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シナリオ詳細

<竜想エリタージュ>最巧にして最速の鬼殺し

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ヴォーパルバニーがくるよ たすけて」
 源 頼々 (p3p008328)がそのフリーパレットと出会ったのは、フェデリア島に合った刑部省の支部に立ち寄った時だ。
 源 空柊――頼々の従姉妹にして源一族の最高傑作。
 最巧と評された鬼殺しの達人。
 そして、頼々にとっての初恋の人。
 彼女についての情報を聞きに行った時だった。
「これが空柊が関わった事件か?」
 数多に並べられた資料の数々、それらは共通して『不自然な位置から一太刀で斬り捨てられたように』蹂躙された鬼人種達についての情報だ。
 フリーパレットの言葉よりも、先に処理するべきは彼女。
 そう判断して問えば、そう返ってくるばかり。
「ぼくらをころしたツノもちあくま!」
「……なに?」
 だが、聞き捨てならぬその単語に、頼々は振り返る。
「つのもちあくま」
「つのもちあくま」
「ぼくらを殺した。つのもちあくま」
 つのもち――つまりは鬼。
 聞き逃すはず等あろうものか。
「おい、それはどこにいる」
 問えば聞こえてきたその島の名をメモすれば、依頼状にしたためるべく動き出した。


 水面を船が疾走する。
 そんな船の甲板にて、女は独り、先を見据えながら立っていた。
「うっかりしていた……」
 女――空柊は思わず舌打ちする。
(ローレット、あの鬼が『そう』であれば――奴らは、私と同じく一度殺した程度では死なぬ……すっかり忘れていた)
 脳裏に思い浮かぶは一匹の鬼の姿。
 華奢なその鬼は忌々しくも悍ましいことに、愛おしき我が頼々の如き容姿をしていた。
 ――だが、そんなはずはない。
 頼々は鬼ではない。仮にも鬼となったのであれば、頼々ならば死を選ぶはずだ。
 あれが頼々であるはずがないのだ。
 頼々は、弱い。
 何も出来ず、守ってやることでようやく生きていける、貧弱で戦う術の持たない子供だ。
 万が一でも――億が一にも、ワタシに反撃をせんとするような、そんなはずはない。
「忌々しい! 頼々の姿をした、頼々ではないモノ! 何かが深く混じったような、そんなバケモノめ!」
 思い出すなり気分が悪くなる。
 果たしてあれば、頼々を探し続けたがゆえにみた幻覚であったか。
 あるいは、探し続ける自身を鬼が嘲笑わったのか。
 あぁ――だが、だがもしも。
 もしも――本当に、頼々だったのなら。その時は――どうしてくれようか。
(切除するか。あの子の中にある悪い物(おに)を……さすればきっと、あの何もできぬ頼々に戻る。
 そうしたら――今度はワタシが護ってやる。そうだ、それがいい)
 ツイ、と口元がつり上がる。
「たすけて」
 そんな時だ。不意に声がした。
 子供の声だった。
「たすけてください」
 間髪を入れずに聞こえたのは女の声だった。
「お願いします、たすけて」
 ――あぁ、全く。訳が分からない。
 それらの声を空柊は知らぬ。
 いやそもそもそれは声なのか。
 そこにあるのは不定形の何か。様々な色の溶けあった何かだ。
「鬼ではないな」
 空柊はそれを静かに見て。手を置きかけた刀から離す。
「ゆ、幽霊では? ひぃぃい」
 驚く船員には答えず、空柊は真っすぐに子供を見据える。
「助けてといったか。良いだろう、話してみろ」
「ヴォーパルバニーを倒して! ヴォーパルバニーがくる!」
「「ぼくらをころしたつのもちあくま」
「……なるほど、つまりは鬼か。おい、それはどこにいる」
 角持ち――それが聞けば十分だ。
 空柊の目は、胡乱な狂気に満ちていった。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】ヴォーパルバニー〔魔〕の討伐
【2】海乱義衆との停戦

【2】は16ターン後にヴォーパルバニー〔魔〕が討伐し切れない場合にのみ追加条件となります。

●フィールドデータ
 何らかの襲撃を受けた結果、ぼろぼろになった沈没船です。
 イレギュラーズ側は加護があるので地上同等の動きが可能です。
 一方、空柊率いる海乱義衆は加護を持たないためかなり能力が制限されています。

●エネミーデータ
・ヴォーパルバニー〔魔〕×16
 頭部にうさ耳のようなものとルビーを思わせる角を生やし、
 上半身は人間の身体、下半身は蛸や烏賊を思わせる深怪魔です。

 大きく裂けた口からは汚らしい罵倒や嘲笑が囀り、瞳孔は蛇のように縦に開かれています。
 どう見たって竜宮嬢とは似ても似つきませんが、
 こんな物が罷り間違って竜宮嬢と思われたら風評被害も甚だしいことでしょう、
 そう言った面からも討伐する必要があります。

 接近戦を好み、手に持った槍や銛で攻撃するほか、触手を使って絡めとってきます。
 【毒】系列、【足止め】系列、【出血】系列、【呪縛】のBSを用います。

●中立(?)データ
・『源氏最巧』源 空柊
 頼々さんの関係者であり、従姉にあたります。
 普段は非常に理性的ではありますが、頼々さん同様ないし頼々さん以上に『鬼』へ容赦がありません。
 なお、鬼の定義は『角の有無』です。
 現時点では頼々さんの事を本人とは気づいていません。
 (あるいは角の生えた頼々さんを信じたくないだけかもしれませんが)

 皆さんがヴォーパルバニーとの戦闘を開始してから16T後、
 海乱義衆の中で潜水が出来る者を連れて介入してきます。

 ステータスは圧倒的な高EXAと攻撃力、命中、比較的高めの回避が特徴的。
 主な射程は超単と超貫に万能付。
 いわゆる『やられる前にやれば負けない』タイプといえます。
【反】、【カウンター】、【追撃】、【邪道】、【変幻】、【復讐】を持ちます。
 とはいえ、今回は本気ではないことに加え、加護無しで海底です。
 スペックがある程度低下しています。
 イレギュラーズが会敵する場合、6ターン後に撤退します。

・海乱義衆×5
 いわゆる海乱鬼衆ですが、空柊が鬼の単語を嫌ったために義の字を使っています。
 八百万(精霊種)のみで構成され、特に水中戦闘に補正が加わる非戦スキル持ちがピックアップされています。
 彼らは元々鬼人種を弾圧していた家に仕えていた、自分が弾圧に関わっていたなど、
 何らかの理由で現在の豊穣では生きられなくなった者達です。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <竜想エリタージュ>最巧にして最速の鬼殺し完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月09日 23時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)
不死呪
雑賀 千代(p3p010694)
立派な姫騎士

リプレイ


 そこら中に穴が開いた船舶だったものの周囲をそれらが泳いでいた。
 うさ耳のようなものが波に揺らぎ、ルビーのような角が反射する。
「バニーさんと聞いてどんなのかと思ってたっすけど、全然可愛くないっす!」
 その姿を見た『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が思わず声をあげる。
 スイスイと泳ぐ姿は文字通りのイルカのようにも見える。
「ヴォーパルバニー、角持ち悪魔。
 角を持ったウサギならうちのアルミラージの方が可愛いわ」
 それらの姿を認めた『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は思わず感想を漏らす。
「アルミラージとクラーケンだけを表出させて精霊天花したら、
 もしかしたらあのヴォーパルバニーみたいになるのかしら? 試しはしないけれど」
 ふと、フルールは首を傾げながら想像してみる。
 形だけなら近しいような姿も出来そうではあるが――人相が違いすぎる。
 流石にフルールはあそこまで邪悪な顔はしていない。
(嫌な予感がする……まさか、近くにいるのか? 空柊)
 やけにちりちりする首筋を撫で『虚刃流開祖』源 頼々(p3p008328)はその思考をひとまずおいて視線を下げる。
(いや、今は兎鬼共を斬ることに意識を向けるべきであろう)
 久々の斬って捨てるに遠慮の要らぬ鬼へ紫闢に手を置いた。
「なーにがつのもちあくまだよ、こっちははねなしてんしだぞ」
 そいつらの姿を見た『虚刃流門下生』楊枝 茄子子(p3p008356)は普段の通りの調子で軽口を叩きつつ。
「竜宮の評判と治安維持のためにも、悪い角はへし折っちゃいましょうねー」
 かと思えばさらりとした知性を覗かせながら沈没船へと降り立った。
「深怪魔のお掃除か……しかし、あれの何処がバニーだ何処が」
 うさ耳モドキと上半身は確かに竜宮で見る竜宮嬢のような衣装ではあるが、どう見たって曹は見えぬその深怪魔たちに呆れるように『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は呟いた。
「竜宮嬢の名誉のためにも手早く終わらせよう」
 既に愛刀を抜いた『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)もまた深怪魔たちへと視線を向ける。
「ヴォーパルバニーと聞いてウサギさんを想像して来たらなんか気持ち悪いのが出て来たデス。
 これにヴォーパルバニーと名付けた人に訴訟も辞さないデス」
 ぷんすこと怒る『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)はとはいえ、と切り替える。
「ひぇぇぇ……こんなのと竜宮嬢の皆さんを間違えるような事はないと思いますが……
 こんな化け物退治するのも『烏天狗』たる私の使命!
 フフーン! 任せてください! 華麗に狙撃してやりますよ!」
 やる気満々な『立派な姫騎士』雑賀 千代(p3p010694)は胸を張って愛銃を構えた。
 明らかにこれを『そう』と間違える人間はいない――と思いたいところだ。
 臨戦態勢を取ったイレギュラーズに気付いた途端、ヴォーパルバニーたちが各々の武器を構えた。
「――――!」
 文字にするのも憚られる罵詈雑言が醜悪な顔を構成する口から溢れ出す。

 最速で動いたのはシューヴェルトだ。
「貴族騎士流抜刀術『翠刃・逢魔』!」
 厄刀『魔応』にその呪われた力を集めていく。
 鞘の内側、収束したおどろおどろしい呪詛を居合抜きの要領で一気に振り抜いた。
 形の無き呪詛、不可視にの斬撃が一気に戦場を走り抜けていく。
 直線上を撃ち抜く斬撃はヴォーパルバニーたちの弱点を暴き立てる。
「無駄に数の多い兎……?? です! 一気に畳みかけます!」
 続くように千代はそういうと、二丁の狙撃銃を抱えるようにしてヴォーパルバニー共に向ける。
「リコシェット・フルバースト!」
 出鱈目に引き金を引いて、無数の弾丸をあらん限りにぶちまける。
 粗方の弾丸を打ち終えて一息を吐けば。
「フフーン! どうですか! これが烏天狗の力です!」
 満面のドヤ顔にヴォーパルバニーから罵詈雑言が飛ぶ。
「フフーン! 悔しいですか!」
「そこで止まってろ、バニー擬きども!」
 錬は此方に向かって突っ込んでくるヴォーパルバニーを照らすように魔鏡を掲げた。
 海面から降り注ぐ光が魔鏡に入り込み、どす黒い光へと汚染されて反射し、ヴォーパルバニーたちを包み込む。
「なんだか悲しい気分になるっす……」
 口汚く口走るヴォーパルバニーたちの罵詈雑言を聞きながら、レッドは目を伏せ気味にしながら小さく呟いた。
「アンラッキーなウサギさんになっちゃえっす!」
 その言葉を振り払うようにして、レッドは旗を掲げた。
 混沌世界へと接続すれば、旗の切っ先辺りに穴が開く。
 悍ましい泥が零れ落ちてヴォーパルバニーたちへと降り注いでいく。
 多くのヴォーパルバニーがずっこける中、幾つかが迎撃に動く。
「はいはい! じゃんじゃんいくよー! 回復がいる人手あげて!」
 茄子子はその様子を見ながら手を広げた。
 何かを包み込むように広げた空間に降り注ぐ陽光はあたたかに。
 慈愛の息吹が優しく傷を癒していく。
「ウサギさんこちらへどうぞ。ワタシが相手デス」
 分かりやすく旗を掲げてうろちょろとヴォーパルバニーの前に姿を見せたアオゾラに何匹なのヴォーパルバニーの視線が注がれる。
「――――」
 アオゾラの力もあってか罵倒や嘲りに鋭さが増したようにも見える。
 そのまま、泳ぎ出したヴォーパルバニーが一斉に近づいてくる。


「まさか、こんなところで遭うとはな」
 不意に降りてきた声、その声を聞いた刹那、頼々は跳躍する。
 その直後、今まで立っていた場所が斬り裂かれた。
 見上げれば、そこには水中で剣を振り払ったであろう女の姿がある。
「避けるか、鬼」
 酷く冷たい視線が向けられた。
 鬼を前にしているから以上の――強烈な殺気。
「いい鬼は死んだ鬼だけ――空柊、お前は死んだ鬼をも殺すのか?」
「鬼の言葉に耳を貸さぬ。それが頼々の姿を騙る者であれば猶更」
「待ってください! 例え角持ちでも……貴女の目の前にいる方が源 頼々さんなんですよ!
 貴女が頼々さんを想ってるのなら……目を逸らさず見てください!」
 緩やかに双刀を握る空柊に千代は割り込んだ。
「……天狗か。以前にもあった覚えがあるな」
「それに、私達には優先して討伐するべき『鬼』がいます。
 だから……ここは一旦共闘しましょう。悪しき「鬼」退治が両者の使命……違いますか? 空柊さん」
「たしかに、あっちの鬼も見過ごせぬ……海乱義衆よ、お前たちはそちらの鬼を討て」
 ホッとしかけた千代はしかし空柊がまだ頼々を見ているのに気づいた。
「だが――義衆で充分。そちらの人員が粗方片づけたのだろう。同時に潰せば手早く済む」
(全く、理知的に見えて頑固なのは昔からだな! 一太刀でも入れんとどうしようもないか)
 頼々は紫闢に力を籠めた。
「こんちわー茄子子でーす頼々くんの弟子やってまーす。
 いぇーいぴーすぴーす」
 空柊の視界に入るように動いてから煽り散らかしてやれば、確かにその視線が茄子子を見る。
 けれどその視線は直ぐに頼々に戻って行った。
「いや全然こっち見てくれないなぁ寂しいなぁ。なんか紫くんのこと思い出してきた」
 以前にもこんなことがあったな……と思わず呟くや、空柊の視線が動いた。
 空柊に連れられて姿を見せた海乱義衆達は海底に足を付けると、躊躇するように周囲を見てその場で立ち止まっている。
「貴方達は何用デスカ? 邪魔するなら容赦しないデスヨ。シュ、シュ」
 アオゾラは降り立った海乱義衆へシュッシュッとシャドーボクシングしながら威嚇する。
 その間にもぶすぶすとヴォーパルバニーの槍が突き刺さる。
「痛いものは痛いのデスガ!」
 プンプン怒りながら自らに抱く呪詛を糸に変質させて一番近くの1匹にけしかける。
 海乱義衆達はざわざわと戸惑っているようだった。
「わざわざこんなところまで来たんだ。
 おそらくだが君たちの標的もまた、この兎だろう。
 仮に僕らが狙いだったにしても、どちらにせよあの兎たちは邪魔だろう
 ……なら、いっそまずは僕らと共闘してあの兎を倒そうじゃないか」
 シューヴェルトの言葉に躊躇しながらも海乱義衆達が互いを見て頷いた。
「お主らがそれで構わぬというのならば、我ら海乱義衆、暫しの間の友となろう」
「救援っすか? はじめましてこんにちはっす」
 海底に降り立った精霊種やら海種やらと思しき豊穣風の面々にレッドはぺこりとお辞儀する。
「海域を荒らす深怪魔退治を手助けしてくれるならありがたいっす! 恩に着るっすよ」
 ちらりとヴォーパルバニーの方へ視線を向ける。
「ギルメンの誼とはいえ厄介な女に縁があり過ぎだろ……」
 茄子子と同じ女を思い浮かべながら錬は思わず言葉に漏らす。
 術符より陰陽鏡を作り出すとそれを空柊に掲げた。
 虚像に映された空柊をあらゆる災厄が苛めば、それが実像の空柊にも及ぶ。
「……鬼を庇うか」
 瞳が錬を映した刹那、身体を不可視の斬撃が刻む。
(あれが空柊おねーさん……たしか、角が生えてたら鬼って言う判断なのよね?
 分かりやすいですけど、人型じゃないものは省いてほしいですね。
 じゃないと普通の牛とか虫のカブトムシでさえも鬼になっちゃうし、
 私のアルミラージも敵視されたらたまったもんじゃないわ?)
 横目に見つつ、フルールはヴォーパルバニー目掛けて紅蓮穿凰を叩き込んでいく。
「ヒトを哀しい気持ちにさせる兎……否、角もち悪魔なんかさっさと居なくなってしまえっす」
 世界の終わりに輝くは紫月。
 旗を掲げるレッドが魔力を籠めると、鮮やかな紫色の光が放たれる。
 鮮やかなる終焉の帳がヴォーパルバニーをその内側へと誘った。
 シューヴェルトはレッドの周りにいるヴォーパルバニー目掛けて一気に走り出す。
 駆ける脚に青白い呪詛が集束していけば。
 最後の踏み込みと同時、一気に速度を跳ね上げた。
 蒼き光となり放つ蹴りは僅かに上段にあるヴォーパルバニーの身体を壮烈に貫いた。


 錬は一気に飛び込んでいく。
「俺を忘れてくれるなよ!」
 合わせ、錬は飛び込んでいく。
 跳躍と同時、振り抜くように叩きつける。
 こちらを確かに空柊が視認したかと思えば、身体から無数の刃が伸びる。
 それらを圧し折りながら落下した相克斧が空柊の身体に傷を刻み、再び身体から生えてきた刀が錬の肩を貫いた。
「次で決める」
 空柊の目が再び頼々を捉えた。
 苛烈に打ち出された居合抜き、その斬撃の前にアオゾラは身を躍らせた。
 スパンと首が飛ぶ。
「どうしたデスカ? それでは死にぞこない一人殺せなのデワ?」
 ギュンギュン回転して吹っ飛び地面に転がった首を抱き上げ挑発すれば、そのまま頭部を首にくっ付けた。
(この前に死にぞこないと言われたのは忘れてないデス。プンプン)
「アオゾラ殿、助かったのである。――次はワレの番だ」
 頼々は空柊の頭上に向けて紫闢を掲げた。
 イメージするのは紫の技。
 そこにあるは空より落とす不可視の斬撃。
 斬撃の驟雨が空柊の身体に傷を刻み、見開かれた目が頼々を映す。
「今の、技は……なんだ」
「中てたぞ、空柊。あの頃のワレと同じと思うな」
 合わせるように反射で撃ち抜かれた不可視の斬撃を受けながら、自らの傷口を抑えることもせず頼々は挑発的に笑って見せる。
「……この角も、ワレの中の鬼の部分も……このワレ、『鬼殺し』源頼々の“戦利品”である。
 これを切って捨てると言うなら、先にお前の中にある“鬼”をどうにかするのが先ではないか?」
「あぁ――そうか、頼々。お前が鬼を討ったという話は、本当だったのか。
 力を得たのか。ふ、ふふふ! いい、良いな! その力が鬼の物と言うのは業腹だが!
 しかし、死に体で良く言う。その傷でもう一太刀入れるでも?」
「はん、一刀両断くらいなら余裕で治せますけど?」
 茄子子はそういえば、すぐさま頼々に術式を向ける。
 それは星々の輝きのように眩く温かく、そこにあった傷を『なかった物』に変えていく。
「例え首が飛んでも元通りにくっつけてやるよ。純ヒーラー……ってか会長を舐めるなよ。
 こっち見ろよ。虚刃は頼々くんだけじゃないぞ」
「……虚刃、聞いたことも無いものだが、頼々が関係するのか?」
「虚刃流はワレが開いた流派である」
「ほう……」
 穏やかな瞳が茄子子と頼々を見た。
「ここにきて、頼々は変わったのだな」
 そういう空柊の表情は先程までの険が取れている。
「……落ち着いた、のか……? 何があってその体になったか聞いてやるから話せ」
「この身体? はて……あぁ、この体質か。
 ふふ、実はよく分からん。だが、これも業だろう。
 なに、後悔などしていない。ちょっと一族を皆殺しにしてきただけだ」
 事も無げにそう言って、空柊が小首を傾げた。
「……はっ?」
 思わず変な声が出た。
 ――あいつらを皆殺しにした? 仮にも、鬼殺しを生業としてきた戦士の一族を?
「遂に、殺ったかとそう思ったのだ」
 『誰を』と問う意味はなかろう。
「頼々おにーさんはまだ死なせるわけにはいかないから。
 せめて、『今』はやめて。おねーさん達にもこの状況は部が悪いでしょう?」
 フルールが割り込むように言えば、空柊が周囲を見渡して目を閉じる。
「……できないことも無いだろうが、そうだな。
 お前たち、帰るぞ。ここに用事はない。
 残りを倒すのはこの者らで充分だろう」
「お待ちください、空柊様!」
 ヴォーパルバニーがいるであろう方を見た空柊が海面に戻っていき、海乱義衆も戻って行った。
「本当に帰って行っちゃったわ……
 私もちょっとは遊んでもらいたかったわ……」
 若干のがっかり感を抱きつつ、フルールは青く輝く炎をその手に抱き、一気に走る。
 飛び込むようにして疾走すれば、数少なくなったヴォーパルバニーを1匹めがけて掌底を叩きつけた。
 炸裂と同時、青い炎がヴォーパルバニーを包み込み、焼き尽くす。
 風のごとく現れ、嵐のように海乱義衆が去って行った後、ヴォーパルバニーを狩りおえたイレギュラーズが船上に戻ると、既にそこにフリーパレットはなく。
 ただ竜宮幣だけが残っていた。

成否

成功

MVP

楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でしたイレギュラーズ。

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