シナリオ詳細
<最後のプーロ・デセオ>螺旋のインサニア
オープニング
●
「つづり」
名は言霊。宿るその意味は、寂寞と焦燥。少女の唇から毀れ落ちた名はかたわれを呼んでいた。
豊穣郷カムイグラよりシレンツィオリゾートへ視察とバカンスを兼ねてやって来た『双子巫女』は予想外の未来へと行き着いていた。
ひとつのたましいをふたつに別ち、忌むべきとさえ囁かれていた巫女の娘はその命までもが別たれぬようにと手を繋いでいた――筈だった。
「どこ、行ったの」
何時だって、手を引いてくれていたのは彼女だった。
そそぎ――
名前を呼んで、花瞼を伏せってから可笑しそうにころりころりと鈴鳴るように笑う彼女。
姿形は似ていても、心の中までは映し鏡にならなかった愛しいかたわれが、異郷の地で姿を消してしまったのだ。
つづり(p3n000177)が姿を隠して随分と時が経った。ひとつ、ふたつと眠れぬ夜を過ごしていたそそぎ(p3n000178)の耳に入ったのは第一次インス島攻撃作戦の終了と、二次作戦の移行への戦況変化。
つづりと共にそそぎが行なった巫女としての仕事は、豊穣が勘案した竜宮への防護壁の展開である。
美しき人の都。人が生きるが為に築かれた欲の都――『竜宮』。異郷でありながが豊穣の文化をなぞるように存在した神社での儀式で出来うる限りの魔物達を却けられないかと考えていたのだ。
その全てを達成する事は無くつづりが姿を消してしまった。
水竜より脈々と続き満ち溢れた生命の路。それは豊穣郷でも『神逐』の際に霊脈の浄化の儀を行なった経験を生かし、つづりが提案した防護陣の展開術式である。
当時、カラカサと呼ばれた男に拐かされていたそそぎにとっては素知らぬ術式をつづりは優しく、丁寧に教えてくれた。
白い指先が陣を砂の上に描く。ビーチの柔らかな砂の上に敷いたレジャーシートが埋もれてしまうほどに前のめりに膝を立ててその教えを眺めていたことをつづりは覚えている。
まずは、こう。
くるりと円を描いてから、土台を作る。
それから、こう。
土台の中に書き込まれる黄泉津の文字は、古くから伝わっていたものだった。
何処で教わったの、と問い掛ければささめきごとのようにつづりは黄龍さまたち、と四神の名を指折り数える。
「覚えた?」
「覚えなくても、つづりがいるし」
「ううん、そそぎ一人になるかも」
「そんなこと、ない。セイメイに文句言うしかないでしょ、そんなの」
「セイメイはつづりとそそぎは一緒って行ってたから、わるくないよ。でも、なにかあるかもしれないし」
「なにもない、風牙にも抗議する」
「悪くないよ」
「愛無にも、クレマァダにも」
「皆悪くない」
いじっぱり、と頬を突いたつづりにそそぎは負けじと頬をぷうと膨らました。
酷い事を言う『かたわれ』にムキになってしまったのだ。人工のあかりも、痛いほどのまなざしに濡れたおんなの唇も、慌てふためき「早い」と叱り付ける声も、ふたりで初めて見たものだった。
二人で一緒。もう二度と別たれてなるものか。手を、離さないでいて。大切な、大切な――
「そそぎ、つづりが見つかった」
緊張を孕んだその声音は新道 風牙(p3p005012)のものであった。常磐色の眸は不安を揺らがせ、槍を握る指先にも力が籠もる。
「本当に!?」
立ち上がったそそぎを宥めるように恋屍・愛無(p3p007296)はその背を撫でた。
「深海の動乱はまだ続いている。どころか、再度の攻勢に転じるらしい。攻め時を見誤らぬようにとのことだろう。
つづり君が見つかったのは、その戦場の只中……いや、こう言った方が分かり易いか。そそぎ君とつづり君が目を付けた霊脈の近くだ」
どくり、と血液が体内に異様な速さで流れ出す感覚をそそぎは覚えた。足元に全ての血液が落ちて行き、頭の中が空っぽになるような感覚。
視界を覆い隠すような暗澹たる闇の名前をそそぎはよくよく知っている。絶望、と呼ぶ恐ろしき存在だ。
「……え?」
引き攣った声だけが毀れ落ちる。内臓を掻き混ぜられたかのような不快感に吐き気がする。
戦場に、大切なあの娘が――?
「助けに、いかなきゃ」
「待て」
「でも、」
「違うんだ。そそぎ。……つづりは霊脈を壊そうとしている。『けがれ』を流し入れて、竜宮に悪影響を企てようと」
「つづりがそんなことするわけが――!」
――ううん、そそぎ一人になるかも。
白んだ意識に、声が響いた気がした。かたわれの考えることだもの、直ぐに分る。愛しい唯一の、存在のことだもの。
そそぎは唇をきゅう、と噛み締めた。身体全てに感じた悍ましい震えを払い、乞う。
「つづりが壊すより先に、防御陣を張る。それで、竜宮を護る。
つづりは『そうして欲しかった』はず。皆の話、聞いた。夢遊病みたいになってるんでしょ?
……つづりも、そうだ。誰かに操られてる。あの時とは逆なんだ。私が――」
そそぎは、不安を拭い去るように言った。
「私が、みんなと、つづりを助けなきゃ」
準備をしなくては。霊脈を護って、つづりを助けて。
もう二度と離れないように指先を捕まえていられるように――あの、海の中へ。
●
「みなさんに、手を貸して貰いたいのです」
静かな声音でそう告げたのは『聖女の殻』エルピス (p3n000080)。
シレンツィオ・リゾートの穏やな風を逆凪ぐ悪神ダガヌ封印のための最終決戦。その一端に、立ち会って欲しいのだという。
俯き唇を噤んだままで居るカムイグラの巫女、そそぎは「お願い」と蚊の鳴くような声で言った。西洋躑躅を思わせる髪を結わえていた少女は胸に何時だって牡丹一華を抱いてきたつもりだった。
花が萎れるような心地で、彼女は助けを乞うたのだという。
天浮の里と竜宮の最中、特別な力を有する霊脈。いのちの路の力を駆使して、竜宮そのものをまもる防護陣を張りたいと双子の巫女は考えた。
美しき竜宮乙女、マール・ディーネー(p3n000281)に相談を――と考えていた最中、彼女は危機に見舞われた。
「つづりを、助けて欲しい」
自身のかたわれが姿を消した。探し回るそそぎにエルピスは「わたしも、万葉さんと探していた方が居るのです」と声を掛けた。
「私とエルピスは『雪菜』って亜竜種を探してたの。虚滅種と一緒に姿を消してしまったから。
どうやらね、あの娘も『夢遊病』のような――新しい肉腫の瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)……そんな雰囲気だったの」
『探偵助手』退紅・万葉 (p3n000171)は瘴気ではなくなった亜竜種の娘が悪神ダガヌの影響で新型の肉腫となったのではないかと推測していた。そのかんばせに浮かんだ不安は、新たな肉腫への対処を行わねばと言う焦燥。
「でも、でもね。『瘴緒』は宿主の身体を操るけれど、戦闘不能にさえしてしまえば消え失せるそうなの。
雪菜には悪いけど、一度倒させて貰わなくっちゃならない。虚滅種も、全て倒さなくっちゃ……それでね」
「はい。それで、雪菜さまと一緒に、つづりさまが居る事が判明したのです」
エルピスは辿々しく、そう言った。スピラ・カエルレウムの巫女を名乗った亜竜種の少女は豊穣郷の巫女のかたわれと共に霊脈の破壊を企てているそうだ。
――おひいさまのためだもの。
――すぴらに霊脈のすべてをささげてあげるの。だから、いっしょにね、つづりちゃん。
幼い語調でころころと笑う少女は、つづりの手を引いていた。
霊脈を破壊されてしまえば、地が狂ってしまう。それも、豊穣郷の巫女のせいで。
「余り良いとは言えないわよね。地が狂い、友好国の巫女がその引き金になったなら……。
どんな事情であれど、きっと、良い結果は齎されないもの。これからの未来の為に、おねがい。霊脈を護ってあげて」
- <最後のプーロ・デセオ>螺旋のインサニアLv:25以上完了
- GM名日下部あやめ
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年11月04日 22時10分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●
夢を見ている。
眠りながら、躍り。躍りながら、夢を見る。
微睡みは、心地良い。私達を害為す者も、仇為す者もここにはいない。
つづりは眠り続ける。安寧の淵に凭れ掛かるように吐息に甘い言葉を絡めて。
有りっ丈の希望がそこには満ちた。愛おしい、思いを束ねた私の夢。
此岸ノ辺のおつとめは、双子ではならないと誹られた事がある。
その時、生まれて間もない双子を護ったのは時の中務卿であったと聞いた。
獄人は、虐げても良い存在だとその人は滅多打ちにされて死んだ。
おそろしい。おそろしくて、寒気も走る出来事。
それでも、残して貰った命だから、あの子と二人で懸命に生きてたかった。
手を繋いで、そそぎ。
ずぅっと離れないで居て。
私とあなたはふたりで一つ。
私とあなたなら、この水竜の道を辿って巡る命のゆくさきを手繰り寄せて皆を護れるから。
そそぎ。
そそぎは、きっと困ったように言うよね。別にどうでも良いって。
嘘、嘘だよ。
そそぎは、みんなが大好きだから。
私とあなたで、セイメイも、庚さまも、神使も、静寂の都も護ろうね。
―――――ぽこり、と水泡が立った。
夢を見ていたつづりの手を握りしめたのは、彼女の知らない誰か。
●
「かなしいのは嫌です」
言葉の一つを毀れ落とせば、とくりとくりと鼓動が音を立てた。
リズミカルなそれは伽藍堂の体に巡った感情の漣。濤声は、背を押して『おかえりを言う為に』ニル(p3p009185)に行けと囁くようで。
「だから、ニルはがんばります」
その傍には蒼褪めた表情のそそぎが立っていた。
似通った、同じ顔。ふたりが嘗てひとつであった頃より互いを結んだ緒の先がぷつりと切れてしまったような孤独の縁。
あの日に彼女もそう感じたのだろうか。『今度』は自分の番なのだと不安が宙ぶらりんに揺れている。
「そそぎ君は寓話を読むだろうか。
往々にして『お姫様』というものは攫われるモノだからな。是非もあるまい。今日のお姫様がつづり君なら、そそぎ君は騎士というわけだ」
幼き日に御所で霞帝が聞かせてくれた物語。お姫様を拐かす悪い魔王から助ける王子様のお話。
騎士は遠い異国で剣を構えて姫君を助け出すとそそぎも聞いたことがある。「そうなると僕は馬か?」と唇に含ませて『戦飢餓』恋屍・愛無(p3p007296)は表情にさしたる変化も露わせず、首だけを傾いで見せた。
「見た目は如何にも『あちら側』だが。何にせよ、つづり君を助けるのが、そそぎ君の役目なら、彼女を護るのが僕の役目というわけだ」
「……私、一人じゃ」
無理と紡ぐ前に、その朱色の唇に指先を添えてから『風と共に』ゼファー(p3p007625)は首を振った。銀の色の中に揺らいだ柔らかな縹の色。そそぎは彼女の仕草で揺らいだ色彩が神楽鈴の残す色彩のように見えて息を呑んだ。
「大丈夫よ」
「そうだ、大丈夫だ。……つづり、すまねえな。すぐ助けるから、あと少しだけ辛抱してくれ」
唇を噛めばその部分は白く染まった。『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)の決意と覚悟のように白んだ色はそそぎの目に印象的に映る。
天つ空より飛来した鉱石は研ぎ澄まされたいろをしていた。風牙の戦闘スタイルに良く似合う、軽槍はその細い指先でも容易に握り込むことが出来ていた。
「さあ、行こうかそそぎ。オレや、頼りになる仲間たちがお前と共にある。
一緒につづりを助けて、そんで、この竜宮も護るぞ――オレ達の手でだ!」
「私でも、できる?」
唇が戦慄いた。やけに乾いた響きだ。
そそぎは風牙のように槍を扱えやしない。戦う事に不慣れである事は、護る事も救う事も不慣れであるから。
「……ただでさえ女の子一人に重荷背負わせてるってのに、こんなとこでまで女の子達を盾にされるとはね。
ええ、ええ。此の喧嘩、絶対に獲るわよ」
やれやれとゼファーが肩を竦める。老いさらばえ行く狼が授けてくれた技と業、たったの一振りを握りしめたゼファーは少女らしからぬ笑みを浮かべて赤い舌で自身の唇をなぞった。
喧嘩だと称されれば児戯の如く遊ぶ少女達の仕草一つからでも毬付く音が聞こえて来るかの如く。
「できるよ。大丈夫。『私は護るものがあれば強くなれる』――そそぎさんも、そうでしょう?」
強く在らねばならなかった。決意は隠した拳に込めて。『竜交』笹木 花丸(p3p008689)はふにゃりと笑みを緩めた。
つづりだけじゃない。その傍で微睡みながらさいわいに寄り添っている雪菜の姿。亜竜種は花丸達イレギュラーズにとってもまだ新しい仲間だった。
新しい仲間の同胞を、そして、その彼女達の過ごす海に流れた霊脈を。其れ等全てを護る度胸と力は持ってきた。
いつだって、立ち止まることなく風に運ばれるようにして彼女達はやってきた。
人を護るための理由なんて、必要ない。足が向くままに飛び込めば、後は守り抜くのみなのだから。
「悪神だか何だかよくわかんないけど、悪い人達の思い通りには絶対にさせてあげないんだからっ!」
くす――
くす、くす―――
笑い声が響く。すらりと二対の日本刀を引き抜いて『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は息を潜めた。
一方は純潔の花をあしらえ、もう一方は誉れの光を讃える。
(そそぎ殿の意志に報いる為にも、虚滅種達は何としてでも止めてみせます……この悪夢を、一刻も早く終わらせましょう)
ルーキスの信ずる主君は彼女達双子巫女も可愛がっていた。慈愛の深いあの方は、幼い獄人の姉妹にも手を差し伸べていたではないか。
主君の護るべく愛しき子らに手を貸さずして何が忠臣であるか。
青年の眸に決意がぎらりと宿る。後方で、緊張滲ませ疾風の指輪に魔力を込めた『聖女の殻』エルピス (p3n000080)を一瞥する。
「エルピス」
「……はい」
肩を弾ませるエルピスは、霊脈、揺らぐ水竜と少女達。その何れもを双眸に映してからぎゅうと指輪を嵌めた人差し指をなぞった。
「……もしかして、緊張してる?
大丈夫、自分の力を信じて。その力で、皆を支えてあげて欲しい。力を合わせて、この作戦を成功させよう」
「はい。がんばります。相手が、神様と云うだけで恐ろしく思えて、しまいますね」
神様。その言葉に柳眉をひそめた『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は此度の根源たる『ダガヌ』を思い浮かべた。
当然の如く神様と呼ばれる存在はひとの欲の前に正しく機能はしないのだろう。神性はほころびから漏れ出でた水のように海へと混ざり合い、混迷を来したのだから。
「邪神ダガヌ。敵が神性の類なら、例え封印されていようともその程度の干渉は結界など関係なく当然のようにやってのけると言う事なのかもしれない。
瘴緒……寄生し、宿主を操る型の肉腫。干渉の仕方がそういう形で、ある意味助かったと言うべきでしょうね――まだ、間に合います」
相手が神様であろうとも。
――相手が、恐ろしい存在であろうとも。
操り人形の糸は、ぷつりと切ってしまえばそれで終わりである筈なのだから。
●
――――許さぬ。
奥歯が軋む音がした。さざなみは、波濤。竜の眸は『姉』の波濤を己に寄せてくれているように感じていたから。
分かたれても、ふたりでひとつだった。『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は睨め付ける。
許さぬぞ、あの子にこのような。
許さぬぞ、つづり。一人になるのは――二人を分かつものはこの海にないと、知らしめるのじゃ。
クレマァダは、双子の巫女に『我とおねえちゃん』を重ねていた。だからこそ、二人が分かたれることが身を引き裂かれるかの如く、痛いのだ。
ふたりでひとつであったのは『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)とて同じであった。
指先を絡め、笑い合った妹(エルメリア)。双炎の涙に混ざった色彩さえ、重なり合って、もつれ合って、分かたれた。
「双子の姉妹が引き裂かれる事がどれ程辛い事か、私は身をもって『知っている』わ。
別たれる悲しみを、別たれる絶望を二人に経験させる訳には行かない――絶対に助け出すわよ!!」
地を、踏み締める足先に力がこもった。アルテミアの殷ギル細剣は瀟洒ながらも丈夫なしつらえ。蒼玉の煌めきのように剣は蒼き魔力を乗せる。
嘗てはひとつだったもの。それが分かたれ二人となった。
繋ぐ緒がぷつりと切れようともその掌だけは重ねていよう。そんな、甘い夢の様な唯一無二。
「……血を分けた人、鏡合わせの双子。自分の半身とも言える人なのですね」
『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は知らぬ感覚、知らぬ存在、知らない気配に身を寄せる。
(――其の絆の深さは、屹度わたしには図り切れないもの。それでも、せめてつづりさんを取り戻す手伝いだけは)
母も、家族も、何もかも。素知らぬフラスコチャイルドは走り出したアルテミアの背後から眩き光を放った。
尾を引く光の神性は瞬く間につづりへ届く。酷く歪んだ輪郭で、少女の振るった神楽の鈴がぎりんと胡乱な音を立てた。
「ッ――つづりィ!」
名を呼んで風牙は走る。アッシュが「少しの痛み」だと告げた攻撃も、自分が放たねばならない攻撃も、彼女に辛抱してくれと届けた声さえも苦しい。
レーテンシーがつづりとイレギュラーズの間へと滑り込む。緩やかなその動きを横目で眺めながら、つづりは当たり前のようにモンスターにその身を任せていた。
「オウムガイども! てめえらまとめてこの槍で串刺しにして、串焼きにしてやるよ!」
揺らいだ組紐。豊穣郷の霊脈の気配は風牙だって知っていた。けがれをそそぎ、未来をつづり、そんな二人の為ならばレーテンシーの固き甲さえ構いやしない。
レーテンシーを誘うように指先を己に引き寄せてゼファーは狼の牙を立てる。蝶のはばたきは突風となり未来を切り拓く。ならば、共にある西の微風は花嵐へと転ずるだろう。
閃く銀の髪は月のように光を帯びて、レーテンシーを叩くひとふりの残像を宙へと描く。
それらが行く手を遮るならば、抑え、つづりの元へと誰かの手を届かせるだけ。その役目を見届けながら、つづりを睨め付け雪菜の動きを警戒する花丸は侵されることなき領域を己の周囲に位置づけた。
「すぴら」
雪菜の唇が動く。レーテンシーに護られていたつづりを急き立てた竜の鼓動は巫術によるけがれを霊脈へと運ぶ。
「――やらせないよっ!
風牙さんにそそぎさん、つづりさんを大事に思っている皆の為にも、こんなことは絶対にさせちゃダメなんだからっ!」
花丸が声を張り上げ、霊脈を狙う全てを受け止める。花丸の前を過ぎ去ったのは蒼き銀閃。続くのは猛き炎鳥。
蒼い焔は何処までも盛ることを示すように。銀蒼の刀身を振るい上げたアルテミアはスピラ・カエルレウムを引き寄せるべく狙った。
「すぴらに、なにをするの?」
「……貴女こそ、何をしているかわかっているの?」
囁く雪菜の声音はひそやかな毒のように苛立ちが込められる。出来うる限りスピラを自身に釘付けにしておきたい。その為には、それを愛でる巫女による苛立ち一つも受け止めなくてはならないか。
リヴァイアサンを思わせた水竜を相手取るアルテミアと相対する雪菜はうっすらと笑った。
「夢を、みてるの」
きっと、そうなのだろう。ニルはその言葉に納得しながらも魔力で微細する振動で描かれた魔方陣から漆黒の泥を産み出した。
それらは不吉を嘲笑うようにして銀に光ったエバーシルバーの魔力諸共呑み喰らわんと狙いを定める。
「夢を、みているのは、すてきなのかもしれません。
ニルは、つづり様と雪菜様に、傷付いてほしくありません。けど、止めなくちゃいけないから――」
二人が、誰かを傷付けるのは恐ろしい。スピラとエバーシルバーは大きな障害になる事なんて分かっている。
夢から褪めて、酷く絶望するのだ。どうして、傷付けてしまったのだろう――と。
淡き夢は、何のいろをしているだろう。どんな感情(こころ)を宿すのだろう。
伽藍堂に鼓動に似た気配を感じながらニルは生きているおのれの心のままに言葉を紡ぐ。
「大好きな人が、操られて悪いことしてしまうなんて、ニルは、そんなのいやなのです。
手を伸ばしても届かないのは、伸ばした手が間に合わないのは、ニルは……とってもとっても、かなしくて、こころがぎゅうってなります」
霊脈を前にしていたそそぎが唇を噛んだ。
ニルは霊脈を、この地を護りたいと周囲に保護の術を展開してくれた。
そそぎはひとりぼっちで、慣れない術式で全てを護るべく健闘している。その背中を見るだけでクレマァダは温かな気持ちさえ浮かぶのだ。
彼女が、一人で努力するその背中を支えてやるために、つづりを取り戻さねばならない。
神威を宿らせ、黄金に煌めくその眸は海嘯を呼び寄せる。腕の一振り、狂瀾怒濤の有様は風牙の背を押すようにつづりの元へと道開く。
「つづり、わからぬか! 我が!」
「やることが、あるから」
淡々と言葉は夢見がちに紡がれる。冬佳は花瞼を伏せり、破邪の五芒に魔力を奔らせた。
清き水により作られた氷剣は弓へと転じ雷光の破魔矢を放つ。ヒュン、と空を切る音。続き、つづりの頬を裂いた紅一閃。
「他人の身体を使って、その口で勝手な言葉を並べ立てる……恥を知りなさいダガヌの眷属。つづりさんを返して頂きます」
その痛みさえも、乗り越えなくては彼女の身柄は返らない。痛ましいそそぎの表情に愛無は「任せてくれ」と頷いた。
「何、座標というものは強いんだ」
「でも、余所者でしょう? 信頼、できないよ」
つづりの声音が、信じられぬ言葉を紡ぐ。眼窩に滲んだ絶望は、操り人形の言葉になど流れない。クレマァダが歯噛みする。
「いや……どちらかと言えば、歪められている。そのような気が」
忸怩たる思いばかりが溢れた。ああ、けれど。
「……それにしても、つづり。お主、こんなに強かったんじゃな。それは少し誇らしいが。
我は。我も。この海で喪ったのじゃ。だから、お主はそうなって欲しくない――帰ろう、つづり。ここにはまた来られるから」
クレマァダが手を差し伸べれば、巫術のけがれが鳥を象り啄まんと襲い征く。
「だめ。余所者は、豊穣郷ものっとってしまうから」
「そんな――ッ!」
そんなことはないと叫び駆けたそそぎに愛無が首を振った。呑まれるべからず。
「君達の絆はあのような戯言程度で断たれる物ではないはずだ。
つづり君から託された思いを忘れるな。任された仕事をやり遂げるんだ。それが必ず彼女を救う事にもなる。
――あの時、一撃ブチかました事を思い出すんだ。君は強い。己とつづり君を信じたまえ」
「強い、だなんて」
そそぎは愛無を見詰めた。
――『次』は思ったより早かったろう?
あの時、この人はそう言った。闇に担ぎ上げられ夢中になって踊った空。溢れる穢れは濁流の汚泥。
乱雑な攻撃を繰り返す自らの肉体に一撃を投じて『けがれ』を祓ったのは風牙であり、冬佳であり、愛無であった。
つづりてそそぎ、よをなくす。けがれに突き動かされたあの日に神使を信ずる道を選んだのだから。
「それは、黒歴史」
「そうか、それは悪かった」
朱に染まるその人を眺めたあの月夜は遠く。
軈て燃え尽きることを知りながら長き夜を越えるが如く、月をも霞ませる燦然たる閃きが蝶の瞬きの軌跡を残す。
アッシュの指先から立った蝶々のひらめきひとつ、五指のひりつく痛みなど遠く置き去りにリュウグウノツカイの行く手を掻き消して。
「――貴方が守りの要ならば、早々に退場していただきます。まだまだ、大物が控えている様ですので。
つづりさんは返していただきます。得難きえにしの糸を途切れさせることなど、許されてたまるものですか」
愛(ああ)だ、恋(こう)だと口にしようとも、その様な尊い感情はアッシュは知らぬ。
指先の届く範囲に纏わり付いた灰燼の気配は、己が得難い全ての情の片であるかのようだった。
切り拓かれた道を、走るだけ。つづりに向かって弾けるように飛んで行く風牙とクレマァダ。
鯉口を切ったルーキスが一歩、土を固く踏み締めた。凜とした一閃、たゆまぬ刃の引き裂く糸。それが、傀儡の糸を切り裂くことを祈らずには居られない。
●
竜宮の加護は、ひとりの少女が維持しているらしい。まるで、人身御供のようにその記憶を糧として。
アルテミアの細剣が閃いた。雪菜の巫術が脚を縺れさせようとも、淡き銀青は折れることはない。
愛するということは、苦しいこと。苦汁を飲むように、辛く悲しい生を歩んだかたわれは、それでもアルテミアに進んで欲しいと背を押した。
その剣戟に纏う焔は恋のわざわい。たったひとつの恋情がスピラを釘付け、霊脈になど向かせやしない。
只、耐えて、耐えて、耐えなくてはならなかった。
その苦しみをたった一人で背負い続ける。皆が、辿り着くまで。懸命に。
霊脈から視線が逸れたならば、花丸は刹那、煌めきを求めるように深海よりその腕を天高く伸ばす。
傷付け、壊すことしか出来なかったその手でも護る者が増えたならば、戦う事が出来るから。
「後ろは私に任せて皆は前だけ見ててっ!」
頷き、風牙が走った。クレマァダの怒濤の如く渦巻く濁流が全てを呑み喰らわんと大口を開ける。
返せ。
その子は、そのような事に使ってはいけないのだ。
――そそぎ。
優しい声音で、その名を呼んだ愛おしい彼女。まるで、己のようだと重ねて見ていた双子巫女。
クレマァダの波と共に風牙はつづりの腕を掴む。
「離してッ!」
「つづり、違うだろ! お前は人を傷付けたくなんて無い筈だ! 必ず無事に取り戻して、元通りにしてやる!
ほら、見ろよ、つづり。そそぎのやつ、いないお前の穴を埋めるようにすげえ頑張ってるぜ。そこは褒めてやってくれよ」
その眸にいろが差す。ニルは周囲を巻込むように神聖を瞬かす。光が全てを包み込むように。
「かぞく、は一緒がいいのです。つづり様の居場所は、そこじゃない、はず――ニルは、だからがんばります」
却けるのは魔の気配。冬佳は不死さえ与えるが如く、仲間を支えその場に佇んでいる。
何時だって、手を伸ばす。名を呼ぶ。それがイレギュラーズと呼ばれた者の為せる可能性の波。
ばちん、と鋭い音がした。
弾けるようにして眠りより覚めた体がグンと地へと引き寄せられる。
「つづり――ッ!」
悲痛なるそそぎの声を聞きながらクレマァダはつづりの体を抱き締めた。続き、風牙が倒れそうになる二人を支える。
「わ、わた、し」
「おはよう、つづり。……聞こえておったか?」
きみに告ぐ。
ただ、それだけでいいと云う様に――「そそぎを、褒めてやってくれよ」と風牙は笑った。
つづりの巫術が払除けられれば、レーテンシーがスピラ・カエルレウムを庇うように移動する。
意識も胡乱になったつづりを保護しておくべくルーキスは息をつき刀の切っ先に決意を走らせた。
決して、邪魔立てしてくれるなと、言葉にする。一瞥した先のエルピスは小さく頷いた。
花丸と、そそぎ。支えとなるべくは激闘の最中でも僅かな光。イレギュラーズが強くとも、相手を侮ってはならないから。
「エルピス、頼んだよ」
「……がんばり、ます」
癒やし手として花丸を支えているエルピスのランタンに聖なる光が宿らせる。
直走れば、固い甲ががちりと音を立てた。叩きつけた刃の三撃。猪鹿蝶、それは狂い咲く剣戟の端。
ルーキスの頬を裂く衝撃は、彼の意志を挫くものではない。
戦う事に、理由なんて簡単だった。けがれの巫女が海洋王国のリゾート地で粗相を働いた? ――ああ、ナンセンス。
「今やるべきは、あの子達に余計なものを背負わせない。その為に戦う。それだけで十分!」
ゼファーの握るひとふりの帆の先はスピラへと叩きつけられる。有象無象など、全てを蹴散らし背後に感じた生命の息吹を護るだけ。
生きているからこそ、人は歩み続ける。
そそぎが、一人で努力を重ねたように。つづりが、嘗て神使を信じたように。
ゼファーはその信を返すように周囲の全てを払除けるだけだった。
つづりは霊脈の後ろで座り込む。余力もないか、花丸が「大丈夫、護ってみせる」と穏やかな声を掛けた。
「つづり、さん」
「……そそぎが……?」
その身を支えたエルピスにつづりはそそぎが霊脈を手繰るように陣を見据えて冷や汗を流す光景だけを眺めていた。
途切れる集中が術式を上手く編めない焦りと化した。ああ、けれど。そそぎの心配事はひとつは解消されたから。
「冬佳」
「どうされましたか、そそぎさん」
「……力、貸して」
いつまでも我儘なおんなのこでは居られない。巫術に長けた冬佳に声を掛けたそそぎはつづりを護るように立ち、霊脈の術式を編む。
ニルの防御結界は、風光明媚な景色を護ってくれているから。
残る水竜とその側付となった娘を却ければ、この地は安寧に包まれる。
噛み砕けば、どの様な味わいを感じられるのか。愛無は槍状に生成した粘膜を投擲する。
「そそぎくん、いい顔になったな。
また皆で笑って帰ろう。あの時のように。今回だって、何も問題はないさ。
奪われたなら取り返す。願いなどと言う物は、己の手で奪い取る物だからな」
人生なんて、奪い合いだ。あの水竜はこの海で、全てを奪い去らんとしたものの名残だった。
それを産み出したもの、クレマァダが「どうして与するのだ」と問うたリモーネ=コン=モスカの執念のひとかけら。
「……尊んでおるが、それは何故じゃ?」
「おひいさまは、水底のわたし達をすくってくれるから」
愛無は「きっと、君達はこの深い海の底で窮屈さを感じていたのだろうな」と囁いた。
「窮屈、か。この海に棲まう者よ。御主等は、きっと、驚いたのだろう。
海上の荒波が消え去り、いのちを奪い去る恐ろしき海嘯が消えれば静寂には人類の足跡が築かれる」
「まあ、それはさぞ――恐ろしいことでしょうね」
クレマァダの言葉に肩を竦めて頷いたゼファーはだからといって、与する相手を間違えたのだと浅く笑った。
閃く、アルテミアの二刀がスピラの水状の尾を裂いた。溢れる水泡は血潮を思わせながらもぷかりと浮かぶ。
欲を捨て、我を捨て、駄我奴(よこしまさ)を目覚めさせてはならない。人の欲求はどこまでも深い。この、海のように。
欲に目が眩めば、濁流の如く全てを呑み喰らってしまうから。
倒れないように。痛みを堪えるアルテミアを支えた冬佳の福音は、美しき氷蓮華の花を開いた。
開花は、その澄んだ魔力に誘われる。水と月。その二つの属性を束ねた女教皇の加護が華奢なおんなの肉体を包み込んだ。
味方全体を支え続ける。その役目を担う冬佳は傷だらけになろうとも、己が決意の焔を滾らせるアルテミアを見ていた。
白銀の髪は、紅色の軌跡を残して揺らぎ踊った。恋乞う髪先のひとつさえ、水竜に触れさせぬその人を支え導くのも女教皇の役目。
――そして、そそぎの力になることだって。
「むずかしい」
「大丈夫です。そそぎさんならば、きっと」
霊脈より結び、肉体の中に存在するいのちの源との繋ぎ目。巫女は、媒介。
媒介であるからには、己そのものの個を持ちながら身を委ねなくてはならない。
神脈から湧き上がった力の恐ろしさは冬佳も良く分かる。分かりながら、そそぎに優しく声を掛けるのみだった。
「そそぎ、大丈夫だ」
彗星のように、ひたむきだった。
赫く疾く。風牙の信念は鋭き刃となる。
その背中を何時も見ているような気さえした。
そそぎとつづりは神様の使いだと称されたそのひとたちにいつだって護られていた。
「……おそろしいものは、目に見えないもの。けれど、大丈夫です。
ここにはイレギュラーズが居ます。あなたの光になれるように」
蝶々が暗闇で踊ったのはその燐光で居場所が分かっていたからだった。黒きけがれの恐ろしさをそそぎは知っている。
けれど、あなたは『みそぎ、けがれをそそぐ』人だから。これから先の未来を『つづり』続けていけるそのひとと一緒だから。
アッシュの指先に口づけした蝶々は意志を雷へと転じた。苛烈なまでの熱と光。直走ったそれがスピラを泡沫の影と化す。
ああ、此れがあの海の――嘗て、滅海のあるじと呼ばれた竜を模したそれは絶望的な『かれ』には程遠かった。
(マールさん、力をお借り致します)
光芒パルティーレ。竜宮の加護はアッシュの持ち得る力を支えるようにその身に魔力を奔らせて。
その口は濁流の渦の如く、悍ましき気配を開いた。それでも、そこに其れが居る。その前に立っている雪菜の笑顔さえも、眩む。
●
大地を踏み締めれば、その体は真っ直ぐに誰かの元へと届くと実感できた。
手を伸ばせば、抱き締めることが出来る。その為に両腕は開けてあった。
花丸の決意が揺らぐ。髪先までぴりりと走った緊張感。
その拳はよこしまなる全てを払除ける。花丸は雪菜ではなくスピラを引き寄せるように手を伸ばした。
シンプルな戦いではある、けれど。一番に強敵となったのはあの水竜だった。
膝をついたアルテミアの側で、ルーキスの刃は鈴鳴らす。りん、と響いたその音色に続いたのは全力全開の衝撃。
零距離に飛び込んで、白磁の膚に傷が奔った。スピラの声は慟哭を思わせた。仄暗い洞のような、苦しい響き。
「これ以上悪いこと、させないのです」
それは人によって産み出された者だった。かつて、この海を統べたもの。
海を愛していたのかさえも問うことも出来ず深き眠りについた存在の、ひとかけらにも満たぬ紛い物。
ニルは自らの中に溢れかえった魔力をもう一度叩きつけた。
喪うことは怖いから。だからこそ、叩きつける。一度限りの全力。
「――届いて――!」
ひりつく膚さえ、構わなかった。零距離で叩き込んだそれがスピラの体を爆ぜる。
未だ動くというならば、ゼファーはひらりと踊るように前線へと飛び出した。
それが、あの人から教わった技と業。染み付いた癖のように、獲物を狩る仕草はいつだってそれを追掛けていた。
切り詰めた最大の一撃に泡沫の竜は首だけとなって大口を開いた。
「しつこいと嫌われるわよ?」
せせら笑ったゼファーの側で跳ねるようにして、触腕が蠢いた。粘液に塗れたそれは愛無の本性。
本性(さが)は獲物を狙うことだけに注力しているようだった。べたり、と広がった其れはスピラの首を固定する。
「餓えた獣こそ狩りやすい」
固定されたその前へと流れ込んだ波濤。苦手だった『魔術』の心得はかたわれがくれたものだから。
――――♪
うたを、うたっていた気がする。魔力は旋律のようにクレマァダへと流れ込む。
その旋律が波となって、花丸の拳を届けるだけだった。
立ち上ったいのち。霊脈から広がる防衛陣。その場所を護る為、そそぎが作り上げた不格好な結界。
ほころびなんて、皆で埋めてやれば良い。クレマァダの波濤の術式がほころびを埋め、花丸が叩き込んだ護りの『武』がスピラを霧散させる。
残された少女の眼前にアッシュの蝶々はひらりと躍った。
「……もう、貴女を惑わす者は在りません。其の矛先を納めては、くれませんか」
雪菜が膝から崩れ落ちる。その体を支える様にしてアッシュは少女の眸を覗き込んだ。
美しい、宝玉のような眸に困惑が浮かんでいる。夢を見ていた体からだらりと力が抜けて唇は戦慄いた。
夢から覚めれば、彼女達は己の行ないを攻めるのだろう。つづりにはそそぎや皆が。雪菜には里の皆が。それらが、支えてくれるはず。
「わた、し――」
少女の体は脆いものだった。痛みに眉を顰め、蹲り動かなくなった彼女の背を撫でてクレマァダは酒黄色の眸を細める。
立ち上がればつづりがそそぎの手をぎゅうと握りしめていた。震えたそそぎの指先を掬いあげたつづりは眠たげに舟を漕ぐ。
分かたれぬ二人。唯一無二を喪う恐ろしさはクレマァダとアルテミアがよく知っていた。
固く結んだはずのつなぎ目の緩み。それが解けないようにきつく、きつく結わえていて。
人の縁など蝶々結びのようなものだから。
渦巻いた生のきざしに、呑み込まれずに又出会えた喜びだけを抱えていよう。
――おねえちゃん。
結んだ指先に、笑い合った双子の巫女を見詰めてクレマァダはそんな光景を見ていた。
――こっちだよ、僕(クレマァダ)。
ああ。漸く。
あの日の自分たちが救われた気がした。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
この度はご参加有り難う御座いました。
つづりさんやそそぎさんを思う素敵なプレイングばかり。双子さんはしあわせものですね。
またご縁がございましたら、何卒宜しくお願い致します。
GMコメント
日下部あやめです。つづりさんとそそぎさんをお預かり致しました。
●成功条件
・『双子巫女』つづりの救出
・『虚滅種』スピラ・カエルレウムの撃破
●失敗条件
・霊脈の破壊
●スポット情報『霊脈』
竜宮の周辺より『天浮の里』に続いている霊脈の上。そそぎが、防御陣を張ろうとしています。
つづりと雪菜、スピラ達は霊脈を狙っています。
霊脈は深海の大地に埋まっていますが『霊脈の吹きだまり』のように立ち上った柱を倒す事で機能を停止できるようです。
柱は頑丈ですが、攻撃を集中されれば一溜まりもありません。防御に二人程度が庇う必要があります。
周辺は見通しも良い場所ですが、それ故に霊脈の吹きだまりは狙われやすいでしょう。
●霊脈の吹きだまり
霊脈から立ち上っている柱のような光です。この光を攻撃することで柱は倒れ、朽ちて霊脈は機能を停止します。
そそぎがこの根元で防御陣を張るための儀式を行なっています。
●エネミー
・『双子巫女』つづり
肉腫『瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)』になってしまったカムイグラの『此岸ノ辺』の巫女、そのかたわれ。
瘴緒は悪神ダガヌの影響により発生した、新種の肉腫です。人間に感染し、宿主の意識がない状態の際に、宿主を操る事が出来る肉腫です。
一種の『夢遊病』のような状態を思わせます。宿主が戦闘不能になると『瘴緒』は簡単に力尽きるなど持続力も左程ありません。
霊脈を壊すべく動き回っています。意識はなさそうです。肉腫がつづりの口を借りて勝手に喋ります。
戦闘能力は『瘴緒』によって向上しており、巫術などを駆使して戦います。BSがとても豊富です。
・『スピラの巫女』雪菜
『天浮の里』に住まう亜竜種の少女。肉腫『瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)』となっており、スピラ・カエルレウムの為に戦います。
寄生されている事に対する自覚症状がなく、譫言のようにスピラ・カエルレウムを愛でています。
『<デジールの呼び声>堆きスピラ』ではスピラを尊び、おひいさまと呼んでいる海援様の為に邪魔者を排除しようとしていました。
巫術、そして水を駆使した攻撃を行ないます。
・『虚滅種』スピラ・カエルレウム
水で出来たかのように思える肢体の竜。小さなリヴァイアサンを想起させます。
波濤の魔術を駆使し、リヴァイアサンを思わせる戦闘術を利用します。
・『深怪魔』レーテンシー *2匹
巨大なオオムガイ型深海魔です。殻にこもることで高い防御力を発揮し、カウンター魔法を用いて【棘】効果を自らに付与します。
また、その頑強なボディを回転させながら突進するなどの攻撃も可能です。
・『深怪魔』エバーシルバー *1匹
リュウグウノツカイ型の深海魔です。銀色に光る魔法を放ち、味方の治癒や自身の防御を行います。
HPやAPを回復する魔法や、自身の防御・抵抗・最大HPをアップさせる魔法を使うほか、カウンター瞬付による【物無】のバリアを自身に付与することがあります。
●味方NPC
・『双子巫女』そそぎ
つづりを助けるべく『霊脈の吹きだまり』の根元で防御陣を頑張って張っています。倒されないように護ってあげて下さい。
・エルピス (p3n000080)
エルピスがお供します。ヒーラー、戦闘には不慣れです。皆さんの指示に頑張って従います。
●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru
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