シナリオ詳細
<総軍鏖殺>声なき祈りに救済を
オープニング
●鋼鉄の意思
「人間が世相を変えるのではない。
――法が世相を変えるのだ」
と、『惨禍』デリザ・ヴェッツ卿は呟いた。
その、彼の屋敷内、礼拝堂の屋上。
硝子で作られた屋根の下には、無数の『人間だったもの』が転がっている。
残酷なのは、それらがまだ、生きていることだ。
到底人間と呼び得ない姿になっても尚、彼らは、生命活動を維持している。
「……あぁ。良い出来だ。これなら、土地を、民を、守れる……」
デリザはそう呟き、人間だった者たちを寄せ集め、創り変えていく。
骨の密度を、皮膚の厚みを、幾人分も重ねより強靭に。
人間と人間を混ぜ、他の生物で接ぎ、歪め、噛み合わせ、捻り、次第に一つの形に。
外道の行いだ。
だが、デリザは何一つとして「殺めて」はいない。
この非道な行いを、それでも手を血に染めずに許しているのはひとえに、アーカーシュから発見された遺物『創造主の手(ハンダス・シェッファー)』と、その技術をモノにした天才『技術屋』オーフェン・グラッツの力によるものだ。
デリザ・ヴェッツ卿は階段を降り、礼拝堂の屋上から地上へ戻る。
礼拝堂の中央には、巨大な岩が佇んでいた。その岩が、デリザ・ヴェッツ卿の手にしたろうそくを見て、低い唸り声を上げる。
デリザ・ヴェッツ卿は蝋燭の明かりを消した。そして、月の光を浴びる化け物を眺めた。
「アインツ」
そう呼ぶ声は、親しみに近いぬくもりを帯びている。
「君が一人目だ。……これから、どんどん、私たちは強くなろう。大切なものを、守るために」
●技術と鋏は使いよう
「いやぁ……。アタシじゃ思いつかねェなぁ、こんなひでーの」
オーフェンは、両手に装着していた『創造主の手』を取り外し、どさりと椅子に座った。
「思いついても口に出さねえ。口に出してもやろうと思わねえ。やろうとしても……、こんなにむごたらしいのは、ねぇだろうが。人間の仕業じゃねぇ」
かつて牧歌的な生活を送っていた村人。だったものの残骸、あるいは新たな化け物を眺め、オーフェンはやるせないため息を付いた。
「何を引き換えにしてでも、何度失敗してでも立ち上がる。デリザさまには頭が下がるが、なァ……」
嫌味には違いない。だが、デリザに面と向かって言えるほど、オーフェンは命知らずでもない。
オーフェンは、趣味の悪い毛むくじゃらの化け物の頭を、憐れむように撫でた。
「ごめんな。アタシじゃ、アンタを助けられなかった」
かつては少女だったそれは、悲しげな声を上げた。
●声なき祈りに、救済を
「まぁ、そういうわけです」
ことのあらましを語り、ヴィトルト・コメダは肩をすくめた。
「アーカーシュの遺物『創造主の手』が、動乱の中で技術者もろとも掻っ攫われました。もともと医療目的で運用される予定だったんですが、移動中に襲撃されてしまって……。
手にしたのは『惨禍』デリザ・ヴェッツ卿。かつて過激なまでの強兵策を取り、自身が監督する土地の成人男性の七割を『兵役訓練で死なせた』狂人です。
彼は強固な人間を創り出すことに執心しており、今回『創造主の手』を強奪したのも、この動乱の中で自身の兵力を強化し周囲を制圧することが目的だと思われます。
旧政権ならともかく、今の状況でデリザ・ヴェッツ卿を罰することは難しいので、こちらとしても強硬策に出たいところです」
そう語る彼は、僅かに目を眇めている。
「今回あなた方に依頼したいのは、デリザ・ヴェッツ卿の屋敷に隠された遺物『創造主の手』の奪還。そして、技師オーフェン・グラッツの救助です。屋敷の中にはどんな仕掛けがあるかわかりませんし、彼が生み出した「兵士」たちとの戦闘も予期されます。くれぐれも、ご注意を」
そう言って、ヴィトルトは深く頭を下げた。
- <総軍鏖殺>声なき祈りに救済を完了
- GM名三原シオン
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年11月19日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
『技術屋』オーフェン・グラッツの涙は、とうに枯れていた。
人を癒やすために得た技術は、被検体を「ながもち」させるために用いられるようになってしまった。
「み゛ゥ゛」
オーフェンの足元で、毛むくじゃらの異形が鳴き声を立てる。異形は、オーフェンの足元にすりすりと頭をくっつけてきた。
オーフェンは手をのばす。柔らかな毛並みを撫でながら、目を伏せる。
もとは、歌声の可憐な少女だった。傷を癒やしてもらえると信じた彼女が『手術室』にやってきたときのことは、オーフェンの記憶に焼き付いている。
オーフェンは、乾いた唇を開いた。
「……もう少し、耐えてくれ。……もし、生きてここから出られたら、アンタを、絶対に、治してやるから……」
かつて、自分がこれから救えるはずの人間の数と、これから壊すだけの人間の数を、オーフェンは秤にかけた。
この混乱の中、傷ついていく人々を、『創造主の手』で助けられる。それは自分にしかできないことだ。だから死ねない。
「……泥すすってでも、生き抜いてやる」
唇をきつく噛んだとき、礼拝堂屋上の部屋の扉が、鈍い音を立てて開いた。
現れたのは『惨禍』デリザ・ヴェッツ卿だ。
黒い陰鬱な影が人間の形を成したような死を帯びて、彼はそこに立っていた。
「グラッツ。今日の成果は」
いつもの問だ。
「地下礼拝堂の人々の精神が、もう持ちません。情じゃなくて、利害の話です。遺物で肉体を作り直しても、精神が壊れてしまっては、自動人形の兵士にしかならない。アインツのように、心の傷が肉体の弱点に反映される場合もある。今、門を守らせてる兵士のような連中にしかなりません。もう……やめていただけませんか……」
「……そうか」
デリザは、目をすがめた。
「であれば、精神を頑強にできる技師を攫う」
「そういうことじゃない!」
オーフェンは唇を噛みしめる。
「もう、やめてください! そのやり方で守る国って何ですか!? あんたの守った国に、一体誰が残ってるんだよ!」
その言葉に、デリザの動きがぴたりと止まった。
次の瞬間、けたたましい「兵士」の吠え声が轟いた。
「侵入者か」
デリザは素早く身を翻し、扉から出ていこうとする。
「……ッ!!」
オーフェンは顔色を変えて、急いで扉の方へ走った。
この警報が鳴る時。
それは、自分がこの塔ごと死ぬときだ。
「待っ……」
駆け出したオーフェンの目の前で、扉がばたりと閉められた。オーフェンは死にものぐるいで扉にすがりつき、何度もドアをノックする。
「開けろ! 開けてくれ!! なぁ!!」
だが重たい扉は開かない。
「アタシは、死ねないんだよ!!」
絞り出すようにそう叫んだ時だった。
「もちろんです!」
凛々しい声が、絶望に応えた。
●
ほんの、少し前。
通常であればしないような臭いを、まとめて数種類嗅がされた見張りが、異常を感知しけたたましくアラートを上げた。
一つ一つであればあるいは異臭を検知して確認にいく程度で済んだかもしれない。
だが、鈍化させられた嗅覚であっても、獣臭とアンモニアを同時に嗅がされてしまえば話は別だった。
異様に鼻の大きな、四本脚の見張りが大きな吠え声を上げる。
「失敗だったか?」
「……いえ」
『愛を知りたい』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は、毅然と首を振った。
「成功です」
彼女の視線の先には、『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)が創り出した猫の幻影がある。
見張りの化け物たちは、猫の幻影を追いかけていく。
一方、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は、自らの放ったステルス的二十二式自動偵察機で中の情報を集めていた。
隠蔽工作でうまく隠されたそのドローンに、見張り兵が気付くことはない。
「見つけたっスよ!」
美咲は小声で、『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)に合図を送る。
「こっちの方角に真っすぐ飛んでいった先、ステンドグラスが貼られた屋上のある塔がありまス。きっとそこに、オーフェンさんが」
「了解です!」
ルシアはばさりと、大きく翼を広げた。
その隙を突いて、まるで弾丸のようにルシアが飛び出していく。
「ま、に、あ、えーー!!」
ルシアはまるで流星のように、空を疾駆する。
その視線の先で、ぐらぐらと、礼拝堂の根本がかしいでいる。
高速で景色が視界の後ろへ流れていくその向こうで、女が一人、必死の形相で扉を叩いていた。
声までは聞こえない。だが、その表情は絶望に塗りつぶされている。
「助けに、来たのでして!!」
そう叫ぶと同時に、ルシアは礼拝堂屋上のガラスをぶち破った。
唖然としたオーフェンが、視界にルシアをとらえる。
「あ、あんた、は……」
「質問は後でですよ!」
オーフェンはとっさに、足元にいた毛むくじゃらの化け物を抱き上げた。そのオーフェンごと、ルシアがひっつかむ。
「逃げるの、でして!!」
ルシアは、一気に真上へ飛び上がった。
オーフェンは顔面蒼白のまま、それでも腕の中の化け物をしっかりと抱きしめている。
その眼下で、礼拝堂ががらがらと音を立てて崩壊した。
「……アタシ……助かった、のか?」
呆然と呟くオーフェンの腕の中で、化け物が小さく、鳴き声を上げた。
●
オーフェンが救出されたのを確認し、『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)はぎゅっと手を握りしめた。
「今よ!」
オデットに呼び出された熱砂の精が、見張りをまとめて攻撃する。
見張りの兵たちは、あくまで見張りに特化した存在であるらしく、ろくな攻撃手段を持っていなかった。
オデットの使役する精たちが放つ攻撃を受けても、まともな反撃をしてこない。
「……ひどいな」
その光景に、『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)は目を眇めた。いくらかオーバーキルであることは見えていたが、それでもせめて、楽にしてやろうと、力を込める。
「ケイオスタイド」
放たれた漆黒の泥は、たちまちに見張り兵たちを飲み込んでいく。
「……他の見張りは出てこないわね」
オデットは摂理の視を使い、油断なく周囲を警戒する。
「そうだね」
今の攻撃で、見張りの兵は消えた。
だがまだ次が湧いてこないとも限らない。
「こっちっスよ」
束の間の隙をついて、美咲は一同に進路を示す。
さっき、ルシアを先導した後に、ステルス的二十二式自動偵察機で見つけておいたルートだ。
「もうすぐ着きまスよ……!」
そう警告を出した次の瞬間、先程までの見張りとは別の咆哮が、イレギュラーズたちの耳をつんざいた。
●
その青年の意識は、深く暗く、ぼんやりとした場所にあった。
明るさと暗さの半ば。
そこの奥で、誰かの声が聞こえる。
強くなくては、勝てない。
かなわない。
あれほど強く美しかった『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズでさえ、敗北してしまうのだ。
力のない自分たちに、何が、守れるだろう。
「……あれ」
青年は、ふと、自分の思考に違和感を覚えた。
「何を、守ろうと、したんだっけ」
指からこぼれ落ちたものを、覚えている。
燃える村。決して、もう戻らない日々。
放たれた犯罪者たちによって、またたく間に蹂躙された自分の村。
熱い。
あつい、あつい。炎が身を包む。冷たい血が流れ落ちる。
自分に力があれば、この地獄は覆せたのだろうか。
次の瞬間、青年の耳に、建物が崩落する音が届いた。
●
「……あれが、アインツか」
崩壊した礼拝堂に到着した『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)は油断なく身構えた。
巨大な岩のような形をしていながらも、それは、人間だった。
岩のようにゴツゴツと固くなった肌。膨れ上がりすぎた筋肉。
月の光を受けて立つその異形は、瓦礫の下から、まるで軽い雪でも払うかのようにその姿を表した。
「ユーに会うのを待ちわびてたぜ」
そのアインツの足元に、瓦礫で塞がれた通路が見えた。おそらく、礼拝堂がまともに建っていた頃は地下に続く階段だったのだろう。アインツがその地点から立ち上がらなければ、瓦礫に埋もれて見えなかったに違いない。
塞がれた通路から、誰かが叫ぶ声が聞こえる。
礼拝堂地下に閉じ込められている人間たちが、必死の叫びを上げているのだろう。崩落の影響で怪我をした人間もいるのか、その叫び声は、文字通り死にものぐるいだった。
「っ……!」
超聴力を使っていたココロは、表情を歪めた。
「郷田さん! なるべくアインツを、地下階段から遠ざけてください! 交戦してくださっている間に、救出を続けます!」
「Gotcha!」
短く応え、貴道はアインツめがけて鋭く拳を突き出した。
力強い踏み込みと、逃げ場を与えない拳の連撃。
大蛇槍はアインツの上体を強かに打った。だが、アインツは倒れない。
打撃に耐性があるのか、岩のような大男は、表情ひとつ変えなかった。
というより、何かの思考に囚われているのか、貴道の攻撃を食らって数歩身体が傾いたにもかかわらず、貴道の方を向く素振りを見せない。
「随分頑強な見てくれだな」
ミーナは唇を歪めた。
「それなら、これはどうだ?」
界呪・四象と葬送曲・黒がアインツを狙い撃つ。
「あ゛……ァ?」
アインツはようやく、貴道とミーナの方を向いた。
「熱だ! こいつの弱点は、熱だ!!」
マルクが、声を張り上げた。
モンスター知識を併用しながら、アインツの反応を慎重に見定めていたのだ。
「さっき界呪・四象を食らった時、熱にだけ反応した! 今こっちに気付いたのも、熱の影響だ!」
「そうか」
貴道は、脚に力を込めて深く身を沈める。
「火の一つでも持ってくるんだったか?」
だが、関係ない。
「ミーの殴ったところは全部、弱点みたいなもんだ!」
貴道の放つ拳が、アインツの身体を少しずつ交替させていく。
左胸。心臓がある場所を、幾度も、幾度も殴打していく。極められた内臓破りの一撃は、決して軽くはない。
貴道の攻撃に合わせるように、オデットも陽光の恵みで攻撃を行う。
「地下の人を、早く助けないと……!」
陽光の恵みをくらい、アインツの上体が揺らぐ。
「ア゛……?」
意識を取り戻したアインツが、拳を振り上げて貴道に狙いを定めた。
そこへ、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が素早く回り込む。
「こっちだ!」
アッパーユアハートで、アインツの意識はより鮮明なものに戻ったのだろう。
自分を挑発するように動くエッダに、怒りを込めた打撃が振り下ろされる。
真っ向からの一撃を、エッダはずっしりと受け止めきった。
「ぐっ、う……!」
唯一の成功作の名は、伊達ではない。
意識を持っていかれそうになるのを、自ら鼓舞するように踏みこらえる。
「ァぁあああああ゛ッ!!!」
決して後ろへは抜かせないように、黄金の雷に包まれたエッダが立ちはだかる。
「見事っスね、エッダ氏」
彼女が身を挺して生んだ時間を、美咲は無駄にはしなかった。
貴道が幾度も打撃を加えていた箇所めがけて、アナイアレイト・アンセムを叩き込む。
「……信じられるでありますな、美咲嬢」
エッダの唇に、僅かな信頼の笑みが浮いた。
「回復します!」
エッダの咆哮をきいたココロは、すかさずフェニックスを発動させる。自らの力で踏みこらえているには違いないが、もう一撃喰らえばどうなるかわからない。
「フェニックス!」
炎の治療術式が、エッダを包み込む。ココロの術が起こした熱に、やはりアインツは戦いた。
エッダは踏みこらえ、アインツを見据えた。
「……今」
唇のはしについた血をぐっと拭う。
「今、楽にしてやる」
その言葉に、アインツの攻撃が一瞬緩んだ。
「ま、も……」
鈍い声が、その唇からこぼれる。
その隙に、ミーナがフルルーンブラスターを叩き込んだ。
界呪・四象の効果を保ったまま、これまでにアインツが攻撃を受け続けて来た左胸をぶち抜く。
その一撃を受けて、ついに、アインツが、がくりと膝をついた。
「……まも、って、くれ」
低い声が、イレギュラーズたちの耳に届いた。
「……何?」
ミーナが、攻撃の手を止める。
アインツの上体が、大きな音を立てて地面に倒れる。
「俺の、村、を……」
切れ切れに紡がれるアインツの言葉に、ココロが思わず口を覆った。
「この人、まだ、意識が……」
彼は、アインツという名を与えられた。
だが、ただの青年に、過ぎない。
自分の生まれ育った村を守りたいと、誰より強く願っただけの、青年だった。
「…………あぁ、でも」
アインツは、笑った。
否。変貌した皮膚のせいで、表情はよくわからない。
だが確かに、彼が笑ったのが分かった。
「――もう、みんな、焼け落ちちまったんだった」
それがアインツの最期の言葉だった。
●
ココロは、アインツの治療を試みた。
敵であっても生かすと、彼女はそう決めていた。
だがアインツの命を、つなぎとめることはできなかった。
本当の名前すら口にできないまま、アインツに変貌させられた青年は、命を落とした。
「……私、は……」
人々の声に、ココロは顔を上げる。
治療が必要な人々に、マルクが幻想福音で回復を施している光景が、目に入った。
「安心して。もう大丈夫です」
その言葉に、地下から救出された人々が、自分の命があることを喜び、泣いていた。
「他に人はいない? 精霊さんたちも、手分けして探して」
そう助力を乞いながら、オデットも地下に閉じ込められた人々の救助を続けている。
自分で歩ける人々には、美咲が気配遮断を付与し、安全な場所まで警護していく。
救い出された人々の中には、四肢の一部を失っているものもいた。実験のために奪われたのだろう、傷はまだ新しい。
「……ひどい」
そう呟いたココロの隣に、ミーナが立つ。
「大丈夫か?」
「ミーナさん……」
「よりよくありたいと願うのは人情だろうよ。でもな……他人の身体を弄くり回すのは、間違いなんだよ。何度も見てきた」
ココロは、こくりと頷いた。
「これは、残虐にして命を愚弄する所業です。想像したくもない」
アインツのために、ココロは祈る。
せめてその魂が、安らかであるように。
「任務は、ここでおしまいです。オーフェン・グラッツさんも、地下の人々も、救えました。……だけど」
祈りの手は、真っ白になるほど、きつく握りしめられる。
「わたしは医術士を目指してから、敵であっても生かすようにしてきました。賊であっても、殺人鬼であっても、クズと称される外道でも」
そう口にするココロの目には、これまでになかった決意が宿っていた。
「デリザ・ヴェッツが生きている限り、苦しむ人が増えるでしょう。……私は、彼を殺します」
ミーナは同意するように頷いた。
「そうだな。……ヤツには、罰が必要だ」
「ミーも同意だぜ」
貴道が、深く頷いた。
「ここで地獄に叩き落とすのが世の為人の為ってもんだ」
そこへ、ルシアが合流する。
「遅く、なりまして……!」
「ルシアさん」
「オーフェンさんの説得に時間がかかりまして……! 戻って地下の人たちを助けるって言い張って聞かなかったです」
その言葉を聞いて、エッダが眉をしかめる。
「自分のしたことを、彼女は理解していたでありますか」
エッダは苦々しく呟いた。
「……勝てないなら死ねばよかったんだ。今更、何を助けるというんだ」
「それ、で!」
ルシアは、屋敷の方角を指差した。
「オーフェンさんを抱えて逃げる時、この建物から離れる男を見たのでして! きっとデリザです!」
ココロは、毅然として、その行く先を見据えた。
●
結果は、惨敗だった。
すでにアインツとの戦闘で消耗していた状態で挑んで、敵う相手ではなかった。
情報も、攻撃の体力も、何もかもが足りなかった。
『惨禍』デリザ・ヴェッツは、地面に倒れたイレギュラーズたちを見下ろした。
何の感情も宿さない。ただ、観察するためだけのまなざしだ。
「……そうか」
その唇が、動く。
「いい学びだ。均一化された屈強な個を集めた軍隊の強さとは違う。多様性があるがゆえの、強さ」
黒い衣に身を包んだデリザの顔を、ミーナはまっすぐに見据えた。
感情の抜け落ちた顔。ヒトの皮をかぶった、妄執。
「……覚えたぞ、その顔……」
そううめいて、ミーナは意識を失う。
「ま、て……ッ゛!」
濁った怒鳴り声をあげて、ココロは、デリザを引き止めた。
動かぬ脚に無理やり力を込めた。つま先は、床をすべるばかりで前へ進む力を与えてはくれない。
それでももがいたココロの手は、デリザの足首を捕らえた。
「あなたを……! 逃がすわけには、いかない……!」
その手を、デリザは振り払った。
「私には守るべきものがある。貴君らに、付き合う時間はない」
デリザが、トドメの一撃を放つ。
ココロの意識もまた、闇に飲まれていった。
オデットは、空でじっと、息を殺していた。
人々の避難を助けて戻ったときには、すでに手遅れだった。
足の下に広がる凄惨な光景や、変貌させられた人々の姿が脳裏をよぎり、オデットは唇を噛んだ。
「……異常よ」
オデットは、決して感情的になることは選ばなかった。
そして、デリザの向かった先を、じっと見据えていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加ありがとうございました!
大変遅くなってしまって申し訳ありません……!
守るべきものを、無事に守りきることができました。
依頼は成功です。
救えないものも、討てないものも抱えて、次へと向かっていく力になればと思います。
GMコメント
お読みくださりありがとうございます!三原シオンです。
マッドな領主が自分の領土の人間たちを古代技術で化け物に変えています。
古代技術を奪い返し、無辜の人々を、非道の手から救い出しましょう!
今回のシナリオは、以下の1点が特殊です。
必ずご確認ください。
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●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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■シナリオ背景
鉄帝国は非常に広い国土を持っています。
そのため新皇帝となってから発生しはじめた暴徒や魔物達の襲撃に喘ぐ街や村が多く存在します。
今回は、アーカーシュの機動力を生かし、『惨禍』デリザ・ヴェッツ卿の治める町へ向かうこととなります。
●依頼内容
以下の2点を、『惨禍』デリザ・ヴェッツ卿から奪還すること
・アーカーシュの遺物『創造主の手(ハンダス・シェッファー)』
・天才技師『技術屋』オーフェン・グラッツ
●フィールド
デリザ・ヴェッツ卿の館が今回の舞台となります。
正門→礼拝堂の順に進み、奪還を目指すことを推奨します。
▼正門
見張りの兵が絶えず辺りを警戒しています。
騒ぎにならないよう、うまくやり過ごしましょう。
▼礼拝堂
巨大な神の像が立つ美しい建造物です。
が、扉を開けると中は、デリザ・ヴェッツ卿の創り出した化け物が佇んでいます。
▼礼拝堂屋上
遺物『創造主の手』を身につけた『技術屋』オーフェン・グラッツが閉じ込められています。
天井は硝子張りとなっています。
また、今回の依頼内容には含まれていないのですが、礼拝堂の地下には、これから兵士として『創り直される』予定の人々が閉じ込められています。
中にはすでに体の一部を創り変えられる過程で怪我を負った人もいるようです。
●敵
・『惨禍』デリザ・ヴェッツ卿
会敵しようと思わなければ直接出会うことはないでしょう。
もし戦いを挑む場合は、近接物理高火力アタッカーであることを念頭に置いてください。
・見張りの兵
それぞれ、「聴覚」「視覚」「嗅覚」を尖らせるよう「創り直された」化け物が、3体1組になって門の周りを徘徊しています。
少しでも異常を感じれば、大音量のアラートを上げ戦闘が開始されます。
侵入者が探知された場合、礼拝堂は崩壊します。『創造主の手』は無事ですが、崩落の影響で『技術屋』オーフェン・グラッツが死にますので慎重に行動しましょう。
・礼拝堂の化け物
現状唯一の成功作である化け物『アインツ』が佇んでいます。
硬い装甲を持ち、強靭な膂力で侵入者を迎撃しますが、彼は唯一の成功作であると同時に「試作」であるため、弱点が存在しています。
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