PandoraPartyProject

シナリオ詳細

暗闇の中、それでも光さす方へ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●盲目の司教
 幻想中央教会。その一支部であるここ、ユーヴェリー支部(ユーヴェリーとは、この街の名前だ)の応接室に、シラス (p3p004421)らローレットのイレギュラーズ達は通されていた。
「……なんか居心地悪いな」
 む、とシラスが言うのへ、アレクシア・アトリー・アバークロンビー (p3p004630)が苦笑する。
「もう、そんなむすっとした顔してると、依頼主のひとに怒られるよ?」
「いや、向こうとは顔なじみだ」
 そういうシラスに、尋ねたのはメイ (p3p010703)だ。
「おともだち、なのですか?」
「いや、友達っつーか……」
「丁度良い間柄、ですかねぇ?」
 と、部屋に声が響いた。入り口から入ってきたのは、眼帯をつけ、杖を突いた女性だ。それだけでわかったが、盲目の女性のようであった。しかし、そのハンデをものともせず、イレギュラーズ達の様子もしっかりと理解しているのであろうことは、此方もよく理解できていた。
「はじめまして。ああ、シラス様はお久しぶりです。
 僕はプルム・トスカーニ。こう見えても、幻想中央教会では、司教、の一人でしてね」
 司教、つまりはある教区を任される人物という事だ。教区、この街を含むこの近辺の教会関連を統括する存在、と言ってもいいだろう。
「まぁ、他にも仕事はあるのですが、今はここの司教、という事だけ覚えておいていただければ大丈夫です。
 今日は皆様に、お仕事の依頼がありましてね」
 澱む様子なく、着席する。やはり目が見えないとはいえ、この部屋の配置、動き、すべてを理解しているのだろう。
「えーと、その前に」
 申し訳なさそうに手をあげるのは、スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)だ。
「丁度良い間柄、っていうのは……?」
 目をくりくりと興味深げに見せるスティアに、プルムはふむん、と唸ってみせた。
「ああ。シラス君は、えらい人のことも、貧しい人のことも、よくご存じでしょう? だから僕も、安心してお仕事を任せらる。僕にとってちょうどいい立場の人、という意味です」
 もちろん、それだけではないが、という事は言外に隠しているようだった。勘の鋭いものなら、その心中に感づいた者がいたかもしれない。結局のところ、シラスにとっても、プルムという女性は「有力貴族とも渡り合える権力を持つ幻想中央教会とのパイプ」であるわけで、シラスがプルムに一見いいように使われているように見えるのも、お互いにメリットがあるが故の事だ。
 まぁ、そのことに感づいたか否かはさておき。
「なるほど、納得しました」
 こほん、と小金井・正純 (p3p008000)が言う。
「それで――お仕事、とは?」
「うん。簡単で難しいお仕事でして。この度、孤児院を一つ、開院することになったのですけれど。
 そこのスタッフとして、しばらく住み込みで働いてほしいのです」
「住み込み?」
 メイメイ・ルー (p3p004460)が小首をかしげた。
「長期のお仕事……ですか?」
「と言っても、相談期間も含めて、二週間ほどですよ。もちろん、合間合間に別のお仕事に行っても構いませんけれど」
「孤児院のオープニングスタッフ、って事ね?」
 ふむ、とアンナ・シャルロット・ミルフィール (p3p001701)が頷く。
「でも、何か問題ありなんでしょう? わざわざローレットに頼むくらいなのだもの」
「まぁ、ある意味ではイージィで、ある意味ではハードです。というのも、この度院に集められた孤児たちは、その、非常に、繊細な子達ばかりでして」
「それは」
 散々・未散 (p3p008200)が声をあげた。
「心が? 体が? 境遇が? 或いは――」
「すべて、と言っても問題ないでしょうね」
 ふむ、とプルムが頷く。
「他の孤児院でうまくやっていけなかった子、身体のとくに弱い子、口に出すのもはばかられるような環境で育ち、男性が苦手な少女……などなど、です。こう言ってもいいでしょうね。手に負えなかった子達が、集められた場所」
 こういうと、非常に嫌な言い方ですが、とプルムは言う。
「ま、綺麗事ばっか言っててもしょうがないでしょ?」
 シラスが言った。
「どれだけカワイソーでも、人間は人間だ、合う合わないはある」
「……うん。特に、子供たちは衝突しやすいかもだよ」
 アレクシアが言う。子供たちは純粋であるが、それ故にエゴイスティックであるともいえるだろう。それはやがて成長していく以上決して悪い事ではない。
「そう言ったわけですから、子供たちが安定するまで、一緒に過ごし、時にトラブルを解決してほしいのです。
 例えば、衣食住のサポートや、勉強を教える事。これは基本的ですね。
 この院独特の問題で言えば、トラウマのケア。その、乱暴を働かれた子や、両親を目の前で亡くしてしまった子などもいますから、そう言った子を落ち着けさせることができれば……と思います。
 それから、孤児同士、決して仲が良いとは言えません、打ち解けるようなきっかけを作って上げられれば、良いですね」
「なんでもあり、なのですね」
 ふわぁ、とメイが声をあげる。確かに、やることは多岐にわたるようだ。
「教会からも、常駐の職員は派遣しますが。やはりここは、皆さんにメインをお任せしたいと思っています。
 そのノウハウを、教会の職員も学ばせてもらうつもりです」
「なんだか、たいへん、ですね……」
 メイメイが言うのへ、正純が頷いた。
「ええ。ですが、孤児たちの事を考えれば……」
「うん。力になってあげたい、ね」
 スティアが頷く。
「では……」
 プルムの言葉に、アンナは頷いた。
「ええ、この依頼、受けさせてもらうわ」
「子供たちのケア、任せてください」
 未散がそういうのへ、プルムは笑顔を浮かべて見せた。
「ああ、助かります。神の恵とはまさにこのことですね。
 では、孤児院へとご案内させましょう――」

 イレギュラーズ達が向かった孤児院は、まだできたばかりの、真新しいペンキの城がまぶしい建物だ。だが、窓から覗く景色は、決してかある糸は言い難い光景だった。子供たちは下を向くように佇み、そこに希望や明るい話題などは見受けられない。
 職員たちもほとほと困っているようで、イレギュラーズ達の責任は、とても重いように思えた。
「ま、受けたんなら仕方ないね。ガキんちょ笑わせる位、幻想の勇者様としてはやれないとな」
 自分を鼓舞するように、シラスがそういう。仲間達は、決意を込めて頷いた。
 果たして二週間後。この孤児院に、どんな花が咲くか――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方は、リクエストシナリオとなっております。

●成功条件
 二週間孤児院で住み込みで働き、孤児たちにプラスの影響を残すこと。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 子供たちの心とは、複雑なのです。

●状況
 幻想の、とある教区を任された司教、プルム・トスカーニ。彼女から依頼された仕事は、「新設された孤児院のオープニングスタッフとして、二週間ほど住み込みで働いてほしい」というものでした。
 そこはローレットに依頼されるお仕事。ただのスタッフ募集ではありません。
 この孤児院にはいわくつきの子供たちが集められています。
 例えば、他の孤児院でうまくなじめなかった孤独な子供。
 例えば、苛烈な環境に置かれ、大人や異性を信じられなくなってしまった子供。
 例えば、目の前で無残に両親を亡くし、よなよな悪夢にうなされる子。
 そして、そう言った子供たちが集まっているが故に、子供たち自身も、決して仲が良いとは言えません。
 皆さんは、そんな孤児たちを相手に、勉強を教えたり、衣食住のサポートをしたり。
 心のケアや、子供たちが仲良くなれるような、そんな環境を作るなど、大変な仕事を任されたことになります。
 言葉にするのはイージィですが、実行するのはハードでしょう。大変なお仕事です。心してかかってください。
 二週間の天気予報は、雨などはなく、おおむね晴れが続くでしょう。
 孤児院が存在するユーヴェリーの街は、中規模の牧歌的な都市で、少し離れれば自然なども存在します。
 やれることはたくさんありますが、なるべくみんなで協力し、対象を絞って行動をした方が描写は濃くなるかと思われます。

 なお、孤児院に存在する子供たちの資料はそろっているため、過去になにがあって、どういった思いを抱いているのかなど、調べるまでもなく簡単にわかります。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • 暗闇の中、それでも光さす方へ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年08月25日 23時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
シラス(p3p004421)
超える者
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ

●暗闇の中で
「ハハッ、今更この歳になって孤児院に入るとは思わなかったぜ」
 どこか自嘲気味に、『竜剣』シラス(p3p004421)が言う。ユーヴェリーの街の孤児院は、出来たばかりの真新しい白い壁と、綺麗に整えられた庭で、イレギュラーズ一行を迎えてくれる。だが、午前もそろそろ昼に差し掛かろうという時間帯の孤児院に、子供たちの声は聞こえない。気の早い子供たちが、庭で駆けまわっていてもおかしくはないだろう時間帯だというのに、そう言った当たり前であろう声は、一切聞こえなかった。
「……資料の通り、です」
 『ひつじぱわー』メイメイ・ルー(p3p004460)がいう。この孤児院は、各地にて『問題のある子供たち』が集められた場所だ。メイメイが見た資料には、様々な――時に目をそむけたくなるような――事情から心に傷を負い、世界から目を背けざるを得なかった子供たちのことが記されていた。
 現実と向き合え、等と賢しらに語ることは容易だろう。いずれそうしなければならない時が訪れることも、また事実であろう。
 だが、彼らは現実という怪物と戦うには、あまりにも幼すぎたといっていいだろう。そしてそのままで身体ばかりが大きくなり、心は成長できぬまま、大人になったのだから自分で何とかしろと突き放されるのであろうか。それはあまりにも酷というものだ。
 世の中の人間は優しくはない。大体の場合。イレギュラーズ達に依頼をした、プルム・トスカーニは間違いなく善人であり、心優しい人物である。だが、この世にプルム・トスカーニは一人しかいないのである。つまり、プルムがすべての孤児に平等に愛と時間を注ぐことはできない。ましてやプルムの場合、こういった『場』を用意するための『戦い』がある以上、その優しさを直接向ける時間などはますます足りないと言えた。
 世の悪性に対して、善性はあまりにも足りない。悪性の被害者となれば、数少ない善性でカバーできる数をはるかに超えるだろう。
「……なんとか、してあげたい、です」
 メイメイの言葉に、シラスは頷いた。
「そうだな……そう、だよな」
 はぁ、と嘆息する。重苦しいような気分を振り払うように頭を振った。
「こちらからどうぞ」
 そういうシスターに頷いて、イレギュラーズ達は孤児院の表から堂々と入り込んだ。内部も真新しく、床もまだまだ綺麗だ。踏み込んだところで儀尻とも音をたてないくらいに、綺麗な木製の湯がイレギュラーズ達の体重を支える。『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)が、ふと正面奥、右手に進む廊下の影から視線を感じた。果たして見てみれば、昏い瞳をした少女が未散を見ていた。憎悪や、嫌悪や、そういうものではない、空っぽの何かを、未散は感じていた。
「ふむぅ……」
 未散は息を吐いて、ゆっくりと歩いた。少女の目の前に近づいて、座り込む。
「こんにちわ。ぼくは、ちるちる、みちる。変な名前でしょう?」
 小首をかしげるように言う未散に、しかし少女はびっくりしたような、怯えたような様子を見せて、走り去っていった。未散は優しい笑顔のまま、それを見送る。
「前途多難だな」
 シラスが言うのへ、未散は微笑った。
「やる気が出てくるというものです」

 その部屋に集められた子供たちは、手で数えるには、二人ほど必要になるくらいの人数だ。それぞれが居心地悪げに、壇上の見知らぬ『オトナ』達を見つめている。
「メイですっ! えとえと。この子達は勝手についてくるし増えたり減ったりするきままなねこさん!
 しばらく、みんなと一緒にすごします。よろしくね!」
 そうい挨拶するのは、『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)だ。イレギュラーズ達は、おおむね二週間、此処で滞在し、一緒に生活する旨を告げる事となっている。壇上から見下ろす子供たちは、『こちらを見てくれる子供がいるだけでも御の字』と言ったほどだ。大体は、自らの殻にこもる様に、此方に感情すらむけない。メイのギフトで生まれた猫さんたちはどれも可愛らしいが、それを可愛いと思うだけの余裕すら、子供たちにはないのだろう。当たり前だ、大体の子供たちは、愛などというものを知らずに育った。それがどうして、他の生き物に愛を注げるというのだろう。
 それに、メイを『視ている子供たち』ですら、好意的なそれではない。「どうせお前も、短い間だけ愛想を振りまいて、あったかい場所に帰るのだろう」。そう言われているように、メイは感じていたし、そしてそれは、否応なく事実であった。自分たちの現状はさておいて、心底の地獄に、自らの心を置いている子供たちにとっては、メイもまた、「気まぐれで善を弄びに来た傲慢な客人」でしかないのだ。
 けど、とメイは思う。だけど……。その先の気持ちは、言語にならない。頭の中でぐるぐる回る言葉は、それでも絶望ではなかった。
 だからメイは、にっこりと笑ってみせた。せめて自分が、あったかい場所になれるように。今だけは。そしてその後も、その温かさを子供たちが忘れずにいてくれますように……。

 メイメイが、沢山の洗濯物を籠にのせて、廊下を進んでいく。後ろには、少しだけ暗い顔をして、籠を抱える子供たちの姿があった。
「えっと、まちがっていたら、おしえてください、ね?」
 少し遠慮がちに言うメイメイに、子供たちは曖昧に頷いた。洗濯や掃除も、子供たちに課せられた仕事で、此処では日常だ。強制労働というわけではなくて、当番制でみんなで力を合わせて仲良く生きていこう、というものなのだが、そもそも子供たちは『仲が良くない』。これは子供たちの境遇故仕方のない事だ。そんな空気を感じ取っているメイメイは、何とかしなくちゃ、と思いながら、洗濯物を手伝っている。
「わたしは、そんなに……その、きびきび動けるタイプでは、無いので……」
「……道」
 少年が、ふと声をあげた。
「えっ?」
「そっち、洗濯場じゃない。トイレに行く道」
「えっ、えっ?」
 メイメイがわたわたと視線をあちこちにめぐらす。少年は、おずおずとした様子を見せたが、決意を見せたように、メイメイの服のすそを掴んだ。
「こっちだよ。イェンネもこい。このねーちゃん、だめだめだ」
 イェンネ、と呼ばれた少女が、びくっとしたが……やがてこくりと頷いて、メイメイのもう片方の服のすそを掴んだ。そのまま、洗濯場へと引っ張られていく。
 そんな様子を見ていたのは、未散だ。未散も大きな籠に洗濯物をたくさん乗せて、子供たちと一緒に歩いている。
「意外と、気取らない方が良いものですね」
 そんな風に呟きつつ、未散はしゃがみこんだ。足下にいた少女に視線を合わせて、
「ぼくは、今日はお風呂に入るんです。あなたも――入りますよね?」
 そういう未散に、少女は意図を理解できずに、ひとまず頷いた。
「では――お友達も、お風呂に入れてあげたいとは思いませんか?」
 そう言って、少女の抱えていた、クマのぬいぐるみを指さす。ぬいぐるみの服にこびりついたすすが見える。きっと、火事に見舞われたのだろう。そして、彼女に残された唯一の家族が、きっとそれなのだ。
 ふるふる、と少女は頭を振った。手放したくない。手放したら、もう何もなくなってしまいそうで。未散はそんな少女に笑いかけた。
「では、今日はやめておきましょう。なに、少しお風呂に入らなくなって、神様は怒りはしないでしょう。ぼくも、怒りません。今日は、わるいこになりましょう」
 そう言って、頭を撫でた。
「わるいこ、なのに?」
 頭をなでるの? と少女が言う。未散は笑った。
「ふふ。ぼくもわるいこなので。わるいこは褒めたくなるのです」

 『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)が出会った子供たちは、その多くが『親に見捨てられた』者達だった。虐待。ネグレクト。そう言ったもの。愛を知らずに育った者たち。正純は、嘆息する。両親の記憶など、うすぼんやりとしか存在しない。孤独というものの寒さと恐怖、そう言ったものはよく知っている。だからこそ、この子達には伝えたいのだ……世の中、まだ捨てたものではない、と。
 正純は子供たちの部屋の一室に、椅子を借りて座ってみる。子供たちの、渇いた視線が突き刺さる。
 歯の浮くような、優しい愛を騙ることは容易だ。その腕に子供たちを抱いて、愛を嘯いてやることも簡単だ。イージィだ。でも、それが『本心である』と伝えることはあまりにも難しい。ましてや、この子供たちには。
「お話をしましょう」
 正純が言った。子供たちは応えない。椅子から立ち上がった。床にゆっくりと、腰を下ろした。子供たちの視線へ。
「私のこと。あなたたちのこと。まずはお話しましょう」
 愛を嘯くことは簡単だ。でも、想いを信じてもらう事はあまりにも難しい。2週間。それは、信頼を得るには短い期間かもしれない。
 ただ……そうだとしても、知って欲しかった。愛を嘯くのでも騙るのでもなく、それは存在するのだと。そしてそれは、一方的に与えられるものでもなく、友につなげていくことができるのだと。
「だから、お話をしましょうね」
 正純は笑った。辛く、気高い戦いが、始まろうとしていた。

 夕暮れの差し込む部屋で、『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私も、お父さんとお母さんが、死んじゃってね。
 でも、ちゃんと、私の事を想ってくれていたんだ、って、伝えてもらえる事件が起きたの」
 それは、あまりにも優しく、あまりにも残酷な事件であったけれど。
「……死んじゃった人には、会えない。当然だけれどね。この世界は、そういう事を許してくれないから。
 でもきっと、想いは残る……んだと思う」
 スティアの言葉に、目の前の少年は、う、と声をあげた。両親を失ったショックで、言葉を失ってしまった少年だった。
「無理しないでね。私じゃ、お母さんの代わりにはなれないけれど。
 あったかさを、伝えることはできる」
 そう言って、少年の手を、自分の両手で優しく包み込んだ。
「一歩一歩、進んでいこう。ゆっくりでも、他の子よりも遅くてもいいの。お母さんもお父さんも、きっと……そう言ってくれる。私が、保証するよ」
 そう言って、スティアは微笑んだ。

 日が沈む。夕闇に染まる孤児院に、一つ一つランプが照らされていく。夕食をとって、お風呂に入って。それから今日は就寝、という所で、とある孤児たちの部屋の扉がノックされた。
「……こんばんわ。今夜も、いい?」
 そう言って、クマのぬいぐるみを抱えて入ってきたのは、『剣の麗姫』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)だ。アンナは、部屋の主であるベネッタに視線を合わせると、ベネッタが少しだけ笑って、頷いた。
「うん。おねーちゃん、こっちだよ」
 そう言ってベッドに誘う。両親を目の前で殺されてしまったベネッタは、そのトラウマから夜ごと悪夢にうなされていたという少女だ。アンナはそんなベネッタの心を癒すために、「自分も一人で寝るのは寂しいの」と嘘をついた。最初は信じられなかったベネッタも、数日、夜を共にすることで、信頼を抱いたのだろう。最初こそ、悪夢にうなされて目覚めていたベネッタも、今はアンナのクマのぬいぐるみを抱いて、すやすやと眠っている。ベネッタの目のクマが、少し薄くなっていたのを、アンナは気づいた。
「よく眠れてるみたいね」
 クマのぬいぐるみを抱いて、眠るベネッタの頭をなでながら、アンナは微笑む。このぬいぐるみは、別れる時にプレゼントしよう。自分の代わりに、この子を悪夢から守ってくれるように。
「……私も寝なくちゃ。明日も早いし」
 アンナがふわ、とあくびをして、ベッドにもぐりこむ。翌朝、アンナのきいたことには、ベネッタは久しぶりに楽しい夢を見られて、それはアンナとクマとベネッタが、一緒にケーキを食べる夢だったそうだ。

「ほらがきんちょども、菓子をねだるチャンスだぞ」
 シラスがそう言って笑うのへ、『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は、
「もう、予算もしっかり決められてるんだよ?」
 そう言って苦笑した。二人は買い物かごと、子供たちを連れて、食糧の買い出しに出かけていた。明日のピクニック、その為の買い物だ。子供たちは半分ほどが買い物についてきて、残りの半分はピクニックの準備を、孤児院でしている。
「おねーちゃん、お菓子、買ってもいいの?」
 そういう少年に、シラスは笑った。
「チョコとか買ってもらえるぜ?」
「チョコ! 皆で食べたい」
 皆で、という言葉が出たことが、アレクシアには嬉しかった。この子は周りとなじめずに、孤立していた少年だ。何度も話しかけて、何度も手を握った。時に背中を押して、他の子達とも触れ合わせた。二週間に及ぶ結果が、間違いなく出ていた。
「んー……じゃあ、シスターには秘密だよ? 私のおこづかいから買ってあげるから、みんなで仲良く食べてね?」
「うん!」
 と笑う少年の頭を、アレクシアが撫でてあげた。
「いいお母さんって感じだな」
 からかうようにシラスが言うのへ、アレクシアもからかう様子で言葉を紡ぐ。
「シラス君だって、毎晩お話読み聞かせてあげてたじゃない。評判だよ~? 次はどんなお話かな、って」
「やめてくれって……」
 頬をかくシラスに、アレクシアは笑った。
「……私たち、この子達に、良い変化を残せたかな……」
 そういうアレクシアに、シラスは頷いた。
「あのがきんちょが答えでいいんじゃない?」
 友達と一緒に、チョコレートをもってはしゃぐ少年を見て、アレクシアは微笑を浮かべた。

●サヨナラの日
 ユーヴェリーの街の外れには、なだらかな丘陵がある。ピクニックには最適で、ちょっとした自然の小動物たちも姿を見せる、穏やかな場所だ。
「それじゃ、行きますよ」
 正純が言うのへ、子供たちが頷いた。正純が作った簡素なナップザックにお弁当とおやつを詰めて、イレギュラーズ達を先頭に、丘陵を上る。
 大人にとっては緩やかな坂。子供にとっては大きな坂道。一歩一歩をゆっくりと。
「だいじょうぶ、ですか?」
 メイメイが尋ねるのへ、少年と少女が笑って答える。一緒に洗濯物を洗った二人。
「ねーちゃんこそ、迷うなよな」
「え、ええ……大丈夫ですよ……?」
 メイメイが困ったような顔を見せた。
「メイおねーちゃん、どうして、空を見てるの?」
 少年がそういうのへ、メイは頷いた。
「うん……思い出しちゃって。
 あのね。メイのだいじなひとは、かみさまのところに帰ったんだよ」
 そう言って、少しだけ口をつぐんだ。
「けれど、メイはいきてる。みんなも、いきてる。いきてるって、いいことばかりじゃないけど」
「でも、ピクニック、とっても楽しいよ」
 その言葉が、子供たちがから出たことが、メイにはたまらなく嬉しかったから、メイは笑った。
「アンナおねーちゃん、ありがとね」
 ベネッタがそういう。抱えているのは、大きなクマのぬいぐるみ。
「おねーちゃん、嘘ついたんでしょ。私のために。ありがとね。とっても嬉しい。もう、夜もこわくないよ」
「そう。良かったわね」
 アンナが微笑む。クマのぬいぐるみが、遠く離れても、二人を繋いでくれるのだから。
「着いたら、お花の冠、作ってあげるね?」
 スティアがそういうのへ、少年が、顔をほころばせる。
「おとうさんと、おかあさんのぶんも。いい?」
 とぎれとぎれに言葉を紡ぐ、少年。言葉を出せなかった少年が、スティアの献身で、少しだけ、前に勧めた。
「うん、もちろん! 素敵なのを作ろうね?」
 スティアが微笑む。丘陵についてみると、大きな草原に、嘘みたいな青空が広がっていた。子供たちの暗い闇が、嘘であるかのような、綺麗な空だった。
 でも、子供たちが経験したことは嘘ではなくて、悲しいくらいに現実で、この青空は子供たちの闇を見ないふりして、そうやって広がっているのだろうか。
 違うよ、と今の子供たちなら言うだろう。世界は残酷で、大人は酷い奴がいて、愛だけがこの世界にあるわけじゃないけど。
 雨が降って嵐が来て、雷だって落ちるけど。
 たまには、青空が迎えてくれる。
 それくれたのは、まぎれもない、自分たちを苦しめた世界なんだと。
 あなたたちは、おしえてくれた。
「さぁ、ここからは、遊びの時間です」
 未散が言った。
「あらためて。あなたさまのことを、教えてください。トマトが嫌いとか、リンゴが好きとか。そう言ったことでいいのです」
「お話をしましょう。今度は教えてください。どんな遊びをしましょうか?」
 と正純は言った。今度は、お話をしよう。あなたと私で、キャッチボールをしよう。今ならそれができる筈だった。
「ま、ここらは、きっと自由だ」
 シラスが言った。
「好きにやりなよ。きっと、お前らなら、それができるさ」
「そうだね。世界には、まだまだ素敵なものがあるんだから。
 私が知ってる限り、教えてあげる。
 まずは、此処にあるものから」
 ここにも素敵なものが、いっぱい散らばっている。もう、子供たちの道の先は自由だった。暗闇から、光さす先へ、精一杯歩いていけるはずだった。
「いってらっしゃい」
 とアレクシアは言った。
「いってきます」
 と子供たちは笑った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 リクエスト、ありがとうございました。
 そして、子供たちは、少しだけ、先へ。

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