シナリオ詳細
<総軍鏖殺>シグナルレッド<獄樂凱旋>
オープニング
●
「いーい? 君たち」
男は其の麗しい顔に柔和な笑みを浮かべて、彼らを見た。
可哀想な彼ら。破壊衝動を持て余し、檻の中にずうっと入れられてた子たち。
殆どの拘束は外してあげたけど、彼らにはまだ、手の拘束がある。何事も用意周到に、念の為を重ねておくに限るでしょ?
「僕の指示はただ二つ。まず一つは“大暴れしてきて”。其の為なら何人殺しても良いし、誰を傷付けても良い。そして――」
「“俺は革命派だ”と言え、だろ?」
俺は殺し足りねえんだ、何でも言うさ、と男は言う。
其の男は嘗て数十名を殺して収監され、死ぬまで……死んでも檻の中にいる事を決定づけられていた。だが今は違う。この目の前にいる優男が鍵をかちり、と手枷に嵌めてくれさえすれば、自由の身として――これから幾らでも、殺して良い。
「せいかーい。そうです。はい、僕たちは?」
「革命派!」
「偉い偉い。じゃあ、手枷を外すからね」
僕に攻撃したら死んじゃうよォ?
なんて言いながら囚人の手枷を一つ一つ外していく男を――かつて衝動に駆られて人間を殺めて来た者たちが狙わない訳などない。
まずはこいつだ、と腕を振り上げた、前科数犯の男は――
「ほら、駄目って言ったでしょォ」
――腕が軽い事に気付いて、不思議に思った。
いやに軽いな、と腕を下ろしてみると……二の腕から先が“斬り飛ばされたように消えていた”。どばどばと血が流れ、男の中で時間が止まる。
ガルロカは、いつの間にだろう。抜いていた剣をぴっ、と振る。血が飛び散る。汚いなァ。君たちの血はとても汚い。こんなのを斬らされちゃう剣が可哀想だよォ。
「う、うあ、ああああ!?」
「――みんなもこうなりたくなかったら」
男の頭……髪を鷲掴みにして、はいお手本、とぐいと前に突き出しながら、優男――ガルロカは笑顔を浮かべる。
「僕の言う事を、ちゃんと聞く事ォ。ね?」
――すぱん。
戦力外となってしまったら仕方ないね。
両腕を失ってしまった可哀想な男の頸を、ガルロカは綺麗に刎ねてみせるのだった。
●
「どういう事ですか!!」
ばん、と机を叩く音がする。
ミセス・ホワイトは動揺していた。耳に入ってきた情報を信じたくなかったが故の、一瞬の癇癪だった。
――ラド・バウが革命派に狙われている?
――何故、どうして!?
――革命派が此処を狙うメリットとは、何です!?
あらゆる疑問が彼女の内を駆け巡って、そうして何も出来ないまま喉の奥へ降りていく。冷静にならなければ。動揺しているのは、きっと誰もが同じなのだから。
……ラド・バウ闘技場内ならば、まだ対処が効く。まずいのは――ラド・バウを目指してきた民たちが其の“革命派”に出会ってしまった時の事だ。
そうなる前に策を講じなければならない。まずは戦える者を出来るだけ外へ出し、前線を押し上げる事。そうして出来る限り避難民から“革命派”を遠ざけ、そして撃破する必要がある。
――いいえ。
ミセス・ホワイトはきつ、と視線を強くする。派閥など、今は関係ない。
「……革命派であろうが、何処の派閥であろうが――このラド・バウは無辜の民の安息の地。決して侵させる訳にはいきません。何をぼさっとしているのですか! こういう時のイレギュラーズでしょう! 闘士にも出撃を命じなさい、此処で立ち竦む暇は一時たりともありません! 早く!」
革命派かどうかは後から洗い出せば良い事だ。
「このアタクシがいる限り、……ラド・バウの民に手は出させないわ……!」
己は無力だと、ミセス・ホワイトは知っている。
この動乱の最中、“査問委員会常任委員長”という肩書がどれほどすかすかなものなのかを、彼女は知っている。
だけれど。だからこそ。
ラド・バウを“最も冷静にみられる立場”にいると己を鼓舞して、ミセス・ホワイトは動くのだ。感情に流されまいとする彼女は、かつて闘士の妻として生きた強い女性としての姿を見せていた。
●
――避け切れないときは、迷わず受ける。
彼は、“妙に鋭い武器”を持った男の剣を受けながら……反芻していた。
――相手を、よく観察する事。
剣を弾き、再び向き合う。
男が大上段で斬りかかって来るのを、彼は数歩後ろに下がる事で避け……男が“無意識に庇っている”脇腹へと突きを繰り出す。
「がっ……!!」
突いて、其のまま横に薙いで斬り払う。
彼は――ガシュカは、今は一人の闘士としてラド・バウを護り戦っていた。
「うっ、わああ!!」
傍で戦っていた同僚の闘士が、得物を弾き飛ばされる。
ガシュカは咄嗟に彼の首根っこを引っ張って、今にも斬りかかられそうだった彼を死線から引き剥がす。
「……お前、まだ、動けるか?」
戦い漬けで巧く言葉が紡げない。
牽制のように己の剣を向けながら、ガシュカは同僚に問う。
動けるならば使い道はある。彼らに。彼らにどうか、届くように。
「あ、ああ、なんと、か!」
同僚の男は気丈に頷いて見せる。俺、脚は速いんだ、と笑う彼は……膝が笑っている。怖いのは同じだ。俺も、お前も。
「銀の森へ行け」
「へ」
「ローレットだ、……早く」
長々と喋っている暇はない。ガシュカは同僚の首根っこを解放すると、男へと身を低くして斬りかかった。
――俺に合った、戦い方。
――多分こうして、速攻を仕掛ける事。
教わった事を噛み締めるように、一つ一つ思い返す。
そう、そうして誰もが言っていた。かいつまんで言うなら……“命あっての物種”だと。
「わああ、ああああ!!」
同僚が“怯えたふりをして”逃げるように銀の森へ走って行くのを聞きながら、ガシュカは剣を振るう。
其れを……ガルロカは、後方で見ていた。
――僕を視認して、怒らないでいられるなんて。成長したねェ、ガシュカ君。
――僕もわざわざこんな木っ端ちゃん達に武器を貸してあげた甲斐があるってものだよ。
――さァて。どこまで耐えられるかな? まだまだ僕の“剣”には、ストックがあるよ。
――“駒”にも、ね。
- <総軍鏖殺>シグナルレッド<獄樂凱旋>完了
- GM名奇古譚
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年11月14日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
――ばちん!!
まるで何かが弾けるような音がして、男の手から剣が跳ね上がり、知らぬ方へと飛んでいく。
「くっ、そ……!」
「ヒャッハ!! とったァ!! やっぱ最後は……直接斬るのがキモチイイよなあ!」
男は――ガシュカは、襲い来る刃の痛みに耐えようと目をぐっと閉じた。
其の刃が遥か彼方の魔種へ届かなかった事を、僅かに呪いながら――
「さっせねー!!! 其の戦い、ちょいーっと待ったあ!」
だから、響き渡った少年の声に思わず目を開いた。
此処に少年の闘士がいる訳はないのだから。――いや、いる。少年はいる、『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)は其処にいる! イレギュラーズは、銀の森からやってきた!
「弱いところを穿つのは、確かに作戦として成り立つが――けれども。罪には罰を。最も重き罰を。即ち、――“死すら生温い”!」
真紅の翼をはためかせ、『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)が大鎌を振るう。其れは見えない波。生きているだけで罪であると裁定し、存在すらも揺るがし否定する。
囚人たちは神秘の攻撃に対する術を持たない。何か己の中に波が走ったかと思うと、まるで深淵に取り残されたかのような心地に襲われて、思わず悲鳴をあげた。
「このラド・バウにはたくさんの人が身を寄せている……そんな所を襲撃するなんて、ヒトとしての風上にもおけないな」
『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)がガシュカを庇うように立つ。今のうちに、と目配せを受けて、ガシュカは素早く剣を取りに走る。
――彼らは革命派だ、と、ラド・バウからの使いは息を切らして言っていた。
果たしてそうだろうか? 本当に? そんなことがあれば、各地に散ったイレギュラーズの仲間から知らせが来るはず。何か裏があるのではないか……そんな疑念がヴェルグリーズの心を曇らせるが、しかし。今はこの囚人たちを対応せねばならないだろう。
「ガルロカ様ァ! こいつらもやっちゃって良いンすよねェ!?」
「ああ、勿論だよ。ちゃちゃっとやっちゃってよォ」
「――ヴェルグリーズ!」
「ガシュカ殿!」
二人は奔り、接敵する。衝撃波という選択肢をまずは殺し――ガシュカが一閃、囚人に向かって薙いだ。其の剣筋の曇りのなさに、ヴェルグリーズは僅かに目を瞠り、そして笑む。
其の一撃を避けてみせた囚人に、今度はヴェルグリーズが仕掛けた。運命は崩落する。血液の色した滝のように! すぱん、と綺麗に刻まれた傷から、血が流れ出す。
「レイア 後方 任セル」
「はい。そちらもどうかお気をつけて」
『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は前線に出て、仲間たちを癒す。
イレギュラーズが来るまでと鼓舞されながら戦い続けた闘士たちはボロボロだ。後方を任されたレイア――『青薔薇の奥様』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)は彼らを集めるように、声を上げた。
「皆さん、こちらへ! 前線は私たちに任せて下さい、避難民の方はどうなっていますか!?」
「避難してきた市民は闘技場の中に入れてある! 危なかった………俺達がやられたら、中に入られるところだった」
「――ならば此処を維持すれば良い訳ですね?」
「ああ。この戦線さえなんとか出来れば……」
「します。何とか、します。其の為の私たち(イレギュラーズ)です!」
「ふゥん」
ガルロカは囚人たちに攻勢をかけるイレギュラーズを見ながら、退屈そうに溜息を吐いた。
戦いはギリギリが面白いのに。圧倒的に強い駒がこんなに来ちゃったら、退屈になっちゃうじゃないか。でもなァ。僕が出るのもなァ。其れは其れで、“強い駒”が出る事になっちゃって、退屈だよね?
「――ガルロカ!」
だから、これは魔種にとって歓迎すべき事態だった。
『ラド・バウB級闘士』冬越 弾正(p3p007105)は特殊兵装“平蜘蛛”を剣と変え、ガルロカへと斬りかかる。
……ガルロカものろまではない。腰に佩いた無数の刃の中から一つを無造作に選ぶと抜き払い、その動作一つで弾正の刃を弾いて見せた。
「やあやあ。ちょーっと手駒の数が足りなかったかな? もうちょっと沢山連れてきたらよかったかなァ」
「守りが足りなかったと? なるほど、お前は守られて高みの見物を決め込むのが好きか」
「好きだねェ。僕、楽なトコロにいるのがすっごく好きィ」
「其の剣(ちから)も、他人から奪った借り物なんだろう? 使わないでやるのは可哀想なんじゃないか」
「……。ふゥん?」
ガルロカが初めて、弾正を見た。黒、だった。いや、金髪に碧眼、お手本のような精霊種ではあるのだが――弾正には彼の目が、何もかもの色を混ぜ込んで捏ねたような、黒に見えたのだ。
「弾正。オレは囚人の抑えに回る。構わないな?」
影のように控えていた、角を持つ獣種の男が言った。
ああ、と弾正は頷く。
「怪我で万全の状態ではなかろうが――特異運命座標との協力があればきっと、自慢の一刀両断も光るはず! 兎に角奴らが内部に侵入しないように、何とかしてみせてくれ、スースラ殿!」
「ああ。――ラド・バウの。ビッツの危機ならば、仕方がないな」
――嘗て、“斬鉄”とあだ名された男がいた。
彼は其の鋭い太刀捌きで持って、相手を一刀両断するという“闘技映えする”技に長けていたという。
名はスースラ・スークラ。怪我で引退こそしたものの、其の技にいかほどの陰りもなく。
「貴方は、今回も積極的に介入するつもりはないのでしょうが――」
『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)が、スースラと入れ替わるように影のように立つ。
「其れでも、あなたを野放しにしておくわけにはいきません」
「アハ、ぼくを警戒してるゥ? 別になーんにもしてない、カワイソーなぼくを?」
「本当に可哀想な人は、己を可哀想だとは思わないもの。――そして危険さもまたしかり。本当に危険なものは、己を危険だと誇示しない」
其れがまさにお前だと、『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は刃を振るう。ガルロカは抜いた剣で其の一閃を受け止めて、跳ね上げるように柔らかにかわしてのける。
「ははは! いいよォ、おいでよォ! ちょっとくらいなら、キミたちと遊んであげてもいいかなァって気になってきたァ!」
●
「ガルロカ様から貰った剣を持った俺達はァ、無敵だァ!!」
「やっと出られたシャバなんだ、良い空気吸わせて帰らせて貰うぜ!」
「やらせねーっつってんだろ! こんな大人にはなりたくねえな、全く!」
囚人たちが刃を振るうと、見えない波が洸汰を襲う。幸い貫通するタイプではないようだから、其れを洸汰は幼い身で受け止め、後方を守り続ける。
――少しだけ、信じたかった、という気持ちがある。
魔種に唆されただけで、“悪いにーちゃん達”も本当は傷付けるつもりはなかったんじゃないかって。
魔種は恐ろしいものだ。自分達でもそう思うから、普通の人には本当に怖くて怖くてたまらない存在で、圧に逆らえなかったんじゃないかって。
でも。
この囚人たちは、“喜んで”剣を振るい、斬りかかって来る。まるで其れを待ち望んでいたかのように。だからこそ、彼らには檻が必要で――其の中に入れられていたのだと、洸汰は痛いほどに思い知る。
彼らは怯えて剣を取ったのではない。
喜び勇んで、殺すために剣を取ったのだと。
「――ちくしょう!」
「おやおや? 洸汰オニーチャン、ご機嫌ななめカナ?」
どんっ! どどどんっ、どんっ!
其れはまさに“砲撃”だった。囚人たち目掛けて放たれた火器の輝きは、洸汰の直ぐ傍から。
「り、リコ!?」
「皆ばっかりズルーい! リコも仲間に入れてヨ。楽しそうなのにリコだけ仲間外れなんて、酷いナー」
魔女帽子の下ににやにや顔を隠して。
其のローブの下に、無数の銃火器を隠して、リコと呼ばれた少女は笑う。
「今日は……今日も遊びじゃねーんだけどなー……でも、今日はちょい助かった!」
「ン?」
「向こうとこっちじゃ数が全然違うからな! ありがとな、リコ!」
「……。なーんか、変なノ。別にお礼なんていらないヨ」
「へへっ、そうだな! よし、リコ! 悪いにーちゃん達に、お前の魔法、ドドーンと見せてやろうぜ!」
「……良いの?」
「勿論だ! 遊びじゃねーけど、俺とお前で一緒にドカーン! だ!」
「……えっへへ! じゃあ、容赦なくいっちゃうヨー!」
衝撃波を弾丸で打ち消して。
刃を砲弾でへし折って。
リコは踊る。楽しそうに、少女らしいいとけない笑みを浮かべながら。
「――すごいな」
「ミーナ殿は平気か? あの砲弾、どうやら俺達は狙っていないようだが」
ヴェルグリーズとガシュカが、呆れたように爆裂し始める前線を見詰めているミーナに合流する。
「ん、私は大丈夫だ。そちらは?」
「俺も問題ない。ガシュカ殿は」
「……平気だ。まだやれる」
其の瞳をミーナは見つめる。
ガシュカの瞳は澄み渡っていた。どうやら魔種の気には充てられていない――それもそうだ、ガシュカは現在3人がかりで抑えられている筈だから。
「前線を維持するのは、此処からなら難しくないだろう。だが油断は出来ない」
「ああ。もう少しだ。行こう、ガシュカ殿、ミーナ殿」
ミーナは頷き、ガシュカはフードを被り直す事でヴェルグリーズへの返事とする。
まずはミーナが羽撃いた。乱戦となりかけているなかでは、死神の権能は使いづらい。対単の攻撃がもっとも通るだろう。だから一気に囚人へと距離を詰め――
「罪人には、罰を!」
「うおおあッ!?」
見えざる破壊を一点に集中し、零距離で放つ。武器を持つ手を狙った其れは天空へ軌跡を残し、囚人の剣持つ腕を吹き飛ばした。
「――あああ!? 腕がッ、腕が……!!」
「腕で済んだと思えば安いものだろう? 運が悪ければ死ぬ、其れが戦線だ」
「ガシュカ殿!」
「判ってる!」
ミーナが突っ込んだ軌跡を追うように、ヴェルグリーズとガシュカが走る。
ヴェルグリーズの剣閃が、囚人たちを次々と傷付け、其の身体に不調を植え付けていく。動きが鈍った囚人を斬り捨てるのは、ガシュカの役目だ。
「――ガシュカ殿」
「なんだ?」
背中合わせに互いの死角を補い合いながら、こそりとヴェルグリーズが語り掛けた。
此処に“ガシュカ殿の剣はないか”と。
「……其れらしきものは見当たらない。……そもそも、あのガルロカとかいう魔種が俺の剣をそうそう誰かに手渡すことはないだろう」
「其の心は?」
「……囚人たちは、あの魔種にとって捨て駒だ」
「――」
ヴェルグリーズは剣の精霊である。
だから、判る。この剣たちは皆、“誰かに愛された”剣であると。
だが魔種に奪われ、所持され、穢れた手から汚れた手へ渡るうちに、魔剣へと変質してしまったのだと……判ってしまった。
ならば、ガシュカ殿の剣は?
ガルロカが変質させてしまう前に、奪い返さなければ――
「……ヴェルグリーズ!」
は、と名を呼ばれて顔を上げた。
其処には最上段に剣を振りかぶった複数の囚人が――
斬り払うには、数が多い!
「ッ!!」
自らの負傷をも厭わぬ。そうヴェルグリーズが覚悟を決めた瞬間、己の前方に“巨大な何か”が割り込んできた。
――がきっ、がっ、きん!
固いものを叩くような音がする。
其れは決して、無敵の証ではないけれど……其れでもフリークライは、小さな奇跡を用いてでも、仲間を、ヴェルグリーズを庇い通した。
「仲間 護ル フリック 庇ウ」
「フリークライ殿……! 感謝する!」
後詰めの囚人たちを、ガシュカとヴェルグリーズの一閃が薙ぎ倒す。
そうしてフリークライに降り注ぐ、レイアの祝福の光。
「もう、無茶をして……!! フリークライさんだって、無敵じゃないんですからね!」
其れはそっと落とされる、天使の口付けに似ていた。
癒しのお陰で、フリークライの身体に走っていたエラーコードが消えていく。
「レイラ アリガトウ 感謝」
「いえ……! 囚人たちもあと少しです! 皆さん、頑張って……!」
●
「ほらほら、頑張って、だってェ」
魔種は弾正を執拗に狙って剣閃を放つ。
だが其の前にはグリーフがいる。剣閃を受けながらも、妙な手を使わないかと注意深く観察する其の瞳に、嬉しそうに、本当に嬉しそうにガルロカは笑った。
「――今回はどういったご用件でしょうか」
至って落ち着いて、グリーフが問い掛ける。
だが此処は対話の場ではない。グリーフと弾正、ルーキスが一気に“前に出ながら”問う。
「どういった、と言われるとちょっと困っちゃうなァ」
「何を……目的もなくラド・バウを襲撃しに来たと!?」
ルーキスの剣が唸る。ガルロカの剣は其れをまるで繊手のように柔らかく逸らす。掴みどころのない男だとルーキスは直感で感じていた。其れは剣筋にも表れている。いつでも攻撃できる、という体勢を取りながら、しかし攻撃してくる気配がない。
其れを赦す弾正ではない。魔種が持っている剣を弾くように剣を振るい、まず一本奪取する。
ガルロカは素早く次の剣を抜き放つ。囚人に貸し与え、何度か三人と斬り結び、其れでもまるで無限にあるかのように彼は剣を抜く。
「貴様の力は所詮、借り物で偽りだ。貴様自身の力など何一つもない。 ――が、一体何人から奪ってきた?」
「さァ? ぼくってほら、長生きだから。あんまりそういうの覚えてないんだよね」
弾正は音の精霊である己の権能をフル活用して、己を強者と“見せかけて”いる。
此処に集ったイレギュラーズの中でも突出した強者だと誇示する事で、ガルロカはそちらに気を取られているようだった。
グリーフが庇う。ルーキスと弾正が引き付けて、剣閃を結ぶ。
――正直に言おう。相手は強い。
三人がかりでやっと抑えられる相手であり、底知れぬ相手であり、目的もまだ判らぬ。いや、目的は半分判っている、……グリーフは傷付きながらも、徐々に押されて行っている囚人たちを、彼らを迎え撃っているガシュカをちらりと見た。
「ああ、君、ガシュカくんが心配なんだ?」
「ッ」
ガルロカの長い脚がグリーフをしたたかに蹴り付け、反対側からの一撃がグリーフを傷付ける。小さな奇跡がきらり、と身の内で輝いた。
「安心しなよォ。目の前の君たちをさばくことに、ぼくってば手一杯だから。君たちの一人も細切れに出来ないなんて、ぼくもまだまだだなァ」
「余所見をすると、其の首が飛ぶぞ? 精々気を付けろ!」
「わァ怖い! ふふふ、なんだか楽しくなってきちゃった。じゃあ、ちょっと本気を出すね」
ガルロカが、笑った。
じわり……滲むように、毒が染み入るように、其れは広がる。
弾正が、は、と気付いた。 これは――“射程”だと。
「グリーフ殿! ルーキス殿!」
「みなさん、危ないッ!! 避けて下さいッ!!」
後方から、喉をからすようなレイラの注意が飛んだけれど――あァ、駄目だよ。“もう遅い”。
上空から現れた影のような獣の牙が、三人を ばぐん! と噛み砕いた。
「……楽しかったのはホントだよォ? 本当に楽しかった。とっても。……だから、今度はちゃんと、“ぼくが”来るね。其の時は、皆でぼくに挑んでね? 色んな質問にも、応えてあげなくもないし。お話も、いっぱいしようね? ふふふ、ふふふ。 ガルロカくんはいいなァ。こんなにたくさんのお友達に恵まれて」
●
――弾正が目を開くと、曇り空が広がっていた。
身体中が痛い。まるで竜巻の中に放り込まれ、放り出された後のようだ。
「弾正 気ガ付イタ?」
「……フリークライ殿」
「ガルロカ 撤退シタ ミンナ 仲間ノ安全 優先」
「申し訳ない、……魔種を取り逃してしまった」
「仕方ねーって! 追撃されたら危なかったけど……なんかニコニコして去って行ったぜ、あの魔種のにーちゃん」
不気味だよな、と洸汰が言う。
どうやら戦闘は一段落付いたようだった。レイラが結界を張り、場を清浄にしてくれているお陰だろうか。何かが染み入るような、あの時のような不気味な感触は消えていた。
「……あれに、俺もやられた」
傍に立っていたガシュカが呟く。
情報提供が足りなくて悪かった、と呟き、……少し思い出したのだと。
「あいつは剣だけで戦っている訳じゃなかった。俺も其れを知らないで、剣で挑んで、……其れで、あの獣の顎のような一撃を受けて……“ガシュカ”を奪われたんだ」
「ガシュカ殿……」
「……思い出すのが遅くて、悪かった」
「――ガシュカさんの所為ではありません。其れにこれはある意味、収穫でもある」
グリーフはまだ、眼を閉じたままだ。
痛みを堪えて身を起こしたルーキスが呟く。
「相手の手をまた一つ、引き出せたと思えば――立派な収穫ではありませんか? 我々には次がある。ガルロカは言っていました、「次は“ぼくが”来る」と。ならば今度は、――今度こそ、相手の手を全て引き出し、撃ち砕き、そしてあの魔種を討ち取るのです」
「……ルーキス殿の言う通りだね。決して成果がなかった訳ではない。囚人たちに貸与された剣も回収してある。解析すれば何か判るかもしれない」
木箱に座っていたヴェルグリーズが、けれど、と続けた。
「魔剣の類に変質しているかもしれないから、下手には触れない……研究者に預ければ、或いは」
「其の剣なんだが」
ミーナが負傷者の手当てを終えて合流する。
そうして言った。一人の闘士が剣を持って行った――と。
●
「全く、人使いの荒いマダムもいたものじゃ。僅か数分でこの剣を解析しろと言う」
「貴方なら出来ない仕事ではないでしょう? 其れとも、其の身体を作り替える事が出来たのは奇跡か何かだと?」
「……余り頭にくることを言わんでもらいたいのう。これはワシの立派な研究成果。この魔剣のような偶然の産物ではない」
「……詳しく聞きましょう」
窓から外を見ていた白衣の夫人は、振り返ると白衣の老人へと向き直る。
「まず、これは後天的な魔剣じゃ。或いは元は聖剣と呼ばれたものもあったかもしれん、強い力を持った剣じゃ。其れを魔種が持ち歩く事で徐々に汚れが溜まり、結果として魔剣と成ってしまった。一度インクを垂らした水を、もう一度透明にする術は?」
「……ありませんね」
「そういう事じゃ。もうこの剣は“魔剣でしかない”。じゃが、生まれた経緯は全くの偶然じゃろうな。で? どうするのじゃ、この魔剣を」
「……常人でも扱える魔剣にコンバートする事は出来ますか?」
「ほう?」
「勿論、誰に支給するかは此方が決めますが……ただしまっておくにも危ないものならば、いっそこの動乱で擦り切れるまで使うのが良いでしょう。ただし、副作用があるようならば即時破壊します」
「……本当に、貴様も人使いが荒い。其れをワシにやれというんじゃな?」
「そうです。勿論アナタには拒否権がありますが」
「――行きがけの駄賃、ある意味憂さ晴らしじゃ。いいさ、やってやろう。……貴様もただの鉄の女かと思ったが、成る程? 悪知恵の働く所もあるのじゃな」
「……」
「はっはっは! そう睨むでない。これも“責任”……ワシにもワシの事情があるからな」
そうして老人は臆することなく“魔剣”を手に取ると、部屋を後にする。
夫人は再び背を向けて……少し眉を顰めると、窓を開け放った。
戦の香りばかりが漂うこの闘技場だが、其れでも、悪しき物の香りが残っているよりはマシだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
囚人は全員倒されましたが、魔種ガルロカは撤退しました。
さて、彼の目的は既に判っています。
判らないのは手段だけ。
……彼の手には、一体いくつの剣が握られているのでしょうね?
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
ラド・バウに再び脅威が迫ろうとしています……
●目標
囚人を斃し、魔種ガルロカに肉薄せよ
●立地
ラド・バウ闘技場周辺です。
戦える者しかいませんので、遠慮なく戦って頂いて大丈夫です。
●エネミー
囚人(妙に鋭い刀や剣を持っている)x10
ガルロカx1
またしても魔種ガルロカです。
彼と彼が従える囚人たちは“革命派”として、ラド・バウを襲いにやってきました。
囚人たちは妙に鋭く、遠距離まで届く衝撃波を放てるようないわゆる“魔剣”の類を所持しています。
刀剣持ちばかりだからと遠距離戦に持ち込むのは逆に悪手かも知れません。
●EXプレイング
闘士の関係者がいる場合は、其の闘士についてEXプレイングで行動を書いて頂いても構いません。
他にも何か提案がある場合などご利用下さい。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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