シナリオ詳細
<総軍鏖殺>Grenze
オープニング
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ラド・バウ――鉄帝誇る最大の娯楽とも呼ばれる大闘技場。その場所に満ちた熱狂に差し込むのは困惑と混沌の気配であった。
毎日滞りなく開催される戦闘。闘士達は今まで以上に見世物(ショー)として立ち振る舞う。
観客達の目的は現チャンプのガイウス・ガジェルドと無敗と名高いザーバ・ザンザ、皇帝ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズのゲームマッチを夢見る事ではない。誰が最強であるかと顔を突き合せ、討論する一角であった『麗帝』が玉座を明け渡したのだという。
帝位挑戦に対する前防衛記録を持っていた『麗帝』ヴェルスを却けたのはバルナバスと名乗る男であった。
突如として崩れ去った『麗帝』の治政に、新皇帝は更なる混迷を作り上げるように勅命を降す。
――新皇帝のバルナバス・スティージレッドだ。
諸々はこれからやっていくとして、俺の治世(ルール)は簡単だ。
この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ。
強ぇ奴は勝手に生きろ。弱い奴は勝手に死ね。
だが、忘れるなよ。誰かより弱けりゃ常に死ぬのはお前の番だ。
どうした? 『元々そういう国だろう?』
これには誰もが黙っては居られなかった。少なくとも、ラド・バウで闘士達を娯楽とする者達にとっては『狩られる側』に成り得るからだ。
社会インフラの維持も、ルールも何もかもがない。強者の下に這い蹲るのが弱者である。それを合法とする発布を受けてラド・バウがとった施策は『娯楽提供の維持』と『観客の保護』、そして『不届き者の排除』である。
「――って訳で当然、当然よ、ええ、当然のコトだけどアンタが代表格になるべきでしょ!?
世話の焼ける男ね。戦う事ばっかり考えてるんだもの! アンタは後ろでウォーミングアップでもしてなさいな」
唇を尖らし、ラド・バウのスーパースターであるガイウス・ガジェルドに詰め寄って行くのは自称『Sクラスの最も華麗で美しく残酷な番人』のビッツ・ビネガーであった。
闘士としての彼の戦い方は苛烈で残忍そのもの。武を誇りとする観客からは余り人気もないが、それも戦場での評価。
普段の彼は『オネエさん』としてのキャラクターを前面に押し出し、メディア露出も多く何だかんだで『戦わなければ良い奴』の評価を得ているのである。
生粋の闘士であるガイウスはラド・バウの纏め役としてビッツを前面へと押し出した。文句を言いながらも直ぐにでも方針を決定した彼はガイウスの見込んだ通りこの立場は『適任』なのだろう。
「頼んだ」
「煩いわね、筋肉達磨。美しくないのよ!
――良いわね、闘士(アンタ)達。ラド・バウは娯楽よ。娯楽(ショー)してなんぼなの!
観客はバカな奴らから保護してやりなさい。この場所を護るのも闘士の役目。
チケットがなくってもアタシ達を見たい子は中に入れてやるのよ。
ああ、けれどね、飛び入りでマッチ出場を希望するみっともないヤツはお帰り頂いて頂戴!」
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ビッツの指示を受け早速、とイレギュラーズの前に立っていたのは『アイドル闘士』として評判のパルス・パッションであった。
「やっほー! 皆。今日は集まってくれて有り難う。話は聞いてる?
ビックリだよねー。ヴェルスが倒されちゃうなんて! それでね、バル……バルナバス? が新皇帝になって大変なんだ」
何時もと変わらぬ快活な彼女はファンからプレゼントされたという新規の戦闘服に身を包んでいた。
ふんわりとした桃色のポニーテールが彼女の可愛らしい仕草ひとつひとつに合わせて大きく揺れている。
「強いヤツはふんぞり返って良くって、弱いヤツは死んじゃえって法律――」
「アンタ、バカね」
「えっ、ビッツに言われたくないよ!? ……まあ、簡単な方が分かり易いでしょ?
そういうのが出てスチールグラードだけじゃなくて鉄帝は大荒れなんだ。市民だって狩られる立場になっちゃう。
だから、ラド・バウは市民の保護と、娯楽提供を行って心の支えとなるべく平常運転プラスアルファで行くことになったんだ」
ラド・バウの顔役は最強と名高いガイウスではなく、何だかんだでお世話を焼いてくれるビッツなのだとパルスが言えばビッツはふん、と鼻を鳴らした。
「アタシは調整に忙しいからアンタ達とパルスでどうにかしていらっしゃい」
「……まあ、ビッツは本当に忙しそうだから。ラド・バウの周辺でおイタをするおバカさんからここに保護を求めてる市民を護ってあげようって言うのが今回の目的だよ」
パルスは共に市井を見て回るために同行してくれるらしい。現況を把握して、ビッツに指示を仰ぎたいというコトだろう。
「それじゃ、一緒に行こっか。メインは人助け! ふふ、ボクもイレギュラーズになったみたいだね?」
ウィンクをしたパルスはアイドルらしく頬を染め可愛く笑って見せたのだった。
- <総軍鏖殺>Grenze完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年09月24日 16時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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この国の全ては武を持って決定される。最高君主の座さえ、政や才気ではなく武力を持って有することが出来るのだ。
国民性は武へと傾倒しており、その最たる例が『ラド・バウ』であった。鉄帝国が誇る大闘技場。所謂、国民の娯楽であるその場所は強者との真剣勝負を楽しめる場だ。それは暴虐を用いたものではない一種の娯楽(ショー)として観客の心を潤わせてきた。
無論、個人の武力を確かめる場としてもうってつけである。『竜剣』シラス(p3p004421)にとってはラド・バウがそのスタンスから変わりなく、寧ろ混迷の鉄帝国より市井の人々を救うことを掲げてくれた事には有り難さを感じずには居られまい。S級闘士たるビッツ・ビネガーを倒す事を目標と掲げ――勿論、強者であれば誰もがその標的だ――たシラスはラド・バウが現状の帝国指針とは別軸であった事が救いなのだ。
「……憂慮ぞ、争いにて代替した国は荒むもの。されど此度は荒むために相成った。真なる目的は判らねど臣民を助くることこそ肝要といえよう」
闘争こそが人生だというのか。はたまたその政に何らかの理由が付随しているのかは『寛容たる傲慢』オジヴァン・ノクト・パトリアエ(p3p002653)には全容は計り知れない。しかし、新皇帝バルナバスが目的を掲げた以上は其れを無碍には出来ないのが実情である。ラド・バウ近辺の民草に救いの手を差し伸べて欲しいというのがラド・バウからの直接依頼ではあるが民を見捨てられぬと言うのもオジヴァン個人の考えである。
「彼方此方で大騒動、今度は鉄帝ですか……この状況で一般人の保護に乗り出す、勿論お手伝いさせて頂きますとも!」
引き続きと言えば良いのかそれとも。嘆息をする『夜を裂く星』橋場・ステラ(p3p008617)は鉄帝国も一枚噛んでいる海洋遠洋のリゾート地だけではなく複数の問題が起ることこそ『混沌』と呼ばれる世界に相応しいのだろうかと肩を竦める。
「新緑が終わったと思えば、シレンツィオでも問題があって、それから鉄帝……何だか大変な事になっちゃってるみたいだね。
そんな中でもパルスさん達みたいな人達も居てくれるって言うのがとってもありがたいよっ!」
にんまりと微笑んだのは『竜交』笹木 花丸(p3p008689)。花丸の言葉に「うふふ」と少し恥ずかしげな笑みを浮かべて見せたのは『アイドル闘士』の称号を欲しい儘にするラド・バウのファイター、パルス・パッションその人だ。
「やっぱりラド・バウは『観客(みんな)』あってのものだからね!」
「うんうん。……今のこの状況で直ぐに全てを解決なんてことは出来ないんだろうけど、先ずは少しずつ、皆で協力して目の前の困った状況を何とかしていかないと……だよねっ!」
「ああ、そうだな。しかし、少しばかり事件が起きればすぐ呼応、か。面倒事が増えるのは勘弁して欲しいんだがねぇ……。そうも言ってはいられない状況か」
国の問題は国で解決してくれと投げ遣りな態度をとるにもとれないというのが『新皇帝の勅命』なのだ。『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)は呆れを滲ませながらもパカダクラの背を撫でた。数多くの戦場を駆け抜けた猛者たる砂駆は主人に頑張ろうと告げるようにダカァと鳴いてみせる。
「ごめんね、迷惑を掛けるけど。やっぱりボクは皆を見捨てられないんだ」
「闘士はただ戦闘が出来れば良いという訳ではない、同感だな。
皇帝の席だけならまだしも、力が全てを支配する環境なんて国として成立するとはとてもではないが思えん……これでもB級闘士の一角、きつい灸を据えてやらないとな」
「頼りにしてるよっ!」
パルスの微笑みに『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は任せておけと頷いた。作戦は荒くれ者共の迎撃と一般人の保護の二班に分れての効率を重視したものとする。錬がその状況を確かめている最中――『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は喉から心臓が飛び出してしまいそうなほどの衝撃に襲われていた。
「パ、パルスちゃんも一緒に!? ちょっと待って、落ち着いてボク、今回は守らなきゃいけない人達がいるんだよ。
ここで遅れちゃったらその人達が危なくなるかもしれない! よし、大丈夫! これでお仕事が終わるまでは落ち着いた!」
「そんなに喜んで貰えると嬉しいなあ、焔ちゃん」
「うッ」
大ファンであるパルスが自分を見て、自分の名を呼んで、自分と共闘する――それだけでどれ程嬉しいか。
焔は心臓が止まりそうな衝撃を覚えながら息を呑んだ。花丸は焔の背を軽く叩いてから行こうと促した。
「パルスさん、皆っ。先ずは人助け、頑張っていこうねっ! ついでに皆をいじめようとする不届き者さん達は纏めてえいや! ……だよっ!」
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――強ぇ奴は勝手に生きろ。弱い奴は勝手に死ね。
だが、忘れるなよ。誰かより弱けりゃ常に死ぬのはお前の番だ。
その思想を『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)は否定はしない。武勇こそが己の誉れとなる事を貴道は良く理解していた。
だが、市井を荒らすのは闘士崩れだというのだ。ラド・バウは姑息な手段を使うものは存在せれど、娯楽の一角である事を理解し切磋琢磨する者が多い。皇帝の座を夢見る若者に、ランクを重ねる事を好んだバトルジャンキー、夢見る者の登竜門。その場から挫折した『闘士崩れ』――それは、何と女々しいことか。
「なんて情けない野郎どもだ。クズどもが、弱っちい連中を襲って楽しもうって?
やれやれ、女々しいだなんてのもレディ達に失礼な話か、救いようがないな」
「貴道くん、それをビッツの前で言うと褒められるよ。あの人はレディだから、良いこと言うわねって」
軽口を叩いたパルスが「手分けして頑張ろうね」と貴道へと手を振った。レディと称されるビッツに現状を報告しなくてはならないが、その前に一般市民の救出だ。
不安や恐怖の感情を、そして時折警戒に探すのは不届き者共の抱くであろう下卑た感情だ。貴道と共に進むオジヴァンは急ぎ人々の捜索に奔走する。彼の持ち得るカリスマ性は鉄帝の人々の心を引付けるものだろう。
「さーて、ヤツらが先かミー達が先か……」
「どうかな。閑散としてるのは勅命の所為か、それとも――」
どう思うと振り返る錬にシラスが渋い表情を見せた。女性陣との合流地点は織り込み済み。その場所から二手に分れて一般人を捜し求めるが、彼等も見つからぬようにと姿を隠している為に捜索にも骨が折れる。
「あっちの方だ、多分な」
助けを求める声を辿るようにシラスはつい、と顎を上げた。それは別働隊である花丸も同じだろう。探す対象が同一である以上はどうしても同じ場所に行き着く筈だ。不届き者が見付ける前に保護したいが、自身等が接敵する可能性も高いのだ。
「まあ、俺や貴道も少しは闘士として市民に知られてると思う。その面々がパトロールして一帯を守る姿は信頼に繋がるはず」
雑踏を歩むシラスの足元で焔が連れ歩く神の使いが「にゃあ」と鳴いた。どうやら『あちら』がビンゴであったか。
「レディを舐めて掛かっちゃ、痛い目見るぜ奴ら」
貴道の笑い声は住宅街を揺らす。不届き者共が目に付けたのは可愛らしい女性陣――と恨みも募る『アイドル闘士』であったか。
「ラド・バウにはよく来るけど、この辺りの様子もいつもと違うね。何だか閑散としてる」
周囲を見回していた焔の肩をパルスがぽんと叩いた。睨め付けるように影を見詰めるアイドル闘士をわざと庇うようにミーナが視線の先へと目を向ける。
「よォ、女ばっかり集まって散歩か? ファンと遊んでる暇があるなんて悠長だな、パルス」
「……アーノルドくんと、知らない顔だね」
ミーナと花丸が男とパルスの間に割って入る。此方を侮る男はパルスの傍に立っているステラを上から下まで眺めてから鼻を鳴らした。
「知らない顔……と言われていますが貴方が『D級闘士』トロックさんですね?」
指先に飾られたのは紅色の指輪。烈火の如く光を帯びて剣へと姿を変えた其れを構えるステラは非武装で非力な少女であった印象から大きく転じる。
「護衛か」と呟いたトロックは武器を持たない花丸の腕を掴もうとし――「えいやっ!」と『わざと』気の抜ける声を発した花丸が男達の注意を引付けた。
「女の子だからって弱いと思ってる?」
手袋に隠された花丸の硬く、傷だらけになった掌はぎゅうと硬く結ばれる。武器など必要としない少女は緩やかな構えをとった。
「ミーナさん」
「……ああ」
花丸が惹き付けている間にも男性陣は捜索を続けて居るはずだ。反応は近い。ならば、市民を妖精達の木馬に誘い、この場を脱出させれば良い。ミーナが担うのは安全に市民を護送するという重要な役割だ。
「パルスちゃんは強くて可愛いんだ! 馬鹿にするんならボクらが相手だ!」
びしりと指差した焔は神聖なる炎にとって鍛造された槍を構える。パルスとの共闘に心は躍るが、そうは言っている場合でもない。
「パルス、良かったな。お友達が護ってくれるんだってよ」
「うん。良い子達だよ。キミ達よりとーーっても強いしね?」
「テメェ!」
苛立ったように男はステラへと腕を伸ばした。実に短絡的な動きだとステラは息をついた。花丸が惹き付けてくれているならばその間に相手の数を減らせば良い。つまり、彼女の作戦とは「やれる前にやれ」なのだ。
「弱肉強食、的に出てきたのならば、自分達が狩られる覚悟は勿論お有りなのでしょう? ……まあそれは拙達もではありますが」
地を蹴って飛び掛かってくる男へ大して赫々たる闘気を叩きつける。それは刹那的に破壊力を上げ、剣を握るステラの腕に赤く一閃の傷を走らせた。
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戦闘音は間近に。ならば、と貴道はオジヴァンに市民達の探索を託し、影より飛び出した。班は合流する距離だ。故に、横槍を入れるが為に敢えての奇襲を仕掛けるのだ。
貴族道は勢い良くトロックの横面へとその拳を叩きつける。強さ以外の何にも重きを置いては居ない。其れで構わないのだ。矛を持って矛を止める。相手が暴虐を尽くそうというならば、其れをも越える暴虐を持って制するのが『武』の使い道だ。
「ガッ――!」
「クズどもが、遊びたいならミーが遊んでやるよ」
貴道さん、と花丸が名前を呼んだ。じりじりと後退するパルスはラド・バウでもその名が売れている。焔は「パルスちゃんは皆を護って」とひらりと手を振った。
一方で、ミーナは馬車を走らせパルスと共に向かった先にシラスの姿がある。彼は外が見える場所を指定し、市民へと声を掛けていた。
「俺達が来た、もう大丈夫だ。外が見える場所に隠れていてくれ」
「ラド・バウB級闘士さんだ!」
リンスの姿を一瞥し、見たことがある気がするとシラスは彼に手を振った。「さあ御覧じろ、サービスのエキシビジョンマッチだ」と堂々と宣言すれば、入れ替わるようにパルスが「護衛を任せて」とウィンクを送る。
「まるで夢の様な状態だな。パルス・パッションに護衛されて、ラド・バウのエキシビジョンマッチを特等席で見られるんだから」
そう、此れは弱者を虐げる場所ではない。夢と希望溢れた幼い子供に、観客である一般人を不安がらせぬように錬は術符へと神力を込めた。それは武具を『鍛造』し一気呵成とアーノルドへと襲いかかる。
「アニキ!」
「アニキ、とは声を掛けるがお前の方がランクは上なんだろう? ……触れられたくなかったか」
錬は苛立ちを滲ませ地団駄を踏んだトロックを一瞥し嘆息する。怯えたような声を漏した一般人の前で膝をつきオジヴァンはその胸に手を当てて堂々と言った。
「安堵せよ、我等が来た故。汝等に届く刃は一つたりとも存在し得ぬ。この地であらば汝達の安全は保証しよう」
「ああ。任せておけ。エキシビジョンマッチを見届けたいって言うなら確り護ってやる」
直ぐにでも去りたいならば安全地帯まで運んでやろうとミーナは馬車を護衛しながら敵影を睨め付ける。『不届き者共』へと奇襲を掛けたことで戦線は乱れては居るがイレギュラーズはこんな事で敗北を喫する訳もない。
一般人の保護に気付いた貴道が其れ等を庇うように達、指先をくいくいと手前へと引き寄せた。
「しかしユー達、闘士やめて正解だったな。
弱虫痛ぶるしかない能無しだってんならゴロツキ、チンピラ、ドサンピンが随分とお似合いだ。鏡って知ってるかい、情けねえツラが写ってるぜ?」
短気なトロックは貴道に言わせれば『能無し』だ。名の売れる貴道やシラスを見ても考えなしにも見えたからだ。
男は花丸の体を押し退けるようにして何者かに手を伸ばす。男の指先が『人間』に触れた途端に其れは掻き消え――シラスの唇が吊り上がった。
「騙されんなよ、馬鹿」
視界いっぱいにシラスの拳が存在している。叩きつけられた其れがトロックの体を地へと打ち倒す。続き、花丸は跳ね上がるようにして相対する男を地へと打ち倒した。
「わあ」
「すごい!」
幼い声に気付いて焔はくるりと振り返る。リンスとメア。少年少女の姿はラド・バウでもチラリと見かけるものであった。
「あれ? パルスちゃんの試合やライブの時によく見かける子達?」
「あ、焔隊長だ」
「ほむちゃんだー」
――パルス親衛隊長というあだ名が付けられているのだろうか。パルスは「ボクがファンを直接護れるなんて!」と嬉しそうに焔に笑みを向けている。
(パ、パルスちゃんが笑ってる。あの笑顔を護らなくっちゃ!)
やる気を漲らせる焔にシラスは「やる気十分だな」と揶揄うように呟き、その拳を突き立てた。
「よォ、ゲス野郎。短絡的にラド・バウの領域を荒らしに来たんだな」
「お前等は行程の勅命を知らねぇのかよ! 俺等みたいな奴らじゃなくてああいう『護られるしか能の無いクズ』を狩れよ!」
叫ぶ男の声にミーナはやれやれと肩を竦めた。焔は彼等の視点から見た現状を把握したいと考えていたがその一言で全てが露見したようにさえ思える。
「愚かぞ、弱者を嬲る法が汝等を味方することはない。何故(なにゆえ)か分かるか、それは元より汝が弱者故ぞ」
オジヴァンは淡々と言葉を重ねた。獲物が弱るのを待つが如く毒を重ね続ける。嗜虐的にも思える其れは男等の身を焼く自浄の炎が如く。
「何の力ももたない者にその力を振るうなら、次は容赦しない。相手が優しいイレギュラーズで良かったな。『お前等の言うクズ』なら命も保証されてないぞ」
ミーナの言葉の通り、命までは奪わぬとアーノルドを打ち倒したステラがぐるりと振り向いてトロックを睨め付けている。
「ヒッ――」
たじろいだトロックの腕を掴んで花丸は「皆を虐めようとするからだよ!」と幼子に言い聞かせるように男を叱り付けた。
その声音とは裏腹に叩きつけられた拳は、男の意識を刈り取ったのであった。
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「さて――」
捕縛に至ったのは単純に現状に対しての情報をビッツに届けるには『不届き者当人等』も情報提供に役に立つという視点からだ。
「裁きの大門を越えられなかった相手と聞いていたが……ヴィランの心得ならこの後みっちりビッツに仕込んで貰うことだな?」
『S級の残酷なる毒花』とも自称する嗜虐的な闘士の名を出されてアーノルドは縋るように錬に「其れだけはご勘弁を!」と叫んだ。
錬が縋り付く腕を払除ければ、「ユー達には良い授業(レッスン)だな!」と貴道はアーノルドの肩をばしばしと叩く。
「良いかもね。ビッツも喜ぶよ!」
「止めてやれよ。一溜まりも無いだろ。こんな奴ら」
うきうきと身を揺すったパルスにシラスは首を振る。「何よアンタ達」と唇を尖らせたのは話題の渦中に存在するビッツその人であった。
「……打算であれ庇護を行えばこそ彼奴らの欲も満たされていたことであろうに。それが判らぬこそ非道に堕ちたか」
項垂れた男達を眺めるオジヴァンにステラは小さく頷いた。非道な行為を行った彼等はそれでも『勅命』という威を借りていた。
「これからどうなるのでしょう……」
「分からない、よね。ヴェルス帝が倒されたっていうけど、今彼がどうなっているのかとか……それからこの国の行く末だって分からないよ」
花丸はこの先を憂うように不安げに呟いた。突如として始まった国家としての混迷の時。シラスは「アンタはどうする」とビッツへと問い掛けた。
「まあ、仕方ないわよね。子犬ちゃんたちと遊んでたいのは山々だけれど……あの絶望の海じゃ敵同士だったアタシ達も仲良しこよしになるしか生き残る術がないかもしれないものね」
「生き残る術?」
「ええ。ラド・バウは独立区域としてその存在を宣言したって他の何かが攻め入ってくるならば『護るべき場所』を擁する以上は防戦になるわ。
アタシ達だけじゃ、成り立たない。守り切るにしたって傲慢に全てをとは言えないわだ。だから、イレギュラーズって言うゲスト闘士の力も必要になるのよ」
ビッツは8名のイレギュラーズをそれぞれ眺めた後、「嫌な役回りだわ」と嘆息し――
「協力を願うわ。アタシ達を、それから観客を助けて欲しいの。この場所を守り切り平時へと戻す。それが、ラド・バウの求められる姿だもの」
やっぱり向いているねと揶揄うパルスを蹴り付けてビッツは「『良い情報源』をありがとう」と捕えられた不届き者の手綱をしっかりと握りしめたのであった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
これから始まっていく狩りを食い止め、ラド・バウだけでも安寧の地にしなくてはなりませんね。
GMコメント
夏あかねです。この人達が出るなら!と馳せ参じました。
●成功条件
・市民10名の保護
・『不届き者さん』の撃破
+ビッツに市井状況の報告を行う事(追加目標)
●『ラド・バウ独立区』周辺
ラド・バウでは『ラド・バウ独立区』として多くの闘士達が政治不干渉を掲げて居る現状です。
ですが、此れを機にラド・バウで暴れて最強になってやろうとか、ラド・バウ闘士に復讐してやろうとか、ラド・バウの観客狩りをする『不届き者さん』が増加しているようです。
パルスが向かうのはラド・バウ近郊に存在する小規模な住宅街。パルスファンとして顔を見せてくれる少年の住んでいる地区です。
この場所では10名の市民が怯えて暮らしており『不届き者さん』達がストレス発散のために『いじめ』にきたようです。
●『不届き者さん』達 5名
パルスがそう呼んでいるだけです。其れなりに強いです。
イレギュラーズ到着時点で住民を捜し回っているようです。
・元『D級闘士』トロック
ラド・バウ闘士でしたが万年D級である事に腹を立てて裏路地で闘士狩りを行って居ました。
ラド・バウ時代よりも実力が向上したのは皮肉ですね。前衛タイプ。
・元『C級闘士』アーノルド
トロックの弟分。トロックより先にC級に上がったことを攻められて非常に落ち込んでラド・バウを去りました。
魔術師タイプ。トロックの指示に合わせて動きます
・破落戸 ×3名
トロックとアーノルドの『ツレ』。一緒に罪なき住民を害しに来ました。
目的はストレスの発散と物資の強奪。これからを見据えた目的なのでしょうね……。
●一般市民 10名
大人6名(男性2名、女性4名)、子供4名(男の子2人、女の子2人)です。
このうち少年リンスと少女メアはパルスの大ファンでラド・バウによく訪れていました。
イレギュラーズのことも知っているかもしれません。戦闘能力はほぼ皆無であり、襲われるとされるが儘です。
身を寄せ合って住宅街の何処かに隠れています。
●同行NPC『パルス・パッション』
ラド・バウのアイドルファイター。鉄帝国アイドル。歌って踊れる華麗な闘士。
レイピアを駆使した繊細な戦いが特徴ですが、今回は戦闘より住民保護に重きを置いています。
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