シナリオ詳細
地を覆う綺羅星
オープニング
●憂鬱を吹き飛ばせ(物理)
「星を作るお仕事なのです! 夜空に星を咲かせるのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が唐突に発した言葉の意味を理解できたイレギュラーズは、その場にどれだけ居たことだろう。『無辜なる混沌(フーリッシュ・ケイオス)』であればそういう芸当は珍しくないのか、それとも何かの暗喩なのか。わけもわからず首をかしげた一同の前に、ユリーカは一本の棒を取り出した。それと、なにやら大きめの筒を。
「……花火か?」
旅人の1人がそれを見て、驚いたように問いかけた。「はいなのです!」と応じたユリーカは、説明を続ける。
「『幻想』の王都に住む貴族、バートン卿からの依頼なのです。お嬢様が近々、結婚をなさるそうなのですが、今ひとつ気分が優れないそうなのです。何とかしてあげてほしい、という話なのです」
所謂マリッジブルーというやつか。元気づけたいというのはわかるが、花火はどこから?
「お嬢様はたいそう星がお好きだと聞きました! ちょうど、この『ハナビ』も星のようにキレイだと聞いたことがあったので、お嬢様に一杯のハナビを見せると喜ぶんじゃないかと思いました!」
単純な感想だが、道理にはかなっている。なんでも、旅人が持ち込んだ花火は多少珍しくはあれ、入手は然程難しくないそうだ。ユリーカが持つような筒型の打ち上げ花火も、小型であれば用立てることができるという。
「王都の中心からはちょっとだけ離れたところなので、うるさくしても大丈夫なのです! でも、遊んだ分はちゃんと片付けるまでがお仕事なので気をつけましょう、なのです!」
ユリーカはそう締めくくると、イレギュラーズに花火を配り始めた。知っている者はともかく、遊び方を知らぬ者もいるかもしれない。‥‥それも含めて仕事と思えば、またよし。
- 地を覆う綺羅星完了
- GM名三白累
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年01月31日 22時20分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
リプレイ
●雪の中、光を放ち花と散るらむ
「ハナビはキレイ? キレイはハナビ? キレイはなに?」
「キレイは……ええと、元気になるということです!」
ス(p3p004318)の素朴な問いかけに、愛莉(p3p003480)は少し考えてからそう答えた。彼女ら【夜花】の面々で、花火に慣れた者は少ない。もともと『混沌』になかった物であるだけに、熟知している者が少ないというのもあるだろう。
「夜空に星? 花? を自分で飛ばしたり咲かせたりできるのか……花火ってすごいな……!」
ヨルムンガンド(p3p002370)は当然ながら、花火については初体験である。元の世界では触れる機会すら与えられなかった人間の道具を、直に手にとって楽しむことができる。それも、とても綺麗で面白いものを。それが彼女にとってどれほどの喜びであるかは、その反応が物語っている。
「……花火か……聞いたことは……あるけど……この目で見るのは…初めて……かな……」
グレイル(p3p001964)は並べられた花火を見ながら、興味深げに呟いた。どこか静かでおおらかさを感じる声のトーンだが、彼の尻尾を見る限り、強く興味を惹かれているのは間違いない。集められた花火の種類が豊富であるだけに、彼が聞いたこともない種類があっても不思議ではない。
「話には聞いたことあるけど、花火ってどうやるのかしら!」
ルーミニス(p3p002760)が持ってきた花火を見て、愛莉はやや引きつった笑みを浮かべた。ルーミニスに悪意がないのは表情からも明らかだ。その手に持っているのがヘビ花火やネズミ花火といった所謂『イロモノ』でさえなければ、周囲の反応も違ったであろう……愛莉のみならず、『花火』を知っている面々の表情を見ればその効果は容易に類推できるものだった。
「いいわ! それじゃ、お姉さんが真の使い方を教えてあげるわ! でも、良い子は真似しちゃダメよ?」
アリソン(p3p002351)は花火に一家言あるらしいが、そもそも構え方が不穏極まりなかった。両手の指の間に構えた花火は一般的な、ごくごく当たり前に光と炎が迸るもの。そんなものを複数本持つということの意味は、持ち主が一番良くわかっている……はずである。
「ハナビする、は、オジョウサマげんき? げんきはよい、スはわかる……あれもげんき?」
「そんな持ち方もできるんだな……!」
スとヨルムンガンドはしかし、アリソンの行動の危険性がわからない。ただ、ド派手なことをやらかそうとしているのだけはわかった。それはとても元気になる行為だと、スは理解し。ヨルムンガンドはとにかく綺麗で楽しいことが起きるのだろう、と直感で理解した。
「元気だとは思いますが、いいことかは……」
愛莉も言葉に詰まる。元気な行為である。美しい情景を作り出せるかもしれない。だが、推奨できる遊び方ではないし安全ではない。『真の使い方』かは別として。
「そーれっ! ふふーん、まるで火の扇みたいじゃない?」
周囲の期待と懸念をよそに、アリソンは手持ちの花火すべてに火を放ち、仲間と距離を取って踊り始めた。
他人から注目を集める存在、真に正統派の偶像(アイドル)としての資質ゆえか、彼女の身のこなしには大いに人を引きつける物があった。
「おお、キラキラしてブシューっとしてて本当に花みたいだな……!」
ヨルムンガルドはその光の束に尻尾を震わせて興奮し、渡された打ち上げ花火を見て目をキラキラさせている。小さく「手持ちで火を着けないで下さい」とあるが、興奮している彼女は見ているのかどうか。
それを見たスが興奮気味に水の身体を震わせ、渡された花火を無造作に水の身体で受け止めた。……火薬の部分を。驚く愛莉が制止するよりも早く、スは己の身体で火が消えぬようにそろそろと火元に花火を近づけ。不思議そうに首を傾げた。
「なんで?」
「多分……スさんは火が出る方を掴まなければ……大丈夫、だと思うよ……」
何か悪いことをしてしまっただろうか、ともすればハナビの機嫌でも損ねたのだろうか。動揺するスに、グレイルがぽつぽつと言葉を選んで話しかける。持ち手は濡れても問題ないし、傾けなければ水も伝わず、消えはしない、と判断したのだ。
「大丈夫です、花火ならいっぱいありますから! 改めて皆で楽しみましょう!」
愛莉は気を取り直してスとグレイルに花火を配り、自らも地面に花火を向けて火を着けた。次の瞬間、三者三様の彩りが地面を照らした。
「この花火はどう遊べばいいのかしら! ここに火をつけるのよね?」
ルーミニスはネズミ花火とヘビ花火を交互に持ち上げ、どちらから使おうかと期待の笑みを深めていた。そこに、内燃機関の駆動音が響く。『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)だ。
「その花火、僕も使うんですよ。2人一緒に使えば効果も2倍、綺羅星をもっと作れるんじゃないですか?」
「……いいわね! 賛成よ!」
アルプスのアバターが持っていたのも、ヘビ花火。1人で楽しむために、と手にしたもので、用途については知らないでいる。2人で使えば効果も2倍、つまりもっと感動できるのではないか、と。ルーミニスは一も二もなく、その提案に飛びついた。
「それじゃ、せーので火をつけるわよ……せーのっ!」
……数分後、『ずもももも』と音を立てる如くに湧き出すヘビ花火の異形っぷりにアルプスとルーミニスが先物取引で持ち金を溶かした顔で絶望する傍ら、ネズミ花火がアリソンへ襲いかかるという二重三重の悲劇が起きたことだけは書き記しておきたい。
「クロバぁ、ホントに大丈夫なのか? 焼き鳥にされないよな俺は…………」
「大丈夫だ、花火ってのは情熱だ!! 気合を入れて燃やせェ!!」
カイト(p3p000684)は花火を手に、ビクビクしながらクロバ(p3p000145)に問いかける。火を扱うのに慣れていないのと、全身を覆う羽毛に燃え移ってしまわないか……その2点が不安感を倍増させる。クロバはといえば、仲間に花火の使い方を指導しつつ、細かいところはかなり一発勝負でなんとかしよう、という根性論をぶちあげていた。尤も、彼が主導する【光雪】の面々はいずれ劣らぬ気合い原理主義者みたいなところが垣間見えるので丁度いいのかもしれないが。カイトも、募る不安より周囲で舞う火花の彩りに対する興味が勝っている様子であるし。
「花火は初めてだが、要は綺麗な火を出すんだろう? なんとかなりそうだな!」
ルウ(p3p000937)は殊更に『なんとかなる』で押し通せるタイプだったらしく、手持ち花火を持って今や遅しと火をつけるタイミングを見計らっていた。ここでイロモノに走らないあたり、根は堅実な性分なのかもしれない。……ときに、火をつける手段だが。
「しっかしよ……俺はマッチじゃねぇんだぞ。火ぐらいてめぇらで確保しろよ」
アラン(p3p000365)が用いる炎を使おう、ということになっていた。イレギュラーズは並べて不可解なところがあるが、少々危なっかしい行為を楽しむところもあるらしい。
「そっちの方が面白いだろ! 命を! 燃やせ!!」
「命までは燃やさねえよ!?」
言い出しっぺであるクロバの言葉に、アランは思わず叫び返す。だが、律儀にルウとクロバの花火に火をつけてやるあたり彼も彼で楽しんでいるのだろう、多分。
カイトの花火にすぐに点火しなかったのは……何を隠そう、彼が持っていたのはトンボ花火なるイロモノ枠。ロケット花火に似て、美しさよりもインパクトを重視したブツであるからだ。直接火をつけるより、手持ち花火のもらい火で飛ばしたほうが見栄えがいい、というのもある。
「私も花火持ってきたよー! ちょっと派手めにロケット花火!」
渓(p3p002692)はカイトの脇にちょこんと座ると、土に軽く穴を開けてロケット花火を設置する。現代日本のように瓶を用意できればよかったが、盛り土で代用することも可能といえば可能である。
「ロケット……なんだか良くわからないけど物騒だな」
カイトは地面にトンボ花火を置くと、渓とともに距離を取る。両者ともに、クロバの花火のもらい火で点火するつもりらしい。……そして数秒後、その時は訪れた。
「おーっ…………おぉー!?」
地面から一気に空へ駆け上がる小さい火球に、カイトは思わず声を上げる。周囲も、突如飛び上がったその光に思わず目を奪われる。手持ち花火の美しさに目を奪われ、次はトンボ花火のインパクトに目を奪われ、視線が目まぐるしく右往左往する。ロケット花火の甲高い飛翔音もあいまって、周囲の興奮はいやが上にも上がっていく。
「もっと……アツくなれよォオオオオオオオオオオオ!!!」
「お、おう…………もっと飛ばそう、もっと!」
クロバのノリに完全に呑まれたカイトが、よりヤバ目の花火に手を付けることは既に見えた未来であり。……その頃、貴族の庭の隅で、何かが目覚めようとしていたという事実を(一部を除いて)知る由はない。
●
バートン邸2階、第3寝室。卿の愛娘は、イレギュラーズが訪れることは前もって聞いていた。だが、彼らと顔を合わせる気にはなれず、部屋の窓にも近付かなかったのだ。だが、今しがた起きた炸裂音は彼女をして動揺せしめた。
「騒がしいですわね」
『幻想』を拠点とする彼らが自分に害することはないだろうが、それにしても騒々しい。何のために来たのかは知っているが、果たしてどれほど自分に見返りのある行為だというのか。うんざりしたように窓際に近付いた彼女は、しかし、中庭の光景に知らず目を奪われていた。
「此方にも、このような物があるのだな」
グレイシア(p3p000111)は手持ち花火をしげしげと眺め、地面に向けて火をつける。本来の世界に存在したものを思い返し、ほんの少しの郷愁に浸る。……だが、火花に照らされたルアナ(p3p000291)の表情と、彼女の言葉を見た時にその感情も瞬く間に霧散する。
「ねぇおじさま。ルアナ、花火したこと……ある。夏に。打ち上げ花火見たり、こうやって手持ち花火したり」
ルアナは大部分の記憶を喪っている、とグレイシアは聞いていた。目の前で爆ぜる彩りに、深層に沈んでいた記憶が浮かび上がったのであろうか。喜ぶべきこと、なのだろう。
「花火で思い出したのだな。吾輩達の世界でも、このように花火をあげる風習はあった。もっとも、ルアナの言うように夏にする物ではあったが」
「ふむ。花火、夏のお祭りとかで見たなぁ……って。でも、冬でも空気が澄んでるからか、とても綺麗!」
2人は同じ世界の住人である、という。季節外れの花火が記憶を刺激するとは、何が幸いとなるか分からない。火花の勢いが徐々に弱まっていく中で、ルアナの言葉通り、それは鮮烈に輝いているように見えた。果たして、季節はずれの用途に対する抗議か、はたまた澄んだ大気を切り裂く歓喜の光か。いずれにせよ、目の前の少女を喜ばせるものだったことは幸いだ。
「……この世界で色々な事を経験することで、ルアナの記憶も戻るやもしれぬな」
幸いだが、グレイシアはほんの少しだけ、不安に表情を歪めた。記憶が戻ってもなお、彼女にとって『おじ様』として振る舞えるだろうか、振る舞うことを許されるだろうか。2人の、本来の関係性を秘して告げぬ行為は、幸不幸どちらに傾くのだろうか、と。
「戻っても戻らなくても、ルアナは変わんないよ! それよりもっ」
だが、ルアナはその不安を見透かしたように笑いかける。燃え尽きた2人分の花火を束ね、ぎゅっと握ると乞うようにグレイシアを見上げた。
「夏の花火、一緒に見たいなって!」
「……此方にも夏の花火の風習があると良いのだが。夏にも花火があるのであれば、一緒に見るとしよう」
2人にとって、その約束がいつ履行されるかは分からない。その前に、関係性に変化が訪れる可能性もある。だが、叶うか否かは別として、グレイシアはルアナと『約束』を交わしたのは、紛れもない事実である。
「こういう手に持つ花火をするのはホント久しぶりだねー」
「私は……自分で行う花火というのは初めて見ました」
クロジンデ(p3p001736)は懐かしそうに、マナ(p3p000350)は物珍しそうに手持ち花火に目を向ける。一見するとただの棒。それが光を放つというのはどうにもイメージしづらいものだ。
「最初に俺が見本を見せるから、ちょっと離れてね。ここに花火の先を当てると……ほらね。火花が飛び出すよ」
少女達の引率役で訪れたライセル(p3p002845)は、背中に隠れているティミ(p3p002042)を落ち着かせつつ、ろうそくに火を着けて地面に立てると、花火を近づける。周囲で楽しむ面々の派手さには及ぶまいが、十分に激しい火花だ。
「はわ!? び、びっくりしました」
「て、手持ち花火というのは、一瞬では消えないものなのですね……」
マナとティミは初めて見る光景に驚き、声を上げる。大型の打ち上げ花火とはまた異なる趣、刻一刻と光の加減が変わる複雑さは、少女達を魅了するのも頷ける。
「途中で色が変わったりするのは何故なのでしょうか?」
「火薬の調合が違うからだったかな? 俺も詳しくは知らないんだけどね」
おっかなびっくり手持ち花火を楽しみながら、ティミは素朴な疑問を口にする。ライセルは記憶を頼りに言葉を選ぶが、果たして正しかったかどうか、までは自信がない。とはいえ、理屈はどうあれマナの言葉を借りれば「魔法のよう」な火花の乱舞が彼女達を楽しませているのは紛れもない事実である。
「花火はすぐに燃え尽きちゃうけどそれは全力ってことだから、あとで懐かしいって思える思い出になってくんじゃないかなー」
クロジンデは花火の燃えさしをバケツに放り込むと、屋敷の窓にちらりと視線を向けた。……先程までゆらゆらと動いていたカーテンは、既に動かなくなっていた。
「冬に花火とは、これまた乙なもんだな……賑やかでいい」
黒羽(p3p000505)は手元で爆ぜる線香花火を眺めながら、ぽつりと誰にともなく呟いた。
手持ち花火にしろ線香花火にしろ、その他多数のイロモノにしろ、光を放つ時間は驚くほどに短い。だが、消える瞬間までまばゆい光を放ち、人の心に残るものがあるその様は人生を思わせもする。
各々が選んだ花火や遊び方に個性が見えるが、線香花火を選んだ者はそう多くないようだった。……視界の端では、顔見知りであるエルヴィール(p3p002885)が線香花火を前に四苦八苦している様子が窺える。炎を吐くことのできる自身のギフトで、線香花火に点火しようとしているのだ。
(あちらの世界でも、この花火の様に、人を楽しませる目的で火薬が用いられる時が来ると良いのですが……)
知人が見ているなどとはつゆ知らず、エルヴィールはふと故郷の世界のことを思う。火薬を遊興の目的で用いるなど、考えもつかなかった。鮮やかな色合いなど考えるべくもなかった。一片の物悲しさが胸を衝き上げたからこそ、少し派手にやってみよう、と思ったのだろうか。目の前の花火は非常に儚い。燃え尽きぬようにブレスを苦労しながら調整し、うまく点火できた時、彼女は内心でガッツポーズをしていたに違いない。炎と線香花火のギャップはそれほど、見ごたえのあるものだった。
楽しみ方は人それぞれ。若干遠くに目線を移すと、イリシア(p3p001485)が樹上で線香花火を楽しんでいるところだった。下に人がいたら危ないのだろうが、事前に根回しを済ませているのか、周囲に人の姿はない。花火を星に見立てるなら、と高い位置に陣取ったのだが、ただ花火をするだけでは芸がない。
(明るくていい雰囲気っすけどもうちょっとインパクトがあると違うっすね……)
もう一声、なにか目立つ要素がないものか。イリシアが考えていると、エルメス(p3p004255)が打ち上げ花火に火をつけるところだった。大きい花火はとにかく目立つ。打ち上げ花火が咲いた瞬間を狙って記憶し、イメージし、ギフトにより絵に変えようと考えたのは間違いではない。ないのだが、エルメスはそれだけで終わらせる気はなかったらしい。
「音は無理だけど、沢山の花火を『咲かせる』ことはできるわ! 賑やかしにね?」
彼女の声に合わせるように、幻影が蠢き、幾重にも重なった打ち上げ花火の光を再現する。イメージ強度に左右される幻影は、直前に観た光の再現であれば容易であろう。
賑やかしであれなんであれ、鮮やかな今を演出できればいい。エルメスの試みは、波打つイレギュラーズのどよめきとイリシアの絵画、その筆致の滑らかさにその成果を見て取ることができようか。
「……見事なもんだな」
黒羽が呆けたように空を見上げたのと、彼の線香花火へとロスヴァイセ(p3p004262)が近付いてきたのとはほぼ同時だった。燃え尽き、落ちかけた線香花火の下に癇癪花火を置き、落下した火で花火が爆ぜる。落ち着いた心境をぶち破る炸裂音に目を見開いた黒羽に頭を下げると、彼女はイロモノの花火やらなんやらを取り出し、人の輪の中へ消えていった。
「賑やかですね。楽しんでますか?」
「はい。私は、どちらかというと静かな花火が好きなのでこれを選びましたが……」
ヘイゼル(p3p000149)は打ち上げ花火の筒を片手に、線香花火を楽しむ悠凪(p3p000885)に話しかける。誰かと話すことなど想像していなかったのか、どこか驚いた顔で応じた悠凪だったが、しかし話すことに抵抗はないようだった。
「派手ではないですけど美しいですし……これは願掛けのようなものなので」
願掛け、とヘイゼルが鸚鵡返しに口にすると、悠凪は少しだけ嬉しそうな声で続ける。長く火花を発し続けるのが簡単ではないその花火を、出来る限り長く続けること。それが令嬢の結婚生活が末永く続くように、という願掛けになればいいということ。今まさに、その願掛けは成立しようとしているのだ、ということ。
「なるほど。……どうやらお嬢様もいらっしゃるようですから、お伝えすると喜ぶと思いますよ」
きょとんとする悠凪に一礼すると、ヘイゼルはイレギュラーズの賑わいに紛れるように消えていった。悠凪が邸宅の入り口に目を向けると、そこには息を切らせて走ってきた令嬢の姿があった。
●
邸宅の入り口に、突如として十本の手持ち花火の火花が散る。持ち主は黒尽くめの服装で顔を隠しながらも、巧みな動きで花火を放り、ジャグリングの要領で投げ、受け止め、スピンさせて激しく舞い踊る。一歩間違えれば本人も危険な目に遭う行為だが、本人にはそれを成し遂げるという自負があった。『彼』に取り立てて有意な軽業の腕前があるわけではない。ただ、自身がそれを成すべきと思い、その一念で最期まで舞ってみせたのだ。
「貴方がこの人だと決めたお相手ならばきっと大丈夫。共に歩み、幸せな未来を紡いでいける様願っています」
フードを払い、リゲル(p3p000442)はギフトによる光を湛えた花束を手に令嬢に微笑みかける。驚いた表情で固まった彼女は、ようようとその花束を受け取ると、静かにリゲルに頭を下げた。戸惑いこそあれ、誠意は伝わっているようだ。
イレギュラーズ達が賑やかに楽しむ中を令嬢は歩く。周囲を照らす花火の光に目を輝かせ、或いはイロモノの野趣溢れる内容に驚きながら見て回る先で、彼女はオフェリア(p3p000641)とドラマ(p3p000172)が手にした線香花火に興味を抱き、火花が爆ぜる様子を覗き込む。
「観ているだけではつまらないですよ。せっかくですから、線香花火片手に語りませんか?」
「……そうね。ご一緒させていただける?」
オフェリアの呼びかけに、令嬢は線香花火を手に静かにしゃがみ込む。ろうそくの火を受け、静かに爆ぜる花火を見る横顔に向けて、ドラマはぽつぽつと言葉を紡ぐ。
星に関する逸話、星に人々が抱いた理想像の物語。令嬢に聴かせるには十分に魅力的なそれらを、花火の光に乗せて語る姿は、自らの知識を誰かに分け与えたいという静かな熱意と、それを成す喜びにあふれていた。
「花火が1つ燃え尽きては話を1つ区切り、また別の花火と共に他愛のない話に興じる……そんな些細な遊び方ができるこの花火が、素敵だなと思うのですよ」
オフェリアは、ドラマが話し終わるのと花火が燃え落ちるのを待って、令嬢にそう水を向ける。婚姻の儀を交わす相手と、一緒にいられるか。寄り添えるか。それを喜びと捉えられるか、と。
令嬢は少しだけ考えてから、やがて笑顔で頷きを返した。彼女の中での悩みは、今を以て晴れたのだろう。
……ところで、だ。
「待って、何で、俺、縛られてるの?」
オクト(p3p000658)の名状しがたい蛸のごとき髭には今、複数のロケット花火がくくりつけられていた。彼は、縛られていた。誰に指示されたのか、キツネ(p3p000570)が鼻歌交じりに準備をしている。恐るべき儀式の準備を!
「酔った勢いで依頼を受けたのは覚えてるぜ? 正気に戻った時にバックれようと思ったが……悪党に人権は無いのか? え、無い? マジで?」
どうやら酒の席で一服盛られたか酔いつぶれたかしてして、柱に縛られ連れてこられたらしい。誰かは知らないが。
「何でそこで(逃げることを)諦めるんだよ! 諦めんなよ! 蛸髭が最後の一本になるまで諦めんなお前!」
「蛸髭危機一髪とか言いやがったか!?」
クロバの軽妙な煽りに驚きと怒り半々で応じたオクトだが、髭に花火が括り付けられているのでうまく話せない。令嬢は? ビクつきながらも引きつった笑みを浮かべている。
「悪いお手本としてちょっと犠牲になって頂戴よ。あの子達も楽しめるから」
アリソンが仲間達を指差して怪しく笑う。完全に悪いオトナのそれだ。
「しょうがねぇな、火点けくらいは手伝ってやるよ」
「加減しろよ? 消し炭にするんじゃねえぞ!?」
アランは割とノリ気だった。さっきまでのアレでソレな対応はなんだったのか。
「いざとなったら氷のブレスでなんとかするのであります!」
エルヴィールは偉い。だが肝心なところはソレじゃない気がする。
「それでは、ご令嬢のご結婚と今後の多幸を祈願して、一発打ち上げましょうか」
それまで花火大会の締めくくりを見計らっていたヘイゼルが、ここぞとばかりに音頭を取る。
……そして、オクトは尊い犠牲となった。負傷こそしていないが、心に微妙な深さの傷ができたことは否定できない。
あと、彼はエルヴィールに鎮火された後、翌日になって庭師に縄を切られるまで放置されたとか、されてないとか。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。ご令嬢も色んな意味で楽しめたようです。
GMコメント
冬は空気が済んでいるので花火は映えそうですね。冬に花火、というだけで無条件に涙ぐむのは気のせいでしょう。皆さんの三白累です。
身も蓋もない言い方をすると、『貴族(ヒト)ん家で花火をする』だけです。それがお嬢さんを元気づけるキッカケになります。本当だよ。
●依頼達成条件
花火大会を通じてバートン卿のお嬢さんを元気づける
●花火
さしあたって、現代日本にあるものはほぼ全て再現されていると思ってもらって構いません(八尺玉のような大型打ち上げ花火を除く)。
無論、イロモノもあります。
●選択肢
A:普通の花火。一般的な手持ち花火。比較的色鮮やかで、目につきます。好印象です。
B:小型打ち上げ花火。数は最大10。グループ参加の場合は最大1人に割り当てられます。
C:線香花火。さほど目立ちませんが、しみじみしたい時におすすめです。
D:その他、イロモノ枠。片付けが大変なので気をつけましょう。ほどほどに。
●プレイング書式
一行目:選択肢
二行目:同行キャラのフルネームとID、もしくは【】で囲んだグループ名。
三行目以降:自由なプレイング
という書式だと助かります。強制ではありませんが、把握しやすく、描写されやすくなります。
●注意事項
・公序良俗に則ったプレイングを推奨します。あくまで『貴族の目に留まる』ことをご承知おきください。
・このイベントシナリオには『30名まで』の参加制限があります。ご了承ください。
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