)が呼び掛ける。……しん、としていた。静寂が其処にあった。静かな病院ほど恐ろしいものはない。荒れ果てるばかりの病院内を、1階から2階へと上がる。

「其れにしても、イメージに合わないな」

 『砂漠に燈る智恵』ロゼット=テイ(p3p004150)がぽつり、と言った。相手の魔種が“憤怒”を抱いているのだとしたら。そう考えてみると、不自然な点がいくつかある、と。
 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が頷き、其の先を促す。

「だな。囚人やゴロツキでない“誰かさん”が、どうして“此処を占拠しようと思ったか”――だろ? つまりは」
「そう。意味もなく病院にいるとは思えない。……此処の入院患者か医療スタッフが変化した魔種かもしれない」
「つまり、その後ろ」

 『筋肉こそ至高』三鬼 昴(p3p010722)は端的に呟く。アラクネは「誰かの指示で此処にいる」って事だろう、と皆を見回した。まどろっこしい話は嫌いだ。

「そういう事になるでしょうが、……蜘蛛の後ろばかり見ていると、蜘蛛の巣に引っ掛かるのも事実」

 ああ、ほら、聴こえましたよ。眷属クンが捉えました。
 『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)は前を見た。皆が其の視線に倣う。

 ――ころころ、ころ。

 転がってきたのは、“人の腕で出来た車輪”だった。

 ――ぺた。

 ソレは手を付くと。

 ――ぺた、ぺた。……だっ!

 一気にイレギュラーズへと這い寄って来る。
 続けて現れたのは下半身に下半身を繋いだようなもの、上半身同士が這いずっているもの、無数の腕を上半身に――ああ、表現すればきりがない。つまりは、アラクネに“切って縫われた”天衝種たちだ!

「まったく、趣味の悪い家庭的なオンナノコですこと!」

 リカが悪態をつきながら、天衝種を止める。素材は言われなくても判ってるので、言わなくて結構です! と、手を叩き付けてきたソイツに瘴気をくれてやる。

「まだだな!?」

 誰ともなく確認するように、洸汰が言う。ああ、どうして「助けて」の声が聴こえなかったのか漸く分かった。彼らには、口がない。物を考える頭もない。ないのなら、考える事すら出来ないじゃないか!

「まだだ!」

 カイトが応える。……雨が降る。総てを凶兆へと変える黒い雨が、床から降り出して……まるで獣のアギトめいて、天衝種たちを呑み込んだ。
 そう、まだだ。まだ魔種の姿を確認できていない。
 魔種をこの病院の奥に留めておくわけにはいかない。なんとしても引き摺り出さなければ。

 ――其の時。

「あ、」

 嬉しそうにレインが笑った。
 フラーゴラの鋭い耳が、ぺたり、という足音を捉えた。酷く軽く、今にも消えてしまいそうな足音。

 ――ひた、ひた、ひたり。

「洸汰オニーチャン!」

 リコが嬉しそうに、"そいつ"と一緒に廊下の曲がり角から飛び出して来る。
 彼女は――ボロボロだった。

「すっごいオモシロい遊び相手、見付けたヨ!」

 其処にいたのは。
 ――瘴気を撒き散らす少女、だった。



「あなたたち、だれ?」

 少女は陰鬱に問う。
 其の髪は不思議と綺麗に整えられていた。だが其の入院着は、元から赤かったかのように血で染まっていた。其の指からは血の色をした糸が伸びて――地面を這っている。

「出て来てくれた……ね?」

 レインがそっと笑い掛ける。
 少女は笑わない。
 ただ不機嫌そうに――腕を振り上げ、下ろす。
 しなった糸が五指から伸びて、天衝種ごとイレギュラーズを狙う。

「ッ!!!」

 庇いに入ったリカとフラーゴラの身体に、すぱり、と切創が刻まれる。
 其れは最早糸というより刃だった。

「――リコ! 次は鬼ごっこだ、其の子が鬼だぞー!」

 洸汰が声をかけ、退こうと促す。二階の廊下、此処では戦うには狭すぎる。一番近いのは―― 一階のエントランスホール!

「鬼ごっこダネ! イイヨー! ほらほら、リコが逃げちゃうヨ!」
「アナタたち、お医者様じゃない……誰、誰、誰! お医者様はどこ!」
「そーダヨ? リコはリコだもん」

 噛み合っていない幼子同士の会話を聞きながら、大人たちは階段を駆け下りる。其の後ろをぺたぺたずるずると天衝種が追いかけ、其の更に後ろからひたひたとアラクネが追いかけて来るのをフラーゴラは聞いていた。

「みんな来てるか!?」
「大丈夫だ! リコも一緒だぞ!」
「あっはは! 鬼ごっこ、タノシー!」
「ったく、子どもは暢気で良いよな……!」

 昴が毒づいた。だが、同時に気味悪くも思った。昴の知る子どもたちと、此処にいる子どもたちは――あくまで洸汰を除いてではあるが――何処か皆“ズレ”ている。
 戦う事を遊びだと称するリコ。
 恐らく理性を失ってしまった、まともであることを手放したアラクネ。
 そして、

「うふふ、……鬼ごっこ。ふふ」

 このレイン・レインという少年も。――薄気味悪い、と昴は感じていた。だが、味方であるならばいいのだ。敵になるなら、この拳で殴りつけるだけだ。殴りつけてどうにかなる相手なら、其れは其れで解決するのだから。

「はい、一番乗り」

 ゼファーが風のようにエントランスへ走り込み、己の位置を定めて反転、アラクネたちを見据える。
 そうして昴やレイン、カイトたちが次々と走り込んできて……リカとフラーゴラが最後に階段を降り、――構えた。

 ――!

 衝撃。まるで波のような衝撃が階段の踊り場からざわめいて、1階ロビーの椅子を破壊する。グリーフが直ぐに癒しを紡ぎ、後退する二人の傷を治していく。

「……、」

 癒し手だからこそ、判る事がある。
 明らかに“傷の治りが遅い”――其れは恐らくリカとフラーゴラも判っている事だろうが、これがアラクネの腐食の力、という事だろうか。

「ねえ、お医者様はどこ? ワタシ、病気を治してもらいたいの」

 少女が片手にぬいぐるみを抱えて、ゆらりと歩いてくる。其れを護るように天衝種たちがずるぺたころりと追従する。アラクネは彼らに構わず、イレギュラーズを見た。

「お医者様は、どこ?」

 其れを合図としたかのように、天衝種たちが動き出す。
 こちら側から動いたのは――ゼファーと昴、ルトヴィリアだった。

「腐食の糸と、呪毒の血」

 ふふ、とルトヴィリアが笑うように呟く。
 どちらが上なのでしょうね? と。
 がり、と己の右手親指を噛み切れば、つうと毒を含んだ血が滴る。

 ――あなたの、真似ですよ。

 と言わんばかりに。
 ルトヴィリアの血液は滴って、鞭と為り、しなって天衝種たちをしたたかに叩きつけた。
 そうして出来た隙を狙わないのが、昴だ。

「私が腐るのが先か!」

 殴る。闘気纏う拳が、天衝種を恐ろしい膂力で殴りつける。こいつは、大丈夫だ。

「お前が、壊れるのが先か!!」

 だが、昴の狙いは天衝種の先にある。静かに佇む少女、アラクネ。
 アラクネの視線は言っていた。

 “アナタじゃ此処から進めもしない”

 果たしてそうかな? 昴は笑う。
 だって、彼女は一人ではない。

「ね、アラクネ……次は、タッチされた方が負け、ね……?」

 雷光が煌めく。
 昴の拳とルトヴィリアの血液で弱っていたツギハギが、煌めく一撃で粉砕される。
 ――レインだ。まだ、遊びと言っている。本気なのか、冗談なのか、其れは誰にも判断できない。

「どいつもこいつもパッチワークだらけ。誰がこんな悪趣味な遊びを教えたんだか?」
「さあな。少なくとも普通の趣味を持ったヤツじゃない事は確かだろ」

 昴もそうだが――大人たちは、遊ばない。
 ただ、“侵略”をする。
 風が吹き荒れる。ゼファーが一息に天衝種を貫き通す。
 雨が降る。カイトが降らせたさかしまの雨が、天衝種たちを呑み込んでいく。

 反して、子どもたちは遊ぶ。

「リコ! さっき言った事忘れてないよな?」
「ウン、いいモノを見付けるんだヨネ?」

 洸汰はそうだ、と頷いて。

「其の為にはこいつらが邪魔だから、帰って貰わないといけねーよな!」
「ウン! リコに任せてヨ! あっはは!」

 リコはイタズラ魔女。
 だから、これからすることはほんのちょっぴりのイタズラ。
 ローブの下から火器が覘いて、轟音とともに弾丸を撒き散らしても――ね? 笑って許してくれるよね?

「なあ、アラクネはずっと病院にいたのか?」

 洸汰は語り掛ける。
 そう、とアラクネは頷いた。

「お医者様は言ったわ、必ず治るって。でも、……いなくなっちゃったの」

 リカとフラーゴラ、ロゼット、そして洸汰が前線に並ぶ。
 リコが遊んで、天衝種が蜂の巣になって行く。其れ等を貫くのはゼファーの刃。其れ等を呑み込むのはカイトの雨。したたかに撃つのは昴の拳。
 グリーフが癒しを紡ぎ、後ろからレインとルトヴィリアが鞭打つ。

「――」

 怒りだ。
 ロゼットは今はじめて、得心が行った顔をした。
 アラクネは怒っている。恐らくは、死んでしまっただろう医師たちに対して。彼女は病に蝕まれていたのだろう。そうして、「治るよ」という医師の言葉を信じて、……そうして、静かに憤怒の炎を燃やしていたのだ。治らぬ身体に。治せぬ医師に。其れは子どもならではの理不尽な怒り。
 其の理不尽な怒りに“何者か”が干渉して――彼女は糸を操る魔種となった。そう考えれば、彼女が病院にいる筋は通る。ともすれば、この危険な存在は医師を求めて病院から出ていたかもしれない。そう考えると背筋に冷えるものがあった。

 だが、そんな事は“幾らでもありそうな”話なのだ。
 この厳しい鉄帝では、あちこちで起こり得ることなのだ。そんな中で彼女は魔種となり、世界の敵となり、ロゼットたちは彼女を世界から追い出そうとしている。

 ――其れは或いは、酷く理不尽な事なのではないか?

 ふと浮かんだ疑問を、ロゼットは奔る痛みと共に噛み殺した。
 アラクネの糸は、痛い。其れは腐敗の痛みだけではなく。切り裂かれる痛みだけではなく。彼女の悲痛な“助けて欲しかった”が篭っているような、気がして。

 だけれども。
 だけれども、ロゼットたちは呑み込まねばならない。

 治して貰えずに魔種となった少女がいる、其の事実があろうとも。
 この病院が誰に荒らされたのかは判らねども。
 其れでも、自分たちが為すべきは――

「……難しい事を考えてるな?」

 昴が囁く。
 彼女は笑っていた。

「考えるなよ。そんな果てのない事を考えたって、何も始まりはしない。私たちはただ、害するものを滅するだけだ、そうだろ」
「そうそう、難しい事考えたって、魔種が元に戻る訳でなし」

 昴もリカも、既に小さな奇跡を使って長らえている。其れでも彼女らは、考えに耽っていたロゼットに笑ってみせた。

「後悔先に立たず。今日の事は今日考えて、明日の事は明日考えれば良いんです。そしてあの子の事は、……終わった後に考えてあげましょ? 其れが一番ですよ」

 天衝種は、気付けばいなくなっていた。
 一人ぼっちのアラクネに、今度こそと昴は拳を向ける。

「いや!!」

 アラクネが指を操ると、糸が蜘蛛の巣のように張り巡らされた。
 ――勢いは殺せない。このままでは昴の拳が切り刻まれるのが先、……かと思われた。二筋の光と闇が、其の網を引っ掻けて引っ張らなければ、そうなっていただろう。レインの光と、ルトヴィリアの血液、二筋の鞭が蜘蛛の巣を絡めとりくいとひっぱり、昴の拳が通るだけの隙間を拓く!

「残念だったな」

 アラクネは、初めて怯えたように目の前の女を見上げた。
 少女は既に傷だらけ。逆さまの雨に打たれ、風に吹かれ、光と血液に打ち据えられて、……後はただ、消えゆくのを待つばかりの。

「私の拳の方が、上だったようだ」

 だが、昴は容赦をしない。
 其の拳を迷いなく、ありったけの闘気を込めて、――振り下ろした。



「こーれーは! リコのー!!!」
「ちげーよ!! オレが先に見付けたから、オレのだー!!」

 リコと洸汰が二人、見付けた薬品を引っ張り合っている。
 アラクネを撃破し、周囲に天衝種がいないか警戒した後――クラウディアが合流して、病院での物資探しが始まった。フラーゴラはクラウディアの指示を聞き、他の者に振り分けていく。

 カイトは頼まれたシーツ――これが重なると結構な重さになる――を指定の場所まで運び終えると、ぼんやりとしているレインを見付けた。
 外を見ているようだった。其の後ろから足音を隠さずに歩み寄り、こら、と頭に手を置く。

「なーにサボってんだ」
「……サボっては、ないけど……」
「……」

 レインをそっと促して、カイトはロビーの無事な長椅子に二人で座る。
 窓から見る外は曇っている。今にも雪が降ってきそうな曇天だった。

「何か考え事か?」
「……アラクネは、外に出たかったのかな……って」
「……出たかったのかもな。ずっと此処にいたんならだが」

 そう。アラクネがいない今、総ては推測に過ぎない。
 彼女は“恐らく”入院患者だったのだろう。という事だけが、事実としてぽつんと取り残されていた。

「……僕」
「ああ」
「陸の……編み物の仕方、教わりたかった」

 レインは俯く。
 代わりに、水の中での体の動かし方を教えてあげたかったと。
 願うなら、彼女を外に出してやりたかったと、レインは言う。其れは今だから笑って聞ける、余りにも危険な思想。

 魔種は世界の敵だ。
 世界に狂気を撒き散らす、病の温床のようなものなのだ。

 そう言うのは簡単だ。
 だが、――其れを今言ってもどうにもなるまい、とカイトは思う。もしもレインが本当にアラクネを外に出そうとしたなら――其の時は止めて、魔種の何たるかを説明しなければならなかっただろうが。

「アラクネは、……外を知らなくて良かったと思うぞ」
「……どうして?」
「病院の中の方が、安全だからな」

 そう。
 一人ぼっちの少女が今の鉄帝で外に出ても――きっと、辛い目に遭って、冬にまかれて死んでいくだけ。

 彼女を魔種にしたのは、一体誰だろう。
 世界だろうか。其れとも、――悪意を持つ何者か、だろうか。

「おーふたりさん?」
「うおお!」

 レインにつられて思考にのめり込みかけていたカイト、そしてレインの肩に、ぽむと手が置かれる。覗き込んできたのはゼファーだった。

「おサボりとは良い身分じゃない。カイト、あなたは力仕事担当の希少な人員だって事忘れてるのかしら?」
「……カイトは、……僕と、お話してくれたんだよ」
「あらよかったわね。じゃあレイン、貴方にもそろそろ色々手伝って貰おうかしら。あの看護師のお姉さんに聞けば、色々とやる事を教えてくれるわ」

 カイトはこっちよ。
 ゼファーが囁く。

 そうして連れて来られたのは、2階の踊り場。其処にはリカがいて、軽く手を振ってみせた。

「……俺は希少な人員じゃなかったのか?」

 冗談めいてカイトがいうと、希少ですよ? とリカが笑う。

「――天衝種の“素”を捜そうと思いまして」
「素? ……ああ」
「そういう事よ。昴じゃ壊してしまいそうだもの」

 リカとゼファーは、つまりこの病院での犠牲者をひっそりと弔うつもりなのだ。
 其れは子どもたちには見せられぬ、大人の仕事だろう。
 1階ではまだ洸汰とリコが騒いでいて……其の明るい声を聴きながら、薄暗い2階の廊下を見て……カイトは判った、と頷いた。
 どんなに縫われても、切られても、壊されていても――弔われるべきだ。人であったのなら。



 こうして駅の傍にあるブランデン=グラード病院は解放された。
 冬は既に、其のかいなで鉄帝を包み込もうとしている。
 ……恐れよ。皆人等しく、恐れなければならない。
 冬が来るのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
アラクネは討伐され、病院からは物資が運び出されました。
薬品の類は割られてしまって余りありませんが。シーツや包帯などは無事だったようです。
どう扱うかは皆さんにお任せします。
ご参加ありがとうございました。

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