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シナリオ詳細

<デジールの呼び声>たった一つの願い

完了

参加者 : 15 人

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オープニング


 ――『神』を見た。
 かつて太古の折に。『其』は『神』を見たのだ。
 『神』は偉大であった。『神』は強大であった。
 故にこそ『其』は魂より焦がれた。あぁこれこそ至高であると。
 ……『神』は『其』へ頓着しなかったものの、それでも良かった。
 そうであるからこその神域。己如きに構わぬがこそに焦がれるのだから――

「でも、あぁ」

 しかし。『神』は眠りへとついた――『其』は深い、深い吐息を零す。
 まるで胸に穴が開いたかのようだ。これほどの喪失は永い時の中でも未知たりえる。
 だからこそ『其』は動くのだ。己が空虚を満たす為。
 値しうるは『神』に匹敵せしめた――ただ一つの身体のみ。
 そうだ、求めよう。至高に並ぶ力を。
 そして『神』そのものをも。

 ――僕はその為に生きてきたのだから。


「――成程。天浮の里は斯様な状況にあるのか」
「あぁ。だからさ、皆の力を借りたいんだよ――
 今だったら虚滅種の連中も数が減ってるから、里に近付けるし」
 地上にて、語るは共に亜竜種が者。
 一方は冽・十夜(れつ・とおや)なる人物であり覇竜領域より訪れし者。
 一方は潔一(きよかず)なる少年であり――この先、覇竜領域の『外』に在る珍しい亜竜種の隠れ里『天浮の里』より、救いを求めてきた者である。
 天浮の里に異変が起こっているのだと。
 天浮の里は、かつてこの大海に存在したリヴァイアサンを信仰としている。そして『神』の声を聴くことが出来るとされる巫女……海援様と呼ばれている者がいるのだが、その人物がなんともはや『怪しい』行動を繰り返しているらしい。
 彼女が一挙一動振るう度に依り子と呼ばれる者達の様子がおかしくなり。
 近頃は周辺海域に多くの虚滅種(ホロウクレスト)が発生もしていた――

『――心配は無用。海を穢す愚か者共が、天よりの罰を受けているだけであれば。
 皆、平素通りに過ごすべし』

 ……そんな事を海援様は言うのだが、最早信用能うものか。
 潔一と親しい、天浮の里長の跡取り娘たる浮・妃憂(ふう・きゆう)は此処に至って決断を下した――外の同胞や、先日縁を紡ぎあげたイレギュラーズ達に助けを求めよう、と。そして潔一はその使者として地上に訪れた訳である。
 一時は増加していた虚滅種の出現によって海域自体が危険であり、襲われる船なども多々あり天浮の側からも、外からも近付く事叶わなかった……が。ローレットのイレギュラーズに掃討依頼が幾つか舞い込んでいた結果、奴らの数は減少。
 再び天浮の里に近付くことが出来る様になったのだ――まぁ近付いたというよりは、また向こうから潔一がイレギュラーズ達に接触叶ったと言った方が正確だが――細かい事はともあれ。
「……ふむ。此方の里長も、外の同胞に関しては気に掛けられていた――
 協力自体はやぶさかでないが、具体的には何をする必要がある?」
「あぁ。妃憂はな……ええと……あぁそうだ。最近里の近くに増えてる『竜』を象った遺物やら祠を壊してほしい――って言ってたな」
「竜を象った代物……?」
「形だけじゃなくてよ、見てたらこう……なんか嫌な気配がするのがあるんだ」
 身振り手振りで語る潔一。彼の話をかいつまむと、見慣れぬモノが増えているらしい。
 天浮の里は先述の通り、リヴァイアサンを信仰する土地柄だ。故に竜を象ったなにがしかの代物があってもそうおかしい事ではないが……しかしここ最近で潔一らが確認しているモノは『そう』ではない。
 明らかに異質な気配を携えているのだ。
 眺めていればまるで魂の背筋を撫ぜる様な……
 それらの目撃情報に伴って里全体の気配も段々と変わりつつあるのだという。最近では以前にもまして海援様を称える者が増えたり……誰しもが眠るような時間に外を出歩く『夢遊病』の様な者達が増えたりなど。
 アレは不吉を呼ぶモノだ。
 故にこそ潔一や妃憂は破壊したい――のだが。
「けどよ。その近くに行くと虚滅種みたいな連中がいたりするんだよ」
「――退治しないのか? お前達にも戦う力はあるだろう?」
「あぁ。でもよ、海援様は『放っておけ』ってお達しなんだ。
 だからちょっと大々的には行動し辛くてな……
 一個ぐらいだったら無理やり出来ねぇことはねぇんだけど――」
「複数個であれば手が足りない、と言う訳か」
 だからこそイレギュラーズ達の力を借りたい訳だ。
 目的は一つ。竜を象った遺物や祠――遺跡の破壊活動。
 近くにはソレらを護る様に展開する虚滅種が出てくる可能性は高いが故に迅速に排除する必要がある……もしかすれば此方の動きを察知して『海援様』が出てくる可能性はあるが、しかしその時こそ彼女の真意を問う好機でもある。
「……クレマァダさん、大丈夫ですか?」
「…………ん、む? 今何か言うたかの、フェルディン?」
 であればと。フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)は――どこか気もそぞろに見えたクレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)へと語り掛けるものだ。海援様とやらは、どうにも彼女と『関わり』がありそうだとも聞いていて……
「そういやよー鳥さんは前に会った事があるんだけど……なんだ。
 卯ノ花(うのはな)ってのは――元気か?」
「卯ノ花――あぁ。元気は元気だよ。何か、気になるのか?」
「いや、うーん。なんつーか、な……」
 同時。カイト・シャルラハ(p3p000684)が潔一へと尋ねたのは、かつてシレンツィオで己と縁が結ばれた――青い肌の亜竜種だ。卯ノ花という、天浮の里とも関わりのあった人物……いや、一番気になっているのは彼女の内より感じた『気配』か。
 この先にある里は『水竜信仰』――つまりリヴィアサンと関わりがあると聞けば。
 とても、ただの偶然とは思えず……
「この先が……天浮の里、ですか。未知の領域とは、とても気になります……!」
「……とにかく、祠の破壊が今回のオーダー、なんだよな。具体的にはどれだけあるんだ?」
「あぁ。今、里の南側から向かってるんだが……全部で三つあるんだ」
 ともあれ、と。カイトと同様に卯ノ花と縁が結ばれていた柊木 涼花(p3p010038)は、初めて聞いた天浮の地に興味を抱いているものであった。そして同時に越智内 定(p3p009033)は再度潔一へと語り掛ける。
 彼の話によれば里の中央から見て――北、西、東に一つずつ祠があるのだとか。
 北には海援様もいるが故、西と東を電撃的に破壊し……そして最後に北に集う形で進むのが良いのではないかと。作戦を語り合いながら、潔一先導の下――イレギュラーズ達は天浮の里へと進んでいく。
 この先に隠れ里があるのだと――
「しかし、よく無事だったもんだな」
「んっ? あぁ――だから言ったろ? ここは俺の故郷だから上手くやるって」
「……そうか」
 同時。潔一へと言を紡ぐのは十夜 縁(p3p000099)だ――
 彼が紡いだのは『以前』の事を想っての事。少し前、一部のイレギュラーズ達は潔一と共に天浮の里へと直に至った者もいる。しかしその折、潔一は『外の者共を引き連れた』として海援などから責められる様な立場へと至ってしまったのだ……もしかすれば彼の身に何か起こるのでは、と思った者もいたのだが。
(……少なくとも見える限りではなんもなさそうだな……?)
 しかし少なくとも潔一には『何の変化』も見えないとシオン・シズリー(p3p010236)も思うものだ。暴を振るわれた訳でもなさそうだし、流石に里の同胞になにがしか手を下す事はなかったのだろうか――
「…………」
「……ん、おい? どうした、なんか虚ろ気だぞ?」
「え? あぁ、なんだ。何か言ったか?」
「……いや、なんでもねぇ」
 が。なんとなし、さっきから彼の様子は『ぼんやり』としている事が多い気がする。
 前回出会った時はこうまで注意散漫だっただろうか?
 そこだけはなんとなし、妙だと思った――その時。
「待て潔一! まずいぞ……虚滅種が、先日よりも増えておる……!」
「はっ? なんでだよ――くそ、マジだな。どうしてこんなに警備が増えてんだ……!?」
 天浮の里へ到着せんとした潔一らへと駆け寄ってきたのは、妃憂だ。
 息を切らして齎したのは――先程話していた代物の付近に、虚滅種が大量に出張ってきているとの情報。明らかに以前よりも増えている……まるで『侵入者を待ち構えている』かのように。
 タイミングが良すぎる――とは思うのだが。
「しかし。今更退いて何が解決する訳でもない」
 敵が待ち構えているというのなら、抉じ開けてでも押し通るのみ。
 ――今。戦いが始まらんとしていた。


 あぁ芥が湧いている。
 なんなのだ。どうしてお前達はそう土足でやってくる事が出来る――?
 煩わしい。愚かしい。汚らわしい。

「――『滅海の主』。そうよ、それでいいの。貴方は怒るべきなのよ。
 この地を踏みにじる輩に対して、それが正しい道理」

 天浮の里。その、北側に位置する海援の祭壇にいるは――氷雨(ひさめ)という青年だ。
 彼は代々、滅海竜を祀る家系に生まれた者。
 『生きた滅海竜』の依り代――神子として深く信奉されていた者――だ。
 ……しかしそれは本来、あくまで信仰上の立場であり『生きた滅海竜』そのものではなかった。彼自身もまた、信仰せし対象の信奉者の一人にすぎない。
 のだが。海援なる者が彼に囁き続けてから彼は『変わった』
 己を。真に『生きた滅海竜』であるというかのように振る舞い。
 この地を新たに開拓せんと穢す者共に憤怒する存在と――なっている。
 ……彼の目に如何程の正気が残っている事か。
 分からない。ただ、分かるのはただ一つ。
「さぁ。もっともっと潜りなさい。そうして貴方は……真に『滅海の主』へと至るの」
「――あぁ」
 彼は壊れかけている。人の身に、強き滅海竜の概念など保てまい。
 しかし壊れたのなら壊れたでいいのだとばかりに――海援は慈しみ続ける。
 己が『望み』を果たせる一端となれば、それでいいのだとばかりに。

GMコメント

●依頼達成条件
 三か所の『竜』の祠の破壊。

●フィールド
 天浮の里という、深海と深海に繋がる洞穴を拠点とする『亜竜種の隠れ里』周辺です。里の全体的な雰囲気はカムイグラに近いが為か『和風』の気配を感じえます。皆さんはシナリオ開始時、里の南側に到達している所からスタートします。

 今回の目標は、里を囲む様に配置されている『竜』を象った祠の破壊活動です。
 北、東、西にそれぞれ一か所ずつ祠が存在しています。
 それらを破壊してください。

 この『祠』は、近くに至ると分かりますが……異質な気配を醸し出しています。
 まるで魂に何か語り掛けるかのように。単純には魔術道具の一種とも言えるかもしれません。一体『誰』のか――というのは、さて。
 ともあれ前回の依頼『<潮騒のヴェンタータ>天浮の里』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8161)である程度里を探索は出来ている事や、里に詳しい妃憂や潔一もいますので、道のり的に迷う事などはないでしょう。
 祠自体は左程堅い者ではないので、妨害が無ければ割と簡単に破壊は可能です。

●作戦
 祠の破壊に関して、提案されている作戦はあります。
 それは西と東を電撃的に破壊せしめ、その後で北側に集まり破壊を試みる手段です。ただあくまで提案されているだけですので、必ずこうでなければならない訳ではありません。順繰りに全て一つずつ破壊していく様な事をしてもいいでしょう――
 皆さんの行動次第で、敵の動きが変わる可能性もあります。

●敵戦力
●虚滅種:ウムブラ=レ=ヴィ×30体
 虚滅種と呼ばれる怪物たちです。なんとなくですが――その姿、いや雰囲気はかつての大竜リヴァイアサン……と似ている気がします。勿論、あくまで『なんとなく』以上ではないのですが。竜の姿によく似た、亜竜の幻影の様な者達です。

 北、東、西にそれぞれ10体ずつ存在しています、が。
 なぜか明らかに皆さんを待ち構えています。ご注意を。

 攻撃方法としては波を押し寄せる様に操る『海嘯』なる技を使用したり、鋭い爪や牙など……強靭な肉体を振るう手段が多彩な模様です。特に『海嘯』は【麻痺】や【凍結系列】のBSを付与する事がある模様ですので、ご注意ください。

●氷雨(ひさめ)
 『天浮の里』出身の亜竜種。
 代々、滅海竜をお祀りする家系に生まれた彼は『生きた滅海竜』の依り代、神子として里で深く信奉されていました――しかしあくまでも滅海竜そのものではなく、信奉者の一人……だったのですが、後述の海援様が里に戻ってより様子が変わり始めています……
 まるで『本物』であるかの様に振舞い、発展していくフェデリアを疎ましく思っているようです。

 もしも戦闘に至った場合の能力は不明ですが、その身に内包している気配からしてリヴァイアサンとよく似た攻撃をしてくる可能性があります。

●カンパリ=コン=モスカ
 天浮の里で『海援様』と称えられる存在です――が?
 シナリオ開始時は氷雨と共に北の祠付近にいます。
 戦闘の際は波濤魔術なる独自の術を用います。
 ……その身からは、とても只人ではない気配が零れ始めています。

●味方戦力
●冽・十夜(れつ・とおや)
 亜竜集落ウェスタの住民で、命を帯びて、外の文化を知る為大陸を旅する事もある亜竜種です。今回、琉珂より更なる調査をお願いされ、イレギュラーズ達と共に『天浮の里』へと向かいます。
 気の流れを水の流れに見立てての近接格闘を得手としており、前線で戦います。ちなみに。あんまり態度には出していませんが十夜 縁(p3p000099)さんの事をちらちらと気にかけている気配があります。
 特に指定が無ければ【西】側の祠にまず向かいます。

●浮・妃憂(ふう・きゆう)
 天浮の里の里長の跡取り娘です。
 遂に海援様への不信が勝り、里の為にと外へ救いを求めてきました。
 皆さんと共に行動し、道案内などを務めます。
 特に指定が無ければ【東】側の祠にまず向かいます。

●潔一(きよかず)
 『天浮の里』出身の亜竜種です。外の世界に興味があるのか、非常にイレギュラーズ達に好意的です――彼も戦闘するだけの力はある様で、敵が出てきたら槍術をもってして皆さんと共に戦います。
 しかし時々ぼんやりとする様子があります。注意散漫なのでしょうか……?
 特に指定が無ければ【東】側の祠にまず向かいます。

●卯ノ花(うのはな)
 氷雨と同様に神子として称えられている、蒼い肌の亜竜種です。現在地は不明ですが、彼女はイレギュラーズに(地上でイレギュラーズに助けられた恩もあり)好意的な様に見えます。出会った場合は味方側として出てくる……かもしれません。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <デジールの呼び声>たった一つの願い完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月10日 22時10分
  • 参加人数15/15人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 15 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(15人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士
カイト・シャルラハ(p3p000684)
太陽の翼
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
蒼輝聖光
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
ヲルト・アドバライト(p3p008506)
幻想の勇者
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
笹木 花丸(p3p008689)
竜交
越智内 定(p3p009033)
綾敷さんのお友達
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
柊木 涼花(p3p010038)
奏でる言の葉
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

リプレイ


 海は、深い。
 あらゆる生命を呑み込む程の広さと深さを――宿している。
「……だから でしょうか
 ふかい海に 潜ると いつもどこか なつかしさを 感じさせられますの」
 語るは『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)である。
 彼女が天を見据えれば、微かに光が揺らめく様が見えるものだ――
 この美しい大海の中で、陰謀を巡らせる者がいるのならば。
 己は護るために動こう。
 ――天浮の里。この先にあるという、亜竜種達の隠れ里。
 その地を目指し、イレギュラーズ達は西と東に別れる動きを見せていた。先述したノリアはまずもって仲間たちと共に東側へと進めば……其処には情報通り、いた。祠を護る様にして周囲を警戒している――虚滅種共だ。
「ウムブラ=レ=ヴィ……って奴らだったか。言いにくいなこいつ。もうちっと洒落た名前にしろよな――まぁいいさ。可愛い後輩の頼みとあっちゃあ、どんな奴が相手だろうが先輩として協力しなきゃならねーよな。行くぜジョー! 花丸ちゃん!」
「あぁ――全く。海の中を水中装備無しで行くなんてそれこそ本当の浦島太郎みたいだぜ」
「バッチリお仕事するよッ! 花丸ちゃんに任せて!」
 故にこそ『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は見据えた敵の姿あらば『なけなしの一歩』越智内 定(p3p009033)と『竜交』笹木 花丸(p3p008689)に声をかけ、己らが役目を果たさんと動き出すものである。
 天浮の里。あぁ不思議な地だ……深海の果てにはこのような地があるとは、定にとっては正に驚き。昔話の一端を思い出しつつ――されどこの先には亀も歓迎してくれる竜宮の姫達もいないのだと思えば、油断はせぬ。
「さぁ来いよリヴァイアサンの紛い物程度がよ。相手になってやるぜ……!」
「この後に本番が待ってるんだ……こんな所で躓いてなんかいられないし、ね!」
 定と花丸は敵を挑発せしめる様に動けば意識を己に引き付けんとする。さすればすかさず千尋は踏み込み、ノーガードから繰り出される一撃が虚滅種の身へと捻じ込もう――
 電撃戦だ。敵の『本隊』は此処ではないのだから。
 連中が動き出す前に――祠を壊滅させる。
「……祠、か。『竜』の祠、なんだよな」
 と、その時。目標であるモノの気配へと視線を向けるのは『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)である――それは一体『何』の為のモノなのかと、どうしても思ってしまうものだ。
 『竜の為』の祠、なのだろうか?
 竜は恐れ敬う存在。なぜ――そうも不遜な祀り方が出来る?
 ……水竜さまを信仰している彼にとっては『敬意』がないと感じているのだ。少なくとも何か違うと、肌に感じている。コレは違う。そもそもリヴァイアサンとは――いるだけの脅威の竜とは――
「……後で色々と話してみねぇといけねぇ事が山盛りだな」
「……なんだか分からないけど、リリーも胸がムカムカするよ、カイトさん」
「あぁ。リリーもそう思うか――なら、まずは連中にぶつけてやるか」
 うん、そうだね――! とカイトへと紡ぐのは『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)だ。彼女もまた、カイトと同様に『違う』という違和感がどうしても心に淀むもの。
 ――故にこそまずは破壊を妨げんとする虚滅種の対処だ。
 虚滅種達は情報にあった通り、まるでこちらを待ち構えているかのように布陣している。この防御陣を崩さんと、リリーは輝き放ちて一斉に薙ぎ払わんとする。さすれば撃を受けし虚滅種らはリリーへと反撃なさんとする――が。そこへ赴くのがカイトだ。
 彼の神速が戦場に瞬く。前衛担いて敵の視線を釘付けにするように。
 深紅足り得る翼の軌跡が――誰しもの意識を虜とするのだ。
「こちらに、おいしいのれそれが、ありますの……!
 さぁ……! 味わったことのない 至高に あらがえますの……!」
「ノリアさん、無茶はしないようにね。でも里の安寧の為……頑張っていこー!」
「よし、俺達も行くぞ。潔一も遅れんなよ」
「…………ん、あ、あぁ。分かってるよ!」
 更にカイトだけに負担はかけさせぬとノリアもまた自らの身を挺して敵の攻勢を受け止めんとし。そういった前衛を担う者達に治癒術を振るうのは『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)である――続けざまには隙を見せた虚滅種へと撃を加えるは『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)か。
 彼女が言葉を交わせたのは、ここまで案内をしてくれた天浮の里の住人たる潔一に、である。どこか、呆けた様な刹那を見せる潔一の様子を訝しみながら……さりとて今は目前の事態に集中すべく駆けるものだ。
 敵が待ち構えていようともやる事は変わらない。
 可能な限り多くの敵を纏めて薙ぎ払い、祠への射角を手に入れるのだ――
 シオンの短剣が振るわれれば敵陣の中枢に無数の斬撃が雨あられの如く。定、カイト、ノリアの三者は各々前衛にて立ち回り敵の目を引き続け、時に隙が見えれば定やカイトは攻勢にも転じようか。
 そうして敵の動きに乱れが生じれば、リリーが確実に仕留めんと呪いの銃弾一閃。
 敵の身を蝕み、力を奪い去ろうか。
 勿論虚滅種達もやられるばかりではなく反撃に転じ、イレギュラーズ達へと鋭き爪や牙、そして何より放つ海嘯があるものだ――が。多少の損耗は堅牢にして治癒に優れしスティアが即座に治してみせよう。
「気を付けろよ、皆! 案外しぶといからなコイツら……!」
「うん分かってるよ! 潔一さんも気を付けてね!」
 さすれば潔一も槍を振るいて虚滅種へと撃を振るう……その様子を花丸は優れし三感をもってして常に捉えていれば、一応今は彼に心配はなさそうであった。どことなく、彼のおかしい様子を感じ取っていた彼女は気にかけていたのである。
 ともあれ戦う気配に不安はなければ、眼前の虚滅種より繰り出される攻撃を捌きて、花丸は反撃の一手を叩き込む。敵の顎を見定め、固めた五指を直上へと振り上げれば――命諸共刈り取らんとする程の威が顕現するものだ。
 正に皆々一騎当千。
 虚滅種は数でこそ勝っていたが――しかし精鋭たるイレギュラーズ達の実力に押され始めていた。それに連中は祠を護らんとする動きを常にする為に、縦横無尽に戦場を駆けて対応する……という事も出来ぬ。押し込まれる様に虚滅種達は数を減らしていて。
「行けそうだね……! 一気に押し込もう!
 こんな嫌な気配を感じる場所はとっとと壊しちゃうのが一番だよ!」
「オゥ! ”バール”持って来い!
 こんなモンはなぁ――さっさとぶっ壊しちまうのが良いんだよ!」
 故にこそスティアは攻め時と見て、治癒よりも至高の一撃をもってして敵を討たんとする――彼女が放つは神の象徴。神威の一端であり、紡がれし聖なる刃。光纏いしソレは彼女の意志に沿いて敵の喉笛を引き裂こうか――!
 そうして開けた道があれば千尋が一気に祠の付近へと至るもの。
 手には“バール”。何かをぶっ壊すにはコレが一番だと振り上げて。
 ――自らの全霊を共に叩き込んだ。
 小さな、しかし確かに『竜』らしき姿が記されていた祠を損傷せしめる――
 一撃で足らねば何度でも。虚滅種らの影を超え、カイトも確かなる意志と共に。
「ふざけた祠なんざ残しておく価値もねぇ。遠慮なくやらせてもらうぜ!」
「うん――! カイトさん、一緒に行こう! 間違った祠なんて……壊してあげるんだ!」
 カイトが振るう一撃もまた祠へと叩き込まれれば、阿吽の呼吸でリリーもまた一気に接近。自らの限界点にまで至る速度と共に、破壊の意思を紡ぎあげよう! 陣形をイレギュラーズ達の攻勢により引き裂かれた虚滅種では最早その動きを妨害する事叶わず。
 ――やがて亀裂が至り祠は破滅せしめる。
 激しき破砕音。
 同時に……何か、周囲から『靄』が微かに晴れる様な……そんな感覚がするものだ。
「むむっ…… ふしぎな気配が 散った気がする ですの。
 やっぱりあの祠は…… 放置していれば 『よろしくないもの』が
 流れ込んで きたかも しれないですの」
「もし此処が練達なら、祠なんて壊すのはタブーだ……祠ってカミサマの住むところだからね。だけど、これは『そういう形』をしているだけで、実際はもっと別の――何かだったんだろうな」
 残存の虚滅種らの攻撃を変わらずノリアは引き付けながら、己に張り巡らせる水の力をもってして迎撃している――同時に定は、ノリアに寄せられている個体共を纏めて薙ぐ様に一撃叩き込むもの。仲間によって破壊出来た祠に思考を巡らせながら、だ。
 疑問は尽きない。そもそも『三つ』ある事にも何か意味があるのだろうかとも。
(……里を囲む様に作ってたって事か? それならもし、南にも作られていたら……)
 それは『神域』の完成であったのかもしれない。
 神の領域。神の世界。神の意思で満たされた領域。
 ……その気配をより濃く感じているのは特に『北』からの方である、が。
「一応、祠の欠片は回収しておこうかな……後で何か分かるかもしれないし」
「あぁ……一応、あたしも見てみるが……なんだこれ?
 妙だな。何か……石とか鉄じゃねーのが混ざってるな。何かの鱗……?」
 何はともあれ虚滅種らの掃討に成功すれば、スティアは塵果てし祠の破片を回収。
 魔術的な意味が込められているか、それとも物質そのものに意味があるか。
 さすればシオンはその場で出来る限りの解析をせんと試みてみるもの――分かったのは、祠を構成している石などに交じって、何か特別な鱗らしきモノが含まれているという事だ。随分と古ぼけたものだが……
「……もしかして、リヴァイアサンのとかだったりするのかな?」
 であればスティアは。
 かつての大竜。リヴァイアサンと何か関係があるかもしれぬとも思うものだ。
 だって此処は、リヴァイアサンを信仰している土地なのだから。古い時代から存在しているのなら――それこそ、リヴァイアサンから剥がれ落ちた鱗の一つや二つ、特別なモノとして保管されていてもおかしくはないのでは……と。


 同じ頃。天浮の里に西側でも動きが見えていた。
 こちらも東側と同様に祠の破壊を目指している――
 先往く一人は『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)か。
「……前にちっとばかし騒ぎになっちまったからな。
 警戒されちまってるかとも思ったが、道中は素通しか――意図があるのかねぇ」
 彼は以前天浮の里を調査の為に訪れたことがあるメンバーの一人だ。
 東側に付き添っている潔一の案内でこの地に来て、そして果てに一悶着あった。
 ……その後からか。この海域に虚滅種なる存在が湧き始めたのは。
「――厭な感じがする。皆、注意せよ」
「……クレマァダ。何か感じているの?」
 さて、な――と紡ぐのは『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)である。『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の声に応えたものの、己でもなんの気配を察しているのか、まだ言語化するに足らぬ。
 だが、確信の領域ではあった。
 我にはまだ『知らないといけない事』がある様な――
「……まずは目標物である祠を目指しましょう。
 中枢へと至れば――もっと別の情報があるかもしれませんから」
 であるからこそ『海淵の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)はクレマァダへと言を紡ぐものだ。恐らく彼女だからこそ思うモノがあるのだろう……この地はかの大竜、リヴァイアサンに関係があるのであれば……
(……リヴァイアサン。あの日の影が、まだ残っているのか?)
 ならばフェルディンにも思う所はある――が。
 今はひとまず早きを持ってして攻略する場だと、目前を見据えるものだ。
 ――西の祠。やはり防衛の為の虚滅種はいるものであればこそ。
「来いよウミヘビ。お前らの腹に順番に穴を開けていってやる。
 ――あぁそれとも首を落とされた方がいいのなら、並べ。削ぎ落としてやる」
 『幻想の勇者』ヲルト・アドバライト(p3p008506)は挑発染みた言と共にゆくものだ。
 事情は詳しくは知らない――リヴァイアサンという存在も伝聞では伝え聞いたが、直接相対した訳でもない。
 だが、助けを求める声がある。
 例え深海の果てであろうとも其処に生きている生命が在るのは変わらないのだ。
 ――だから彼は戦う。求められるモノがあるのならば、と。
 凝縮された血の弾丸が敵を穿つ。紅き軌跡が煌めく度に、虚滅種は痛みに悶えるものだ。
 そのまま敵の一角の動きを封じるべく立ち回ろうか――さすれば。
「まったく。アタシもリヴァイアサンの事は知らないんだけどさ……
 随分とまぁヤバかったってのは聞いてるわ。
 ――なら踏ん張らないとね。イヤーな気配が醸し出てるのは確かな訳だし!」
「手抜きの里にはどんな音楽が……と気になっていたんですけれど、それ所じゃなさそうですね……里全体から怪しげな雰囲気が漂っているのは私も感じます……何が、誰が原因なのやら……!」
 直後には『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)に『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)も続くものだ。京もヲルトと同様にリヴァイアサンの戦いを経験した訳ではない――だが、それでも分かる事はある。
 コレを放置してあまりいい事は起きそうにない――と。
 故に叩き壊す。故にぶちのめす。祠も虚滅種も何もかも――!
 敵陣へと飛び込みて、両脚を広げ独楽のように超速回転。炎へと至る程の勢いを更に支援する様に涼花の歌が周囲へと響き渡れば――戦の加護が張り巡らされるものだ。それはイレギュラーズ全体へと張り巡らされ激しき攻勢の一端を担う。
 間髪入れずクレマァダの波濤が放たれれば、それを起点としてフェルディンの剣撃も敵の身を穿つもの。狙いすますは各個撃破か――虚滅種の海嘯が反撃に振るわれるが、イーリンなどに至っては超越する抵抗の意志が、連中の攻勢などものともしない。
「その程度? リヴァイアサンと似てるのは姿形だけの様ね――情けない」
「リヴァイアサンがどれほど強かったかは知らないが、お前らはまぁまぁってとこだな。
 いや、もしかしたら『まぁまぁ』ですらないのか――? この程度のさざ波ならな」
 動きを封じる武術。珊瑚の威を宿した剣の抜き打ちをイーリンが放てば、ヲルトの第二射もまた即座に放たれようか。さすれば怯む個体へと至るは、イレギュラーズ達と共に進んでいた――冽・十夜だ。
 気の流れを感知する彼の武術は隙を見逃さぬ。
 敵の怯みを的確に見据え打ち抜く一閃――に続けて、縁もまた敵の内を穿つ力を此処に。
「……良いタイミングだ。流石、と言うべき……なのだろうかな」
「あー……あぁ。そうだな」
 それは同系統の力であった。
 冽家の旦……いや『血縁』にあればこそ、やはり似通る所があるのであろうか。
 ただ。互いにまだ『そう』であるとの明確な言葉を述べはしない。
 向こうも――何か述べそうで述べない――むず痒いような刹那の感覚がある、も。
 ひとまず戦いの最中であると思えば、敵を押し込むことを優先しようか。
 虚滅種達はまだ北の方にも控えている筈だ――
 急いで殲滅しなければそこの連中がどう動くか分からない。援軍に来られれば西と東に戦力を分散しているイレギュラーズが不利に陥る事もあり得るのだから……勢いが失われぬ内に、更なる苛烈さを伴って祠を破壊せんと目指すものだ。
「まーだ無駄に抵抗するの? ならどいつもこいつも祠ごと燃やし尽くしてあげるわー! あっはっは――! そらそらどうしたの! 立ち塞がるのなら根性見せてみなさいよ! そんなんじゃサンドバックにもなりゃしないわよ!!」
「十夜殿、一端此処はボクにお任せを――十夜殿は機を見て頂ければ」
「あぁ。分かった、ここは任せよう」
 故に京は幾度も敵陣へと飛び込み、嵐の如き奔流さを伴いながら敵を捻じ伏せていく――直後にはフェルディンが十夜を気遣えば、敵の注意を引き付ける様に前へと至るものだ。京の撃によって乱された敵の意識がフェルディンへと集約し、一斉攻撃が放たれる……も。堅き身である彼を崩すはそれこそ至難の技。
 そして意識が逸れた所へ、横っ面から弾くようにイーリンの一撃が紡がれる。
 さすれば東同様に西でも虚滅種の数が減り往くものだ。
 やがて祠を護る余裕もなくなり始め……そして。
「あと一歩です……このまま行きましょう! 押し込んでいけます――!」
「我らは、このような所で足踏みしている場合ではないのでな……片付けさせてもらおうか」
「禍々しい祭壇はこれで仕舞だ――滅びるといい。祠諸共な」
 涼花の治癒が周囲のイレギュラーズを満たし更なる継戦の力と成れば。
 クレマァダの波操りし術に、ヲルトの一撃が紡がれ――ついに祠へと到達せしめる。
 竜よ。竜を象った祠よ、砕け散るがいい。
 ――意思は力となりて、届けば現実となろう。
 護るべき虚滅種の邪魔さえなければ……やがて粉々に砕け散るが如く。
 さすれば、縁は砕けた祠の欠片をその指先に掴んで。
「……どう思う。そっちも感じたかい?」
「……さて、な。確かに妙な感覚があったのは確かだ――
 只人ならざる、なにがしかの力と意志が混ざっていると見るべきか。
 ……しかし『底』に何が含められているのかはまでは」
「不確定なのは口に出来ねぇ……って所か」
 十夜へと言葉を紡ぐものだ。
 祠を破壊しようと行動していた時から勘付いてはいたが……やはりこれはただの祠ではない。ただ何かを祀るだけの存在から、このように歪なモノを感じようか――信仰の類には疎いという自覚がある縁でさえ長々と眺めていたくはないと感じる代物だ。
 このようなモノが里の四方にあれば如何な事になるものか。
 ……少なくとも碌な事にはなるまい。
「なにはともあれ、此処でやるべきことは終わったわ。
 なら……ここからが山場よね。行きましょう北の方へ――」
「そうですね、どうやら東の方も決着が着いたようです。今から行けば丁度よく合流できるかと」
 故に破壊出来たのならばこのままの勢いで最後の祠も破壊すべきだとイーリンは述べれば、事前にファミリアーの力をもってして東の様子を窺っていた涼花から、あちら側の状況もつかめるものだ。
「うむ――行こうかの。うむ、行こう、かの」
 さればクレマァダも意を決す。
 知ってしまっては、戻れなくなるような『何か』を感じながら。
 それでも知らねばならぬ『何か』が――あると思うから。
 北へ。
 北へ向かう。
 最も淀んだ気配を感じる地へと。
 天浮の里に蔓延る『真実』の地へと。

●???
 ――あぁ煩わしい。煩わしい。
 塵芥共がいる。まるで虫の様だ。
 そう、虫が蔓延っている。この大海を、多くの虫が。
 肌を這いずり回る小さな虫がいた時、人よ。貴様ならばどうする?

 ――今からソレをして進ぜようか。


 電光石火。
 当初の予定通りに電撃戦は成功であった――東と西に敵の援軍などが現れる前に祠の破壊を成しえた。後は最後の領域たる北部の祠を害せば、この天浮の里に淀んでいる妙な気配も……多少緩和されるだろうか。
「リリニウム……リリニウムを吸わなきゃ限界だぜ、全く……すー――――――――はー」
「わわっ、カイトさん。どうしたの? 大丈夫? 呼吸が乱れてるよ?」
 東より進んでいるのはカイトにリリーだ――この地で起こっている事態は、カイトの精神的な疲労が大きい。故にこそ無意識にリリーを翼で抱え……もののついでにリリニウムを肺へと取り込むものだ。え、リリニウムって何かって? リリニウムって言ったらリリーから摂取できるリリニウムの事だよ。カイトの健康に良いよ!
 ともあれ、戯れているばかりでもない。リリーはファミリアーを用いて、進行方向である北とは別に……ある人物の捜索に務めていた。カイトと接触したというこの地の亜竜種――『卯ノ花』という人物である。
 カイトが気にしている様であったので、リリーも探すのだと。
 今の所、聞いていた様な特徴のある人物は見えないが……しかし必ずどこかにはいる筈だと。
「へー、妃憂ちゃんって言うんだ。
 俺は千尋、伊達千尋。拳一つで海を割り、嫉妬の冠位魔種を倒して海洋を救った男さ。
 そこのジョーの先輩ってやつだ。よろしくな」
「なんと……斯様な戦いが外であったとは、やはり外の世界は広いの……」
 そして同時――北部を目指して進んでいた、その道中にて。
 千尋は共に往く妃憂へと会話を交わせていた。
 軽快な口調ではあるが、しかし何の意味もない雑談をしていると言う訳ではない――天浮の里に住まう妃憂にこそ尋ねたい事があるのだ。リヴァイアサンを信仰する里である、天浮……
「そういえば嫉妬の冠位魔種って言えば千尋さんはリヴァイアサンとも戦ったんだよね?」
「ああ――俺戦った事はあるぜ。ありゃあ凄いもんだったな……
 そうそう、そういえば妃憂ちゃんってリヴァイアサンとなんか関係あんの?
 詳しい事とかは知らねぇからさ、もしよけりゃそっちが知ってる事教えてくれよ」
「むっ。いやわらわ自体は水神様と直接の関係はない――
 いやそもそも天浮の里に直接関係のある者はおらなんだが、な。
 それこそ『神』の言葉を聞くことが出来るとされる……海援様ぐらいよ、本来ならば」
「……海援様、ねぇ」
 同時。千尋らの会話を聞く定は、妃憂からの情報に着目していた。
 たしかこの土地は竜神信仰が盛んだとは聞いていたが……それに関しては実際そうであるらしい。目前の妃憂も、水神――つまりはリヴァイアサン――の事を語る際は、どこか敬意の感じられる感情の色が見受けられる。
 それ自体はこの里にとってのスタンダードであり、おかしい事ではないのだろう。
 ……実際リヴァイアサンは強大な存在だ。
 かの存在を知る者であれば、信仰心を抱く者がいても――まぁおかしくはない。
 ただ。
「じゃああの敵……虚滅種だっけ。アレに関しては?」
「アレは……正直わらわ達にも分からぬ。わらわ達にも敵意を向けてくるが故に、正直倒すべき存在だとは思っているし、里で信仰せし水神様と同一などとは思っておらん。如何に似ていようが、な」
 だよねぇ、と定は紡ぐものである。
 ……やはり核となりうる情報を知っているのは海援様だろうか。
 海援様――一体何者なのか。定は疑問に思いながらも、歩を進めて。
「……おい潔一。またボーッとしてんぞ。大丈夫か?」
「えっ? あぁ、そう、か? いや大丈夫だよ俺は」
「ホントに? 大丈夫ならいいんだけど……そろそろ北側だっけ?」
「あぁ。次の道を左にまっすぐ行けば――最後の祠が在る筈だぜ」
 同時。シオンと花丸は、やはりどこか虚ろ気な潔一に声をかけておくものだ。
 祠に近付いたりなどすると、どこかその回数が増えている――気もする。
 注意する気持ちを強めながらも……北の祠へと近付いていくものだ。
 ――さすれば。
「あっ! あったよ、さっきの祠とおんなじヤツだ……!」
 スティアの視界に映るものだ。最後の、祠が。
 しかし当然と言うべきか周囲には先程と同じ虚滅種達がいて――

「――お前達か。先程から我の領域で蠢いていた塵芥共は」

 刹那。何者かの声が響いた。
 同時に放たれるは極大の殺意――迅速に反応せしめたイレギュラーズ達は躱さんと跳躍すれば、先程まで己らがいた地点に、強大なりし波の奔流が襲い掛かった。それを放ったのは……
「……氷雨(ひさめ)!」
「――妃憂に潔一か。遂に我に叛意を示すとは……愚かな事よ」
「何を言う。里に蔓延るこのような気配を放置など……」
「問答無用。神に逆らうのならば死ぬがいい」
 里に住まう亜竜種が一人――氷雨であった。
 彼の瞳には濁っている。ただただ正気とは思えぬ……が。
 それだけではない。彼の内からは、一介の亜竜種とは思えぬ『圧』が感じられており……
「それで本物のつもりなの? 例えリヴァイアサンを信奉したとしても……
 本物になる事なんて、絶対にないんだよ」
「あぁ。俺達が一番よく知ってるよな。『本物』の存在はよ」
 されど。『だからどうした』と言わんばかりの言を紡ぐ者もいた。
 リリーにカイトだ。氷雨からの一撃を躱した二人は、その勢いの儘に立ち回るものだ。敵を翻弄しうる様な速度の儘に、撃を紡いでいく。氷雨がまるで本物であるかのようにふるまう様は――もういっそのこと違和感を通り越してリリーは『ムカつく』ものだ。
 真の『本物』がこんな程度であろうか。
 リヴァイアサンの一撃は真実、全てを薙いだ。この距離で躱す暇など与えようものか。
 ――だからお前なんか本物の足元にも及んでいないのだと、言わんばかりに。
「今のは、海嘯……だね。波の勢いは相当なモノだよ……! 直撃しない様には気を付けよう!」
「問答無用に仕掛けてくるなんてね。でも、それならこっちだって容赦はしないよ……!」
 そして花丸やスティアも即座に動き出すものだ。
 氷雨は既にこちらを敵として見定めている様子――同時に、周辺の虚滅種も動き出しているのならば迅速に行動する事こそが重要であろうと。花丸は、先の一撃を的確に見据え周囲へ注意喚起を施しながら――敵の攻撃を引き付けんと立ち回る。スティアも抑えに入るべきか見極めながら治癒の術にて戦線を支えるものだ。さすれば。
「そっちに言い分はねぇのかよ――あの祠にはこーんな意味があったんだ、みたいなよ」
「黙れ。なぜ我がお前達の様な塵芥に意志を説明せねばならん? ――疾く死せよ」
「やれやれ。会話っていう手段すら捨ててくるとはな……なら、しゃーねぇか」
 シオンは吐息一つ。なにがしか彼方に言い分があるのでは、とも思っていたのだが。
 想像以上にあちらさんは傲慢極まるようだ。
 全て受け入れろ、異論は認めん。
 そんな感情の色が込められた雑な命令なんぞ――受け入れられるものかよ。
 戦わせてもらおう。それがオーダー通りにもなるのだからと、彼女は往く。
 東側での戦いと同様に多数の敵へと斬撃を降り注がせながら。
「愚かだな。そんな程度で我を――むっ?」
「あっはっは! そうはいかないわよ――こっちにも構ってもらいましょうか!」
 瞬間。氷雨はそんなシオンらを迎撃せんと、再度海流を操らんとし――たが。
 別方向より至る闘志が、氷雨を殴りつけんと高速で飛来した。
 ――京だ。
 全身から超高温の火炎を噴き出し、火山雷の如く纏っている彼女の一閃は彼方より飛来し、氷雨の横っ面を蹴りつけんとする――そうして再び距離を取り、幾度も幾度も繰り返さんとするのだ。
 そして彼女が到達したという事は、西側の面々も近くにいるという事であり。
「いきましょう……! 虚滅種たちは わたしが 引き付けますの……!」
「東側の皆さんと合流しましょう――共に戦えば、数の上でこちらが勝る筈ですから……!」
 続けて戦場に至ったのはノリアに涼花だ。道中において身の回復に努めていたノリアの体力にはまだまだ余裕が残っている――前面へと飛び出し、再び『餌』としての誇示を果たして敵の注意を引き付けんとするのだ。
 虚滅種達にとってはとてもとても『おいしそうな』代物に見えるだろう、と。
 西の戦況の共有が果たされていなければ再びに立ち回れる――
 そしてノリアが引き付けている間に涼花は東の面々と合流を果たし、自らの歌によって場を満たす。彼女の喉より響き渡るは再度、皆の力となりて……その歩みの助けとなろう。
 自らに祠を破壊する力はなくとも――皆の支援だけは果たしてみせる――!
「どうした、何を怒っている? 祠を破壊したことか?
 ――いや違うな。お前からはもっと違う、何か『別』の根源を感じるぞ」
 直後にはヲルトが氷雨の下へと往くものだ。
 彼は牽制がてら血の弾丸を弾きつつ――しかし本命の為に距離を詰める。
 同時に感じるは氷雨の感情。あぁ、もっと、深い海の底の様な……深淵の怒りが見える。
「まぁなんでもいい。そこの祠を破壊するのに、お前が邪魔なんだ。どいてもらうぞ」
「――我を退かす? 矮小な小人一人でか?」
「あんまり、人を舐めるもんじゃないぞ――」
 跳躍。直後に振り絞る魔力が剣を成し、神すら滅す勢いと共に斬撃一閃。
 氷雨はその一撃を真正面より受け止めんとするが――しかし。
 ヲルトの一撃はそこから加速した。
 たった刹那であろうとも隙を生み出せればいいのだ。
 ジャックポットの果てへと至る超撃は――敵の身を穿つ――!
「まったく。一息つく間もないねぇ」
「人生は大体そんなものだ――」
 直後には縁と冽・十夜もまた戦場にて動くものだ。
 氷雨の気配は前回よりも遥かに『圧』を増している――それが何を意味するのか、いずれにせよ向こうの動きを警戒しながら立ち回ろうか。幸いにして西の戦闘で負った傷は、道中までの時で回復できている。
 故にこそ虚滅種達を減らす一手を紡ごう。十夜と共に。
「塵芥が郷を駆けずり回る無礼をお許しください。
 フェデリアの騒々しさがお気に召しませんでしたでしょうか」
「当然だろう。我が領域にて蔓延る輩を好む者がいるか?
 自らの肌を登る害虫は――叩いて潰して払うのが自然であろう」
 直後。かの氷雨へと言を紡ぐのはイーリンだ。
 彼女は『竜らしく』振舞う氷雨へと敬意を払うように言葉を使う――
 自分が大いなる者に挑む者と自覚して囁くように。
 同時に自らは治癒の術を振るいて戦線を支えよう――
「いあ――」
 冷静に。解体する様に切り結ぶは歌の一端。
 波を整える――波濤魔術の基本。
 この歌を知っているか? 知らないならば聞きなさい。あの時の歌を――
 ……然らば戦況は次第にイレギュラーズ側に傾いている様に見える。
 中央に座しながら紡ぐ氷雨の一撃は強大にして強力だ。
 しかし西と東の祠を迅速に破壊し、そして北部にて合流したイレギュラーズの戦力は虚滅種らの数を上回っている――潔一や冽・十夜もいれば尚更だ。このままであれば目標であった祠の破壊は見事に成せるだろう。
 ……されどクレマァダは思うものだ
 こちらを見下しながら戦う氷雨へと。
(……違う)
 氷雨とやらは、違う。この者は竜ではない。
 それらしい気配を纏うておるだけじゃ。取り繕っただけの偽物。感応による対照性……
 だがソレは本物ではない。
「竜じゃと? こんな矮小な竜が居てたまるか」
 かの龍は傲岸であったが、同時に雄大でもあった。
 荒れ狂う荒波じゃが、同時に眼前の凡ゆる者を己以下と見下ろす平等と公平があった。
 奴をなんと例えるが正確か……あぁそうだ。
「影じゃ――そう。誰かが見た竜の影」
 誰かが竜の影を模倣しようとしている……と思い至った、その時。

「――不遜ね。どうしてそこまで抗えるのかしら。大義は此方にあるのに」

 新たなる声が場に響いた。
 ……同時に紡がれるは波の奔流。ただしそれは先の氷雨のとは少し違う。これは。
「モスカの技が一端」
 クレマァダは即座に気付いた。ソレは良く見知ったモノであると。
 放つ主は『海援』なる者。
 ――カンパリ=コン=モスカ。
 お母様。そう、クレマァダは呟きたくなる衝動に駆られるものだが。
 しかし違う。そう、顔は確かに母上なのだが……纏う気配は別者。

 誰だ?

 お母様を、どこへやった――?
「……クレマァダさん、気を確かに。いずれなる事情が潜んでいようとも、意識の霧散は危険です」
 そのクレマァダを支えんとするのはフェルディンだ。
 彼は常にクレマァダの傍に在る。それから司書殿――イーリンも、だ。
 彼女達の身に在るのは戸惑いか、或いは気負いか。
 ……リヴァイアサンと縁が深く、そしてクレマァダさんと良く似た存在の者もいるからだろうか――とにかくいつもと様子が違う事をフェルディンは感じていた。どうしても普段とどこか違う、と。
 だけど。この局面において決して傍を離れる事はすまい。
 ……かつて。リヴァイアサンとの決戦の際――フェルディンは渦中とは程遠い一隻の船の上に立っていた。
 あの大いなる威容を。それに抗う眩い星達を遠くから眺める事しか出来なかった。
 しかし――今は違う。
 この先に何かがあるのならば、今こそ隣に在ろうと決めているのだ。
 この手が届く限り、全力で抗い、そして守り抜いてみせる……!
 故にフェルディンはクレマァダを護る様に立つものだ――そして。
「オイ。アンタ――
 自慢げに見せてくるその男は、リヴァイアサン様のつもりか?
 リヴァイアサン様はな、人間『ごとき』に怒りなんて感情は持たなかったと思うぜ」
 同時。虚滅種を薙ぎながら、カイトもまた思う言葉を紡ぐものだ。
 あの竜は絶対の王者であり余裕を持って塵芥を見下していた。
 自らは絶対であるという自負と共に。だから。
「人『ごとき』が『竜』を騙るんじゃねえよ。モスカはそんなことも忘れたのか?」
「ふふ――それこそ浅い浅い。鳥如きが『神』を語るなんて、どれ程おこがましい事か」
 直後、カンパリは再びに魔術を紡ぎあげ波を起動させる――
 それは飛翔するカイトや、地上のフェルディンを纏めて薙ぐ様に。
 やはりその魔術自体は本物。まごう事なき波濤魔術の一端。
 だが。
「アンタらが出てきたって事は――もうこれより後はないわよね!
 なら……出し惜しみは無しよ! 押し切らせてもらうわッ!!」
「今回は――お前らを倒す事が目的って訳でもないんでな」
 その波に負ける事なく果敢と立ち向かうは、京やシオンだ。
 全身全霊の一撃を此処に。京の蹴撃が敵の防御を叩き割りて――紡がれる。
 そしてシオンもまた敵の身を穿つように、急所を見定め刃を一閃するものだ。
 只人とは思えぬカンパリや氷雨はそれだけではまだ倒せぬ、が。
 それでも周辺の虚滅種達の身を削り往くには十分以上であり――
「どれだけ いようと よわらせて やりますの! ここが 正念場 ですの!」
「なんの儀式を狙っていても……壊せちゃえば続けられないよね!」
 更に続くのはノリアの熱水にスティアの一撃だ。
 両者共に前衛を担えるほどの堅牢さがあればこそ、氷雨やカンパリらの干渉があろうとも容易くは崩れぬ――その上で撃を放ち穴を穿つのだ。祠を護らんとする、その動きに穴を。
「こんな所でこんな化け物相手にさあ! 戦ってるんだから驚くよね!」
「ハッハ! そいつは武者震いってヤツだろジョー! さぁあと一歩行くぜッ! マジモンのリヴァイアサンに比べたら……テメーらのなんかさざ波なんだよ! リヴァイアサンと同じぐらい生きてから出直してこいやッ!!」
 故にこそ駄目押しとばかりに道を抉じ開けんとするのは定や千尋である。
 驚くし、笑ってしまうよ――膝が、と定は付け加えたい所だったが千尋が背中を叩いて共に往く。敵の注意を引き付ける様に暴れ回れば、幾度も浴びた波によりずぶ濡れになっている千尋が――魔の拳を叩き込むものだ。
 それは冠位魔種を葬った一撃の再現。なんか知らねぇが俺の中のアニバニアネキも言ってるのさ――こいつらはさっさとぶちのめしておいた方がいいわよ、なんてな!
 だから出し惜しまない。剛よく柔を断つ! さざ波なんぞ割って見せよう!
「――波紋だかなんだか知らねえけど俺の拳でドでかいビートを刻んでやるよ!」
 『悠久ーUQー』ここにありってなぁ!
 敵陣の真っただ中に往く千尋の勢い――さすれば敵に隙が見えるものだ。
 カンパリや氷雨の二人だけでは『祠』へのルート全てを妨げる事は叶わず、故に。

「ありがと、千尋さん、ジョーさん! 後は――花丸ちゃんにお任せ、だよッ!」

 花丸が飛び込んだ。
 最後の祠を潰すべく。握りしめた五指は正に全身全霊。
 ――空間諸共穿たんとする程の一撃を、叩き込んでやった。
 さすれば祠が砕ける。
 届いた一撃は確かに亀裂を生みだし。そして破砕へと導くのだ――
「……どこまでもどこまでも邪魔をする。
 後は南にも作れれば……あの方の為の贄が完成していたというのに」
「贄――? まさか海援殿――!」
「騒がないでよ。あの方を信仰するのならば――
 あの方の為の駒となるのが、君達にとっての幸福でもあるだろう?」
 と、その時。『カンパリ』の様子に、異変が見える。
 特に顕著なのは……その言葉遣いだろうか?
 まるで『もう皮を被る必要はなくなった』と言わんばかりに『何か』が滲み出ている。
 感じ得るは魔の気配。魔種足らんとする呼び声の気配が滲み出ていようか。
 ――直後に至るは、先程よりもより強く。より厚みを増した波の奔流。
 これも波濤か――しかし。
「……させぬっ! イーリン!」
「ええ――任せて!!」
 相対するは、クレマァダにイーリン。それから共とするフェルディンだ。
 波濤は重なる。相乗し更に力を得る。
 我とイーリン、そしてイーリンが感じている”何か”。
 我がフェルディン与えた剣。そこにも、波濤がある。
 故に――皆で往こう。
 生者が死を寿ぎ、死者が高らかに生を謳う。
 皆から得た力と共に、再びの海嘯。
 波濤のカルテット。膨らみ上がれ、十重に二十重に『柔らかな思い出』を重ねて。
 意思と記憶。混在する全てが積み重なりて。

 其れは――神威、限定再演とも呼べようか。

 抗う意志と呑み込まんとする意志の激突――
 水の飛沫。誰しもに降り注ぎ、そして。
「あぁ」
 『カンパリ』は吐息を零すのだ。どこまでも、どこまでも、深いため息を。
 あぁやっぱりこの身ではダメなのだ。やっぱり、やっぱり。
「やっぱり――あの方と打ち合った体を手に入れなければ、ね。
 うん。君のおかげで確信へと至ったよ。
 『僕』はフェデリアを手に入れよう。そして探すんだ――あの『身体』を」
「貴方。カンパリ――と聞いたけれど。貴方は何者なの」
「『僕』の名前はリモーネ」
 リモーネ=コン=モスカ。大いなる竜に焦がれた原初のコン=モスカ。
 それが目の前にいる者の正体にして。
 そして――リヴァイアサンと互角に渡り合ったカタラァナの身体を狙う存在である。
 ……彼女にとってはそれだけが目標だったのだ。
 天浮の里に戻ってきたのも、その望みを叶える為。
 そしてこの地に張り巡らせていた祠も、その一手で……
「馬鹿じゃないの? リヴァイアサンはね、もう封じられたんだよ!
 カタラァナさんだってもう……!」
「海に蕩けた? 本当にそう? もしかしたらどこかに肉体の欠片ぐらいは残っているかもしれない――だから、あぁ。必ず手に入れてみせよう。そしてあの方の封印も解いてみせよう。添い遂げるんだ。そう、その為に僕はまずはフェデリアを手に入れようかな」
「生憎だが、お前に次はない――此処で砕けろ」
 さすればリリーは反発する様に声を紡ぎ、ヲルトは凝縮した血液を大剣に顕現。
 斬撃放ちて命を両断せん――とするが。
「むっ……氷雨か。リヴァイアサンの気配を纏っているにしては、奴の尖兵にしか見えんな」
「――消えろ。塵芥」
 それを妨害したのが氷雨だ。振るう腕の一閃は凄まじい衝撃を伴い、ヲルトを弾き飛ばす。
 ……が。ヲルトは見た。その撃を成した氷雨の腕から、多大な出血が生じているのを。
 当然だ。氷雨自体は特別な存在ではなく、あくまでも亜竜種でしかない。
 その身に無理やりリヴァイアサンとしての気配を宿し、そのように振舞わせ、強大な術などを行使させれば――肉体の方に限界が来るのは当たり前であろう。彼の身は強き力が宿る度に崩壊へと向かっている――リモーネの手駒の一つとして。
 彼はそれを疑問に思う事も無いだろう。『そのように』導かれたのだから。
「まーったく! 祠はとりあえず全部片せた訳だけど……
 ここで決着付けるまで戦うってのも手かしら――!?」
「いえ……待ってください! 何か、感じます……! 里の周囲で、これは……!?」
 同時。リモーネにしろ氷雨にしろ最早放置してはおけぬと京は臨戦態勢を続行。
 イレギュラーズ側の戦力は変わらず多い。
 渾身の一撃をもってして仕留めに掛かるべきか――とも思ったのだが。
 止めたのは涼花だ。
 彼女は支援を絶やさぬ様に一歩引いた位置から常に戦況を見定めていた。常に味方の体力と活力を満たせられるようにと歌声を紡ぎ続け……故にこそ、だろうか。彼女は戦域外からの気配にいち早く気付いたのだ。
 ――何かが近付いてくる。これは……まさか、大量の虚滅種だろうか?
「ふふっ。氷雨をより強靭にするの祠を壊されたのは計算外だったけれど……
 構わない。現状でも彼は十分にこの海の支配者としての『器』たりえる。
 それに――虚滅種の数も、まぁまぁ準備出来た」
「……あの祠は里の信仰心を、術の力として利用したものだったって事かい」
 微笑むリモーネ。勘付いたのは――縁だ。
 あの祠は里に蔓延しているリヴァイアサンに対する信仰心を、虚滅種へと変じさせる効果もあったのだろう。故に虚滅種は天浮の里の周辺海域での目撃情報が多かった訳だ。彼らは天浮の里で生み出されリモーネによって温存されていた――
 かつてリヴァイアサンと打ち合ったカタラァナの身体を探す為に。
 そしてその為に存在している邪魔なフェデリアへと攻め込む――戦力の為に。
 ……いずれにせよまずい事態だ。氷雨やリモーネに加えて、どれ程の数かも分からない虚滅種が此処へ来ようとしているなど。或いはこれは天浮の里に接触しようという輩を誘い込む意図もあったのか――? 縁はなんとなしそう推察もするものだが、今はとにかく行動しなければならない。
 囲まれてしまっては終わりだ。その前に戦いの態勢を整える為にも――!
「潔一、どうした!? 潔一、おい、返事をするのじゃ!」
「待て、様子がおかしい! 離れろ!」
「う、うぅ……なんだ……俺は、一体……?」
 更に悪いニュースだ――先程からどことなく様子がおかしかった潔一の意識が、より深く混濁としている。そればかりか、近くにいた妃憂に襲い掛からんとする様子もある程だ……幸いにして警戒していたシオンの手により負傷はない、が。
「これは――潔一さんに、何か取りついてる……!?」
「ッ、もしかして敵が待ち伏せていた様子だったのは、潔一さんから情報が洩れて……!?」
 花丸は気付いた。潔一には――『何か』が込められている、と。さすれば涼花も敵が多く待ち伏せていた理由に勘付くものである。きっと、潔一の意志が捻じ曲げられる様な何かがリモーネか誰かの手によって成されていたのだろう、と。
 ……いやもしかすれば潔一だけでなく、天浮の里の民にも似たような者もいるのでは?
 では敵の戦力は想像よりも更にあるかもしれない――!
「深海の危機を 地上のみなさんに 伝える為 いそぎましょう……!」
「チィ、だが虚滅種の追加が迫ってきてやがるな――んっ!?」
 故にノリアは皆を誘導する様に声を張り上げるものだ。
 続け様にはカイトが敵の接近を察知して――と、その時。
 虚滅種らへと紡がれた一撃が存在していた。
 それもまた波の『流れ』を操るかのような一撃で……それは。

「皆此処は任せて。氷雨は、私が止める!」

 助けに来たのは――卯ノ花だ。
 以前カイトらが助けた存在。それが今度はイレギュラーズ達を救いに来た。恐らくリリーのファミリアーと接触叶って状況を掴んだのか……ともあれ、彼女の姿はまるでカイトの良く知る『あの存在』であるかのように。
「水竜さ……――いや卯ノ花! 戦えたのか!?」
「ううん。なんていうか……氷雨が強くなると私も……
 説明してる時間がないから、今は急いで!」
 カイトはふと、自然に握りしめていた。
 水竜様の銀鱗を――どうしてか。卯ノ花の声が響く度に。
 ……彼女の気配がなにかおかしいとは思っていた。水竜さまの加護を受けたとかそういうタイプなんだろう――と思っていた。なのに、これは。いや、そういう事なのか? 氷雨がリヴァイアサンであるという事を補強する為に、近しい存在である水竜さまも『作った』のか――? コンモスカ!!
「お前は再現したいのか? かつてのリヴァイアサンとの戦いをよ――!」
「戦い? 違うよ。僕はあの方と共に在りたいだけなんだ」
 そして北部領域より抜けんとする寸前。千尋は可能な限りの声を張り上げるものだ。
 リモーネへと。このままでは戦いが起こる、と。
 その先にあるのは――かつての再現であるかもしれない、と。
 ……だがリモーネは夢見るだけだ。
 微笑みと共に。自らの、たった一つの願いがもうすぐ叶うと――信じて。

成否

成功

MVP

伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 『海援』様の狙い。蠢いていた力。
 その果てに紡がれる物語の終わりは――近いかもしれません。

 ありがとうございました。

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