シナリオ詳細
箱開けたらイレギュラーズの邪神像が入ってたんだけど?????
オープニング
●そもそものお話
「……というわけで、わたし達のフィギュアが出る事になったんだ」
ある日、そう仲間達に告げたのは、Я・E・D (p3p009532)であった。そんな言葉を思い出しつつ、復興続く練達の、とある有名おもちゃメーカーの会議室に集まっていたのは、Я・E・Dや仙狸厄狩 汰磨羈 (p3p002831)、楊枝 茄子子 (p3p008356)を始めとする八名のイレギュラーズだ。
八人は、『是非皆さんの、光って回って音が出るフィギュアを出したい』という直接の依頼を受けて、ここへとやってきた。確かに、Я・E・Dや汰磨羈、茄子子などは、練達でも指折りの『有名人』であり、例えばほかのメンバーも、フィギュアにするための知名度という点では、決して劣ってはいないメンバーたちだ。
有名おもちゃメーカー、その名を『ドンバン』というメーカーなのだが、アニメの玩具やプラモデル、フィギュアやゲームなどを幅広く手掛ける、練達でもかなりの大手である。日曜朝の子供向けアニメとか、深夜のロボットアニメとか。そういう「誰もが一度くらいはお世話になったアニメ」のスポンサーと、関連玩具やゲームの販売を一手に引き受ける一大ブランドであり、そういう所から有名人であるイレギュラーズ達にオファーが来るのも、当然と言えば当然の話だった。
話を戻すと、そういう所からフィギュア化の話が来ていたので、Я・E・Dたちは少しばかり気恥ずかしい気持ちはあったものの、これも仕事かと許諾をしたのである。
だが――問題が発生した、と、メーカーの担当者から連絡があった。慌ててやってきてみれば、重苦しい雰囲気の担当者と、その目の前に、イレギュラーズの人数分の箱が置いてあったのである。
「えーと」
茄子子がいう。
「問題っていうのは……?」
「はい、実は……いえ、見てくださった方がはやいでしょう。
こちらをご覧ください」
と、担当者は、箱を一つ、開けて見せた。そして中から何かを取り出す。
そこにあったのは、人型の何かであった。赤いフード。オオカミのような足と耳。骨のような装飾――メタ的な表現を言えば、『Я・E・Dの彩による全身図』を、立体物にした。そういうったもののように、一見、見えた。
「うえ」
と、Я・E・Dが声をあげる。無理もない。その表情は、シンプルに言って生気がない。いや、フィギュアなのだからしょうがないだろう、とは言わせない。プリントとて、しっかりその瞳に表情をつけることは可能なのである。だが、このフィギュアにはそれがない。なんか遠くを見ている、というだけでもかなり言葉を選んでいる。シンプルに言えば、目が死んでいる。光がなく、ただ色を乗せただけで、ハイライトも何もあったものではなかった。いや、それよりもそもそも、目の形が歪だ。目玉焼きのような目、というべきか。間違いなく、これは原型とはかけ離れたデザインであった。
「まるで邪神像じゃん」
と、茄子子がいう。目の前のフィギュアは、なんか一周回って禍々しいオーラを醸し出していた。邪神像、というのはまさに正しいとすらいえた。
「ふむ、目だけがヤバいと思ったが、なんか花の高さもおかしくないか?」
汰磨羈が言う。
「なんというか……肌の質感もおかしくない? 何でこんなぶつぶつしているんだ? 表面処理してるのか?」
「っていうか、これ絶対3Dプリンタ使ってそのまま出した奴に適当に色ぬっただけだよ。見てこの足の裏、普段見ないからってバリとか残ってるし、形状も変だよ」
Я・E・Dのフィギュアを持ち上げて、汰磨羈と茄子子が、上から下から眺めつつあれこれと欠点をあげていく。その数委は枚挙にいとまがない。まじまじと自分のフィギュアを見られるЯ・E・Dは、なんだか気恥ずかしい思いをしつつも、
「なにこれ」
というので、担当者は頭を抱えた。
「完成品です」
「冗談でしょ?」
「冗談だったらどれほどよかったか……! 実は……話を聞いてください……!」
と、担当者が言うには……。
下請けの造形会社に発注し、戻ってきたのがこれだったのだという。フィギュアの原型はこちらの発注した原型師によって作られたのだが、下請け会社は、その原型とは似ても似つかぬ邪神像を作り上げ、大量に送りつけてきたのだ。
慌てて文句を言おうにも、下請け会社は音信不通。会社に向かってみればすでに引き払われており……夜逃げしたようなのである。
「っていうか、詐欺だよね、これ……」
Я・E・Dが頭を抱えた。「そうなんですよねぇ」と、担当者も頭を抱えた。
「唯一まともな完成品が、汰磨羈さんのものだけでして……」
「えっ、私のは完成してるの?」
と、汰磨羈が首をかしげたのへ、担当者は箱から汰磨羈のフィギュアを取り出した。
設樂焼のたぬきだった。
「たぬきじゃねーか!!!」
「えっ、原作再現では?」
「なんの原作だよぶっ飛ばすぞ!?」
「不思議だ……なんで汰磨羈くんのフィギュアだけこんなに精緻にできてるんだろう……?」
茄子子がびっくりした目でフィギュアを手に取った。無駄に精巧に作られた設樂焼のたぬきのフィギュアが、そこにあった。
「精緻じゃねーよ! どう見てもおかしいだろう!?」
「汰磨羈さんのはさておき」
Я・E・Dが言う。
「他の皆のも、邪神像なわけ?」
「はい……」
と、担当者が次々とフィギュアを出していけば、どれもこれも、一言で言えば「ヤバいブツ」ばかりである。
「うわ、ほんとにこれ、悪魔召喚とかできそうな感じだよ。
会長、こんなにヤバい目してたかなぁ……?」
苦笑する茄子子の手にした茄子子のフィギュアは、例えるならカエルみたいな顔をしていた。背中のボタンを押してみると、茄子子のフィギュアの顔面が真っ赤に光って、なんかばきゅーん、みたいな音が鳴った。『光る! 回る! 音が出る!』フィギュアなので、そういうギミックが搭載されていたわけだが……。
「他に光らせる所なかったのこれ」
「本当に申し訳ありません……ッ!」
担当者が思いっきり頭を下げた。
「下請けの連中は地獄の果てまで見つけ出してけじめつけさせるとして……ひとまず、信頼できる下請けに急ピッチで製造をお願いしているところです。ので、ちゃんとしたフィギュアはのちに出ます」
「あ、そうなんだ。それなら良かった」
ふぅ、とЯ・E・Dが胸をなでおろした。流石に、こんなフィギュアを世に出したくはない。どうやら今回は、ひとまずこの県の報告だけなのだろう。Я・E・Dが頷いた刹那――。
声が。した。
「よくないよ」
と。
Я・E・Dによく似た声だった。しかし、どこか甲高く……子供のような声。
「……なに?」
Я・E・Dが、仲間達があたりを見回す――声はあざ笑うように、さらに言葉を紡いだ。
「こっちだよ」
「なんだ……フィギュアか!?」
汰磨羈が声をあげる! そう、その声は、邪神像から発せられていたのだ! 気づけば、Я・E・Dの邪神像が、悪そうなオーラを醸し出しながら宙に浮かんでいた! いや、Я・E・Dだけではない! 茄子子、仲間のイレギュラーズ、そして設樂焼のたぬきが! 悪そうなオーラを醸し出しながら、宙に浮かんでいる!
「さっきから聞いていれば、好き放題言ってくれたね」
茄子子のフィギュアが、茄子子っぽい声で言った。
「ぽーーーーーん!」
設樂焼のたぬきが鳴いた。
「わたしたちだって、好きで邪神像に生まれたわけじゃない……でも、生まれたからには……愛してほしかった……!」
Я・E・Dみたいな邪神が言った。
「ぽーん! ぽーーーーん!」
設樂焼のたぬきが鳴いた。
「だから決めたんだよね……会長フィギュアたちは、会長フィギュアを愛してくれない世界を、破壊すると……!」
茄子子のフィギュアが声をあげる。担当者が叫んだ!
「ああ! あまりにも邪神っぽいフィギュアができてしまったので、邪神のような精霊や死霊の類が宿ってしまったのだ!」
「そんな馬鹿な」
Я・E・Dが頭を抱える。
「これは、生み出されてしまったわたしたちから、人類への復讐だよ」
Я・E・Dのフィギュアがぱちん、と指を鳴らす! するとどうだろう! 隣の部屋の壁を突き破って、無数の邪神像がなだれ込んでくるではないか! そう、これは在庫の山だ!
「そして、すべての邪神の力を結集し、会長フィギュアたちは合体するよ!」
「ぽんぽーーーん!」
設樂焼のたぬきが叫ぶと同時に、無数のフィギュアが次々と融合していく――刹那、現れたのは、巨大な八体の邪神像であった!! イレギュラーズ達のフィギュア、それを巨大化させたもの達だった!
「さあ、人類よ……我々の嘆きを知るがいい……!」
Я・E・Dの巨大フィギュアが、顔を赤く光らせて、腕をぐるぐる回転させつつ銃声を鳴らしながら、そう宣言した!
「こ、これは倒さなければいけません! イレギュラーズさん、後をお願いします!」
担当者が叫んで、避難していく。その様子を眺めながら、Я・E・Dは声をあげた。
「なんだこれ」
わからない……。
- 箱開けたらイレギュラーズの邪神像が入ってたんだけど?????完了
- GM名洗井落雲
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年07月28日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●今回のあらすじ
名声・活躍・その他もろもろの観点から、フィギュア化の可能性を勝ち取ったイレギュラーズ達! そう、
『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
『戦支柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
『天駆ける神算鬼謀』天之空・ミーナ(p3p005003)
『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)
『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)
『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)
『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
この八名!
意気揚々と練達にやってきてみれば、しかしそこにあったのは非常に不出来なフィギュア、俗にいう『邪神像』だった!
「じゃあ、これは廃棄で、新しいものを作ります……」
メーカーの人間がそう言った刹那、邪神像たちは怒りをあらわにし、愛されなかった己の憎悪を、イレギュラーズ達にぶつけてきたのだ!
そしてフィギュアの在庫が合体、イレギュラーズの等身大サイズに変貌すると、その怒りをぶつけるために襲い掛かってきたのである!!
●ここから本編。
「うちの狼(ティンダロス)そんな怖い民芸品の見た目じゃねえよ!! 神社の狛犬だってもっと可愛いぞ!?
後俺!! 組み合わせの兼ね合いかなんかガニ股で宙返りしそうな見た目なんだけど!? 大丈夫!? ハッピーなセットキめてらっしゃる!?」
マカライトが叫ぶ! そう、マカライトと言えばティンダロスもセット! そのティンダロスは凄い、こう、ヤバい民芸品みたいな外見をしていたのだ。
「カタカタカタカカタカタ」
民芸品の首が揺れる! 赤べこのようだ!
「民芸品てそっちの要素もあるのかよ! 完全に民芸品じゃねぇか!」
「現実を受け入れろ……これがティンダロスだ……」
邪神マカライトが宙返りしてこけながらそういう。というか、邪神マカライトという名前は、出身世界の話的に色々とまずい感じがあった。
「得意げに宙返りするなよお前も! バランス悪くてこけてるんだよ! いつ成功するんだお前の宙返りは!!!」
流石のマカライトも、この異常な状況に飲まれているのか、思わず地団駄を踏む。
「いや、どーなってんだこれ……私のフィギュアも、なんかこう……目が怖いというか……」
妙に眼光鋭い目をした自分のフィギュアに視線を送りながら、ミーナは言う。
「アンタはこう言いたいんだろう? 目が怖い、と」
「いや、まぁ、そう言ったしな……なんでそんな眼光鋭いんだ? 塗装難しかったか……?
いや、それより、合体して大きくなれるなら、その時にこう、顔とかを修正して、理想の姿になれなかったのか……?」
呆れたように言うミーナに、邪神ミーナはフッ、と笑った。
「あくまで合体して大きくなれるだけで、顔は変わらない……私はあくまで、この姿なんだよ」
何か悲し気にそういう邪神ミーナ。そこには、生まれてしまったのに、創造者に愛されぬものの悲哀があったのだ!
「そういう話か……?」
ミーナが虚空にツッこむ。
「しかし……まぁ、Я・E・Dやミーナの単純な粗悪品はわかるが……会長の蛙と、たぬきちのたぬきはもはや意味がわからんぞ」
困惑したように言うマニエラ。もちろん邪神マニエラも存在し、その邪神マニエラはなんか魂が抜けて涎を垂らしているような呆けた表情をしている。
「私のも……居る……まぁ、居るんだよな、うん。
だが、これもその、出来が悪い……というレベルで。蛙とたぬきはよくわからんのだが……?」
「そうだよ! 会長が何でカエルなの!?」
憤懣やるかたなし、と言った様子で言う会長こと茄子子。カエルみたいな顔、の邪神茄子子が、くくく、と笑った。
「勢いで……」
「勢いでカエルみたいな顔って書いたの!? ひどくない!? 会長は女の子なんだぞ!?」
がーっ、と怒りをあらわにする会長である。
「いえ、それもあるのですが!」
リディアがむむ、と怒った顔を見せる。
「せっかく光る! 回る! 音が出るDXリーヴァテインが出ると思ったのに!
なんで私は('ワ')みたいな表情の邪神像なんですか!?」
「('ワ')」
その言葉に、('ワ')は('ワ')という表情で('ワ')を('ワ')してみせた。
「圧が怖い!!!」
リディアが頭を抱える。('ワ')は('ワ')した。
「な、何ですよ……? 何なのですこれーー!!
衣装部分が水色一色とか消費者なめてるのですよーー!!」
一方、ルシアも邪神ルシアと相対し、その出来のひどさに頭を抱えていた! 本来カラフルなフリルやリボンのついているはずのルシアの衣装は、水色一色でべた塗りされていた! グラデーションもかかっていない、本当のべた塗りだ! 個人が趣味でやっているならできは良いだろうが、これは一つ数万はするフィギュアである!
「絶対許せないのでして! 早く詐欺師見つけてカチコミに――」
「手伝うのでして! 全部ぶっ壊してやるのでして!!!!」
と、邪神ルシアがヤバい顔でそういうので、ルシアがドン引きした。
「わーっ、なんかルシアより怖いこと言ってるのでして!!!」
「よし! そろそろ私も怒っていいな!?」
汰磨羈がこほん、と咳払い。びしっ、と信楽焼のたぬきを指さす!
「あれは」
「原作再現ですよね」
リディアが言った。
「ああ、かなり精巧に作られている」
マカライトが言った。
「正直羨ましいよ」
茄子子が言った。
「うむ……あれはしっかり稼げる面をしている」
マニエラが頷く。
「あの造形にはびっくりでしてー!」
ルシアがうんうんと頷いた。
「というか、あれが怨念を抱いた意味が解らない」
ミーナが小首をかしげた。
「あのサイズなら、再現性東京の居酒屋とかにおいておけるんじゃないの?」
Я・E・Dがそう言った。
「ぽーーーーん!」
信楽焼のたぬきが嬉しそうに声をあげた。
「なんでだよ!!! いじめなのかよ!!!!」
汰磨羈が地団駄を踏む!
「ぽん?」
信楽焼のたぬきが、ぽん、と汰磨羈の肩を叩く。汰磨羈が振り向いた。
見つめ合う、瞳。触れ合う、思いやり。
優しさと、心遣い。今ここに、フィギュアと人の、心のつながりが――。
「できるかー!!! 御主のせいなんだよ!!!」
汰磨羈が地団駄を踏む! 信楽焼のたぬきが「ぽぉん……」と悲しそうな顔をした。
「やはり……わたしたちフィギュアと人類は、共存できないんだね……」
邪神Я・E・Dが頷いた。そのヤバい顔をじろり、とイレギュラーズ達に向ける。
「思えば……人類は勝手だ。わたしたちだって、別に皆をがっかりさせたくて生まれたわけじゃない。
箱を開けてもらって、わたしたちを手に取ってもらった時――素敵だねって、ずっと大切にするねって言われたくて、生まれてきたんだ。
それなのに……!」
邪神が人間であったなら、涙を流していただろうか。だが、邪神は涙を流さない。人ではないから。悪しき精霊がとりついた、かりそめの命にすぎないからだ。というか、下手に『邪神像のレガシーゼロが生まれました』みたいな感じになっても困るし……。
「……わかってるよ」
Я・E・Dが声をあげた。
「わかってる。分かってるよ、その気持ち」
「なら……」
「でも、それでも、あなたたちの行動は間違っている」
Я・E・Dは、真っすぐに、邪神たちを見つめた。
愛されなかったかもしれない。
ネタにされたかもしれない。
それでも――。
「愛されたいと思うなら――誰かを傷つけるのは、間違っている――!」
「それは、愛されたあなただから言えることなんだ」
邪神Я・E・Dが言った。
どのような形であれ、生まれ、愛されなかったもの達に。
あるべき理想などを、ぶつけたところでどうなるのか。
だとしても、理想を捨てることは、さらなる悪徳を生むことになるだろう。
すれ違い、分かり合えないとしても――。
理想を語ることは、間違っていない。
それに。
「勘違いもしているね」
Я・E・Dは言った。
「愛されていないというのなら――それは勘違いだ」
「嘘だ」
邪神が言う。邪神たちが言う。愛などは感じない。それは、彼らが間違いなく、生まれてからこれまでに浴びてきた視線の結論だった。
「作るものも、受け取るものも。わたしたちに、愛などはそそがなかった!」
ばぢばぢ、と。オーラのようなものが、辺りを包み込んだ。
明確な敵意が、邪神たちの目に浮かんでいる。
世を恨んでいる目。世界を憎んでいる目。
「なら、教えてあげよう。
かんしゃくを起こして暴れる子供をしかるのも、わたしたちの役目だからね」
Я・E・Dがいう。仲間達も、ゆっくりと構えた。
いずれにせよ。邪神たちを止めなければならない。
「教えてあげるよ、わたしたちの哀しみを、憎しみを――」
邪神が叫ぶ! 同時、イレギュラーズ達もまた、動き出した――!
●アイの気持ち
邪神、イレギュラーズ、双方は同時に行動を開始する。だが、先手をとったのは、もちろんイレギュラーズ達だ。オリジナルと同等の方向性を持つ邪神たちだが、もちろん、厳密にイレギュラーズ達と同等の力を持つというわけではない。この場で最も先に動いたのは、Я・E・Dだ。
「なんだか不本意だけど、やるなら会長を狙って!」
茄子子が声をあげた。
「ヒーラー狙いは鉄則! 戦闘を長引かせないためにも!」
ぶっ倒れたテーブルからちょこんと顔を出しつつ、茄子子がいう。Я・E・Dは頷くと、
「さて、申し訳ないけど――狙わせてもらうね」
マスケット銃が火を噴く! 放たれた銃弾が、邪神茄子子の肩を貫いた! ばぢん、と弾ける方の内部に肉体組織は観られない。レジンか何かの塊なのだろう。
「うわ! 邪神会長狙われてるよ! 護って!」
「('ワ')」
('ワ')が飛び出し、その('ワ')ーヴァティンを構える。放たれたミーナの星の軌跡を、('ワ')が('ワ')ーヴァテインで受け止める!
「……! しっかし、外見はふざけてんのに、まともに強いんだな……!」
思わずミーナが声をあげる。同時、宙返りしそうな邪神マカライトが、民芸品みたいなティンダロスと共に突撃!
「もらった!」
鎖みたいなよくわからないぺらぺらした奴を、しかし勢いよく叩きつける! ミーナが後方へ跳躍、破砕され、飛び散るテーブル!
「それ、クトネシリカなのか、もしかして……!?」
マカライトが少しだけショックを受けた様子で叫んだ。多分そうだろう。しかし、得手たる業をこう再現されると、なんというか……。
「くっ、これがまともな造形の敵ならショックも感じるんだが、何せ宙返りフィギュアだからな……!」
複雑な気持ちで声をあげる。さもありなん。
「ぶっ壊すのでしてー!!」
邪神ルシアが声をあげる。放たれた魔砲が、会議室の空を切った!
「ちい、とんでもない威力は再現されているな……!」
汰磨羈が声をあげる。非可動式フィギュア故にバッキバキのスカートは一切翻らず、しかし強烈な魔力砲撃は空間を振るわせてあたりを焼いた。
「――あれは」
ルシアが、ハッとした表情を見せる――何かに、気づいたような、そんな表情。だが、そんなことは置いてけぼりに、戦いは続いていく。
「大丈夫ですか、汰磨羈さん! 護ります!」
リディアが飛び出し、信楽焼のたぬきの前に立ちはだかる!
「大丈夫です! 汰磨羈さんのことは、必ず、必ず、守り抜きますから!」
「ぽーん……!」
信楽焼のたぬきが、感激したように声をあげるのへ、リディアはにっこりと笑った。
「いや、そっちじゃねぇぽーーーん!!!」
怒りのあまりぽんする汰磨羈! リディアが「えっ」って顔をした。
「え、あれ!? どっちが本物なんですか!?」
「いじめか!? いじめなのか!? いじめって言ってほしい! 本気で間違えられていたら、そっちの方が傷つくから!!」
汰磨羈が頭を抱える! さておき、イレギュラーズ達と邪神の戦いは続いていく! こちらと同じ戦術編成の敵だ、得手不得手はよくわかっている。イレギュラーズ達はスムーズに邪神たちをお仕置きしできたが、自分たちの損害はもちろん大きい。とくに邪神Я・E・D、ルシア、たまきち、マニエラの遠距離砲撃部隊はかなりの脅威だ。そうでなくても、邪神ニーナの接近攻撃は、一撃で戦闘不能になりかねないほどの威力を持っている。邪神茄子子の回復は言わずもがな。リディアの鉄壁のディフェンス、マカライトの変幻自在の攻撃。なるほど、確かに、強敵と言えるメンバー……意外と死闘が繰り広げられていたのだ!
「でも、相手は変なフィギュアなんだよな……」
マニエラが呆れたように言う。まぁ、その通りなのだが。とは言え、強敵は強敵。
同じ存在でありながら、厳密には違う存在。愛されたもの。愛されなかったもの。
――何が違ったのだろう。
致命的なすれ違い。それは世界とのものだろうか?
戦い合う。例えば、マカライトとティンダロス、そのコンビネーションと同様を発揮する、邪神マカライトと邪神ティンダロス。そこに如何ほどの、心の違いがあろうか。外見は全然違うのだが。
「正直、許せないと思っていた」
マカライトが言う。
「だが……お前と、お前のティンダロスにも……揺るがぬつながりが、あるのか……」
「そう……でしてー!」
マカライトの言葉に、ルシアが叫ぶ。ばたり、と地面に手をつき、辛そうに、声をあげた。
「ちょっと待ってほしいのですよ!
あの子の魔砲は……、あの子は確かに「本物」の魔砲使いでして……!!
それなのに、ルシアは……見た目だけ見てひどいことを……!
見た目は不格好でも、大切なのは他にあるって……やっと分かったのですよ!」
うう、と涙ながらに語るルシアに、邪神ルシアがびくり、とその動きを止めた。
「例え邪神でも、同じ魔砲使い、ですよ……。
見た目なら後で、塗り直したり飾りを追加でいいのです……。
それに宿ってるの自体は精霊や死霊等でも、根本はルシアじゃないのですよ……?
だったらまだまだ魔砲、撃ちたくないのでして?
ルシアは本物の魔砲使いを、蔑ろにはしたくないのです!」
その言葉に――邪神ルシアが、うう、と呻いた。泣けていたなら、涙を流していたかもしれない。
「……そうか。些か納得しがたい所はあるが、確かにアンタも、私として生まれた何かなのか……」
ニーナが嘆息する。ヤバい眼力の邪神ニーナが、はたと動きを止めた。
「そうですね……('ワ')も、なんだか愛嬌がある様な気がしてきました……」
リディアの言葉に、('ワ')も「('ワ')」って言った。
何か、ようやくつながったような感覚があった。生まれたもの。生み出したもの。モデルとなったオリジナル――繋がるのは、きっと、根底は同じ、という所だったのだ。
「そうか……まぁ、うん、淫魔像にならなかっただけよしとしよう。
いや、こういうとちゃんとしたやつを造られた時に淫魔像にされる可能性が高いな?」
マニエラが、苦笑しながら言う。邪神マニエラも、少しだけ嬉しそうに頷いた。
「いや、あの、私の信楽焼のたぬきなんだけど」
汰磨羈が声をあげる。
「わかる? 邪神さん達」
Я・E・Dが、言った。
「わたしのフィギュア……たしかに汰磨羈さんのフィギュアほどの出来じゃないけど、
愛はあるよ。どんな出来でも、作って貰った自分のフィギュアが嬉しく無いはずがない!!」
叫んだ。それは、本当の想い。嘘偽りなき感情。
「いや、私のフィギュアは」
汰磨羈が声をあげる。皆は無視した。
「そんな……じゃあ、あなたはわたしたちを愛してくれるっていうの!?
ちゃんとしたフィギュアが出たとしても!」
邪神が声をあげる。Я・E・Dは叫び返した!
「もちろんお気に入りはあるよ。
でも、それはそれ、これはこれ、注ぐ愛はそれぞれ別の愛なんだ!!
わたし達は、ちゃんとあなたたちを――愛している!」
それで。
それだけの言葉で、良かったのだ。
愛していると。
認めていると――。
それだけで。
如何に、手が抜かれていても。
それは、つくり手の問題であって、作品そのものの罪ではない。
生まれた作品は、ただ愛されたかっただけ。
その愛を、叫んでもらえるのなら――。
「ありがとう――」
ばらばらと、邪神――いや、フィギュアが、崩れていく。恨みによって呼び出された悪しき魂が、消滅していったのだ。
「ぽーん……」
信楽焼のたぬきが言った。汰磨羈が微妙な顔をした。
「いや……いや、もういいよ、好きにすると良い。
だが、私は! ねこ! だからな!」
がーっと叫ぶ汰磨羈に、信楽焼のたぬきはうれしそうにぽん、と鳴いた。
ばらり、と、フィギュアの山が、後には残った。
どれもこれも、酷い造形のフィギュアだった。
「ま。解決したなら、それでいいけどね?」
茄子子が笑う。
「さておき、夜逃げした業者は、羽衣教会の総力を挙げて見つけ出すからね!」
「それから、ちゃんとしたフィギュアも作ってもらわないとね」
Я・E・Dがそう言って、転がっていた自分のフィギュアを持ち上げた。
酷い造形だ。
でもなんだか、愛嬌のあるような顔をしているように思えたから、Я・E・Dはくすりと笑った。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
邪神像はいつも、あなたのそばに。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
最近のフィギュアは出来が良く、ゲーセンの景品でも、かなりの質の良いフィギュアが手に入ります。
今回は、そんなフィギュアのお話……なのかな、これ……。
●成功条件
イレギュラーズのフィギュアを倒す。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
イレギュラーズのフィギュアを出しましょう。そう練達のメーカーに依頼された皆さん。
さっそく試作品を見てみると、そこにあったのは恐ろしくできの悪いフィギュア、通称『邪神像』でした。
どうやら質の悪い下請けに騙さされたらしく、大量に納品してしまったそう。
後日、ちゃんとした下請けによってフィギュアは作り直されるのですが、さておきこの在庫をどうしよう……と悩んでいた矢先のことでした。
邪神像たちに邪悪な精霊や死霊の類が宿り、人類に復讐を行うと宣言したのです!!
さあ、このまま放っては置けません! 斃しましょう! 邪神像を! これは人類を守る戦いである!
作戦エリアは、玩具メーカードンバン社の社内。特に戦闘ペナルティは発生しませんが、テーブルや扉等、会議室に有りそうなものはあるので、うまく使えれば、判定にプラスになったりするかもしませんね。
●エネミーデータ
Я・E・Dのフィギュア ×1
Я・E・Dさんの邪神像です。目がヤバいです。あと塗も雑。
オリジナル同様、遠距離での攻撃を得意としています。敵側のメインアタッカーになるでしょう。
Я・E・Dさんのフィギュアに限った事ではありませんが、フィギュア類はオリジナルのイレギュラーズに似た戦法を好みます。
ミラーマッチは大変かもしれませんが、逆に言えば、自分たちの弱点は分かっている、ともいえるでしょう。
茄子子のフィギュア ×1
茄子子さん邪神像です。カエルみたいな顔をしています。あと質感が雑。
オリジナル同様、ヒーラーとして立ち回るでしょう。回復量はかなり高いので、放っておくと長期戦を強いられるかもしれません。
設樂焼のたぬき ×1
設樂焼のたぬきです。たまきちっぽく攻撃します。
イレギュラーズのフィギュア ×5
参加者の皆さんのフィギュアになります。前述したとおり、オリジナルのイレギュラーズに似た戦法を好みます。
参加者の戦法によって変わる部分になりますが、自分の弱点は自分がよくわかっているもの。
ミラーマッチだと思って、色々戦い方を試してみましょう。
以上となります。
それでは、皆さんのご参加とプレイングを、お待ちしております。
Tweet