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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>"悲哀の子"スウィンバーン。或いは、其は正義の執行者…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●スウィンバーンの正義
「俺の治世(ルール)は簡単だ。この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ」
 新皇帝バルナバスの放った勅令が、鉄帝全土を騒乱の渦へ叩き込む。
 鉄帝各地で起きる騒乱や、民衆の暴動、それによる治安の悪化と感化された魔物の暴走。
 血と涙が流れ、人々は愛する者を失う恐怖と不安に夜も眠れない。

 鉄帝南部。
 夜の闇に悲鳴が響く。
 血飛沫、慟哭、地面に転がる人の首。
 流れた血と、腹から零れた臓物の散る夜の荒野に、1人の騎士が立っていた。
 黒き巨馬に跨った、白い鎧の騎士である。
「問おう。貴様は“正義”か、それとも“悪”か。悪であれば、その首を差し出すがいい。愛と信仰の御旗のもとに、我が神の下へと送り届けてくれよう」
 影を纏い、くぐもった声で騎士は問う。
 騎士の前には、両腕を失った鎧姿の男が1人。
 すっかり青ざめた顔で、カチカチと歯を震わせている。
「せ、正義……? 悪……? 正義も悪も、そんなものどこにもありゃしねぇだろ! この世にあるのは、どこまでも自分勝手なエゴだけだ! 皆、そうやって生きてんだろうが! 正義だ悪だなんてのは、偉い奴が、自分の都合に合わせて誰かの行為に付けた呼び名に過ぎねぇんだよ!」
 男の鎧は血に濡れていた。
 自分や仲間の血だけではない。つい数時間前に、旅団を1つ、襲って壊滅させたのだ。旅団に恨みがあったわけではない。ただ、生きる糧を得たかっただけだ。
 食わねば人は生きていけない。
 食うためには奪わねばならない。
 それを“悪”と言うのなら、大地に蔓延るあまねく全ての生き物は、生まれた時から罪人だ。
「誰だってテメェが生き延びるのに必死なんだ! 俺らも、そこらの難民キャンプの連中もよぉ! 知ってるか? 難民キャンプの奴らと来たら、俺ら盗賊もブルっちまうような冷血漢ばかりだぜ!」
 血と胃液を吐き散らしながら、鎧の男は好き勝手に吠え猛る。
 影を纏った白騎士は、男の話に黙って耳を傾けた。
「俺らに襲われる旅団をよぉ! あいつら、遠目に黙って見てたんだ! キャンプに逃げ込んだ旅団の1人に、石を投げつけ追い出しやがった! あぁ、仕方ねぇよな! 向こうだってギリギリの生活をしてんだからな! 俺らに目ぇ付けられた厄介者を受け入れるような馬鹿はしねぇ!」
 狂ったように……否、死と恐怖を前にして男はおかしくなっていたのだろう。
 血の泡を噴き、男は喚く。
「生きるために必死な俺らを、てめぇは“悪”だって言うのかよ!」
 無い腕を伸ばし、男は叫ぶ。騎士の胸倉を掴もうとしたのだろう。
 一閃。
 騎士が剣を振り抜く。
 次いで血飛沫。
 男の首が地面に落ちる。
「あぁ、“悪”だ……助けを求める者を見捨てるなど、度し難いほどの“不義”である」
 地面を転がる男の首が。
 そこらに散らばる盗賊の遺体が、汚泥と化して崩れ落ちた。
 地面を這うように汚泥は騎士の元へと集まり、鎧の内へと吸い込まれていく。
「故に我が鉄鎚を下そう。このスウィンバーンが、すべての“不義”に鉄鎚を下そう」
 そう言って、スウィンバーンは夜闇の中へと消えていく。

●悪に裁きを、不義には鉄鎚を
「あぁ、そいつは間違いなくスウィンバーンだ。スウィンバーンが何かと聞かれると……アンデッドと言うのが一番、近いだろうな」
 そう言ってセレマ オード クロウリー (p3p007790)は肩を竦める。
 "悲哀の子"スウィンバーン。
 セレマが多く契約している魔性の1柱の名だ。
「詳しい話が聞きたいのか? そうでないのなら、今はかいつまんで重要な点だけを話すとしよう」
 スウィンバーンは自我を持つアンデッドだ。
 生前の記憶と意思を、歪んだ状態ながらも保持し続けている。
 何でも、アンデッドと化した肉体に、ゴーストと化した精神が取り憑き動かしているのだと言う。
「厄介だぞ? 言葉が通じるからと言って、意思の疎通が図れるというわけじゃない。スウィンバーンにとって何よりも重要なのは、自分自身の信仰と正義だ。それに反すると判断すれば、生まれたばかりの赤子だろうと容赦なく首を刎ねるだろうさ」
 今回、スウィンバーンが鉄帝に現れたのもきっとそれだ。
 治安の悪化と、それに伴う“不義”の横行を嗅ぎつけて、正義を執行しに来たのだ。
「世直しのつもりか? まったく、今の鉄帝国でそんなことをするつもりなら、行きつく先は皆殺しということになるな?」
 嘲るような笑みを浮かべて、セレマは肩を竦めてみせた。
「何しろ相手はアンデッド。疲れ知らずの化け物だ。奴は自分の影を武器として扱うんだが、かなり広い攻撃範囲と威力を誇る」
 便利だぞ?
 悪戯っぽくセレマは言った。
 ゾゾ、とセレマの足元で、影が一瞬蠢いたように見える。
「影の武器は【重圧】と【奈落】【塔】の効果付きだな。手にした槍や剣の方には【必殺】と【ブレイク】。そして、身に纏う影には【棘】【飛】……そして、底知れぬ生命力。いや、死体相手に生命力と言う言い方も妙な話だが、あれは随分と死から遠ざかった存在なんだ。実に面倒な手合いだが、やり合う術が無いわけでもない」
 長い年月、活動を続けたことが関係しているのだろう。
 スウィンバーンの思考と記憶は、長持ちしないとセレマは語る。
「今回の任務は、難民キャンプの連中を避難させるというものだろう? 難民キャンプは3つ……荒野の墓所に隠れ潜んでいるんだったか? 住人は50人? 早々に遠くへ避難させて、ボクたちもさっさとその場を離れる。とりあえずはそれでいいだろう」
 或いは、スウィンバーンをその場から遠ざけるのでも構わない。
 重要なのは、時間と距離だ。
 スウィンバーンの目論見を、1つ潰してくれようと。
 口角を吊り上げ、セレマは肩をくっくと揺らした。
「言っておくが、奴は非常に残虐だぞ? 何しろ自分が“正義”そのものであると信じきっているのだからな」

GMコメント

●ミッション
難民キャンプの人員50名の救済

●ターゲット
・"悲哀の子"スウィンバーン
https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/3841
黒馬に跨る、白い鎧を纏った騎士。
アンデッドと化した自身の体を、ゴーストと化した魂が憑き動かしている。
鉄帝国の人々を“悪”や“不義”と断定し、裁きを下して回っている。
現在は「盗賊に襲われる旅団を見捨てた難民キャンプの住人たち」の行いを“不義”と断じて、裁きに向かっているようだ。
※纏った影には【棘】【飛】の効果が付与されている。

あまねく不義に鉄鎚を:物近単に特大ダメージ、必殺、ブレイク
 生前より愛用していた武器による精錬された武技。

正義の御旗のもとに:神中範に大ダメージ、重圧、奈落、塔
 展開した影の武器による攻撃。

・難民キャンプの住人たち×50
鉄帝の荒野へ逃れて来た難民たち。
付近には3つの難民キャンプがある。
スウィンバーンのターゲットとされているが、彼らはまだそれに気が付いていない。

●フィールド
鉄帝南部のとある荒野と、荒野の墓所。
枯れた土地であり、人が住むには向いていない。荒野には大きな岩などが転がっているほか、枯れ果てた川の跡地がある。川の近くにある墓所周辺に難民たちが集まっている。
墓所には墓石が並んでいるため、荒野に比べて身を隠しやすいだろう。
数百メートルほどの距離をあけて、墓所には3つの難民キャンプがある。
※難民の全滅を避けるためにキャンプを3つに分けているようだ。
難民キャンプA、B、Cと仮称。
荒野を南西へ2キロほど進むと森が、北東へ2キロほど進むと古城がある。
※難民たちを森か古城へと逃がすか、スウィンバーンを森か古城へ追いやるかすれば依頼は成功となる。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <総軍鏖殺>"悲哀の子"スウィンバーン。或いは、其は正義の執行者…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年10月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
シラス(p3p004421)
超える者
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
※参加確定済み※
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
佐藤 美咲(p3p009818)
無職

リプレイ

●襲来するスウェインバーン
 どう、と影が押し寄せる。
 その中心には、穢れの無い鎧を纏った巨躯の騎士が立っている。
「道を開けよ。我は鏖殺を行うものなり。我は正義の執行者なり」
 地の底より響くような低い声。
 声に色があるとするなら、その声はきっと黒だろう。
 手にした槍の石突で、地面を強く打ち据える。
 カツン、と硬い音が響いた。
 ぞわりと騎士の影が蠢き、無数の武器を形成する。広がった影から伸びる武器が、眼前に佇む数名へと一斉に襲い掛かる。
 風が唸る音がして……
「くくっ、良いですねぇ『正義』。しがない悪徳貴族には目に毒ですよ」
 力を込めて固めた筋で、巨漢が武器を受け止める。『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)の脇腹を裂いた影の刃が、血に濡れてぬらりと光って見えた。
「会長もね、正義っていう免罪符が大好きなんだ」
 ぽん、とその背に手を触れて『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は微笑んだ。
 血濡れた鉄火場に不似合い。
 ひどく場違い。
「ってことで、正義の押し付け合いと行こうじゃん。戦争だよ、戦争」
 開戦である。

 "悲哀の子"スウィンバーン。
 黒馬に跨る白騎士は、己を愛と正義の執行者であるという。
 暴力から逃れ、故郷を捨てて、他人を見捨てて、ようやくといった有様で生きる難民たちのキャンプこそが、スウィンバーンの目的地。
 彼の騎士がそこに辿り着けば……その先は想像に難くない。
「あまねく悪を誅殺せよ。罪人どもは、こぞって我の眼前に己が首を並べて悔いよ」
 淡々と。
 スウィンバーンが言葉を紡ぐ。
「――――――」
 槍を振るうスウィンバーンの背に、幽かな声が投げかけられた。
 ピタリ、とスウィンバーンの動きが止まる。
 手にした槍も、影の武具も。
「……今、何を口にした?」
 背後へとスウィンバーンが目を向ける。
 そこにいたのは青い髪の美少年。『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)だ。白い手を胸に当て、嘲るような笑みを口元に貼り付けている。
「そんな融通の利かねえ信仰ごっこしてるから、女に捨てられるんだよ。お前のことを金鶴としか見なかった死んだアバズレの尻をまだ追いかけてるのか……と言ったんだ」
 なんて。
 言葉を舌に乗せた瞬間、スウィンバーンの投げた槍がセレマの胸を貫いた。

 血を吐いた。
 スウィンバーンが黒馬の腹を踵で蹴って走らせる。
 初撃はセレマの命を断つに至らない。しかし、2発を続けて受ければ終わる。
「ぐ……っは」
 腹に刺さった槍を引き抜く。
 随分と重たい槍だ。
 一閃された大剣が、セレマの首元へ迫る。
「行き過ぎた正義ほど、傍迷惑なものもない、な。正義の前に、まず正気を持ってもらいたい」
 剣を受け止めたのは、金の糸で複雑な文様が描き込まれた黒い手袋。
『金色凛然』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)がスウィンバーンの斬撃を止めるが、代償に腕の骨が軋んだ。
 速く、重い。
 剛力無双かつ技も巧みな白騎士は、斬撃を止められたことに何ら動揺さえも見せない。すぐさま手首を翻し、続けざまに2撃目を打ち込む。
 瞬間、その側頭部を短剣が打った。
「自分だけの視点に立っても、何も見えないものよ」
 不意打ちを成功させたのは、白い女だ。片手で操る短剣は、魔力によってか『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)の周囲を縦横無尽に駆けまわる。
 刹那の間、スウィンバーンはヴァイスへ意識を向けただろうか。
 しかし、ヴァイスの操る短剣はスウィンバーンに大きな傷を与えない。
「羽虫か」
 たったそれだけを言い捨てて、ヴァイスから視線を外す。
 
 頑強にして迅速。
 多少の傷を厭うことなく前進し、一切の躊躇なく得物を振るうその姿は、まるで暴風のようだった。
 影が蠢く度に無数の武器が現れ、かと思えば次の瞬間には一気呵成に距離を詰める。
その様を空から見下ろして『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は額に滲んだ汗を拭った。
「セレマ氏に敵の気を引く秘策ありとのことですが……まさかさっきの悪口なんスかね?」
 確かに効果は覿面だった。
 スウィンバーンにとって、先にセレマが吐いた言葉は決して看過できるものでは無かったのだろう。今もスウィンバーンの狙いは、セレマ1人に絞られている。
「時間をかけるだけ不利でスかね。えぇっと……他の2人は」
 荒野を見渡し、視線を走らす。
『竜剣』シラス(p3p004421)と『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は今頃どこで何をしているのか。

 墓標のように、無数の武器が立っていた。
 その中心で、剣を降ろしたスウィンバーンが立っている。
 黒馬が荒く鼻息を鳴らした。
「よく分かった」
 低く唸るような声で、スウィンバーンはそう言った。
「正義の執行を阻む者は、我の道に立ちふさがるものは、あまねく悪であったのだ」
 なんて。
 憤りを抑えるようにそう言って。
 直後、その顔面に『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)が渾身の殴打を叩き込む。

「吾の知る正義とはいささか違うな。だが、強い者が好き勝手に振舞うのは当然のことであろう」
 肩に刺さった槍を引き抜き、百合子はふんと鼻を鳴らした。
 力を込めて握りつぶした影の槍が霧散する。
「お前の振るうものは正義や信仰ではなく、ただの暴力だといった所で弱ければ何の価値もあるまい」
 そう言って百合子は拳を握って腰を落とした。
 皮膚が削れた拳から、ぽたりと血が滴り落ちる。

「……アレはきつい。したり顔でしゃべってる最中にアレをやられるときつい」
 脚を止めて『竜剣』シラス(p3p004421)はそう言った。
 それから視線をセレマへ向ける。
「……なんだ? 何か言いたいことがあるのか?」
 千切れかけた顎を押さえてセレマは答える。
 肩を竦めて、シラスは「いいや」と首を振った。数歩、前へと歩み出ながらスウィンバーンへ呼びかける。
「よぉ、スウィンバーンだな、弱者ばかり狙う卑怯者らしいじゃないか。違うならローレットを相手してみろ、悪事なら俺達も散々に働いてきたぞ」
 
●荒野の激闘
 難民キャンプに背を向けて、セレマは荒野をひた走る。
 幾度もの苦難に襲われて、難民キャンプの者たちはすっかり心が折れていた。スウィンバーンの襲来を知って、それでも彼らはその場を離れようとしなかった。
 荒野での生活は決して過ごしやすいものでは無いだろう。
 それでも、焼かれた故郷や都市の近くよりは安全だということだ。
「来てるスよ! 避けて!」
 頭上から美咲の声が響いた。
「まぁ、予想通りだ……それならそれでっ……!?」
 セレマの腹に影の槍が突き刺さる。
 よろけて地面に倒れたセレマが、口から滂沱と血を吐いた。
「っ……死ぬほどいてぇ」
 倒れたセレマに無数の武器が襲い掛かった。
 叩きつけられた斧を、ウィルドが肩で受け止める。
「正義を阻むか。いかにも悪党らしいことをする」
 数度、続けて斧や槍、剣が閃く。その度に血飛沫が散った。
「私の経験上、自から『正義』を名乗る輩というのは、正義の毒に脳までやられてる者ばかりですがね」
 振り上げた右腕を、ウィルドは斧へと叩きつけた。
 へし折れた斧が、影へ戻って霧散する。
 ウィルドが影の攻撃を引き付けているその隙に、腹を押さえたセレマの襟を茄子子が掴んで引き摺った。
 影の攻撃範囲から脱すると、茄子子とセレマは肩を並べて疾走を開始。
 少しでも難民キャンプから離れるためだ。
 その背へ向けて、スウィンバーンが手斧を投げる。
 ひゅん、と風を斬り裂いて。
 投擲された手斧の前に茄子子が身を躍らせた。
「っ……!? か、会長が一人も落とさないっつったら落とさないんだよ……あー痛い」
 裂けた背中から血が滲む。
 白い衣が朱に濡れる。
 接近するスウィンバーンへ向けて、セレマがふいに手を翳す。
 閃光。
 真白い光がスウィンバーンの纏った影を掻き消す。
「……」
「どうしたスウィン、お前の貸した武器と、お前の債権を行使しているだけだぞ?」
 なんて。
 それだけ言って、セレマは再び逃げ出した。

 スウィンバーンの纏う影が消え失せた。
 その瞬間を見計らい、シラスと百合子が攻勢に出た。
「待ってたぜ!」
 手刀の一撃を、スウィンバーンの手首へ打ち込む。リィン、と空気の震える音。魔を封じる結界が、スウィンバーンの手を包む。
 ついで、黒馬の喉へと貫手を叩き込んだ。
 馬が嘶き、スウィンバーンがよろめいた。
「効いてる。押していくぞ」
 シラスがスウィンの武器を封じる。
 懐へと潜り込んだ百合子が、両の脚を地面に踏ん張る。
 瞬きの間に3発。
 腹、胸、顔面へと叩き込まれた鋭い殴打が、スウィンバーンの鎧を歪めた。
「個人的に言うのであればお前は悪だ。何故なら吾の邪魔をする」
 そう告げる百合子の手から肘にかけて、深い裂傷が刻まれている。白い手を真っ赤に濡らす鮮血を舌で舐めとって、百合子は眉間に皺を寄せた。
 一度は消したはずの影が、いつの間にか再生していたのだ。未だ腕に絡みついたままの影を払い除け、確かめるように何度か拳を開閉する。

 シラスと百合子の攻撃を捌き、スウィンバーンは包囲を抜けた。
 直後、襲い掛かる無数の魔弾。
 エクスマリアの放つ魔弾の弾幕を、防御するでもなく、回避するでもなく、スウィンバーンはひた走る。
 後退しながら攻撃を続けるエクスマリアが、ほんの微かな舌打ちを零した。
「肉体も魂も、余さず葬る……と、言いたいところだ、が。滅し切るには、これでも足りない、か」
 スウィンバーンの移動速度は速かった。
 あっという間にエクスマリアとの距離を縮めて、行きがけの駄賃とばかりに剣を一閃。エクスマリアを斬り捨てて、セレマを追いかけるつもりだろう。
 しかし、スウィンバーンの剣がエクスマリアを引き裂くことは無かった。
 弾幕に紛れて接近していたヴィリスの掌打が、黒馬を後方へ弾いたからだ。
 それと同時に、ヴィリスの身体も後方へ飛ぶ。
「素早く倒して、平穏を取り戻したいものね」
 地面を数度跳ね転げ、起き上がったヴィリスの半身は血に濡れていた。掌打を右腕から、右の胸部にかけてを影に穿たれたのだ。
 よろけながら立ち上がる。
 それからヴィリスは、視線を右へ。
 戦闘の音に気が付いたのか、難民キャンプが騒がしい。
「難民キャンプの方々が正義かどうかと聞かれて私は是と答えられないけれど」
 難民キャンプの者たちは、生きるために他者を見捨てた。
 その行為を指して“善行”とは決して呼べないだろう。
「そもそも正義なんて言うものは信念や理想の上に立つものなのだから、難民にそれを説くというのも些か無理があるわよね」
 スウィンバーンも難民キャンプの騒ぎに気付いているだろう。
 いつ、その凶刃が、難民キャンプへ向かうとも限らない。
「まったく。死霊と死体のほうが、生けるものより死ににくいとは、巫山戯ている、な」
 スウィンバーンの注意を引くべく、エクスマリアが魔弾を撃ち込む。それを剣で薙ぎ払い、スウィンバーンは進行を再開するのであった。

 退いては攻めて、攻めては退いて。
 やっとのことで、古城の影が見えて来た。
 スウィンバーンは、セレマのすぐ背後へ迫る。
「まったく、正義だなんだと小煩い……見捨てられた者が哀れなら、自らが手を差し伸べて救えば良い」
 斬撃がウィルドの肩から胸にかけてを斬り裂いた。
 傷口を押さえ、口の端から血を吐いて、ウィルドは眉間に皺を寄せる。その巨体を押し退けて、スウィンバーンはセレマを追った。しかし、ウィルドはスウィンバーンの手首を握って、その場に留める。
 肩から胸にかけての傷が、じわりと塞がっているではないか。
「セレマくんは回復させてくれないからね。会長にだって回復手のプライドがあるんだよ」
 燐光を手に灯らせて、茄子子はそんなことを言う。
 スウィンバーンは茄子子を見た。
 奴が男を治療したのだ。
 死する定めを捻じ曲げたのだ。
 スウィンバーンの正義を邪魔したのだ。
 ならばそれは罪である。
 腕を掲げた。剣に影が纏わりついて、巨大な突撃槍へと変わる。
 投擲。
 空気を切り裂き、茄子子へ迫る巨大な槍は……しかし、何かに撃墜された。
「ぬぁぁあああああああ!」
 地面を転がる女の姿。
 それは空から降って来た。
 ズレた眼鏡を手で押さえ、泥に塗れた美咲が身を起き上がらせる。
 
「私は正義とか言わない質なんですけどね」
 立ち上がった美咲が頭を押さえる。
 落下の衝撃か、或いはスウィンバーンの槍によって傷を負ったのか。流れた血が頬から顎へ伝っていく。
 それから美咲が腕を掲げた。
 手首に嵌めたバングルが光を放った。
「それでもアンタを倒すと言うことはアンタの価値観になぞっても正義だとは思いまスよ」
 ぞわり、とスウィンバーンの影が広がる。
 影の中から武器が飛び出す。
「……助けを求める者を見捨てることが不義というのなら、それを救えなかったアンタも不義でしょう」
 影の武器が美咲を貫く寸前に、彼女は手から魔弾を撃った。
 腹部を刺され、肩を抉られ、美咲の身体が地面を転がる。

●古城の騎士
 スウィンバーンの盾が地面に転がった。
【パンドラ】を消費し、ウィルドと美咲が立ち上がる。血に塗れた2人を一瞥したスウィンバーンは、それっきり何も言わずに先へと進む。
 トドメを刺す時間はあったはずだ。
 顔を見あわせ、ウィルドと美咲は首を傾げる。

 セレマの張った魔力の盾が砕け散る。
 衝撃でセレマが地面を転がった。影のうちから突き出す刃が、セレマの両腕を落とす。血が溢れる。地面を転がるセレマの両腕を、スウィンバーンの戦斧が裁ち斬る。
「……お前の定める悪は正義になり得なかった」
 断たれた手足の断面から、筋肉繊維と血管が伸びて、じくじくと再生を始めていた。
「だが敢えて言ってやろう。この世界は所詮勝った方が正義だ」
 カツン、と。
 石突が地面を打った。
「否。勝利だけが正義ではない。勝てぬとも、友がために命を賭けて戦う様を、我は正義と信奉する」
 それが、ウィルドと美咲を見逃した理由なのだろう。
 再生したセレマを立ち上がらせて、茄子子はにぃと口角を上げた。
「私の失敗例として、せめて惨たらしく消えてね」
 その言葉に秘められた想いは、きっと彼女にしか分からない。
 ポツリ、と。
 吐いた茄子子の言葉が、スウィンバーンの耳に届いた、その刹那。
 スウィンバーンの顔面に、短剣が突き立てられたのだった。

「何かを理由にして人を殺すことは正義とは言えないのよ?」
 短剣を手にヴァイスは言った。
 スウィンバーンが剣を構える。罅の入った兜を覆い隠すみたいな姿勢であった。
 馬の腹を踵で蹴った。
 黒馬が嘶き、前肢をあげた。
 蹄が大地を踏み締めて、馬が駆け出すその寸前に、無数の魔弾が胴を射貫いた。
 黒馬が地面に倒れる。
 エクスマリアの放った魔弾だ。
 投げ出されたスウィンバーンの眼前を、一陣の風が駆け抜けた。長い髪を靡かせて、百合子の放った渾身の殴打が、スウィンバーンの横面を穿つ。
 兜が砕けた。
 頭を押さえて、スウィンバーンが身を起こす。
 武器を構えるより先に、シラスの手刀がスウィンバーンを喉へと迫る。
 タイミングは完璧だ。
 回避は不可能と思われた。
 けれど、流石は歴戦の騎士といったところか。
「っ!? マジかよ!」
 重力に身を任せて伏せることで、スウィンバーンはシラスの手刀を回避したのだ。

 手にするは大戦斧。
 空気ごと引き裂くような横一線。
 百合子の腹を、シラスの胸部を刃が裂いた。
 骨の1本か2本はへし折れただろうか。
「……ほう」
 感心したようにスウィンバーンはそう呟いた。
 腐りきって、骨まで除いた死人の顔が、笑みの形に歪に歪む。
 立ち上がる百合子とシラスを睥睨して、背後に回るヴァイスとエクスマリアを一瞥。無傷の者は1人もいない。血と泥に塗れた無残な姿だ。
 先に立ちはだかった2人もそうだった。
 戦斧を持ち上げて……ふと、スウィンバーンは懐かしさを覚えた。
 魂が震える感覚と言えば近しいか。
「かつての我や、我の仲間もそうだった。胸に掲げた己が信念は、決して折れることは無かった」
 目の前の者たちを“正義”であるとは思えない。
 けれど、単なる“悪”であるとも断じきれない。
 これは迷いだ。
 ゆえに迷いは断たねばならない。
「……ローレット、と言ったな。いいだろう。いずれ我から出向くとしよう」

 そう言い捨てて、スウィンバーンは立ち去っていく。

「次だ。次こそ決着をつけるぞ、悲哀の子」
 緊張の糸が切れたのか。
 それとも体力の限界か。
 血だまりの中に倒れ込み、這いずりながらセレマは言った。
 もはやほとんどうわごとの域だ。伸ばした腕の先に、スウィンバーンの姿は無い。
「ふむ。アレはセレマと契約しておるのか……まぁ、吾には関係ないが」
 なんて。
 這いずるセレマを見下ろして、百合子はそう呟いた。

成否

成功

MVP

楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾

状態異常

咲花・百合子(p3p001385)[重傷]
白百合清楚殺戮拳
セレマ オード クロウリー(p3p007790)[重傷]
性別:美少年

あとがき

お疲れ様です。
スウィンバーンはその場を立ち去っていきました。
難民キャンプの救済は完了し、依頼は成功となります。

この度はシナリオのリクエストおよびご参加ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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