PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<総軍鏖殺>この命が生きるのならばそれがいいのだからと

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


(……くそっ。もう少しなのに、もう少しのところで辿りつけねぇ……)
 サンディ・カルタ(p3p000438)は少しばかりの苛立ちを胸に秘めていた。
「なに顔しかめてんのよ?」
 そこへ声をかけたのはリア・クォーツ(p3p004937)である。
「リア……それにシキも。わりぃ、顔に出てたか?」
「長い付き合いだし、出てなくても分かるけどね」
 そう答えたシキ・ナイトアッシュ(p3p000229)はサンディの手元にある資料が一瞬だけ目に入る。
「あの時のマジックアイテムの出処、調査してるんだよね?」
「……あぁ。生命流転晶の出処、もう少しで掴めそうなんだが……連中も馬鹿じゃねぇ。
 ぎりぎりのとこで逃げられてる」
 歯噛みするようにそうサンディが言えば。
「リアちゃん、シキちゃん! サンディくんも!」
 話しかけてきたのは炎堂 焔(p3p004727)だ。
「何やら、聞き覚えのある単語がありましたが」
 そう言ったのは小金井・正純(p3p008000)だ。
「生命流転晶……あの時のアイテムなのです?」
「アルブレヒトが持っていたアイテムだね」
 気づけばメイ(p3p010703)やジェック・アーロン(p3p004755)の姿もそこにはあった。
「おや、皆様お揃いですね」
 そう最後にヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)が顔を出せば、その時の依頼にいた面々が揃っていた。
「結局、何が起こっているのです? ぎりぎりで逃げられてるって聞こえたのです」
 メイが問えば、サンディは静かに頷いた。
「前回の依頼で生命流転晶を手に入れた時は、闇市で転売されてたのを貰ってきたんけどな。
 そっかからルートを探そうとしてたら途切れてやがった。
 どうも、転売の最初の一人の時点で首を獲られてたみたいだ」
 サンディは険しい顔をする。
「流石に自分達の足が着きかねない事には事前に手を打ってるか……」
 ジェックの言葉にサンディは静かに首肯する。
「それじゃあ、ここからどうするの?」
 焔の問いかけに、サンディは唸る。
「……我々には、もう1人、彼らと取引をした知り合いがいますよね」
 そう呟いたのは正純だ。
「……なるほど、彼ですか」
 それにヴァイオレットは頷くと、視線をリアの方へむけた。
「……アルブレヒトね」
 視線を受けたリアは暫しの沈黙ののちに呟けば。
「たしかに、サンディが駄目でも一度は顧客だったアルブレヒトなら……」
 続けてシキが続ければ。
「駄目よ。あいつにそんなことさせるわけにはいかないわ。
 アリカとも約束したもの」
「何も彼にもう一度買わせる必要はないよね?
 どこで買ったのかと、どういう方法だったのかさえ知ることが出来たら十分だよね?」
 リアが拒絶したのに続けてシキが言えば、サンディが頷く。
「……そうね。それぐらいならいいでしょう。それもあいつの贖罪一歩になるでしょうし」
 リアは一つ息を吐いて頷いた。
「今なら……たしか、祈りの時間だからあそこにいるはずね」
 時計を見たリアが歩き出せば、一同はそれに続いていく。


「……それで僕のところへ」
 教会で祈りを捧げていた青年――アルブレヒトが静かに振り返って言葉を紡ぐ。
「どこで、どうやってあれを手に入れたのか。
 そこまで教えてくれればそれでいいわ。どこだったか覚えてる?」
 リアの問いに、暫しの間の沈黙がある。
「……思い出しました。
 あれはたしか――スチールグラードの中です。
 あの時は確か、ぎりぎりでこの国がヴェルス帝の御世です」
 そこから、アルブレヒトは一つ一つ、探るように言葉に変えて行く。
 それはまるで――そう、まるで『断片的な記憶をかき集める作業』のように。
「待つです。もしかして、アルブレヒトさんも『詳しく覚えてない』のです?」
 メイは思わず制止していた。
「……ある意味では、そうかもしれません。
 どうしてかは分からないのですが、記憶が途切れ途切れで……」
「転売してる――正規ルートじゃないところを尻尾切りする連中だ。
 買った相手に細工の一つくらいしててもおかしくないかもね」
 ジェックが推測を立ててそれを告げれば、アルブレヒトも目を見開いて驚きを示す。
「――どうやら我々が狙っている相手は相当に用心しているようで」
 ヴァイオレットがそう言えば。
「でも、今まで教えてくれた情報だけでもある程度は絞れないかい?」
「そうですね。今までの情報でも絞れて来ています。
 ここから先はこちらで追加調査して詰めるという手もあります」
 シキの言葉に同意するように正純が続ける。
「……それじゃあ、ここからはボク達の手にかかってるね!」
 焔が締めくくる。
「……申し訳ありません、みなさん」
「良いのよ。記憶が途切れてるのはあんたの責任じゃないでしょ。
 それより、アルブレヒト。アリカも療養を始めたんだから、あんたも前を向いて進む時間よ」
 リアが発破をかければ、驚いた様子でアルブレヒトが目を瞠る。
「アリカに恥ずかしくない男になりなさいな」
「――はい」
 こくりとアルブレヒトが頷く。


(やっとだ――やっと見つけた)
 サンディはその建物を見据え、思わずつぶやいていた。
 スチールグラードの内部、スラム街の一角にそこはあった。
 建物同士の間で陰になるような位置取りをしたその建物は、驚くほどひっそりとしている。
 周囲をざっと見やれば、入り口には2人の見張り。
 レーザーライフルを斜め掛けする男達。
(あいつらが見張りなんだろうが……注目すべきはあっちだな)
 視線を巡らせれば、もう一つ、見張りの無い扉がある。
 だがよく目を凝らせばこびり付いた黒っぽい錆は血の跡だ。
(挟み撃ちにするか? 罠の可能性もあるか……)
 他の面々に情報を共有しながら、サンディは静かにそこを見下ろし続けた。

GMコメント

 公開が遅くなり申し訳ありません。
 リクエスト有難うございました!

 そんなわけで前回のシナリオの続編となります。
 ようやっと見つけ出した生命流転晶の売人たちのアジトへ乗り込んでまいりましょう。

●オーダー
【1】売人たちの鎮圧(生死不問)
【2】生命流転晶の破壊
【3】『博士』の撃破

●フィールドデータ
 スチールグラードの内部に存在するスラム街の一角に存在する建物です。
 地上では1階建てのように見えますが、中に入ると地下に1階分の2フロアを確認できます。
 見張りのいる入り口【A】と見張りのない入り口【B】があります。

・1階
【A】から入ると直ぐにコの字型のショーウィンドウがずらりと並び、
 コの字で言うと2画目にあたる│部分がカウンターのようになっています。
 ダンディなおじ様がビームライフル片手にこちらを見ています。
 周囲には堅気ではない人たちがやる気満々で構えています。

【B】は鍵がかかっています。
 中に入ると直ぐに緑色の液体に浸かった鉄騎種がずらりと並びます。
 皆さんは『博士』と名乗る人物と遭遇することになります。
 博士は地下1階に早々に引き返していきます。

・地下1階
 地下1階は非常に広いドーム状の空間が存在します。
 ドームの天井には巨大な生命流転晶が眩い輝きを放っています。
 恐らくですが、凄まじい数の人間の命が保存されていることでしょう。

 博士との戦闘が行われます。

●エネミーデータ
・ドミニク
 カウンターにいるダンディなおじ様です。
 手拭いでビームライフルを拭いています。
 売人たちの頭であり、老練なる商人です。

 ビームライフルからは【火炎】系列、【凍結】系列、【麻痺】などのBSを与える弾丸をぶちこんできます。
 また、その優れた射撃能力は【追撃】【スプラッシュ】相当の連撃を発動するでしょう。

・売人×7
 うち、2名は外で見張りをしています。
 それ以外の5名は室内にいます。
 3名は鉄製の刃の外にビームの刃を持つビームソードを持ち、
 2名は2丁のビームガンを握っています。

 ビームガン持ち2名は中・遠距離のみならず、
 零距離射撃による近接戦闘も考えられます。

 【火炎】系列、【痺れ】系列などのBSが予測されます。

・『博士』
 仮面で顔の上半分を隠した2、30代ぐらいの鉄騎種男性です。
 生命流転晶やパワードスーツを開発した張本人であり、今回の事件の大本といえます。
 当シナリオ中随一の実力者です。

 パワードスーツに身を包み、両手でビームソードの二刀流、背中にレーザーの翼を生やしています。
 天井にある生命流転晶から生命力を吸収しており、【再生】【充填】相当の能力をパッシブで持ちます。
 生命流転晶が破壊されればこのパッシブは失われます。
 当然弱点なので、『博士』も攻撃を受けないように工夫するでしょう。


 神攻、防技、抵抗、命中、EXFが高め。
 HP,APは基本値は並みですが、前述のパッシブの関係上、意外と高めです。

 手のビームソードによる近距離攻撃は
 【火炎】系列、【凍結】系列、【呪い】を与える可能性を持ちます。

 背中の翼はレーザーによる遠距離攻撃を試みてきます。
 【毒】系列、【足止め】系列を与える可能性があります。

●友軍データ
・『優心雷火』アルブレヒト・アルトハウス
 前回のシナリオにて皆さんの説得を受けた青年です。
 当シナリオにおいて、リアさんはアルブレヒトを現場に同行させるかどうか選択できます。
 選択しない場合はリプレイ中では基本的に登場しません(後日談を書く余裕があれば少しは登場するかもしれません)

 参加させる場合は【痺れ】系列、【火炎】系列を使う近接~中距離レンジのアタッカーとなります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <総軍鏖殺>この命が生きるのならばそれがいいのだからと完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年11月16日 23時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る想いは
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ


 恰幅のいい男が2人、入り口を固めるようにして立っているのが見える。
 その姿を、ずっと遠くより見据えるのは『天空の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)だ。
 スコープ越しに見る2人の男は此方に気付いた様子もない。
「――狙いは1つ」
 狙撃手は静かに撃鉄を起こす。
 音もなく放たれた死神の弾丸は、見張りの頭部を全く同時に撃ち抜いた。
 崩れ落ちる2人の見張りを支えたのは『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)だ。
「気づかれるわけにはいかないよね……」
 助けるためではなく、物音に気付かれないための処置である。
 2人を横たえた焔の横を、『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)が抜けて行く。
 静かに開いた扉の先を真っすぐに見据えて、正純は引き絞った弦を手放した。
 放たれたるは熱砂の嵐。
 室内にて暴れ狂う暴風に室内から怒号が轟いた。
「やれやれ、お客様にしては少々元気がありすぎではないかね?
 もう少し慎みというものをだね」
 穏やかな声がして、弾丸が熱砂を貫いてこちらへ。
「申し訳ありませんが、人の命を取引する輩にかける情けはありませんので」
「ほほう? どうやら店違いでもなさそうだね」
 正純の言葉に、紳士然とした男が小さく笑う。
 落ち着いた様子は只者ではないことの証左だ。
 あれがドミニクか。
「カチコミたぁ、良い度胸じゃねえか!」
「うっさい!!」
 剣を抜き、どすの効いた声で迫りくる男へ、『玲瓏の旋律』リア・クォーツ(p3p004937)はドロップキックを叩き込み。
「あたしがサポートするから、皆は全力で戦ってね!
 早くここを片付けて、アルブレヒト達と合流しないと!」
「もちろん、全力だよ!」
 跳ねるように走り抜けた焔はビームソードを握る男へと突っ込んでいく。
 炎を帯びた音速の刺突が苛烈に攻め立て男を後ろへと吹っ飛ばした。
 進路上に合ったショーケースの硝子が音を立てて割れ、中身が散乱していく。
「どうせ儲けの種になってんだ、売人も博士と一蓮托生なのは自明!
 なら博士を逃がしたり小細工始めたりする前に、全員殴り倒してやらねーとな!!」
 そう続ける『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)のナイフが走り、ドミニクの頬を浅く切り裂いた。
 傷とも呼べぬそれは、牽制の一手。
「うーむ、素晴らしい。手際が良い事ですな」
 ぱちぱちと手を叩いて拍手しながら、カウンターからこちらに向かって出てくれば、注意を引けたことは間違いあるまい。


 仄暗い路地裏に一見すると何の変哲もない扉がある。
 静まり返った扉の向かい側、壁に付いた錆はその形状から血痕だと想像に難くない。
『貴方の命は貴方だけのものではないわ。
 その事を考えて動きなさい』
『……別に貴方の事を心配している訳じゃないわ。
 貴方にはまだ成すべき事があるから、それを忘れてもらっては困るというだけだから。
『――いいわね!』
「……ええ、シスター。アリカのためにも、俺はここを生きて帰る」
 そう呟いたアルブレヒト。
 この場所に来る前に、リアから言われていた話を思い出していたのだろうか。
 その姿から視線を外して、『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は扉の方を見た。
「鍵開けは任せたよ!」
「……は、はいなのです」
 2人の――より正確には『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)の方を見て言うと、こくりと頷いた彼女は扉の様子を確かめる。
「メイ様、ワタクシも補佐します」
 そう言って『水底にて』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は傍らに立って扉の様子を見る。
 ――かちゃり、と微かな音がたつ。
 聞き耳を立てていてもほとんど聞こえないほど微かな音を立て、鍵が開く。
「開いたのです……なるべく音を立てずにそーっと……」
 メイはドアノブを回して引っ張った。
 立て付けの悪そうにも思えた扉は、思いのほか軽く、静かに開いていく。
 中に足を踏み入れれば、常夜灯にもにた薄暗い光が室内を照らしている。
 薄暗い空間の中、真っすぐに床から天井に向かう筒のような何かが幾つもあった。
 その形状が分かるのは、その中を満たす緑色の液体が微かに発光しているからだ。
「うげ、この緑色のなに……? 実験台とか?」
 シキが近づいてみれば、それの中には人影がある。
 顔にヘルメットのようなものを被せられたナニカが、緑色の液体の中に浮かんでいる。
「なんですかこれ。液体の中に、何かいる。気味が悪いです……」
 そう呟いたのはメイだ。
 こぽり、こぽりとマスクの端から零れる水泡が生きていることは伝えている。
「おや? 見学の方ですかね? そのような約束はなかったかと思いますが」
 3人以外の声が唐突に響いた。
「これは貴方がしたものですか?」
 ヴァイオレットは声の方を辿るようにして声をあげる。
「ふむ、ご存知ない、ということは約束をしてはないのでしょうが……」
 顔を上げ、ようやくそこに立つ人物と視線が合う。
 若々しさと声色から察するに2、30代であろうか。
 仮面で顔の上半分を隠すその姿。
「……『博士』」
 そう呟いたのは最後尾にいたアルブレヒトだ。
「――おお、君は」
 手を叩いて思い出したように笑った博士は、不思議そうに首を傾げる。
「――なるほど、剣呑な様子、どうやらお客様ではないようだね?」
「貴方が『博士』ですか」
「いかにも? ここでそのような敬称付けは私ぐらいでしょうな」
 ヴァイオレットの問いにからりと笑い、博士は後ろに下がっていく。
 そのまま、闇に消えるように姿を消した。
 走り寄ってみれば、穴が一つ、ぽっかりと開いている。
 梯子があるのを見るに、飛び降りたか。
 ふと激しい音を壁ごしに感じてそちらを見やれば、ドアが1つ。
 聞き覚えがある声がするのを見るに、あちらには仲間達がいるのだろう。
「……罠の匂いしかしないけど……いくしかないさね!」
 まずシキが飛び込んだ。
 それに続くように、3人も続いて飛び降りて行く。


「……うむ、ただの賊ではなさそうですね……」
 シキは、着地と同時にその声を聞き、立ち上がる。
 数歩前に進めば、直ぐに博士の姿が見えてくる。
「元来命はめぐるもの。だけど、こんなやり方で巡っていいわけない。
 ……誰も犠牲にすることがなかったのなら。救えた人もいるかもしれないのにね」
「事実、私のおこぼれを貰って永らえた命があるのでしょう?」
 多分に嘲りの籠った声で、博士が笑う。
「それでも、もう二度と罪なきものの命が消えない為に。
 ――砕いてあげるよ」
 静かに、シキは愛剣を構えた。
「それは困りますねェ!」
 レーザーの翼が展開して、光を放つ。
 それと同時、天井から強烈な緑色の閃光が放たれた。
「あれが生命流転晶ですか? いのちを、集めた輝き……」
 照らされた戦場を見上げて、メイが言葉に漏らす。
 煌々と輝く、翠色の巨大な水晶。
 美しくけれど酷く悍ましい――そんな輝きだった。
「なんですか、あの輝き……俺は、あんなものを知らない……」
 アルブレヒトの震える声がした。
(アルブレヒトさんが持っていたのは、彼の片手に収まる大きさだった……)
 見上げたソレとは到底同じとは思えないほどに、彼が持っていたのは小さかった。
「これを、何のために使うつもりだったのですか?」
 メイはそれをを問わずにはいられなかった。
 輪廻を捻じ曲げてでも、何をするつもりだったのか。
 きっとそれは、お姉さまだって問うたであろうこと。
「何、と言われましてもねえ……
 人間の願う、ちっぽけな願いなんてたかが知れているでしょう?
 特に、命を扱うのなら――」
「……ご自身の不老長寿、でしょうか」
 博士の返答を繋いだヴァイオレットに、博士が露出した口元に笑みを刻んだ。
「生命流転晶による再生……他者の命を使い、生き永らえようとするその様
 正しく使えた筈の技術で……命を売り買いし、己が利己を満たす様……」
 それは正鵠を射ていたのだろう。
 ヴァイオレットはその変化に静かに視線を向けて魔術を行使せんとする。
(『他者の命を他の者へ移す』。ただ徒に奪うのではなく、他を生かす技術。
 或いは……正しき使い方が成されれば、多くの悲劇は生まれなかった筈です)
 ヴァイオレットは法の断罪者ではない。
 正しき執行者でもない。
 ただ、利己的な裁量を以って、己が判断で悪人を殺す者だ。
「――嗚呼、安心しました。
 今度こそ……殺しても何の良心も咎めない悪人(同類)に出会えた……」
 故に、その言葉は酷く落ち着いていて、安堵にも似た声色だった。
「実験を始めましょう!」
 恍惚に、博士が笑ってレーザーの照準がこちらを向く。
「――させない!」
 シキは博士と他の3人の射線上へ飛び込んでいく。
「勝ったら命でもくれてやるから、私だけ見てろ!」
 振り払った剣は博士によって止められるが、それでいい。
 視線がシキへと注がれ、ビームソードが尾を引いて軌跡を描く。
 ヴァイオレットがそれを防ぐように立ちまわれば、続けてアルブレヒトの雷光が迸る。


 戦いはイレギュラーズの有利に続いている。
 奇襲より始まった戦闘はもともと少なかった数の差を一気に逆転させている。
「まさか零距離射撃は自分達だけの特権……だなんて思ってないでしょ?」
 圧倒的な速度を以って、ジェックは男の懐へと潜り込んだ。
 男の両手にはビームライフルが2丁。
 目を瞠り、銃口をこちらへと向けるその間に、こちらは既に銃口を心臓部に突きつけていた。
「は、はえぇ!?」
「遅すぎるよ」
 零距離より放たれる鋼鉄の弾丸が火花を散らして男の心臓を貫通する。
 覆らぬ有利を見定め、リアはそれまで補佐に徹していた分をも込めて、星鍵を握る。
「命までは取らないわ――」
 放たれる剣は流星の如く。
 見惚れるほどの流麗な動きを以って放たれた刺突はドミニクの身体を貫くように走り抜ける。
 壮絶なる一撃がドミニクの胸部にじっとりとした赤黒い点を描く。
「足しにされた『命』の中で、てめぇらにくれてやっていいモノはひとつとしてねーんだ!」
 ドミニクのビームライフルを躱して、サンディは身を屈めた。
 その手に鞭のようにしなる刃を抱き、魔血の斬撃を以って撃ち抜いていく。
「くっ――老体に少々無礼ではないかね!」
 猛攻に次ぐ猛攻を受けて、疲弊するドミニクが微かに膝を落とす。
 その隙に焔は走り込んだ。
「まだ死なれると困るから、少し眠ってて!」
 カグツチの先端が穂先のような形状から球体へと変質するのと同時、一気に踏み込んだ。
 刺突が伸びて、ドミニクの鳩尾辺りを貫いた。
「ごっ!?」
 吐血が散り、膝が落ちる。
 死んではないだろうが、継戦は出来まい。


「今の鉄帝じゃ……そいつをつぶさにゃ、『弱者』は生きられねぇ!
 だから、ぶっ潰すぜ、そんなモン!!」
 地上から床をぶち抜くことも考えていたサンディは、その方法を結局取らなかった。
 ――とっても良かったのだが、問題があった。
『気を付けた方がいいと思うね。そのまま地下までぶち抜いたら、下にいる連中がどうなるか分からないよ?』
 ――などと、ドミニクが言い放ったからだ。
 それで仲間が死ぬとは思わないが、最悪それで取り逃がすようなことが起きては問題だ。
 故に結局、こうして下まで降りて流転晶を破壊しようと試みていた。
「させるかぁ!!!!」
 激昂と共に、博士がレーザーを一気にサンディへ見舞う。
「どうして、どうしてこんなことが出来るの!
 やっぱり許してはおけないよ!」
 焔はカグツチを握り締め、一気に前へ。
 鮮やかな輝きを放つ流転晶はそれゆえに多くの命を使ったのだと理解できる。
 殴りつけるようにして刺突を放ち、そのまま博士を吹っ飛ばす。
「人類の進歩には犠牲がつきものだ。
 毒として使えるものは大抵、薬にもなるものだ。
 けれどそれは、人を傷付け命を奪っても良い理由にはならない」
 静かに引き金を弾くジェックの指は止まらない。
 瞬く間に撃ち抜く弾丸は既に幾度も博士のパワードスーツを抉り、削っている。
「不老長寿を目指したいって、それだけならともかく。
 そのために他の誰かに犠牲を強いるなら、アタシは何度だって止めるよ」
「お、おのれ――」
 苛立つように、博士が身体を動かす。
 パワードスーツの破損が多く、その動きは鈍っていた。
「どのような目的でも他者の命を弄ぶことは言語道断。
 ましてや、弱者につけ込みそれを成すなど許せません。
 ここで終わりです」
 弦を限界まで引き絞る正純の視線は砕けるパワードスーツを見据えていた。
「つけ込むなんて、失礼な。
 私は、ただちょっと力を貸してあげただけですよ」
「――その口を閉じなさい」
 怒りで振るえる声を落ち着かせながら、正純は静かに博士を狙う。
 まずは一発。
 放たれた熱砂の嵐が砕けたパワードスーツの内側へと入り込み、更なる動きを阻害していく。
 続けるように、弓を天井へ。
 真っすぐに打ち出された矢は流転晶目掛けて走る。
「く、そ、そうはいくか!」
 それを阻むように博士が飛び込み、矢は彼の身体を苛んだ。
「誰にも、誰かの命を奪う権利はない。
 そうね、これはあたしのエゴよ。
 だから他の人のエゴを否定するつもりもないわ」
 言いながら、リアは2種の治癒術式をアルブレヒトへ注ぐ。
「あなたも、ここまで来たら、最後まで自分の役割を果たしなさい!
 でも危なくなったら、あたしの後ろに来なさいよ!」
「――あ、あぁ」
 叱咤するようにそう言えば、アルブレヒトが頷いて立ち上がる。
 握りしめた拳で、彼が前へと走り出すのをリアは見届けながら次を狙う。
「――お、おぉぉ!!」
 天を仰いだ博士の全身が翠の光に包まれていく。
 それを塗り替えるような雷光が奔る。
 雷光――アルブレヒトの一撃に博士が体勢を崩した刹那。
「――そう、これはワタクシのエゴです」
 ヴァイオレットは小さく声にして、爆ぜるように一撃を見舞う。
 短剣を手に、一気に駆け抜け、肉薄とともに心臓辺り目掛けて突き立てる。
 押し立てる呪いは侵略の如く爆ぜ、博士を吹き飛ばす。
「できるなら静かに終わらせてあげたかったけど……」
 愛剣を握るシキの手に力が籠る。
 ヴァイオレットに阻まれた博士はもう生命流転晶を守れまい。
(覚悟はしてきた。たくさんの命を奪う覚悟と、それを一生背負い続ける覚悟)
 ――私の覚悟で足りるかは、わからないけど。
 全身をめぐる魔力が、剣身へと集束する。
(――これ以上、誰かを悲しませるわけにはいかないから!)
「――ここで、砕け散れ!!!!」
 振り抜いた剣身から、輝かしき魔力が奔る。
 その瞳の色にも似た美しき魔力は水晶へと吸い込まれるようにして飛んでいく。
「や、やめ、やめてくれ!! やめろぉぉぉ!!」
 博士の絶叫が響いた。
 ――魔力が溶けて行く。
 そうとしか見えなかった光景が、水晶の内側へと揺蕩い、やがてひび割れを起こす。
「あ、あ、あぁぁあああああああ!!!!」
 叫ぶ、叫ぶ、その声が、全く間に『老いて』いく。
 しわがれ、掠れ、潰れ、そうして――最期には、消えた。


「……貴方の命は、とっくに尽きていたのですね」
 メイは静かに言葉に漏らす。
 あっという間に朽ち果てた『ソレ』を見下ろし、小さくそう呟いて、葬送の鐘を鳴らす。
(助けられなくてごめん。砕いてしまってごめんね。
 あの売人や博士に君たちの命を好きに使わせなかったことを…せめてもの弔いにさせておくれ)
 ぱらぱらと、砕けた硝子が落ちてくる。
 それを見上げながら、シキは黙して祈り続けた。
 乾き切り、命を使い果たした『ソレ』を見下ろしていたサンディは、視線を砕け散った水晶に向ける。
 歩み寄りそうになった足を抑えるように、サンディは身を翻す。
「この話は、ここで終わりだ。それでいいんだ」
 ――砕け散った欠片を、拾おうなんてことを思う前に。
 足早に歩き出す。
「――愚かな選択だったよ、キミも」
 ジェックは静かに『ソレ』を見据えて小さく声にした。


 事件は終息を見た。
 戦いの後、イレギュラーズは焔主導で建物の中に合った流転晶を破棄してからその場を出た。
 ついでにヴァイオレットの提案で博士の研究の詳細を見た。
「……まさか、あの小さな生命流転晶が『吸い込んだ命を少しずつあの大きな流転晶に保存する』物だったなんて」
 ぽつりと焔は呟いた。
 アルブレヒトも持っていた生命流転晶は、長期保存できない仕様だった。
 ――というのは正確ではなかった。
 保存した生命力を少しずつ本体に貯蓄する、言うならば集積装置が小型の流転晶だった。
「でも、これで終わりだね」
 そう言った焔はぽつりと呟き、ある場所に向かっていた。
「リアちゃん!」
「焔……!」
「アルブレヒト君の様子を見に」
「あ、ああそういうこと」
 リアが視線を巡らせた先にはアルブレヒトの姿がある。
 何かを見て唸っているようだ。
「アリカから初めての手紙が来てね。将来、病院を開きたいんですって」
「そうなんだ。じゃあ、アルブレヒト君はどうしてあんな風に唸ってるの?」
「アルブレヒトのやつ、商売を学びたいんですって。
 ――この国中に散らばった残りの流転晶を全部回収するために。
 回収して、その人達を治療するのが、兄妹での夢みたいね」
 そういうリアの表情は穏やかな物だった。

成否

成功

MVP

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮

状態異常

なし

あとがき

大変お待たせしました、イレギュラーズ。

PAGETOPPAGEBOTTOM