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シナリオ詳細

<最後のプーロ・デセオ>勲詩なんか望まない!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


『オレニカマウナ』
 人としての自分をなくしても、なお消えぬ執着、願い。
『俺に任せて先に行け。先に先に先に進め勧め勧め歩を止めるな――』
 誰しもが英雄になりたい。
 そこは死地でなくてはならない。仲間の一人や二人はすでに死んでいなくてはならない。決して戻れる絶望に彩られていなくてはならない。
 その中で自分は不敵に笑うのだ。そして、目の前の強敵を仲間たちにひた隠しにしていた力を開放させてしれっと倒し、先に行かせた仲間の窮地を救う。
 人知れず実をさらう英雄。勇者のように表に出ることもなく、だが最強。そういう夢を見ることがそれほど罪だというのだろうか。

 そこは、インス島。ダガヌ神殿に至る道程。
 邪心の神力による時空のゆがみで、侵入者は日頃ならば思いもかけない欲望を喚起される。
 こんな場所に気さえしなければ、生涯本人も気が付きはしないほどの、わずかな夢想に悪意のスパイスと曲解の膨らし粉を混ぜ合わせて焼き上げ、臓腑が焼けるカラメルソースをぶっかけたような甘美な地獄だ。

 かつて、そんな所にありえない不運によって五体満足でたどり着いてしまった稀有なる者達がいた。
 彼らはそれぞれの理由で邪心に立ち向かい――あえなく終焉を迎えた。
 彼らの魂はとうに消え去ったが、この地は欲望を手放しはしない。
 不確かな輪郭を永劫にとどめているのは幸いであろうか。
 それも邪心の泥から生まれた怪物にとっては取るに足らない命題だ。
 呑み込んだ。目に余る貪欲。
 消滅を体内に感じながら、己に満ちる力を怪物はさらに求めた。


「あっちこっち大変なんだよ」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、何やら匂いのきつい茶を飲んでいる。医療系スキル持ちは胃薬と見当がついただろう。
「え~と。局面としては最終段階です。ここでこけると大変なことになるますのできっちりやっていきましょう。ここから作戦の説明に入るので全員意識を飛ばさないように。デヴシルメは意識がある間はこっちをどうこうできないからな」
 現況を招いたのは、ダガヌの力によって変異した、新型肉腫:『瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)』である。人を、意識がない状況で操るデヴシルメを利用し、シレンツィオ連合軍の情報を得ていた。
 デヴシルメに寄生されるのは、総じて、悪意はなく、まったくの善人であるのがたちが悪い。助教方法がダメージを与えて消耗させることというのも忌々しい。罪なき善人を害さなくてはならないストレスは計り知れない。まさに邪神の所業。
「で。竜宮の方は乙姫代理のマール・ディーネー様が邪神・ダガヌの『神核』――これボコったら死ぬ――を実空間に現出させ、短期間ながら海底神殿に縫い付けることに成功しました」
 ここに至るまで、まーる・ディーネ―が払った代償はあまりにも大きい。
「更に、同時に真の力を発揮した竜宮の玉座とニューディは、ダガヌの力(欲望)を『喰らう』ことで、ダガヌをさらに弱体化させることに成功。もう、竜宮は出来ることをすべてやり尽くしてくれた。これ以上は瓦解しかねない」
 だから、と、情報屋は言う。
「今この時、ダガヌが力を存分に使えぬ今こそが、ダガヌを討伐する最大のチャンス――というか、今を除いてダガヌを倒すことは不可能だ。当然、向こうも攻撃は最大の防御とばかりに打って出てきてる。ダガヌチの巫姫は、フェデリア島へと転移。大量のダガヌチを以てフェデリア島を蹂躙し始めた。そして、天浮の里に潜む、悪しき者。欲望という、人の原初の願いより生まれた悪しきものも動き始めてる。それぞれの適性があるから、得意なところでがんばってほしい」


「――という訳で、君らには、インス島のダガヌ神殿に行ってもらいます」
 情報屋が、茶をあおる。
「まず、環境が過酷。踏みしめてるすぐ下は溶岩。そこにいるだけできっつい岩盤浴状態。じわじわ体力やら集中やらが削られるから、対策するように」
 で、時空がゆがんでるから。と、情報屋はさらっと言う。
「欲望を喚起させるような幻影』を見せる吹き溜まりに潜む深海魔を掃討してもらいます」
 インス島はは誘惑する。抗いがたい幻想を見せてくるのだ。
「『吟遊詩人が勲詩を作るような活躍』を見せてくる。その過程がヤバい」
 復唱しろと、情報屋が言う。
「俺よりよっぽど過酷な戦場を知り尽くした諸君。吟遊詩人がお気に召すような戦場ってのは基本泥沼戦況からの大逆転だ。つまり、誘惑されると「つい」戦況が泥沼になるように行動してしまう。前衛は打ち込みを一回少なくし、かざす盾が中途半端で、癒しを上級から中級にランクダウンし、急所から一センチ横を刺し貫く。戦う意思がなくなるんじゃない。すごく勝ちたいがそこに至るまでドラマを欲しがるようになるんだ。ポーカーでずっと手札交換したいと駄々をこねる子供みたいなもんさ」
 よく覚えていけよ。
「それと、わざと自分でダメージ食らって機器を演出するってのも考えられる。明らかに避けられる敵の太刀筋に飛び込んでみたりな」
 自分から、俺はもうだめだ演出をしようとする。狂気の沙汰だ。
「そんで、実際そんな劇的な大逆転が起こるか? んな訳ない。ジリ貧になったら負けるんだよ。そもそもかなえてくれる奴なんていやしない。ただ、いいよね。って聞こえるんだ。なんでそうしないのって。君ならきっと活躍できるのにって。何の根拠もなくな!」
 復唱しろ。詐欺です!
「だから、全力で戦わざるを得ないよう準備してってくれ。装備とかスキルとかAP大盤振る舞いになるだろうから注意してな。その状態でも戦闘は本気でできる。ただ、より劇的になるようについセーブ気味になる。そして逆転の機運などなくそのままずるずる負ける」
 イレギュラーズよ。邪神の祝福濃き土地に巣くう誘惑をはねのけ、きっちり深海魔共にとどめを刺せ。前のめりに!

GMコメント

 田奈です。
 誘惑に負けずに堅実に勝利を目指してください。

敵:深海魔・レーテンシー×1
 巨大なオオムガイ型深海魔です。殻にこもることで高い防御力を発揮し、カウンター魔法を用いて【棘】効果を自らに付与します。また、その頑強なボディを回転させながら突進するなどの攻撃も可能です。長期戦になればなるほどこちらが不利になります。

 精鋭なディープサハギン×3
 こんなところまで来たディープサハギンなので雑魚ではないです。
 トライデントが上等になっていますが毒がしたたり落ちていることに変わりはありません。
 彼らは、『レーテンシーを守り切り、華々しく散る』ことに酔っています。

 フォアレスター×たくさん
 半魚人型深海魔です。首から上に魚がまるごと乗っているような造形をしており、人間と同じく武器をもって戦います。他のネームドのような特殊な個性をもちませんが、武器の持ち替えなどによって様々な状況に対応します。槍衾やら何やらで多勢に無勢という絶望的な状況を演出してくれる一方、契っては投げさせてくれる劇的状況も演出してくれます。

場所:インス島・インス島のダガヌ神殿・礼拝堂前
 むき出しの地面からは地熱が上がってきています。長時間とどまっているとなんらかの支障が発生するでしょう。氷系魔術などで発生した氷雪も効果時間が半減します。
 広さは30メートル×30メートルはありそうな前庭です。障害物は端の方に名状しがたきオブジェが並んでいますが直視はしない方がいいです。
 誘惑:『ヒロイックな活躍がしたい』――がために、「今は雌伏の時だ。ここぞというときに一撃で決める!」と戦況をずるずる引き延ばしてしまいます。具体的にはBS判定します。
 そして、ここぞの時は来ず、大量のAPとうたれなかった大技と共に地面に沈むことになります。

「対策しないと、全力を出せずに終わる戦場」と思って下さい。

 *選択できるなら、効果が少ない方を選ぶ。
 *全より範囲、範囲よりも単体を選ぶ。
 *何なら通常攻撃する。
 ――などの弊害が発生します。状況に応じてスキルを使い分けるはAP消費の少ない方を選びます。戦う意志が減ることはないので、各自対策して下さい。

●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
 この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

  • <最後のプーロ・デセオ>勲詩なんか望まない!完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月03日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

リプレイ


「戦いを泥沼化させてくる誘惑ね……へんな誘惑だな……非戦クラスの俺が戦いに手を抜いた程度で戦いが泥沼化するなら全力だしても、出さなくても泥沼化しそうなんだよなー。まあ、ほどほどに頑張っていこう」
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)、緊張しすぎることも弛緩しすぎることもなく中庸であれ。歴戦の勇士の見解は至極全うである。
 泥沼になる訳がない条件から泥沼化する過程で「誰かが手を拭いているのではないか?」と誰かの頭にそれは芽生える。
 その誰かが他ならぬ自分であることに気が付かない。自分は「英雄的戦略」に従って行動しているのだから。英雄のように。より英雄のように。

「あっついですわね……私は鉄騎だからまだ平気だけれど、マリィは大丈夫ですこと? 一応、お水を持ってきてあるけれど」
 『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)、恋人への気遣いを忘れない。
「ありがとうヴァリューシャ! 私も軍人だよ! 訓練は受けてるから平気さ! 後でお水頂こうかな!」
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は笑顔で応じた。
 じゃあ、後で一緒にいただきましょうねと言葉を交わす。
「帰ったら皆でプリンの祝杯だな!」
『ゼリーのライバル』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)、百合に挟まる男は死罪だが、男じゃないし、プリンのことしか考えてないので見逃してあげてほしい。
「感じる、感じるぞ! とても良いカラメルのオーラを!」
 妄執の煮凝りに気が付いたというのか。他人の不幸は蜜の味である。まして焦げ付いたとあれば至上の美味だろう。概念的な意味で。現品はない。ないったらない。
「つまり……この場にお宝カラメルが眠っていて、あの魚達より先に手に入れろと言う事か!」
 まったくもってそんなことはない。蜃気楼を追う所業。酒屋で勝利の美酒(概念)を探すにさも似たり。
「任セロ! 最高のプリンノ材料ヲ手に入れるノハ、オレ達だッ!!」
 マッチョだけなら、妄想乙で済んだ。
「なるほどです、プリンの材料……それは少し気になりました。事が終わったら探してみましょう」
『誰かと手をつなぐための温度』ユーフォニー(p3p010323)は、きっと見つかります。と、確信を持っているようだが、こんな世界のどこに卵牛乳砂糖があるというのだろう。あったとしても、絶対生産元をトレースして後悔する奴だ。
「誘惑に負けるな、か」
『玲瓏の旋律』リア・クォーツ(p3p004937)は、けだるげに言った。
「そんな簡単に誘惑に負けられるのだったら、色々苦労はしてないっての」
 衝動に身を任せるというのがまず無理。そういう生き物だから。
 ヒトは時には誘惑に突き動かされた方がベターじゃないかという局面があるが、発生以前にフラグがへし折れる。
 貧乏くじを引きがちな人生。群を抜いたクール系お人好しだからね。仕方ないね!


 礼拝堂の前庭。
 靴底を溶かしかねない熱さと浦々と上がってくる不快な熱気。息苦しさにおぞましい生き物の周期が混ざる。
巨大なオオムガイ。ひげのような足がわずかばかりのぞいている。その前に三体の半魚人・サハギン。こんなところまで来てしまった狂信者だ。
 あるいはこの場の誘惑に飲まれ、なお生き残っている傑物であるともいえた。
 更にその周囲にひしめくフォアレスター。頭部が魚のそれと置き換わっているならまだ理解できた。しかし、魚そのものと置きかわっているのだ。顎髭のように尾びれがビチビチと動き、イレギュラーズを魚眼にとらえようとしきりに体をくねらせる。忙しい頭部と違って、戦士然とした人の体の方はそれぞれ槍を握り締めている。
 夜明けに見る悪夢のような光景だ。
 リトルワイバーンの背に乗った沙耶とユーフォニー、地上に陣取るヴァレーリヤとマリアは、それぞれ携えていた「乙姫の口づけ」を発動させた。
「これが、彼らへのダガヌの加護かしら? ちょっと勿体ないけれど、仕方ありませんわね」
 ヴァレーリヤは感謝をもって精一杯の助力を受ける。
「軍人である私に遊びはないよ。一瞬でAPを削り取ってやる!」
 マリアの恐ろしいところは、敵を死に体にすることに非常に長けている点にある。
 今、彼女の狙いはレーテンシー一択だ。
 その固い殻よりさらに強靭な鎧を現出化させ身にまとう。深紅の鎧に孕んだ雷が小さくはぜる光に、マリアの髪と肌をきらめかせる。
「ヴァリューシャ!」
 異世界からやってきたマリアがここまで苛烈に戦うのは、ヴァレーリヤのためだ。一から十までヴァレーリヤのため。
「私はいつだって君にかっこいい所をみせたいんだ! だからちゃんと見ておいてね!」
 マリヤの欲望は、たった一人に収束している。ゆえに、全力が大正解なのだ。
 ディープサハギンを飛び越えて、空中からレーテンシー目掛けて電磁レールを敷き自分を弾丸にしてぶちかます。
 回避手段が想定できない必中の一撃。当たり所が悪いと同じ衝撃がさらに続く。
 レーテンシーの殻が帯びた魔力障壁が受けた報復攻撃がマリアを襲う。
「頑丈? 棘? 私にそれらは無意味だよ!私は非力故棘の効果は薄く、我が雷撃は君達がどれほど頑強でもたとえ物理・神秘を無効だろうと!それを貫き君達の魔力(AP)を焼き尽くす!!!」
 リソースを削って無力化する。それがマリアの戦い方だ。
「おっまたっせいたしました。攻撃開始でございますわっ!」
 邪悪な溶岩を帯びた大地に突き立つ聖なる炎の壁。
 炎をまとったメイスを振りかぶり、突撃してくるヴァレーリヤが大きく息を吸い込んだ。
 主よ、もし聞こし召すならば、ご照覧あれ。あなたのしもべは今日も目を奪われるほど果敢である。
 跳ね返される衝撃を覚悟し、それでも前に突き進み、敵を粉砕するのだ。
『どっせえーーい!!!』
 双方無傷で済まない全力でのど付き合い。物量と高火力。最後に立っていた方が勝ちだ。
『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)はマナの木の恵みを辺りに振りまいた。
「誰かのために命を賭して盾となりたい。癒せる傷が、救える命があるなら立ち続けたい」
 かつていた女性のに姿として作られた機械人形。
「そして、感謝されたい。必要とされたい。そういった思いがないかと言われれば、おそらく、私の中にも内包されているのでしょう。そうして私自身を必要としてくれる場、認めてくれる方を求めている」
 揺らいでいた自我が戦いの中で少しずつ固まっていく過程にある。ヒトは社会を営む生物である。それゆえ、グリーフの望みはごく相応のものだ。
「あるかもわからない刹那の邂逅を待って歩みを止め、出来ることを成さない先に、そのような都合のいい、花道……というのでしょうか。舞台は待っていないと、私は思います」
 日々堅実に歩んでこそ。と、グリーフは思う。
「ですから、この場においても、私は普段通り、皆さんの盾となり、立ち続け、癒しましょう」
 赤黒く渦巻く雲。吐き気を誘引する熱気。敵が発する絵図いてしまう悪臭。
 それらを、蜘蛛を突き抜け差し込む陽光、暖かな風が洗い流した。
 つかの間の奇跡。しかし、それで戦士は奮い立ち、次なる一撃が振るえる。
「私は剣にはなれませんが、盾にはなれますから」


「ふむ、欲望だと? その程度何の問題もない」
『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)は、それと共存している。
「怪盗であり元報道部である以上、常に欲望とは隣りあわせだからな。情報やお宝に近づけまいか、もっと深掘り出来ないか――でもそのギリギリのところで踏みとどまって華麗にやれるだけやるのがそういうものだろう」
 ギリギリの線を踏み越すことのないように。教会で踊るもののステップミスはあらぬところにつながっているのだ。ウォーカーならわかってくれるよね。
 予告状にでぃぷサハギンの目は真っ赤だ。突き上げられる槍衾。時折かすめ飛んでいくジャベリン。油断も隙もない。
「慎重かつ大胆に、堅実に決めていくのが怪盗やパパラッチというもの」
 一撃離脱。チャンスは刹那。その刹那に音速の刃を叩きこむのだ。
「一度失敗したらもうお終いの冷やつく緊張感の中で戦っている」
 怪盗は捕まれば身の破滅。パパラッチもしかり。フィルムならば敢行され、データなら消去され、永遠に失われる。深入りを望む欲望を理性でねじ伏せられるという自負がある。
「その経験を舐めないで貰いたいものだな!」

 ユーフォニーは、礼拝堂を見回した。
 端のオブジェが気になって仕方がない。
「誘惑と関係あるのでしょうか」
 異形のオブジェ。溶けかけた獣のような人のような生き物が顔をゆがませた像だ。苦悶のような硬骨のような、目をそむけたくなるおぞましい表情を浮かべている。乙女的にはこういう顔を将来的にも顔に浮かべることはない人生を歩きたい。
 よくないモノである気がする。何の根拠もないけれど。
「直視しない方がいいなら目に入らないよう、ささっと壊しちゃいましょう」
 しばらく後、オブジェは礼拝堂から消えた。イレギュラーズが知る由もないが、邪神がヒトにささやきかける概念を中継器のような役目を果たしていたのだ。
「持ち主さんごめんなさい……!」
 ユーフォニーは思わずつぶやいたが、持ち主は――少なくともこの礼拝堂で崇められている者は――別動隊が倒すのがこの作戦の肝なので気にしなくていい。全て不問となるよう邁進するのだ。


「はーいはーい。全力出さないっていうかー、今はこれしかできないからこれをやる気はそがれないっていう―?」
 戦意と装備の最低保証の高次元キープ。高い効果を後に回す誘惑なんだったら、全部気負わないくらいにしちゃえばいいじゃない。
 サイズは、自分の「全力」を封印してきた。最適化されてない装備だし、妖精いないと本気出ないし、妖精郷でも個人目標達成できなかったからどうあがいても自分に活躍は無理! 卑屈一歩手前の自己暗示である。
 さらに、本体である鎌による白兵戦を封印し、謎ユニットをマウントして『魔砲』として参戦することにしたのだ。全力じゃないからどかばき撃てる。
 黄金残響使わなくてもいいのでは? と、ちらとよぎった。
 いやいや、こんなの使ったって大して変わらないんだから「使うべき」だ。
 自分に活躍という晴れ舞台は来ない。モブ。だから、淡々と敵を撃つ。
『用途不明のユニットが接続されました、直ちに使用を中止してください』
 本体の自律システムが警告を発する。気にしない。端末体の引き金を引く手を止めない。ユニットは熱を帯びる。無視。淡々と。淡々と。一体、また一体とフォアレスターを爆散させていく。活躍の場が訪れることはないのだから。文字通り雑魚をどれほどうち果たそうが勲詩になることはないし、それを望んではいないのだから。


 それを作ったことがあるものはみな通る道だ。。焦げたカラメルソースほど始末がめんどくさいものはない。転用手段なし。付着した鍋や器再起させる手間は天井知らず。張り付き、冷やせば固まり、熱すれば焦げる。
「砂糖たっぷり過剰糖分カラメル!」
 マッチョのどこからか湧き出したそれに激しい摩擦。黒い拳圧と共に飛んできたそれを食らったら、もう心が削れ、怒り心頭間違いなしだ。
 具体的に言えば、レーテンシーの頭部にドロドロに焦げたカラメルが拳と共にねじこまれたのだ。ぬるぬるの表面にべとべとと付着する炭一歩手前の黒いべとべと。灼熱の意志材に触れても物ともしないレーテンシーの触手の上でぱりぱりと凝固し始める。肉体的ダメージは微々たるものだ。しかし、心が削れる。どうしてそういうことするの?
 レーテンシーの頭部が殻の中に吸い込まれる。数本だけ残った触手が地面をがっちりつかみ、本体自体は高速で後ずさる。伸びきる触手。視点力点作用点。レーテンシーが機械であったなら駆動音がとどろいただろう。
 狙いはわかり切っている。愛車Caramel★Crunchにまたがったマッチョだ。
「耐える! 絶気昂!」
 説明しよう! マッチョは内気と外気その双方より自身の全てを『修復』するのだ。頭プリンと頭魚が入り混じりもみくちゃになっている。
 しかし、つややかなプリンの輝きは永遠である。プリン配置でもつるんとしてプリンとしている世界最高の存在なのだ。少なくとも。マッチョの頭部はそれゆえにプリンなのだ!
「ええい、そっちに転がりなさいな!」
 ガツンとヴァレーリヤがレーテンシーの回転方向をそらした。より、みんなが一斉に攻撃できるところへ。今ならちょうど――マッチョの真ん前が最善だ!
「混乱するがいい!」
 プリンのバインバイン具合がレーテンシーの軟体心を逆なでする!
「【棘】があって自己回復が大得意なこのマッチョ☆プリンに、耐久が不利な地形も環境も関係ない!」
 タフなプリン頭は、愛車のエンジンをうならせた。


「散ることを夢見るなんて、サハギンさんもここの誘惑に……?」
 ユーフォニーは、雄たけびを上げつつ槍を振り回す半魚人に気が付いた。感じる色は勇壮で少し悲しい。
「敵であっても本当はそんな願い叶えたくないです」
 仲間をよけて複数巻き込んだ中で、とりわけユーフォニーが感じた色。
(もし"そういう"勲詩を望むなら……私の魔力の全てを賭して今井さん(武器)に全力で「彩波揺籃の万華鏡」を放ってもらうこと、でしょうか)
 ふっとよぎる考え。それに魅力は感じない。
(最大威力で魅せるために適正レンジも保って……それだとここは狭すぎますね。対角線や高低差を利用すれば距離の確保もできなくはないですが、30m四方に直径20mの識別無しの広域攻撃。きっと仲間も傷つけます、それはハイ・ルール違反です)
 圧倒的な忌避感。
「この状況、私にとっては勲詩なんて望めない! でした!!」
 誘惑を振り切る。
「でも私は自分の意思でここに来ました」
 照準を叫ぶディープサハギンへ。
「来たからには成すべきこと……その覚悟は、この色に込めて」
 敵であっても傷つけ命を奪うこと…… 自分の行動によるその重み。
 サハギンを貫き、フォアレスターを突き抜け、レーテンシーに至る叫びの色を、ユーフォニーは確かに見届けた。


 当たるを幸い、リアは突貫し続ける。
「あたし、元々燃費がいいからさ、アンタ達が倒れるまで付き合ってあげるわ!」
 流星のごとき一撃が、星鍵であるか収同副殻付きのビルドロップキックであるかなど些末な差だ。どちらも等しく敵を貫くものである。
「道を阻む敵が居るのなら、片っ端から吹き飛ばすわ!」
 有言実行。いつしか数を減らしたフォアレスターの攻撃が減り、回復の手数が減っている。
「お任せ下さい」
 仲間の体力と魔力を支え合っていたグリーフが請け負ってくれる。
「そもそもあたしは英雄なんかに憧れてないしね」
 英雄は有能だが、万能じゃない。
「あたしは、英雄様が世界の為に戦っている間、彼らの気付く事が出来ない小さな旋律に耳を傾けて生きるって決めているのだから!」
 勲詩なんかいらない。
 優しい潮騒が通り抜けていく。レーテンシーの中の何かがマヒした。突進していくリアに向ける棘は持ち合わせていないようだ。魔力の壁が緩んでいる。
「誘惑なんかに負けない、激しく、鮮烈な光ってのを見せてあげる!」
 閃光一閃。
 固い殻が再三の攻撃の果て、ようやく小さくひび割れた。
「中はぶよぶよだな」
「君達の魔力が尽きた時、その身すら灰燼に帰すだろう!」
「皆はAPの事は気にしなくていいからね。切れそうになったら《女神の口付け》で回復してあげるから、思う存分全力でいきましょう!」
 そして、イレギュラーズはその通りにした。
 勲詩にふさわしいかなどこれっぽっちも意識しない、全力速攻なりふり構わず即物的に圧倒的蹂躙だった。


「ヴァリューシャ、大丈夫かい?」
 お水もらえる? と、マリアは微笑む。
「二度と悪用されないように、破壊しておきましょう」
 ええ。と、マリアに水筒を渡し、もう一仕事とヴァレーリヤは立ち上がった。
 礼拝堂は信仰の城と見つけたり。壊す。戦術適地も戦略的にも信仰的にも完膚なきまでに壊す。
「いつかまた、復活しないとも限りませんものね」
 自らの信仰の深きがゆえに、邪心の徒の再起の芽がないと断言できない。ゆえに潰す。縁は潰す。
「カラメルの気配は消え失せた」
 この地から誘惑は去ったのだ。
 残念。とマッチョは言う。そうですね。と、ユーフォニーも残念に思った。
「考えたんですけどね。私にとっての一番の勲詩は、早く帰ってドラネコさんたちとたくさん一緒に過ごすこと、ですっ」
 目的を果たし、無事に帰る。それこそが、最も大事なことなのだ。
 邪神礼賛の場は崩れ、さあ。と、場違いに涼しい風が一陣吹いた。

成否

成功

MVP

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。思った以上の力押し。礼拝堂まで完膚なきまでに破壊。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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