PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<デジールの呼び声>最巧之壱、最悪之鬼

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「姐様! 姐様!」
 切羽詰まった様子で少女が走り込んでくる。
「なんだ?」
「姐様の言ってた、頼々って人から手紙が届いてます!」
「それを早く言え!」
 目を輝かせた空柊は差し出された手紙を半ば引っ手繰るようにして手にすれば。
「ふむ……ふむ……ふふふ!」
 そこに知るされたるは此度の戦場――インス島へのローレットによる攻撃作戦について。
「貴殿、知らせを持ってきてくれたのだ。ついでの頼みごとも聞いていけ。
 今から以前に武家で仕えていた武士(もののふ)を呼び集めるのだ。
 ここに来る連中は、大方が行き場を失った旧体制派の力無き無辜の民。
 とはいえ、いないわけではないだろう?」
「は、はぁ……何人かは居りますが……なにゆえ」
「――当然、インス島に行く。
 前回までは向かい合ってみたが、ちょうどいい機会だ。
 今度は横で成長を見させてもらおう」
 楽しそうに、嬉しそうに、愛おしそうに笑って、空柊は遥かな方角を見据えた。
「 せっかく行くのだ、頼々達にも多少の利があることを示してやるとしよう。
 援軍、という名目わけだ。構わないだろう?」
「拙らは姐様に着いていくしか道がありませぬ。
 姐様がそうするというのであれば、着いていくのみ」
「頼もしいことだ。であれば、直ぐに集めるのだ」
「はい!」
 走り去っていく少女を見る目には優しい色がある。


 ――ある晴天の空の下。
 豊穣近海に存在する、小さな島。
 不思議な潮流のせいで人が殆ど寄り付くことのないその島で、空柊は船に乗っていた。
 ふと視線を巡らせ、船をこぐようにして歩く男を見た。
「おい、お前、寝ているのか?
 これから戦をするのだ。そんなことでどうするのだ?」
 空柊はふらふらと歩く武士風の男を小突いた。
 着き飛ばされるように倒れた男は、小さく呻き声をあげると、のそりと起き上がる。
「……ん、んん、はっ!? そ、某は今何を!?」
「どうした、死にたいのなら残っていても構わないのだが?」
「い、いえ! そのような事は!
 いよいよ某の数少ない特技でもって姐さんに微力ながらお手伝いできますのに!」
「……そうか?」
 訝し気に見た空柊は、興味を失ったようにその場を後にする。
 その後ろ、男は不思議そうに首を傾げるばかりだった。


「――――」
 ふらふら、ふらふらと男が歩いていく。
 酷く昏い空気の中で、まるで眠りながら歩いているかのようだった。
 歩き続けるその男はやがて呆然とした様子にも見える立ち止まり方をして、何かを差し出すように前へ。
 刹那、いつの間にかそこにいた何かがそれを引っ手繰った。
「――ふん、これが貴様らの判断か」
 鼻で笑った男は奪い取ったそれを引きちぎるようにして散々に破り捨てる。
「鬼は死ね、か。ならばお前も死ね、鬼殺し」
 ぎらつく殺意に満ちた瞳、澱んだ色の瞳が遥かな遠方を見据えている。
 まるでそちらに誰かがいるかのように――
 それを覗き見るように、後ろからナニカが姿を見せる。
 4、5mはあろうかという巨体、ぽたり、ぽたりと汚泥を零すソレは形容するならば『鬼』を思わせる。
「――コロス、コロス、コロス」
 粘ついた声で、男が繰り返す。
『ゥォォォ!!!』
 呼応するように、それが雄叫びのようなものを上げた。
「ふ、ふふふ、ふはは! そうだな! 鬼(われら)の呪いは止まらぬ!」
 突如の哄笑をあげた後、男はぐるりと視線を向ける。
 そちらには呆然としたままの男が一人。
「おい、連中をここに先導しろ。分かってるな?」
 低い声で告げれば、こくりと男が頷いた。
 いやソレは頷いたと呼べるのか。
 船を漕いだように首を落として、そのままくるりと踵を返せば、そのままふらふらと去っていく。


「頼々、ここにいたか」
 その声に思わず頼々は飛び跳ねるように間合いを開けて振り返った。
「――空柊、また何かするつもりか?」
「いや、今回は頼々に手を貸そうと思ってな。
 ……その、すまなかった。ワタシも色々と」
 恥ずかしそうにしながら視線を逸らす空柊からは、この世界に来てから会うたびに受けていた殺意が見られない。
「……いや、源一族である以上、ワレも分かる。
 それより、手を貸すとは?」
「たしか、これからインス島とかいうところを攻撃するのだろう?
 それなら、うちの部下が攻め取った方が良さそうなところを知っている」
 そういうと、空柊は一枚の海図を手渡してくる。
 手書きらしいそれは、頼々の知る物と殆ど同じだが、ある点に丸が着いてある。
「ここに小さな島がある。ここに敵が潜んでいたらどうなる?」
「攻撃中に後ろから攻撃される恐れがあるな……」
「あぁ――それゆえ、ワタシ達海乱義衆はここを攻める。
 頼々達にも手伝ってほしい」
 挑戦するような瞳が、頼々を射抜いていた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】悪鬼衆の撃退
【2】島の制圧
【3】『鬼呪』堕我奴子との交戦

●フィールドデータ
 インス島近郊に存在する小さな島。
 ここを敵から奪取することで本島へ刃を突きつけるようになります。
 逆に言えば、取っとかないと常に後方をちょっかい出される位置にあります。

 フィールド自体は平淡な土の地面と木々が生い茂り、
 中央には小さな火山らしきものも見えます。

●エネミーデータ
・『悪鬼修羅』藤次郎
 悪鬼衆の長である鬼人種。
 上半身を大きく斜めに裂いた傷跡が特徴的です。
 凶悪で凶暴、まさに悪鬼と呼ぶにふさわしい悪人です。
 正々堂々とは程遠い人物であり、卑怯な手をいくらでも使ってきます。
 異様な憎悪をイレギュラーズ陣営へ向けてきます。

 物理戦闘主体、真っ当に強いハイバランス型と思われます。
 獲物は武士らしく弓矢と日本刀のようですが……

・『悪鬼衆』×???
 藤次郎に率いられる『海乱鬼衆・濁悪海軍』に属す海賊の一派。
 前身は鬼人種で構成された夜盗集団です。
 豊穣の政変が起こる少し前を最盛期としていましたが、
 政変前後に突如として忽然と姿を消していました。
 獲物は武士らしく弓矢と日本刀、長槍です。

・『鬼呪』堕我奴子
 いわゆるダガヌチです。
 3~4m級の巨体とそれに見合った体躯を持ち、
 頭頂部には非常に鋭利な角を生やした『鬼』を思わせる個体。
 特に腕の部分は長く、鬼らしい要素を除くとどちらかというとゴリラっぽくも見えます。
 怒り、憎しみ、嘆き、驚嘆の入り混じった複雑な声で咆哮をあげます。
 非常に強力な個体です。

 能力は不明ですが、相性上の理由から
 空柊はほぼ確実に『鬼呪』堕我奴子には勝てません。

●友軍データ
・『源氏最巧』源 空柊
 頼々さんの関係者であり、従姉にあたります。
 今回は皆さんの友軍です。
 インス島攻撃戦の話を連絡されたことで
 『停戦しいるし味方として参加しても問題ないな?』と首を突っ込んできました。

 頼々さんが『一人で戦える実力を持っている』ことを自覚し、
 ひと先ずはどの程度まで愛しいこの子が成長してるのか見てみたい……という心境の様子。
 守ってあげないと駄目そうだと思われると埒られる可能性はあります。

 ステータスは圧倒的な高EXAと攻撃力、命中、比較的高めの回避が特徴的。
 主な射程は超単と超貫に万能付。
 いわゆる『やられる前にやれば負けない』タイプといえます。
【反】【カウンター】【追撃】【邪道】【変幻】【復讐】を持ちます。

 今回は割と本気で戦います……が。
 相性上の理由から空柊は『鬼呪』堕我奴子にまず勝てません。
 皆さんがいなければ確実に依頼は失敗するでしょう。

・海乱義衆×15
 空柊の率いる海乱鬼衆です。
 鬼の字を嫌って義を名乗っています。
 八百万(精霊種)のみで構成された海乱鬼衆であり、
 元々鬼人種を弾圧していた家に仕えていた、自分が弾圧に関わっていたなど、
 何らかの理由で現在の豊穣では生きられなくなった者達です。
 今回はより積極的に戦闘で活動できそうなメンバーが連れてこられています。
 なお、何故か『気づいたら眠ったまま活動しているような者』が数人存在しているようです。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <デジールの呼び声>最巧之壱、最悪之鬼完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年10月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者

リプレイ


 重苦しい空気がその島を包み込んでいる。
 深く分厚い雲に覆われた空とその曇天をも覆い隠さんばかりの鬱蒼とした木々が頭上を覆う。
 立っているだけで気の滅入りそうなその島に降り立ってから暫く。
 源空柊を含めた9人のイレギュラーズと15人の海乱義衆は徐々にその歩を進めつつあった。
(角アリに排他的な皆さんにお手伝いする趣味はないんですが、依頼ですから、ね?
 頼々さん、余計な事は無しで頼みますよ? 海で泳ぎたくなければ……)
 声を殺して言う『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)はその本性を抑えて擬態した利香の姿を取っている。
(まあクーアの手前で擬態を維持するのは生殺しですケレド)
 ちらりと視線を『迷い猫』クーア・M・サキュバス(p3p003529)の方へ向ければ、クーアの方は首をかしげている。
(……そういえば私って鬼分類になるのでしょうか?
 いちおう夢魔でねこですから鬼要素はないのですが。
 聞いた話では彼女の鬼認定は角の有無のようですし……)
 なんてことを思考したところで顔を上げ、リカと視線が合って蕩けるように笑む。
「はぁーん。昨日の敵は今日の友ってやつだね。
 まぁいんじゃない。会長そういうの気にしないから」
 以前に出会ったことのある『虚刃流門下生』楊枝 茄子子(p3p008356)の言葉に空柊が薄く笑う。
「そうか。前回はその回復力が脅威だった。今回は期待する」
「え~照れる~ま、がんばろうね~」
 空柊の返答に茄子子は『いつもの調子で』そう答えるのだ。
「今回は味方でよかった、手練れなのわかってるからもう戦いたくないよぅ……」
 空柊の姿にホッと胸を撫でおろす『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は以前あった空柊との戦いを思い起こす。
 刹那、イレギュラーズ陣営を貫くような殺気。
「うん、戦略的にも無視できないし仲間の関係者が手伝ってくれるなら尚更だよね!」
 そう頷くのは『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)である。
 けれどもそこそこの奥地まで来たであろう島の様子はどこか不穏な雰囲気がある。
「――下がって!」
 それにアリアがすぐに気付けたのは、広域を俯瞰するような視野を取っていたからだ。
 挨拶代わりとばかりに付近の木々の合間を裂いた矢が降り注ぐ。
 アリアの言葉に合わせるように後退したことで、矢はイレギュラーズ陣営の元居た場所付近へと降り注ぐ。
「はっ、本気か? あの鬼殺しが他人と――それも角つきとつるむなんてな」
 それは前方から聞こえてきた声。
 影――と思っていたそれは暗い印象を受ける泥。
 そこに姿を見せたのは、1人の鬼人種。
「よう、覚えてるか――女」
 深い憎悪を空柊へと向ける、その男。
「ふむ、誰だ?」
「――ああ、そうだよな。てめえが覚えてるわけがねえか!」
 一瞬の逡巡もなく答えた空柊に苛立つようにそう叫び――男が全身から悍ましい殺気を溢れさせる。
「俺の名は悪鬼衆筆頭、藤次郎! てめえに斬られた男だ!」
「そうか――多すぎてわからん」
「俺らの受けたあの時の恨み晴らしてくれる! ――やれ、『鬼呪』堕我奴子!」
 藤次郎が叫び、それに応えるように泥――いや、泥のように見えていたソレが吼える。
 それに続けるように、暗がりより続々と姿を見せるは多数の鬼人種。
 先程の名乗りを聞くに、悪鬼衆なる者か。
「空柊、お前は義衆を統率して悪鬼衆を抑えてくれ。
 ワレはあのダガヌチとかいう鬼を殺る。
 お前に見せる元服の儀式のようなものだ。『こちらはワレらに任せよ』」
 わらわらと姿を見せた悪鬼衆とかいう鬼人種らを見て『虚刃流開祖』源 頼々(p3p008328)が空柊に言えば。
「――あのデカブツを? ……いいだろう。もしもの場合は此方が受け持つが」
「……うむ。それよりももう少しお前の部下を見てやると良い。幾人か違和感を覚える故、な」
「それは……」
 思い当たることがあるのか、空柊がちらりと後ろを見る。
「フッフフ、どうやらここは私ちゃんの出番のようだな?
 私ちゃんが来たからには、どんと構えてればいいんだぜ」
 続くように『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)もまた普段通りの調子を覗かせる。
「フッ……大丈夫だぜ、よりよりちゃん。
 あいつのことは私ちゃんとアリアちゃんに任せな!」
 視線を藤次郎へ向け、一気に跳び出していく。
「おー。大変な事になってるじゃねぇか、よりより君。
 厄介そうな相手だ、助太刀するぜ!
 搦手は得意だからな――よりより君がデカいの叩き込むスキ、作ってやろうじゃねぇか」
 術式を励起させながら『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は明るく声をかける。
「レイチェル殿、秋奈殿。うむ、助かるである」
「あぁ、燃やし尽くしてやる――復讐するは”我”にあり」
 右半身に刻まれた術式の制限を解き放ち、レイチェルは紅蓮を燃やす。
 魂さえ焼き尽くさんばかりの炎が内側の魔力を貪り喰らう。
 炎を帯びた腕で月華葬送を引けば、やがて魔力は矢へと形作られる。
 どくん、と腕が脈を打つような痛みの刹那、極大の炎を圧縮した一条の矢が尾を引いて迸る。
『ォォォォ』
 絶叫が一つ。
 防御というより、反射に近い動きでダガヌチが迫りくる炎へ腕を薙いだ。
 重い制約が炎となってダガヌチを焼きつける。
 零れ火はダガヌチの周囲にいた悪鬼衆をも巻き込んだ。
「あのデカい鬼……私では正直分が悪い気がするのです。
 ひとまず私は雑魚散らしに回るので、そっちは任せるのですよ」
 クーアはダガヌチへの攻撃を開始したレイチェルへそれだけ残して跳び出していく。
「うん、この位置なら狙いやすい――」
 カインが杖を握り締め、イメージするのは大いなる別の可能性。
 神秘と共に歩みを進めるそんな自分。
 翳した掌の前で浮かび上がる魔法陣がスパークを起こす。
「――破式魔砲」
 戦場を走り抜ける壮絶なる魔の砲撃。
 複数の悪鬼衆を巻き込み、魔砲はダガヌチの頭部を抉り取る。
『――ォォ』
 ――そう思った刹那の事だ。
 こぽこぽと音を立てたダガヌチの身体が、泥をかき集めたように再生する。
「打て打て打て!」
 武士たちが一斉に矢を放つ。疎らに飛ぶ矢が終わった頃、刀を抜いた連中が走ってくる。
「きな臭い……あんなデカブツ、良く躾けれたものですねえ?
 とっちめて飼育法でも聞くといたしましょうか、ね!」
 リカはそうやって自ら近付いてきた悪鬼衆へと手を翳す。
 妖眼が輝きを放てば、悪鬼衆らは胡乱なる雷光に呑まれいく。
「捕まえましたよ」
 身動きを奪われた者達へ襲い掛かるは夢魔の誘い。
 深淵の向こう側を思わせる深き闇より伸びる無数の手が彼らを絡めとる。
 あたたかい闇に包まれ、沈んでいく。
「目は覚めましたか?」
 昏倒していた悪鬼衆が唸りながら起き上がる姿を見たリカは微笑むと起きたばかりの彼らへとウインク1つ。
 それらは魅了の魔術にも等しき意味合いを以って彼らの怒りを縛り付ける。
「受けより攻めが好みなのですが、受けに回れない訳ではなし。
 リカと私、合わせて紫炎。そうやすやすと突破出来ると思わないことなのです!」
 そこへ続くのはクーア。
 動き出した戦線の前へ術士は火を放つ。
 砂よりも小さな粒が発火して悪鬼衆達へと降り注ぐ。
『ォ ォ ォ ォ オォォ?!』
 ダガヌチが雄叫びを上げる。
 悍ましき呪詛の籠った呪いの咆哮はしかし、掠れ潰れたようにしぼんでいった。
「さて、キミがボス? じゃあ私がお相手しますね!」
 いつの間にか太刀を抜いていた藤次郎の前にアリアは立ち塞がる。
「……」
 その身に加護を、術式を励起させれば、男の視線はアリアの方へ向いている。
 冷たい、静かな瞳があった。
 色合いの違うけれど身に覚えのある瞳――この類の瞳をアリアは知っている。
(……私じゃない誰かを見てる。空柊さんしか目に入ってない)
 それは『憎悪と怒りが混じった脅威的なまでの執着』が覗いている瞳。
 それはまるで――
「アゲてこーぜ、アリアちゃんうぇいうぇーい!」
「うん、がんばっていこー! おー!」
 いつの間にかそばに来ていた秋奈の言葉にアリアは頷いて答えると、大鎌を振り抜いた。
 それは宛ら歌うように踊るように描かれる旋律のように。
 合わせるように動く藤次郎の太刀をすり抜け、旋律はその精神を削り続ける。
「ぶはははっ! そんなわけで、此処はどうしても通せないのさ。
 悪人だからじゃなくて、だれもかれも通さない。
 その程度の憎悪、私ちゃんが全部ぶった斬ってやらあ!」
「忌々しい」
 短い言葉を残して藤次郎が動く。
 振り抜かれる太刀筋が深い闇を抱いて真っすぐに降りる。
「私ちゃんの方が――速い、ぜ! なんてな!」
 それに合わせて秋奈も刀を振り抜いた。
 意識を集中させ、踏み込みと同時に振り払った斬撃が反撃の太刀となって藤次郎へ振り抜かれる。
「その悍ましい咆哮で騒がれては困るのである。一気に斬り落とす」
 頼々は短く呟き跳躍。
 刹那のうちにダガヌチの背後へと回り込む。
 頼守へと収められた紫闢を以って振り抜くは脅威。
 有り得ざる傷跡がダガヌチの身体を傷つける。
「うーん、皆まだまだ元気だね~。ま、でも、レイチェルくんと頼々師匠とか、足りないでしょ」
 その様子を見つつ、茄子子は平然と笑ってそう告げれば、術式を起こす。
 女神が祝福の口付けを与えるかのような穏やかな光が戦場を裂いて降り注ぐ。
 2人を連続して降り注いだ光に偶然ながら照らされたダガヌチが雄叫びを上げる。


 拳が振り抜かれ、頼々目掛けて振り下ろされる。
 連撃が頼々を打ち据えるたび、幾つもの泥が頼々の身体に付着してその動きを阻害する。
「攻撃の手は緩めない――」
 握りしめた手にある杖が魔力を帯びる。
 その隣でマルチディヴィジョンにて再現された自分があった。
 放たれたるは有り得ざる神の呪い。
 放たれた不可視の呪いがダガヌチへ襲い掛かる。
「泥とかこっちに任せてがんがんやったれー!」
 茄子子はそのたびに魔術を発動して纏わりつく泥を浄化させしめていた。
 そのまま視線を巡らせ、空柊を見つければ、茄子子は天より光を降ろす。
 至高の天輪は受けた呪いを取り除き、祝福の恩寵を与える熾天の宝冠。
 驚いた様子を見せる空柊がこちらを見た。
「言ったでしょ。一刀両断くらいなら治せるって」
 その言葉は届いたのか、彼女が小さく笑ったのが見えた。
『この太刀に斬れないモノはない――』
 紫闢を振り抜く頼々は、虚ろの刃を握るように踏み込んでいく。
 研鑽は止まらない。鮮やかにめぐる斬撃はダガヌチの身体を斬り裂き、その形状を貶める。
「よりより君、さっきの見たか!」
 レイチェルは声をあげる。
「うむ、カイン殿の破式魔砲であろう。
 あそこまで消し飛んで再生されたのである。恐らく、奴には形状記憶の能力がある」
 それを受けた頼々が頷けば、カインはそちらを向いた。
「取りあえず、攻撃を続けてもっと様子を見よう」
 カインの言葉にレイチェルは肯定すると共に掌に炎を零す。
 矢へと姿を変えた炎を引き絞り、ダガヌチの頭部辺り目掛けて射かける。
 放物線を描いて飛翔した矢は煌々と輝きながらその頭部へと着弾すれば、花火のように舞い、円を描く。
 形成された結界がダガヌチの身体を押し込める。
 それが起こるよりも前、既にレイチェルは第二手を準備していた。
「憤怒、そして復讐の焔こそ我が刃。復讐の果てに燃え尽きるのが我が生なり」
 陣より溢れる紅蓮の炎。煌々と燃え盛る紅蓮の光が、一気に戦場を走り抜けた。
 太陽を思わせる紅蓮がダガヌチを焼きつけて行く。
 合図を出したレイチェルに続くのはカイン。
「……任せて、本命前の駄目押しだよ!」
 天へと掲げられた、2つの魔杖。
 鮮やかに輝く、鮮烈の輝き。
 それこそは破滅の砲声、苛烈なる魔弾。
 放たれた魔砲が悪鬼衆を巻き込みダガヌチの身体へと再び炸裂する。
 真っすぐに打ち出された魔砲はその頭部を丸々吹き飛ばした。
 傾く攻勢、茄子子は冷静に頼々を見る。
「うーん……まぁまだ大丈夫でしょ! でかいの一発やったれ師匠!!」
 駄目押しとばかりに女神の祝福を乗せ、魔性を思わせる応援の言葉を告げれば。
「――任された」
 頼々はその時を待っていた。
 雄叫びを上げるダガヌチ。
 鬼と呼ぶにも悍ましい不定形の魔。
「空想は現実を蝕み、有り得ざる刃は形を得る。
 ――虚刃流“雷切”」
 頼守に納めた紫闢に魔力を注ぎ、振り払うは雷光。
 紫電が戦場を迸る。


 戦いは進んでいた。
 悪鬼衆や海乱義衆の間にはちらほらと倒れる者も現れつつある。
「寝てる……!?」
 秋奈は近くで倒れている海乱義衆をまたぐように飛び越える次いでにその様子に見て、思わず声をあげる。
 その時、背中越しに放たれた矢がいくつか藤次郎の近くにいた悪鬼衆を撃ち抜いた。
「援護なら助かるぜ援護ならな!
 ふはははは! 今度はこっちからだぜい!」
 チッと僅かな音を立て、秋奈の長刀が鮮やかに暗闇を裂く。
 虚空を断つ斬撃が鮮やかに閃けば、グン、と前に身体を躍らせた。
「……ずっと不思議だったんだ」
 そう呟くアリアは、歌を奏でる。
 それは夢想、眼前の男が抱く夢。
 ――深く讃えた身勝手な逆恨みを暴き立てる詩。
「貴方からは原罪の呼び声を感じない……わけじゃないんだ。
 貴方の呼び声はずっと、『貴方の方に向いてる』だけなんだね」
 露出した殺意と悪意に混じって、その呼び声はあまりに弱い。
 けれど――魔種だ。
「乙姫さんの調子がおかしくて、情報がすっぱ抜かれている疑惑あり。
 ……どう考えても何か仕込まれてるやつなのです」
 クーアは思わずつぶやいていた。
 それはイレギュラーズの多くが感じていたこと。
 多くの面々がそれに対する対策を用意していた。
 ――そして何よりも問題は。
(どうにも、『上手く行きすぎてる気がする』のです)
 悪鬼衆との戦いで、何人かの海乱義衆が倒れているのを知っている。
 それ以上に倒れて射る悪鬼衆も多く、状況はイレギュラーズ有利だ。
 薬を魔力で凝固させて構築した剣を振り抜いて、鮮やかなる赤き月光を振り抜き1人を鎮め。
 ふと顔を上げる。
「……そろそろ頃合いだ。捕らえよ」
 冷たい声で藤次郎が呟いた。
 その刹那。
 戦場に倒れていた海乱義衆の内、3人ほどがゆっくりと起き上がる。
 ふらふら、ふらふらと動き出した彼らはイレギュラーズへは何もしない。
(人助けセンサーに反応しない……こいつら意識そのものがない。ホントに寝てる?)
 有事に備えていたリカはハッと顔を上げる。
 だがリカがチャームを行使するより前に、彼らは空柊の四肢を絡めとっていた。
 自分達への攻撃ではなかったこと――何より、海乱義衆を率いていた分、彼らの方が空柊へ近かった。
「――お前たち……」
 驚いた様子を見せた空柊も又、それに気づいたのか目を見開くばかり。
 反撃しない――というより、出来ないのか。
 敵意を持たぬ、自分よりか弱い者へ、意識してか知らずか彼女はどこか甘いのだ。
「ダガヌチィ!」
 続けて藤次郎が叫び――ダガヌチが咆哮をあげ、その場で大きく跳躍。
 構えたイレギュラーズ全てを飛び越え、上から落ちるように空柊を『呑み』こんだ。
「ふ、ふふ。ふははは! あはははは!」
 狂ったような哄笑をあげ、直後にストン、と表情を失う。
「よし、よし。得るべきものは得た。俺が退くまで殿を務めよ」
 そう告げた藤次郎に従うままに、悪鬼衆達が刀を取る。
 鬼の形状すら失い泥の塊となったダガヌチ諸共、島の奥へと消えていく。
「空柊――」
(――いや、あの女がたかが取り込まれた程度で死ぬはずがない……)
 まずは、こいつらだ。声をあげた直後、頼々は切り替えるように殿とばかりに構える悪鬼衆へ視線を向けた。
 勝利は揺るがない。――ただ一人の女の消失を除いて。

成否

成功

MVP

源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖

状態異常

茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)[重傷]
音呂木の蛇巫女
アリア・テリア(p3p007129)[重傷]
いにしえと今の紡ぎ手

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
連れ去られた空柊さんについては……また次回。

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