PandoraPartyProject

シナリオ詳細

それに関してはあてがある。任せておけ。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「貴殿らは何をしていたぁ!」

 深夜。黒影 鬼灯 (p3p007949)が文机を叩く。反動で湯呑が倒れ、茶がこぼれて畳へ広がったが誰も諫める者は居ない。それができるのはこの世でただひとり、章姫だけだった。
 鬼灯は怒り狂っていた。覆面の下からのぞく目元まで怒気が滲んでいる。暦の面々はうなだれて嵐が通り過ぎるのを待つことしか出来ない。まるで章姫へ出会う前に戻ったようだと長月は思った。それは他の面々も同じだったようで、章姫と孤児院の子どもたちが眠っていることに内心安堵していた。こんな頭領を見せたくはない。

 隣の部屋では、霜月が居心地の悪い思いをしながら、【孤児院最年長】ベネラー (p3n000140)とその妹分であるミョールへ、よく冷えた麦茶を出していた。
 ベネラーは困ったように眉をしかめたまま、隣のミョールへ顔を向けた。
「ミョール、なんでしゃべっちゃったのさ……」
「だって暦のみんながおっかなかったんだもん」
「そのせいであの人達、いまひどい目にあってるんだよ……?」
「あー、ベネラーちゃん、あんたちょっと心が広すぎるからね?」
 さすがに霜月はツッコミを抑えきれなかった。つい先日、ベネラーとミョールは豊穣のローレット支部へさんぽに行き、その道中でごろつきにかどわかされたのだ。ベネラーの言う「あの人達」とはそのごろつきと手下のトモテツというゼノポルタの男の子のことだ。命を狙われた相手への態度がただ「放っておいてくれ」というのは流石に安すぎやしないだろうかと、霜月ですら思った。
 隣の部屋からまた怒鳴り声が響く。

「水無月! おまえのその鷹は飾りものか! お目付け役を買って出たのは誰だ! 言ってみろ!」
「面目次第もありませんっ」
 畳へ額当を擦り付ける音が聞こえる。おおかた土下座でもしているのだろう。たぶんそうなるんだろうなあと思っていたので、ベネラーとしてはことをおおやけにしたくなかったのだが、さすがに縛り上げられた体についた縄目までは消せなかった。出迎えた葉月と文月がそれを見つけて大騒ぎし、何が起きたと神無月が即霊視兼身体検査、かくして頭領自らの耳へ事件が届いてしまったのだ。
「これがあの『暦』なんだからねぇ。ブロマイドの束でも作って、忍者カレンダーとしてウチで売りさばこうか?」
 さっきから鬼灯の隣、上座に座っている武器商人 (p3p001107)がヒヒヒと笑った。勘弁してくださいと睦月が頭を抱える。
「ああ、すまないね。少し気が立っているようだ」
 ゆらゆらと湯呑を手で弄ぶ武器商人もまた静かな怒りを漂わせている。鬼灯を烈火とするならこちらは透徹した青だ。心の奥まで見透かされるようで自然と目を背けたくなる。
 実際のところ、さんぽ前にベネラーが暦たちの同行を断ったのだから、責任の一端は本人にあるといえる。とはいえ、しょげかえっている皐月の背が物悲しげだ。まさかちょっとそこまでの道のりでこんなことが起きるとは夢にも思わなかった、その油断に深く恥じ入るのみだ。敵が魔種ではなく、純種(ニンゲン)であったのもショックだった。やさしい卯月にいたっては目に涙をためているし、そんな卯月に師走がむずかしい顔で寄り添っている。守護を司ると自認する二人にとっても、今回の件は大きかったのだ。
「責任はとります」
 卯月が顔を上げる。
「なんとしてもベネラー君とミョールさんを食そうとした真犯人を見つけ出します」
「ああ、そうしてくれ。我等の絡繰舞台の幕を開けろ」

●その頃
「ってわけで、ぼっちゃん。まだまだ年端もいかないのに、こんなところへ連れてこられて、怖い思いをさせて、すまないと思ってる」
 如月はうすら笑いを浮かべながらトモテツの頭をぐりぐり撫でた。トモテツはひいひい泣きじゃくりながら「知らない、おいらなんにも知らない」とくりかえしている。その視線の先では件のごろつきが弥生に拷問されていた。天井から逆さ吊りにされ、定期的に水槽へ落とす。単純な方法ではあるが、口だけでなく鼻からも水が入り、呼吸困難に陥るうえ、血液が逆流して顔はパンパンに腫れ上がる。くわえて自重による負荷。ギリギリのラインを見極めながら弥生は水責めを続けていく。ごろつきが口を開いた。
「てめえ、てめえらぁ……なかなか極悪非道じゃねえかよぉ……。俺だけじゃなくトモテツまでさらうなんざ……」
「ほう、まだしゃべれるか。もう一回ドボンしとくか?」
 弥生の目が暗い喜びに輝いている。ごろつきはこの男の情へ訴えかけても無駄だと悟った。
「ベネラーはあんたらと関係を切れば気が済むようだが、我等は面子をつぶされて黙っていられるほど温厚ではないのでな」
「お前、依頼人と顔が繋がってるんだろう? さっさと吐かないとこのトモテツってガキを……」
「いかれてるぜおまえら……」
 どぼん。
「そんなことは百も承知だ。忍になった時、俗世の理は捨ててきた」
 弥生が鼻で笑う。ごろつきは腹をくくった。このままではトモテツが先に害されてしまう。血も涙もないと呼ばれたごろつきにもまだ情けはあった。あるいはそう呼ばれたからこその、最後の一滴であったのか。
「話す、ぜんぶ話す、だからトモテツは逃してやってくれ……あいつらは、シレンツィオに居る……」

●鯨飲美食倶楽部
 ことのはじまりは一本のワインだった。
 まだあの海域が『絶望の青』と呼ばれていた頃、どんぶらこと流れてきた一本のワイン。それは豊穣にたどりつき、とあるお貴族様へ捧げられた。
『おお、これは誠にすばらしい品だ、ふさわしい肴をこれへ』
 厨の料理人は主人のために腕を振るった。だがその頃の豊穣は鎖国しているに等しく、ワインに合う珍味がない。貴族はツテというツテを頼り、使えるものはすべて使った。それでもいいものが見つからない。料理人は追い詰められていった。やがて彼は生まれたばかりの長男を殺し、その肉で料理を作った。貴族はその報恩に応え、のちに料理人を宮廷へ取り立てたという。
 だがそんなことは今となっては、どうでもいい話だ。ようするに、つまり、影のコネクションを持つ貴族たちが集い、贅の限りを尽くした宴を開く。けれども、もはや彼らは並の食材には飽き果てていた。
 珍味を。誰も口にしたことがないような遥かな珍味を。
 諸君、我々は情報を食べている。そのものにまつわる逸話を食している。努力、信念、苦労、犠牲、奇抜で目新しくて希少、それを覆うレイヤーが多いほど、包装を破り噛みしめる瞬間が贅沢になるのだ。たとえ器に盛られたのが、グラム100G以下のミンチ肉であろうと、そこに至るまでの物語が芳醇であれば、脳は潤い浄土を漂うのだ。我々のすべての行動は、脳を喜ばせるために存在している。珍味を、果てなき珍味を。いまだ誰も到達したことのない珍味を。さあ食べ比べよう、カオスシードとウォーカーを、オールドワンは骨までしゃぶれ。スカイウェザーの食材適正持ちはいるか。ディープシーならカルパッチョが一番。ハーモニアを輪切りにしろ。グリムアザースを飲み尽くせ。レガシーゼロのコアをシェイクして、ゼノポルタとドラゴニアの血を腸詰めにしてやれ。この血のように赤い、ただ一本のワインのために。

●深夜
 鬼灯と武器商人から声をかけられたあなたは、依頼の内容を聞いた。

「シレンツィオの三番街に宿泊している『鯨飲美食倶楽部』会員の暗殺が今回の目的だ」

 武器商人が袖からリストを取り出した。
「会員は5人。いずれも豊穣から出てきた貴族のお歴々だよ。カヌレ・ベイ・サンズに二人、この二人が夫婦で主催。残りの会員は、ブルジュ・アル・パレスト、グランド・バルツ・ホテル、クレーロス・ロイトン・ベイにひとりずつロイヤルスイートをとってる。厳重な警備をかいくぐって、室内で暗殺、しかるのち死体を処理する、と。そういう流れだね」
 のんびりと武器商人は言う。不吉なほどにのんびりと。
「ほんとはホテルごと燃やしたいくらいだけれどね。我(アタシ)のお気に入りの顔を曇らせたのだから。あァ、あァ、じゅうぶんな理由だよ」
 もしかして怒っているのかとあなたは武器商人へ聞いた。武器商人はきれいな顔で笑った。
「そのとおりだよ、あァそうさ、我(アタシ)だってたまには怒るのさ」
 リストをうちわ代わりにひらひらさせて武器商人はけらけら声を立てた。
 鬼灯も怒気を含んだ声で低く唸るように続ける。
「部屋の鍵は俺の部下が手配した。あとは潜入、暗殺、処理の実行だ」
 こちらも相当根深くお怒りのご様子。
「この鯨飲美食倶楽部は美食を気取った殺人集団だ。生かしておいてもろくなことにならん。よって処罰する」
 それは私刑ではないかとあなたが問うと。
「人誅だ。天が裁かねば誰が裁く」

GMコメント

みどりです。ご指名ありがとうございました。
暗殺に行こう。あとしまつまでが遠足です。

●共通事項
まああれだ、スニークミッションだ
ダンボールもってこい
冗談は置いといて、短時間で効率よく対象を仕留めるためにグループ分けをしたほうが良いです。
対象に戦闘力はほぼありませんから戦闘プレは一行でいいです。その代わりいかに潜入、隠滅工作をするかを考えたほうがいいでしょう。
時刻は夜です。

スタートは各ホテルの入り口、または裏口から。
ロイヤルスイートまでの道のりは長いです。広間、廊下、階段、エレベーター、どのように周囲を騙し通すかを考えると良いでしょう。
お部屋についたら暗殺タイム。悲鳴をあげられてはSPが駆けつけてきます。うまいこと近づきましょう。
そのあとはお楽しみ。死体を上手に始末しましょう。R.O.Oと違って消えたりしませんので、工作する必要があります。解体するなりなんなり、ご自由に。それともあなた自身が鯨飲美食倶楽部へ入会する?

●戦場1
カヌレ・ベイ・サンズ
有名高級ホテルの一つ。豊穣的な連重塔、歯車の大量についた鉄帝的タワー、海洋風の白くそびえ立つビルの三つが並び、その上に巨大な船がのっかった異様かつ象徴的な建物です。
船はプールになっており、広大な海やフェデリアの景色が一望できます。
●エネミー1
橘夫妻 主催の夫婦です。メインディッシュとなる獲物や会場の手配とかしてます。ベネラーくんが魔種に呪われていることをどこからか聞きつけ、酒菜にしようとしたようですが、代わりに深怪魔をたべることにしました。ハーモニアのお耳が大好物。

●戦場2
ブルジュ・アル・パレスト
有名高級ホテルの一つ。巨大な船の帆をイメージした芸術的なビルで、中には豪華な聖堂(バジリカ)が併設され貴族達の結婚式場にも選ばれています。
ラサのパレスト家が出資したことが名の由来となっています。
●エネミー2
呼刈ヨシカネ 青年貴族 剣の心得がありますがそれだけです、ディープシーをむりやり変化解除させて刺し身にしてる。

●戦場3
グランド・バルツ・ホテル
バルツァーレク派幻想貴族の共同出資によって経営される、有名高級ホテルです。白い大理石に包まれたコロニアル様式のエレガントな館内は、調度品も見事です。
●エネミー3
山神ホシノ 腰の曲がった老齢の女 食べたオールドワンの機械部品をコレクションしてる。

●戦場4
クレーロス・ロイトン・ベイ
有名高級ホテルのひとつ。溢れる海洋資本によって建設された円柱型のビルはシンプルながら整った造形美を誇り、『現代日本』をイメージした客室が人気を博しています。
●エネミー4
保村キッタダ 出っ歯でメガネ 眼球が大好きで獲物が生きたまま眼球をほじくり出して食べてる。

このシナリオは「めんどうなやつだな」および「<潮騒のヴェンタータ>(長いうえに意味不明のタイトル)」とリンクしていますが、読む必要はありません。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『海洋と豊穣』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • それに関してはあてがある。任せておけ。完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年08月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
※参加確定済み※
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
※参加確定済み※
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

リプレイ

●ブルジュ・アル・パレスト
 ラサの高名な資産家が出資したと言うだけ合って、闇夜に浮かぶホテルはどこかしらざらついた印象を受ける。巨大な船の帆がはらむ風は暑く湿気ていた。この船はどこへ向かうのだろうと、『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は、ふと思う。富も悪徳も抱え込んで、今夜も巨大な海へ出るのか。社交界という華やかな海へ。無論、シューヴェルトは貴族であるからして、社交界の重要性も、その裏にひろがる人脈も、理解しているつもりだ。そうして出会ったのだろう、今回の標的も。鯨飲美食倶楽部というつながりへ。人は自分が出会いたいものと出会えると言う。ならば標的である呼刈ヨシカネも、もともとその素養があったか、あるいは自分ひとりだけで悦楽を貪っていたところをスカウトされたか。
 人の口に戸は立てられないと言うから。
「おいシューヴェルト、なに物思いにふけってんだよ。ちゃっちゃと行ってお楽しみタイムといこうぜ」
『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)が茶々を入れた。
「ああすまない。こういう依頼は、なにげに初めてだと思ってな。さて、貴族騎士として非人道的な貴族に天誅を下しに行こうか」
「その意気その意気」
 場違いなほど明るいことほぎは鼻歌など歌っている。
「海種なら食ったことあるケド、味的にゃふつーの魚だったがなァ。他の種族だと違うのかね?」
「その質問については黙秘させてもらう」
「ケッ、おかたいやつ」
 シューヴェルトはことほぎを伴って歩き、どうどうとブルジュ・アル・パレストへ入っていった。ホールにはよいっぱりな人々が海藻のようにさんざめいている。
(青年貴族で剣の心得があったりと僕と似通っているところはあるが、これ以上の被害を出さないためにも天に還ってもらうとしよう)
 そんなことを考えながらロイヤルスイートルームまでの道を確認する。
(あとは……部屋番号だが)
 もらった鍵を確認しようしたとき、ことほぎがするりとカウンターへ近づいていく。普段なら絶対に見せないような純真でうぶな笑みを浮かべながら、豊満な肉体を強調する。
「すみません。わたくし、呼刈ヨシカネ様に呼ばれてきたのですけれど……お部屋はどちらかしら?」
 魔眼で誘惑されたスタッフは簡単にころんだ。チップを握らせる必要すらなかった。部屋番号を聴取したふたりは、エレベーターで一気に目的の階まで上り詰める。
 そこには何人もの黒服が巡回していた。
「すみませんが、ここの階は貸し切りでして」
「僕は呼刈ヨシカネへ会いに来たんだ。通してもらおう」
 シューヴェルトは名刺を渡した。貴族にとって名刺を渡す、という行為は一種の脅しである。これだけの身分の者がやってきたのだぞという、行為にほかならない。黒服たちはヨシカネへ相談しにいくべきと結論を下したようだ。だがそこへことほぎが舞い降りる。
「実はわたくし、さる方から呼刈ヨシカネ様の部屋に行くよう申し付けられておりまして。お名前は出せないのですけれど、ご理解いただけません?」
 黒服たちは事情を飲み込んだようだった。ふたりは胸を張ってロイヤルスイートの前へ立つ。ことほぎがノックをした。
「ルームサービスです。さる方からのお申し付けで参りました」
 艶のある声に引かれたのか、ガチャリと鍵が開く。今だ。シューヴェルトが後ろ手で扉を締める。同時にことほぎが接近し、ヨシカネの喉笛を切り裂いた。返り血が飛び散り、ことほぎの全身を濡らした。遺体が倒れて音を立てないよう、シューベルトが抱きとめる。だくだくとあふれだす血に内心うんざりしながら、シューヴェルトは遺体をことほぎへ預けた。
「それじゃ、楽しい楽しい味見タイムといきますかね。まずは刺し身かね、炙りかね、どう思う?」
「君が何を選ぼうと、僕は遠慮しておく」

●グランド・バルツ・ホテル
 山神ホシノは用心深い老女だった。ホシノの悪癖が明らかになれば時の権力者が黙ってはいまい。領地は没収、よくて終身刑。だからホシノは用心深かった。定期的に社交界へ顔を出しつつも、つつましやかをよそおって自分から話すことは少なく、ボロを出さずにこの年までやってきた。普段は抑制に満ちた生活。だからオールドワンの機械部品は、彼女にとって誉のメダルも同然だ。今夜もお気に入りのコレクションを広げ、その冷たい輝きにうっとりと酔う。そんな彼女へ、終わりの足音が近づいていることなど知らずに。
 黒服たちを騙し抜いた『Dead or Alive・夜闇這い』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)と『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)が絨毯の敷かれた廊下を歩いている。傍から見ると奴隷商とその商品だ。ピリムはかわいらしいワンピースを着せられ、首輪を着けられている。かつて意思を奪い、耄碌させると噂された首輪だ。いまやその効果はなくなっているが。
「フフ……おもしれーですねー。こーんなところで同族に会えるとは。まーヤってることがほとんど同じでも、目的が全然違いますので一概に同族とくくれる訳でもねーですがー」
 ピリムは面白そうに歩を進める。となりで重そうなアタッシュケースを涼しい顔して持ち歩いているバルガルはじゃらりとピリムの首輪に付けた鎖を鳴らす。
「こういう悪趣味なものは密かにやるのが良いというのに。ま、お偉いさんだというのに情報収集を怠り喧嘩売ってきたのはあちらさん。こういう手合いは私も好みませんので潰すのに協力しますとも。ところでピリムさん、……食べますので?」
「どうせ捨てるくらいなら血肉にしないと勿体ねーでしょう? 勿論、脚の質には拘りますがー。私の教団もお肉を喰らいはしますが、なんか信念あるみてーですしアッチもアッチでめんどくせーですからねー。食事くらい気軽にしてーものでごぜーますー」
 彼女も彼女で危険人物だとバルガルは思った。危険人物というのは、自覚がないから危険人物なのだから。とはいえ、今のバルガルは名の知れた奴隷商。危険人物なのは自分も同じだと暗い自嘲を漏らす。
 ホシノの部屋をノックしたとき、運命は動き始めた。最初は返事がなかった。それでもしつこくドアを叩いていると、ようやくホシノのいらえが聞こえた。
「バルガル・ミフィストと申します、山上様。うちで扱っている”商品”について、ぜひご説明をさせていただきたく」
 彼はわざとらしいほどに鎖を握り込み、ピリムを引き寄せた。
 真っ白な肌。赤い瞳。額から映えでた四本の角。その異形でありながらたしかな美しさはホシノの警戒心を溶かすに充分だった。
 ホシノは扉を開けてふたりを招き入れた。奥の部屋の机の上には、機械部品が並べてある。おそらくは彼女のコレクションだろう。ピリムはにっこり笑いかけた。
「お話しましょー。ほんの一部ですが、私もコレクションを持ってきたでごぜーますー」
 首輪を外したピリムがバルガルからアタッシュケースを受け取る。出てきたのは脚、脚、脚。白銀の英雄、貴族、殺人鬼、実業家、エトセトラエトセトラ。
「というわけで鯨飲美食倶楽部へ入会希望なのですー」
 ホシノは驚き、喜びに包まれた。この広い世界で同じ趣向を持つ者に出会えようとは。ぺちゃくちゃと高い声でおしゃべりしながら、ピリムは次の手へ打って出る。わざと酒をこぼし、ホシノをシャワールームへ誘導する。そのまま水音に紛れて彼女の首を刎ねた。老女の首はしんなりしていて全身はたるんでシワだらけだ。それでもピリムの食欲は止められない。ピリムはその場で”食事”をはじめた。
「今はね、丁度よいお話の相手と盛り上がっているの。邪魔しないでちょうだいな」
 クローンボイスを用いた詐術で外の黒服へ嘘を重ね、バルガルはピリムの時間を稼ぐ。散らかした脚や機械部品を早々に片付け、こぼした酒のあとをきれいにする。
「ピリムさん、そろそろ引きどきですよ」
「あ、待って待って、まだ全部くってねーでごぜーますー」
「あとでいくらでも食べられますから」
 残ったホシノの遺体もまたアタッシュケースへ入れ、ホテル内にとった別の部屋へ移動する。そこでピリムは晩餐を再開した。

●クレーロス・ロイトン・ベイ
 調度品一つとってもあのホテルは洗練されている。たとえばさりげなく置かれている庭の銅像。海を渡ってきたものだろう。倒してしまえば、多くのメイドが連座でクビになるに違いない。わかっていてそうするのと、事故でそうなるのとでは、悪質度が違ってくる。
「人肉嗜好か。私の友人にも居るのだが、彼女と彼らではいささか趣向が異なるようにみえる」
 懐中時計をながめやる『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)に、『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は「たとえば?」と相づちを打った。
「思うに、彼らにとっては味そのものよりも、背徳感こそが極上のスパイスなのだろうな。それ故、愚かにも手を広げ過ぎ、自らの扉口へ死を招いてしまったわけだ。私は嫌いではないよ、そんな愚かさも!」
 ルブラットは懐中時計をしまい込み、口元へ笑みを浮かべた。
「そうか、愚か、か。そうだな。愚かなのだろう。ヒト喰イ……同族喰い自体は否定はしない。ただ、己が食われる側に属するがゆえの敵性嫌悪は抱いてしまう」
 アーマデルはゆっくりとホテルへ歩み寄りながら言葉を続ける。
「例えば蛇にも同属喰いする種はいて、それ自体は生物としての食性。……嫌悪するのは失伝した神話に於いて、我が守神『一翼の蛇』が食われる側であったからだ。つまり」
 アーマデルが踏み出す。そのたびにその成長途上のしなやかな肉体が宙へ浮いていく。闇の帳が彼へ絡みつき、姿を隠す。
「これはベネラー殿が巻き込まれた件であるから『排除せねば』と思った。金に飽かせて身の丈に合わぬ暴力と慢心を振りかざしているの気に触った。……正義などではないさ」
 アーマデルに合わせてルブラットも飛行を開始する。飛行音すら忍び足でかき消し、彼らはロイヤルスイートルームを一路目指していく。彼らが取った方法は途中をやり過ごすのに、非常にスマートであった。問題はなかへ入ってからである。標的である保村キッタダは目指す階の内側にいると推測されるからだ。
 アーマデルは外壁を叩き音の違いを調べる。そしてもっとも薄かろうところで聞き耳を立てた。壁に埋め込まれた機械が稼働する音。そして黒服らしき足音。
「数は何人かね」
「少し待ってくれ、現地の霊魂に協力を頼んだばかりだ」
 ややあって、「三人」とアーマデルは答えた。ルブラットが顎をつまむ。
「ふむ、ひねるのは簡単だが、死体を残すのは好ましくない。あちらにバルコニーがあった。すこしのぞいてみないかね」
「ああ、俺も同じことを考えていた」
 ふたりは壁を蹴り、バルコニーへと泳ぐように宙をかいた。そこから中を覗いてみると、キッタダらしき男がひとり、ワイングラスを傾けているのが見えた。
「護衛は無し、行くかね?」
「行こう」
 ふたりの姿がぶれ、ガラス窓を透過する。ふたたびふたりが姿を取り戻したとき、それが保村キッタダの最後だった。メスで首筋を掻っ切ったルブラットが顔を伏せる。
「保村キッタダ君、だったかな。私も生命が喪われ、魂が肉体を離れる瞬間の目は愛おしいと思っている。じっくり語らう暇も、君の目を観察する時間もないのが残念だ」
 それが別れの言葉だった。キッタダはずるずるとソファを滑り落ちていく。いまや肉の塊となったそれを、アーマデルが押さえつける。
「どうする、死体はトランクにでも詰めるか?」
「その前にシャワー室で解体しよう。血抜きをしておけば怪しまれることも少なくなる」
 ルブラットは医療器具を取り出した。シャワーヘッドから熱い湯があふれだす。それを浴びながら、アーマデルを助手にしてルブラットは手術を開始した。生命を取り戻すのではなく、失った命を冒涜するように。
(殺人のために医学を学んだのではなかったのだが、今更なんて言おうと益体のない話だ)
 トランクへ詰め込んだ物言わぬ死体。それを持った二人は、ふたたびガラスをすり抜け、窓から飛び降りた。

●カヌレ・ベイ・サンズ
「いやァ……まさか忍が護衛対象から目を離すのは想定外だったねぇ、黒影の旦那?」
「言い訳のしようもない。情けない限りだ。子供たちからは目を離すなとあれ程言いつけていたというのに……帰ったら鍛え直さねば」
 さきほどからチクチクと嫌味を言われている『報恩の絡繰師』黒影 鬼灯(p3p007949)。だが本人は、胸の内に沸き起こる怒りの、本来向けるべき相手をまちがえてはいないようだ。前方にそびえ立つ異形の建物。宵闇に包まれたそれは悪夢に狂った建築士の作品に見える。夏用スリーピースを着こなした『闇之雲』武器商人(p3p001107)は小さく微笑みながらまた鬼灯へ話しかけた。
「姫はお留守番かい?」
「穢らわしいものを見せたくない故に。置いていくと告げたときの章殿の泣きそうな顔。あれを見て俺も涙ぐみそうになったが、さすがに今回の依頼には連れてくるわけにはいくまい」
「ヒヒ、もっともだね。しかも理由が理由だから黒影の旦那が怒るのも無理はない。我(アタシ)だってこの報告書がお気に入りの目に留まるのはできれば避けてほしいところだ。ベネラーがガードしてくれるよう祈っておこうか」
「……ふしぎというか、妙な子だな、あの子は。本人は真正直だというのに、紹介する依頼は後ろ暗いものばかり。なにか引き寄せるものがあるのだろうか」
「そういう運命なのかもしれないねぇ。あの子がどんな道を辿っていくのか、興味深いよ」
 暗闇の中に武器商人の笑い声が響く。
「ま……なんにせよ、後顧の憂いは絶たねばならない。そうだろう?」
「しかし……豊穣の貴族ならば『暦』の名くらい知っていると思ったが、あのごろつきの方がよほど頭は良かったか」
「どうだろうね、あるいは……」
『あの暦が庇護している子ら』という情報こそが極上の珍味と断じたか。鬼灯は顔をしかめた。
「くだらんな。実にくだらん。『暦』の実力をごろつき程度で充分と判じられたのも、実際に失態を晒してしまったことも、合わせて汚名返上とさせて貰おう」
 一瞬での早着替え。鬼灯は清掃員の姿になった。きちんと掃除用具まで手にしている。
「さぁ、空繰舞台の幕を上げようか」
 ふたりは打ち合わせどおり、武器商人は正面きって、鬼灯は闇の帳で身を隠し裏口から最短ルートを。
 武器商人の方はゆったりとした足取りで中央の門を抜けた。カウンターを通り越し、豊穣的な連重塔への道を歩く。格の高い着物姿のニンゲンが井戸端会議をする横をくぐり、その下卑た内容に唇の端を歪める。
 まあ、あの方すてきね。今夜は空いているのかしら。有閑マダムたちの毒牙がひらめく前に、武器商人は先んじて振り向きゆるやかに微笑んだ。銀髪の下で魔眼がきらめき、マダムたちの意識をそらす。一時的に記憶を錯乱させたマダムたちはまた元の井戸端会議へ戻っていった。やがてエレベーターがロイヤルスイートの階へつくと同時に、黒服たちに取り囲まれる。身分を提示するよう詰め寄られた武器商人は軽く肩をすくめた。
「サヨナキドリの商人として夫妻の好物の相談に来たのだけれど。耳の件で……そう、ここで大っぴらにはお話できなくてね」
 やがて夫妻から正式な招待をもぎ取った武器商人は薄い笑みを崩さず部屋へ入った。
「幻想種の耳狩りは近年減少傾向にあり、価格も高騰しているね。だからこそ深緑支部で新たに『販路』を開くための資金提供を……」
 架空の商談をもちかけながら窓際を歩く武器商人。釣られて夫妻が入口の扉から目をそらしていく。完全に彼らの意識が武器商人へ縫い付けられた瞬間、婦人が喉笛を切り裂かれた。突如現れた忍の姿にぎょっとした橘主人が後ずさるが、そこを武器商人が背後から一突きする。常人ならそのまま事切れていただろう……しかし。致命傷であっても、脳に血が巡る三秒は意識があると言う。橘はその三秒で首から下げていた薬のようなものをピルケースごと口へ放り込んだ。
「は、はは、残念だったな、俺は秘薬を飲んだ。絶対に死なん。死なん、からな、ぐぶっ!」
「不死か。なら死ぬまで殺すだけだ」
 鬼灯が正中線を狙って連ね切り。しかし傷は次々に治っていく。鬼灯は攻撃を重ねた。出血量だけみても、とうに死へ至っているはずだ。さすがの鬼灯も辟易してきた。
「なんだこれは、どういうことだ」
「……虫?」
 武器商人は眉を寄せた。そのモノにはまるで糸で縫うように傷口を塞いでいくものの正体が視えていた。橘はぶつぶつと呟き続けている。
「おれは、しなん、しなん、しな……ん……」
 沈むように瞳から光がなくなり、体躯から力が抜ける。そしてだらりと倒れ伏した次の瞬間、猿のように素早く跳ね上がった。
「イボロギ様が呼んでいる……」
 ガシャン。
 窓を突き破り、橘は闇へと消えていった。
「馬鹿な、この高さだぞ」
 鬼灯が下を覗き込むが騒乱は見当たらない。
「飛行音が聞こえるね」
 笑みを消した武器商人が冷静に指摘する。残された婦人の遺体を解体し、プレゼントボックスへ詰め終えたふたりは、ホテルを抜け出し暗い夜空を見上げた。

成否

成功

MVP

バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

依頼は成功となります。
すこしは『暦』の面子も挽回できたでしょうか?
皆さんいろいろと知恵を絞った楽しいプレイングでとてもすてきでした!
MVPは非戦の使い方がお見事だったあなたへ。

それではまたのご利用をお待ちしております。

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