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シナリオ詳細

<最後のプーロ・デセオ>あいたい

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●きみにあいたい
 ぽちゃんと落ちて、あぶくになった。
 ぶくぶくぶくぶく、纏うあぶくはましろ。
 とばり、とばり。どこにいるの。
 ――どうしてぼくを置いていったの、とばり。

 前にとばりを見付けたのは海洋だったから、きっととばりは近くにいるはずだよね。
 足を滑らせてあえなかったけど……あいたいな、とばり。どこにいるのかな。
 観光地が出来たと人々が噂をしていた。そこにいるのかな。
 いなくても、楽しい所へとばりを連れて行ってあげたいから、ぼくはシレンツィオ・リゾートへと向かった。
 ぼくととばりは幼馴染で、ぼくはとばりのことを誰よりも知っている。
 だからぼくが思った通り。とばりはそこに居た。
 ぼくはうれしくなって、とばりに駆け寄ろうとして――。
「大丈夫か?」
 ぼくの知らない人が、とばりを支えた。ぼくにはない大きな体に、力強い腕で。
 優しいとばりは断るのが苦手なのに、その人は強引にとばりを連れて行く。
 ……どうして? どうして、とばり。
 もっと嫌な顔をしてよ。どうしてホッとしたような顔をするの?
 とばりのことを一番わかってあげられるのはぼくなのに。
 どうして、いま、とばりの隣にぼくがいないの?

 大好きなとばり。
 ぼくととばりはずっといっしょ。
 そう、ずっといっしょにいなくちゃね。

●あなたにあいたい
 ――『夢遊病』。そう呼ばれる事例が竜宮で流行った。普段取るはずのない行動を取ったりしているのに、当人はそれを知らない。まるで眠っている間に動き回る夢遊病のようだ、と。
 しかしそれは『悪神ダガヌ』によって齎されたものであった。
 ダガヌ海域のインス島周辺への一斉攻撃を開始したシレンツィオ総督府とローレットであったが、敵はまるでこちらの動きを読んでいたかのように、迎撃を開始していた。全ては夢遊病状態――新型肉腫:『瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)』に感染した人間たちが無意識下に敵へ情報を提供してしまっていたせいで、連合軍の動きは筒抜けであったのだ。
 そうして夢遊病状態の実態が明らかになった訳だが――。
(ジェラルドさん……)
 浮舟 帳(p3p010344)は、姿を晦ましてしまった彼の人のことを思った。
 ジェラルド・ハイバークは帳のことを初対面であるのに身体が弱いと見抜いた人で、それを案じ、手を貸してくれた優しい人だ。彼が竜宮の人々のことを家族だと思っていることも知っているし、彼には彼を頼る同僚も部下も居る。
 そんな人が、まだ、敵の手の内にあるのだ。
 竜宮(此処)で待っていてもジェラルドは来るかもしれない。
 しかしそれは、彼の手で、彼が今まで大事だと『家族』だと言っていたものを壊させることだ。極力そうさせないように町を守る手もある。
 だから帳は。
「探しに行こう」
 そう、決めた。
「ジェラルドさんを探しにいくんでしょ?」
「一人で行く、等とは言わぬよな?」
 ジェラルドのことを案じているのは帳だけではない。ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)も冬越 弾正(p3p007105)も――彼が勤めているバニーボーイクラブ『真珠と珊瑚(パール・コーラル)』の同僚も、それにもっと多くの人たちも。きっと皆、想いは同じだろう。
「皆……」
 故に帳は、うん、と大きく頷いて。
「ジェラルドさんを助けに行きたいんだ。一緒に来てくれる?」
 下がりそうになる眉を持ち上げて、頼りになる仲間たちへと笑いかけた。
 いざ、ダガヌ海底神殿へ。
 彼はきっと、そこにいる。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 会いたい、相対、愛痛い。
 一途な思いは、きっと誰かを傷つけます。

●成功条件
 ジェラルドを救出(瘴緒からの開放)
 ジェラルドの生存

●シナリオについて
 フィールドはダガヌ海底神殿、聖域。
 そこはあなたたちの欲望を喚起させる幻影を見せます。気付くと霞がかったような空間で一人きりになっており、幻影があなたを誘惑します。
 このシナリオでは『会いたい人』が出てきます。ずっと一緒にいようよ等、あなたの望む事を口にして誘惑してきますので、これに抗わねばなりません。抗わねば――待っているのは廃人コース。
 誘惑を跳ね除けた後は視界が明瞭になり、ジェラルドと夏灯が居ます。
 ジェラルドは意識がない状態で戦いを挑んできます。呼びかけ等への反応、また攻撃や呼びかけで目を覚ますことはありません。瘴緒を消滅させることで目覚めます。(ジェラルドにとってはどうしてそこに居るのかも解らない状況になります。)

・帳さん(p3p010344)
 あなたの前には『霞夢 夏灯』が現れます。
 最初は幻影。途中からは本人です。(他の人の幻影に会っても良いですが、消しに来ます)
 あなたには絶えず『原罪の呼び声』が掛かります。
 他のイレギュラーズたちが誘惑を断ち切ると、他の人達の姿も見えるようになります。

●霞夢 夏灯
 帳さんの関係者。幼馴染のクリオネの海種。
 帳さんが旅立ってしまったことから追いかけ――やっと見つけられたと喜んだ時に海に落ち、魔種になりました。
 無邪気に「とばり、とばり」と逢えたことを喜んでおり、友好的に接してきます。けれど彼のことをよく知る帳さんは『何か違う』ことに気付くことが出来ます。

 ジェラルドに肉腫が着くように仕向けた張本人です。
 ――なぜ?
 どうしてそんなこと尋ねるの?
 あの日、とばりを助けるのはぼくだったはずなのに。
 とばりの隣にはぼくしかいらない。ねえ、そうでしょう、とばり。

 基本的には帳さんだけを相手にしますが、帳さんが彼の「一緒に行こう」という要求を飲んでくれないと、他の人達がいるせいだと思います。邪魔者は排除しちゃおうね。
 帳さんが他の人へ心を向ければ向けるほど、その対象になります。例えばジェラルドを救いたいと願うのなら「せっかくとばりが嫌ってくれるようにしたのに……だめなんだ。いなくなってもらわないと」と命を奪いにいきます。
 ジェラルドが救出されると、最後に帳さんへ「一緒に行こう」と声を掛けてから撤退します。

●ジェラルド・ハイバーク
 高級志向のバニーボーイクラブ『真珠と珊瑚(パール・コーラル)』の竜宮男子。
 腕っぷしもあり、誠実。真っ直ぐで男らしく、仲間たちからは頼れる兄貴分として慕われています。ジェラルドの印象を知りたいと彼の名前を出せば、きっと皆そういうことでしょう。女性にも男性にも慕われる、強く美しい、一輪の華男子です。
 そんな彼が、何故か深怪魔を竜宮へと招き入れ、姿を消しました。その後に得た情報から彼が『瘴緒』に憑かれていることは確実となりました。
 ひとりで深怪魔を撃退したこともある腕っぷし。格闘技を使用し、近接戦闘が主ですが、近域、貫、扇……等の技も使用します。乙姫直属の護衛ではありませんが戦士としても優れているため、臨機応変な戦いをします。『瘴緒』の力で、全てのパラメーターが通常時より高くなっています。高EXFですが100ではありません。

●新型肉腫:『瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)』
 悪神ダガヌの影響により発生した、新種の肉腫です。
 これは人間に感染し、その人物(宿主)の意識がない状態の際に、宿主を操る事が出来る肉腫です。そのため、宿主側には『寄生されている事に対する自覚症状がありません』。また、操られている間の記憶もありません。
 ジェラルドについている肉腫は、宿主を戦闘不能にすることで消滅します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時等に活用ください。

●サポートプレイング
 ジェラルド戦のみに『少しだけ』手を貸せます。
 状況に合わせたスキル一回分程度ですが、イレギュラーズたちのサポートが出来ます。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に違反する内容は描写されません。

●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
 この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <最後のプーロ・デセオ>あいたい完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年11月03日 22時30分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC4人)参加者一覧(10人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空指揮
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者

リプレイ

●あいたいひと
 ぶくぶく、ぶくぶく。
 きみがいなくなって、あえなくなった。
 あいにいこうかなって思ったけれど、『かれ』はぼくが動かせるわけではないから。いっしょになんていたくはないけれど、やさしいとばりはきっと『かれ』を探しにくるでしょう?
 だからぼくはここできみを待つ。
 とばり、早くあいにきてくれないかな。
 ぼくはここだよ。ここにいるよ。

 連れ立った全員でダガヌ海底神殿へと乗り込んだのは少し前。
 深怪魔を倒しながら奥へ奥へと進み、何だか怪しげな気配が漂う場所へと出た。
 ――と、思ったはずだった。
「あれ、みんな……?」
 気付けば『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)はひとりでそこにいた。
 海底火山の影響だろうか、視界が悪い。
 仲間の名を呼び歩を進めようとしたその時、霞がかった視界で何かが動いた。
「とばり! あいたかったです!」
「……夏?」
「はい、とばり。ぼくです」
 どうしてここにいるの? ここは危険な場所だよ。
 そう告げるよりも先に、霞夢 夏灯が口を開いた。
「ひどいです、とばり。ぼくをおいていくだなんて」
「それは……ボクも、ずっと夏に謝りたいと思ってた」
 あの町の中では見れなかった幻想(モノ)を見たかったのだと告げると、「ぼくといっしょではだめだったのですか」と夏灯が頬を膨らませる。
「でもいいんです。これからはずっと一緒にいられるのですから」
「ごめんね、夏。ボクはまだ旅を終えないよ」
 そうして度に出たけれど、まだ見れていない幻想(モノ)も、世界(モノ)ももっと見てみたい。自分の命が尽きるまで、沢山の夢(モノ)を見たい。追い続けたい。
 だから、ごめんね。
 霧がかった世界からにゅっと飛び出してきた両手が、ギュッと帳の手を握る。
「……帰る必要はないから大丈夫ですよ、とばり」
「夏?」
 ずっと一緒にいようよ。
 うっそりと夏灯が微笑む。
 幼馴染で、一番大事な親友の夏灯。
 それなのにその笑みは、帳の知らない貌だった。

「アルヴィ」
「姉さん……?」
 優しく名を呼ぶその声に、『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)の頬を涙が伝った。
「どうしたの、アルヴィ」
 姉――ニーア=ド=ラフスが不思議そうに首を傾げた。
 魔種に堕ちていない、正気の残る顔。
(ああ、あの頃の――一緒に暮らしていた頃の姉さんだ)
 幼い頃の記憶は幽かにしかないけれど、それでも記憶にある優しい表情をした姉が両手を広げた。
「アルヴィ、また一緒に暮らしましょう?」
「姉さん……」
 手を伸ばそうと一歩前へと踏み出し、止まる。
 伸ばそうと思った左手は『無かった』。
(そうだ、あの時失っちまったんだった)
 踏み出した足を戻し、揺れる空っぽの袖をぎゅっと抱きしめた。
「きっと、本当に一緒に暮らせるのなら本当に幸せなんだと思う。けど、ごめん、姉さん」
「アイヴィ」
 踵を返した背中に、ニーアが幾度も声をかける。けれどアルヴァは振り返らない。アルヴァにはまだ、やるべきことがあるのだから。
 ――今度、墓参りに行くよ、姉さん。

 ――気付くと、会いたいけれど会えない我が子がいた。
 いつの間にか満ちた霧で仲間の姿が見えないということにも気付かないくらい、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)の意識は己が子へと向けられていた。
「あ、パパ! おかえりなさい!」
 数年しか共にいられなかった息子が、満面の笑みを浮かべている。
(――違う)
 求めてやまないその笑みが、既に喪われていることをウェールは知っていた。
 握りしめたかった。血に塗れてしまったその手を。
 抱きしめたかった。彼の名を思い出せず、呼べない代わりに。
 胸も目も、熱くなる。喉奥からせり上がってくる謝罪の言葉を飲み込んで、ウェールは『大切な我が子を思い出す』。
『さようなら、パパ』
 最期に聞こえた、遠くからの涙声。
 息子に返された懐中時計を――ウェールのパンドラを握りしめる。
「パパはこれから人を助けなきゃいけないんだ」
 見殺しになんてできない。梨尾もきっとそれを許さない。
 だからさようならだ。
 幻でも、逢えてよかった。

 フリック、フリック。
 大好きな声が『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)の名を繰り返す。フリークライの名を呼ぶのが好きなのだと言ってくれた、その人が。
 その人が――
「もういいんだよ」
 そう、言った。眠りについていいのだと、墓を守らなくていいのだと。
「フリック、逢いに来て。私も君に逢いたいんだ」
 眠りにつくということは、つまりはそういうことだ。フリークライの全機能を停止し、主に逢える。
 けれどフリークライは、主たるDr.こころに誓ったのだ。
 一緒に眠るとは告げず、主が死しても守り続ける、と。
 逢いたい。
 側に居ていいのなら、側に居たい。
 だけど。
(主 墓 守ル。墓標タル世界 守ル)
 どちらも、フリークライの本心だ。
 主が心を育ててくれたから――フリークライは己の心のみに従うのだ。
 これまでも、これからも。

 ――何故。
 ついその言葉が出てしまったのは、此処に居ないはずの『誰か』の姿に驚いたから。
 会いたいと思っていた。けれどキミは居なくなってしまった。
 ずっと逢えずに居た人の色を宿すその人が微笑んで、ずっと一緒に居ようと言ってくれる。それは『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)にとっては嬉しいことだ。けれども、だからこそ。違うと解ってしまった。
 あの子の話が、まったく出てこないから。
 俺たちの子供のような存在の、あの子のことが。
「……キミは誰かな」
 ヴェルグリーズの知る『彼女』ではないのなら、その誘いにはのれない。

「……ライゼ?」
 金の髪が視界に入り、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は思わず瞬いた。
 何故ここにと疑問が浮かぶけれど、その惑いをかぶりを振って追い払う。
 ライゼ――ライゼンデ・C・エストレジャードは幻想国に居るはずだ。海の底になんて居るはずもないし、近くに来ていたらきっとヨゾラに連絡をくれる。
「だから……とっとと消えて、偽物」
 ヨゾラの眼前に居たライゼンデの姿がかき消える。
(どうしてライゼが現れたのかな。……それだけ僕が会いたがっているってことなのかな)
 この騒乱を無事に終えたら、お土産を持って会いに行ってみるのも良いかもしれないなぁなんて、思うのだった。

 ――嗚呼。
 眼前に居る初恋の人の姿を見て、またか、と『金色凛然』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の吐息が溢れた。
 再会できる日を、心から願っている。
 だからこんな幻覚を見せられるのだと、理性では解っている。
 けれど、だからこそ腹立たしい。その姿で、その声で、マリアの名を呼ばないで。
 エクスマリアは会いたい人には、己の気持ちで、己の足で、会いに行く。
 『誰かに会わせてもらう』など、ふざけるな。真っ平御免だ。
 真っ向から真っ直ぐに、『初恋の人』を睨めつけた。
 強く強く、髪を炎のように揺らして。
「こんなもの。予行演習にさえ、不出来過ぎる」
 幻が消えた空間に、エクスマリアは静かに言葉を吐いた。
 再会を、願って。

「しーちゃん」
 幼い日より耳に馴染む声が聞こえた。
 霞がかった視界の中に揺らぐ『誰か』の姿。何故だかはっきりと像を結ばないけれど、『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)にはそれが誰なのか知っていた。
「しーちゃん」
「どうしたの、カンちゃん」
 もう一度、声が聞こえた。その呼び方をするのはひとりだけ。
 だからこれは『自分の心が望むもの』が見えているのだと、史之は気がついた。彼女は此処には居ないのだから。
「殺して」
 そんな声が聞こえる気がするのも、殺したいくらい愛しているせいだ。
 あの悪神が――悪神ダガヌが史之の欲望を増幅させている。
 封じ込めている本音に、土足で踏み込まれる感覚。
 史之は口の端を僅かに持ち上げ、刀を抜いた。
 本物がこの胸に燃えているのに、偽物なんかに惑わされたりしない。

「……トーラス、先輩?」
 元の世界での先輩――宇宙保安官の先輩が、何故ここに。
 自分と同じようにこの世界に飛ばされてきたのだろうか。
 ――会いたい、と思ってきた。先輩は教導してくれた人で、そして……好きだった人だから。
(違う。先輩が此処にいる訳が……)
 いつか帰ったその時は、この世界での体験や信頼できる人たちの話をして、成長した姿を見てもらいたいと『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は思ってきた。
 けれど、今はまだ。
 まだ、その時ではない。
 もっと無辜の人々を救って、この世界のために戦う特異点運命座標の務めを果たして。そうして立派に胸を張って、いつか必ず帰るのだ。
「だから、さようなら。……いつか、帰った時、話させてください」
 ムサシは幻の先輩に、深く頭を下げるのだった。

●まじわらないこころ
 旅で見た綺麗なモノを沢山話したかった。
 沢山の絵を描いて、色彩も伝えたかった。
 会ったら何の話からしようか。
 そう、思っていたのに。
「ぼくととばりは、ずっと一緒。そうでしょう、とばり」
「夏……」
 ぎゅっと握りしめてくる手の熱さは幻なんかじゃない『本物』なのに。
 それなのに、それなのに。
「痛、いよ……夏」
 眉を顰めても握る手の強さが弱まらなくて、帳は驚いた。
(どうして。会えない間に何かあったの?)
 帳のことを一番に案じて世話を焼いてくれていた夏灯。
 苦しそうな顔をすればすぐに気遣ってくれていた――はず、なのに。
「視界が……」
「……やはり幻だったか」
「皆さん、ご無事でありますか!」
「皆……!」
 聞こえてきた仲間たちの声に、帳はハッとして視線を夏灯から逸らす。それだけで夏灯が不満げに眉を寄せたことに気付かずに。
「帳殿、その御仁は……っジェラルド殿!」
 明瞭になった視界。そこに仲間たちと帳の側にいる夏灯を認めた『残秋』冬越 弾正(p3p007105)に襲いかかる影があった。
「ジェラルド殿、やはり此方に居たか。大丈夫だ、必ず貴殿を救ってみせる!」
 不意の蹴撃を正面から受けた弾正が蹌踉めくも、すぐに仲間たちの半数が弾正側へと動いた。
「ジェラルドさん、どうして……どうしてこんなことに……」
「とばりはまだあの人のことを気にするの? せっかくとばりが嫌うようにしたのに」
「え。それってどういう――」
 帳が詳しく問おうと口を開きかけた――その時。
(あいつが……! 許さない!)
 沸々と湧き上がる怒りに視界を赤く染めた史之が、夏灯を視界に収めた途端に地を蹴った。
 すぐにその動きを捉えた夏灯は帳に「はなれていて」と口にして。途端、ふぅわりとまるで柔らかな薄絹が舞い降りるように、甘い香りがその場に満ち満ちていく。
「おまえは絶対に許さない! そのお気楽な脳漿、ぶちまけてやるよ」
「ぼく、きみには何もしていません」
 おまえごときが汚していい面影じゃないと史之が腕を振るいながら零した言葉で、夏灯はああと得心が行ったような顔をして。
「それはあなたの自業自得です。
 ……まさか、悪神の神殿に――それも聖域にふみ込んでおいて、あれに何もされないと思っていたのですか?」
 イレギュラーズたちは自らの意思で悪神の神殿へと来た。夏灯は何もせず、ジェラルドが此処を守っているようだからと待っていただけだ。
 そんなことよりも、と。せっかく帳と話せると思っていたのに邪魔をされて夏灯の方が立腹だと言わんばかりに、竜撃をいなした夏灯が史之の肉を抉る。
「知っている。八つ当たりだとも」
 けれどもこの胸に溜まってしまった靄や澱のような存在は、発散させねばすっきりとしないのだ。
 エクスマリアもくらりと脳が痺れる甘い香りの中で魔法の矛先を夏灯へと定め、ジェラルドよりも夏灯への攻撃を優先した。帳には悪いが、親友とやらを叩き潰させてもらうぞ、と。
「潔く去らないのなら、マリアの八つ当たりの、的になれ」
 帳との対話を望んでいたけれど、牙を向けるのならば。夏灯も牙を剥くまで。
「させないであります……!」
 いつもよりも動きの鈍いエクスマリアとの間にムサシが割り込み、その攻撃を引き受ける。
「夏、もうやめて!」
 帳が皆を傷つけないでと悲痛な声を放つ。そんな帳に、夏灯は悲しげに眉を寄せた。
 最初に攻撃を仕掛けてきたのはイレギュラーズたちで、夏灯は自分を守るために、そして側にいる帳を守ろうと動いたまでだ。攻撃を仕返すなと言うことは、夏灯に他の皆から一方的に殴られろと言っているようなものである。
「ぼくはただ、とばりといっしょにいたくて、とばりと話がしたくて」
 ただ、とばりと逢いたくて来たのに。
 ジェラルドに肉腫がつくように仕向けはしたし、その上でもまだ帳が彼の事を思い続けるのなら――どうなっていたかは解らないが、ただ帳と話がしたい状態で、帳と会話をするいとまもなく夏灯は襲いかかられたのだ。
 それなのに帳は、皆を傷つけるなと口にした。
 ――傷つけられそうになったのは、ぼくなのに。
「やっぱり、ぼくより他の人たちが大切なんだ」
 それが、決め手だった。
「とばりの隣にはぼくしかいらない。ねえ、そうでしょう、とばり」
 話がしたいのに、邪魔をしてくる迷惑な人たち。
 ふたりの邪魔をするのだから、帳にとっても邪魔なはずだと、夏灯の瞳にイレギュラーズたちが映る。
「させない……夏に誰かを傷つけてなんて欲しくない」
「とばり? どうしてそっちにいくの?」
 帳がムサシの後方に移動して、雷槌の魔法を放つ。
 苦しそうな顔までして、どうして。
 苦しいのなら、こっちにおいでよ。
「ボクは夏の親友だから、夏が悪いことをしてるなら止めるんだ」
「わるいこと、してません」
「ジェラルドさんをボクが嫌うようにって――」
 イレギュラーズたち四人を相手にしても夏灯は顔を歪めることもなく、ただ不思議そうに首を傾げる。それは、悪いことには入らない。夏灯の中では。
(優しかった夏灯が、こんな、こんな……)
 もう夏灯は、帳が知っていた頃の夏灯ではないのかもしれない。これではまるで――。
 信じたくない思いで武器を握り、仲間たちをも巻き込む覚悟で帳は夏灯を止めようとする。
「本当に友達を想うのなら、相手を理解する努力を、相手の気持ちに寄り添うことをするべきでしょう!?」
「……それって、とばりがぼくをともだちだと思っていないって言いたいのですか」
 帳を一番に理解している夏灯――彼の中では――には、ムサシの言葉は帳のことを言っているのだと聞こえてしまうのだ。
 ムサシに殺意が向けられ、血色の魚たちが何度も立ち上がろうとするムサシからその意思を奪う。
「……とばり、とばり、ってよくやるよ。そんなに恋しいなら小指でも切って差し出したらどうだい?」
「…………。とばり、ぼくのゆび、ほしいですか?」
「い、いらない……!」
「振られたね。可哀想に、気分はどう?」
「うるさいです」
 とばりが悲しむから、命だけはとらないであげますね。
 ほら、ぼくは充分にとばりに寄り添っているでしょう?

「ああ、くそがよ。酷いもん見せやがって」
 此処は戦場で、思い出に浸る猶予なんて無い。苛立たしげに吐き捨てて、弾正へと蹴撃を食らわせたジェラルドへと急速で距離を詰めた。
 空砲で大きな音を立ててジェラルドの気を引き、仲間たちが距離を詰める間に夏灯から少しでも離れるべく移動する。
 夏灯は知らない存在でも在るし、仲間の知人程度の認識だが――それでも仲間のひとりが地を蹴った瞬間、ぞわりと背が泡立つのを感じたからだ。近くに居ない方がいいと、これまでの経験が告げている。
 邪魔をしないでくれるかなと、一応夏灯へと告げておこうとヴェルグリーズは夏灯たちへと視線を向けたが――
「キット 心 帳ダケナッテル」
「ああ、そのようだね」
 夏灯は向かってきた史之やエクスマリアの相手をしているが、全てを帳へと向けている。傍目に見てもそれが解り、もし万が一向かってきた時だけは気をつけようと、ふたりも夏灯から距離を離そうと誘導していくアルヴァを追った。
「ジェラルドさん、聞こえる? 聞こえていないだろうけれど、これだけは言わせて。
 ……絶対、助けるからね」
 ヨゾラは大きく息を吸って、杖を構える。攻撃をしたくはないけれど、絶対に全員揃って帰りたいから、意を決して。
(救う手立てがそれしかないのなら、僕は――!)
「少し痛い思いをするかもしれないけれど、キミを助ける為だから少しの間辛抱してくれるかな」
 ジェラルドの様子、仲間たちの様子に気を配りながら、ヴェルグリーズは剣を振るう。ヴェルグリーズにとってジェラルドは知らぬ相手だが、彼が竜宮の人たちに慕われていること等は帳や弾正から聞いている。
(救出に向かいたい気持ち、俺はよく識っている)
 何よりも会いたい人の元へ、向かいたい。拒まれても、手助けをしたい。手を伸ばしたい。
 だから一振りの剣として、ヴェルグリーズは必ずジェラルドを救うと決めていた。
 イレギュラーズたちは、果敢に攻め立てた。幾度か拳を交わして解ったことは、彼がタフなタイプであることだ。体力、そして立ち続けるための体作り……竜宮に敵が入り込んだ時、率先して同僚たちを守れるようにと鍛え上げられた身体。
 ――だからこそ弾正は、そんな彼が操られていることが悔しかった。
(叶うことなら、正気のジェラルド殿と殴り合いがしたかったな)
 身体を守るためのリミッターが外されている彼の放つ拳も蹴りも、どれもひとつ当たるだけでダメージが大きい。超一級のバニーボーイであり、そして戦士なのだ。
「くっ」
「やれやれ、なりふり構わずかい。本当に我儘な奴だな!」
「大丈夫 回復 間ニ合ウ」
 ジェラルドに近接しているイレギュラーズたちが傷つく度、フリークライが煌めく光を水中の神殿へと喚ぶ。
 そして更に後方からも。1人も欠けないようにと願いと祈りを込め、歌とハンドベルを奏でるレーゲン・グリュック・フルフトバーと、その音に合わせてともに歌う祝音・猫乃見・来探。
「僕にできるのは、この位……必ずジェラルドさんを救ってね」
 この位と祝音は口にするが、回復手の支えは前に出て戦う彼らの大きな支えとなっている。
 ――だが。
(これは、少し……)
 長引きそうだと、ウェールは眼を眇めた。
 イレギュラーズたちは慎重にジェラルドの体力を見極めて削っていかねばならない身ではあるが、これは大本の体力を削りきるのに時間が掛かるとウェールは判じた。初動から三名抜けている分、短期決戦に持ち込むには火力が足りていないのだ。
 しかし、回復手は充分だ。時間をかければ必ず昏倒させられることは解っている。
「次の機会がいつになるのか分からない。だから今やらないとだめなんだよな!」
 ランドウェラ=ロード=ロウスがウェールの背を押す福音を授け、ウェールはそのとおりだと離れた彼に返す。
 救える命が、次の機会もあるかはわからない。
 強欲だと思われたっていい。目の前にあるものを救うため、イレギュラーズたちは手を伸ばし続ける。殴り続けるこの腕は、彼を痛めつけている訳ではない。救うためにあがく手なのだ。
 音もなく、ずっと身を潜めていたアーマデル・アル・アマルが飛び出した。近接している仲間が四名居る以上、誰も巻き込まないことは難しい。ならばと選択するのは、弾正だ。彼ならばアーマデルを許してくれる。
「――弾正」
「ッ」
 アーマデルの攻撃を歯を食いしばり耐える。BSは、きっとすぐ後にフリークライが回復させてくれると信じている。
 腕に、全てを乗せた。たとえ竜宮であろうとも、たとえ相手が先輩バニーボーイであろうとも、相手を益荒男と認めたならば語るべくは拳で。
「響け、竜宮の奇跡! この一撃はお前を信じる仲間達の想いの力だッ!!」
 筋肉と骨と皮、それらのぶつかり合う良い音が響いた。
 ――だが!
 だが、まだ足りない。頭を狙っていれば倒せたかもしれない。けれどバニーボーイのモットーとして弾正には顔に拳を当てることなど出来なかった。
「これは僕の我儘、どれだけ遠くても星は煌めき届かせる……必ず君を死なせない!」
 蹈鞴を踏んだところを狙い、ヨゾラが《我儘》を打ち込む。これはヨゾラの誰にも死んでほしくないという気持ちが生んだ、奇跡の魔法。
 ジェラルドの体力の限界が近いことを悟ったアルヴァが身を引き、ウェールは流星を追いかけるように一歩踏み込んだ。
(みんなで帰るんだ! 1人も欠けずにみんなで!
 誰も泣かずに済むように……梨尾、父さんに力を貸してくれ!!)
 まなうらに、息子の面影が残っている。
 再会した時に、我が子が誇らしく思ってくれるような父でありたかった。
 息子似た狼たちが駆けていく。
 ――パパ、大丈夫だよ。
 そんな声が、聞こえた気がした。

 ついにジェラルドが昏倒した。
 夏灯の側には三人のイレギュラーズたちが地に膝をついているが、然れども夏灯も無傷と言うわけではない。
 ジェラルドが倒されたのを見た夏灯は切り上げ時だと判断し、「とばり、いきましょう」と手を差し出す。
 ずっと一緒に、ふたりきりで居たいから。この手を取って。
 けれど帳はかぶりを振った。
「できないよ、帳。まだ一緒にはいけない」
 何度だって繰り返す。夏灯が解ってくれるまで、何度でも。
「そう……」
 ジェラルドを昏倒させたイレギュラーズたちは、すぐに向かってくるだろう。
 倒して浚ってしまうことも出来るけれど、夏灯は帳の気持ちをいつだって尊重している。『まだ一緒にはいけない』ということは、いつかは一緒にいけるのだ。だから夏灯は『いつか』が来るのが楽しみになる。
「それじゃあとばり、またね」
「夏……」
 大好きだよとばり。また、あいにくるね。
 幸せそうに笑うと絵の具が水に溶けるように輪郭が揺らぎ、夏灯の姿は消えていた。

「夏、どうして……」
 夏灯の姿がなくなった空間に、声がひとつ落ちた。
 けれども帳はすぐに頬を叩いて立ち上がる。
 帳の名を呼んでくれる仲間たちが、帳のことを案じてくれている。
 ともに戦ってくれた仲間たちの介抱も必要だ。
「帳さん! ジェラルドさん、無事だよ……!」
 ヨゾラの明るい声が、神殿内に弾けた。
 フリークライとヨゾラの治癒の力で、意識を取り戻してはいないものの呼吸は安定しており、苦しげな表情もない。無事を確かめ終えたジェラルドを仲間へ託すと、ふたりと――それからランドウェラとレーゲン、祝音は、傷を負った仲間たちへの回復に忙しく立ち回った。
 しっかりと、自分たちの足で帰るために。
「……っ」
「ジェラルド殿」
 小さく眉間に皺が寄り、ジェラルドの瞳が薄く開いた。
「ここ、は……」
「大丈夫。キミが気にするようなことは何も起きてはいないよ」
 湖面のような穏やかさでヴェルグリーズが告げれば、それに安堵を覚えたのだろう。ジェラルドの意識はまた落ちていく。
「寝たようだな」
「幸セナ夢 見テルトイイ」
「帰ろう」
 アーマデルに付き添われながらしっかりとジェラルドを背に抱え上げた弾正がそう言い、イレギュラーズたちは揃って返事をした。
 ――帰ろう、竜宮へ。

成否

成功

MVP

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼

状態異常

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)[重傷]
愛娘
寒櫻院・史之(p3p002233)[重傷]
冬結
ムサシ・セルブライト(p3p010126)[重傷]
宇宙の保安官

あとがき

ジェラルドはイレギュラーズに救出されました。
皆さんによって竜宮に連れて帰られ、瘴緒によって極限まで酷使された身体の疲労が癒えた頃に目覚めることでしょう。

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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