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シナリオ詳細

<Stahl Eroberung>金狼起つ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「……これ、信じるつもり?」
「パトリックは傲慢でこそあれ愚図ではない。強引でこそあれ軽率ではない。……そう、俺は認識していたのだがな」
 『竜人』カタラニア・ローゼットの苦々しい問いに、『金狼』ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフはこちらもまた苦い顔で応じる。突拍子も無い命令書だ。パトリック・アネル――特務派の重要人物たる彼に招聘された二人は、彼の指揮下にあり、そしてその言葉を無条件に信じねばならぬ立場にある。
 だが、それにしたって今回の命令書は信じ難い――イレギュラーズが、このアーカーシュの支配を企図して動いている。『軍務派』はそれと知らず彼らと歩帳を合わせているため、速やかに排除すべし、と。
 聞けば、パトリックはレリッカの人々に対しかなり強引なやりくちを選択したと聞く。腹に一物あるのは彼に違いない、違いないのだが。
「俺達に託された任務は大分『軽い』。これを鵜呑みにしていいというなら、鉄帝式に考えれば……そうでなくとも、如何様に動いてもヤツへの義理は立とうよ。元々この国の者ではないお前には信じ難い話だろうがな」
「何よ、それ」
 ヴォルフの言葉に含まれた何かは、当然カタラニアも理解していた。だが、その嫌味ったらしい口調にはどうしても賛同しかねた。彼女とて、ラド・バウで鳴らしたB級闘士。A級への道も遠からず……というレベルだ。鉄帝に於けるやり取りの是非や人の思考、その裏というものを理解していないわけがない。
 ヴォルフの言行は額面通りに受け取れば、パトリックの指揮下から離れ、自らの意図で動こうとしているとしか聞こえない。
「監視が付くわよ。名にし負う『金狼』が掌の上で転がってくれるなんて、あのいけ好かない文官肌が思うわけ? それに、あなたはあっちに娘がいるでしょう。いい的だわ」
 カタラニアは、先日共闘した『旗持ち』の娘、そして肉弾戦を主とする闘士を思い出す。竜を投げたと噂を響かせる彼女は、B級へと上がったのだったか。そう考えるのと同時に、ヴォルフはくつくつと笑う。
「……なによ」
「竜尾の娘、カタラニアといったか。お前も他人の家庭事情には興味が尽きんとみえる」
「違うの? あなた、あの態度は自分の娘を鉄火場に送り出したくなかった父親の態度に見えたけど」
「まさか。所詮は『旗持ち』でしかなかろうが。ひとたびローゼンイスタフの家紋を背負い戦場に立ったベルフラウ(むすめ)を、権謀術数の手から『叩き出す』のも情というものだと思うが、違ったのか?」
「あなた、そのうち本気で娘にビンタされるわよ」


「……父上が現れることは想定していたが、なにしろ早かったな」
「お前がどれほど鍛えようと、この国での腹の探り合いはまだ早い。この先で見るもの聞くこと、大いに荷が勝つ。去るなら今のうちだが」
「――甘えさせてくれるな、父上」
 ショコラ・ドングリス遺跡入口。他のイレギュラーズ達が突入していく中、ベルフラウとシャルロッテを含むイレギュラーズの一団を遮った集団があった。
 ベルフラウの父、ヴォルフ。そしてB級闘士、カタラニア。それを守るように(或いは見張るように)布陣する鉄帝特務派兵士25名。
 彼のさきの言葉が本音であるなら、ヴォルフはパトリックの今回の行動を承服していないという意味にもとれる。
「ローゼンイスタフ卿。聞き捨てならぬ物言いは適度に留められるがよろしいかと」
「我等が無視できる限度というものもあります故」
「親子水入らずの会話に余り口出しするんじゃないわよ。あいつらより先にあなた達が地面に埋まりたいの?」
 兵士たちの諫言を遮ったのは、カタラニアの尾が打ち据えた激しい振動。地を揺らすとはいくまいが、衝撃は彼らの言葉が飲み込まれる程度には激しいものだった。
「そういうわけだから、ここから先は通さないわよ。あなた達には興味があるから、精々、いけ好かないパトリックの作戦が終わるまでは付き合ってもらうわ」
「あら、わたくしと踊っていただけますの!? 前に見た時から気になっておりまして!」
 シャルロッテは彼女の言葉に飛び上がらんばかりの反応を示した。またとない機会を逃してなるものか、と。
 兵士たちの空気がやや重くなりつつある状況下。一触即発のはずの戦場には、どこか異な空気が流れつつあった。

GMコメント

 子離れには、まだちょっと早いのかもしれません。或いはおそすぎるのか……。

●成功条件
 ヴォルフ、及びカタラニアの攻撃を20ターン凌ぐ
 その間に特務派軍人を全滅させる

●失敗条件
 関係者二名いずれかの死亡

●『金狼』ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフ
 ベルフラウさんの父親で、本来はヴィーザルの鎮守に回っているはずの人物です。今回は特務派として招聘されています。
 パトリックの言葉に怪しいものを覚えているのは間違いないですが、それでも一応は彼の麾下である為、特務派の利に適うように動きます。
 老いてなお現役、総じてイレギュラーズ上位レベルかそれ以上であり、特に命中の高さは特筆すべきものがあるでしょう。
(P)逃さじの牙(至~中カウンター)
 三叉斬り(物近ラ・【足止系列】【出血系列】)
 突(物近単・【防無】【不調系列】【不吉系列】)
 ほか、近中距離で単純に攻撃力の高いスキル等。【凍結系列】も用いるとの噂。

●『竜人』カタラニア・ローゼット
 ラド・バウB級闘士。ヴォルフ同様、特務派として臨時兵役についています。
 B級とはいえ実力はその中でもトップクラスで、A級に比肩するとされています。
 体力がとにかく高く、そして物攻もそれにともなって高めです。
 尾を利用した連続攻撃や不意打ち、グラップリングなど多彩な攻め手を用います。
 また、尾の頑丈さを利用して大きく跳躍する(【移】攻撃)なども行ってきます。情報は少ないものの、ヴォルフに負けず劣らず強敵。

●特務派軍人×25
 パトリックに忠実な軍人たち。コンバットナイフによる近接戦闘と、アサルトライフルによる中距離戦闘を兼務できます。いずれも貫通力が高く【出血系列】BSを伴います。
 また、特殊弾丸で【ブレイク】が可能ですが、弾丸変更に1ターンかかるため、連携しないと使用が難しいというデメリットがあります。
 攻撃は上記武器のスタンダードな戦い方ですが、数と連携が洒落になっていません。
 彼ら全員を撃破しないと、関係者二人と腹を割って話す事はとてもじゃないですが無理です。パトリックに筒抜けになります。

●戦場
 ショコラ・ドングリス遺跡入口。
 特段のダンジョンとしての特性を持ちませんが、何故かこの区画だけ異常に寒いです。
 【凍結系列】【出血系列】の不利が上昇します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <Stahl Eroberung>金狼起つLv:20以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年07月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花
シャルロッテ・ナックル(p3p009744)
ラド・バウB級闘士

リプレイ


「まさか此処で憧れのカタラニアさんと殴り合えるとはっ……っと、いえいえ、闘技場外(そと)での戦いは望んでおりませんのよ」
「初々しいわね、でも残念だわ。この機会にと思っていたのだけど」
「……余り『私の華』を誂わないで頂きたい。相手なら、私がしよう」
 『ラド・バウB級闘士』シャルロッテ・ナックル(p3p009744)はこの状況――同じくB級闘士として上位にあるカタラニアとの直接対決の機会を目の前にぶら下げられ、興奮しないわけがなかった。なかったが、道理が整っていない戦場で拳を交えるのは避けたいという気持ちもまた事実だった。闘士が外の舞台で雌雄を決するのは、互いが軍人であったときぐらいだ。今の双方は、軍人とイレギュラーズ。尚更、此処で雌雄を決したくはない。そんな彼女を庇うように前に出たのは『戦旗の乙女』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)。父たるヴォルフに視線を投げかけつつ、旗を構える。
「いけ好かない作戦と言ったな」
「そうね、軍人扱いじゃなかったら、無視して闘士でいられるならよかったのにね」
「相分かった……作戦が詰まらんのであればせめて交わす刃は本気で。楽しませてみせよう!」
 ベルフラウの問いに一瞬だけ怪訝な顔を向けたカタラニアは、しかし続く言葉とともに向けられた尋常ならざる闘気に喜色を濃くし、腰を落とした。戦闘態勢、しかも尾を攻撃に移せる姿勢から見るに、本気度が如何許かは容易に推察可能だ。
「軍人ってのは大変なもんだな。胡散臭く思ったとしても命令にゃ従わないといけねぇってきたもんだ。……悪りぃがそこ通してもらうぜ」
「出来ぬ相談だと言ったらどうする。問うまでもなさそうだが」
「下手に出て丁寧にお願いだなんて柄じゃない。押し通るしかなさそうだね」
 『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は大剣を担ぎ、顎をしゃくってその場を退くように示す。無論ながら、ヴォルフの実力を知った上でのブラフだ。『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が彼をカバーするように一歩出ると、ヴォルフは覚悟の気配を剣先に乗せ、重心を落とした。ヴェルグリーズはその所作だけで、相手の実力を察する。己を削るほどの覚悟がなければ、時間稼ぎすらも生温いと。
「……父と娘。家族、ね」
「こんな状況じゃなきゃ、もう少し燃えるシチュエーションだったのかもな。邪魔者が多すぎる」
 『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)にも思うところがあるのだろう、ベルフラウとヴォルフが別の方向を見ながら互いを意識している気配を察し、そして警戒を強める軍人たちをにらみつける。万が一、なにがしかの想定外があるとすれば間違いなく彼等だ。『散らぬ桃花』節樹 トウカ(p3p008730)も「作戦でなければ、状況が許せば」互いに矛を交えることもありそうな父娘と好敵手の邂逅に、密やかに興奮を覚えもした。だが本当に邪魔が多すぎる。
 イレギュラーズと相対し、そして突出したヴォルフとカタラニアを監視できる立ち位置。鉄帝軍人の姿はそれだけでノイズ足り得た。『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)は静かに両者の動きに備えながら、ベルフラウに異常がないかを見計らう。野暮ではあろう、彼の女に、先程の会話では微塵の動揺もみられなかった。あるとすればただただ、父への謝意ぐらいであろうか? だったら尚更、不幸なすれ違いだけは起こさせはすまい。
「あんまり戦いたくない相手だけれど……手を抜ける相手でもないね!」
「アレクシア、ヴェルグリーズ、そして皆、分かってるだろうが――父上相手に手抜きなど許されぬぞ! 此方から非礼を働くなど言語道断! 誇りを賭けよ!!」
 『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の決意を乗せた声にあわせるように、ベルフラウは旗をことさら高く掲げ高らかに叫んだ。言われるまでもない、とは思う。されど、家族の情を思えば一片の油断もあり得よう。その言葉こそ甘えではないか、と不満げに鼻を鳴らしたヴォルフの姿こそが相互理解の証なのだとしたら。
「お前たちがパトリックとやらの為に戦うのなら、私はそれに乗ってやる。任務を遂行したいなら、まずは私を相手してみろ!」
「言うに及ばず。貴殿のみならず、水一滴も漏らすと思うな」
 十七号の挑発……というより『宣言』は、軍人達にとっても重い言葉だったに違いない。彼等はパトリックがなんであれ、地獄まで付き合うだろう。馬鹿馬鹿しい話だが……聞く耳は持つまい。
 コンバットナイフを構え十七号を狙う者達と、ライフルを手に四周へ警戒を強める軍人達。そして、ベルフラウと方ラニア、ヴェルグリーズとヴォルフ。
 戦場の空気が、敵意に歪む。


「ワタクシを止められるなんて思わないことですわー!」
「親子の語らいを邪魔する奴は、馬が蹴る代わりに鬼がぶっ飛ばす!」
 ライフルを構えた軍人達目掛け、シャルロッテは我先にと突っ込んで引っ掻き回しにいく。が、彼等も一端の精鋭部隊、彼女、そして続くトウカの攻撃を受け止めながら、それでも十七号へと銃口を向けた。感情から来る攻撃、ではない。真っ先に仲間を引き付けた女を強敵と見做し、そして装備の持ち替えを嫌って連携を優先したがゆえの攻勢だった。
 一斉掃射に接近攻撃。半数ほどに及ぶ波状攻撃は、十七号の守りあっても少々手痛いものであったといえよう。……半数? そう、半数である。
「あんまり親子の会話を邪魔するもんじゃねえだろ。いや、あの二人は会話してねえけど」
「俺たチの仲間、に、手出シさせねぇよ……!」
 残り半数は、射線を切るように立ちはだかったニコラスの挑発に足を止め、その一瞬を突いて放たれたレイチェルの術式でもって痛打を受けたのだ。彼女の埒外の命中精度は、軽々に避けられるものではない。どころか、彼等の銃はジャミングを起こし、ろくに機能しなかったのだ。
「わたし、余り強がる相手を本気にして戦うなんてしないのよね。でも、あなたが強いのは知ってたわ」
「それは重畳。B級闘士に顔を覚えられているのは光栄といっていいのかな」
「あの父親を持って苦労しない?」
「……誇るべき父だよ」
 ベルフラウはカタラニアの正面に立ち、一歩も退かず、そして彼女を逃さなかった。何者も逃さぬ連携のもと、周囲の兵を逃すなと仲間を賦活。そのうえで差し伸べた手はカタラニアはおろか一般兵すらも巻き込むように伸ばされる。男に、まして女にすら魅力的に見える、『ローゼンイスタフの旗持ち』の名は伊達ではない。カタラニアがそれをしてなお、純粋な意思でベルフラウの前から逃げようとしなかったのは、多分彼女に興味があったから。そして、それと同等以上に興味があったシャルロッテの決意を崩さぬよう、ここで戦う愚を犯さなかったのも大きい。
 体を旋回させて打ち下ろしたカタラニアの尾を打ち払い、回転力そのままに振り下ろしてきた拳を受ける。石畳が割れ砕けるが、ベルフラウは微動だにせず。
「――『できる』か」
「自信がある訳じゃないけど、そう言ってもらえると嬉しいよ」
 ヴォルフとヴェルグリーズは、最初の一合で互いの実力を改めて認識した。ヴォルフは『想像以上にやる』と。ヴェルグリーズは『想像通りに恐ろしい』と。
 続く剣戟の激しさは嵐のようで、その速度は次第に周囲の空気を下げていく。冷気を剣に乗せた何合目かの刃は、重さが初撃よりずっと、強かった。
「私がいる限り、誰も倒れさせやしないんだから!」
 それでもヴェルグリーズが冷気を凌げたのは、アレクシアが初手でヴォルフに向けた魔術がゆえだ。
 火花が舞い散り、ヴォルフを苛むことでその加速を十全にせず、冷気の収束を抑えたのだ。そうでなくとも、全霊を以て仲間の治療にあたる彼女が、二人の強敵と相対す者はいざしらず、十七号やニコラスといった敵の視線を引き付ける役割も持つ者の治療に全霊を傾けたからこそこの戦場は成り立っているといえた。
「ここは偉く寒い。だが耐えられない訳じゃない。何しろ私も、お前たちのいくらかも鉄騎種だ。過酷な環境への耐性はあるとも」
 十七号は自らに近づいた者達の目を見た。機会的で冷徹で、命令以外をどうでもいいともう者の目。軍人としては正しかろうが、人としては最低だ。きっと、ヴォルフ達も用無しと見れば――勝てるかは別として――切り捨てるのだろう。
 冷たいものだ。それは、彼等の戦い方や技倆以上に。だからこそ、この手が効く。
「だが、これではどうだ? ――氷に閉じ込められる、というのは?」
 戦場は寒かった。冷気舞うそこは、なるほど。十七号にとって、これ以上ないシチュエーションであったのだ。
 圧縮された冷気は真っ直ぐ打ち出され、間合いを詰めていた兵士達を纏めて凍らせる。戦場特性が、このときばかりは彼女に味方したのだ。
「ニコラス! レイチェル!」
「無茶いえよ、こっちの相手で精一杯だ!」
「俺モ、対応できる限度がだな……!」
 打ち合わせはしていた。が、そうはいっても全てが順調とは行かない。彼女が抑えきれなかった者が、波濤となって押し寄せる。逃れようのない傷が、痛みがひたひたと忍び寄る。
「……なんて思ってませんわよね! ワタクシがおりますのよ!」
 だが、そのうちの一人が唐突に消えた。否、地面に垂直に突き立てられ、奇妙なモニュメントと堕したのだ。シャルロッテの放った、亜竜すら地面に叩きつけたブレンバスターによって。
「数をへらすのは戦術の基本だ。お前達にとっても、俺達にとってもな!」
 それでも向かっていく兵士達に、トウカが追撃を叩き込む。当然、それでも耐える者がいようが、当初の勢いよりは大分減っている。
 まだ、時間は1分と少し残っている。
 だが、イレギュラーズが耐えられぬものではない。
「レイチェル、こいつらはもうアンタの術中なんだよな?」
「そうだなァ」
「じゃあ、この一撃が避けられるなんて道理はねえはずだぜ!」
 おそらくは、彼等のなかにも占いを好む者がいただろう。ならば、タロットだけは試すべきではなかった。
 多分きっと、この日だけは。何度やっても『塔(しっぱい)』になったはずだから。


「お前の名は、ヴェルグリーズと言ったか」
「名を意識してもらえるなんて光栄だね、此方を見ていないかとばかり!」
「……謙遜は止せ。ベルフラウが俺に宛がう相手を見誤る道理がない」
 ヴォルフの唐突な問いは、ヴェルグリーズに僅かな動揺を覚えさせた。それでも剣筋が鈍らなかったのは、ひとえに彼の鍛錬の賜であったろう。ローレットが認知している限りの、ヴォルフの剣技。ベルフラウにより明かされたそれを凌いでなお底がない彼を、正面切って、多少の怪我をおいて止め続けたのは出色の成果と言えた。それでも、アレクシアがそう目を離せぬほどには危険な相手だったが。
「見誤らなかったからこそ、俺も手抜かりは許されん。許せ、パトリックがいかな奸物であれ、国への慕情あきらかなうちは『保たされた』などという汚名は被れん。ローゼンイスタフの家名を負って生きる者達のためにも」
 ヴォルフはそう告げると、鍔迫り合いを引き剥がし、距離を取る。深く吸い上げた息とともに、彼自身の全身に波立つ敵意が爆発的に膨れ上がるのをヴェルグリーズは感じ取った。
 ――敵意? 違う。これは『戦意』だ。相対した者を全力で倒すべきと定めた軍人の、隠し立てせぬ全力。構えは先程見た。だというのに、彼はそれを受け止め切れぬと悟った。ならば次の一合だけでも打ち合わねばと覚悟を決めた。
「止まれ! 二人を除いてもう戦える軍人はここには居ない! これ以上の戦いは無意味だ!」
「覗き見出来ねえ状況にしてやったぜ。思うところがあるなら、聞くぜ? 俺達はその倍くらい言いてえことがあるけどな!」
 が、その覚悟は直前で立ち消えとなる。十七号とニコラスが相次いで、戦闘継続が不要であると告げたからだ。
「え、は? あの数を倒しちゃったワケ? あなた達二人も決行な手練でしょ? 二枚落ちでやってのけたの?」
「私の仲間は信頼できるからな」
 カタラニアとベルフラウ、双方ボロボロの状態で正面から押し合っていた二人はゆっくり離れ、互いを見た。ひどい姿だ。だが、ベルフラウの側には一片の誇りも剥がれていない、鍍金ではない本物の誇りが垣間見えた。
「アンタ達がどこまで知ってるかは知らないけど、パトリックっつったか。ありゃあ魔種だぜ。仲間の見立てだ、ほぼ間違いねえだろうなァ」
「パトリックさん、きっと皆に隠し事をしてると思うよ。覚えがあるんじゃないかな?」
 レイチェルは手を止めた二人へ向け、この戦いの前にほぼ確定となった事実を告げる。作戦行動に入った彼等は知らなかっただろうが、ローレット、そして軍務派側ではほぼ公然の秘密となったそれを。
「可笑しいとは思ってたけど、そういう……? 悪い冗談すぎるわよ。ねえ、ローゼンイスタフ卿?」
「…………」
「聞いてる?」
 カタラニアはヴォルフに向けて問いかけるが、彼は顔を伏して剣を収め、深く息を吐きつつ首肯した。
 ベルフラウを見れば、旗を地面に突き立て無様に前傾視線を取らぬよう、仁王立ちのままで無言だった。
「ワタクシ達は争いあっている場合ではありませんわ、共に協力して『敵』をブン殴りましょう!」
「この似た者同士の父娘が口を開いてくれれば楽なんだけど、まあそうなるわよね……」
 拳を強く握り、まくしたてたシャルロッテの姿にカタラニアは苦笑いを浮かべた。
「……既に嫌われたものと思われていたがな」
 ほぼほぼ、それは苦笑ともとれる空気感とともに吐き出されたものだった。
 ヴォルフのそのぼやきを耳にしたのは、恐らく断片的にでも想いを伝えたトウカだけだったに違いない。
 斯くして、カタラニアとヴォルフは矛を収め、倒れた者等を簡素ながらに弔うと、イレギュラーズ達と先を急ぐこととなる。魔種となった軍人など見るも無惨だ、と苛立ちを覚えなかったといえば、屹度嘘になるだろうけど。

成否

成功

MVP

ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの

状態異常

ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)[重傷]
雷神
ヴェルグリーズ(p3p008566)[重傷]
約束の瓊剣

あとがき

 ぶ、不器用~~~~!
 それはそれとして、しっかり連携が取れていても数が多いと十分ではなかったです。
 それでもマジでこの被害かあ……やばいね……。

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