シナリオ詳細
<黄金の黄昏>阿修羅の影に
オープニング
●
ローレットに舞い込む依頼は多岐にして、何処の国からもあるものだ。
時に砂漠の国にて。時に正義を墓標する国にて。時に海原駆ける国にて。
彼らは奔走する。救い求める声に応じて。
故に――豊穣の国も例外ではなかった。
……此度。ローレットに属する者達は豊穣のある地域に訪れていた。
それは簡単な依頼。しかし只人には任せられぬ妖怪退治。
麓の村に度々降りてくる猪の姿を模した妖怪を倒してほしい――との事であった。
そしてそれは成せた。『其処まで』は良かった、のだが。
「いんや流石は神使のお歴々! 拙(アッシ)、まっこと感服した次第であり申す!」
事を済ませ帰還――しようとしていた者らの前に現れたのは『覆面』の鬼人種。
――誰だ? 何者だ?
一切の気配もなくここまで距離を詰めるなど只人とは思えなかった。ねぎらいの言葉をかけてきているが……しかし、麓の村の者にしては、些か気配が『妙』だ。そもそも斯様に目立つ覆面者がいただろうか……
「おやおや? どうにも拙は御呼ばれでなかったご様子。
なんともはや悲しき事ですなぁ……拙は、ただ」
と。その時。
覆面者は指差す。彼らの背後を――そして。
「神使はんの武勇を称えて、警告に来ただけですんに」
直後。彼らの背後に現れしは『異形』であった。
それは六つの腕を持ちし悪鬼羅刹。巨大にして今にも爆発せん闘志と共に在る怪物。
――先の妖怪なんぞとは比べ物にもならぬ存在。
一溜りもなかった。装備が足りぬ。人員が足りぬ。なにより突発の襲撃で機先を取られれば。
打ちのめされる神使達。
奴の振るう一撃で叩きのめされる。奴の振るう一撃で全てが瓦解し。
一人の神使が吹き飛ばされると同時――大きな岩に頭部をぶつけ、意識が朦朧とすれば。
「いやはや。なんともこんなモノ……と言った所でしょうか?」
「――有象無象で終わりではない。次はもっとより大きな……」
刹那。その者が、覆面者と『誰か』が話しているのを見た。
朧気になる意識の狭間で、しかし。確かに其処には妖しき誰かがいたのだと……
●
「――という事件があってね。至急で悪いが、現場に向かってもらいたい」
暫くして。言うはギルオス・ホリス(p3n000016)である。
想定を超える妖怪が現れ向かっていた神使が全滅した――いや全滅と言うのは正しくないか。辛うじて助かった者もいて、その者から情報を聞く事には成功していたのだから。
六本腕の悪鬼。まるで阿修羅の如き存在が全てを薙ぎ払った、と。
……依頼自体が罠だったのか?
そう考えるに至るのが突如として現れた『覆面姿の鬼人種』だ。
「タイミングが良すぎるな。奴が引き連れてきたのか、それとも……」
「いずれにせよ放ってはおけないね。その妖怪も、まだ現地にいるのかな?」
「ああ。どうにも周囲を徘徊している様だ――いつ麓の村に降りてこないとも限らない」
だから妖怪の排除という依頼は続行されるのだと、ギルオスはジェイク・夜乃(p3p001103)やミルヴィ=カーソン(p3p005047)に紡ぐものだ。真実が如何様であるかは分からないが、どの道このまま危険な妖怪を放置してもおけない……元々の依頼の性質的にも、だ。
「ただ――もしも全部が『罠』だったとしたら、注意しておいた方が良さそうだね」
けれど、シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は思考する。
未だその阿修羅が留まっていること自体も『罠』ではなかろうかと。仇を取らんと現れた更なる神使達を打ちのめす為に……まだ見ぬ敵が潜んでいないとも限らない。警戒は綿密にしておいた方がいいかもね――と。
「うん。シキの言う通りだと思う……あ、そうだ。それと。さっき言った覆面の鬼人種の事もね。ソイツがまだ其処にいるとは限らないけれど……なんでも、担ぎ込まれた人によるソイツと会話する『もう一人』何者かがいたらしい」
そしてギルオスは告げる。戦場の片隅にいた『もう一人』の存在を。
ソイツは――『赤い錠』をぶらさげていたそうだ。
「――えっ?」
瞬間。アリア・テリア(p3p007129)の、心の臓が跳ね上がる。
鼓動が止まぬ。何故? どうして?
分からぬが――『分かった』事もあるものだ。
それはきっと、己が探していた存在なのかもしれない、と。
- <黄金の黄昏>阿修羅の影に完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年06月26日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
払い薙ぐ。その一閃の凄まじさたるや――侮りがたし。
敵は阿修羅。六本腕の悪鬼の圧が神使らと対峙すれば、その圧たるや只の魔ではないと誰かが悟るものだ。成程、奇襲を仕掛ける形であったとはいえ――元々この場に来ていた神使いらが倒されるのも頷けるものである。
……しかし。
「今回ばかりは……かまけている時間は、ないの!!」
『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)の心は焦がれていた。
彼女の思考は阿修羅、ではなく。阿修羅の影にいたであろう者へと注がれている。
赤い錠。情報屋が零していたその言葉に、彼女の魂が揺さぶられていて……
一刻も早く何か――『手掛かり』を探さねばならぬのだと。
だから。
「邪魔なんだッ……! 必ず退いてもらうからね……! 何処までも抵抗するのなら、力尽くでも……!」
「――アリアの様子がおかしいね。どこか逸っているというか……」
「……何かアリアさんは気になる事があるみたいだね。ともあれ、今は阿修羅を……!」
アリアは喉の奥から絞り上げる様な声を出しつつ――阿修羅へと相対するものだ。
然らばいつもとどこか様子が違うと『暁の剣姫』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)や『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)らは即座に気付くものだが……
しかしアリアは逸れども血気盛んに突出する訳でなければ、とにかく阿修羅の撃滅を急ぐべきかと思考を纏めるものである――故に。
「ご事情ともあれ。皆様とのえにし、確かにここに結ばせて頂きました。
――それではいざ、参りましょう。悪鬼羅刹が世に蔓延りたもうことはなく。
人の世に仇名すならば、かくも在りしは英雄奇譚」
往く。『えにしを縫う乙女』弟橘 ヨミコ(p3p010577)の言を皮切りに。
彼女の神速に皆が続く――結ばれた縁の糸が誰も彼もの動きへ連動すれば。
――かくも御身に疾風(はやちかぜ)の御技を宿らせしめ給へと、かしこみかしこみもまおさく。
一気に神使達が動き出すものだ。自らに万全たる加護を齎しつつイズマは前へ。
跳躍し――武の一閃を放つものだ。直後には逸りそうになる気をこらえて紡ぐアリアの凍気が敵を包み。さすればヨミコは死角よりの一閃放ちて、享楽の悪夢たる雫を阿修羅へと叩き込み、ミルヴィもまた阿修羅の懐へと跳び込むもの。
――それはまるで舞いの様に。
優雅たりうる柔らかな風の如く剛力振るう悪鬼の下へと。
「そんな腕が多いとこんな近くじゃ逆に腕同士ぶつからないように大変でしょ!?
――さぁそんな不格好な図体で風を捉えられるか、やってみなよッ!」
「やれやれ、とんだ幹の図体に無駄にあれそれを生やしたものだな。
枝葉が多いと、栄養が行き届かなくなるぞ?
――あぁそれとも既に脳髄にソレが届いていないか」
直後に行うは超至近戦。奴の腕の更に内側にて舞う剣撃が如何に紡がれるか――
更には『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)も続くものだ。
数の利を活かさぬ理由はない。既に至近戦を仕掛けているイズマやミルヴィとは別の角度に回り込み、汰磨羈は阿修羅めの自慢であろう六本腕の切断を試みんとするものだ……無論、奴が躱しにくかろう死角より。
「出血大サービスだ。その無駄な枝葉、私が綺麗に剪定し尽してやろう」
往く。縮地による刹那の瞬きが距離を詰めて――
直後に炸裂するのは闘気だ。極限まで込められし赫刃が穿つは腕の『根』元。
舞う血飛沫あらば。さてご自慢の腕はどれ程耐えうるかな――?
「――本当に悪鬼というか、鬼の様な姿だね。でも……怖くはないさッ!」
そして『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)も駆け抜ける――が。
彼女の役目は阿修羅よりも先に……潜んでいるやもしれぬ猪の方だ。
此れよりは阿修羅との激戦待ち構えている――ならば余分な芥に邪魔をされる訳にはいかぬのだ。故にこそ彼女は駆け抜ける儘に茂み掻き分け、そして見つければ刻むモノ。
『ギィィィイ!』
「ごめんね。君達に手古摺ってる場合じゃないんだッ……!」
反撃の突進。しかし分かっていればシキにとっては脅威ではない。
すれ違い様に叩き込んだ瑞刀の切っ先が――肉体と魂を解き別つ。
一刻も早く彼方に戻らねばならないのだから、と。
「ぶはははッ! なかなかに厄介そうな相手だねぇ!
だがよ――いい男に『手』を出したい気持ちは分かるが、まずは俺の相手をしてくれや!」
そして。シキが周辺の安全を確保している間に『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は阿修羅へと立ち塞がる。その構えは重戦車――或いは巨大なる大山が如き堅牢さと共にある。
例え阿修羅が薙ぎ払わんとして来ても微塵も揺らがぬ程だ。
無論。彼はただ受けているだけではない――それは後方より連続的に射撃を行っている『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)を援護する為で。
「全く。頼りになるぜ、ゴリョウはよ……! こいつは――負けてられねぇな!」
さすれば当のジェイクは阿修羅へと、幾度も引き金を絞り上げるものだ。
妻と娘に祈りを捧げ。全ての集中を此処に。
奴めへと放つは怒らせる心算の掠め弾――さぁ怒れ。
「以前此処に来た連中には大層にもてなしてくれたみたいだがよ……もっと強い奴らと戦いたいだろ?」
だったら、と。
「――俺達が相手だ!」
紡ぐ。全霊をもってこの阿修羅を倒す意志と共に。
例えこの地に何人の思惑が在ろうとも――捻じ伏せてみせよう。
●
阿修羅は六本腕を巧みに操り立ち回っていた。
一の腕で敵を薙ぎ。遠くにあらが二の腕で矢を吹く。
時に三の腕も用いて攻勢を仕掛けんとすれば――その攻勢、正に悪鬼が如し。
「だけど、そこに隙があるさ……! 完全無欠には程遠いッ!」
「どこまで耐えれるかな――見かけだけの巨木かどうか、試してやろうじゃねぇか!」
だが。イズマやジェイクの闘志は斯様な悪鬼如きに折れはせぬものだ。
腕が多いかなど関係ない――幾人の力で封じてやろうと。
超接近戦より『手数』で封じ込めてやる。
イズマの施す戦いの加護は数多の手段に通ずる……ジェイクにも齎し万全を期せば双方ともに息を付かせぬ連撃を繰り出すものだ。イズマは敵の動きを封じんとする狙いと共に撃を紡ぎ、ジェイクからも圧倒的な命中精度から繰り出す銃撃と掌底が至る。
――さすれば巨体の阿修羅の身が押し返されんとする程だ。
正に暴風。嵐の如く……更には。
「――今の私は反応に振りすぎて豆腐の角にぶつかっただけで重傷を負いかねない手弱女でございますわ。どうぞお手柔らかに」
ヨミコの一撃も続くものだ。念入りに、毒を交えて敵の体力を削り取らんとする。
高速の移動こそが彼女の強み。常に移動しながら敵を惑わしつつ……速度に乗せた一撃を阿修羅へと叩き込んでやろう。幾度も幾度も、ええ、貴方が倒れ伏すまで……
「こう見えて結構武闘派でございますの。木偶の某には負けていられません」
『――――!!』
然らば阿修羅があまりの攻勢に怒り狂うかのように腕を振るうものだ。
一度態勢を立て直すつもりなのか、神使らを己から引き離す為に……
吹き飛ばし、再び纏わりつかれる前に各個撃破してやろうと――しかし。
「おいおいおい、どうしたぁ! 今の一撃程度でよ、俺をぶっ飛ばせるとでも思ったか!?」
あめぇよッ――そう告げるのはゴリョウだ。
徹底的に備える彼を吹き飛ばすは容易くなく。
迂闊に仕損じれば――むしろ彼の一撃により阿修羅の方が吹き飛ばされそうだ。
張り手一閃。逆に奴を追い詰めてやろうとする。
無論、阿修羅の掌底も繰り出されれば中々の痛みはある、が。
ど突き合いになろうとも構わぬ。ゴリョウはまだまだ崩れぬし――それに。
「一人じゃないからね……! それまでじっくりと観察させてもらうよッ!」
いざとなればミルヴィもいるものだ。
武の剣舞。阿修羅の振るう腕を掻い潜り未だ纏わりつく彼女は周囲の状況を常に把握せんとしていた――空から見据える様な俯瞰の感覚と共に。誰ぞがどこにいるか、そして同時に阿修羅自体の様子も常に。
じっ、と見据えていれば段々と奴の様子も探れるモノである。
どれぐらい疲弊しているのか。どこに気がそぞろであるか……さすれば。
「こんなに動いてたら案外色々見えてくるもんだね……そこ! アリアっ!」
ミルヴィは紡ぐ。時を見据えていた、アリアへと。
ああ一刻も早く、早くと心が急かしてくるが。
それでも必死に抑えて――彼女は眼前の事態へと相対し。
「邪魔するなあああああ! どけえええええええ!」
――同時に咆哮するが如く。
全霊の魔を奴へと撃ち放つものである。
極撃。正にそう言うに相応しき収束させた意志と魔力の集合は光となりて。
邪魔立てせんとする悪鬼を撃ち貫く。
――邪魔だどけ路傍の石如きが何を立ち塞がっている黙して砕けろ。
斯様に思ったかは定かではないが。しかし彼女の闘志は時を経る事に燃え盛りて……
「――アリア! お待たせ、近くの猪達は大体倒せたはずだよ……!」
「むっ、シキが戻って来たな――然らばそろそろ収穫時だな。その御霊、頂戴する!」
そして。直後には見つけた限りの猪を倒したシキが戦線に戻るものだ。
潜んでいた個体は凡そ倒しえた。幾らかは阿修羅との戦線に踏み込む様に乱入している個体もいるが……それは纏めて薙ぎ払えばいいだけの話だろう、と。故に汰磨羈は広き視点をもってして全てを捉えれば。
「いい所なのでね。邪魔しないで貰おうか? あぁそれとも自ら狩られに来たか?」
「ごめんくださいまし、あなた方に割いている余力はございませんの。
それでもどうしても、と申されるのでしたら……どうぞこちらの毒をお召しあれ」
穿つものだ。ヨミコと共に。
毒を放つヨミコ――阿修羅諸共に切断せしめんとする汰磨羈――
シキが徹底的に数を減らしたのも相まって少数の乱入など、もはや敵ではなかった。数があればこそともあれ、突撃しか能のない猪は最早碌な抵抗も出来ぬままに倒れ伏していき……然らば最早阿修羅が混乱の最中に態勢を立て直す事も出来ぬ。
『グ、ガ、ァァァア……!!』
「おぅどうしたぁ。んな呻き声あげてよ……! もうお前さんを助ける奴はいないぜ!」
直後。イレギュラーズ達のあらゆる攻勢の方が、阿修羅の撃を上回っているのか――奴が息を切らし始める。身には幾つもの傷が目立ち始める程で、さすればゴリョウは念の為にと周囲にまだ潜む敵影がいないか温度の知覚を行うものだ。
横っ面を殴られて生まれた隙を阿修羅に、などと冗談でなければ。
警戒はしてもし足りぬ程なのだから。
そして――趨勢は完全にイレギュラーズ側に傾き始める。
阿修羅は必死になりて六本腕を振るうも、攻撃に転じれば防御に隙が生じるものだ。故にそこをイズマやジェイクの連撃が逃さぬし、戦場に舞い戻るシキが喰らい尽くすが如く――直死の一撃を此処に。
『ヌ、グルァアアア!!』
「させないよ! もう二度と君に誰かをやらせたりするもんか……!
私はまだ立ってる。私が立ってる限り、絶対に誰も傷つけたりなんか――させない!!」
「そろそろ限界だろ? 他人を蹂躙したんだ――今度は自分の番が来ただけさ。大人しく受け入れな」
天に向けて響く阿修羅の咆哮。
それは死に物狂いたる最後の宣言か――しかしシキは今更臆したりするものではない。
この身に宿りし余力は未だ健在。動く限り、息をする限り――コイツの好きにはさせぬのだと。然らばジェイクも最後まで油断はせぬ。この六本腕と関わりのある『他の者』が潜む可能性も考慮すれば……いつ何時に横槍が至らぬとも限らぬのだから。
優れた感覚を周囲に張り巡らせ、常に警戒は怠らぬ。
――が。先の猪以上の介入は、少なくとも神使達の知覚範囲では至らなかった。
実際にこの周囲にはいないのか、それとも……
「ったく! これだけやってさ、無事じゃないのにそんな無理矢理動くなんて……!」
ともあれ阿修羅だ。全身より血飛沫回せる奴の限界は近い筈だ、が。
未だ立ち続けている。ええいなんという耐久性か――しかし。
……アタシも痛いけれどアンタももっと痛いハズ!
確実に敵のダメージの方が上だとミルヴィは確信していた。
故に最後の力を奪うべく彼女は跳躍し――滑り込む様に奴の足元へと。
足の腱へ一閃。バランスを崩すべく無数の刃と共に至れば……
「ああもう――聞こえない。聞こえないんだよ、声が!」
刹那。アリアは叫ぶ。
阿修羅の所為で。猪の所為で周囲の気配を落ち着いて探れぬと。
だから彼女は紡ぐ。狂乱を帯びた、音楽の渦を。
「私には……やる事が、ううん、やらなきゃいけない事があるんだ! だから!」
これで終わりだと。
ミルヴィの一撃により機動力を奪われた阿修羅へと、ソレを叩き落してやる。
彼女の放つ音色の奔流が――阿修羅を含め、その場の全て呑み込むかのように貪った。
●
「ふぅーい。なんとか上手い事六本腕野郎は倒せたな……さて、っと」
「まだ何かいるかもな。
用心しておくに越したことはない……それにアリアは何か探したいみたいだしな」
そして。阿修羅を倒して後にゴリョウとジェイクは素早く周囲を窺う。
先程から注意はしていたが、あくまでも戦闘を優先した上での片手間であった……故に今度は腰を落ち着け、周囲を探知する事を最優先に。それに先の神使達はこの後に妙な『鬼』がやって来たという話だったのだから。『まだ』が在るかもしれぬと。
「アリア――大丈夫? さっきから焦りみたいなのが見えてたけど」
「なんだろう……もしかして、話に在ったのはアリアの知りあい、なの?」
「――分からない。分からない、けど」
更にはミルヴィとシキが――アリアへと言を紡ぐものだ。
戦闘に影響が在る程ではないが、どこか気もそぞろであったアリア……
だが、彼女自身にも分かっていないのだ。
赤い錠。その言葉の指し示す意味が。だけれども魂が疼くのだ。
――絶対にソレは己と関わりがあるのだと。
「ッ、ごめん、ちょっと行くね……!」
「構わんが――いざと言う時には私達を頼れ。"準備"はしておく」
「うん……! ありがと!」
そして彼女は遂にこらえきれず――飛行して空から探さんとするものだ。
さすれば。止めはせぬが汰磨羈は彼女へと言うものである。
――『いざとなれば私達もいる』と。
一人ではないと……汰磨羈は備えるのだ。
「……どこかで見てるんだろう? 出てこないのか?」
そしてイズマは周囲に敵意を感知する術を張り巡らせる。
ただ阿修羅を放置しておしまい、な訳はないだろうと。
どこだ? どこにいる……? いいや、そもそもこの一件事態何が目的だったのか……
(どこ……どこにいるの?)
アリアは飛ぶ。目的の人物が、どこかにいる事を信じて。
赤い錠。きっと、私の欠けた記憶を埋める……唯一の手掛かり。
……不安もある。もしも神使を叩きのめした阿修羅を放ったのがその人物なら――
(ううん、きっと何かの間違い……だよ、ね?)
ただきっと偶然に其処にいただけなのだと。
彼女は信じながら――探し続ける。
近くに。近くに誰ぞの気配を感じればきっと、きっと分かるから――と。
「……アリア様はどうにも因縁があらせられる模様ですね」
そして。焦燥と共に探す彼女を見据えながら――ヨミコは思うものだ。
此度の依頼は如何なる意味があったのか。神使いを叩き伏せ、何を企んでいたのか……
「考え得るのは『小手調べ』だったという事でしょうか」
「――まさか。ローレットに所属する者がどれだけの実力を保持しているか、と?」
「ええ勿論……ただの予測でしかありませんが」
故に。イズマと言を交わすものである。
これは始まりに過ぎないのではないかと。
阿修羅を倒せるか否か、倒せるにしてもどれ程の実力を――此方が持っていたのか。
何か、調査でもしていたのではないかと……
●
「むむ? あの阿修羅がいつの間にやら……ふぅむ?
これはこれはちょいと予想外と言えば予想外でありやんすねぇ。
まーだまだアレには使い道があったんですが……」
――そして。少し離れた山中。木の上にて座す一人の鬼人種の姿があった。
訪福。彼の顔は覆面に包まれていて見えぬ……が。
「ひーふーみー……のっと。うーむ、最精鋭であればあ奴を倒すは十分可能……とでも? いやはやあの方にこれは伝えておかねば――と。後は顔も窺っておくでありましょうか。見えるでしょうかねぇ……」
彼は潜む。此処で神使達と相争う気はないから。
『その段階』はまた別の機会なのだと言わんばかり……と。
そして。彼は単眼鏡らしき代物で遠くから神使達の顔を見んとすれ、ば。
その内の一人に――空舞うアリアの姿があった。
胸元に蒼い鍵のある神使の姿を――その時確かに訪福は目にしたのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
かくして阿修羅は倒され、この周辺と麓の村の平穏は守られた事でしょう……
……影に潜む者達の事はまたいずれ。
MVPは阿修羅を倒すに至って非常に多くの精度の高い攻撃を叩き込んだ貴方へ。
ありがとうございました。
GMコメント
●依頼達成条件
『阿修羅』の撃破
●フィールド
豊穣の山奥です。周囲は木々に囲まれています。
時刻は昼でも夜でも自由に選べます。特に指定が無ければ昼に決行されます。後述する『阿修羅』が現れた地点は判明していますので、そちらの方向へと進んでいればやがて阿修羅と遭遇出来る事でしょう。
●敵戦力
『阿修羅』
六本腕の悪鬼。どこから現れたのか不明ですが人間を――特に神使を――敵視している様な雰囲気があります。非常に優れた腕力。そして六本腕を活かした連続的な攻撃が特徴な個体です。
・薙ぎ払い(A):物近範。威力傾向『中』。『飛』『出血』BSアリ。
・吹き矢(A):神遠単。威力傾向『小~中』。『毒系列』『痺れ系列』BSアリ。
・大掌底(A):物至単。威力傾向『大』。『致命』BSアリ。
・『六本腕の悪鬼』(P):阿修羅は一度に最大三回まで攻撃する事が出来る。ただし、三回目の攻撃行動を行う場合『一回目』『二回目』を含めて命中が低下し、三回目の攻撃以降~次の自分の手番まで、回避、防技、抵抗、反応が低下する。
●猪型の妖怪×??
元々の討伐予定だった猪型の妖怪達です。
この辺りを住処にしていたと思われます。元々の神使達の行動によって倒された……と思いますが、元々の依頼が罠だったと考えると、まだ残党が潜んでる可能性もあります……周囲を探知すると発見出来たりするかもしれません。
ただ、あまり強くはないです。直線的な突進攻撃を仕掛けてきますが攻撃はソレのみの様ですので、注意しておけば被害は抑えられるでしょう。
●鬼喜亭 訪福(ききてい ほうふく)
謎の人物です。(壊滅されかけた)神使達の前に現れ、労いの言葉をかけていたのですが……? 現在の行方は不明です。OPには登場していますがリプレイにも登場するかは不明です。
●???
鬼喜亭 訪福と話していた――とされる人物です。
あくまで生存者が朧気だった時の記憶によるもので、如何なる人物であったのか正確な所は定かではありませんが……『赤い錠』をぶらさげていたとか。此方の人物もリプレイに登場するかは不明です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
Tweet