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シナリオ詳細

<潮騒のヴェンタータ>美しさこそが惑わせる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シレンツィオ・リゾート 二番街(サンクチュアリ)
 特徴的な葉巻のにおいが、あたりにたちこめていた。
 きらびやかなリゾートの島が連なる、シレンツィオ。
 その中でも二番街は一仕事終えた労働者たちの多い区域であった。
 雑踏の声は粗野で素朴である。酒場には、可憐な歌姫の歌声が響いている。
 安酒の入ったグラスを傾けた港湾労働者たちが、好き勝手にそれに耳を傾けてる。
 ふいに、グラスが割れる音がした。
 ここでは、ケンカというのも珍しいものではない。女をめぐってのトラブルなのか、別の客たちが口論を始める。ついには殴り合いにまで発展したが、はやし立てるものも多かった。どちらも泥酔している状態で、大けがもしそうになかったからだ。
「なあ、もっとも強い力っていうのはなんだと思う?」
 自分の分の酒の乗ったお盆をちゃっかり避難させながら、とある観光客が隣の客に問いかけた。
「強い力? そりゃあ、筋肉だろ!」
「……お前、鉄帝の出身だろ。なんでわかったって、いやうん、まあ、うん、勘だな」
 喧嘩はといえば、あっけなく片方のノックアウトで終わったらしい。割れたグラスを請求書に上乗せされて酔いもさめたらしかった。
「やっぱりさ、金だよ、金」
「頭の良さとかどうだ?」
「まあ、強さってのは人それぞれだよなあ」
「そうさなあ。どんだけ強くたって毒なんて盛られちゃあおしめぇよ」
「人を動かす力なんてのはどうだ? 賢くて美しくって、黙っててもなんでも自分の思うさまになる……そういうのだって強さの一つだろ?」
「はは。その美しさのためにつかまってちゃあ、世話ねぇや!」
 美しい見た目の貝を乗せた海鮮スパゲティが運ばれてきたもので、強さ談義はそれでお開きとなったものである。

●超合金・ビューティフル・オクトシャーク
 もしも、とびきり美しい生き物がいるのだとしたら……。
 もしも、その美しさのあまり、黙っててもなんでも自分の思うさまになる……そういう生き物がいるのだとしたら……。
 それはある意味、最強の生物であるといえるのではないだろうか。

「伝説は……本当だったんだ!」
 異国風の船をこいでいたのは、食い詰めた元漁師の海賊たち。
 波間に揺れるそのサメの姿は透き通った黄金のように美しかった。攻撃を受けてもなお傷一つつかないそのサメ肌は、美しく感じられる。
「ああ、これが……これが、予言にあった……」
 海賊たちは手に持った銛を捨て、ただ手のひらを組み合わせて祈った。
 その深怪魔(ディープ・テラーズ)は、どういう因果なのか、突如として目覚めたサメである。とあるリゾートホテルと支配人の関係がウワサされているが……、あくまでもウワサに過ぎない。
 美しくしなやかな身体を持ち、傷など一切つかないのだという。
「おお、みよ! あれこそが……我らを救ってくれる!」
 暗黒破壊神オクトシャーク改め、『超合金・ビューティフル・オクトシャーク』。なぜか異様なカリスマを身に着けたサメだった。流れ着いてきた漁師にあがめられ、小さなコミュニティすら形成しはじめていた。
「永遠あれ!」
……ちなみに、好物は『竜宮弊(ドラグチップ)』なのだという……。

●強いサメ
「サメです! 黄金のサメが出たのです!」
 しゅっしゅっとシャドウボクシングする『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は最近20になった情報屋である。おめでとう。
WANTEDと書かれた手配書に記されているのは『超合金・ビューティフル・オクトシャーク』。つややかなサメであった。
……頭の痛くなるような字面である。
「こいつは金ぴかでそこそこ頑丈らしいのです。それだけじゃなく……異様なカリスマを持ったサメらしいのです!」
 どうにも豊穣から流れてきた漁師たちが勝手にあがめているそうである。好きにしてくれ、とも言えないのがイレギュラーズのつらいところである。
「このままではサメ帝国が誕生してしまうのですよ!」

GMコメント

サメです。よろしくお願いします!

●目標
深怪魔(ディープ・テラーズ)『超合金・ビューティフル・オクトシャーク』の討伐

●状況
海底の遺跡で、何の因果か『超合金・ビューティフル・オクトシャーク』が暴れています。

『超合金・ビューティフル・オクトシャーク』
 つややかな見た目をしたサメです。やたら頑丈……に見えますが見せかけだけです。5回くらい起き上がってくる気がしますが……。
 特筆すべきはカリスマ性です。フォアレスターや、後述の海賊にあがめられています。

・フォアレスター×6
 半魚人型深怪魔。首から上が魚です。武器を持って戦います。少しピカピカしています。

・海乱鬼衆・金色派×2隻
 海賊集団・海乱鬼衆(かいらぎしゅう)。
 豊穣郷から出た海賊たちです。
 もともとは食い詰めた漁師でしたが、「殺しても死なない金のサメを追え」とのお告げを受け、あてどもなくさまよっていたところ、サメと出くわして神聖を見出しました。これこそが自分たちの天命なのではないかと思っています。
 武器は銛などやたら原始的です。

●特殊ルール『竜宮の波紋』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―による竜宮の加護をうけ、水着姿のPCは戦闘力を向上させることができます。
 また防具に何をつけていても、イラストかプレイングで指定されていれば水着姿であると判定するものとします。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <潮騒のヴェンタータ>美しさこそが惑わせる完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月06日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
蒼剣の秘書
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
裂(p3p009967)
大海を知るもの
コヒナタ・セイ(p3p010738)
挫けぬ魔弾

リプレイ

●美少年が海賊を惚れさせると信じて――!
「なんだこのアオリは。嘘だろ与太特有の一過性のアレじゃなかったのかよ」
『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は眉根を寄せ、悩ましげな表情を見せる。その天からの贈り物は美術品と見まごうばかりだ。
「戦う依頼に水着で来るなんて、不思議だわねぇ……。でも、活躍の機会ができて嬉しいのだわ。とっても素敵でしょー♪」
『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は両手で帽子を支えながらくるくるとその場で回ってみせた。
 この水着は、大好きな人――ココロが選んでくれた水着なのだ。
「ううん……濡れてしまうかしら。でも、海ってそういうものよね?」
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は美しい髪を長いポニーテールにまとめ、太陽の日差しを少しまぶしそうに眺めていた。
「水着だと加護が貰えるんだってな? まぁ、俺の普段の恰好自体が水着みたいなもんだけどな!」
『大海を知るもの』裂(p3p009967)にとって海は近しいものである。
 にいっと笑うと、口からは鋭い牙が覗いた。
「オーライオーライ」
『サメに食べられた2021』コラバポス 夏子(p3p000808)は仲間の美しい水着姿をみながら大きく頷いたのであった。
「Oh……」
『フリースタイルスナイパー』コヒナタ・セイ(p3p010738)は思わず夏子の称号を二度見したが、何も見なかったことにした。セイはアロハシャツに水着をまとい、いかにも遊び慣れていそうだが、実際のところは真面目に任務のことを考えている。
「泳げるか?」
 裂がそう言ったのと同時、ざっぱんと水を跳ね返して小型船が泊まった。『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)のものだ。
 レッドはスタイリッシュなダイバースーツを身につけていた。
「乗る?」
 夏子は大きく頷いた。いや同意の意味じゃなくてこのスーツもいいなという気持ちだった。
「助かるのだわ。一応、水でも息ができるポーションを持ってきたのだけれど。いつまで続くか分からないものね」
「そうだな、体力は温存するべきだろう。作戦会議だ」
 セレマが言って、くいと船の中を指す。

●異界サメ談義
「なんか知らないけど、特異なサメがいるのね」
 フルールはフルーツジュースを飲んでいる。こくんこくんと喉が動いている。
「水分補給はしっかりするのだわ。この季節は大切なのだわ」
「金の鮫かぁ……いや、鮫とは何度か戦ってはきたけど、今度のはまたとびきりの奴だよね」
 レッドが華麗に船を操っている。
「最近は頭が多かったり飛んだり幽霊だったりするようだが、此度のサメは黄金か……」
 すでに船に乗り込んでいた『葬送の剣と共に』リースヒース(p3p009207)はしたり顔で頷いた。黒のマイクロビキニといった刺激的な出で立ちである。パレオから、健康的な脚が覗いていた。性別は、無論、判然としない。
「超合金・ビューティフル・オクトシャーク……どんなサメもボクが撃ち尽くすヨ、任せて!」
 この世界のサメは""そういう""存在なのか。映画みたいでちょっとどきどきするなとセイは思っていたのだった。
 いや、普通に猛獣は怖いのだが……。
「昔戦った嵐を呼ぶ鮫とどっちが強いかなぁ?
ファイブヘッドシャークとかと比べればきっとマシ」
「あ そうそ この前サメに食べられたときなんだけどサ」
 レッドと夏子がサメ談義を始めた。今、食べられた時と言ったような?
 セイはちらっと夏子をみた。夏子はまっすぐな目で女性陣をみていた。
「しかしこの仕事一般ゴロツキ共が関わったことで少し面倒なことになった。
彼らはオクトシャークを信奉しているんだろう?」
 セレマは悩ましげに溜息をついた。
「ったく、どんだけ派手だろうが鮫は鮫だろ? んなもん祭り上げるって意味がわからねぇな」
 裂がもっともな事を言う。
 フルールは、ちょっとわかる。理解はできないが、迷信深い人たちのことは知っている。どんなサメなのかな、と想像を巡らせる。
「金色……素敵ね。深海ならば光輝いてきっと目立ちますね。しかも硬いんでしょう? それなら、海賊さん達が信仰しちゃうのも無理はないと思うの」
「私も巫女だから…何かを信仰するのは良い事……と言いたいのだけれどもね?
まあ何か…もっと平和に信仰するようにしてもらわないと」
 華蓮は柔らかく苦笑する。
「押し付けたりしなきゃ良いと思うよ宗教の自由」
「トルネードで飛んで来たりゴーストだったりしたサメがいよいよ信仰の対象とは…
いよいよ行き着く所まで行き付いたって感じだわよね……」
「確かにカリスマ性は人を狂わせる。美は時に正義を曲げる。だとすれば、この『超合金・ビューティフル・オクトシャーク』は極めて恐ろしい生き物ではなかろうか。サメに人が従う羽目になりサメ帝国が出来上がれば混沌がさらに混沌とする。それは避けねばならぬ」
 リースヒースが興味深そうに目を細めた。真面目な顔から繰り出される文字列の威力がすごい。
「サメ帝国だかビューティフルなんちゃらだかしらねぇが、
鮫の相手は漁師の仕事だ、さっさと釣り上げて馬鹿共の目を覚まさせてやるぜ」
 相手がゴールデンシャークだろうと、ファイブヘッドシャークだろうと、仲間たちはひるむことがないのか。
「そうですヨ。ひたすらに撃つだけですネ」
 セイはあえて強く宣言し、自分の獲物を手に取った。
「というか、異世界の神々には鮫の姿をしたものもいるくらいだし、こっちのサメにそんな感じのものが生まれても不思議はないと思うのだけど?」
「リアルゴッドかー……」
「その果てに何があるのだろうな」
「何もないだろ。袋小路だ」
 美少年がきっぱりと言った。
「とりあえず建国はやめて欲しい」
 こほん、と咳払いをすると、仲間たちの視線がセレマに集まった。
「彼らがイレギュラーズよりもオクトシャークを優先した場合、それはこちらの美貌センス及びそれらを維持する諸々の努力がサメ以下であるということを意味する。
もう一度言うぞ
彼らがボクを見ても尚オクトシャークを美しいと唱えたら、ボクらはサメ以下の美貌とセンスのイレギュラーズだ。危機感を持て」
 そう、これはイレギュラーズの威信をかけた戦いなのだ――。

●VSゴールデンシャーク
「……サメ以下ってそれほど重要かしら? サメを倒してしまえば、どのみちサメ以上ということではないの?」
 フルールは首をかしげる。
「別に鮫と比べてどうだろうと俺は気にしないんだがな
あいつにとってどっちが美しいかってのは大事なんだろうよ」
 裂は彼なりにセレマの信念を理解している。
「だから、あの海乱鬼衆は信じて任せよう」

「オーウこの世界のサメは低レベルデース! ボクの元居た世界では倍の大きさはありましター!」
 セイがテキトーなことを叫び、サメたちの怒りをあおった。
 自分でも何やってるんだろうと思わないでもないが、それでも冷静なスナイパーとしての自分が的確に銃弾を当てていく。距離を保っての銃撃を外さない。水しぶきには明らかに手応えが混じった。
「僕もあんま信心深い方じゃないけど
一般的な信仰とかに馴染みはある」
 夏子は、セイのとなりで準備運動をしている。
「そういえば……貴方、水着は?」
 夏子は笑うと、サメに丸呑みされた人のきぐるみを着た。ん?
「もうココまでイっちゃってると 普通の人間の言葉とか通じるかも怪しいじゃん だからさぁ…」
 両腕をまっすぐ飛び込みの姿勢にすると、どぼんと飛び込んでいく。
「クレイジー!」

「何度腹に収められ消化されたか
もう数えるのも馬鹿らしい。『エリート餌の俺夏子』」
 不自然なほどの闇を劈く爆裂音があたりの注目を強制的に集める。まばゆい閃光は一瞬、ゴールデンシャークをも凌駕した。
「俺を捕食したサメ達の演技ォェッ ほぉら寄っというわキモい」
 ……良いかどうかはわからないが、とりあえず作戦通りに進んでいるのは間違いがない。
 なら、仲間を信じてやるべきことをやるだけだ。
 海は裂のフィールドだ。豪快に波間を泳ぐと、刀で一気に魚人3体を切り裂く。魚人たちにとってもそれは同じ、はずだった。けれども海藻が彼らの脚をつかんでいる。
 いや、あれは、……影だった。
「おや、何かが引っかかったのかな?」
 影から這い寄る、煤色の蔦が魚人をとらえている。泡立つ酸素が意識を奪っているようだ。
 何か来るな、と感じて裂は強く岩を蹴りより深く潜った。
 リースヒースが手のひらをくるりと回転させると、九振りの魔剣が銛のごとくに突き刺さる。
 もがき、這い寄る一匹はなんとかしようと裂にしがみつこうとするが、裂はすり抜けて一撃を食らわせる。
「あいにくだったな」

「全部キミ達のせいでース!」
 ゴールデンシャークに、あらん限りの攻撃をセイが食らわせている。
 やることは何か?
 とにかくボスを。少しでもあのゴールデンシャークをなんとかしようと思うのだ。硬質な皮膚が弾丸を逸らすが、効いていないわけではない。装甲を剥がし同じところに連続でぶち当てることで攻撃力を稼いでいる。
「うーん、超合金………硬い…生物じゃないのかしら? それとも金属の性質を得た生物ということでしょうか? 砕いて中身を確認したらわかることでしょうけど」
 フルールが首をかしげる。
「かまぼこにできないのですか? できませんか……」
 このとき、敵の心は一つになった。
「え?」と。
 サメだぞ?
 ゴールデンだぞ?
「しよう! かまぼこ!」
 レッドが尻尾を揺らして海に飛び込んだ。
 なぜ発光をしているのかといえば、相手が発光しているからだ。
(わかるよん、その気持ち……さ)
 まばゆく発光をしているレッドは、エネルギーを収束させて一撃を放った。アルティメット・レイ。
 寄ってきた魚人ともども、束ねられた閃光が海中から海の生き物を刺した。
「超合金だろうと鮫は鮫!! 個人的には味が気になるからあとで調理して食べるよ!!」

●美しさ
 サメと魚人たちを相手取る一方、仲間たちは完全にセレマを信頼していた。
 海賊のことは計算に入れてはいない。
 美少年ならばこの状況を変えてくれる。
 美少年ならばゴールデンシャークよりも輝いてくれるだろうと、背中を預けていたのである。
(できたら、人と戦うことは避けたいのだわよ)
 華蓮は日光までも計算に入れて、完璧な位置取りを求めている。
「美は共通言語だ」
 セレマの長いまつげが、まっすぐに敵を見つめている。今はまだ白い布を纏っている。
「ボクのギフトについて、おさらいしておこうか。如何なる種族・文化圏においても美少年と扱われるというものだ。
つまり美を介さぬ粗野な者たちでも、種族を違える異形共でも、一定水準の文化を持つなら美貌が通じるという事」
 つまり、と人差し指を向ける。
「ボクこそが美しくしなやかな身体を持ち、傷など一切つかない、永遠の美少年(神)だ」
 布を通してすら輝いて美しい美少年の姿は、こらえようのない輝きを放とうとしている。
「完璧だ」
 本人が宣言した。
(落ち着くのだわ。華蓮。今まで蓄えてきた知識があれば、きっと、傷つけずにあの人たちを説得できる)
 華蓮は頷き、甲板を蹴って空を飛んだ。

 ふわり、羽が落ちてくる。
 天使のような、白い羽。きれいな羽……。

 華蓮の羽に導かれ、海賊たちは空を見上げる。
 波間にさす麗らかな陽光の如くの一撃だった。
 完璧な角度。弧を描く唇は冷徹でもなければ、快活すぎもしない角度に結ばれている。
 にこりと、微笑みすぎもしない。与えすぎもしない。
 優れたアスリートがボールを放った瞬間に勝ちを確信するように、セレマは、視線が。美が、相手に突き刺さったのを感じ取った。
(目を逸らしようもない美貌に心奪われた彼らはボクに殺到するだろう)

 目を伏せていても分かる。
 事実、そうなった。
 海流の流れが変わった。美少年のせいで。言葉を持たぬはずのそのあたりのサカナまで跳ねている……。
「強さとは何か。それはカリスマであったり、知能であったり、武力であったり、様々だろう。私は多様性や遊びと答えよう。
確かに、規則正しくプログラムされた傀儡の兵は強い。だが、予想外の事態には、すぐに狂うものだ」
 リースヒースは感嘆し、事態を見守っている。
「故に、私は予想外の動きを得手とする人の子を愛おしく思う。……いや私も大枠では『にんげん』だが。ああ、つい精霊風を吹かせてしまう……」
(まぁ……神々しいと言えばそうなのでしょうね。海に生きる人は海神を信仰するものが多いでしょう、あのサメがそのように見えたのだとして、私達や陸の人以上にそれを信奉してしまうのも頷けると思うんですよ)
 フルールは手のひらを伸ばし、精霊たちと融合する。
 美しく炎のようにひらめいていた水着は焔の形をとり、自在に揺れて形を変える。
「ともかく、サメさえやってしまえば問題ないのでしょう?」
 フルールは大人び、余った肢体を炎の中に収める。紅蓮の一薙ぎが、閃光のようにサメを貫いた。明らかに固い、生物を超えて固いその装甲はでろりと溶けた黄金のようにひん曲がっていた。
 サメは溶けた――けれどももう一度襲いかかってくる。
「おおっと」
 サメの着ぐるみを着ている夏子は――すでに食べられているわけでサメは明らかに困惑した。
「ありがとう、夏子おにーさん」
「見目麗しの女性陣水着姿を 見る事だけが楽しみで……」
(なら、返答はサメへの追撃でいいかしら)
 フルールは考えて魔力を集約させた。
 海流に巻き込まれた夏子は、またしても思い切り音を鳴らす。夏子が突き出した腕はサムズアップの形を作る。
 渦に飲み込まれるだって?
 思い切りなぎ倒し、自分の流れを作ってしまうのだった。
「サメ倒せば目もサメよう ……サメた眼するじゃん」

●サメは死なない(ただし、5回まで)
「みろ! ゴールデンシャークは死なない! 復活しなさった! あれこそが! あれこそが正義なんだ!」
 サメが復活を遂げる一方で、仲間も諦めはしなかった。
 ゴールデンシャークを見失うことはない。セイがあらん限りを尽くして射撃を繰り返している。
「イケメンは死なない……ッ!」
(ふむ)
 諦めないか、人の子よ。影が一瞬だけ揺れ、サメを捕らえる。リースヒースが、引き寄せる。

(……)
 セイはこの世界のお約束を信じていた。だから、探していた。
(! あれは)
 あれは。
 あの海賊船の火薬樽は。
 レッドが視線を合わせて頷いた。
 サメは爆発したりすると気前が良いため、あと怪人も爆発すると最高なためである。
「おっけ」
 レッドの黒いオーラが、マスケット銃の形になる。
 狙いを定めていっせいに一射を放つと、ばああんと派手に爆発した。
 サメは死なない。けれども、限りはある。
「くたばりやがりなさいこの野郎!」

 派手な爆発。それでも復活するサメ。けれども焦げ付いたサメから、神性はぼろぼろと砕かれていく。
「冷静に考えてくれ皆、あれはサメだぞ?」
 セレマの言葉に、一人、また一人とふらふらと旗を変え始める。
「おちつけ! みるな! みたら心を奪われる!」
「は?」
 心を入れ替えなかった奴は盤上から消える。というか勝手に仲間割れして殴りつける。
 この場では、美しさこそが力であった。
「まぁ、元々鮫ってのはしぶとい生き物だ
こっちが釣り上げたと思ったら大暴れして抵抗してくるなんざよくある話よ」
 裂は冷静にもう一度起き上がってきたサメに対処する。
「何回起き上がってこようがとにかく切りまくってりゃいつか死ぬんだ
最後まで気を抜かずにいりゃそのうち嫌でも終わるってもんよ」
「ああ。とにかくサメには負けぬ。負けられぬのだ。
こう、ヒトの尊厳的に」
「みんな、お待たせしたのだわ」
 降りてきた華蓮が攻撃を受け止める。
 美しい緑光が、一瞬だけ。ほんの一瞬だけ故郷の海を思わせた。

(あなたはどこから来たのかしら?)
 そして、どこへいくのかしら。
 どこにでもいけるのかしら。
 自由に海を泳ぐ姿。何にもとらわれず、きっとこのサメは縛られてはいないのだろう。
 茨姫の指先がわずかな嫉妬を混ぜて、サメをゆっくりと捉えていく。
「よし、トドメの金ぴか鮫だ」
 裂は面の攻撃から、一点に突破する動きに変わった。さっきまでとは勢いが違った。一撃が、ヒビを入れる。
「何回殺した? そろそろか」
 美少年が船から身を躍らせる。
「そうか、ゴールデンシャーク様は贄を得て完全になるのだ――」
 ところが、だ。
 美少年を食らったサメだったが、ぴしり、ぴしりと黄金が砕けていく。
 最後まで立っているのは――美少年であった。
「5回の死を乗り越える程度の耐久?
ボクの前ではあらゆる攻撃が無意味だ
美しいから」
 当然の帰結だろう。

●新たな信仰
「ホラ 予言にある伝説のサメは 最後に立ってる この僕を丸呑みにしてるサメなワケだ 美しくも無けりゃ救いもしないけども ……さ 働こ な?」
 サメに食べられている着ぐるみを着た人物らに救われた事実に唖然としている海賊たちである。
「でも、神聖が……」
「多分幻覚だと思う」
「そうだぜ。ここにある確かなものだけを信じようぜ」
「美少年は死なない!!!」
 新たな宗教が誕生しようとしている気がするが、それはまた別の話だ。
「先ずは腹一杯飯食お な!」
「俺たちの神が……」
「ゴ、ゴールデンシャーク様が……」
「神様だって食べると美味しいよね。うんうん、今回の追加報酬はこれで満足だよ」
 レッドがサメを焼いている。
「かまぼこってこんな感じ?」
「うーん、まあまあですね」
「サメに喰われるんじゃなくて 飯が食える仕事をしよう諸君」
 夏子はぽんと肩をたたく。
「サメは我々が漁しちゃうし 売ってまた漁しよ 大漁鮫旗でもはためかせてさ」
「ホントに更生してくれるのかしら?」
 フルールが疑わしげな目で彼らをみた。
「ボクがしろといったらするんだよ。するね?」
「漁もいいもんだ」
 裂が網を補修してやっていた。
「道具が壊れて漁ができなくなったって? これでまた漁もできるだろ」

「それにしても、ここは良い天気だわ」
 華蓮は背伸びをした。肌と翼に反射する日光が、まぶしい。
「みんな、けがをしていないかしら? せっかく水着なんだもの、お仕事の後は皆で遊ぶのも良さそうだわよね!」
「しかし、フォアレスターが一部黄金であるのが気になるな。このオクトシャーク、あがめるものを黄金に変えていったりはしていないか?」
 したり、調べるリースヒースであった。
「また、ここの遺跡も少々気になる。もしや、サメに関わりあるものではあるまいか。古代サメ文明やら。
詳しく調べてみるのも良いと思うが、如何か」
「そういうこというと出てくるぞ、ファイブヘッドシャークが」
「5回食べられるってことかな」

成否

成功

MVP

Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼

状態異常

コラバポス 夏子(p3p000808)[重傷]
八百屋の息子

あとがき

美少年は死なない!
ゴールデンシャークの討伐、お疲れ様でした。

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