シナリオ詳細
囲いは父を封鎖する
オープニング
●
独立都市アドラステイア。
先の争乱によって、混乱した天義内、海沿いに築かれた城塞都市だ。
国内で起きた戦いによって生まれた多くの孤児がこのアドラステイアへと流れつき、都市内の大人達によって保護された。
大人はファザー、マザー、ティーチャーなど名乗り、作られた神ファルマコンを信仰するよう子供達へと促す。
我らの神によ――今日も幸福を与え賜え。
毎朝都市に鳴り響く鐘。都市の子供達は忠実に教えを守り、祈りを捧げる。
彼等は都市内の活動を行いながらも、互いを監視し合う。髪に背いた行いを働く者を魔女裁判で陥れる為に。
大人に認められれば、より良い生活ができる。彼等にとってそれは生きる術なのだ。
大人達の素性はいまだ謎な部分が多い。
天義内にあって自治を行う彼等は子供達を集めて何をしているのか……。
長らく下層の探索を行っていたローレットは戦力を集めて中層への扉を開くことができたが、そこからしばらく大きな成果を掴むことができずにいる。
「歯痒い状況が続いているね」
『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)は開口一番に不満を漏らし、溜息をつく。
都市内にいる大人達は慎重でかつ狡猾だ。
道徳に外れた行いが都市内で行われている可能性が限りなく黒と言いたくなる状況にもかかわらず、満足いく証拠を掴むことがなかなかできない。
オリヴィアが嘆息してしまうのも無理もないことだろう。
「でも、ようやく手がかりを掴めたわ」
レイリー=シュタイン(p3p007270)は先の依頼でエンクロージャー部隊……通称「囲い」を飼い慣らすファザー・シャルルと接触をはかった。
囲いに阻まれ、ファザーの捕縛こそ叶わなかったが、その後の調査もあって彼の隠れ家を突き止めることができた。
「さすがに都市内では隠れ家なんて限界あるわよね」
ファザー・シャルルは都市内では爽やかな笑顔を見せる大人とされている。
ガードの堅い彼の子飼いである「囲い」が少女ばかりなこと、他の大人を敵視していることなど、オリヴィアは都市内の大人の中で最も切り崩しやすい相手とみていた。
「他の大人達から距離をおくファザーは少女達に身の回りの世話をさせているらしい」
オリヴィアが露骨に表情を歪めるところから、その私生活はお察しといったところ。囲いの子供達も解放させられれば、彼の悪行を暴露してくれることだろう。
加えて、ファザーは都市内で地位を持つことから、ある程度内部事情を知っているはず。この男も捕らえて洗いざらい知っていることを吐かせたい。
突入は夜。ファザーの虚を突くのが狙いだ。
静まり返った孤児院から抜け穴を伝ってファザー・シャルルの隠れ家を目指す。
「おそらく、奴は隠れ家であらぬことをして過ごしているはずだ」
嫌悪感を隠さず、オリヴィアは続ける。
見た目は何のこともない小屋だが、入口近辺は亀の姿の聖獣2体が守りについている。夜は眠っているが、攻撃されれば目覚めて激しく暴れるので対処したい。
「突入すれば、ファザーが『囲い』をけしかけてくるはずだ」
少女が多数を占めるこの部隊はファザーの指示で襲ってくる。
行き場のない少女達は自分達がどんな扱いを受けようとも、ファザーの指示に従って侵入者であるイレギュラーズの排除に当たってくるはず。
「囲い」は防御を得意としているが、状況もあって果敢に攻めてくるはず。高い防御から繰り出す一撃には十分注意したい。
勿論、ファザー・シャルルも自室で取り巻きの少女と迎え撃ってくるはずだ。ケージと呼ばれる術を得意としてくるファザーも手ごわい相手。万全を期して捕縛に当たりたい
「行動を始めれば、他の大人を慕う子供達が駆け付けてくるかもしれないな」
先の依頼ではマザー・マリアンヌの部隊がいたが、今回もいる可能性は高い。こちらにも注意は払っておきたい。
「ともあれ、早速作戦を詰めておきたいわね」
参加に意欲を見せるレイリーと共に、イレギュラーズは突入の為の策を練るのである。
- 囲いは父を封鎖する完了
- GM名なちゅい
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年11月30日 22時10分
- 参加人数9/9人
- 相談6日
- 参加費150RC
参加者 : 9 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(9人)
リプレイ
●
天義の海合いに聳える独立都市アドラステイア。
その内部へとイレギュラーズ数名が潜入する。
「ずいぶんと長い事アドラステイアに関わっている。でも、壁は高く、我々の予想以上に手ごわい」
下層から上層を仰ぎ見るのは、長い金色の髪をなびかせた海種女性、『愛を知りたい』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)。
「漸く、この時がやってきたか。この好機、絶対に逃さぬよ」
猫耳、猫尻尾の生えた旅人女性、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)もまた目つき鋭く頭上を見上げていた。
「アドラステイアはどこもかしこも事件だらけね……土地柄、と言われればそうなのでしょうけれど」
一方で、全身真っ白な衣装に肌をした『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は下層を見回す。
この地で繰り広げられる魔女裁判。結果、疑雲の渓へと落とされる断罪された子供。
また、子供達は聖騎士やオンネリネンの子供達となることで、中層で新たな活動を始め、あるいは外に出て傭兵活動を始める。
こうした状況もあり、下層にいたはずの子供がかなり減っており、隠密行動する必要もほとんどなくなってきていた。
果たして、都市を統べる大人の狙いとは……、それを知る為にも、都市の実状に明るい大人を捕らえて情報を引き出したい。
「ともかく、それで何かがわかるというのであれば、できることはやってみましょうか」
いい加減、この都市に囚われてしまった子供達を少しずつ何とかしたいところだと、ヴァイスは本音を漏らす。
「いよいよあのファーザー……何でしたっけ?」
幻想貴族でありながら、厳つい顔立ちで胡散臭い笑みを浮かべる『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)は、捕縛対象の名を忘れて仲間達へと確認をとる。
ローレットが目を付けたのがファザー・シャルル。通称『囲い』と呼ばれるエンクロージャー部隊を率いる修道服姿の男性だ。
表向きは子供達に天義の教えを説いているそうだが……。
「前回、アドラステイアに潜入した折りに見かけた小物を叩く時が来ましたか」
ウィルドがそいつを小物と称したのは、その振る舞いにある。
暗茶食の鎧を纏い、堅い守りを得手としている『囲い』に所属しているのは、ファザー・シャルルの気に入った少女が大半だという。
「女の子に守られてるとかダッサイやつだねえ」
露出高めの黒い衣装を身に纏う『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)はかつて心を失くした処刑人だったというが、このファザーの実情を聞けば呆れて毒づいてしまうのも無理はない。
なんでも、ファザーは少女達に自らの警護を強いているだけでなく、生活における、それこそ下世話なことまでさせているのだとか……。聖職者にあるまじき行為である。
「……子供達を自分だけの安全や欲望を満たす道具にしか見てないなんてそんなのは許せないわ」
「今度はにがさないよ。ひきょーもの」
義を尊ぶ鉄帝の女性騎士、『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)、放逐された過去を持つ人狼少女『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)はあまりにも利己的なる大人に憤りを見せる。
「子供達を都合よく使い潰し、欲望を満たそうって魂胆が俺は大嫌いだ」
肩まである青髪を後ろで束ねた音楽家青年、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)もファザーに対して嫌悪感を抱いて。
「囲いなんてすり抜けて、捕らえてみせるさ」
「そろそろ捕まってもらうよ」
イズマに合わせ、シキもまた情報を掴んでアドラステイアの先に行く、絶対にと語気を強める。
「子供ではなく大人を捕縛する、難しそうだけど、やりましょう」
これは、アドラステイアに風穴を開けるまたとないチャンス。
「大丈夫、正しき戦いはヴァイスドラッヘと共にあるわ!」
「そして、子供達には新しい居場所を示そう」
意気揚々と仲間達へと告げるココロ。続き、イズマが本当に守られるべき子供達を、大人として導く役目をと担うべきだと断言するのだった。
●
中層へと至ったメンバー達は夜を待つ。
夜も更け静まり返る都市内を移動する面々は、前回交戦のあった孤児院を通り、ファザー・シャルルの隠れ家へと向かう。
その入り口には、大柄な亀の見た目をした聖獣ヘビーハード2体が座り込んでいる。
メンバー達は隠れ家へと潜入する間に、シキ、汰磨羈が聖獣対応に当たる。
寝静まる2体の様子を探るべく、気配を遮断した汰磨羈は忍び足で慎重に接近していく。
シキもまた聖獣を起こさぬようゆっくりと近づく。
近づきすぎれば、それだけで目覚める可能性もある。
それ故に、2人はギリギリを見極めてからその状況で仲間達に音を出さぬよう手招きし、自分達の外側を通って隠れ家に入るよう促す。
「番犬……番聖獣? ともかく、寝ている子を起こさないように、ね」
ヴァイスは聖獣に気づかれにくくなるよう闇の帳を下ろしてから移動する。
アーマデルも同様にして続く後ろで、イズマが状況把握の為にとファミリアーを1体残す。
聖獣が気づかないよう、メンバー達は抜き足、差し足で隠れ家へと至り、侵入していく。シキ、汰磨羈は仲間達の動きと合わせて聖獣の挙動に逐一注意を払い、いつ聖獣が目覚めてもいいよう身構える。
その最中、ココロは超聴力を使って自分達の後方で足音に神経を尖らせる。
「いるわね」
聖獣の存在もあり、ココロは端的に皆へと伝える。
この状況をすでにマザー・マリアンヌは把握しているはず。その上で、待機状態のままイレギュラーズの侵入を許していることになる。
それを踏まえた上で、一行はマザーとは交戦しないことに決め、主目的であるファザーの確保を優先する。
隠れ家に突入するのは、ココロ、ヴァイス、レイリー、リュコス、アーマデル、ウィルド、イズマの7人。
メンバーは間取りを手早く再確認しつつ、それぞれ担当となる相手の元へと向かう。
「ヴァイスドラッヘ! 只今参上! さぁ、君達を助けに来たわ」
共用部屋で高らかに名乗りを上げたのはレイリーだ。
そこで各々の一時を過ごしていた少女……エンクロージャー部隊は近場に控えていた武器を手にする。
「えーと、突然きてびっくりしたよね? でも、君たちと戦いたいんじゃなくて……助けにきたんだ」
リュコスが呼びかけると、顔を見合わせる少女達は武器を突き出してこちらを威嚇する。
その間に、自分達の部屋にいた少女らが鎧を着用して戦闘準備を整え始めていたようだ。
「君達がファーザーに騙されているのは分かっているわ。だから、もう安心していいわ」
レイリーは隠れ家へと突入した自分達に驚き、威嚇してくる少女達を落ち着かせようとする。
本来は保護すべき相手であり、できるだけ戦いたくはないと、レイリーは本心を少女達へとぶつける。
リュコスもまた前の時、この少女達が仕方なくファザーの為に戦っているように見えていて。
「本当はあんな人守りたくはないんだよね?」
このままファザーの味方をしても、使い捨てられるだけ。
今なら安全な場所に連れていくこともできる。だから、武器を下ろしてほしい。
リュコスは真顔でそう訴えかける。
少女達はその間も戦闘準備を進め、鎧を着た者達と元々共用部屋にいた者達が入れ替わり、後者が自分達の部屋へと次々に入っていた。
彼女達の出方を窺うヴァイスの視線の先では、ファザー捕縛へと動くメンバーがファザーの私室へと向かう。
聖獣、少女達と担当するから離れた3人……アーマデル、ウィルド、イズマがファザーの私室に直行する。
イズマは共用部屋にもファミリアーを残してこの場の状況把握ができる様にしてから、透視を使って私室内部の様子を窺うのだが。
フハハハハハ……。
「…………」
どうやら、少女2人が世話をしているらしく、ファザーは至福とばかりに笑う。
「すまないが、協力願いたい」
アーマデルはというと、同行2人の状況を確認しながら周囲の霊に助力を請う。
すでに、アーマデルはファザーの私室の場所を聞き出していた他、不意打ちへの警戒の補助も頼んでいた。
アーマデル主導で3人は入口が座椅子と机を使って内側から開かぬように扉を封鎖してから、物質透過によって扉脇の壁を通り抜ける。
「な、なんだ……」
突然現れたイレギュラーズの姿に驚くファザー・シャルル。
取り急ぎ修道服を纏っていたこの男が何をやっていたかなど、ここに記すまでもないだろう。
「さて、政治ゲームでの蹴落とし合いが日常茶飯事な幻想貴族として、お一つアドバイスでも」
敵に向け、ウィルドが忠告する。
他人を蹴落とそうとするときは、まずじぶんの足元が安全か確認しましょう、と。
「でないと、こうやって予想外の方から足元が崩されますからねえ! クハハハッ!」
「くっ、お前たち。侵入者を始末しろ」
「「……はい」」
この場の二人はファザーお気に入りの『囲い』の部隊員のようだったが、入口方面を封鎖されていることでこの場にあったシールドスピアのみで武装し、ファザーを護るように位置取る。
聖書を手に取ったファザーは苛立ちげに叫ぶ。
「囲い、聖獣よ、不埒な侵入者に神の鉄槌を下すのだ!」
大声によって隣の共用部屋に、そして、突き上げた光によって外の聖獣に外敵排除の命令を下したファザー。
ヘビーハード2体はゆっくりと目を開き、近場で控えていたシキと汰磨羈へと身構える。
共用部屋の少女達らも態勢を整え、ココロ、レイリー、リュコス、ヴァイスへと仕掛け始める。
そして、ファザー私室ではファザー・シャルルを捕らえるべく、アーマデル、ウィルド、イズマが少女2人と対しながら目的達成の為に動き始めたのだった。
●
タイミング的に、いち早く始まったのはファザー・シャルルの子飼い部隊。
「……『囲い』だったかしら。足止めにかかるわ」
ヴァイスが詠唱を始める傍で、ココロは顔を上げて。
(シャルルに聞きたいことが山ほどあるけれど……)
ファザーの私室の手前に置かれた障害物を一瞥したココロは、ファザーの対処を仲間達へと託す。
今はシャルルの指示によって、こちらへと向かってくる目の前の『囲い』……エンクロージャー部隊を相手取らねばならない。
(敵の数は多い)
数の利を使い、少女達はイレギュラーズを取り囲む。格上3人が連携を取り合って仕掛けてくる。
盾で防御を固めて槍を突き出してくる堅実な戦い。
そんな相手に、ココロは熱砂の精を使役して対する。
室内にもかかわらず巻き起こる激しい砂嵐に、重々しい装備に身を包む囲いの少女達は重圧を感じ、動きを鈍らせてしまう。
「あらそいがさけられないなら」
リュコスはやむを得ないと割り切ったのか、名乗りを上げて少女達の注意を引こうとする。
レイリーもまた白亜の城塞を思わせる領域を展開することで、少女達の注意を自分へと引き寄せる。
「もうファーザーを怖がらなくても頼らなくてもいいの、私達が君達を護るから」
囲いの少女達の数は30人弱といったところ。
その半数近くをレイリーは受け持ち、防御を固めて刺突攻撃をしっかりと受け止める。
「大丈夫よ、このまま凌いでみせるわ」
レイリーの主張に頷くヴァイスは並列思考を展開させつつ、神聖なる光を少女達へと迸らせる。
光に灼かれた少女の中には体を痺れさせて身動きできない者もいたようだったが、『囲い』という言葉は伊達ではなく、互いにカバーしあって態勢を整え直そうとする。
そこへリコリスが素早く迫り、高めた赤い闘気を叩き付ける。
少女の1人は魅了されてしまい、仲間へと鋭いランスの突きを繰り出したことで、囲いの戦線が乱れ始めたのだった。
隠れ家の外でも大きな動きが起こる。
眠っていた聖獣ヘビーハードが目覚め、傍にいたイレギュラーズ2人を敵視して襲い掛かり出したのだ。
「防御を活かしてくるようだし、先手がとられても厄介だ」
息を潜めて控えていたシキは覚醒しきる前に倒しきるほうが良いと判断し、名乗りを上げる。
何より、この聖獣が隠れ家となる小屋を破壊し、地下へと乱入してしまえば、そちらの対処を行うメンバーの邪魔になる上、少女達にも危害が及びかねない。
汰磨羈もまた相手が完全に目覚める前に不意打ちを仕掛ける。
シキが先んじて敵を引きつけに当たっていたことで、挟まれないよう位置取りながらも、攻撃に集中してから手にする刃へと無極の光を放出して聖獣を纏めて薙ぎ払う。
「「…………!?」」
思いもしない一撃に憤りながらもシキへと回転アタック、体当たりを繰り出す聖獣。
それらは一撃一撃が非常に重い。
その体躯もさることながら、繰り出されるパワーは圧倒的。さすがは聖獣といった威力だ。
それでも、引き付けに当たるシキとて多少の攻撃で崩れるほど柔ではない。
シキが攻撃を抑えつける間に汰磨羈がさらに光を放って仕掛ける。狙うはその厚い甲羅だ。
「自慢の甲羅も、穴だらけにすればいいだけの話だ」
早くも堅い護りと思われていた甲羅に亀裂が走り始める。
式はその亀裂の合間から見えるヘビーハードの本体を膨張した黒の大顎に食らいつかせる。
「…………!!」
声にもならぬ叫びを上げた聖獣1体が悶絶して、じたばたと暴れて大地を揺らしていた。
頭上でも戦いが起こっていることを感じながらも、ファザー・シャルルとの交戦に3人のイレギュラーズが臨む。
(今回の目的上、ファザーも不殺確保)
脳内で再確認しつつ、アーマデルは英霊残響を起こしてこの場の3人に痺れ、あるいは足元へと一時的に泥沼を発生させて動きを止めようとする。
「舐められたものだな。……くらうがいい」
前線を少女2人に固めさせ、ファザーは聖書を開いて光を発生させる。
それは檻を描き、アーマデルを閉じ込めんとした。
(術式で発生した光……これは物質透過出来ないやつだろうか?)
自分を捕らえようとするケージは壁ではなく、隙間が存在する。
物質透過できないかと考えるアーマデルだが、さすがに相手も簡単には出られぬよう術式を組んでいたらしい。
「霊も捕らえる術だ。食らうがいい」
光のケージは一気に縮み、光が炸裂する形でアーマデルにダメージを与える。
ケージは戦いに転用するなら、ケージを展開したままにはできぬようだとアーマデルは察していた。
「扉を開けろ。外の連中と合流するんだ」
指示を受け、少女の1人が扉を開こうとするが、外へと開く扉は障害物に阻まれて開かない。
「この部屋からは逃しませんよ」
ウィルドは相手の行動の真意を察し、逃走経路の確保などさせぬと主張しながらも、離れた少女側からファザー目掛けて重戦車の如き猛攻を仕掛ける。
いつの間にか、イズマもファザーの背後へと回り込む。
即座にファザーは再度光のケージを展開しようとするが、イズマがそれを許さない。
「術は使わせない。天義の教えも子供達も、もう好き勝手には利用させない!」
激しい魔術と剣術の合わせ技で攻め立てるイズマ。
この場の少女だけではイレギュラーズの攻撃を防ぎきれず、ファザーは修道服をボロボロにし、全身に傷を増やしていたのだった。
●
少女達との交戦が繰り広げられる共用部屋。
護りを固めて槍を突き、薙ぎ払ってくる囲いの少女達による攻撃の多くをレイリーが抑える。
「大丈夫。もう怖がらなくてもいいわ」
レイリーは攻撃を繰り返す少女達に優しく声をかけ、同時に内気と外気を操って自身の傷を塞ぐ。
合わせ、レイリーは外にエネミーサーチを働かせてマザーの部隊が動かないかとも注意を払う。
リュコスもまた戦いの合間に感覚を研ぎ澄ませ、マザーの動きに着目する。
ただ、今のところ、地上部でマザー部隊の動きはないようだが……。
逆に、ココロはファザーの私室へと時折視線を向ける。
ファザーがいつ此方へと飛び出して逃亡しないかと気に掛ける。何せ前回はまんまと逃げられてしまったこともあり、絶対に阻止せねばならないと考えていたからだ。
ココロはレイリーの回復を優先し、炎の治癒術式で彼女と同じく引き付け役となるリュコス、率先して攻撃に出るウィルドと癒しを与える傍らで戦場となる共用部屋を見回す。
レイリーが抑えきれぬ少女に狙いを定めていたリュコスは1人1人魅了しつつ、防御を攻撃に転じた一撃で強固な囲いの守りを砕きつつ、慈悲の一打を浴びせて気絶させる。
(よし、いきはある)
リュコスは少女が無事だと確認し、次なる相手を無力化しようと動く。
「さて、ちょっと眠ってもらうわよ? 痛いかもしれないけれど、我慢して頂戴ね」
ヴァイスもまた神気閃光を瞬かせ、少女達を1人ずつ昏倒させる。
(できることなら、命までは奪いたくないものね)
とはいえ、相手は防御が上手な相手だ。ヴァイスはAKAも駆使してなんとか手数で押し切ろうと、さらに神聖なる光を瞬かせていく。
(混沌の『普通』に照らし合わせれば、俺の出自もずれてはいるが、使い捨てではない分余程『人間らしい』扱いだ)
アーマデルは、この場にいる数名はファザーのお気に入りだと聞いている。
つまり、彼女達はファザーも簡単には手放すつもりがないはず。
「やめろ。お前の家族はこの状況を望んではいない」
近場に漂う霊の言葉をそのまま伝えるアーマデルは、格上の少女の体を跳ね上げて鎧を破壊する。
後は、英雄の残した怨嗟の声を響かせることで、アーマデルはその少女を卒倒させてしまうのである。
隣の共用部屋での戦いは明らかにイレギュラーズが優勢に進めている。
それがファザー・シャルルにも分かり、明らかに動揺が見て取れた。
「待て、こんなところで終われるはずが……」
徐々にうろたえるファザーの姿に、交戦していたこの場の少女二人の手が止まる。
このまま、イレギュラーズが勝てば、こんな男の世話などしなくてもいい。
ローレットが自分達の場所を奪ったと教えられているはずの少女達であったが、それでもこの男に仕えるよりはいいと判断したようだ。
「何をしている。お前ら、早く援護しろ。扉を開けと言っただろう!」
怒鳴り散らすファザーだが、もはや少女達は棒立ちになったまま。イレギュラーズへと助けを請うような視線すら向け始める。
「き、貴様らー!!」
「ククッ、せいぜい抵抗してください。悪党の最期はそれくらい見苦しくなくては」
哀れな姿をしたファザーを嘲笑するウィルドはさらなる猛攻を仕掛ける。
なにせ、囲いに覆われ続けていた男だ。その耐久力は推して知るべしといったところ。
イズマもまたファザーを刹那の悪夢に飲み込み、脱力させて切り刻んでいく。
「誰も殺さない、殺させない!」
少女を盾にしようと自ら動こうとするイズマだが、ウィルドが相手の前進を許さない。
「おやおや、何処へ行くつもりです?」
救う価値もない男だが、ウィルドはそいつから有用な情報を得るべく慈悲の一撃で気を失わせようとする。
「ヒ、ヒイイィィ」
だが、思った以上にしぶといファザーはじたばたともがき、扉へと向かおうとする。
「子供を盾にする、それが神父か」
アーマデルが静かに呼びかける。
「子供を蟲毒の壺に投げ込み、生き残ったものをも使い潰す、それがお前たちの正義か」
その子供の心はすでにファザー・シャルルから離れてしまっている。
そんな無様な相手へとイズマは高熱を伴う一撃で気絶させた。
同時に、その一撃が扉とそれを塞いでいた障害物をも破壊してしまう。
壊す手間が省けたと考えるイズマは、共用部屋で抗戦を続ける幼女達へと呼び掛ける。
「ファザー・シャルルを捕縛した! 戦いは終わりだ!」
見れば、隣の部屋に続く扉のすぐ奥で、煙を吐きながら情けない表情で倒れるファザーの姿があり、メンバー達が拘束する。
そこで、リュコスは武器を下ろして。
「もう、たたかう理由はこんどこそなくなったんじゃないかな……!」
カラン、カランと乾いた音を立てる槍や盾。
彼女の呼びかけに応じる少女達は武器を捨て、両手を上げ始める。
その様子に、リュコスとココロは顔を見合わせ、安堵の表情を見せていたのだった。
一方、地上での交戦は続いていて。
聖獣ヘビーハードは一度暴れ出せば止まることはなく、シキと汰磨羈を執拗に狙って自重と硬さを活かして攻めてきていた。
ただ、汰磨羈の攻撃によって甲羅を砕かれ、それが体へと突き刺さることで苦しんでもいる。
「ごめんね、君らも元は人間だったはずなのに。痛い思いを、苦しい思いをさせちゃってごめん」
苦悶する聖獣の姿に、シキは謝らずにはいられない。
せめて、ゆっくりと眠りにつけるように。
汰磨羈の刃に切り伏せられた聖獣へと、シキは黒い顎をけしかける。
それは今度こそ聖獣の体へと深く牙を突き立て、その身体を貪り喰らっていく。
そのまま、2人は残る1体に攻撃を集中させて。
幾度も黒顎魔王を繰り出すシキと挟むように、汰磨羈は相手の巨体を切り伏せる。
すでに、甲羅が破壊されたことで、頭と四肢を隠すこともできなくなった相手に、汰磨羈は躊躇なく断熱圧縮した空気を纏う刀身を叩きつけていく。
残念ながら、聖獣となっては自分達の目的を阻害する邪魔者でしかない。
傷口から牡丹の花が如く朱き焔を撒き散らす聖獣を見ることなく、汰磨羈は刃を収めたのだった。
●
目覚めたファザー・シャルルは拘束されたまま投降。
聖獣ヘビーハードは倒され、ファザーの子飼いだった囲いの少女達は解放された。
幻想貴族であるウィルドは可能な限り自身の領地に子供達を連れ帰ろうと考えていた。
とはいえ、強面の彼のこと。加えてファザーとの関係も相まって男性不信となっていたこともあったのか、ウィルドについていくと名言したのはわずか2名所属していた少年と1人の少女のみだった。
とりわけ、ファザーに近しい位置にいた少女らは、レイリーに説得されていて。
「私が貴女達全員を護って元気に育てるわ」
もう自分を犠牲にして彼を護ったり、満足させたりしなくてもいい。
優しく抱きしめて撫でてくれたレイリーに強く惹かれた少女達は、涙を流して素直な気持ちで保護を求めていた。
そうして、今後の処遇の決まった子供達をイズマは諭す。
「守る力は素晴らしいが、大事なのは何を守るか、だ。これからは、それを考えながら生きてみるといい」
身寄りのない子供達はこの都市でなんとか生き抜こうとしてきたはず。
それが解き放たれ、彼女達はどう生きていくのか、2人の領地で学んでいくことになるのだろう。
「さあ、洗いざらいはいてもらおうか」
「シャルル、あなたに聞きたい事が山ほどあるの。素敵なお部屋でじっくりお話しましょうか」
イズマに合わせ、ココロが縄で縛られたファザーに問う。
「吐けば、解放してくれるのか?」
この期に及んで見苦しい振る舞いをするファザー……いや、その名すらも返上せざるを得ないシャルル。
子供達の冷ややかな視線を受けながら、彼はべらべらと自らの知る限りのことを語り始める。
それをみみにしながら、アーマデルはこの付近に浮かぶ子供の霊へと話しかける。
「……どこに逝きたい?」
その多くは天義の戦乱に巻き込まれた子供達だ。
だから、彼等は亡くなった両親や家族と共に眠りにつくことを望む。
ローレットの依頼の為、各地へと足を運ぶアーマデルに、今すぐその願いを叶える余裕はない。
だが、アーマデルは今、この時に余裕がなくとも、いつかは……、いつかは彼らの望み通りにしたいと考えていた。
イレギュラーズ一行はそのまま隠れ家を出て孤児院の方へと戻っていくと、そこにはマザー・マリアンヌと彼女の子飼いであるニコラ小隊が控えていた。
「手間が省けました。感謝します」
じゃらりと手枷足枷を縛る鎖を鳴らし、マザーがイレギュラーズへと礼を告げる。
「マザー・マリアンヌ……」
シャルルが苦々しい表情を向けるも、マザーは一瞥もしない。ニコラ達は汚物を見る様な目でシャルルを見下していた。
「なぜ、そこに居て何もしないのですか。シャルルが追い落とされればあなたの地位が上がるとでも?」
「その男は神の名を汚す不埒な狼藉者。神の御使いどころか、都市への滞在すら許されません」
マザーが手を下す前に、ローレットが排除してくれたのなら、それはそれでと考えていたらしい。
もっとも、子供達をイレギュラーズが保護する動きをみせたのは想定外だったと呟き、背を向ける。
「今日はお礼申し上げますが……、我が神に仇なすなら、容赦はしません」
周囲が凍り付くようなひどく鋭利な印象を受ける言葉を言い残し、マザー・マリアンヌは子供達を引き連れて去っていく。
戦いを挑まぬのはチームとして共通見解。この場は事を荒立てることなく、皆、去り行くマザーの後姿を見つめる。
その後ろ姿を見ながら、ココロは胸を不安でいっぱいにしていて。
(聞けなかった……。いや、聞けないよ……)
先程、シャルルの語ったこの都市の実状。
アドラステイアに流れ着いた子供達を利用しているのはどの大人も同じ。
ファルマコンを覚醒させる為の手段を大人達が色々と講じており、子供達を糧にしているという衝撃の情報もあった。
また、子供達に与えられるイコルを大量に摂取した者は人外へと変貌してしまうという話もメンバー達は再確認する。
(なら、ニコラ小隊の率いていた聖獣ミロイオンの正体は、ミロイテではなのでは……)
その疑念を、ココロは振り払うことができずにいたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは多くの少女達を救いの手を差し伸べたあなたへ。
すでに高層へと至るシナリオOPも公開中ですが、こちらのシナリオも考慮の上です。
都市の真相を暴き、攻略できることを祈っております。
今回はご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
今回はアドラステイアの実態を暴くため、ファザー・シャルルの捕縛に臨みます。
前作のシナリオ結果、レイリー=シュタイン(p3p007270)さんの優先参加も発生しております。
●目的
ファザー・シャルルの捕縛
情報を引き出す必要がある為、死亡状態は失敗となります
●状況
修道院内の隠し通路から出た先の離れ、目立たぬように設置された小屋内の階段を下りた地下に、シャルルの隠れ家があります。
ファザーの虚を突く為、突入は夜に行います。
フロアは大きく3つ、彼の私室、共用部屋、少女達の部屋です。
他2つはかなり広い為、全員で交戦可能ですが、ファザーの私室は入れても2,3名といったところでしょう。
また、地上部は2体の聖獣が守っておりますので、ある程度戦力を分散して戦う必要があります。
●敵
◎ファザー・シャルル
30代男性。長身、短髪の金髪男性。見た目だけなら爽やかさも感じさせます。
修道服姿で聖書を常に所持し、天義の教えを説いていますが、非常に利己的で都市内の自身の立場を向上させることを主として活動しています。
光のケージに敵を閉じ込めたり、押し潰したりといった術を得意とします。
○エンクロージャー部隊×30名
ファザー・シャルルの創設した部隊。やや少女が多めで、暗茶食の鎧が印象的です。
通称「囲い」という名から、子供達に自分を守らせる気が駄々洩れという印象を受けます。
5名がファザーを警護する近衛でやや格上。特にファザーのお気に入りらしく、身の回りの世話まで任せているようです。
戦闘になれば、盾、シールドスピア、シールドランスといった防御を主体として戦う武装で攻めてきます。
・聖獣:ヘビーハード×2体
亀を思わせる聖獣。翼は持たないですが、その分非常に硬い甲羅を持ち、隠れ家入口を護るように座り込んでいます。
一度攻撃に出れば、回転アタック、体当たり、地響き、ジャンピングプレスと自重と硬さを活かして攻めてきます。
◎マザー・マリアンヌ
魔種。20代女性。血に濡れた修道服を纏う元人間種女性。
手枷足枷は二度と神を裏切らぬ証。罪人たる自身を戒める拘束具。それを解き放った時、マザーは神を冒涜する者を排するといいます。
ニコラ小隊と行動しています。基本交戦はしませんが、交戦する場合は難易度がハード相当となりますので、予めご了承願います。
○二コラ小隊×15名
別名『聖銃士』。白銀の鎧を纏う子供達です。今回、目立たないようにするためか聖獣の姿はありません。
いずれも長剣、長槍など重くない近接武器を所持しています。
目的は不明。積極的に戦いに介入してくる様子も見られません。
●魔種
純種が反転、変化した存在です。
終焉(ラスト・ラスト)という勢力を構成するのは混沌における徒花でもあります。
大いなる狂気を抱いており、関わる相手にその狂気を伝播させる事が出来ます。強力な魔種程、その能力が強く、魔種から及ぼされるその影響は『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』と定義されており、堕落への誘惑として忌避されています。
通常の純種を大きく凌駕する能力を持っており、通常の純種が『呼び声』なる切っ掛けを肯定した時、変化するものとされています。
またイレギュラーズと似た能力を持ち、自身の行動によって『滅びのアーク』に可能性を蓄積してしまうのです。(『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』と逆の効果を発生させる神器です)
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
Tweet