シナリオ詳細
<獣のしるし>百銃の王猿ザグラ
オープニング
●
天義と鉄帝国の国境沿いに存在する『殉教者の森』。
木々が密集し、鬱屈した空気すら感じ取れるこの森に、鳴り止まない銃声が響いていた。
「邪魔、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔、邪魔だ。鬱陶しい。全てが目障り。実に腹立たしい」
その銃声の主である、真っ赤な大猿の様な獣は、忌々し気に吐き捨てる。
真っ赤な巨体。その輪郭は影の様にゆらめき、不定形。しかし何より奇妙に見えたのは、その背から無数に生える赤い腕であった。
背から生えた腕はその全てに厳めしい銃を握り、絶えず赤い弾丸を撃ち放っていた。
「クソ、強い……!! 化け物め……!!」
「貴様らが弱いだけだ。ああ下らない下らない。貴様らの命に何の価値が? 何もない!!」
殉教者の森に偵察に天義の聖騎士の偵察部隊は、この赤き大猿と遭遇。大猿は有無を言わさず銃口を向けて来た。その大猿が引き連れる赤い影の猿達や、傍に控える黒衣を纏った人物も、銃を手にそれぞれ銃口を向けて来た。
当然ながら聖騎士達も応戦する。だが赤い大猿が放つ苛烈な銃撃の嵐と身のこなしに翻弄され、既にほぼ壊滅状態にあったのである。
「ああ、そうだ!! 人間の命に価値などない! いいや違う、全て!! 全ての命が無駄で無意味だ!! 下らない下らない、汚らわしい!! この私が喰らってやるだけありがたいと思え!! この私、百銃の大猿ザグラが!!」
ザグラと名乗った大猿は決して銃撃を止める事はない。刃を構え向かってくる命も、武器を放り投げ逃げ去る命も全て等しく忌まわしい。だから殺す。
「おの……れ……!!」
銃弾を胸に喰らった聖騎士の1人が、最後の力を振り絞り槍を投げる。槍は銃弾の雨を潜り抜け、大猿の右肩に突き刺さった。
「この……人間ごときがこの私に何をしたァッ!!」
大猿は怒り狂った様子でその聖騎士に飛び掛かると、拳を振り下ろす、何度も何度も拳を振り下ろし、骨も内臓も潰れ、原形を無くした死体に無数の赤き弾丸を浴びせる。ただ怒りのままに。
そして後に残った残骸を摘まみ上げ、大猿は喰らう。他の聖騎士達の死体も摘まみ上げ、喰らう。なぎ倒された木々も、自らが破壊した何もかもを。心底嫌そうな表情で。
「はあ、忌々しい忌々しい。人間など。生命など。何故そんなものがこの世に湧いて出てくるのか。実に忌々しい!!」
赤き百銃の大猿ザグラは吼える。ただ怒りのままに弾丸を撒き散らし、人間も動物も無数の木々も。目に映る全ての命を破壊し、喰らう。
何故なら生命など、その存在そのものが忌々しく腹立たしいから。
その怒りは永遠に消えることなどない。
●
「現在、天義と鉄帝国の国境沿い『殉教者の森』で、『国を喰らう獣』が暴れまわっているらしい。影の兵、あるいは汚泥の兵と呼ばれる兵に、世界を喰らうワールドイーター。そして彼らを連れて歩く致命者。そして今回キミたちには、天義の偵察部隊の1つが発見したワールドイーター、高い知性と戦闘能力を兼ね備えた赤い影の大猿、自称『百獣の王猿ザグラ』に戦闘を仕掛けてもらう。偵察部隊の生き残りから情報と依頼を受けたんだ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)はイレギュラーズ達に説明を続ける。
「厳密に言えば、ザグラの周りには数回り小さい赤い影の猿もいたらしいから、そいつらとも戦ってもらうことになるね。ザグラは現在、赤い銃弾を撒き散らしては目に移る命を見境なく破壊して喰らっているみたいだ。やはりこいつも、進行ルート的には徐々に鉄帝国との国境に近づいているらしい」
しかしまだ到達してはいないらしい。戦場は、殉教者の森の中になるだろうとショウは言う。
「生存者の証言から考えるに、ザグラは相当の戦闘能力を持っている事は間違いないだろう。当然ここで討伐してしまうのが望ましいけど、決して簡単な戦いではないとは思う」
ただ、とショウは付け加える。
「仮に討伐が難しかったとしても。深手を負わせて撃退する事が出来れば、しばらくザグラは派手な行動は行わなくなるだろう。と、説明はこんな所かな。それじゃあ、武運を祈ってるよ」
- <獣のしるし>百銃の王猿ザグラ完了
- GM名のらむ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年11月23日 21時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「ああ、実に下らなく腹立たしく下劣なる生命よ!! 滅び、朽ち果てるがいい!!」
百銃の王猿ザグラは吼え猛る。赤き銃弾をまき散らし、全てを破壊し喰らい続ける。怒りのままに。
「…………!」
突如、致命者は何かを感じ取り。振り返り即座に銃の引き金を引いた。
「気づくのが遅すぎである」
銃弾は『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)の肩を掠めた。しかし練倒は全てが吾輩の計画通りだ、と笑う。
けたたましい銃声とザグラの怒声は、それそのものが彼らの知覚を鈍らせていた。故に一手遅れた。
「なんだ……何者だ……!?」
ザグラや影の猿兵達もまた振り返るが、時すでに遅し。
彼らの目に映ったのは、天から降り注ぐ鉄の流星群。
「吾輩達は貴殿の暴虐、怒り、そしてその生命。それら全てを終わらせに来た存在である」
練倒は言い放ち。そしてそれが、開戦の合図となった。
●
「ガーッハッハッハ!! 幾ら木の影に隠れようとも木ごと吹き飛ばしてしまえば良いだけの話。実にインテリジェンス溢れる攻撃であるな……なにより貴殿らにもう逃げる隙などないのである! ガーッハッハッハ!!」
練倒の高笑いと共に降り注ぐ流星群。練倒の言葉通り、彼らに避ける暇は無かった。
木をなぎ倒し、地を抉る流星。赤い炎を上げながら起こる大爆発が、猿兵も致命者もザグラも。全てを巻き込み焼き焦がす。
「グオオッ!! この、下らぬ、生命がっ!! 許しはしないぞォォォォ!!」
ザグラは憎しみを込めた眼で練倒を、イレギュラーズ達を睨みつける。
「貴殿の許しなど誰も求めていないのである。ただ怒りをまき散らし、周りに当たり散らす。ただの性質の悪い獣の許しなど」
練倒は心底呆れたように言い放ち、魔力を集束させていく。
そして撃ち放った魔法が猿兵を穿ち、その全身を一瞬で消し飛ばした。
「許さん……!! 撃て! 全員殺せェ!!」
ザグラの怒声に呼応するように猿兵たちが銃を構える。致命者も一瞬遅れ、銃を構えた。
だがその引き金を引くよりも早く動くものがいた。『銀焔の乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)だ。
「失礼。悪いけどその仮面、剝がさせて貰うわ」
アルテミアは手にした細剣『ロサ・サフィリス』の蒼き刀身に雷を宿し、致命者の懐まで一瞬にして肉薄。勢いのまま突き出した剣の切っ先が致命者の仮面を打ち、致命者の全身に雷が迸る。
「ッ……!」
致命者の仮面にヒビが入る。すると致命者が纏う黒衣の隙間から黒い触手の様な者が伸び、アルテミアに迫る。
「人間ではない……?」
アルテミアは冷静に青い短剣を数度振るい、迫る触手を切り落とす。そして、更なる追撃。細剣を駆使し放たれた無数の刺突が致命者の全身を突き、そして仮面を砕いた。
その仮面の下にあったのは、顔に大きな傷が入った若い女の顔であった。
「あなたは……一体誰? 何の目的で……答えなさい」
アルテミアが剣先を突き付けて問う。致命者は小さく指を振って応える。
「この身が、この相貌が。如何なる姿形を成していたとしても……それは大した問題ではないよ、お嬢さん? 全ては正義の名の元に……クク……」
致命者は不気味に笑うと全身が影の様にぐにゃりと歪み、そして消滅した。先ほどの一撃が、致命傷となっていた様だ。
「少なくとも、人間では無い様ね」
考えることは多いが、今は目の前の事態に対処しなくては。アルテミアは巡る思考を一旦中断し、次なる標的を定める。
「ふむ、加勢する必要すら無かったでござるな。ただただ不気味な奴だったでござる……あの様子では捕えても何も喋らなかったかもしれぬな」
『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は木々の間を跳躍しながら戦場を駆け巡る。致命者を即時始末できたのなら、次は赤い猿兵が標的だ。
「コロス……」
「その銃の腕前で? 冗談はやめるでござるよ」
猿兵が放つ銃弾の隙間を跳びながら潜り抜け。咲耶は絡繰手甲・妙法鴉羽『宿儺』を鎖鎌に変形させる。そして空中で鎖を猿兵に放り投げると首に巻き付け、一気に引く。
「正直、お主の様な雑兵に構っている時間は無いでござる」
くるりと身体を一回転させ、咲耶は鎌を振るう。猿兵の首が刈り取られ、咲耶が着地すると同時に赤い身体が消滅した。
「コロス……コロスコロスコロス」
猿兵達が咲耶に銃弾を放つ。
「はいはい。口では何とでも言えるでござるよ」
しかし咲耶は軽い口調でそう言って、鎖をくるくると回転させて銃弾を弾き飛ばした。銃撃が止むと、咲耶は即座に駆け出した。絡繰手甲を鎖鎌からブレード付きの手甲へと変形させる。
「確かにそれなりの知性は持っている様でござる。されど……」
咲耶は通りすがり様に手甲を振るう。そして猿兵の腕を、足を、そして首を切り落とす。
「実力は伴っていないようでござるな」
更に猿兵を消し飛ばし、咲耶は淡々とそう言い切った。
「コロス……コロス……」
「んんと。遠くからびしぴし狙われるとメイは弱いのです。できるだけ猿兵さんを何とかしたいです……」
『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)は聖騎士の影に隠れ銃弾をやり過ごしながら次の一手を考える。
「ん……どうやら今見えている以上に猿兵さん達はいないようなのです……聖騎士さん達、連携して猿兵さん達を倒してほしいのです! 負傷時はメイの元に戻ってきてくれれば、まとめて回復するです!」
メイの指示に頷き、聖騎士たちは猿兵の対処に向かう。メイも『葬送者の鐘』を手に、猿兵を目標に定める。
メイは静かに一回鐘を鳴らす。身体から魔力が沸き上がり、満ちていくのを感じた。
続けてもう一度鐘を鳴らした。小さく、しかし強い魔力を帯びた鐘の音が響き渡った。
「鉄帝の国でも天義での国境でも。あちこちで問題が起きているのです……けど、どこであろうとひとは暖かく優しい笑顔を浮かべるのです。そんなひとたちの笑顔のために、メイは頑張るですよ!」
鐘の音に共鳴するように猿兵の足元が揺れる。次の瞬間、その四方の地面から現れ出た土の壁が猿兵に覆いかぶさり、銃撃の音と共に猿兵は掻き消えていった。
「グルァアアアアアアア!!」
イレギュラーズ達や聖騎士たちが赤い猿兵たちの対処をする一方で、ザグラと相対するイレギュラーズ達もいた。ザグラは目の前に立ち塞がる『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)と『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)に狙いを定め、次々と赤い銃弾を放っていた。
「クッ……! アンタの力はこの程度? ボク1人倒せない癖に『ワールドイーター』なんて、あまりに分不相応な名前じゃない!?」
蛍は赤き銃弾を全身で受けながら、眼前に立つザグラに言い放つ。そして桜色のオーラを帯びた剣、『藤桜』を地面に突き立てる。
瞬間、ザグラの全身を桜吹雪の結界が捕えた。肉体と精神を蝕むその結界に、ザグラの表情が更に怒りに歪む。
「貴様ァ……!!」
無数の銃口が蛍に向く。しかしその刹那、ザグラは右側面から強い魔力を感じ取った。
「珠緒の存在をお忘れなく。あなたはかなりの脅威と認識しました、しかし打ち取れぬ道理はありません」
蛍の結界により肉体が脆弱となったその隙を狙い、珠緒は凄まじい速度で魔術を詠唱し、ザグラ目掛けて跳びあがる。
「あなたを支配するのが、傲慢であれ、憤怒であれ……酷く、危険な存在であるあなたを、これ以上好きにはさせません」
空中に展開された魔法陣、そこに現れた神滅の魔剣を手に取り、珠緒は跳躍の勢いのまま振り下ろす。
放たれた斬撃はザグラの肉体を深く抉る。ザグラは歯を食いしばり、痛みに耐える。
「力は真の百獣の王たる獅子に及ばず、知性は人に及ばず。所詮本能のままの猿ってことね!!」
蛍はなおもザグラを挑発する。今の自分は本物の強者だから。少なくともそれを演じ続ける限り、迷う事無く敵の前に立ち続ける事が出来る。
「グオオオオオオ!!」
ザグラは蛍目掛け銃を撃ちまくる。蛍は桜色の防御結界を展開するが、それでも尚攻撃は苛烈だ。
「かつてワールドイーターを名乗りし我ら、容易く崩れはしませんよ」
珠緒は即座に魔導書を開き、魔術を詠唱。放たれる黄金の輝きは蛍を包み、そして傷を癒した。
「やっぱり、ザグラの攻撃はかなり痛そう……早く猿兵達を倒さなきゃ! 人々の安寧を守る為にも!」
『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は猿兵達の前に進み出る。スティアは仲間達の盾となり、その攻撃を受け続けていた。
「怪我が酷いようなら私を盾にして! 大丈夫、私は頑丈だし、それが天義の貴族である私の果たすべき義務でもあるから!」
スティアは守りの加護の力を込めた防御障壁を前方に展開し、聖騎士達を守る。
「さあ、あなた達の敵はここだよ! 倒せるものなら、倒してみなよ!」
スティアは魔導器『セラフィム』を展開。込められた魔力が旋律へと変わり、神の福音が響き渡る。猿兵達の目がスティアに向けられ。スティアは『来なよ』と挑発的な笑みを浮かべる。
放たれる猿兵達の弾丸。それをスティアは受け、あるいは障壁にて弾き返しながら耐える。
「流石にまとめて来られるとちょっとは痛いね。けど、残念! やっちゃって!!」
スティアが攻撃を一身に受けたその隙に、態勢を整えた聖騎士達が突撃し、一斉に武器を振り下ろす。猿兵達が両断された。
「よし……さあ、傷を負った人はいない? 私かメイさんの所へ行って、しっかり回復して!」
スティアはすかさず回復魔術を発動。自信と仲間たちの傷を癒すと、今度は花弁を象る魔力の残滓が舞い散った。
「なんという不幸だ……!! 無能な致命者、無能な雑兵!!」
イレギュラーズ達の活躍によって既に致命者は倒され、赤い猿兵も全滅は近い。
「思ったより順調に数を減らせていますね。やはり致命者も猿兵もそこまでの戦力ではない。ザグラが、明確に戦力の中核を成していますね」
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は戦闘の最中、冷静に敵戦力を分析していた。
「しかし、他の事例では致命者が高い戦闘能力を有していた事もあったらしいです。個体差はそれなりにあると考えていいでしょう」
突如現れたワールドイーター達。彼らの情報は少しでも集めるに越したことはない。
「ですが……対処もしなければ。致命者は消えた。後は猿兵ですね」
フルールはギフト『精霊天花・焔』を使用。契約をした7種の精霊たちと融合し、その身が焔へと転じる。
「戦力の程は知れました。あなたたちもそろそろ、私たちの戦力を理解する頃合いですよ」
フルールの掌に、不死鳥の呪いの炎が宿る。そして両腕を前方に構えると、その掌が赤く眩い光を放ち、一気に温度が高まっていく。
「それでは、失礼」
フルールの掌から、閃光と共に紅蓮の鳳凰が放たれた。ソレは複数の猿兵を巻き込み全身を焼く。赤い身体が更に紅い炎に包まれ――そして蒸発した。
「これで11体……さて、ザグラ。あなたに聞きたいことが。ワールドイーターはどうやって生まれたのです? やはり『暴食』ですか?」
「私が答えるとでも?」
「そうですか。やはり素直に喋りたくなる様に、こちらが努力するしかない様です」
「やってみろッ!!」
●
戦いは続いた。既に致命者は倒れ、猿兵の残党も聖騎士達の手によって討伐された。残るはザグラのみ。
イレギュラーズ達は最低限の戦力でザグラを抑えつつ、致命者と猿兵達の対処に当たる方針を取っていた。
そしてその作戦が功を奏し、全体を見れば大きな被害が出ないまま、雑兵たちを早期に殲滅する事に成功していた。
「聖騎士さん達も、死者はいないのですね……! あまりザグラに近づきすぎずに、援護をお願いするのです!」
しかし油断することなくメイは鐘を鳴らし、仲間の肉体と精神を癒し続けた。ザグラ1人となっても、放たれる攻撃はやはり強力であったのだ。
「『国』を喰らう怪物……そもそも『国』を喰らうってどういう意味なのでしょう。人でも自然でもなく、国……」
メイは静かにザグラを見る。ザグラは怒りと本能のままに行動している様に見えた。そこに、明確な目的があるのだろうか。
「この様な獣に、斯様な崇高な目的などないであろう。世を儚み吼え猛る事で、己が偉大な存在だと示し続けたいだけである」
練倒はザグラを前に、そう言い切った。魔導具『インヴィディア・デライヴ』を構え、魔力を込めていく。
「この世界が憎く、くだらないのであればさっさと自ら命を絶てばよいであるに。全くもって性質が悪い存在である」
そして練倒は2発の魔弾をザグラに撃ち放つ。込められたるは無慈悲の力。この場に慈悲など、必要はなかった。
「確かに。この世界と生命を忌み嫌うのであれば、自ら消えればいい話。しかしザグラはそうしない……全てを喰らい、その後どうすると?」
「貴様らには分からん……何もかも……!!」
フルールの言葉に、ザグラはそう吐き捨てる。やはりまともな情報をくれる相手ではないらしい。フルールは全身の焔を静かに揺らめかせ、ザグラを見据える。
「全てを殺し喰らったとしても。それで何かが満たされるという訳でもないでしょうに」
フルールが呟いた瞬間、ザグラの頭上から焔の雨が降り注ぐ。それはザグラの全身に静かに纏わりつき、しかし苛烈な熱量で身を焦がした。
「おのれ……おのれおのれおのれ……!! まだ足りないのか……怒りが……!! こいつらを殺す為の怒りと力がぁっ!!」
ザグラは目に見えて焦り始めていた。雑兵が全滅してしまい敵戦力に余裕がある以上、撤退という選択肢も厳しくなっていた。
「なに……? 今更逃げるつもり……? アンタみたいな危険な強者を逃がす訳にはいかない! 多くの命のため、ここで死になさい!!」」
目の前の相手を、ザグラを、殺す。その一点において蛍に迷いはなかった。
だが、もはや自分はその一言を。『殺す』という行為を躊躇わなくなったという事実に心のどこかが傷んだ。
しかしそうだとしても。その事実から目を逸らさずに蛍は何度でもザグラの前に立ち塞がり続ける。
「無意味で無価値な生命になぞ、殺されるかぁあああああ!!」
振るわれる拳と銃撃の嵐。蛍に振るわれた暴力の嵐が、蛍に降りかかる。
「蛍さん……! いえ、ここまで保たせられた。あとは王猿を狩るのみ」
そう呟く珠緒自身も既にかなりの傷を負っていた。静かに息を整え、ザグラを見据える。
「無意味で、無価値……全生命の無価値を断ずるならば、汝は生命ならざるや?」
珠緒は神滅の魔剣を再び振るった。必殺の斬撃がザグラの胸を深く抉る。
「私と貴様らを同列に語るな、愚かものがぁ!!」
「もう言ってる事がめちゃくちゃでござるよ。中身の無き憤怒に同情の余地無し……哀れでござるな」
荒れ狂うザグラを、それとは対称的な冷静な目で見据える咲耶。両手の絡繰手甲を刀に変じ、二刀流の構えを取る。
「下劣、醜悪、愚かァッ!!」
「如何な理由があろうと暴れ狂い命を奪う今のお主の方がよほど醜悪でござる。生きている者達が憎いのならば、先にお主がこの世から去るが良い」
一撃、二撃、三撃。ザグラの急所に振るわれた三連の斬撃が更にザグラを追い詰めた。
「もはや逃げ場はないわよ。あなたの目的が何であろうと……ここで終わらせる」
アルテミアは細剣と短剣を構え、言い放つ。刃に宿る蒼と紅の炎が激しくゆらめいた。
「すべての生命に苛立ち、破壊し、喰らう……あなたを、終わらせる」
刃がザグラを斬り、蒼と紅がその全身を包み込む。焦がし凍てつくその炎に、ザグラは苦悶の叫びを上げながら銃を乱射する。
「私が……私が……この百銃の王猿がぁっ!!」
「もう休みなよ。あなたを許す事は出来ないけど。別に痛めつける趣味はないからさ」
スティアはそう言い、手にした『セラフィム』に魔力を込めていく。
「ダメだダメだ……こんなものは認めない、こんな世界は認めない!! 私は世界を変えるんダァアア!!」
「それじゃあね、ザグラ」
白い羽根がふわりと周囲に舞い散り、眩い光を放つ。
放たれた光は一点に収束し、巨大な刃を形取り――そして、放たれた。
「ワタ……シハ……」
聖なる刃はザグラの身体を正面から刺し貫き。ザグラの無数の腕からガチャガチャと銃が滑り落ちる。
「セカ……イヲ………………」
ピタリとザグラがその動きを止め。そして全てが幻であったかの様に、その巨体が消滅した。
怒りに全てを支配された怪物はこうして、怒りと共に消え去ったのであった。
●依頼結果
百銃の王猿ザグラ、赤い影の猿兵、致命者全員の討伐を確認。
イレギュラーズ、並びに聖騎士達には複数の負傷者、中には重傷と呼べるものもいたが、この場においてザグラを討伐出来たことは大きな成果だといえるだろう。
討伐完了後、アルテミア・フィルティスが目撃した致命者の顔を元にデータを照会した所、かつて天義国において大量殺人を行い処刑された、とある殺人鬼の顔と一致している事が確認された。しかしその口調や戦闘能力は、生前のそれと全く一致していなかった事も併せて追記しておく。
上記の結果を以て、本依頼を完了とする。各員においては十分な休息を取り、戦いの傷を癒して欲しい。
以上。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。無事、ザグラの討伐まで達成することが出来ました。
MVPは、ザグラの猛攻から長時間仲間を守ったあなたに差し上げます。
GMコメント
のらむです。殉教者の森に現れた百銃の大猿と戦っていただきます。
●成功条件
百獣の大猿ザグラ、赤い影の猿達、致命者を討伐、あるいは撃退する。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●戦場情報
木々が立ち並ぶ森の中。銃撃音が絶えず鳴り響いている為、発見は容易。
ザグラ周辺の木々は止まない暴力によって吹き飛ばされ、喰われている。
●聖騎士×6
天義から派遣された援軍。
剣や槍を用いた近距離攻撃を得意とする。また、単体に対する治癒魔法も使用可能。回復量はそこまで高くない。
基本的にはイレギュラーズ達の指示に従う。特に指示が無ければ各々の判断で戦闘を行う。
●致命者
黒衣を纏い、仮面を被った人物。銃を所持している。
一言も言葉を発さず、また戦闘能力は低いと思われる。
影の猿兵やザグラを引き連れているというより、行動自体はザグラに一任し、ただその後を付き従い様子を見守っている様にも見える。
●赤い影の猿兵
正確な数は不明だが10体以上。
その全てが銃によって武装し、大きく広がる様に展開して様々な方向から射撃を行ってくる。
●百銃の王猿ザグラ
赤く不定形な影の様なもので全身が構成された、大猿の様な怪物。
高い知性と戦闘能力を持つ『ワールドイーター』であり、死と暴力を撒き散らし、全てを喰らいつくす凶悪性を持つ。
その背中から無数の赤い腕を生やし、その全てに銃を握っている。放たれる赤い弾丸は数も威力も暴力的。
聖騎士の偵察部隊が得た情報により、以下の戦闘能力が判明している。
・その巨体に似合わぬ素早い身のこなしで戦闘を行う。
・無数の銃から放たれる銃撃は、広範囲に撒き散らす事も、一点に集中させる事も可能。特に後者の銃撃は貫通し、特に強烈。しかし最も強力なのは、至近距離から放つ拳と銃撃の容赦ない猛攻。
・赤い銃弾には呪術や魔術の力が込められており、『不吉系列』や『麻痺系列』のバッドステータスを与えてくる。至近距離から放つ拳と銃撃による猛攻は、『必殺』の一撃。
・その他に戦闘手段を持っているかは不明。
以上です。よろしくお願いします。
Tweet