PandoraPartyProject

シナリオ詳細

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完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●おさんぽ
 豊穣の裏通りを子どもが二人歩いている。少年と少女だ。少女は少年の隣へぺったりとひっついて歩いている。桜紋様で統一された着物と袴の組み合わせが愛らしい。少年の方は制服らしい地味な格好だったが、血のように赤い髪と瞳が印象的だった。
「ローレットの豊穣支部へ行くだけだから、なにもおもしろいことはないよ」
 少年がそう言うと、少女はほっぺたをぷくりとふくらませた。だってあんたが心配だからなんて乙女心、ぜったいに伝えるつもりはない。それを言ってしまえば彼はきっと困った顔をして半歩、彼女から離れるだろう。そんな仕打ちを受けるくらいなら心に秘めたままの方がいい。だから少女は勝ち気な笑みを浮かべた。いつもの、いつもどおりの顔で。
「いいじゃないべつに。私だってたまにはお出かけしたいし? それより見て見て、このつまみ細工の髪飾り、かわいいと思わない?」
「それ言うの4回目だよミョール?」
「あ ん た が お 世 辞 で も か わ い い っ て 言 わ な い か ら よ ベ ネ ラ ー」
「そうだったんだね……。かわいいんじゃないのかな。世間一般の基準的にみても」
「一 言 余 計」
「ミョールは難しいことばかり言う」
 ベネラーと呼ばれた少年が細い路地へ差し掛かった。同時に影から二本の腕が飛び出し、彼を捕まえた。ミョールがとっさにベネラーの腕をつかむ。暗闇の相手は痩せて飢えた様子の男の子だった。獄相があるからゼノポルタだろう。細い腕どうしが攻防を繰り広げる。
「おい、なにやってる、さっさと引きずりこめ!」
 なかば抱きつくようにベネラーを影へ引き込もうとしている男の子の背後から、やさぐれた様子のごろつきが現れ叱咤する。ミョールは大声で威圧すべく怒鳴りつけた。
「だれかきてー! 火事よ火事!」
「クソが!」
「きゃあ!」
 男が手を伸ばしミョールの襟首を掴み上げた。明かりの下に出てきたせいで、男の顔へ斜めに向こう傷が入っているのが見えた。
「黙れ、暴れるな、殺すぞ。用があるのは男の方だけだ」
「だったらなんだって言うのよ! こちとらそろって魔種に狙われてんのよ、その汚い手を離さないとあんたも魔種に狙われるわよ!」
「ミョール!」
 ベネラーが叫ぶ。同時に男の短刀がミョールの胸へ吸い込まれた。なんの躊躇もない一撃だった、殺しに慣れた……。
 ガキン!
 硬い音が立ち、短刀が弾かれる。ごろつきは顔をしかめた。誰が知っていただろう。この着物と一緒にと、買ってもらっていた手鏡が、ちょうど懐におさまっていたがために命が助かったなどと。ミョールは相変わらずわめきたてている。ごろつきの判断は早かった。ミョールを壁へ叩きつけるとみぞおちを殴りつけて気絶させ、肩にかつぐ。
「チッ、こうなったらふたりそろって連れて行くぞ、ぐずぐずすんなトモテツ!」
 ベネラーへしがみついている男の子が鞭打たれたようにびくりと震えた。ごろつき
「おい、ガキ、少しでも騒げば……」
「わかってる、おとなしくするよ。約束する。だからミョールには手を出さないで」
 ベネラーは男の子の頭を優しく撫でた。
「トモテツさんというんだね、安心して、僕は逃げない。だから君も焦らなくていい」
 それを聞いた男の子はぽかんとしてベネラーを見上げた。

●廃屋にて
「それで、僕たちをどうするつもりなんですか」
 ベネラーとミョールは縛り上げられて腐った畳に転がされていた。さらわれた場所からはそんなに遠くなかったし、道順は覚えている。縄さえ解くことができればすぐ逃げ出せそうだった。ごろつきはふたりから離れた位置で酒を煽っては、時折ちらちらと様子をうかがっている。できれば関わりたくない、そんな態度だ。ゼノポルタのトモテツは逆にふたりの側で見張り番をしている。その顔だって、どこかおびえたふうだった。ごろつきに、ではなく、ベネラーに、だ。
「言うと思うか?」
 ごろつきが渋面を作る。
「正直に話したほうがいいわよ。あいにくとあたしたちに関わった人はみんな名無しの魔種の襲撃にあってるの。今にも来るかもしれないわよ? あいつ、しつこいうえに神出鬼没なんだから」
 トモテツが肩をすくめ、ごろつきの渋面が鬼瓦に変わる。その裏で打算の算盤を弾いているとミョールは感じ取った。
「……三日後の晩、船が来て。お前らはシレンツィオ行きの積み荷になる。あとは俺の知ったことじゃねえ」
 低い声でごろつきはそう語った。
「なんのために?」
 ベネラーの問いにごろつきは、ため息をついた。
「行きゃわかる。世の中には退屈なあまり、悪魔に魂を売った変人がたくさんいるってこった。ああ、俺だって『なんでも屋』だからな、どんな汚れ仕事だろうと喜んで引き受けらあ。けどな、今回の依頼人どもよりはまともだ」
 ごろつきは顔の向こう傷をひっかいた。古い傷のようだが、うずくのだろうか。
「話が見えません」
 ベネラーの落ち着いた声が響く。ごろつきは短い煙管を取り出した。紫煙がたなびき、暗い天井へ吸い込まれていく。
「……ガキ、お前、魔種に呪われてるんだろう?」
「そうですが、なにか……」
「やつらにとってすりゃ、珍味中の珍味ってこった」
「珍味? どういう意味?」
「そのままの意味だ」
 ごろつきの言葉を聞いたミョールはぞっとした。つまりじぶんたちは、シレンツィオで食材にされるのだ。しかも相手は人間を珍味と呼ぶレベルの変人集団。いや、殺人集団。そんな常軌を逸した連中が存在しているなどと……。
「そうでもないと思いますけれどね」
 あいかわらず落ち着いた声でベネラーは答えた。いっそのんびりすらしていた。
「依頼人の方々が僕という食材を手に入れたいというのはわかりました。ですが、デメリットが3点ありますのでおすすめしませんと伝えてはいただけませんか」
「なんだ」
「まず依頼人の方々が僕を狙う魔種から付け狙われるだろうということ。なぜなら奴いわく僕は『極上の研究成果』だからです。今まではイレギュラーズの皆さんたちのおかげで退けることができましたが、あの方達は善意で僕を助けてくれたのであって、依頼人の方々を守る義理はないでしょう。なので依頼人の方々は僕を食する対価として、この先延々と魔種の襲撃に備えなければなりません。なぜって、あの魔種は研究成果をすこしでも回収しに来るはずだからです」
 鬼瓦が渋面に戻った。ベネラーの話に聞き入っている。
「つぎに、僕の呪いは感染します。詳細な感染経路そのものは不明ですが、僕を経口摂取するとなるとまずまちがいなく呪いにかかるでしょう。自分がとつぜん強烈な吸血衝動に襲われ、理性をなくして周囲の人たちへ呪いを撒き散らす存在になるかにも脅えなければなりません。……失礼ながら、人肉料理を嗜むレベルの方々はそのへんの一般人とは思えません。地位も名誉もある方たちだと推測されます。それがこんなビースチャン・ムースの呪いにかかることを喜ぶでしょうか」
 紫煙がくゆる室内、ベネラーはゆっくりと諭すように語りかけている。
「最後に、『暦』の方々を敵にまわすおつもりですか?」
 ごろつきは大きく息を吐いた。降参したかのように頭を垂れる。
「……だよなあ。そうだよ。『暦』が背後についてんだよなあ、ぼっちゃんじょうちゃんよう。俺はもうその1点だけでも受けるのが嫌だったんだが、そこのトモテツの飯代も要る。背に腹は代えられなかったのよ」
「代案があります」
「言ってみろ」
「ダガヌ海域クルージングツアーの件はご存知ですか」
「おう、そのくらいは知ってる。各国が出資しあってる豪華客船だろ?」
「そのダガヌ海域で深海魔と呼ばれる新たな魔物が現れています」
 ごろつきが目をしばたかせた。渡世人だけあって頭の回転が速いのだろう。
「そいつを代わりに食卓へ載せろってわけか」
「はい。やつらもまた詳細は不明ですが、少なくとも僕にある3つのデメリットはないはずです」
「そっちの条件は?」
「僕とミョールは今日のことを誰にも話しません。代わりに僕たちから手を引いてください。条件はそれだけです」
 長い沈黙が落ちた。ごろつきは顎をさすりながら独り言のようにうそぶく。
「上が何というか、だな……」
 ごろつきが外へ出ていく。羽音が聞こえた。伝書鳩でも飛ばしているのだろうか。黙って話を聞いていたトモテツはあとずさりした。あからさまにベネラーを怖がっている。ミョールが小声でベネラーへ話しかける。
「どうしちゃったのベネラー、あんた、やるじゃない」
「君が食べられちゃうのは嫌だから、すこしは頭をつかうよ」
「ベネラー……」
 ありがと、と少女は頬を染めた。そんな場合ではないとわかっていながら。

●シレンツィオ・リゾート、華やかなりし島、あるいは真酷の獄
「アモングレーな月夜ね」
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)があなたへ話しかけた。
「こんな夜にふさわしいブリリアンレッドなお話があるのだけれど、興味はあって?」
 プルーはうっすらと妖しい微笑を浮かべている。あなたはうなずいた。シレンツィオはたしかにすばらしい、すばらしいが、少々平和ボケの嫌いのある空気へ食傷気味になってきたところだ。
「ふふ、トレビアンネイビーね、あなたならそう言ってくれると信じていたわ。依頼人に関しては伏せさせてちょうだいね、そういう契約なの」
 そう言うとプルーはつと手をあげ、海の方を指し示した。ちょうど、ダガヌ海域のあたりを。
「ダガヌ海域の深海魔」
 その名はもう聞いていた。その名のとおり深海の底からやってくる魔の物たちである。
「の、腹の中に今噂のチップが入っていたりするのは、御存じ?」
 その話も知っていた。竜宮幣(ドラグチップ)。竜宮城の神器『玉匣(たまくしげ)』が破壊されたことによって周辺海域に散ってしまった力の欠片、それをどの勢力がいちばん集めることができるかと、現在シレンツィオはお祭り騒ぎになっている。
「けれど、その一方で、他の事に興味を示している方たちもいたりするの、人生は時にローズミルキーね」
 プルーが芝居がかった仕草で手を下げる。
「新たな魔物、深海魔、その味を知りたいエマージェンシーグリーンな方々がいるのよ。できればより希少なものをね。あなたの仕事は深海魔の討伐と屍の回収。チップには興味がないらしいから、報酬と共にご褒美でもらえるとの話よ」
 希少、つまりそれは強力で手に負えない魔物という意味だ。あるいは飲みこんだチップの影響でもあるのだろうか。今はまだわからないが。
「ハイライトホワイトなことに、都合よくそんな深海魔が見つかったのはいいけれども、さすがのあなただって正面からはダルモーブでしょうね。でもね、なぜか、民間の調査船が、たまたま、その魔物がいる海域へ向かったのよ。あなたたちの船が着く頃には、ちょうど深海魔とクルーたちの戦闘が始まっているのではないかしら」
 人差し指を口元へ当て、プルーは笑みを深くする。リップの赤さがいやに目についた。戦闘ができる民間調査船、それは海賊ではないのか。あなたが海乱鬼衆との関連性を指摘するとプルーは首を振った。今回は海乱鬼衆ではないということだろう。
「ふふ。帰ってこなくとも、誰しも泣くどころか喜ぶような人たちとだけ言っておくわ。そうね、ふふふ、彼らの力を借りなければ討伐は難しいだろうけれど、屍の回収もまたあちらの任務でもあるのよね。つまり、調査船のクルーたちとあなたは、やることが完全にかぶっているライバルなの。でもね、幸いにも? 最近ダガヌ海域では海難事故が多いのよねえ」
 わかっているわよね、とプルーは続けた。
「調査船のクルーは、海種が11人、ファミリアー使いの飛行種が1人。飛行種はファミリアーで周辺の警戒をしているとのことだから、あなたが近づいたらすぐに海底のクルーたちへ連絡が行くでしょうね。もしあなたが最初からグロリアスブラックなことを隠そうともしなかったら、失敗してしまうかも」
 あなたはすこし考えて、それから「報酬は?」とたずねた。本音では報酬など、どうでも良かった。ちょっと刺激的なことをしてみたかっただけだから。

GMコメント

みどりです。後ろから撃っちゃおうぜ。

長々と書いてある、●おさんぽと●廃屋にて、はただの幕間なので読み飛ばして大丈夫です。
肝心なのはプルーの言ってることです。
時刻は昼ですけども、戦場は後述のとおり暗いです。
シナリオ内アイテムとして、移動用の船と水中行動(弱)程度のアクセサリが貸し出されますが、水中行動を自前で用意していると有利に働きます。

やること
1)深海魔アルラオミニャクスの討伐
2)調査船クルー全滅

討伐に失敗しても、クルーに逃亡されても、失敗になります。お気をつけて。
クルーを全滅させた時点で、アルラオミニャクス(自分で名付けといてなんだが長いなおい、アルでいいです)の屍および竜宮幣の回収に成功したとみなします。

●エネミー
深海魔アルラオミニャクス \わたしのためにあらそわないで/
 巨大なタコに似た怪物です。その全身は常に泡立っており、ぼこぼこと眼球が現れては爆ぜ、そのたびに膿を撒き散らしています。唄に似た意味不明な呪文を垂れ流しており、超範へ強烈なAP減少効果をもたらします。また、触腕が8本あるので、レンジ中までの連続攻撃をしてきます。単純な打撃による攻撃ですが、【防無】【必殺】の効果を兼ね添えます。また移動をする場合もあるのでご注意ください。

調査船クルー
今回の真の依頼人から同じ内容の依頼を受けた海洋マフィアの一派です。

海種 11名
水中行動に優れ、暗視を所持しています。
命中・反応、機動が高いのが特徴です。HPが高く、意外としぶといです。

飛行種 1名
海上で新手の魔物が現れないか1匹のファミリアーを併用しながら海上・海中を同時に監視しています。飛行、ハイセンス所持者です。
回避・機動に優れています。反応は標準なので、そういう意味では意外と遅いです。

●戦場
暗く寒く汚い海底です。
視界が暗いため命中、回避、反応に-30の補正が加わります。
また、毎ターン開始時に【廃滅】と【絶凍】付与判定が行われます。この判定はターンが進むごとに強力になっていきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『海洋および豊穣』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●特殊ルール『竜宮の波紋』
 この海域では乙姫メーア・ディーネーによる竜宮の加護をうけ、水着姿のPCは戦闘力を向上させることができます。
 また防具に何をつけていても、イラストかプレイングで指定されていれば水着姿であると判定するものとします。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

●『暦』ってだれ?
某PCさんの関係者たちです。今回は名前だけお借りしてます。この場を借りてお礼申し上げます。

  • <潮騒のヴェンタータ>bnmpoi...treszxcvbnjkoin...bvcxzaergcxsrtyjk...mnbhjkmjkolmk...V...mnhjklmn...bvgjmnbvcfghjnvc...dfghbbnmk...Lv:25以上完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常(悪)
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年08月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
シラス(p3p004421)
超える者
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
綾志 以蔵(p3p008975)
煙草のくゆるは
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者

リプレイ


 一隻の船が海原を進んでいく。日差しは常夏のそれなのに、甲板に集まった皆の表情はとてもバカンス行きのそれではない。当然だ。どこの誰とも知れぬゲテモノ食いの下働きなのだから。
「金持ちの道楽ってのは分からねえな」
『竜剣』シラス(p3p004421)がうんざりしたように頭を振った。同時に腰に巻いたジュエルズサマーがしゃらんと鳴り、水着の上で飛び跳ねる。肩へかけたスカイブルーのシャツが風をはらんで大きくなびいた。
(払うもん払ってくれるから文句もないが)
 その頬へ『夢の女王』リカ・サキュバス(p3p001254)がよく冷えたトロピカルドリンクを押し付けた。全裸も同然の水着姿。魔乳の下のパレオからは淫紋がのぞいている。
「つめてっ」
「いひひっ♪、シラスちゃんたら、やでやでしょーがないって顔してるわ。でもまあ、気分がアガらないのもわかるわよ? 飲みましょ、私のおごりにしておいてあげるから」
「またリカはそうやって人を誘惑して……」
『迷い猫』クーア・M・サキュバス(p3p003529)がむうと唇をとがらせた。グレーがかった肌にスケ感ある黒のビキニを着用しているクーアの下腹部には、リカと同じ淫紋がある。眷属としてリカの行動はよく理解している。だが恋人としては面白くない。
「いいです。リカのものは私のものなのです。シラスさん、はい、あーん」
 こちらはフルーツをシラスへ勧める。シラスは「仕事前だ」と二人の誘いを断った。
 そのとなりで、まるで何事もなかったかのように風に吹かれている『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)。フード付きのスイムウェアを着込んだまま、イヤホンを耳に装着して音楽でも聞いているふりをしている。だが実際はそうではない。無防備なふりをしてあたりを睥睨している。
 船の操縦を任されていた『煙草のくゆるは』綾志 以蔵(p3p008975)がぽかりと煙の輪を吐いた。独り言のリズムで紫煙を撒きながらつぶやく。
「あーあ、やってくれたなァ。いや、何したのかは俺は知らねぇけど。とにかくうちのボスがお怒りなんだよな」
 全部「処理」しろ、と。
 それが何を意味するのかわからないほど以蔵は無能ではない。黒のアロハシャツに緑のサーフパンツを着用し、操舵輪を操る。以蔵の操船を興味深そうにガラス窓へへばりついて眺めている『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)。好奇心で目がキラキラしている。大きなボタニカル模様のはいった青色の水着。上半身はそのまま。体質故に日焼けが心配なところであるが、たぶんだいじょうぶだろう、おそらく。
 それにしても、と帳はこぼす。
「妙なことに興味を持つ人は何処にでもいるよねぇ。食人とかよりかはマシだろうけど、あの手の食べたら中から食い破ってきそうで怖くないのかなぁ」
「美食と悪食は表裏一体ですから。ふぅむ……とはいえ、深怪魔に加えて、ですか……いや、そっちがメインなんですかね?」
 あいづちをうった『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は珍しく人の形を取っている。ブルーの短パンにたいやき柄の白シャツ。それからサンバイザー、海の家で売り子でもしていそうな快活さにあふれているが、思慮深さは変わらないようだ。
『葬送の剣と共に』リースヒース(p3p009207)が甲板の手すりへ腰掛け、結論づける。
「つまりすべて倒せ、と。腹を壊してでも味わいたいものがあるのだろう。人の欲とは果てしない」
(……もっとも竜宮幣目当てにここにきている私も、似たようなものだが)
 自嘲がリースヒースの口元を飾る。長い髪がぴっちりした黒の競泳水着の上で揺れた。ゴーグルもしっかりと着けている。水泳帽は本人曰く「髪がはいりきらないために諦めた」とは本人の弁だが、そのぶん美しく全身を縁取っている。
 くあ、とベークがあくびをした。目的地まであと少し。歴戦の勇者の余裕だろう。
「深怪魔にマフィアのクルー。まぁ、どちらでもいいですか。仕事ですし、それにどちらも退場していただいたほうが海のためにもなるでしょうしね」
「そうだね」
 帳がぎゅっと拳を握りしめる。
「……あんまり、こういう事したくないけど、悪い人たちではあるみたいだし。依頼だもんね、うんちゃんと全員やっつけるよ」


 飛行種の女はすぐにその船の存在に感づいた。ファミリアーを走らせ偵察する。小さな船だ。魔法で作られているのだろうか、彼女は知らない。まさかボトルシップが化けたものだなんて。ともかく、と彼女は自分を落ち着けた。敵か味方か、まずはそこだ。
『警告! 警告! すみやかに立ち去れ! さもなくば深怪魔の餌になるぞ!』
 その小型船は警告を無視して飛行種へ近づいてきた。
 甲板からリカが青白い手を振る。
「あらあら、面白い現場に遭遇しちゃったじゃなぁい?」
 飛行種の女はとまどった。ひとまず海中の仲間へ「新手が現れた、味方か否かを判別中」と伝える。
「あなたたち、もしかしてイレギュラーズ?」
「もしかしなくてもそのとおりです」
 クーアが補足する。
「なぜここへ?」
「その件については私が説明しましょう」
 リースヒースが一歩前へ進み出た。
「水死者の声が聞こえたのです。ああ、私はそういう家系のものでして、祖霊信仰の一環として各地の哀れな亡霊を天へ還す行脚を行っております。今回は場所が場所ということもあり、仲間を募ってこの場へまいりましたが、まさか先約がいようとは」
「は、はあ」
「感じます。感じます。このすぐ下、海の底から嘆きと悲しみがあふれてくるのを。あなたも感じませんか」
「いえ、私、あまりそういうのは……」
 リースヒースの長広舌に女は辟易したようだった。いまが畳み掛けどきと見てリースヒースはさらに電波理論を展開する。あっちの人と同類にされるのは、はなはだ遺憾ではあるが、女がしびれを切らすのを待っているのだ。あんのじょう、女は手をあげて降参した。リースヒースのでっちあげに他の七人も乗っかる。いわく水死者の霊を弔うためには、深怪魔を討伐する必要がある、と。その友好的な言葉の数々に、女は態度を軟化させた。そして水中の仲間へ伝えた。
「増援来たり」と。


 11人ものむくつけき海種が銛を片手に大蛸と戦っている。いやそれは蛸と呼ぶには、あまりに奇妙で、奇天烈で、奇怪で、不気味な物体だった。
「凄えな、マジであれを食うのかよ」
 シラスは思わず嘯いた。
「竜剣のシラスだ、助太刀するぜ!」
 なんだと、あのシラスか、海洋まで音に聞こえた彼の名声に、マフィアたちは目をむいた。一瞬、攻撃の手が止まる。そこを待っていたかのように深怪魔アルラオミニャクスは大きく触腕を振り回した。海種たちがやられ、吹き飛ばされていく。
 船のマストほどはありそうな触腕の攻撃を華麗にかわし、いの一番に突っ込んでいくシラス。素手での攻撃にもかかわらずあまりにも速いその一挙一投足は海水をかち割り、アルラオミニャクスの触腕を細かく捌いていく。いったん手を止めて後退するのも忘れない。
「lkjm,miuhnbvg...rszxdfrtgvg...」
 ずしんと海底が揺れた。だがその神秘的な攻め手の範囲内にシラスは居ない。
「はっ、アルだかなんだか知らないけどな、怪物は勇者に仕留められるものと相場が決まってるんだ」
 シラスは余裕の笑みを口元へ浮かべた。
(ま、リゾートのアジアンカフェ営業の準備もありますし? 恨みは無ぇが粛々とやらせていただきますか)
 以蔵が水を大きくかいて立ち位置を調整した。海中にもかかわらず彼の周りには紫煙が漂っている。まるで煙がこの汚染された水から以蔵を守っているかのようだった。
「おい、あいつ以蔵じゃねえか?」
「マジかよ。援軍だと信じていいかもしれねえ」
 海洋で名高い、その裏でひっそりと悪名も流れている彼の出現にマフィアたちは警戒を解いた。
「以蔵サンらよぉ! 邪魔にならんようにしてくれ!」
「へいへい、承知しましたっと」
 以蔵はやる気なさそうに手を振った。しっしとおいやられた煙の粒子がアルラオミニャクスへ流れていく。ぼこぼこと弾けていた目玉が、魔女の鍋のように激しく煮立てられた。苦しんでいるのだ、化け物は化け物らしく。そのザマは海種たちを勢いづかせた。何本もの銛がアルラオミニャクスへ向けて突き立てられる。
「いいですよ、いいですよ。その調子。私は暑いのは苦手ですが、流石にこんな寒い海よりは夏空の下がいいのです。さっさと済ませて帰りましょう」
 それに、とクーアはなまめかしくたっぷりとした胸を見せつけるように水着の紐を弾いた。
「せっかくの水着、こんな場所でなくもっといい場所で存分に披露したいところですしね、にひひ♪」
「そうよぉ。みんながんばってえ。楽しそうだから助けてアゲル、終わったらご褒美よお?」
 はちきれんばかりの魔乳を舐めるかのようにリカが長い舌を見せつける。それだけで海の男たちの士気があがった。それはリカのフェロモンのせいもあったかもしれない。惑わすために存在する肉体へ、桃色のクリスタルが華を添えている。
 リカはするりと魔剣グラムを正眼に構えた。そのまま一気に振り下ろす。海種たちの合間を縫って驚くべき力が海底を割り、砂埃をあげてアルラオミニャクスへ襲いかかる。ぶつりと触腕の一本が切れた。トカゲの尾のように跳ね回るそれを眺め、リカは肩をすくめる。
(随分と悪食なのねえ依頼人、精気と魂食べる私がいうのもなんだけどあんなの食ったら腐るわよ)
 リカは首を巡らせて周りを見た。海種たちはすでにイレギュラーズを信用しているようだった。
(ま、依頼は依頼、ありがたく利用しましょうね? いひひ♪)
「リカ、いきます!」
「すてきよクーア、あとでたっぷり二人きりの時間を過ごしましょうね」
 すさまじい勢いでクーアがアルラオミニャクスへ近づく。絶海の加護を受けた得物でもって容赦のない一撃を叩き込む。ぼふんときのこが胞子を吐くかのように、アルラオミニャクスから汚濁が吐き出された。血だろうか。あまりの悪臭に海種たちがあとずさる。しかしクーアは紫の炎をまとい、さらにさらに踏み込んだ。
「この程度でひるむものですか! 隣にリカがいるかぎり、私は思いっきり攻めるべきなのです!」
 だがそのクーアへ残った触腕が振り下ろされる。時間が止まった気がした。頭を潰される、そんな想像がクーアの脳裏をよぎる。時が再び動きだしたのは、隣から影が飛び込んだからだ。
「こちらの防御はお任せください」
 防御と再生の秘技に長けたベークの一言は他の誰よりも頼もしい。
「リカさんの手前、かっこわるいところは見せたくないでしょう?」
「なかなか言うですね。でもそのとおり、私は矛となり剣となって、こいつを倒すのです!」
「威勢がよくて何よりですよ。触腕は僕が引き受けますから、皆さん遠慮なくどうぞ」
 腕をクロスさせたところへアルラオミニャクスの触腕が再度振り下ろされる。ベークの硬い鱗が逆立ち、まるで棘のようにアルラオミニャクスの沸き立つ肉体へ食い込んだ。
「やられてばかりというのも少々つまらないですね」
 言い捨てたベークから甘い香りが漂う。ただ甘いだけの? 本当にそれだけだろうか。それならなぜアルラオミニャクスがもがき苦しんでいるのだ。その無数の目玉が紫に染まっているのだ。
「僕には附子の心得がありまして。いかがですか、致死毒のお味は。じつに喜んでいただけているようで何よりです」
 ベークは興味なさそうにそう言い添えた。
 そのベークを援護するように後光で照らし続けているのはアーマデルだ。英霊の力と蛇巫女の後悔とでアルラオミニャクスの力を削ぎながら海種たちの動きを把握している。
(あの白ひげの男がリーダーか。敵ながら見事な采配だ。常に味方をアルラオミニャクスの死角へ回り込ませている)
 つぶすならあれからだな、とアーマデルは考えた。それにしても寒い、さっきから体の震えが止まらない。膿と血で汚れた視界は肌を通してじわじわと体力を削る。アーマデルは息を殺してその瞬間のために耐えた。やがてそれはやってきた、ゆっくりと、ゆっくりとアルラオミニャクスが倒れ込んでいく。断末魔すら残さず、静かに己が肉体を墓碑に変えるかのように。生命活動が停止したのはもはや二度と泡立たない冷めきったスープのような汚れた地肌を見ればすぐにわかった。
「アーマデルさんっ」
 遠距離からアルラオミニャクスへダメージを与えていた帳がするりと近づき、澄んだ声で歌った。
「祝福あれかし、天上の花びら、孤高にして唯一、永久なれど刹那、そのかそけき声を吾は聞かん、大いなる道へとつなぐために」
 アーマデルの体が一気に軽くなる。瞬間、アーマデルは飛び出した。白ひげの海種へ打ち込んだ光は、もはや暴力という言葉すら生ぬるかった。
「がばあっ!」
「おかしら!」
 顎を粉砕されたリーダーは殺気をこめた目でアーマデルと帳を睨みつけた。だが一瞬だった。なにか司令を下そうとして、砕けた顎をおさえる。
「裏切りやがったなこのやろう!」
 瞬時に状況を把握した若い海種が、近くに居た帳へ襲いかかる。帳のギフトが裏目に出たのだろうか。それとも。
「帳なら倒せそうだと踏んだか。あさはかだな」
 帳をかばったのは鳥。いいや、リースヒース。金色の鳥が数羽、リースヒースの周りを飛び回っている。その一羽が海種の銛を受け、障壁へ変じて弾き返す。
「私が御身らの黒死蝶だ。海種は海種らしく、深海で果てるがいい」
 九振りの朱き刃がリースヒースを護るように召喚される。金色の鳥たちがいっせいに飛び立った。同時に刃が射出される。
 ぞりっ。刃が日に焼けた肌を裂く。虐殺の音色がはじまった。
「逃すか!」
 同時にシラスが海上の飛行種へ数発拳を放った。鵺の鳴くような音が立ち、衝撃波を食らった女はぐらりとかたむいたあと、怒りに我を忘れてシラスへつっこんでいく。それが死への淵であるとすら、思考できずに。海面からさらにシラスの攻撃を食らった女は、胸とふともも、そして両の翼を撃ち抜かれた。シラスの利き手には生身の体からスった心臓がある。まだびくびくと動くそれを、シラスは握りつぶした。
「……さて、それでは始めましょうか」
 海中ではベークが甘い香りを漂わせていた。甘い、甘すぎて、べとべとして、胸焼けがして、ひどく不快になる香りだ。海種たちの数人がベークへ殺到するも、アルラオミニャクスの攻撃すら耐えてのけたベークにとってはこそばゆいだけだった。
「進んでこういうことをしたことはありませんが……頑張りますよ、依頼ですから。ええ、依頼」
 馬鹿にしきった態度がさらに海種たちの怒りを煽る。まだ正気の海種たちはそれを見て震え上がった。
「とてもかなわん、引け!」
「いひひ♪ 皆お疲れ様、良く頑張ったわ……」
 逃亡しようと後ろを向いた海種たちは、禍々しいほどの美を感じて足を止めた。リカのチャームは下っ端マフィアである彼らにとって、あまりにも、あまりにも淫靡だった。
「私と魂が一つになって永遠の快楽を得させてアゲルご褒美よ、ステキでしょ?」
 もはや何を言っているのかさえ理解していない海種がふらふらとリカへ近づいていく。その背中が深海の絶凍にも負けない炎で撃たれた。絶叫する海種へ血も凍る笑みを見せたのはクーア。
「やはり最後は炎にまみれてが美しい……理解できるですよね? 今のあなた方なら」
「ひいっ!」
 それでもなんとか逃げ出そうとした海種が以蔵に吹き飛ばされた。足がもつれて倒れ込むその背中を踏みつけ、以蔵は爪先で傷跡を踏みにじる。悲鳴がとどろく中、そしらぬ顔で頭部を破裂させる。さざめきに揺られて血がもわりと弾けた。
「味方を盾にしてまで逃げようなんざ、あ、そうか、そうか、その程度だってことか。だから小間使いで終わるんだよ、アンタらは」
 いまや恐怖によって、逃げることすら出来ない海種たち。残った仲間は怒りに食われ、闇雲に無意味な抵抗を続けるだけだ。
「……そりゃあボクだって、良心くらいあるけどね。それでも……」
 帳は魔糸をくりひろげた。それに巻き取られた海種の皮膚がぷつぷつと裂けていく。
「恨みはないけど、依頼は、依頼なんだ……ごめんね」
 帳はその瞬間を見てしまわないように顔をうつ伏せ、一気に糸を引いた。肉片に変わった海種がどろりと海水に混ざっていく。
 そんななか、顎を砕かれたリーダーは善戦していた。もはやここを死に場所と定めたのか、決死の抵抗を続けている。だがそんなものはまったくの無駄だった。無駄でしかなかった。リースヒースの前には。
「御身のその練磨された動き、さぞ多くの修羅場をくぐってきたのだろう。だがこの世には明らかなる絶望が存在すると知り給え。……なんの役にも立たない教訓だがな。アーマデル殿」
 振り回された銛を掴み取ったリースヒースはアーマデルへ目で合図した。アーマデルはいっそ無防備なほどこくりとうなずき、次の瞬間、顎を砕いたときのようにリーダーの心の臓をえぐり取っていた。

 その日、ひとつのマフィアの一派が壊滅した。だがそんなことはこの悠久の海にとって、些事でしかない。報告書の片隅に記された名も、時の流れに埋もれるだろう。

成否

成功

MVP

リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

激しい連戦でしたが、連携のうまく取れた見事な勝利でした。
MVPはうまいこと飛行種を言いくるめたあなたへ。この結果ははなはだ心外かもしれませんけどね。

またのご利用をお待ちしております。

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