シナリオ詳細
<太陽と月の祝福>泣いて怪王獏を討て!
オープニング
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ファルカウの制圧と侵略。
茨で鎖し、眠りの呪いへと幻想種を鎖した元凶こと『冠位』怠惰カロン。
――森を閉ざして、永遠の深き眠りを。
理由は、ここで眠りたいから。
まるで寓話のように茨に包まれた大樹で眠ることを求めたカロンは正しく『怠惰』を体現していた。
だが、此の儘では深緑の時は止まり、幻想種達も眠りながらにして朽ちて行く。
深き恵みの森を取り戻すために、最後の戦いが始まるのである。
●
それは、本来悪夢を食べてくれる妖精である。
そっと枕元にやってきて、とんとんとうなされている肩を叩く。
そうすると悪夢の端っこがぴょこりと出てくるので、それを吸い取ってくれるのだ。
ちょっぴりの空っぽを残して去っていく、まるってして、すべすべして、いい匂いの。
眠るの淵の記憶の端っこに、おしりについた小さなしっぽが残っている。
混沌世界のみならず、どこの世界にも似たような存在はいるだろう。
モフモフこそしていないけれど、滑らかな手触りは慣れ親しんだシーツの肌触り。名残惜しさに抱き着いた感触は遠いあの日に失くしたぬいぐるみのように。大人になっても時折やってくる悪夢を飛べて、穏やかな眠りに促す大事な大事な夜の友達だ。
獏と、呼ばれる存在。
やんぬるかな。
冠位怠惰カロンの影響により変質し、このフォルカウで、それはおぞましきものに変質していた。
それはしたたかに幻想種に打ち付けられた。
「お、ぐお。ぐ。うああ」
幻想種目掛けてたたきつけられる鼻は、地面に引きずるほどに伸びていた。
皮膚はただれて醜くひび割れ、その隙間から溶岩のようにドロドロしたものが逆巻いて見える。
眼球は真黒く変色し、同行だけがぽつんと黄色い。
『悪夢ではもの足りぬ。長き眠りにつくのだから、腹は満たされねばならぬ。永遠に足るほど食わねばならぬ』
一際巨大な個体が幻想種に言い聞かせるように小さな口を開いた。
「恩寵だ。恩寵だ。叩けば魂が食べられる。おお、魂。どれほどの夢、どれほどの悪夢を内包しているのか。永遠を埋めるのに十分か」
幻想種を叩くと魂がちょっと出るので変質した獏――バクアロンはそれをなめるように食べる。
鼻で叩かれ続ける幻想種。
体中の骨を砕かれてこと切れるのが先か、魂を食いきられるのが先か。
少なくとも、この幻想種はもう助からない。
●
「――ということが想定されます。この区域にいる幻想種は今後の復興に必要な人材難だよ。出来得る限り迅速に急行」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、タピオカミルクティーをたしなんでいる。
「通常のヒトだと魂イッキ食いされてやばいけど、みんなはイレギュラーズだから。魂にたどり着く前にあれがあるわけよ」
パンドラ。運命の力だ。なくなったら、死ぬ。
「バクアロンのお鼻でびったんされるとパンドラが飛ぶから。ガチで。そのあともぐもぐタイムが入るから隙ができるよ。かといって、積極的にパンドラ使うなよ。なくなったら減るし、増えるのだって簡単な話じゃないからな」
ずちゅちゅちゅちゅとタピオカを吸い上げ――吸い上げすぎて、しばししゃべれなくなる。咀嚼タイム。
「このように、一回に1単位って決まってるわけじゃないからな。なんかの拍子で大量流出もあり得るからな。無駄にはするな!」
それと。
「バクアロンはでっかいが、それよりさらにでかい個体が1体。これは人の言葉で話すぞ。こっちの怒りを煽ったり、不安を掻き立てたり、狂わせようとしたりしてくるだろう。気をしっかり持ち、対抗手段を講じておくこと!」
それと。
「現場は、カロンの権能で夢で現実だからな。バクアロンが狩場にしやすい環境になってるだろうよ。つまり、体高1メートルから最大4メートルの四足歩行の獣が突進しやすくて、鼻が振り回しやすくて、高低差がなく、遠距離攻撃や飛行攻撃は効果が低め。更に、こっちが精神的にやられればやられるほど向こうに優位ってとこかな」
大型戦車に随伴装甲車的な。と、戦闘薬師は概念ろくろを回す。
「近接戦でがつがつ当たるのを想定。回復に怠りなく。心安らかグッズを持っていくことを推奨する! なんせ、相手の分類『夢魔』ってことにしたから!」
獏は、大多数にとって子供の頃の淡い思い出。それが化け物になって暴れている。
引導を渡してやってくれないかと、情報屋はタピオカの最後の一粒をすすり上げた。
- <太陽と月の祝福>泣いて怪王獏を討て!完了
- GM名田奈アガサ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年06月29日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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それは、幻想種の頭に鼻面を突っ込んでいた。
うめいているので幻想種はまだ生きてはいる。少なくとも生物的には。
「叩かれ摺りつぶされて魂を啜られる……これを悪夢といわずして何と言おうね……」
『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)の呟きは、アロンゲノムの咀嚼音で掻き消える。
「悪夢を吸い上げる妖精が逆に悪夢を与える存在になってしまうなど……」
『表裏一体、怪盗/報道部』結月 沙耶(p3p009126)は、努めて口調を整えた。少し気を許したら、素が出てしまいそうだ。
「ああ、来たんだ。来たんだね。うん、食べ甲斐がありそうだ」
それは甘く優しくザリザリと脳髄を耳の奥から匙で削るような声だった。とてつもなく大事な物を吸い出すために溶かす甘苦い強酸のような声だった。
「冬の王様と一緒に眠るんだ。でもね、心配事があるんだ。おなかがすいたら目が覚めてしまうだろう。そのまま眠れなくなったら困るよ」
いびつな岩でできた象のよう。長い鼻。冷えて固まった溶岩のような表皮の下で煮えたぎっている。真っ赤な眼球。黒い瞳。黄色の瞳孔。
「獏というのは本の中で見たことがありますが、もっと丸くてもっちりとした見た目だったような……」
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)の脳裏に浮かぶパステル調の優しい存在。混沌以外の世界でも大体の「獏」は悪夢を食べてくれる聖獣の部類だ。
バクアロン。目の前に現れたのはアロンゲノムだ。もう元に戻ることはなく、倒さなくてはならない存在だ。
「何らかの力を受けて変質したモノというのは今までに何度も見てきたが、よりにもよって、パンドラを直接喰らう奴等が生まれてくるとは」
『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は、冷静沈着である。自称の裏に潜むものの気配を探ろうとしている。
変わり果てた夢魔の声は、甘苦い。
低い声が別のことをを言っているような気がするのに、不明瞭でうまく聞き取れていない気がする。聞いてはダメだとわかっているのに、何を言っているのかとても気になる。
「悪夢を喰らう妖精自体が悪夢のような存在になってしまうのは……なんか悲しいっスね」
『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)は両手に握ったサーベルを握り直した。
リヴァイアサンの鱗で作られた同等のもの。片方は素のまま。片方には三言のワードが刻まれている。変質とはかくも恐ろしい。
「彼らに人殺しをさせるのは止めなければいけません」
『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は、リボルバーを握り締めた。
「きっと覚えていないだけで、世話になったこともあるのだろう」
『ベンデグースの赤竜』シャールカーニ・レーカ(p3p010392)は、迷わない。もう迷う段階を通り越したから。
小山のようなメガ・バクアロンの周囲を守るように、あるいはおこぼれを等分するために周囲を取り囲むバクアロン。
イレギュラーズは分断にかかる。
「申し訳ないっスけど、ルーキスさん! 大怪王獏のことはしばらくの間、任せるっス!」
ライオリットは、5匹いるバクアロンと向き合った。
沙耶を守る、太陽を追う花の種はこぶしの中できらきら光る。
レーカは、忍ばせた悪夢くらいの輝石を確かめる。同じものを『医神の傲慢』松元 聖霊(p3p008208)も握っていた。
「お前らが『獏』であれたときの最期の願いと祈りだ」
パンドラを食らうバクアロンからパンドラを守る守り石だ。変質してしまう「獏」が最期に絞り出した希望のかけら。自分達のために損なわれる魂のできるだけ少なからんことを。
「無駄にはしねぇよ、絶対に」
思いが一つであることを頷きあい、癒し手は最適の布陣を一同に告げ、戦闘の火ぶたを切るために大きく息を吸い込み――レーカは声を張り上げた。
「どうにかしてもどしてやりたいのはやまやまだが、生憎と時間も手段もない」
こう来ている間にも、事態は悪化の一途をたどっている。鉄火場で必要なのは取捨選択だ。
「ここは、深緑の未来の為、希望の輝石にかけて――シャールカーニ・レーカが討たせて貰う」
『ベンデグースの赤竜』の口上に、バクアロンの足並みが揃う。まずはあれの魂を食う。
(幸いパンドラ残量はそれなりにある)
考えなしの行動ではない。パンドラの残量、装備。勝機は十分にある。
ジョシュアのリボルバーの回転は尽きることなく、恐ろしいほどたくさんの鋼を撃ち出した。
冷酷な鋼の驟雨は容赦なく怪王種だけに降り注ぐ。その威力にバクアロンは頭が上げられず、突進態勢が取れない。突っ込む先が見定められなければ、待っているのはただの自滅だ。
「小さいのをちゃっちゃと片付けて、すぐに向かうっス!」
ある意味不遜。しかし、頼もしい。実際、隆々とした体躯を持つライオリットは小山のようなバクアロンと対峙しても見劣りはしない。
ライオリットの一撃はは山を揺るがすという。
分厚い外皮をものともせずたたきつけられる双剣の圧がしみとおる。
「一刻も早く――っ!!」
たった一人で相対してはならない。
情報屋の言う通りなら、それは人語を解し、まず心を追って魂を食らう。
そんな群を抜いた化け物と一人対峙するルーキスのために。
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耳から毒を流し込まれるようだ。
「絶対絶対目が覚めないようにおなか一杯にして眠らなくちゃならないのに、君たちそんなには悪夢を見ないんだよ。僕らが言うんだから間違いないさ。意外と見てないんだよ」
修羅場を潜り抜けることで身に着ける平常心。屍の山に埋もれようが、虫がうごめくよどみに突き落とされようが、動揺を抑え込む。
「今まで幾つもの死線を越えてきた。その程度の言葉、攻撃でこちらの『精神』は揺るがない!」
叩きつけられる精神の痛手をたいしたことないと受け流す技術だ。受けた苦しみの量が減るわけではない。目の前が真っ赤になる怒りも嫌悪感も忌避感もきっちり等倍ルーキスにたたきつけられ、それを幾分――戦う気力だけは残して受け流すことができるだけだ。
揺るがない。揺るがない。揺るがない。
正気を保つことに関してはエキスパートだ。
夢魔の言葉を振り払うように。
ルーキスに大きな影響を与えた人の面影を映した「白百合」と「瑠璃雛菊」の銘を持つ両手の刀に滅海竜の残滓を帯びさせて師匠譲りの毒の刀技を振るう。
これまで生きてきた足跡のような攻撃。
一際大きい怪王種の巌のような皮膚をえぐりこむ刃から神経毒。巨体の隅々にまで回るだけの量をきっちり注ぎ込んでやる。
メガ・バクアロンは悲鳴を上げながら、しゃべるのをやめない。
「でも、生きることはつらいことだよ。知ってる。君たちの魂の中には辛いことがいっぱいいっぱい詰まってる! それを飴玉みたいにしゃぶって眠れば僕たちはいつでもおなかいっぱいで気持ちよく眠れるって寸法さ! どうだい。いい考えだろう!?」
かわいらしい声の底で低い声がぼそぼそとしゃべっているのだ。耳を澄まさないと何を言っているのかわからない。聞いてはいけない。相手の言葉には深く聞き入らないよう注意する。基本だ。
「言葉が分かるのならば話は早い。『余所見するなよ、お前の相手はこっちだ!』」
あえて言葉に力を込めて誘導する。
そうだ。足を踏み出せ。お前の機動力を落とすため、狙いを集中させるべきは足元だ。五匹と合流などさせない。
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しゃべりはしないが、バクアロンは唸るのだ。
鉄火場に縁のない者ならすくみ上っても仕方ない。体そのものを投げ出し、遠心力を鼻先に集めて叩きつけてくる。囮を買って出たレーカに攻撃が集中するのは致し方ないことだ。痛烈な一撃がレーカの魂の一部を打ち砕いた。
体から何かが砕けて消えていく。それは死に隣り合わせた時に引き換えにするものだ。運命を引き寄せるためのものだ。それが体の中で砕けてさらさらと空に溶けていく。
眼前にバクアロンの闇色の眼球。真っ赤な瞳に黄色い瞳孔。
バタバタと滴り落ちる唾液。すぼめられる口の動きが生々しい。
崩れ落ちていくものの量は思ったよりは少ない。輝石が代わりに吸い込まれていく。
バクアロンの動きが止まったときが決して逃してはならない好機だ。
「闘気と殺気の食い放題サービスだ。遠慮なく、たらふく喰らうがいい!」
汰磨羈が床を踏んだとたんにバクアロンの鼻先にいて、尖らせた口に驚くほど滑らかに刃を呑ませた。大道芸なら拍手喝采雨あられだ。
「闘気と殺気の食い放題サービスだ。遠慮なく、たらふく喰らうがいい!」
かつて、慈愛を求め手数多の命をはいだ鬼子の刃。仙狸の女が調伏し、己が牙とした餮魂の大太刀。悪夢をむさぼるにはちょうどいい。
ほとばしる灼熱の気が優美な曲線を描き、まるで曼殊沙華を咀嚼させるように見えた。
息を詰め、レーカは命をつなぎとめ、戦う力を握り締め続けた。
汰磨羈は自分が発する熱と異なる炎を感じて背後に飛び退った。刹那、炎の壁がレーカから吹き上がりバクアロンを腹から焼く。
「よしよし、この調子で行くぞ」
汰磨羈は次のバクアロンに曼殊沙華を食わせるため、床を踏みしめた。
●
メガ・バクアロンは饒舌だ。ずっとずっと同じ話をしている。
ルーキスは聞き流す。同じ話だと判断できてはいけない。内容を精査してはいけない。
ごぷごぷっと、バクアロンの喉が時々変な音を立てるのだ。毒は効いている。
戦況は把握できている。仲間たちはそろそろ合流してくるはずだ。そうしたら、本格的に体制を整えて畳みかけよう。一気呵成に。
「幻想種は長生きだから、魂に色々ため込んでいるんだよ。ねえ、そこにいる幻想種はね、君のおじいさんのおじいさんのおじいさんが子供だったくらい昔に食べ損なったタルトの一切れについてずうっと考えてるんだ」
高く甘い声を聞かないようにすると、底辺をはいずる雑音が意味を成している気がするのだ。
視界が徐々に赤く染まっていく。なんでそんなに同じ話をするのだ。腹立たしい。いや、それは奴の手だ。聞いてはいけない。
「君のおじいさんのおじいさんのおじいさんが生きてた頃からずっと気にされてる食べ損なったタルト! どんな味だったんだろうね! きっと同じタルトを今目の前に持ってきたって絶対納得しないタルト! 膨れ上がってとってもとってもおいしくなってるよ! でも、それは永遠に食べられないんだ!」
取るに足りない小さなことが胸のどこかでくすぶっている狭量さを数百年単位で暴露されるなんて。まるで自分のことのように感じられる。叫び出してしまいそうだ。
「君もおなかが減ってきたの? 食べたくなってきたの? でも食べられないよ! だって君が生まれるずっと前に床にクリームを逆さにして落っこちてしまったのだもの!」
無理やり同調される羞恥、悔恨、食欲、喪失感。寂寥、渇望。違う。これは自分のものではなくそこに横たわっている幻想種のものだ。
気をしっかり持て。しっかり――。
「――で、次は? そこまで言うからにはどんな焼き菓子だった鎌で語ってもらいたいものだな。幻の逸品かもしれん」
凛とした声がルーキスのすぐそばでした。気つけの銀の鈴。
「だから――きみの運命を狂っていく過程はきっとおいしいだろうって話をしてるんだよ。楽しい余興にはつまみが付きものだろう?」
汰磨羈はふんと鼻を鳴らした。
「悪夢を食うだけあって、悪口雑言のレパートリーだけは豊富だな。だが、それだけだ」
「はーん、でっかい方は人語を操るなんざ賢いじゃねぇか。堕ちてなけりゃ使い魔にして不眠症の患者の治療にでも使いたかったぜ」
ルーキスの赤黒く濁っていた視界が急速に晴れた。体中から重苦しさが消えていく。体が動く。自分が気が付かない内に傷を負っていたのだ。
「キスまでいかずにお告げで済んだんだから、上出来だ。この後も頼むぜ」
聖霊がルーキスに振るった杖の先端が術の余韻で紫色に点滅している。素人目からも大掛かりな術を使ったのだろうことが分かった。
「で?」
イラついた様子を隠しもせず、聖霊は巨大な夢魔に向き直った。
「それで俺の心揺さぶろうとしてんのか、ご苦労なこったね」
底辺をはいずる声が聖霊の記憶の底から悪夢を引きずり出してくる。
(病と闘い抜いて安らかに微笑んで死んだ親父。俺が無傷なのに隣で、目の前で、二度も大怪我をさせちまった彼女――)
「俺の心を乱すのは彼等のような信念の籠った行動と生命の輝きだけだ。てめぇのお言葉なんざ耳にも入ってこねぇよ、お生憎様!」
それらを一切締め出して、聖霊はタクト代わりにスタッフを振るい、イレギュラーズを自分の癒しが届く位置に布陣せしめる。五匹倒す間に皆それなりの傷を負っている。
げらげらげらげらげら。
つつましやかな象の口のどこから出るのかという哄笑はイレギュラーズの精神にガリガリと爪を立てていく。
耐える沙耶に触れるか触れないかのところを陸鮫が通る。視界の端をリトルワイバーンの翼が横切る。一人じゃないと平常心を保ち続けるよすがとした。ここで沙耶が呑まれたら、共に戦うこの二頭もメガ・バクアロンの餌食だ。
「短期決戦。攻撃集中で――行くよ!」
(回復役が聖霊しかいないうえに幻想種の犠牲を1人でも減らしたいからな)
聖霊に余力を残しておきたい。救うために。
メガ・バクアロンのの四肢はルーキスがさんざん刃を突き立て毒を流し込んでいた。沙耶の魔的な勘が狙い所はそこだと言っている。
指先からほとばしる魔力が茨となって夢魔の足を地面に縫い付ける。どろどろと滲出してくるマグマか、ためこんだ悪夢か。
「前面からの攻撃は少し危険そうだから、極力側面に回り込んでの攻撃を心掛けたいね」
おっとりとした口調に反して、傷ついた本体の後を託しているシシバノツルギの光輝から黒の大顎が姿を現し、メガ・バクアロンの横腹に食らいつき急所をえぐりたてる。
メガ・バクアロンは咆哮する。振り上げた鼻の先端にジョシュアの裁きの弾丸が食い込み、次の瞬間爆発四散する。
イェーガーは、猟兵は、獲物を逃がしたりしない。移動手段である足は仲間が封じた。ならば動き回る攻撃手段である鼻を打ち抜くのがジョシュアの仕事だ。
毒と淹れられた分、血を流すことを強要され、身ぐるみをはがすようにイレギュラーズの猛攻は続く。
「なんだ、口数が減ってきたな?」
曼殊沙華を咲かせ続ける汰磨羈が不敵に笑った。
「オレは、陰鬱とした鉱山みたいな雰囲気よりも、楽しいことしてることの方が好きっス」
ライオリットは小さく呟いた。
「だからこそ、精霊種だけじゃなくて他の獏たち妖精も笑えるような深緑を取り戻すために戦うっス!」
汰磨羈は、すぐそばに来たライオリットにうなずいた。超加速からの攻撃。曼殊沙華の上に突き刺さるのは超新星の輝きだ。
それで終わりだった。
「これもすべてカロンの仕業なのだよな……」
急速に冷えて固まり、もはや岩のようにしか見えないバクアロンの死骸の前で、沙耶は声を振り絞った。
「優しかったであろう妖精をこのようにして、私達に退治させるなど……許せない!」
握りしめたこぶしの中でヒマワリの種がきりりと鳴った。
機種の感情の高ぶりに反応しているのか、慰めるように陸鮫とリトルワイバーンが寄り添う。
「変質してしまったのはカロンの仕業なのですから、どうか最後はその魂に安らぎを……」
ジョシュアは、目を伏せた。
●
黙とうも一瞬だ。聖霊は、ここからが仕事の本番だといわんばかりの顔をしている。
「こちとら医神の寵愛を受けてんだ、俺がやらなかったら誰がやるってんだ」
「助けを求めてくれ! たすけてと考えるだけでいいから!」
人助けセンサーを起動させた聖霊と沙耶はがれきの中を進む。
踏みつぶされ、むさぼられながらも息のあるものがいた。
「助からない? 手遅れ? 知らねぇな! 俺は傲慢なんだよ! 生きたいと願う患者がいれば、どんな絶望的な状況だって俺は見捨てねぇ!」
救える生命は全部救う。それは妄執にも似ている。
「生きたいと願え! 死に抗え! てめぇの生命の強さと輝きを信じろ!」
聖霊が叫ぶ。治癒術と並行で施される手術。祈りの深さは縫合の細かさに比例する。
絶望をかみ殺す瞬間が続く。
「――なんだろう、ぽっかりと穴が開いたようなんだ。つかえていた物がなくなったような、それがさびしいような」
かすれてほとんど聞こえないうわごと。聞き取りにくさだけがメガ・バクアロンに似ている。
クリームを下にして落ちたタルト。メガ・バクアロンに食べられた魂は戻らないけれど。
見よ、奇蹟は縫合しにからめとられて可能性の海から引きずり出された。
「近場の街――は無理だろうが、癒し手がいるところまでは送り届けなくてはな」
ルーキスが言う。
欠けた魂で生きていくのはきっとつらい道のりだろうけれど、それでも彼は生きていた。
「獏達の眠りが安らかなものでありますように。そしてこの地に一日も早く平穏が訪れるように」
要求五社も運び出され、殿を引き受けたヴェルクリーズが六つのバクアロンの死骸に背を向ける。
「必ずこの剣を冠位怠惰へ届かせてみせるよ」
ヴェルクリーズの視線の先に、カロンが座する凍てついた闇があった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。短期決戦が功を奏し、幻想種の幾人かは生きていました。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。
GMコメント
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田奈です。
あなたのパンドラ粉々にするバクアロンの大きいのとすごく大きいのをやっつけてください。
失敗すると、幻想種の神官たちが犠牲になります。
*敵
*もともとの妖精 獏
OP参照。どこの世界にも似たような存在がいる。
今回変質したのは、パステルカラーなマレーバク的癒し系・手のひらサイズ。
混沌出身者なら絵本でおなじみだし、幻想種でなくとも、何となく自分も見たことあるかもレベルでポピュラー。
実際、悪夢を見たことないという奴は食べられたことを忘れていることが多い。
そんなのが変質して以下の通りになりました。元には戻らないので倒してください。
怪王獏(バクアロン)×5
本来は悪夢を食う妖精ですが、冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種(アロンゲノム)化しています。ここに居る個体は、魂を食う恐ろしい怪物です。
アロンゲノムとなり、体高1メートルの固まり切っていない溶岩をまとった象のような見た目になっています。
近距離物理攻撃を得意とし、スマッシュヒット時に稀にパンドラを直接減損させます。
パンドラがイレギュラーズから分離されるともぐもぐタイムに入りますので、必ず一頭無防備になります。お食事時間はパンドラ1つにつき1ターンです。
食べられたパンドラは倒しても戻ってきたりしません。
大怪王獏(グレートバクアロン)×1
本来は悪夢を食う妖精ですが、冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種(アロンゲノム)化しています。ここに居る個体は、魂を食う恐ろしい怪物です
上記の変質から共食いを経てさらなる変容を遂げております。
体高4メートルの固まり切っていない溶岩をまとった象のような見た目になっています。
牙が4本生え、体中に目が生えたので一目で区別がつくでしょう。更に人語を解し、イレギュラーズを言葉でほんろうし、怒りや狂乱、混乱を付与してきます。
近距離物理攻撃を得意とし、スマッシュヒット時にパンドラを直接減損させます。
パンドラへの影響は、無印より大きいでしょう。
パンドラがイレギュラーズから分離されるともぐもぐタイムに入りますので、必ず一頭無防備になります。お食事時間はパンドラ1つにつき1ターンです。
食べられたパンドラは倒しても戻ってきたりしません。
場所・『大樹ファルカウ(上層)』
一般的には立ち入ることの出来ない祈りの地です。
神官やそれに相応する立場の幻想種達が眠りに着いていたり倒れたりしています。
皆さんの目的は、彼らがバクアロンの餌食になる前にせん滅することです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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