PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<総軍鏖殺>加護を祈る

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 遠くから響いてくる爆撃の音に緊張が走る。
 立て続けに聞こえたのは数発の破裂音と、何かが爆発したような黒い煙。
 小さく息を吸った『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)は身を屈める。
 夜の空には赤々と炎が舞い上がっていた。
「こっちもか……」
 アンドリューは眉を寄せ、周囲の音に耳を傾ける。
 この帝都スチールグラートの彼方此方で、戦いが始まっていた――

 浮遊島アーカーシュの事件が終わり、帝都の平穏が守られたと思っていた矢先。
 帝都では驚天動地の事態が生じていた。
『煉獄編第三冠"憤怒"』バルナバス・スティージレッドと『麗帝』ヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズが決闘を行っていたのである。二人の戦いは一日以上にも及んだ。
 それでも最強たるヴェルスの勝利を、大半の鉄帝国の民は疑いもしていなかった。
 玉座の扉を開けるのはヴェルスなのだと――しかし。

 激しき死闘の果てに玉座に君臨していたのは、『バルナバス』であった。
 鉄帝国全土に衝撃が走る。
 そして、新皇帝の地位に就いたバルナバスは勅令を下した。

 ――新皇帝のバルナバス・スティージレッドだ。
   諸々はこれからやっていくとして、俺の治世(ルール)は簡単だ。
   この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ。
   強ぇ奴は勝手に生きろ。弱い奴は勝手に死ね。
   だが、忘れるなよ。誰かより弱けりゃ常に死ぬのはお前の番だ。
   どうした? 『元々そういう国だろう?』

 一言で言うならば『弱肉強食』――弱者の完全なる斬り捨てであった。
 強き者は強きの儘に振舞い。弱者は只の肉と成れ。
 社会インフラの維持など一切考えない。ただただ蹂躙せよ、と……そしてそれを合法とする発布。
 それは瞬く間に鉄帝国全土に広がり、大混乱が巻き起こった。
 勅令のままに略奪や暴力を働く者、自分の力を誇示する者。
 聞けば、混乱に乗じて北のノーザンキングスも勢力を拡大しようと動いているらしい。

「……クソッ!」
 アンドリューは忌々しげに拳を握り締めた。
 南部戦線のザーバと鉄帝国宰相たるバイルは独自にこの状況に動いているようだが、アンドリューが属しているラド・バウにまで救いの手など来る由も無い。お互い自分達の『シマ』の事で手いっぱいだ。
 ならば、自分達の身は自分達で守るしか無いとラド・バウの闘士達は立ち上がったのだ。
 アンドリューは怒りを落ち着けるように首を振る。

 ――ラド・バウはラド・バウらしくあり続ける。
 ラド・バウはゼシュテルの動乱には原則積極関与しない。
 大闘技場と周囲一定の範囲をラド・バウ独立区として自治するのだ。
 もちろん『ファン』だろうと『一時の避難者』だろうとラド・バウが期待する『客』であるなら、この場に受け入れる。それがラド・バウの役目であり人々の拠り所となるのだ。
 アンドリューはその考えに大賛成であった。
 どんなに苦境に立たされても、人々は娯楽を心の支えにする。
 それが、ラド・バウの闘士として彼らにしてやれることなのだから。

「もう少しの辛抱だ。待って居てくれ――」
 アンドリューは目の前にある孤児院の窓をじっと見つめた。


「その孤児院には、子供達が取り残されているんだ」
 アンドリューは集まったイレギュラーズに告げる。
 ラド・バウ独立区の近くにある孤児院を、極悪人が占領したのだと地図を指差すアンドリュー。
「そこのシスターは既に殺されて、子供達だけ生かされているらしい」

 何十人もの命を奪った犯罪者『奪刃』ミッドリー・ジギアス率いる集団が孤児院を根城とした。
 彼らは金が在りそうな貴族や商人の家ではなく、孤児院に目をつけた。
 何故そんなことをしたのかと首を傾げるイレギュラーズにアンドリューは頷く。
「戦わせて勝った方が生きる。負けたら死ぬ闘奴のような事を子供達に敷いているらしい」
 自分達の欲求のために子供達の命を弄んでいる。
 アンドリューは自分の幼い頃と重ね合わせ怒りに拳を振わせた。
「それに、俺の知人も捕まっているようなんだ。
 ジェフ・ジョーンズという男なのだが、商人をしていて口が回るし腕も立つヤツだから簡単には捕まる筈が無いんだが……もしかしたら子供達を守っているのかもしれない」
 そういうジェフの優しさに幼い頃のアンドリューは救われた事があるのだ。
 何としても救わなければならない。

「だから、協力してくれ! マイフレンド!」
 差し出されたアンドリューの手をイレギュラーズは握る。

 ――――
 ――

「大丈夫、きっともうすぐ強いヤツらが助けに来てくれる」
 孤児院の子供達を抱きしめた『雪原の商人』ジェフ・ジョーンズは、彼らを奮い立たせるように伝う。
「だから、それまでお前らは『うまい事』やり過ごすんだ。良い勝負をして戦いを長引かせて、少しでも時間を稼ぐ。多少の傷は後からいくらでも治してやれる。――だからお前達、絶対に死ぬな」
 弱肉強食の世界なんていくらでも見てきた。
 それこそ、ジェフ・ジョーンズは極寒の大地ヴィーザル地方の出身なのだから。
 されど、享楽の為に奪われて良い命なんて無い。
「……精霊よ、どうか小さき命に加護を」
 ジェフは子供達の無事を精霊に祈った。

GMコメント

 もみじです。孤児院の子供達を救出しましょう。

●目的
・子供達の救出
・敵の撃退

●ロケーション
 ラド・バウ独立区近くにある孤児院です。
 広場では子供達が無理矢理戦わされています。
 周りを取り囲むように暴漢が居ます。
 広場の隅には次に戦う子供達とジェフ・ジョーンズが居ます。

●敵
○『奪刃』ミッドリー・ジギアス
 何十人もの命を奪った犯罪者の男です。
 バルナバスの勅令により解放されました。
 残忍な性格で人の命が奪われる瞬間が何より好物です。
 子供達を戦わせ恐怖の叫びと苦痛を観賞しています。
 戦闘では大きなナイフや暗器を使い戦います。
 素早さが高く、攻撃には出血や毒を伴うものも多いです。

○『流毒の』アンジェリーナ
 何十人もの命を奪った犯罪者の女です。
 バルナバスの勅令により解放されました。
 毒を飲ませ苦しむ姿を見るのが好きです。
 戦闘ではレイピアを使用し、毒や麻痺などが伴います。
 遠距離攻撃は毒液を広範囲にまき散らします。

○盗賊団員×10
 ミッドリー達に従う盗賊たちです。
 そこそこの強さを持っています。
 剣や銃などで武装しています。

●NPC
○『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)
 ラド・バウのC級拳闘士。
 筋肉を見せつけてくる気さくな青年です。
 世話になったジェフや子供達を助けたいと思っています。
 拳で戦います。

○『雪原の商人』ジェフ・ジョーンズ
 ヴィーザル地方出身で現在はヴィーザル地方を巡回するジョーンズ商会のボス。
 ハイエスタの騎士とドルイドの魔女の間に生まれ、剣より精霊の声を聞く方に適正があり、剣士として戦う事を諦め商人として外からヴィーザル地方を支える覚悟をしました。

 懇意にしていた孤児院へ寄った所で今回の騒動に巻き込まれました。
 多勢に無勢で殺されそうになった所をジョーンズ商会の財産を渡すという『交渉』により生きながらえました。
 剣の腕は『自衛できて、足手まといにはならない』程度。
 イレギュラーズが到着すると、子供達を逃がそうと動きます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <総軍鏖殺>加護を祈る完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ


 煤けて焦げた匂いが風に乗ってやってくる。
 遠くで上がる黒煙を見上げ、『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は眉を寄せた。
「話には聞いていたがこの国も大変なことになっているな……」
「ええ、勅令の結果。無茶苦茶なことになっておりますね」
 周囲を伺い壁に背を預けたブレンダの頭上、屋根の上から『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の声が応える。
 この鉄帝国を滅茶苦茶にする為に出された勅命。
 正しく弱肉強食。真の自由を掲げる新皇帝バルナバスの言葉は、国を混乱の渦に落すものだった。
「自由とは秩序があってこそ成り立つ物。好き勝手にすることはわけが違う」
「そう……弱肉強食は世の摂理。それはよく理解しているのだけど。私もこの状況は赦せません」
 胸元で指をぎゅっと握った『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は憂う瞳を地面へ向ける。
「本来の弱肉強食は秩序があるけれど、この鉄帝ではただ混沌とした暴力があるだけ」
「ああ、これは只の暴力だ。何の矜持も誇りも無い。弱きを虐げ弄ぶ、鉄帝の掲げる力はこんなことに使うものじゃなかったはずだ」
 フルールの隣に立った『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は視線を上げ、路地の先を見つめた。

「……狂っているのですね。何もかもが」
 石畳の上にコツリと足音が鳴る。『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は指先を中空に向けた。素早く描かれた魔法陣の中から錆柄の鳥が飛びだす。闇に紛れるには打って付けの煤けた色の鳥だ。鳥はアッシュの腕に止まったあと、夜空へ舞い上がる。鳥の視界がアッシュの脳裏にリンクし、上空からの映像を映し出した。
「此の国の、新たな皇帝の矜持がどうであれ。こんな凶行は……絶対に許しません」
 先行するアッシュの鳥は、目的地である孤児院を見下ろせる隣家の屋根の上へ降り立つ。
 その対角には『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)の呼び出した小鳥が居た。
「上に立つ人によって国の在り方が変わるって本当なのね……強い人が上に立つのは鉄帝のルールだからそこは何も言えないけど、子供達が犠牲になるのは見逃せないわ」
 アッシュの耳にキルシェの声が届く。
「わたしはお姉さんだもの、お姉さんは小さい子を守るのよ!」
 振り返ったアッシュにキルシェは頷き、ファミリアーへと意識を戻した。
 より精度を高める為に二人は集中する。
 鳥の視界からは、広間で戦っている子供の姿が見えた。
 待機している子供はジェフ・ジョーンズと一緒に戦場の隅に控えている。
 アッシュは鳥を使い隈なく孤児院の窓をのぞき見た。幸いな事に他の場所に子供の気配は無い。それが確認出来た事は戦闘を優位に進める鍵となる。

 キルシェは大まかな人の配置をスケッチブックに書き記し、『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)へと渡す。
「……なるほど。他の場所に人は居なさそうだね」
「うん……助けを呼ぶ声も一箇所に纏まってるから広間だけに集中出来る」
 Я・E・Dの言葉にヴェルグリーズが応える。
「今は一人でも多くの人をこの狂った状況から救わないと、その為の力をここで振るってみせるよ」
 事前の準備と子供達の『命の残り時間』を天秤に掛け、これが最大最良であるとしたヴェルグリーズやアッシュ達の判断は正しかっただろう。もし、子供達が別の部屋に残って居たなら、後から人質に取られていた可能性だってあるのだから。
「流石はローレットのイレギュラーズだな!」
 そこまで考えが至らなかったと『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)は目を瞠る。
「マイフレンドが居てくれて心強いぞ! この国もマイフレンドならどうにかしてくれるかもしれんと期待してしまうな……いや、頼りきりという訳ではないのだが」
 アンドリューの背をブレンダが張る。ジンジンと痛む背はいっそ心強くもあって。
「すぐに国をどうこうすることはできないが手の届く範囲なら手を伸ばそう。強い奴が勝手にしていいのなら私たちの方が強いと示せばいいのだろう?」
 差し出された拳にアンドリューは己の拳を重ねた。

「泣く子を放っておくなんて、私にはできませんからね。どうにかしましょう」
 フルールは小さく息を吐く。
 罪人とはいえ、これより先は死闘の領域。人を殺す事になるのだ。
 生かしておいてもきっと彼らは同じ事を繰り返す。故に罪人。
 一度殺す事も二度殺す事も同じと思えど、気乗りなどしようはずもない。
 ただ、そこに悦びはなく、慣れもないだけなのだ。
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は怒りに身を焦がしていた。子供に無理を強いる極悪人も、略奪を許したバルナバスも許さないと憤慨する。
 されど、その怒りは心の内に秘め、成すべき事を行うのだ。
 くるりとアンドリューへと振り向いたヨゾラは拳をぎゅっと握る。
「アンドリューさん……僕は君の願いを叶えたい。子供達もジェフさんも、助け出そう……!」
「ああ、そうだな! 頼もしいぞ! マイフレンド!」
 大きな声にヘイゼルはアンドリューの顔の前に指を出す。
 ヘイゼル自身は出身の孤児院に良い思い出はないが、だからといって目の前の悪行を見逃すのは有り得ないと断じる。生きる価値も無い他人を害する者と、今後の未来において仲間や有益な人材になる可能性のある子供とでは天秤に乗せるまでもなく、助けるべきは後者であるのだから。何より子供やジェフを助ければ報酬がある。それは重要な価値といえよう。
「それでは、ゆるりと参りませうか」
「救出開始なのよ!」
 ヘイゼルが屋根の上を跳躍し、キルシェが天へと拳を上げた。


 薄暗い広間の中、蝋燭に灯した炎が揺らめく。
 ヘイゼルの影が壁に這うように移動した。
 新皇帝の勅令で解放された者達で結成されたという敵の集団は、おそらくお互いの顔もそれ程詳細に覚えていないだろう。紛れ込むには丁度良いとヘイゼルはフードで顔を隠し、堂々と敵の中へ潜り込んだ。
 子供達を戦わせる事に夢中になっている盗賊団はヘイゼルが紛れ込んだ事も気付いていない。
 ヘイゼルは影になっている壁からЯ・E・Dが入り込んだ事を確認する。
 事前にアッシュ達がファミリアーを使って入りやすい位置を教えてくれていた。
 精霊の声を聞くジェフ・ジョーンズは脳内に響くЯ・E・Dの声を一早く『理解』する。
『聞こえる? この声が聞こえたら静かにして。叫んだらだめだよ? わたし達はイレギュラーズ。貴方達を助けに来たんだ』
 自分の脳裏に響く不思議な声に子供達はジェフを見上げた。
 大丈夫だと笑顔を見せるジェフに子供達は安心する。
 きっと、この脳内に響く声は自分達を助けに来てくれた『正義の味方』なのだと嬉しくなった。
『今から合図をしたら、暴漢達に攻撃が降り注ぐから、
 そしたらこっちの方に頑張って走って逃げ出して――――じゃあ、行くよ!!』

 声が一際大きく響いた瞬間、ドアが蹴破られ大きな音が炸裂する。
「何だァ!?」
「くそ!? 敵襲か!?」
 盗賊団が驚き周囲の状況を把握するより早く、ヘイゼルは子供達の元へ走った。
「ガキどもはこっちで見とくから、構わず応戦しろ」
「何処のどいつだ!」
 武器を抜いた敵の眼前に、剣の姿をしたヴェルグリーズが飛んでくる。
 実用剣であるが故に、幾度も命を絶って来たであろうその刃に盗賊団の男は生唾を飲み込んだ。
 ギリと奥歯を噛みしめた敵はヴェルグリーズを弾き返す。
 その瞬間剣は揺らめき、人の姿へと変幻した。
 突然現れた、ヴェルグリーズに敵の注目は集まる。
「てめぇ! どこから現れやがった!?」
 唾を吐き散らしながら、大声を上げる敵にヴェルグリーズは容赦無く剣尖を走らせた。
 考える暇すら与えない。奇襲とは初撃が勝負である。
「うん……あの子たちは絶対に生きて助けてあげなきゃね。
 これがわたしの最大火力、絶対に貫いてみせる!!」
 Я・E・Dは子供達を囲んでいる敵に向かって殲滅の光を解き放つ。
 白い光に包まれた戦場は息を吐くことすら許されないような目映さだった。

 ヨゾラは子供達とジェフの命を第一に考え、自らが敵を引きつける形で戦場を制する。
 彼の周りに立籠める魔力が敵の怒りを手繰り寄せた。
 刃がヨゾラの白い肌を割いて、赤い血が床に飛び散る。
 痛みに焼けそうになる意識を必死に保ち、ヨゾラは守るべき者達の為に戦場に立ち続けた。
 アッシュ達の見回りのお陰で余計な敵襲を心配しなくてもいいのは行幸だった。
 ヨゾラの懸念があったからこそ、事前に情報の無い敵の増援も仲間の探索で可能性を潰せている。
 もし仮に、その懸念を抱かず探索も行っていなければ、敵の増援は有り得たかもしれないとヨゾラは身を震わせた。それ程に、この鉄帝という国は混乱に満ちているのだから。
「僕は平気。君達を絶対守るから……!」
 囮を買って出たヨゾラは痛みに耐えながら、歯を食いしばった。誰も奴等に殺させないのだと。
 ヨゾラの視線の先、ヘイゼルとフルールの姿が見える。
 彼女達は戦わされている子供達を逃がす役目を買って出てくれていた。
 ヘイゼルは子供達の元へ走り、小さな紙を見せる。
『ジェフの仲間、助けに来た、逃げろ』
 その紙をぎゅっと握り締めた子供はジェフが居るであろう部屋の隅を目指した。
 精霊と融合し光を纏うフルールは子供達を庇うように敵の前へ身を翻す。
 出来るだけイレギュラーズへと意識が向くように。人質にされてしまえば、子供の命なんてすぐに潰えてしまうから。それに、子供達が逃げてしまえば、戦闘はしやすくなる。
 だからフルールは精霊達と共に戦場に炎の奔流を迸らせた。
「さあ、私を見なさい」
 向けられる憎悪の視線を感じてフルールは口の端を上げる。

「どうか。いまはわたし達を信じて。必ず、助けてみせますから」
 アッシュは走ってくる子供の手を引いて、戦場に注ぐ攻撃の余波から身を挺して守る。
 背中を血に濡らしてもアッシュは子供達に緩く笑みを見せた。
 子供は『大人』の感情に敏感だ。アッシュは彼らにとって助けに来てくれた『大人』であるのだから。
 安心させるために微笑むのは合理的であった。
「怖かったね。痛かったね」
 キルシェはアッシュから子供達を引き継いでジェフの元へと走り出す。
「でもいっぱい頑張って戦って時間をくれたから、わたしたち助けにこれたの。
 もう大丈夫。わたしたちが守るから、もう安心してね!」
 キルシェの言葉に子供はぎゅっと手を握る。大声で泣き出したりしないのは生存本能か、賢さが備わっているのか。
 ジェフの元へ走り込んだキルシェは出口を指差した。
「はやく、向こうから逃げられるから。行って!」
「ああ、すまない」
 踵を返すジェフは子供達を連れて出口へと急ぐ。

 されど――
「逃げられると思うのかい!?」
『流毒の』アンジェリーナが撒いた毒が子供達の行く手を阻んだ。
「これ以上この子たちに痛い思いさせないんだから!」
 キルシェとそのお供リチェルカーレは、子供達の代わりに毒を浴びる。
 彼女が庇ってくれたお陰で子供達に大した怪我は見られない。
「さあ、行くよ。こっちだ」
 ヴェルグリーズとアッシュは子供達を毒に浸された床を迂回させるように誘導した。

「貴様らの悪行は目に余る! 子どもたちは返してもらいに来たぞ!」
 ブレンダは子供達が逃げることから注意を逸らす為ミッドリーの前に立ちはだかる。
「ハァー? 俺らのモン横取りすんのか?」
「横取りも何も彼らは貴様らのものではない……が、この国の『法』は最近変わったようだな。
 ならば、私は力ずくで貴様らから子供達を奪おう。それなら文句はあるまい?」
「ほざけ……ッ!」
 怒りを露わにしたミッドリーはブレンダへとナイフを向ける。
 太刀筋はブレンダの正中を捉え何方に避けてもダメージは免れない。
 されど、導きの騎士は一歩も引かず、刃を真正面から受け止めた。
 この手の輩はブレンダの最も嫌いなタイプだ。
「自身の私利私欲のために弱者を貪る外道――」
 心置きなく斬り伏せてやれるとブレンダは大剣でナイフを押し返す。
 弾かれ重心を崩したミッドリーへとブレンダの剣が突き刺さった。
「くそ、が!」
 ミッドリーは腹に剣を受けながらも懐から毒液を取り出し、ブレンダへと投げる。
 空間に広がる紫色の毒は肺からブレンダの体内へと入り込んだ。

 ――――
 ――

 Я・E・D戦場となった広間を見遣る。
 戦況はイレギュラーズの圧倒的な戦力で優位に進んだ。
 Я・E・Dが放つ光の奔流は幾度も戦場を迸り、盗賊団共を焼いた。
 子供達を追いかけていた敵をЯ・E・Dは容赦のない砲撃で打ち払う。
 キルシェとリチェルカーレも必死に子供達の為に身体を張っていた。
「誰も死なせないし子供達は追わせないわ。子供の笑顔は幸せの証なの。あの子たちがまた笑えるように安心確保するのもお姉さんの役目なのよ!」
 キルシェの声が広場の壁に跳ね返る。

「弱者は淘汰され、強者だけが生き残る、其れは連綿と紡がれてきた、自然の摂理なのでしょう」
 アンジェリーナの前に刃を走らせたアッシュは返す毒霧を右に跳躍し避けた。
「……ですが、我々は荒野に生きる獣ではない筈」
「何を戯言を……!」
 再び迫る毒を懐へ潜り込む形で回避するアッシュ。
「其の摂理に逆らって生きることを選ぶ。其れこそがヒトの知性であり、理性。
 獣に堕した者達に、負ける訳にはいかないのです」
 アンジェリーナの腹を割くアッシュの刃。赤き血が白いアッシュの肌に散る。
「これもすべては魔種の引き起こしたことだ」
 冠位バルナバスの勅令によって鉄帝は混乱の只中にあるのだとヴェルグリーズは憂瞳を揺らした。
 早くこの騒動を収めなければ、人々の平穏な日々が遠のいていくだろう。
 それは避けなければならない。その為にも――
「この場は征させてもらうよ!」
 神々廻剱を手にヴェルグリーズは剣刃を輝かせる。
 戦場に満ちる光の帯はアンジェリーナとミッドリーを包み込んだ。

「さて、他者を殺すことに愉悦を感じる歪んだ子、ミッドリーおにーさんとアンジェリーナおねーさん。それでは死んでもらいましょう」
 苛烈なる炎纏いしフルールの指先から魔法陣が現れる。
「無理矢理他者から奪った罪、ここで真火に焼かれて贖ってください」
 揺らめく焔は業火となりて戦場を駆け抜けた。
「来世があれば、清く正しく……いえ、おそらく来世は来ないでしょう。ほら、ジャバウォックがあなた達を物欲しそうに見ています。罪にまみれたあなた達の魂は、とても美味しそう……みたいですよ?」
 燃え尽きて灰になったアンジェリーナをフルールは冷淡な瞳で見つめていた。

 ヘイゼルとヨゾラは手負いのミッドリーへと視線を上げる。
 子供達は既に戦場から逃げ仰せていた。
 眩い光を解放するヨゾラの影からヘイゼルが的確に急所へと攻撃を当てる。
「くそが! タダじゃ死なねぇ……ッ! お前ら道連れだ!」
「今は騎士たるこの身。助けを求める誰かを救うためなら多少の傷も厭うものか!」
 ミッドリーに立ち向かうは強き騎士の背。
「戦いなどできる者、やりたい者がやればいい。誰かに強制されて命を賭けるなどあってはいけない。
 今更貴様に道理を説くつもりなどない。貴様に教えるのはもっと簡単なことだ」
 剣を振うブレンダは毒に侵されながらも決して膝を屈する事は無い。
「今この国は強い方が正しいのだろう?
 ――逃げるなよミッドリー。貴様は今から負けるのだ!!!!」
 口から血を流しながら、ブレンダはミッドリーの命を絶ちきった。


 小さな小鳥が夜空を駆け抜ける。
 羽ばたいた先に肩を振わせる子供達がいた。
 ジェフ・ジョーンズは小鳥を手に乗せ、安堵の表情を浮かべる。
「居た、居た~! おーい、ジェフお兄さーん!」
「おう、こっちだ」
 駆けてきたキルシェ達に手を振るジェフ。
「みんないっぱい頑張ったね、もう大丈夫よ!」
 キルシェの友達リチェルカーレのもふもふのお腹に顔を埋める子供達。
 リチェルカーレの温かさは震えていた子供達の心を癒す。
「ほら、クッキーとお水もあるわよ。甘くて美味しいんだから」
 子供達にお菓子を渡したキルシェは怪我をしている子に回復を施した。
「もう安心していいからね。あの悪い奴らは俺達がやっつけたから」
 ヴェルグリーズは戦わされていた子供達の頭を撫でる。
「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
 アッシュとフルールは子供達が安心した表情を浮かべたのを、良かったと頷き合う。
「うん、これまで良く頑張ったね……もう大丈夫だよ」
 Я・E・Dは子供達を抱きしめ、助かった事に胸を撫で下ろした。

 それでも子供は感受性が強い。これから自分達がどうなるか不安なのだろう。
 辺りを見渡す子供達の背を撫でたヨゾラは「大丈夫だよ」と声を掛ける。
「もっと安全な所に行こうか。ラド・バウって知ってる?」
「知ってる! 強い人が居るんでしょ?」
「そう、今からそのラド・バウへ行くよ」
 ヨゾラは子供達の手を引いて歩き出した。警戒は怠らないように。
 何が何でも子供達は守ってみせるのだと強い眼差しで周囲を見渡す。
 ブレンダは幼き命が散る事は無かったと安堵した。
 あとの事はアンドリューに任せ、子供達の背を見守るブレンダ。
 言葉を介さなくてもきっとブレンダが守ってくれた事を子供達は憶えているだろう。
 ラド・バウが見えて安全な場所まで来た頃、ブレンダは帰路に着く。

「この先この子たち安心して暮らせるかしら……」
「そうだね、今回戦わされたりそれを見させられたりした子供達の心の傷が心配だ」
 キルシェとヴェルグリーズは子供達の背を見つめ眉を寄せる。
「元居た孤児院からも連れ出されて慣れない環境下にいるというのは辛いだろうけれど」
「少なくとも鉄帝が落ち着くまでローレットで保護して貰えるように頼んでみるわ! ルシェの所は鉄帝からは遠いのよ……」
 助けて終わりではないのだとキルシェは指をぎゅっと握り締める。
「ふむ……そうだな。とりあえずジョーンズ商会で子供達は預かろう」
 キルシェの不安にジェフは助け船を出した。
「ローレットも慈善事業じゃない。世界を救うイレギュラーズには特別な待遇が与えられているが、子供をタダで保護し続けるって訳にはいかんだろうしな。なあに、悪いようにはせんさ。衣食住は保障する。その代わりに『仕事』はしてもらう。人手はあるに越した事は無いからな……まあ、決めるのは子供らさ。ラド・バウの方へ身を寄せたっていいしな」
 子供達にはこれからの人生があり、苦難や試練が訪れるだろう。それでも、脅威に脅かされる生活は無くしてあげたいから。
「俺たちが一日でも早く魔種を倒して元の生活に戻れるようにするよ。どうか待っていてね」
 ヴェルグリーズは子供達の手を握り、祈るように微笑んだ。

成否

成功

MVP

アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.

状態異常

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)[重傷]
【星空の友達】/不完全な願望器

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 無事に子供達もジェフも助ける事が出来ました。
 MVPは的確に戦況を支えた方へ。
 ご参加ありがとうございました。

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