シナリオ詳細
<最後のプーロ・デセオ>処刑人“飛首”。或いは、路地裏防衛戦線…。
オープニング
●竜宮防衛作戦
そこは深海。海底の都。
暗い暗い海の底でなお明るさを維持する不夜街、竜宮城。
ギラギラのネオンに照らし出された大通りから、少し奥へと進めばそこは裏通り。
こじんまりとした酒場や、看板の出ていない怪しい店がそこには幾つも並んでいた。
あるのは静寂。それから、漂う血の臭い。
カラン、と酒場のドアベルが鳴り、1人の男が建物の中から顔を覗かす。スキンヘッドに、不気味なタトゥーが刻み込まれた裸の上半身。下半身には、木と鉄板を張り合わせた鎧を纏っている。
男の両腕は紅かった。
その手から血が零れて地面を濡らす。
「暴れ回って、敵の視線を引き付けろとは……随分と大雑把な命令だ。まぁ、あの何とかっていう不気味な怪物どものフォローを期待されているのかもな」
そう呟いたスキンヘッドの背後に、木箱を抱えた手下たちが続く。
木箱の中身は、酒場に隠れていた住人の首である。
男の名は“飛首”。本名は不明ながら、その実力を見込まれて部下と共に竜宮へと送り込まれた海乱鬼衆・濁悪海軍の処刑人である。
飛首の背には、切先の無い幅広の剣。箱の中の首は、その剣でもって落とされたものだ。
「ちと手間どったが、首もこれだけ集まれば十分だろう。まったく、チンピラの10人、20人を討ち取るのに、何だってお前ら3人も殺られてるんだって話だ」
じろり、と淀んだ瞳を手下たちへと向ける。
暗い瞳に射すくめられた手下たち……7人の海賊たちは、冷や汗を零して身体を硬直させた。
「使えないと思ったら、お前たちも“首”にするから……そのつもりでいるんだな」
背中の剣を引き抜いて、飛首はそれで木箱を叩いた。
瞬間、剣身からぞわりと黒い瘴気が溢れた。まるで羽虫の大群のように、瘴気は木箱の中へと這い入り、首に纏わりついていく。
次の瞬間、首が叫んだ。
死の間際の絶叫だ。そこに意思はなく、ただ生前の最後に発した言葉を繰り返しているだけだ。
絶叫しながら首が飛ぶ。
木箱から飛び出し、飛首の周囲に浮遊する。
その数は全部で17体。うち3つは、海賊の首だ。
「そら、首が身体を探しに行くぞ。お前たちもその辺をうろついて、落ちてる首を拾って来いよ」
コン、と剣で地面を叩く。
絶叫する首が、一斉に街へ解き放たれた。
●身体探しの飛首
「裏路地周辺の半径500メートルほど。この区画の惨状を見て見ぬふりはできないっす」
地図の片隅、狭い通路の多い区画を指で叩いてイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)はそう言った。1本の大通りと、10を超える裏路地と、狭い空き地が目立つ区画だ。
「絶叫する人の首が、生きている人を襲うんっすよ。首の数は全部で17。何人かが首に襲われ倒れたところで住人たちは事態の深刻さを知って、今は建物の中に閉じこもっているっす」
飛び回る首には手が存在しない。それゆえ、扉や窓を閉じ切ってしまえば安全と言うわけだ。しかし、敵は首だけではない。7人の海賊たちが、住人たちを炙りだそうと家々を見回っているのである。
「海賊の手下たちは、剣を手にしている以外には大きな特徴は無いっすね。ですが飛んでいる首の方には【呪縛】【窒息】【滂沱】の効果が確認されています」
海賊たちの役割は、絶叫する首のフォローらしい。
それから、姿こそ見えないものの何処かに潜んでいるだろう“飛首”という名の処刑人。
「飛首の姿は見えないですが、こいつだけは確実に仕留めて来てほしいんっすよ。絶叫する首はこいつの術で生み出されているものっす。こいつを逃がすと、同様の事態が何度だって起こり得るっすからね」
首さえあれば、無限に兵士を生み出せるのだ。
もちろん、何の制限もないと言うわけでは無いだろう。
絶叫する首に理性や知能の類は無く、術師である“飛首”からそう遠くは離れられない。
「飛首本人も【呪縛】【窒息】【滂沱】を持ってそうっすけどね。さて……それじゃあ、これ以上敵の戦力を増やされる前に、とっとと獲って来るっすよ」
- <最後のプーロ・デセオ>処刑人“飛首”。或いは、路地裏防衛戦線…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年11月02日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●処刑人・飛首
竜宮、裏路地。
「そうか、殺して使役するみたいな真似をしてくるか……」
絶叫する生首を前にして『真実穿つ銀弾』クロバ・フユツキ(p3p000145)は歯嚙みした。
「首を探して首があちこちを飛び回ってるって? 全く笑えない話ね」
『煉獄の剣』朱華(p3p010458)は耳を抑えている。首の放つ絶叫が、今にも鼓膜を破りそうだ。それどころか、脳にさえ揺さぶられているような気さえした。
「あぁ。そうだな――まったくを以て気に入らねぇ」
クロバが銃剣を前へ突き出す。絶叫をあげながら、男の首が突っ込んでくる。銃口を向けられているという恐怖や危機感などももはや感じていないらしい。
首謀者の名は飛首という。
海乱鬼衆・濁悪海軍の処刑人である彼は、竜宮の裏通りでひっそりと、誰にも知られず行動を開始した。
手始めに彼が襲ったのは、裏路地にある小さな酒場だ。店内にいた10数名を殺傷すると、その首を落として、自身の“武器”へと変えたのである。
結果、生まれたのは飛び回り、絶叫する人の生首だ。
「もうこんなに首が……行きましょう、これ以上犠牲者を増やすわけにはいきませんわっ!」
飛首からどういう命令を受けているかは分からない。
しかし、絶叫する生首たちが人を襲うことは確かだ。人を襲い、その首を狩って操るというのが飛首のやり方なのだろう。『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)を先頭に、イレギュラーズたちが裏通りへと着いた頃には、そこら中を絶叫する首が飛び回っている有様だった。
「これは…酷いな…。ここも竜宮である以上、たくさんの人達が暮らしているだろうに」
幸いなことに裏通りの住人たちのほとんどは、既に家屋の中に避難を終えている。だが、全員ではない。通りの奥に逃げ遅れた女性たちの姿を見つけ『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は疾走を開始した。
否、彼だけではない。
生存者の姿を目にした瞬間、イレギュラーズたちは一斉に己の成すべきことを成すため即座に走り出していたのである。
「竜宮も、竜宮のみんなも、守ってみせるよ! メーアちゃんとマールちゃんがここへ戻ってきた時に、悲しい顔になんてさせないために!」
『おはようの祝福』Meer=See=Februar(p3p007819)が途中で地面に両手を付いた。彼女の足元で展開された魔法陣から、幾本かの光のラインが伸びていく。
それは女性たちを襲う首の真下へと至ると、地面を隆起させ土壁を形成した。首の1つが、土壁に激突して地面に落ちる。
「どうぞこちらへ。ひとまず、この建物の中に避難するのがいいでしょう」
手近な民家の扉を開けて『納骨堂の神』シャーラッシュ=ホー(p3p009832)がそう言った。ヴァレーリヤとヴェルグリーズが道の左右へ展開し、首たちを牽制している間に女性たちを逃がそうという魂胆なのだ。
時間は無い。
通りのさらに奥の方から、こちらへ向かって駆け寄って来る海賊たちの姿が見える。
裏路地。とある空き地にて。
「おっと……逃げ回ってたって風じゃねぇな? もしかしてとは思うが、俺らを止めにでも来たか?」
剣を手に、そう問うたのは髭を生やした太ましい男だ。
彼の腰には、網に詰められた人の首が2、3ほどぶら下がっている。飛首配下の海賊で間違いないだろう。おそらく、飛首の元へ“犠牲者の頭部”を持っていく途中だったのだ。
「海軍って肩書だけれど民間人に配慮して動く気はなさそうだね! こっちもエンリョは不要って事だ!」
「本当に、こんな状況……何故、できてしまうのか」
相対するは『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)と『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の2人である。
視線を伏せたマリエッタへ、体の無い首が虚ろな視線を向けていた。恐怖と絶望、助けを求める願いの混じり合ったみたいな眼差しを受け、マリエッタは唇を噛んだ。
海賊の男は下卑た笑みを浮かべると、腰に下げた網を地面へ乱暴に投げ捨てる。それから剣を眼前に構え、じりじりと前進を開始した。
「もう2つぐらいなら持っていけるな。頭はきれいなまま残してやるから、感謝してくれよ」
その言葉を聞いた瞬間。
イグナートとマリエッタの表情から、ストンと感情の色が失せた。
●飛首
錆び付いた刃では、イグナートの鋼の身体を深く斬り裂くことは出来ない。
振り下ろされた海賊の剣を受けたイグナートの右腕に裂傷が走る。だが、それだけだ。海賊の剣が彼の筋肉を断つことは無いし、刃が骨に至ることも無い。
「っおぉ!!」
腕を斬られながらもイグナートは前進し、渾身の殴打を海賊の顔面に叩き込む。
鼻を潰された海賊の身体が、地面を数度バウンドしながら吹き飛んだ。
「くそっ……正義感に走る馬鹿かと思って油断した!」
鼻を押さえて海賊が叫ぶ。
戦場に置いて油断をするのは間違いだ。たとえ相手が子供であっても、油断した者から命を落とす。その程度のことも理解していない辺り、なるほどこいつは下っ端だ。きっと今まで、飛首の影に隠れて弱者をいたぶることしかしてこなかったのだろう。
「もう黙ってください。殺したほうがいいと思ってしまったら……私は魔女を抑えられる気がしないのですから」
「あぁ、なにを……」
パン、と渇いた音が鳴る。
マリエッタが両の手を胸の前で打ち合わせた音だ。
次いで、海賊の言葉が止まった。口から血を吐き、痙攣し、白目を剥いて地面に倒れた。
その腹や胸部、喉には幾つもの鮮血の棘が突き刺さっている。
マリエッタが武器とした血の出どころは、どうやら先ほど男が投げた犠牲者たちの首から流れたものらしい。
意識を失い男は倒れた。
マリエッタは、投げ捨てられた首を拾おうと前へ出た。けれど、イグナートがそれを制止する。
「足音……誰か来るよ」
そう言って彼が指差したのは、空き地の奥に積まれた鉄材の影だった。
果たして、彼の言う通りスキンヘッドの男が1人、ゆらりと姿を現した。男の裸の上半身には、無数のタトゥーが彫り込まれている。
男は切先の無い奇妙な剣を肩に担いで、チラと視線を倒れている海賊へと向けた。
「使えねぇ使えねぇとは思っていたが……本当にこいつら使えねぇ」
これみよがしに溜め息を零すスキンヘッドの男性……裏通り襲撃の首謀者“飛首”である。
壁を蹴って、クロバは高く跳びあがる。
つい寸前までクロバの立っていた場所を、2つの生首が通過した。血と唾液を撒き散らし、高速で飛翔する首は壁に激突する寸前で、ピタリと制止し振り返る。
「っ……」
視線が合った。
充血した瞳の端に涙の痕を視認した。
一瞬、引き金を引く指が止まった。
一瞬だ。
引き金が重い。けれど、引いた。撃鉄が落ちる。
放たれた銃弾が首の眉間を撃ち抜いた。
力尽き、地面に倒れた首を見下ろし、クロバは小さな舌打ちを零す。
さらに首はもう1つ。
旋回し、クロバを見上げる首の真下に朱華が駆け寄る。左右の手には2本の剣。一閃、右手で放った斬撃が飛ぶ首を壁へと叩きつける。
次いで、左手に持った剣を振るって首を壁へ縫い付けた。
路地裏を飛んでいた首は2体。
これで討伐は完了だ。
「これ以上……徒に犠牲を増やす真似を許しておけるか」
「飛首って奴は更にアレを増やそうとしてるんでしょ」
敵の武器にされているとはいえ、元は罪のない一般人の首である。それを攻撃することに、何の抵抗も無いわけではない。
「そんな奴放っておけるわけないじゃないっ! 見つけ出したらただじゃ済まさないんだからっ!」
憤りを隠すこともせず、クロバと朱華は路地裏を後にするのであった。
ジグザグな軌道を描き飛ぶ首が、ヴァレーリヤに喰らい付く。
肩から首にかけての肉を食いちぎられて、ヴァレーリヤの白い衣服が朱に染まった。引っぺがした首を地面に押さえつけ、彼女は高くメイスを掲げる。
「ごめんなさい。もっと早く来てあげられれば、貴方も助けられたのかも知れないのだけれど」
獣のような形相で絶叫を続ける男の首だ。つい暫く前までは、ごく当たり前の日常を過ごしていただろう。海賊に襲われ、首を落とされ、こうして武器として利用される……人生の終わり方とするならあまりに惨い。
「背中ががら空きだぜ!」
ヴァレーリヤの背後へ、海賊が1人、駆け寄った。
高く掲げる錆びた剣が、まっすぐにヴァレーリヤの細い首を狙っている。咄嗟にメイスを横に薙ぐが、不安定な姿勢から放った一撃は剣の腹で受け流された。
メイスを捌いた海賊が、躊躇なく剣を振り下ろす。
直後、ヴァレーリヤと海賊の間に土の壁が立ちふさがった。
「これ以上竜宮を傷つけさせないんだから!」
Meerの召喚した土壁だ。
次いで、2度目の土壁がヴァレーリヤの押さえ込んでいる首を囲んだ。
「とにかく、これ以上、犠牲者を増やさせないよ!」
「えぇ、当然そのつもりですわっ!」
どっせーい! と掛け声を1つ。
立ち上がる勢いに乗せて下から上へメイスを一閃。
渾身の殴打が海賊のあばらを数本まとめてへし折った。
背中に2本、腹に1本の剣を突き立てられたままヴェルグリーズは疾駆した。
全身に負った幾つもの切り傷、そして幾つもの噛み千切られたような傷痕。そのうち一部は既に傷が塞がっているが、未だに流れる血の量は多い。
一方、ヴェルグリーズの目の前には3人の海賊が倒れ伏していた。
「人々の平穏を乱すような真似を見過ごすわけにはいかない。一人でも多くを救うために来たんだからな」
剣の切っ先を突き付けられた海賊が、怯えた様子で後退る。
「ま、待ってくれ! 俺らは飛首って奴に脅されただけなんだ。こっちの命だって危ういんだから、仕方ねぇだろ」
「もちろん……原因を作ったものに報いを受けさせるよ」
鼻から流れる血を拭い、ヴェルグリーズは視線を背後へと向けた。
地面に散らばる生首が10ほど。その真ん中に、不吉な黒い男が1人、立っている。ヴェルグリーズの視線を受けたホーは、にこり、とわざとらしく笑って、海賊たちの方へと近づいてきた。
一定の速度で、ほんの少しもペースを乱さぬ奇妙な歩き方である。そう言う風にプログラミングされたロボットのようでもあった。
「な、なんだ……お前」
「貴殿らはどうやら仕える人物を見誤っているようですね。これらの行動が飛首殿に対する純粋な忠誠心からくるものではないのでしたら……」
笑みを深くしたホーが、海賊たちを覗き込む。
1人ひとりと順番に視線を交わらせ、その内心を覗き込むかのような態度で、ゆっくりと両腕を広げて見せた。
まるで闇が広がるようだ。
「どうでしょうか、これを期に改心されては。貴殿らの仲間の中には心を入れ替えた者もいると聞いていますよ」
「情報をくれたなら命だけは取らないであげてもかまわないけど……どうする?」
ホーの説得に、ヴェルグリーズが1つの条件を追加した。
3人の海賊たちは、おそるおそると言った様子で視線を交わす。飛首を裏切るか、それともここで命を落とすか、それとも必死に逃げ出すか。
「どちらにせよ、なんの手柄もなく飛首殿の元に戻れば、今度は貴殿らがあの首達の仲間入りを果たすことになるのは明白でしょう」
選択肢はそう多くない。
「うわっ……めちゃくちゃ怯えてるんだけど」
「えぇ、向こうは2人に任せておきましょう。それより今は……」
Meerとヴァレーリヤの前には、10を超える首がある。ホーとヴェルグリーズが海賊たちを尋問している間に、拾い集めて来たものだ。
地面に並べられた首に、2人は真白い布を被せた。
「主よ、貴方の元へ旅立つ魂にどうか慈悲を。永久の安息をお与え下さい」
ところ変わって、とある路地裏。
汗みずくになった男が1人、必死の形相で駆けている。
時折背後を振り向きながら、一心不乱にどこかへ向かって逃げているのだ。
男は海賊だ。大通りでの戦闘から脱し、仲間を見捨てて、任務さえも放り投げて逃げ出した。このまま飛首のところに戻るわけにもいかず、彼は竜宮を脱出するつもりなのである。
けれど、しかし……。
「住人を狙おうとしているの? お生憎さま。そうはさせないわ」
路地裏の角を曲がった瞬間、男の喉に剣の切っ先が突きつけられた。
そこにいたのは紅い髪の小柄な少女だ。
少女の後ろには、怯えた様子の住人たちと、それを先導する青年の姿。
朱華とクロバだ。
「あ、いや……俺は」
「黙って。それから、此処は朱華に任せてさっさと逃げなさいっ! アンタ達もアレの仲間入りをするのは嫌でしょ?」
弁解しようとする男を黙らせて、朱華は住人たちに退避を促した。
●処刑人
血だまりの中が跳ねた。
倒れたのは2人の男女。イグナートとマリエッタだ。
その眼前にはスキンヘッドの男が2人。罅の入った剣を担いで、顔を濡らす血を拭う。
「はぁ……? これだけやって、まだ立つのかよ」
「これだけ? この程度の間違いだろ。負けたら相応の処罰を受けるもんだって教えてやるよ」
【パンドラ】を消費し2人は立った。
気圧されるように、飛首は1歩、後ろに下がった。飛首の盾を務めるみたいに2つの首が間に割り込む。
耳障りな絶叫が響く。
けれど、次の瞬間、1発の銃声が首の叫びを掻き消した。
「あぁ? なんだ、てめぇ」
地面に落ちた首を一瞥、それから飛首はたった今空き地へ入って来た黒衣の男へ視線を向ける。
男の手にはガンブレード。
さらにその後ろからは、赤い髪の少女が続く。
「名乗るほどの者でもないが、俺はアンタの死神だよ」
クロバと朱華に続き、ヴァレーリヤを先頭とした4人も空き地へ辿り着く。
それを見て、あぁ、と飛首は呟いた。
つまり、手下たちは任務に失敗したのだろう。
「本当に使えねぇったらありゃしねぇ。最初から全員、首を落としておくんだったなぁ」
敵は8人。
数名は大きな怪我を負っているが、それでも数的な不利は変わらない。展開していた首を呼び戻してはいるが、到着にはいましばらくの時間がかかる。
加えて、飛首の手にある武器は破損した剣が1本。
「ま、やるか」
少しの逡巡。
けれど、答えはすぐに出た。元より逃走が成功する目算は付かないのだから、戦う他に術は無いとも言える。
まず最初に殴り掛かったのはイグナートだ。
マリエッタの治療を受けて、傷はある程度癒えている。咆哮と共に踏み込んで、拳を前へ繰り出した。
空間ごと捩じ切るような渾身の殴打を飛首はギリギリのところで回避。剣で受けることはもうしない。次に強い衝撃を受ければ、飛首の剣はへし折れる。そして、イグナートの殴打にはそれだけの威力があることは身をもって知っている。
回避からの斬撃がイグナートの胸部を裂いた。
浅い。
けれど、時間稼ぎ程度にはなる。
飛首の口元に笑みが浮かんだ。
接近してくるヴァレーリヤとクロバの前に、3つの頭部が割り込んだからだ。
「私が突っ込みますわ!」
メイスを振り上げヴァレーリヤが疾駆する。
腕に喰らいつかれても、足首の肉を食いちぎられても、腹部に頭突きを喰らっても、前へ、前へと走り続けた。
「そう数は多くありません。1体ずつ確実に仕留めていきましょう」
そう告げたのはホーだった。
まずは1体。黒い棺に首を閉じ込め、押し潰す。次の首に狙いを定めるホーの眼前に、別方向から新たな首が襲い掛かった。
「右へ左へと狙いが定め辛いですね」
「なら、やはり本体を討つしかないか。足場を!」
クロバが叫んだ。
即座にMeerが反応し、地面に両の手を着ける。彼女を庇うように朱華とヴェルグリーズが前へ。
「何だ?」
一瞬、地面が大きく揺れた。
訝しむ飛首だが、すぐに揺れの原因を知る。
それは地面から隆起した石壁だ。
そして、石壁を足場に高く跳んだクロバの姿。
「っ……手数が多いな!」
クロバの両手に握られている剣を見て、飛首は舌打ちを零す。咄嗟に自身の処刑剣を横倒しにして頭上へ掲げ、クロバの斬撃を受け止めた。
硬質な音が鳴り響く。
飛首の剣が砕けた音だ。
舌打ちを零し回避を図る飛首だが、転がった先にはイグナートが待っていた。
殴打が腹部を撃ち抜いた。呼吸が止まる。内臓が激しく痙攣する。
「ぐはっ……畜生!」
柄だけになった剣を投げ捨てて、飛首はイグナートの顔面を殴り付ける。
だが、足りない。
圧倒的に筋力が足りない。
「どっせーい!」
伸びきった飛首の腕へメイスが叩きつけられる。
枝の折れる音がした。
折れたのは飛首の骨である。
骨が砕け、皮膚を破って突き出した。
そして……。
「魔女として、ただ……貴方を狩りましょう」
イグナートが身体を横へ移動させる。
そこにいたのは紅い目をしたマリエッタだ。
翳された手に宿る魔力の色は紅。
赤く濡れた血のような魔力の波紋が飛首を襲う。
「あぁ、好き勝手やったからな。当然、こういう終わり方も想定していた」
なんて。
負け惜しみか、それとも彼なりの賞賛か。
最後にそう呟いて、飛首の顔面が爆ぜた。
「……おやすみなさい」
噴き出す血を浴びながら、マリエッタはそう呟いて。
かくして、飛首はこの世を去った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
飛首の討伐が完了しました。
また、生き残った海賊たちも捕縛されています。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
処刑人“飛首”の討伐
●ターゲット
・飛首
海乱鬼衆・濁悪海軍の処刑人。
スキンヘッドの男性であり、切先の無い幅広の剣を所持している。
刈り取った首を自立する武器として運用する術を使うようだ。
【呪縛】【窒息】【滂沱】を付与する技を行使する。
・絶叫する首×17~
断末魔の悲鳴をあげる人の首。
瘴気を纏い飛び回り、生きている人間を襲うようだ。
至近距離で絶叫を聞くと【呪縛】が、噛みつかれると【窒息】【滂沱】が付与される。
・海賊×7
剣を手にした海賊たち。
下っ端のようで、実力はさほど高くない。
飛首の命令に従って、刈り取った人の首を持ち去ったり、隠れている人を炙りだしたりといった任務に従事している。
●フィールド
竜宮、裏通り。およびその周辺の半径500メートルほど。
1本の大通りと、10を超える裏路地と、狭い空き地が目立つ区画。
海賊たちは大通りを中心として行動中のようだ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru
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