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シナリオ詳細

<Paradise Lost>地に希望なく、天に救済なく、

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ただ闘争があるのみ
 ――サリュー。
 彼のクリスチアン・バダンテールが治める、幻想北部の要衝。
 クリスチアンにかけられた数々の嫌疑はさておき、ローレット・イレギュラーズとも浅からぬ因縁を持つ彼の治めるこの地に、あなたたちイレギュラーズがやってきたのは、イレーヌ・アルエ(p3n000081)からもたらされた、奇妙な依頼故だった。

「サリューの教会の『雑務』を行ってほしいのです。ええ、ひとまず一週間ほど」
 幻想中央教会の大司教であるイレーヌ直々の依頼と聞いてやってきたイレギュラーズ達は、そのあまりにもあまりな依頼内容に、イレギュラーズ達は一斉に反応を返した。つまり、憂慮を示したのである。
「何をたくらんでいるの、汝(あなた)」
 憂慮を示したものの内の一人、レジーナ・カームバンクル(善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665))は、その赤の瞳を真っすぐに、イレーヌへと向けた。シンプルに言えば。イレーヌ直々に、よりにもよってサリューの教会で雑務をお願いするなどは『絶対にありえない』。なれば何らかの意図がある事は確実である。イレーヌは表情一つ変えず、続ける。
「これはつまらない世間話なのですが。
 先日、アーベントロートの街に出向していた神父が一人、お酒の飲み過ぎで川に転落、そのまま溺死してしまいまして。
 あぁ、それはさておき、アーベントロートも今は色々と大変なご様子」
 話が切り替わったように思えるが、勿論これは『世間話などではない』。詰まる所、既にイレーヌの事情説明ははじまっている。
「災難だ。普段からお酒を飲むような人物ではなかったと聞いているけどね。よっぽど『ストレス』があったのだろう」
 アト・サイン(p3p001394)が嘆息した。そのまま小声でぼやく。
(なるほど、草(諜報員)が一人消されたか。流石幻想で一定の権力を持って居るだけのことはある。暗闘もお手の物……ただ、アーベントロートには流石に通じない様だ)
(たしか……リーゼロッテさんのことでトラブルがあったですよね?)
 ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が小声で答える。何らかの動きがあったことを、イレーヌ達中央教会側も察しているのだろう。もちろん、その深部に至るまでではないが、『教会の暗部』とでもいうべき諜報部隊は、今日もあちこちで網をはぐらせているはずである。
 リーゼロッテと言えば、先般、当主のヨアヒムより代行の座を解任され、追われる身となっていたはずだ。となれば、今回の件も、それに端を発する事か。
(サリュー……確か、ローレットの精鋭が、バダンテール家からの依頼でリーゼロッテちゃんの援護に行ったって)
 メルナ(p3p002292)が呟くのへ、レジーナが頷いた。
(この女狐、それを知っているわね)
「あら、内緒話も良いですけれど、私も混ぜて欲しい所です」
 イレーヌはそういうと、ゆっくりと微笑んだ。
「ええと、どこまで話しましたか。そうそう、アーベントロートが大変……これは世間話でしたね、失礼。
 それで、バダンテール家の方から、『教会の人手が足りなくて大変との陳情があった』とご連絡を受けまして。
 ええ、そうなれば大変……となりまして、私どもとしても、これはしっかり、サポートしなければと」
「なるほど。そうなれば、人員の増強は最優先となるね」
 アトが頷く。バダンテール家の方から、とはなんともきな臭い。前後の情報から考えれば、これはサリューからの、何らかの援護要請とみるべきだろうか。もちろん、彼の魔剣士たちを擁するクリスチアン・バダンテールが、『自分の身を守ってほしい』などと情けない事を言いだしたわけではない。何らかのトラブルがあったとしても、クリスチアン以下側近のものは、鼻歌でも歌いながら機器などは切り抜けるだろう。
 ――だが。クリスチアン・バダンテールは、『サリューの王』なのである。
 クリスチアンとて、王を名乗る以上、そこに侍る民が存在する。となれば、必然、サリューという都市を防衛する責務と義務と理由を持つのだ。サリューという都市全域を守ることは、如何に彼らが人外の魔人と言えど難事である。ましてやそれが、例えば、魔種やアーベントロートの暗殺者たちだとしたならば――。
「なるほど、手は足りない、のですね」
 ふむぅ、とブランシュは唸った。それに――クリスチアンが他の領地に援護を頼むような人間かどうかはさておいて――クリスチアンは現状の時点で、大々的に他の領地に援護を要請することはできない。あくまで、未だ『敵が何らかのアクションを起こすかもしれない』程度のそれでしかないのだ。しかも、現時点での仮想敵はアーベントロートの暗殺集団。前もって「襲撃します」などと予告状を送ってくるはずがない。現段階で援護を要請した所で、鼻で笑われて握りつぶされるのがおちだろう。
 となれば、クリスチアンが自由に動かせる駒の一つとしては、『民の命を天秤にかけられたなら、そちらに傾かざるを得ない』教会一派が該当するわけである。
 アーベントロートの一流の暗殺集団には勝てないとしても、都市部での避難誘導や、雑魚を相手に善戦することは可能だろう。
 もちろん、教会としても、クリスチアンの駒扱いなどは御免被るので、此方の最大特記戦力――つまり、ローレット・イレギュラーズ。この場にいる十名を派遣することにしたわけだ。
「色々と大変だね」
 メルナが嘆息するのへ、イレーヌは苦笑した。
「と、言うわけです。色々と『雑事』が重なっているようですので、お願いできますか?」
 その問いに、イレギュラーズ達は頷いた。裏でどのような事態が進行しているのか、この時はまだ、誰にもわからなかった。

「それで、本当にシスターのまねごとをさせられるとは思わなかったわね……」
 レジーナが、夜の教会で嘆息する。建前上、教会から依頼されたのは『雑事』だ。当然、教会での通常業務も含まれており……一行は、偽装の意味合いも兼ねて、ここで雑務をこなしていた。
「さて、今日で五日目か。今のところ、平穏なものだが……」
「これ、一週間過ぎたら契約延長とかになるですかね?」
 ブランシュがむむむ、と唸る。
「その場合は、多分一回帰還することになるんじゃないかな?」
 メルナが微笑んだ。そう何日も、イレギュラーズ達を拘束していく表向きの建前も存在しないだろう。
 ……だが。その心配等する必要がないという事を思い知らされたのは、まさにその瞬間――。
 強烈な頭痛が、ブランシュの頭を駆け巡った。殴られるようなそれは、心から発せられる緊急信号(アラート)であった。
 脳内で、アラートが鳴り響く。
 ――敵・エルフレームシリーズを確認しました。
 ――TypeKira・オリオスです。
「皆さん、戦闘準備を!」
 ブランシュがそう叫んだ瞬間、教会の扉が派手にぶち抜かれた。バズーカのような巨大な砲塔を、鈍器のように振り回し、共募呻いた笑みを浮かべるそれは、間違いなく魔種のそれ。
「よう、姉妹! わかる様にアラートを出してやったぞ!」
 その魔種――オリオス=エルフレーム=リアルトが、嘲るような表情を向ける。その隣には、対照的に無表情な、血まみれの少女がいた。
「……あの血液、まだ乾いていないな」
 アトが眉をしかめた。すでに何名かの犠牲者は出ている様だ。
「自己紹介をしてやる!
 私はオリオス=エルフレーム=リアルト。こっちの静かなのがサリアだ」
「……どちらも魔種、だね……?」
 メルナの言葉に、オリオスは頷いた。
「ご名答! ま、私とこいつ等では目的が違うがな!
 サリアは命令に従って……私は、ただ闘争の喜びをいただきにな!」
「オリオス! あなたはまだ、そんなことを!」
 ブランシュが声をあげる。飛び掛かろうとするのを、レジーナが止めた。
「単独では無理よ。魔種が二体……しっかり連携をとらなければ負けるわ。
 オリオスというのは、汝(あなた)の既知だとしても。隣のサリアという子は未知数。
 どんな能力を持って居るかわからない。警戒は最大にして」
「作戦会議くらいは待ってやるぞ!」
 オリオスが、にぃ、と笑う。
「あの気持ちの悪い男の思惑に乗ってやるのは業腹だが、私としては今宵の闘争の内に身を委ねられるのは心地よい。
 さぁ、かかって来い、姉妹!」
 対照的に、サリアは静かに、刃を構える。その身体、刀身に、蒼い炎を纏い。
「地に希望はなく、天に救済はなく。
 世に希望があるならば、何故私たちに手を差し伸べなかったのですか、神よ」
 絶望するように、泣くように、怒るように、憎悪するように、それは言った。
「敵の総戦力は未知数だ。追い払うだけでいい」
 アトが言う。
「最優先は、付近の住民の安全だ。事態を察して、教会関係者が動いているだろう。
 兎に角僕たちは、こいつらが街に飛び出さないよう、相手をしてやらなきゃならない」
「うん……!
 この街は、私が守る!」
 メルナが刃を抜き放つ。それに合わせるように、仲間達も武器を構えた。
 サリューの地の一角で、一つの激突が巻き起ころうとしていた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 サリューの街に現れた、二人の魔種を迎撃します。

●シナリオ同時参加の注意
 本日公開されている<Paradise Lost>のオープニングは複数同時に参加出来ません。
 どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。

●成功条件
 『オリオス』と『サリア』を撤退させる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 激動のサリューの地。敵部隊の城下襲撃に合わせ、イレギュラーズ達が詰めていた教会に現れたのは、二人の魔種。
 オリオス=エルフレーム=リアルト。そして【壊炎の濁青】サリア。
 非常に強力な二体ですが、オリオス、そしてサリアにも何らかの思惑があるようで、本格的な殲滅行動をとってはいないようです。
 敵が本腰を入れていないのなら、二体の魔種相手でも勝機はあります。
 皆さんは、この教会をバトルエリアに、二体の魔種を迎撃。
 体力を削り、撤退に追い込んでください。
 作戦決行時刻は夜。戦闘エリアは、教会の礼拝堂。
 特に戦闘ペナルティは発生しないものとします。

●エネミーデータ
 【エルフレームTypeKira】オリオス=エルフレーム=リアルト
  巨大なバズーカのようなものを持つ、元秘宝種の魔種です。
  ブランシュさんの関係者で、おそらく同じ目的の下に作り上げられた姉妹機、という事になるかと思われます。
  パラメータ傾向としては、高い攻撃力と防御能力を持つ、重装砲撃タイプ。
  遠距離は彼女の距離であり、『渾身』を持つ全力全開の攻撃は脅威的の一言。
  『ブレイク』や『封殺』、『防無』を持つ遠距離攻撃も厄介です。
  タンク役が確り引き付け、この攻撃を封じるためにダメージを重ねた方がいいでしょう。
  近距離攻撃は遠距離攻撃に比べれば『幾分かマシ』ですが、それでも甘く見ないでください。

 【壊炎の濁青】サリア
  身の丈に合わぬな剣を、膨大な蒼き炎の魔力で身体強化を行い振り回す、スピードとパワーを兼ね備えたアタッカー。
  その素早さで前線をひっかきまわしつつ、強烈な一撃を加えてくるでしょう。
  『連』を持つ複数回攻撃や『火炎』系統のBSを持つ攻撃が驚異的です。
  複数人でかかって足を止めて、確実に一打一打を当てていくのがいいと思います。
  ただし、サリアは『復讐』を持つ攻撃も行います。中途半端に痛めつけては、その怒りと絶望の蒼き炎に焼かれてしまうでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • <Paradise Lost>地に希望なく、天に救済なく、Lv:50以上、名声:幻想20以上完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年06月15日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
アト・サイン(p3p001394)
観光客
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー

リプレイ

●邂逅の双魔
「さぁて、作戦会議は済ませたか?」
 魔種――オリオスがにぃ、と笑う。傍らに立つもう一人の魔種、サリアは静かに、長剣を構えた。
 ぼう、と蒼い炎がその身体に燃え盛る。その表情は、氷のように冷たく、しかし身を包む焔は、内に隠す激情を現しているかのようにも思える。
「まったく、王党派の僕がサリューの守備なんて気まぐれでやったからこうなるってか?
 教会にはもう少し静かに入るもんだ、罰当たりめ」
 軽口をたたくように言う『観光客』アト・サイン(p3p001394)だが、その内実は油断とは程遠い緊張感に満ちている。当然だ。単体でも総力を結集しなければならないであろう魔種が、この時、二体。そのどちらも単体でこちらを壊滅させる可能性のある実力者であることは、アトにも十分に理解できていた。
 アトが静かに後方の気配を探ると、僅かに人が移動するそれが感じられた。なるほど、どうやら状況をしっかりと理解している聖職者たちが派遣されているらしい。ここで手伝われても騒がれても迷惑だ。イレギュラーズ達にとって最もやりやすいのは、自分たちを囮にしてさっさと付近住民と共にこの場を離れてくれること。純粋にそれが、各々の役割であるのだ。
「まずいね……魔種が二人。それに、どうやら被害はもう出ているみたいだ……」
 悔し気に、『心優しきオニロ』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は言う。オリオスはともかく、サリアの服とその美しい頬を濡らす血は、まだ乾いていない。外の喧騒も聞こえている。
「襲撃は、ここだけじゃないみたいだけど……でも、この二人をどうにかしないと、もっと被害者が出てしまう可能性があるよね……!」
 ヨゾラの言葉に、仲間達は頷いた。ローレットの動向を見れば、何らかの理由でサリューの地に訪れているローレット・イレギュラーズのメンバーは多い。他の襲撃は仲間達に任せるとしても、自分たちが失態を演じれば、解き放たれた二体の魔種は、さらなる殺戮を開始するだろう。
「オリオス……私たちの役割は魔種殲滅用兵器。その任務を忘れて魔種に堕ちるとは、もはやこれまで。
 エルフレームTypeSINとして、貴方を破壊します。たとえ姉妹機でも例外は認められません。
 ……隣の子も、容赦しないですよ」
 そういう『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)へ、オリオスは笑ってみせた。
「分かっていない様だなぁ! そして変わっていない! ただ命令に身を委ね自分で考えらんからそんなことになるぞ、姉妹!」
「思考停止はどちらですか! 貴方は間違っていた! だから封印された!」
「違うな! 私は正しいからこそ封印されたのだ! 今の世が間違っているのなら、私がすべてを破壊して新しい時代を始めてやるというんだよ!」
「随分と大きく出たようでありんすね」
 くっくっと笑うのは、『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)が笑う。
「いや、皆様の実力は十分理解してありんすがね。
 されど、わっちにも色々と事情がごぜーまして。
 その野望、阻止させていただきんすよ」
「この街、今一体どんな状況に陥ってるの……!?」
 表情をわずかに歪めながら、『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は言う。そのまま、挑発するような声色で、言葉をつづけた。
「この騒動を仕掛けた『気持ち悪い【貴族】』の思惑、聞きたいね!」
 アリアがそういうのへ、オリオスは、ほう、と唸った。
「アーベントロートを知っているのか?
 なるほど、貴様等、偶然この場にいたわけではないな? 奴へのカウンターか!」
「オリオス、今のはブラフです」
 サリアが静かにそう告げる。ぼう、とたしなめるように、蒼い炎の火の粉が舞った。
 サリアの言う通り、アリアの言葉はブラフである。特に貴族、という点で、否定しないことを釣りだせれば……との思いだったが、それ以上に随分とあっさりと漏洩したものである。
「ほう! はったりは戦の常道か。気に入ったぞ! 無意味だがな!」
「それはどうも。こっちとしては、どんな情報でも知っておきたいからね」
 アリアが笑うのへ、続いたのは『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は続けた。
「やはり、あの方の事件に連なる事なのね……。
 汝(あなた)たちは、現当主の麾下……ではなさそうね。ああ、答えなくていいわよ。口ぶりで分かるわ」
「そうですね。それは認めましょう」
 サリアがゆっくりと頷く。
「ですが、オリオスの言う通り、無意味です。知ったところで、あなた達には何もできません。
 ここで朽ちるのですから」
「そう? 甘く見ないでほしいのだわ。
 我(わたし)はレジーナ・カームバンクル。
 至上の蒼薔薇に影が落ちると言うならば、我(わたし)はその影に【死を喚ぶ者】となろう。我が名はナハトメルダー。無貌の騎士。汝らの悪夢である」
 さぁ、とその言葉に合わせるように、イレギュラーズ達は一斉にその手に武器をとった。オリオスは楽し気に、サリアは無表情で、身構える。
「……あの、サリアって言う子……どうして、この感覚は……!」
 そう困惑したように言うのは、『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)だ。
「あの怒りは、悲しみは……絶望は、まるで……!」
 ぞわり、と心の中に何かが這いまわるような感覚だった。自分の封印していた、目をそらしていた何かが、今目の前に現れたような感覚。同じものを見て、変わってしまった私、それを見せつけられているような感覚。
 メルナの様子に気づいたのか、サリアはメルナを見た。その瞳の中に、自分がうつる。暗い瞳。絶望の中にあって、足を止めぬ怒りを持ちながら、しかしその進むべき道をたがえてしまった少女。そのように感じられる。それはある意味で、メルナとサリアが同類だからなのか? 本能的な、本質的な超共感のように、何故だろう、メルナはサリアを理解(わか)ってしまう。それは、呼び声にも似た何か。
「大丈夫ですか?」
 そういうのは、『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)だ。
「気をしっかり持ってください……私達(ウォーカー)は反転こそはしませんが、その心に狂いを生じることはあるのですから」
「うん……大丈夫……!」
 メルナは頷く。アッシュも頷いた。
「……味方の抜け目のなさには驚かされましたが、しかし敵のそれはさらに上を行くようです。
 気をつけて。何が起こるか分かりません」
「ああ。あの二人の好き勝手にさせるわけにはいかない」
 そう言って、細剣を構える『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)。
「オリオス、って言ったね。
 ……闘争を求めるなら相手になろう。
 されど俺がここにいる限り、破壊も殺戮も許しはしない……!」
「敢えて、俺たち、と言わせてくれ」
 続くのは、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)だ。
「なるほど魔種との対面は初めてだが……洒落にならないほど禍々しいプレッシャーだな、これは。
 だが、それで俺たちを潰せると思うな、魔種よ。
 鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。……そちらが満足できるか知らんが、全力でお相手仕る」
「ブシドーって奴か? 良いな。私は剣は使わんが、これは殺し合いだ。卑怯だなんだとわめくなよ」
 オリオスの言葉に、エーレンは頷く。
「元より魔と対峙するんだ。その程度で騒ぎはしないさ。
 来いよ、魔種」
 ちゃき、とその刃が鳴った。
 オリオスが笑う。
 サリアが見つめる。
 イレギュラーズ達が息をのむ。
 かたり、と、聖堂に音が響いた。
 家鳴りだろう。だが、それが合図に丁度よかった。
 それを合図に――。
 戦いの火ぶたは切って落とされた。

●世は闘争のみにあるべく
「戦うと元気になるな! 何故だと思う!?
 死を目の前にし、生存本能と闘争本能が活発化するからだよ!」
 オリオスが叫ぶ! 巨大なバズーカのような武器を手にしつつも、その動きは素早い。オリオスはバズーカを構えると、サリアが巻き込まれるのも気にせずに打ち放った! 強烈な閃光が、聖堂内を貫く!
「まったく、滅茶苦茶だ!」
 アトは叫びつつ、跳躍。駆ける無数の閃光=散弾の如きそれを回避。保護結界によって聖堂は守られていて、精々衝撃に椅子が吹っ飛んだくらいである。むしろ動きやすくなったといえるだろう。散弾閃光を回避しながら、イレギュラーズ達は魔種へと肉薄する!
「一撃の威力は、やはりオリオスの方が上だ。予定通り、先に奴を叩く」
 アトの声に、仲間達は頷いた。
「そう集中攻撃など……」
 サリアが炎を纏わせ、その剣を振るう。速い! 強烈な炎の斬撃が、聖堂内を蒼く照らした。が、それを受け止めたのは、レジーナだ! シロキ衣を振るい、赤紫色にも見える炎のようなエフェクトが、サリアの蒼の炎と接触! 衝撃を散らす!
「汝(あなた)の相手は我(わたし)よお嬢さん。
 我が名はレジーナ・カームバンクル。
 神の救済をお望みかしら?
 それなら丁度いいわ。
 ナハトメルダー(死を喚ぶ者)がきっちりその役目を果たしてあげる。
 死という救済をね」
 振るわれるその手の軌跡に、レジーナの炎が流れる。レジーナの炎はサリアの蒼き炎を切り裂き、その肌に迫らん――とし、サリアは剣の重さを利用し、自らの身体を宙に放り投げた。
 くるり、と宙で逆さになってみせたサリアが、その脚に青の炎を纏わせ、ブーストのごとく速度を乗せた。強烈な回し蹴りがレジーナを打ち、候補上へと跳躍させる。
「邪魔しないでください」
「悪いわね、これが我(わたし)の役割なのよ」
 回し蹴りの衝撃が腕を走るのを自覚しながら、レジーナは再びその手を翻した。炎が斬撃となって、サリアを狙う。サリアは剣を引きずるように跳躍、それをよけて見せる――刹那へ、アリアがナイフのような細剣を逆手に構え、跳ぶ!
「こっち!」
 アリアがそのナイフを振るうと、ダイヤモンドダストの氷片が、薙ぎ払われるように宙を滑った! さながら、氷のナイフの嵐か。斬撃を受けたサリアが、左腕にいくつかの傷をつけながらも退避。
「ふ……む」
 サリアがびゅ、と左腕を振るうと、血しぶきが舞った。アリアのダイヤモンドダストが、サリアにダメージを与えたのは確認できる。が、それは地名の一撃には程遠いようで、それはアリアも理解していた。
「教会で絶望を嘆くとは説法でも聞きに来たか?
 神は自ら助くる者を助くぐらいは聞いたことあるだろう」
 アトが、あえて挑発するように声をあげる。アリアをいつでも庇えるようにスタンド。その鉄面皮の表情をわずかでも動かせたなら、勝率はあがるだろう、とアトは考える。サリアは恐ろしく冷静な存在のようだが、しかし蒼き炎の激情も併せ持つように感じられた。「ならば、その氷の内側の炎、見せてもらうとするか」とアトは胸中で呟く。
「天を見上げることを諦め、泥を見下ろしたお前に、なぜ天主が救いの手を差し出そうというか!」
 アトは叫んだ。その背に羽ばたくは否定の翼。その背を押すは完全なる自由。アトが一気に踏み込む。体術、そう記せばシンプルだが、しかし生存を狙うという点で、アトのそれは完成している。冒険者が、冒険者として生き延びる術を、彼は体術と呼ぶ。手にしていたのは、銃。そのグリップでシンプルに殴りかかるそれを、サリアはその激情の蒼き炎で受け止めた。「だろうね。だが足を止めれば十分」とアトが呟く。同時、レジーナの指がパチリ、とならされれば、サリアの足元に無数の小型魔法陣が描かれ、その内より様々な刃が召喚される!
「避けられないわ、これは!」
 緋璃宝劔天・女王勅命。それはレジーナの気高き令である。女王の声に世界は準ずる。現れしは無数の刃。足下より放たれるそれを、よける事能わず。サリアは直感的に回避不能を理解し、最小限のダメージを残して、致命打を刃で迎撃することを選んだ。バフは観光客によってはがされている。故に取らざるを得ない最後の手段。サリアはわずかに炎を吹かせると、それでもって剣を回転させるように振るった。自身の心臓、頭、動脈、あらゆる致命打を狙うそれをはじき返しながら、小型のナイフが右肩に突き刺さるのを自覚する。
「は――ッ」
 しかし、二人の連携を受けてなお、サリアは止まらなかった。元より魔種。超常のもの。人の姿をしても、それはもはや化け物である。サリアは出血する右腕を気にもせず、再び己の身体を炎で包んだ。蒼き炎をブーストに、強烈な斬撃を、振り下ろす。爆発せんばかりの炎が燃え上がるのを、アリアはナイフをかざして受け止めた。咄嗟に描く防御術式が、ナイフを元に生成されて、アリアの身体を庇う。が、それでなお、強烈な衝撃波、アリアの身体を叩いた。直撃すれば、死は免れないだろう。そうでなくとも、これから何度、死の縁を覗くことになるのだ?
「っ……とは言っても、一撃一撃が、重い……!」
 流石のアリアも、顔をしかめる。体中に痛みが走った。それは、サリアの怒りをその身に浴びたかのように。可能性(パンドラ)を何度削ってでも、立ち上がり続ける覚悟は持ち合わせていた。だが、やはり相手は魔種。如何にローレットでもエースクラスの三人とはいえ、それだけで抑えることは難しい……!
「ま、わかってはいたんだけどね……。
 根性論は好きじゃないけど、ここで倒れ伏しちゃうと街中に行かれちゃうわけでしょ?
 なら……死んでも、ここは死守しないとね……!」
「違いないわね。でも、一つ間違いよ」
 レジーナが言った。
「我(わたし)の許可なく命を散らすことは許さないわ。
 全員で生還する。ええ、今回の作戦が、最上のそれかはわからない。
 けど、でもベストに【させる】のが我(わたし)達だわ」
「やれやれ、女王様の名には逆らえないな」
 レジーナの言葉に、アトは笑った。
 サリアはいまだ健在――苛烈な戦いが始まろうとしていた。
 その一方で、強烈な一撃を繰り出し続けるもう一人の魔種、オリオスとの闘いも継続している。
「さて、遠距離はそちらだけの距離……というわけではありんせん」
 エマが放つ呪撃は、存在非証明の神の力を借りると謳われるそれである。が、今はその力の根源がどこからきているかなどは今はどうでもいい。いずれにせよ確かな呪として発現したそれは、オリオスの身体を蝕んだことは事実だ。
「呪いか! まずはそう動くだろうな!」
 オリオスはしかし、その呪いを気にせずに再びレーザーバズーカを構える。散弾から収束へ。強烈な光の帯と化したそれが、聖堂を薙ぎ払った。
「ちっ……脳筋、と言った感じでありんすなぁ」
 エマは叫びつつ、再度呪いを放つ。呪殺の一撃がオリオスの身体を蝕みなお、オリオスは笑った。
「敢えて言わせてもらうぞ! 心地いい、とな!」
「なら、そのまま沈め!」
 エーレンが振るう刃が、オリオスに迫る。常なれば必殺であろうその斬撃を、しかしオリオスは右手のナックルクローで受け止めて見せた。
「まだ早いだろう、坊やよぉ!」
 力強く打ち払い、そのままオリオスはバズーカの砲身を振るった。エーレンは身体をひねると、鉄塊のようなそれを回避してみせる。
「荒々しい……が、ただそうというだけではないな……!?」
 エーレンが叫ぶ。オリオスのそれは、ただ暴れているように見えて、何か体系だった動きのようにも見える。戦法、戦闘、何らかのドクトリンに基づく動き。
「私は魔種と遭遇するまでは、長きの演習を行ってきた……それは知っているだろう、姉妹よぉ!!!」
「それを正しい事に活かせないなら!」
 ブランシュが、鉄塊の如き刃を振るい、オリオスへと迫る。オリオスはバズーカの砲身で、それを受け止めた。強烈な衝撃が、空間を叩きつける!
「活かしているさ! それを理解できんから貴様らは救えん!」
「世界を破滅させることに使って、それが何になるのです!!」
 ブランシュは刃を押し込むが、しかしオリオスは苦も見せずに砲身で押し返して見せる!
「だらだらとくだらぬ延命を施してきたから、いま世界が腐っているんだろう!!
 我々が一度破滅をもたらして、そこから始めてやるというのだ!」
「貴方の望む世界は、絶えず闘争の続く世界でしょう!」
「それが何の問題がある! 我らとて闘争のための技術から生まれた!
 人は戦い、生を知り、絶えず進化し続けるべきだ!
 そのための戦いだろうが!」
「そんなに戦いが好きなら、私達が思う存分相手してあげるよ!」
 拮抗、いや、ブランシュが圧されている状況か、メルナが飛び込む! 巨大な大剣を振り降ろすメルナへ、まずオリオスはバズーカごとブランシュを放り投げた。強烈な風圧にブランシュがダメージを受ける中、オリオスはナックルクローでその大剣を受け止めて見せる。
「貴様のその自信を支えているのも、闘争によって得たものだろう!?」
「だとしたって、きっといつかは手放すべき力なんだ!」
「甘いなぁ、お嬢さんは!」
 オリオスが力強くその手を振るい、メルナを殴り飛ばした。同時、ブランシュが立ち上がったのを確認して跳躍、バズーカの元へと飛び去り、それを再び手にするや、起き上がったばかりのブランシュを殴り飛ばす。
「悲しいなぁ、姉妹。かつてのシミュレーターでは四対六で私の方が負けていたなぁ?」
「追撃を防いで!」
 ヨゾラが叫び、その竪琴を鳴らした。紡がれる音色がダイヤモンドダストを呼び、強烈な氷片が、無数のナイフのようにオリオスへと迫る。オリオスの身体にそのナイフが傷をつけるのへ、しかしオリオスは獰猛に笑ってみせた。
「受けてやるよ! 一方的というのもばつが悪いだろう!?」
「そういう戦いを楽しむの、本当に理解できないよ!」
 ヨゾラが一気に接敵すると、近距離で激しく竪琴を鳴らした。それは強力な魔術衝撃波となって、オリオスへと叩きつけられる。強烈な圧力がオリオスの身体をじりじりと止め、その隙をついたアッシュの銀の一条が、オリオスのバズーカを貫いた。小規模の爆発が巻き起こり、オリオスが舌打ちをする。
「ちぃ、お釈迦になったか! 外部機器はこれだから信用ならん!」
「パワーダウンしています。畳みかけましょう」
 アッシュがそういう。戦局は、確かにイレギュラーズ達の方へ傾きかけている。しかし内心で、アッシュは気味の悪さを感じていた。「本腰じゃないように思える……これは、陽動? だとするならば、本命はここではない……?」胸中で呟く。それに、思考するにまだ不安はある……アーベントロートは魔種と組んでいるのか? だとすればそれは何故? あまりにも奇妙だった。だが、今はその思考に沈むことはできない。
「生憎、わたしは戦いの内に享楽を見出す主義ではありませんゆえ。
 だからこそ、別の愉しみも必要でしょう?
 其れに。本望で無いのなら、多少の反抗で意趣返しするのも味なものですよ」
「はっ――臭いで分かるぞ、模造品。貴様とて、闘争の結果に生まれたモノに違いあるまい!」
 オリオスが笑うのを、アッシュが息をのむ。
「私はもうあの世界には居ません」
 再度振るわれる銀の一条が、再びバズーカに突き刺さった。同時、オリオスはそれを投げ放つ。強烈な爆発音が響いて、それが爆発四散する。
「あれの言う事を聞くべきじゃない!」
 イズマの叫びと共に繰り出された銀の細剣の一撃が、オリオスの身体を貫いた。
「お前の言う事は何もかも間違っている……!
 確かに、争いのために生まれた技術が、人を豊かにもするだろうさ。
 でも、争いがなくたって、人は進化していけるはずなんだ!」
「カタツムリのようにすっとろい速度でか!?」
 オリオスが、痛みに狂笑を浮かべながら、イズマを殴りつけた。強烈な打撃が、イズマの身体を駆け巡る。
「血を吐きながら走るより、そっちの方がよっぽど尊いさ」
 しかしイズマは笑ってみせる――同時、エーレンが切り込む。
「人は矛盾してるかもしれない。だが、それでも、お前の理想は間違っているよ」
 その斬撃が、オリオスを捉えた。その腕に、一筋の傷跡が走る。オリオスは呵々大笑すると、回し蹴りの要領でその脚を、イズマとエーレンにぶつけた。二人が勢い殺すために同時に後方へと跳躍。フッ飛ばされてから着地する。
「楽しいなぁ、ああ、楽しい。最高だ、貴様等は!」
「それ以上はさせねーですよ!!」
 ブランシュが突撃! 鉄塊をオリオスへと叩きつける! バズーカを失ったオリオスは、右腕でそれを受け止めた。ずん、とその身体が沈む。強烈な衝撃が、オリオスへと叩きつけられる。オリオスと、ブランシュの視線が交差した。
「楽しいだろう、姉妹!! 戦いを楽しむモノにはなぁ!」
「楽しくねーですよ、私は!! 誰かのために傷つくことができる人には!」
 ブランシュが、気迫と共に鉄塊を振るった。オリオスが、その衝撃に激しく吹き飛ばされる。お互いボロボロの状態のように見えたが、しかしオリオスにはまだ底知れぬ何かが見えた。
「おい、サリア。私の仕事はここまでだ。適当に遊んでから帰れ」
「ええ。ご随意に」
 三人のイレギュラーズを圧倒し続けるサリアが、こともなげに言い放った。
「まただ、姉妹! それからローレット!
 次はもっと楽しもう!」
 オリオスが、背後の窓ガラスをたたき割ると、そこから飛び出していった。
「待て! 逃げるですか、オリオス!」
 ブランシュが叫ぶ――同時、ふらり、とブランシュが身体を揺らせた。アッシュがそれを受け止める。
「……限界です。無理をなさらないでください」
「ごめんなさい……」
 ブランシュが言うのへ、アッシュは頭を振った。
「こちらでお休みを。後は任せてください」
 それを聞き届けてから、ブランシュは意識を失った。
 戦いは、未だ続いていた。

●世は絶望だけがあり
「オリオスは退いた……けど!」
 アリアが声をあげる――同時に、サリアが肉薄した。鋭く振るわれる刃は炎を纏い、アリアを上段から叩きつけた。鋭い斬撃に対して、出血はなかった。当然だ、斬撃の傷跡を即、強烈な熱の炎が焼いたからだ。
「ま……だ……ッ!!」
 可能性の箱をこじ開けながら、アリアがその手を振るう。強烈な衝撃波がサリアを吹き飛ばすが、サリアは無表情のまま再び駆けだす。
「アト! 汝(あなた)、アリアをお願い!」
「元よりそのつもりだ、女王(レジーナ)」
 振るわれる刃は炎を纏い、強烈な炎の斬撃となって宙を切る。炎はアリアを庇ったアト、レジーナを襲い、苛烈なそれが二人の意識を刈り取る。二人が可能性を消費して立ち上がるのへ、
「女王(レジーナ)、アリアがまずい。一体彼女を連れて後ろに下がる」
 アトが声をあげるのへ、レジーナが頷いた。
「ええ、お願い――」
 レジーナが頷くと同時に、サリアは跳躍。レジーナへと襲い掛かる。炎の刃が、レジーナのそれと激しく撃ち合い、文字通りに火花を散らした。
「シ――ッ」
 静かに呼気を吐くサリア。静のそれとは相反し、攻撃は苛烈。レジーナが振り払うと同時、飛び込んできたのはメルナだった。
「レジーナさん、お待たせ! 交代!」
「こっちに! 回復するから!」
 ヨゾラが呼ぶ。その方にはすでにアトとアリアもおり、ヨゾラの回復術式が輝いているのが見えた。レジーナは頷く。
「ごめんなさい、後をお願い!」
「任せて!」
 メルナの斬撃が、サリアへと叩きつけられる。静謐なる蒼の刃、絶望の蒼の炎、二つの蒼が、この時激しく衝突した。
「やっぱり、あなた……!」
 メルナが叫ぶ。暗い瞳にうつる、己。その瞳にうつる、サリア。合わせ鏡のように映される世界。
「貴女は、何……!?
 どうしてそんなにも……堕ちる程絶望して……!?」
「あなたは――メルナ? あなたも、失った……? それなのに……?」
 共感するように、サリアは言う。そのくらい眼に、僅かに何かが燃え盛った。蒼い、憎悪の炎。
 同時に振るった刃が、二人を平等に吹き飛ばした。サリアは茫然と、言う。
「……なぜ、あなたは怒らないのですか?」
「何、を……!?」
「あなたは私。大切なものを失った私。
 私の歩みを止めたのは、絶望ではなかった。
 絶望は、人の歩みを止めない。
 その心の中に、意志があれば。
 ……私の中にあったのは、蒼い炎。世界を憎悪する。怒りの炎。それが私の意志。
 あなたも、同じはず。唯一を失ったあなた。どうしてあなたは、怒らないのですか?」
 それは、呼び声にも近い何かだった。旅人(ウォーカー)であるメルナは、その心を侵されることはない。だが、何か……酷く辛い重しを、その心にかざすことはある。
「……所詮、あなたはこの世界のものではないから。
 だから、本気で怒れない。本気で憎悪できない。この世界を。
 あなたから大切なものを奪った世界を、あなたは憎むことができない」
 うっすらと、サリアは笑った。泣くように、嘲るように、悲しむように、同情するように。
「あなたは中途半端。壊れることも出来ず、憎むことも出来ずに――ずっとずっと、この世界に囚われて苦しむのですね。
 ああ、ああ、なんて――かわいそうな」
「――!?」
 ずきり、とメルナの心に、なにかが刺さったような感覚を覚えた。仮面(ギフト)がはがれるような感覚。太陽が落ちる。月が昇る。いや、月は昇ったのか? 真っ暗な夜、光一つない暗闇の中に、一人放り出されたのではないのか。怖い、こわい。でも大切なあなたは、傍にいない――。
「こっちもか……!」
 イズマが叫び、細剣でサリアへの攻撃を試みる。鋭い斬撃が己の身体を貫くものいとわずに、サリアはイズマへと斬りかかった。
「精神攻撃は基本に備えてるのか……!? まぁ、呼び声なんてものをするくらいだからな!」
 振り下ろされた刃を、イズマはいなす。同時、
「メルナさん、立てるか――!?」
 叫ぶ、が、メルナは力なく項垂れるばかりだ。致命的な一撃を受けている。心に? 体に? あるいはその両方に?
「ヨゾラさん、メルナさんを!」
「任せて……あっちの力が増してる。多分、傷つけば傷つくほど、その怒りの炎は強まるんだ……!」
 ヨゾラの声に、イズマは頷く。
「エーレンさん、もう少しだ! 畳みかけよう! アッシュさん、エマさん、サポート!」
「任せてください」
「ええ、ええ、ここまで来て全滅などは避けたいものでごぜーます!」
 アッシュ、エマが頷いた。アッシュが放つ銀の一閃が、サリアを追って走る。サリアはそれを跳躍して回避――した刹那、熱砂の嵐が、その動きを止めた。エマのシムーンケイジが、砂嵐の檻となって、サリアの足を縫い付けたのだ。
「――ッ」
 サリアが息をのむ。エマがうっすらと笑う。
「エーレン様、とどめを」
「承知した!」
 エーレンが飛び込み、その刃を振るった。居合切り。シンプルながら、それは究極。雷を帯びるまでに研ぎ澄まされた、ただの居合切り。必殺の一撃。
 刃がサリアの腕を裂いた。サリアは後方へと跳躍すると、「ふ――っ」と静かに息を吐いた。その身体の炎が、瞬く間に消える。
「……この程度で十分でしょう」
 そう言って、サリアはメルナを見た。メルナが、怯えた様子で、サリアを見た。サリアはひどく、憐れむような顔をした。
「かわいそうに。私には、あなたを救ってはあげられません」
 そう言って、サリアはオリオスが破壊した窓から、己もまた身を投じた。濃厚な魔の空気が、瞬く間に遠くへと去っていったのが分かる。はぁ、とイズマは息を吐いた。
「ひとまず、助かった、か……」
「ああ。だが……」
 エーレンが頷く。イレギュラーズ達がおった怪我は、決して軽くはない。
「酷い夜だ。ああ、あまりのも酷い、夜だ」
 エーレンの言葉に、仲間達は頷いた。
「……また、あの二人と対峙するときが、来るのでしょうか……」
 アッシュが言う。オリオスの言葉が、なぜか頭から離れない。
 自分が、生まれたのは、闘争の結果なのか……? そう言った、しこりのような言葉。
「ひとまず、今は考えなくてもいいでしょう」
 エマが言う。レジーナが頷いた。
「ええ、皆命は拾った……それで十分よ」
「そうだな……魔種2体を、追い払えた。誇っていい事だろう」
 アトがそう言った。それは間違いなく、事実だった。傷はおってはいたが、人外の怪物二体を追い払い、イレギュラーズ達はその命を失うものはなく、同時に多くの人々を守ったのだ。誇っていい。
 夜が深まるのを、イレギュラーズ達は感じていた。町全体を、恐ろしい喧騒が襲って、去って行ってったことも。
 これから何が起こるのか、まだだれにもわからない。
 傷ついた体を休めながら――夜の闇の静けさに、その身を預けるのであった。

成否

成功

MVP

アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手

状態異常

メルナ(p3p002292)[重傷]
太陽は墜ちた
アリア・テリア(p3p007129)[重傷]
いにしえと今の紡ぎ手
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)[重傷]
タナトス・ディーラー

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 二人の魔種は撤退。付近住民の被害は最小限に抑えられました。
 依頼は十分に成功と言っていいでしょう。

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