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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>ノーデン大橋を越えて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●帝政派の作戦
 鉄帝という国が一変したあの政変。皇帝ヴェルスが、バルナバスに敗北し、新皇帝バルナバスとして君臨したあの事件からすこし。新皇帝の秩序泣き混沌故に、地獄を見せ始めた鉄帝という地。そこへ旧体制をよみがえらせんとする『帝政派』の面々は、今日も苛烈な戦いを繰り広げていた。
 新皇帝派の戦力は厚い。ほとんどの暴徒と、恐ろしい天衝種(アンチ・ヘイヴン)の怪物たちがあちこちで暴虐の限りを尽くし、およそ連携ともいえぬ連携により、多くの場所での悲劇を繰り広げ続けているのである。その全てに対処するには、帝政派の戦力ではとても足りず、しかし見過ごすわけにもいかない。かつての秩序と平和を取り返す、と謳う以上、虐げられ舌名を万が一にも取りこぼすことはできないのである。
 多くの場合、戦力としてあてにされるのはローレット・イレギュラーズ達であったが、それはそれとして、帝政派の所有する戦力というのも存在する。例えば、解体された官憲に所属していた、いわゆる警官隊の人間であったり、新皇帝派から離反した軍人たちなどである。
「っつーわけで、作戦の手伝いを頼みたいわけだ」
 エリ・エドヴァウと名乗った帝政派の女性軍人は、男性のようなぶっきらぼうな口調でそう言った。とはいえ攻撃的ではなく、単に口調が荒いだけであろう。
「そいつァ構わんが」
 レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン (p3p000394)が、ふむ、唸る。
「状況を教えてくれ」
「ああ。こいつはシンプルな救出作戦になる。俺たち帝政派閥の部隊が、隠密作戦でここ」
 と、地図を指さす。そこには小さな街があって、ノーデン、と記されていた。
「ここに囚われてる、反新皇帝派の住民を救い出す。どうもここの、矯正施設みたいな所に、元警官とかが押し込められてるらしい」
「矯正施設って」
 リコリス・ウォルハント・ローア (p3p009236)が唸った。
「こう……想像した通りって事でいい?」
「それでいい」
 エリが頷く。リコリスはうえー、と唸った。恐らくは、拷問、強制労働など。想像するに難くはないが、気分は悪くなるものだ。
「そんなわけだから、助け出した連中は相当消耗しているはずだ。ま、これは俺たちで何とかケアする。付近に蒸気式トラックなんかも用意してるから、運搬はできるだろうな。が、問題は」
 と、エリが町の近くの大きな橋をさした。ノーデン大橋、と書かれた、大きな橋だ。
「ここを突破しないとならんのだが……」
「ふーん? 敵がいる、のねぇ?」
 そう言ったのは、メリーノ・アリテンシア (p3p010217)だ。くすくすと笑うように言うメリーのが、とん、と地図上の大橋を指さす。
「みると、この大きな川を渡るのには、この橋を通らないといけない。そうでないならすごく遠回りになるし、時間をかければかけるほど、助けた人たちの体力も心配……」
「正解だ」
 エリが言った。
「まぁ、最悪は本当に遠回りするが……できれば最短で、此処を駆け抜けたい。が、問題は、メリーノ、アンタの言った通りだよ。ここは新皇帝派に占拠されている」
「なるほど。敵の戦力は?」
 サクラ (p3p005004)がそういうのへ、エリは頷いた。
「天衝種(アンチ・ヘイヴン)が主だ。それから若干名、あの……新世紀勇者部隊みたいな舐めた名前の連中もいる」
「『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』だね」
 スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)が、ふむん、と唸った。
「新時代の英雄を騙る部隊、かぁ。バルナバスの趣味、ってわけじゃないと思うけど」
 その言葉に、サクラは頷く。
「英雄、なんて言って乗せる……ような性格じゃないとおもうよね、バルナバスは」
「ありゃあ、新皇帝派の軍部に残った奴の立案だそうだ。レフ・レフレギノって陰険野郎だよ」
 エリが言った。
「あいつの爺さんは、昔、鉄帝軍がノーザンキングスと戦った時に、命を懸けて撤退路を守り切ったって英雄なんだよ。その孫が、バルナバスについて英雄ごっことはな。草葉の陰で爺さんも泣いてるだろうぜ」
「それはさておき、僕たちがやるべきなのは、この橋の敵をやっつける、なのかにゃ?」
 杜里 ちぐさ (p3p010035)がそういうのへ、エリは頷いた。
「ああ。俺たちが救出作戦に成功したら、この短距離蒸気通信機に連絡を入れる。そうしたら、一気に橋の上の敵を叩いてくれ。
 首尾よく全滅させたら、こっちに連絡をくれ。アンタらを回収して、一気に逃げる」
「うん。分かったにゃ。人助けなら、力を貸してあげたいにゃ」
 ちぐさの言葉に、皆は頷いた。
「きつい所を任せちまってすまねぇな。新幹線英雄マンとか言う間抜け共とは違う、本当のヒーローって奴の働きを見せてくれ。
 あてにしてるぜ、イレギュラーズ」
 そう言って笑うエリに、皆は力強く頷いて見せた。

 かくしてしばしの後に――作戦は実行に移された。イレギュラーズ達はノーデン大橋の手前にて待機し、状況を確認している。
 確かに、橋の上には防衛部隊が設置されている様だ。何体もの天衝種。武装している数名は、新時代英雄隊のメンバーだろう。
 イレギュラーズ達は、様子をうかがいながら、連絡を待つ――果たして、蒸気通信機が、ノイズ交じりの音をあげた。
『こちらエリ・エドヴァウだ。救出作戦は成功。間もなく橋に向かう。
 交通整理を頼むぜ、皆。渋滞は避けたい』
「ええ、任せてぇ?」
 メリーノは通信機にそう告げると、ゆっくりと立ち上がった。
 大橋を抜けるための戦いが、今始まろうとしている。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ノーデン大橋を越え、救出した兵士たちを無事に脱出させましょう!

●成功条件
 すべての敵の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 帝政派の兵士によって、市民の救出作戦が行われることとなりました。
 最大の懸念は、脱出ルート上にあるノーデン大橋の突破です。しかし、大橋は敵に占拠されている状態。
 救出した市民を多く抱えることとなる救出部隊に、これ以上の戦闘を繰り広げる余力はありませんし、救出した市民は、長らくの拷問や強制労働などで酷く披露しています。一刻も早く、安全な場所に運んで療養させなければならないのです。
 そのためには、ノーデン大橋を突破する必要があります。そこで、皆さんの出番です。この橋に布陣した敵を撃破し、救出部隊が脱出するための道を作ってあげましょう。
 作戦決行エリアは、ノーデン大橋の上。戦闘エリアは十分広く、何らかのペナルティは発生しません。戦闘に注力してください。

●エネミーデータ
 ヘァズ・フィラン ×6
  天衝種の怪物です。巨大なカラスのような姿をしており、集団で一体の敵をなぶり殺しにするような行動をとります。
  反応・機動力・EXAに優れ、くちばしには毒を湛えています。耐久面はさほど高くないので、まとめて薙ぎ払うと効率的です。

 オートンリブス ×4
  天衝種の怪物です。巨大なカブトムシのような姿をしており、鈍重ながら高い防御能力と強烈な攻撃力威を持ちます。
  敵の盾役のような存在です。皆の力を合わせて、確実に排除する必要があるでしょう。


 新時代英雄隊 兵士 ×4
  英雄を騙るごろつきの類です。刀剣類で武装しており、近距離アタッカーとして振る舞うでしょう。
  オートンリプスを盾に攻撃を加えてきます。攻撃力はありますが、それ以外の能力は低めです。

 新時代英雄隊 指揮官 ×1
  英雄を騙るごろつきの類です。刀剣類で武装しており、近距離アタッカーとして振る舞うでしょう。
  指揮官タイプで、このシナリオのボス格です。パラメータ傾向は兵士と似たようなものですが、それぞれ一回り高くなっています。
  名有の敵程強力ではありませんが、油断は禁物です。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <総軍鏖殺>ノーデン大橋を越えて完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年10月31日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
※参加確定済み※
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
※参加確定済み※
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
※参加確定済み※
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
※参加確定済み※
杜里 ちぐさ(p3p010035)
明日を希う猫又情報屋
※参加確定済み※
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
そんな予感
※参加確定済み※

リプレイ

●交通整理の始まり
『間もなく到着する。交通整理を頼むぜ、イレギュラーズ』
 短距離蒸気通信機から、依頼主である帝政派軍人、エリの声が聞こえた。『食べ歩き仲間』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)は、
「ええ、任せてぇ?」
 そう答えると、ゆっくりと仲間達共に立ち上がる。
 広大な川を横断する、ノーデン大橋。入り口だった。橋の中央には簡易な検問所が置かれている。視れば、天衝種の怪物たちがその中央に陣取り、辺りを睥睨していた。周囲には人間の姿も見える。新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)と名乗る、新皇帝派の軍人たちだ。見るからにごろつきと言った風貌の彼らであるが、見た目通りのごろつきまがいとみて問題はない。
「化け物従えて英雄ヅラねぇ」
 『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)がうんざりとした様子で言った。
「恥ずかしくならんもんかね……ま、奴らにとっちゃ、好き放題やれれば、英雄なんてものの重みもどうだっていいんだろうが」
 ふん、と鼻を鳴らす。それから、後方に飛ばした『鷹(ファミリアー)』に視界を『移した』。眼下には、いくつものトラックたちが走っている。中には、負傷した兵士や、救出されて消耗した人々が乗っている。彼らが合流する前に、交通整理、つまり敵の全滅を行いたい。
「まぁ、時間は十分だ。やれるだろうぜ、このメンバーならな」
「うん! はやく皆を安全な所で休ませてあげなくちゃ……!」
 『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)がそう言って頷く。真に英雄と呼ぶものがいるとしたら、それはチャロロのような優しい心を持つものであるべきだろう。あのようなごろつきに、英雄の名は重い。
「……みんな、傷ついてるんだものね……辛かったろうに……」
 チャロロがそういう。今回救助対象となった市民たちは、矯正施設なる場所で、強制労働や拷問などを受けていたと目されている。実際のところそれは事実で、エリ達は消耗した市民たちを今まさに救出して運んでいる最中である。
「ああ。この橋を渡れば、そんな人たちも安心することができるだろう。
 家族や友と離れ離れになっていたかもしれない人たちも、また会えるだろう」
 『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が静かに頷く。
「……死別は直接的でも間接的でもつらい……この苦しみを知っている人は少ない方がいい」
 遠く、思い出しながら、ウェールが静かにそういう。もしも、この橋を渡れず、遠回りをすることになってしまえば、酷く消耗した人から、命を落としてしまうかもしれない。その可能性を考えれば、此処で足踏みさせてしまうわけにはいかないだろぅ。
「よしっ。じゃあなるはやでやろうか」
 『お師匠が良い』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)は静かにそう言った。フードを目深にかぶり、その下に隠された瞳は以下な表情を見せているのだろうか。
「ふふ。英雄ねぇ。良いんじゃない。うん、ちょうどいい。
 ボクはおやつと報酬をくれる優しい人の味方で、英雄を騙る賊の敵。
 やることは単純。得られる報酬もシンプル。さぁ、レッツロックンロール(はじめようか)!」
 レッドフードは不敵に笑う。がしゃん、と鳴らすは無銘の銃。撃ち抜くは間抜けなかかしども!
「サクラちゃん、気をつけてね」
 『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が言う。
「見た限り、英雄隊っていう人たちは大したことはない相手だと思うけど……数が多いと、不意を打たれちゃうからね」
「うん、わかってる。ありがとう」
 『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は微笑んで頷いた。
「じゃあいつもどおり、みんなを助けちゃおうね、スティアちゃん!」
 それから、勇気を胸に、その表情に。家伝の刀を抜き放ち、友と刹那の目くばせをする。
「いくにゃ、みんな!
 交通整理の時間にゃー!
 ……って、なんか僕悪者っぽいにゃ!」
 むむむ、と『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)と小首をかしげるのへ、メリーノが笑った。
「ふふん、英雄様と戦うのですもの。わたし達は悪漢(ピカロ)たるべきですわねぇ。
 というわけで、さ、参りましょう、ちぐさちゃん?」
 そう言って手を差し出すのへ、ちぐさはぎゅっと握ってみせた。
「じゃあ、今だけ僕もわるものにゃ! 英雄をやっつけて、みんなを助ける!」
 それは、皆が同じくする思いだ。必ず、後ろに待つ人々を助け出す。その為の戦いを、今始めよう。
 イレギュラーズ達は、橋の中央にむけて突撃する! 果たしてそれに気づいたのは、自称英雄のチンピラだった。
「おい、なんか来たぞ!?」
「なんだ!? 死にてぇのか!?」
 口々に罵詈雑言を吐き出すチンピラに、レイチェルは苦笑する。
「もうちっと品ってものをさァ……」
「期待するだけ無駄だと思うよ?」
 チャロロの言葉は、まったくその通りだろう。とはいえ、それを強制してやる理由もぎりもない。
「やるぞ! 一気に片を付ける!」
 ウェールの言葉に、仲間達は頷く。チンピラたちは、
「敵か!?」
「カブトムシをとりあえず盾にしとけ!」
 ぎゃあぎゃあとわめき、ようやく応対する。カブトムシタイプの天衝種、オートンリブスが盾とならんと立ちはだかる。
「スティアちゃん、チャロロちゃんおねがいねぇ?」
 メリーノがそういうのへ、スティアが頷いた。
「うん! チャロロさん、前に出るよ!」
「わかった! まとめて引き付けよう!」
 チャロロが頷き、前へ飛び出す。敵を引き付けるように動く二人に、カブトムシのターゲットが向いた。がちん、がちん、と脚を鳴らし、カブトムシが突撃! 砲弾のごとく飛び出すそれを、二人はタイミングよくジャンプして、空中へと逃れて見せた。軽業のように、空中で二人がすれ違う――同時、飛来するのは、ヘァズ・フィラン! 巨大なカラスのような怪物だ!
 二人の間を擦過する、巨大なカラス。その爪、翼は、まるでナイフのように、二人の肌を傷つけた。
「サクラちゃん!」
 スティアが叫ぶ。それだけで、意図は通じている。サクラは抜き放った刀を陽光に煌かせ、跳躍!
「まとめて薙ぎ払うよ!」
 斬撃! 輝く剣閃は、乱反射する光のように戦場を踊った! 数匹のカラスに次々と切り傷が作られ、ぎゃあ、ぎゃあ、と鳴き声を上げて上空へ逃れる!
「はい、そこからどこに逃げるのかな?」
 リコリスが呟く――同時に放たれた銃弾は、空へと逃れたカラスを次々と撃ち貫く。ずがん、と強烈な射撃音が鳴り響くたびに、一羽、一羽とカラスが落下していく。
「な、なんだこいつ等! 強ぇぞ!?」
 チンピラが喚く。とはいえ、それで臆して逃げてくれるわけでもないらしい。チンピラは支給されたのであろう軍刀を引き抜くと、雄叫びと共に突撃してきた。ギラリと光る鋭い軍刀が、上段から振り下ろされた。ちぐさはそれを、後方にステップして回避。
「にゃっ。あぶないにゃ!」
 ちぐさが悲鳴を上げるのへ、チャロロが叫んだ。
「ごめん、こっちで引き付ける! 後ろに下がって!」
「りょうかい、にゃ!」
 ちぐさがくるり、と回転しながらさらに後方へと跳躍。そのままさらに、その手を強く前へと突き出した。その手は印を描くように、或いは銃を模したように、人差し指と中指を突き出した形だ。
「術式:ベリアル・インパクト、にゃ!」
 詠唱による術式発動。同時、橋のタイルの隙間から、さらさらと砂が巻き起こり、同時、それが巨大な壁となった。四方より迫る、壁。それがチンピラの一人を四方から囲み、強制的に土葬せしめんとする!
「ぐ、えっ!?」
 圧迫され、強く息を吐き出したところで、反射的にチンピラの意識が途絶えた。ざぁ、と土が一斉に引いた瞬間に、苦しさに目を回して意識を手放した男がくずおれる。一方で、撃ち漏らされたカラスどもは、きぃきぃと雄たけびを上げながら、振り落ちる矢のごとく突撃を敢行する。鋭い、降り注ぐ矢。イレギュラーズ達はその攻撃をよけつつ、走り回るカブトムシ、その隙間を追って攻撃してくるチンピラたちの相手を押し付けられることとなっていた。
「ちっ、さすがにこうも数が多いとな!」
 ウェールが叫びつつ、
「だが、救える命を救うために……焦らず迅速に倒すぞ!」
 上空を舞うカラスたちへ、カードを掲げた。とたん、そのカードは瞬く間に銃へと変化し、ウェールの手にすっぽりと収まっていた。すぐさま、ウェールはそのトリガーを引く。たたたたん、と軽くも鋭い音が響き、銃弾がカラスたちの身体を突き破る!
「ぐえ、ぎゃっ!?」
 カラスたちの断末魔は、さほど聞こえのいいものではなかっただろう。
「あおあおーん、ってね! ボクもいただき!」
 もう一人の撃手、リコリスが叫ぶ。放たれた銃弾、二人の狼。その銀弾が、次々と飛翔するカラスたちを打ち落としていた。やがて真っ青な空に、飛ぶものはいなくなる。
「よし、これで鬱陶しいのはいなくなったな」
 レイチェルが言う。
「めーちゃん、カブトムシ頼む! 待ては終わりだ!」
「ふふ、待ってましたぁ」
 メリーノが笑った。その身体には不釣り合いなほどの大太刀を軽々と掲げ、イレギュラーズ達の攻撃によって弱体したカブトムシへと迫る。
「黒くて大きい虫は好きじゃないわぁ。なるべくバラバラにしたいのよぉ」
 にっこりと笑って、上段から大太刀を振り下ろす。ばず、と音を立てて、カブトムシの首が落ちた。巨大な甲殻、筋線維をまとめて切り抜くのは、業か、膂力か。
「よーいしょ、っと」
 メリーノはそのまま、落とした首から体の方に向けて、大太刀を突き刺した。些か軽い声を上げながら、その声と同様に軽いのだ、と言うかのように、軽々とカブトムシの胴体を持ち上げて、
「えーい!」
 と橋の下に放り投げて見せた。するり、と大太刀からカブトムシの胴体が抜け落ちて、川へと落下していく。わずかの、ひゅう、と言う落下音の後に、ぐしゃり、と爆発するような音が聞こえた。
「うん。良い感じぃ」
 にっこりとメリーノが笑う。レイチェルがひきつった笑顔を見せた。
「ひえぇ……俺も色々となれたもんだと思ってたがなァ……」
「ほらほらぁ、よーちゃんも、次持ってきて? 次々ぃ♪」
 にっこりと笑うメリーノに、レイチェルが苦笑を返す。
「ま、頼りになるのは良い事か。よし、さっさと交通整理をしちまおう」
 さて、戦いはイレギュラーズ達の優勢のままに続いていく。敵のスピードアタッカーであろうカラスどもを早々に潰し、次はメインシールドにあたるカブトムシたちを、的確に潰していく。
「天義の聖騎士、サクラ。推して参る!」
 声と共に、サクラが刀を振るう。甲殻と筋線維の隙間、柔らかい部分を適切に切り裂くそれは、間違いなく業であろう。サクラが切り裂き、無力化したカブトムシを、チャロロが機械盾を使って突撃、橋の下へと吹き飛ばす。
「これ、道の真ん中に置いておいたら邪魔だものね!」
「そうだね。交通整理だもの。道は空けておかないと」
 むむー、とサクラが口元に人差し指をやって唸った。
「くそ、化け物どもめ!」
 チンピラが、あっさりとカブトムシを撃破していくイレギュラーズ達に、恐怖と怒りを叩きつける。鋭い軍刀は、適切に振るえば何でも斬れる業物であっただろうが、チンピラたちの技量は、それに追い付いていない。
「……勿体ないなぁ、剣が泣いてるよ!
 貴方達には何もない! 志も、強さも! そんなんじゃあ、民を守ろうとする私達は止められないよ!」
 サクラが叫ぶ。同時に、鋭く刃を振るえば、チンピラの胸当てに、鋭い斬撃痕がついた。胸当てが無かったら、確実に死んでいただろう。だが、いつ、斬られたのか。チンピラには認識できていない。
「く、そ……!」
 チンピラが、怒りと共に刃を振り上げる。が、そこに突き刺さったのは、リコリスの銃弾だった。ずだん、と胸当てを狙い、衝撃を体中に伝播させる。その激痛に、チンピラはあっさり意識をほうりだして倒れてしまった。
「レッツロックンローーール!!
 こんなに撃ち甲斐のある戦場、お師匠にいっぱい自慢できちゃいそうだよ!
 取って食うことしか考えられなくなったキミ達に、取って食われる恐怖を思い出させてあげるねっ!」
 あはは、と笑うレッドフード。今はこの戦場の狩人である事に違いはない。愚かな英雄気取りに、現実を教えてやるのは彼女の役目だろうか。
「何をやってやがる! タダメシ喰らいどもが!」
 罵倒する英雄隊の指揮官。ウェールが問答無用と銃弾を撃ち込むと、指揮官は軍刀で、その銃弾を受け止めて見せた。
「なるほど、部下よりは有能のようだが――」
 感心した声をあげるウェールだが、しかしその程度だ。思ったよりは、やる。その程度。英雄を名乗るには、ほど遠い。
「ちぐささん、援護を頼む!」
「りょうかいにゃ! いくにゃー!」
 再びその手を掲げるちぐさ。大地より砂の棺が盛り上がり、四方から指揮官を狙って攻撃を開始する!
「くそ、舐めやがって!」
 下卑た声を上げながら、指揮官は砂の棺を切り裂いた。だが、その衝撃は、身体に走り、ノーダメージとはいかないようだった。
「畜生!」
 叫びと共に、指揮官は剣を振り上げて駆ける。が、その進行先に、スティアが立ちはだかった。ぱちん、と本型の魔道具を鳴らすと、そのページが空薄明かりが飛びでて、天使の羽根のような光があたりに漂う。それはスティアの眼前で散開して、壁のように指揮官の攻撃を防いでみせた。
「なんと……!?」
 指揮官が驚愕の声をあげる。スティアは、きっ、と指揮官を睨みながら、その手を振るった。
「悪いけど、ここを通らないといけないんだ。意地でも押し通らせてもらうよ」
「ちっ、俺たちを誰だと――!?」
「新皇帝派の英雄さんでしょう? でも、そういうの、間に合ってるからっ!」
 ばん、と破裂音がして、スティアを守っていた天使の羽根がはじけるように飛び散った。その衝撃に、指揮官が後方へと吹っ飛ばされる。何とか着地してみせたところを見ると、やはりそれなりの実力はあるのだろう。が、今この時点では、その実力も焼け石に水ともいえる。
「他の連中は……」
 援護を求めるように、指揮官が口にする。が、それに答えたのは、メリーノだった。
「ええ、全部谷底」
 メリーノが橋から下を指さす。
「というのはうそですけれど。まぁ、カブトムシは全部落としました――が。部下の方は一応、端っこの方へ」
「というわけで、孤立無援だな」
 レイチェルが言った。ぶち、と人差し指を噛みちぎる。あふれ出る血を宙になぞれば、その地は宙に固定され、赤の魔法陣を描く。
「加減はしねぇが、トドメもさす気もねぇ。お前みたいな間抜けに、いちいち死亡確認なんぞしてられるか。こっちは忙しいんでな」
 魔法陣から、ばぢ、ばぢ、と強烈な炎が爆ぜる音がした。瞬く間に、魔法陣の線一つ一つから、ぼぼ、ぼぼ、と炎をが吹き出し、それはやがてまとまって、強烈な焔となる。
「生きてたら英雄ごっこなんてやめて、田舎で真面目に暮らせよ」
 嘲笑するように笑みながら、レイチェルはぱちん、と指を鳴らした。魔法陣から放たれた炎は、自称英雄をその身の内の飲み込み、嘗め尽くした――。

「見事なもんだ」
 トラックの荷台から飛び降りたエリがそういう。交通整理は、見事に完了していた。十台弱のトラック団体が橋の入り口にやってきて、イレギュラーズ達の姿を確認している。
「負傷者はどのトラック?」
 スティアが言った。
「少しでも、助けになりたいの」
「僕も、手当とかしてあげたいにゃ」
 ちぐさもそういうのへ、エリは頷いた。
「ああ、後ろの……赤い布ついたトラック。分かるか?
 とくに傷の深い奴は赤い布についてる。中に衛生兵がいるから、手伝ってやってくれると助かる」
「まかせて。ちぐささん、サクラちゃん、手伝って!」
「うん、スティアちゃん」
 サクラが頷く。
「救出部隊のみんなありがとう! このまま走り抜けて市民を安全な場所まで連れて行って!」
 サクラが言うのへ、トラックの兵士が叫んだ。
「こちらこそ、だ! ここからは任せてくれ!」
 その言葉に、サクラは嬉しそうに頷いた。
「よし、皆、トラックに乗せてもらおう。橋を越えるまでは、俺も一応、ルートの確保を行う」
 ウェールが言うのへ、エリは頷いた。
「助かる。さぁ、行こう!」
 残るイレギュラーズ達はトラックに乗り込み、橋を越えた。ウェールたちが安全を確保しつつ橋を渡る。激戦はくりひろげられたが、それでも、橋を渡るのはほんの数十秒の間だった。
「よし、後はサングロウブルクまで飛ばす! 乗ってくれ!」
 兵士の声に、仲間達は頷く。荷台に乗りこめば、兵士たちが英雄の帰還を歓迎してくれた。
「エリ、レフって奴の事を聞きたいんだが……」
 レイチェルがそう尋ねるのへ、エリは頷いた。
「ああ。新皇帝派の軍人関係で、結構な勢力を築いているらしい。
 鉄道城塞都市ボーデクトンもアイツの縄張りだ。いつか戦うのは避けられねぇだろうな……」
 その言葉に、レイチェルは静かに頷いた。
 いつか相対するであろう、偽りの英雄たちの首魁。その名を刻みつつも、しかし今は作戦成功の心地よい達成感に浸る、イレギュラーズ達だった。

成否

成功

MVP

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 交通整理は完遂――負傷者たちは、皆無事に一命をとりとめたようです。

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