PandoraPartyProject

シナリオ詳細

あなたのこえをちょうだい

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ケース・オブ・ボイスリッパー

 第一ケース――レーネル・ウィンスバーグの場合。
 ラサの歌姫であるレーネルは、ある日の家業の帰り、突如として犯人に襲われたのだと『筆談』する。
 肉体的外傷=なし。心的外傷=あり。その他傷病=『声を奪われる』。
 本人は現在も自宅で療養中=回復のめどは立たず。

 第二のケース――テレンス=マドウィックの場合。
 土木工事業現場監督である彼は、その大きくよくとおる声から、周辺でも名物の工事事業者として有名。
 彼は作業の昼休憩中、突如として犯人に襲われたのだ、と『筆談』した。
 肉体的外傷=なし。心的外傷=あり。その他傷病=『声を奪われる』。
 本人は現在も自宅で療養中=現場復帰できず。

 第三のケース――リリリン・ウェントリンの場合。
 近所の公園で良く歌っている幼い少女であるリリリンは、近所でも評判の『小さな歌姫』であった。
 リリリンはいつもの日課の通り、公園で歌っていたリリリンは突如として犯人に襲われたのだ、と『筆談』する。
 肉体的外傷=なし。心的外傷=あり。その他傷病=『声を奪われる』。
 本人は現在も自宅で療養中=未だ歌うこと叶わず。

 犯人は現在も逃走中と目される――が、被害者たちの『証言』からモンタージュが作成され、それを以て操作を行った所、一人の人物が捜査線上に浮かびあがった。
 ローレット・イレギュラーズ。管理コード付きで名前を記載しよう。
 美咲・マクスウェル (p3p005192)。
 その人である。

 ルカ・ガンビーノ (p3p007268)がラサの自警団の収容スペースに到着した時、美咲は檻の中で今回の事件の報告書をあらかた読み終えていた。
「おいおい、牢屋に押し込められた犯罪者は、もう少ししおらしくするものだろう?」
「そうだろうね。でも、私は犯人じゃないからね」
 ふ、と笑う美咲。ルカは看守に、
「出してやってくれ」
 というのへ、看守は頷いた。素直にそう頷いた、という事は、別にこの街の自警団も、真実、美咲を犯人だとして投獄したわけではないのだろう……これも、付近住民のためのポーズのようなものだ。
「娑婆へようこそ、お嬢さん」
「と言っても、半日ぶりくらいだけれどね」
 美咲は笑ってみせた。

 聴取室へと向かう廊下を歩きながら、美咲はルカへと声をかける。
「急な協力要請、聞いてくれてありがとう」
「なに、地元で妙な奴が暴れてるとなればな」
 ルカは頷くと、美咲の一歩先に進んだ。聴取室の扉を開けて、
「どうぞ」
 と恭しく一礼してみせると、美咲は肩をすくめて中に入る。聴取室の中には、ヒィロ=エヒト (p3p002503)、イーリン・ジョーンズ (p3p000854)、そして四人のローレット・イレギュラーズが椅子に腰かけていて、ヒィロは美咲を見つけるとその目を輝かせた。
「美咲さん! よかった、捕まったって聞いてびっくりしたよ~!」
 ぱたぱたと尻尾を振ってみせる。美咲は苦笑した。
「大げさだね。単に任意で取り調べを受けただけだよ……念のため、檻には入れられていたけれど」
「あなたに似ていた、って事だものね」
 イーリンが言う。
「まさかローレット・イレギュラーズが無意味な無差別事件を起こすわけがないけど、まぁ、目撃証言があれば、その対応もあり得るわ」
「ありがとう、イーリンさん。それから、皆。急な呼び出しに応じてくれて」
「どういたしまして。と言っても、貴方に呼ばれたから、だけじゃないの。
 さっき、正式に自警団からローレットに、事件解決依頼が発出されたわ。
 だから、これもお仕事、という訳」
 こくり、とイレギュラーズ達が頷く。美咲は頷き返すと、
「それじゃあ、状況について説明するね。
 どうも、私が、人の声を奪ってる、みたい」
「それって」
 ヒィロが首をかしげた。
「……どういうコト?」
「どうも、目撃証言がことごとく、美咲に似ていた、って事らしい」
 ルカが頭をかいた。 
「だが、事件のあった時期は、間違いなくよそでローレットの仕事に従事していた……だから、美咲はシロだ」
「ってことは、そっくりさんがいる、って事?」
「不気味ね」
 ヒィロの言葉に、イーリンが続いた。
 どうやら……美咲によく似た存在が、ここ最近、ラサにて次々と、一般人を襲撃しているらしいのだ。もちろん、美咲が犯人ではない。
「わざわざ犯人は、被害者に顔を見せている。頓着しない? 違うわね。多分、美咲が犯人だと印象付けたい」
「嫌がらせって事?」
 イーリンの言葉に、ヒィロが小首をかしげた。
「それにしては、なんとも、だな」
 ルカが顎に手をやった。
「皆……特にイーリンさんとルカ君の二人は、声に関する能力だったり、影響力が大きかったり。そういう観点から力を借りたくて、呼んだの。相手はどうも、声に執着している。誰の声でもいい、ってわけじゃない。被害者は、どうも『声』に関して評判だった人物みたい」
「おいおい、俺のウォークライは囮かなんかか?」
 ルカが肩をすくめてみせた。
「そうかもね? でも、ラサの情報も期待してるよ……と、早速だね」
 と、美咲が扉に視線をやれば、クラブ・ガンビーノ所属の傭兵が一人、扉を開けて入ってきた。
「情報です、先ほど、美咲さんによく似た女が、街の外れに現れたと――」
「だ、そうだ。お嬢さん」
 ルカが言うのへ、美咲が頷いた。
「相手が何だかわからないけど、多分戦闘になると思う。
 だから、皆の力を借りたんだ。
 どうか、お願い。私の冤罪を晴らすためってわけじゃないけど、声を奪われた人たちの無念を晴らすためにも、力を貸してほしい」
 美咲がそういうのへ、ヒィロがうんうんと頷いた。
「まかせて! 美咲さんのためなら、ボク頑張るよ!」
 ヒィロの言葉に応じるように、仲間達は頷いた。元より、被害者の居る事件。
 これをほうっておくわけにはいくまい――。


 ら、ら、ら、と声をあげる。
 歌。歌。それは歌か、悲鳴か、泣き声か。
「ちがう」
 と、それは言った。
「美しい声だ。素晴らしい声だ。かけがえのない声だ。二つとない声だ」
 でも違う、それは言った。
「違う、違う、違う。これはサキにとっての美しい声ではない」
 サキ――自分をサキと呼んだそれは、周りに侍る『ゴースト』のような三体が鳴く声を、その腕を振るって止めた。
「もっと探そう。もっと探そう。美しい声。サキにとっての、世界を知るための窓となる声」
 サキは――そう言って、脳裏に、美咲の姿を浮かべた。
「あの声を、サキのものに」
 そう言って、その目かくしから空を透かして見るように、空を見上げた。

GMコメント

 お世話になっております。此方はリクエストシナリオとなっております。
 美咲・マクスウェルさんによく似た、とされる謎の存在、サキと接触してください。

●成功条件
 すべての『ボイスゴースト』の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●注意事項
 此方のシナリオは、リクエスト者の意向により、敵パラメーターが全体的に『強く』設定されております。

●状況
 美咲・マクスウェルが、ラサにて一般人の声を奪っている――。
 そのような噂が飛び交う中、あなたたちは現地に赴きました。
 今も、謎の存在によって、声を奪われるものがいる中、クラブ・ガンビーノの傭兵たちの調査により、美咲さんによく似た存在……自称、サキ、と名乗る存在の潜伏先が判明しました。
 皆さんは、この廃屋に昔、『サキ』、および『ボイスゴースト』を撃退してください。
 作戦決行タイミングは夕方。作戦エリアは、ラサのとある街の隅にある廃屋になります。
 廃屋は、大きな館跡であり、サキたちはロビーにいるため、廃屋に入ったと同時に遭遇、戦闘になるかと思います。
 廃屋内は薄暗く、些か視界は悪いです。遮蔽物などもありますので、動きづらい可能性もあります。

●エネミーデータ
 ボイスゴースト
  レーネル ×1
   被害者、レーネル・ウィンスバーグの声をもとに作成されたボイスゴーストです。歌姫の姿をしています。
   神秘属性の遠距離攻撃を多用し、広範囲を巻き込む攻撃も行います。
   『渾身』を持つ強烈な攻撃や、同時に『毒』系列『窒息』系列のBSも付与してくることでしょう。
   パラメータとしては、神秘攻撃力に特化。防御面では薄いですが、素早いため、はやい段階で渾身の一撃を連発してくるでしょう。

  テレンス ×1
   被害者、テレンス=マドウィックの声をもとに作成されたボイスゴーストです。精悍な男性の姿をしています。
   物理属性の近接攻撃を多用してきます。単体攻撃が多いですが、その分ダメージはレーネル以上です。
   『背水』を持つ強烈な攻撃や、『出血』系列『痺れ』系列のBSも付与してくるでしょう。
   パラメータとしては、物理攻撃力と防御技術に特化。前衛タンクのような行動を行います。

  リリリン×1
   被害者、リリリン・ウェントリンの声を元に作成されたボイスゴーストです。幼い少女の姿をしています。
   神秘属性の攻撃は、広いレンジをカバーします。また、『復讐』を持つため、中途半端に追い詰めては手痛い反撃を喰らいます。
   防御面が脆いですが、それは強烈な復讐の反撃を撃つためという側面もあります。
   また、『呪殺』も持つため、長い事生き残らせておくと面倒かもしれません。

 【首輪の踊魔】サキ ×1
  今回の事件の首謀者です。非常に強力なユニットですが、今回は様子見のようです。
  スピードに秀でた戦士で、動き回り、EXAによる複数回行動や、『連』『追撃』などでの多段攻撃を狙ってきます。
  その姿は、まさに【首輪の踊魔】。サキの動きに絡めとられませんよう。
  また、ダメージをある程度受けると、撤退します。なるべく早くダメージを与えて、撤退させてしまうのがいいでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • あなたのこえをちょうだい完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年06月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
※参加確定済み※
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
※参加確定済み※
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
※参加確定済み※
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
※参加確定済み※
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

リプレイ

●声
「この者も、地元で事件を起こされるのは嫌だな、と思う」
 ふぅむ、と声をあげたのは『言霊使い』ロゼット=テイ(p3p004150)である。ラサのとあるオアシス街、その外れにある、元はとある豪商の邸宅だったらしい廃墟に向かい、イレギュラーズ達は歩を進めていた。
「ああ、そいつは同感だ」
 同意したのは『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)だ。言葉にこそ出さないが、ラサに領地を持つ『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)や、特に『青鋭の刃』エルス・ティーネ(p3p007325)も思いを同じくするところだろう。
「しかし、奇妙だね。声を狙う、とは」
 ロゼットがそういうへエルスが頷く。
「ええ。声……確かに、魔術的にも『力』のあるものよ。
 呪文の詠唱にも必要だし、声とはある種、呪としての力も持つ。
 言霊、なんて文化もあるほどだしね。
 逆を言えば、その『力』を奪うことができる存在は、相当な魔、という事になるのだけれど……」
 エルスが首をかしげる。
「その目的は、なに?」
「わかりませんね。魔力の収奪……いえ、それにしては、襲う対象は魔術師などではありません」
 サルヴェナーズが言う。
「高名な魔術師を襲い声を奪った、ならまだ理解はできます。エルスの言う通り、高位の魔術師ならば己の声に力を込めることはできるかもしれませんし。
 ですが、襲われたのは皆一般人……共通するならば、声そのものが評判であったということ。
 美しい声。よくとおる大きい声。或いは幼い少女の可憐な声……」
「ますますわからないわね。まるで相手が求めているのは、声そのもの、のようだわ」
 そういうのは、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)だ。
「声そのもの、には意味はないはず。魔力を込める、呪いを込める、想いを込める……そう、重要なのは、言葉と、心、のはず。
 そこは注視していないように感じるのよね」
「……例えば、しゃべれないから、美しい声を自分のものにしたい、とか……なのかな……?」
 そう言ってうつむくのは、『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)だ。
「だとしても……声は……ううん、それ以外のものだって、その人を構成する大切な、その人の一部分だと思う。
 それを奪われるのは悲しいし……奪っては、いけないと思う……」
 そういうフラーゴラの想いは、他の仲間達も同じくするところだろう。声。それは、その存在を特徴づける重要な一つのファクターだ。それを奪うとは、すなわちその個人そのものを奪う事に等しいといえる。
「フラーゴラさんのいう事は、正しいと思う」
 静かにそう頷いたのは、『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)だ。
「でも……その上で言いたいんだけど、「人外にヒトの感性を期待しても無駄」よ。
 声を奪う……混沌肯定仕事しろ、って思う位に、かなり上位の魔の存在であることは間違いない。
 ならばその目的、感性……理解できるような相手ではない、と思う」
「……心当たりがあるの?」
 と、尋ねるフラーゴラに、美咲は頭を振った。
「ない……ない、はず。でも、なんでだろうね。すごく……違和感というか、そういうもの感じるのは本当」
「そうだろうな、美咲の顔ににている……その上、サキ、と名乗っているんだったな。
 まるでアンタに関係があると言ってるようなものだ」
 ルカが言う。
「気をつけろよ美咲。こいつは若干きな臭ぇ」
「ありがとう、ルカ君。今回は世話になりっぱなしだね」
 そう言って、美咲が笑うのへ、ルカは不敵に笑った。
「なに、さっきも言ったが、地元で暴れられるのは気に入らねぇ。
 しっかり落とし前はつけさせてもらうぜ」
「そうだね! それ以上に! 美咲さんのそっくりさん、っていうのが気に入らない!」
 と、美咲の腕を掴んで、ぶぅ、と頬を膨らませるのは『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)だ。
「美咲さんの名前によく似た名前で、美咲さんにそっくりな顔をして、美咲さんのこと貶めようとするなんて! 本当に、許せないよ!
 もちろん、被害者の人は気の毒だと思うし、助けてあげたいと思うけど……それ以上に!」
「おっと、アンタの可愛いナイトはお怒りのようだ。敵には同情するな」
 ルカが肩をすくめるのに、美咲はくすりと笑った。
「うん。頼りになる、親愛なる私のヒィロ、だよ」
 さて、道中の会話もここまでとなる。目の前にはいささか年季の入った館の姿があった。元の作りが確りしていたのだろう、廃墟と化した今となっても、朽ちた様子はさほど見受けられない。中で暴れたとしても、問題はなさそうだ。
「ふむ。魔、か。確かに、何か昏い雰囲気を感じる」
 ロゼットが言うのへ、皆が頷く。確かに……まるで、突如として逢魔が時の夕暮れに放り込まれたような、奇妙な感覚。それは、敵対する魔に対する、本能的な畏れのようなものだろうか。
「行きましょう。『神がそれを望まれる』――」
 イーリンの言葉に、仲間達は頷く。大きな扉をゆっくりと開き、中を覗き込む。内部は倒れたかぐやソファなどが散乱している。ホール兼、家主に会うための待合室のような役割も果たしていたのだろうか。或いは、別の部屋から家具を盗もうとした廃墟あさりが、ここまで持ってきて諦めたのかもしれないが。
「……警戒して。すごく嫌な感じがする」
 エルスが言うのへ、仲間達は頷く。その言葉は、すぐに真実であることが明らかとされた。すぅ、と風が駆け抜けるや、三人の薄透明の身体を持った男女が、ホールの奥に浮かんでいることに気づいた。
「……ゴースト……!?」
 サルヴェナーズが声をあげるのに応じるように、ゴーストたちは、ら、ら、ら、と声をあげた。女性の声。男の声。少女の声。歌うように、嘆くように、喜ぶように、苦しむように。それは感情を失い、それ故に滅茶苦茶に感情を乗せて放たれる、奪われた声であった。
「すばらしい声だと思う」
 ふと、声が響いた。ホールの真中、二回への巨大な階段にたたずむ、一つの姿。
「……美咲さん……!?」
 ヒィロが、刹那、声をあげた。すぐに顔を振るう。違う。全く違う。だが、感じる気配、雰囲気、そう言ったものは、美咲に限りなく近い。ヒィロですらそう思うのならば、美咲を良く知らぬものからしたら、きっと美咲当人だと思うであろう、それ。
「ミサキ、を知っているのか。おまえ」
 どこかぼうっとした様子を見せながら、その目隠しの奥から見透かすように、それはヒィロを見た。
「いや、おまえからミサキの気配を感じる。長く居るのか。お前はどこだ? 私は首輪。眼帯と指輪は観た記憶がある。それ以外の魔か?」
「何言ってるんだ!? お前が美咲さんのニセモノなんだろう!?」
 ヒィロが吠えるように言うのへ、美咲はしかし、驚愕したように胸中で呟いた。
(首輪……眼帯、指輪? 魔?)
 とっさに、美咲が叫ぶ。
「あなた、まさか……!」
「居たのか、ミサキ」
 しかし、その言葉を遮るように、その魔は言った。
「サキは嬉しい。お前から来てくれるとは。この身を晒した甲斐がある。
 ミサキ、声をくれ。お前の声を、サキに」
「……この人、目的は、美咲さんの、こえ……!?」
 フラーゴラが言うのへ、サキは頷いた。
「もちろんそうだが、そうでなくてもいい。声を通せば世界が見える。美しければ、美しいほど、美しい世界が見える。
 サキはそれが楽しい。おまえの声も、いい声だ。欲しい」
「……!
 あなたの言ってること、意味は分からないけど……」
 フラーゴラが身構える。
「ワタシのこえは、絶対に、あげない……!」
「なるほど、言った通り。人外の価値観は分からないものですね」
 サルヴェナーズが言う。
「特徴から考えるに、あのゴースト……ボイスゴーストとしましょう。彼らは被害者の声から作り上げた者。
 もしかしたら、彼らを彼の魔から解放すれば、声を取り戻せるかもしれません」
「なんにしても、戦うしかないという事だね」
 ロゼットが言うのへ、ルカがその美しい顔に獰猛な笑みを浮かべた。
「いいじゃないか、話が速い。やるぞ、オマエら」
「ええ。これ以上、あの方のラサで悪事を働かせはしないわ!」
 エルスがその指輪を掲げると光が輝き、その光が大型鎌を型作り、エルスの手へと収まった。その鎌を構えながら、
「いきましょう、皆!」
 声をあげる! その言葉に応じ、仲間達もまた、一斉に飛び出した――。

●声を求めるもの
「ミサキの声が、サキが求めるものだ」
 サキが、たんっ、と階段から跳躍! まるで軽やかな花のように、逸れは宙を舞う!
「だが、他の者たちの声もいらぬわけではない。
 声は万華鏡。それ一つ一つで覗ける世界がが違う」
 襲い来る、踊魔! それはまさにダンスのように華麗に軽やかに――残酷で美しく。サーベルのように振るわれる、その鋭い脚を、ヒィロはぱしり、と拳を当てて反らし、受け流した。
「おまえの相手は、ボクだっ!」
「ミサキの魔か」
 サキが言う。ヒィロは獰猛に笑ってみせた。
「魔ってのは分からないけど、ボクは美咲さんと共にあるものは間違いない。
 それに、ボクは怒ってるんだ。
 美咲さんの顔で悪いことして美咲さんに迷惑かけるなんてさぁ?
 死んで償ってもらわないとダメだよねぇ……。
 アハハッ♪」
 ダンサーとダンサー。二人の踊り手は、強烈な演舞を舞いながらホールを舞う。一方、前面に出てきたテレンスが、その高く雄々しい声で、ら、ら、ら、と吠えた。声の魔力は強烈な物理的衝撃波となって、イレギュラーズ達を叩く!
「やあこんにちわ、タフそうな人、今日はこの者と一緒に遊ぼうか」
 ロゼット立ちはだかった。その体格差は大きい。だが、ロゼットには勝算がある。まともに受けてはいけないなら、受けなければいい。流せばいい。それは、ロゼットが常にやってきた戦い方だ。故に、今も万に一つの恐れもない。
「サキの思想には、多少は親近感を覚えないでもない。だが、この者の相手ではない。
 君の相手が、この者の仕事だ。存分に遊んでもらおう」
「頼むぞ、ロゼット! 全員、先にレーネルを叩け!」
 ルカの声に、仲間達は頷いた。危険度を察すれば、おそらく最大火力を叩きだすのはレーネルとサキだろう。レーネルは、既に初手の攻撃から強烈なプレッシャーをくわえてきており、真っ先に沈めるべき対象であると認識できた。
「フラーゴラ、皆を引っ張って! 貴方ならできる!」
 イーリンが言うのへ、フラーゴラは頷いた。
「ワタシが皆の力になれるのなら喜んで、承ったよ、お師匠先生……!
 皆、ワタシに、ついてきて……!」
 フラーゴラが駆ける。その身に纏うは先導の風か。まるで指揮棒を振るうように、仲間達を導く小さな旋風!
「流石よ、リトル・ヴァンガード! 相手は渾身タイプ! 一気に叩く!」
 イーリンがそういうのへ、エルスはその大鎌を振るい、レーネルへと斬りかかった! 吸血姫の大鎌がレーネルを切り裂く。ら、ら、ら、悲鳴のように声をあげる、レーネル!
「ごめんなさい、今は耐えて……!」
 ひゅうい、と吠えた声が、魔力的圧力となってエルスを叩く。だが、エルスの斬撃を受けたレーネルに、先ほどまでの驚異的な威力はない。
「あなたも、苦しいのよね……いま、取り返すわ、あなたを!」
 その大鎌が描くのは、月。煌々と輝く、醒めた月を描く。その魔力を込めた月光の斬撃は、レーネルを切り裂き、その月光の内へと存在を消滅させる。
「サキを抑えて、美咲さん!」
 エルスが叫ぶのへ、美咲は頷いた。
 一方、先を単身で抑えていたヒィロの激闘は続く。衝突する、踊と踊。ヒィロは時折、挑発するように歌声を紡ぎ、サキの注意を引いた。
「その程度の体捌きでボクと踊ろうなんて百年早いよ!」
 振るわれる拳が斬撃の空波を描いて飛ぶのを、サキはサマーソルトキックのように蹴り飛ばし、消滅させた。そのまま両手で地面に着地、飛び跳ねると、かかとおとしの要領で、上段から足を振り落とす。隙をつかれたその攻撃に、ヒィロは腕をクロスさせて受け止めるが、衝撃がその身体を奔った。
 強い。彼の魔は、確かに人外の者だ。ヒィロも追い詰められつつあるが、しかしサキに対して対抗心のようなものを抱いているヒィロは、その苦しさを少しも見せずに、笑ってみせた。
「偉そうな割に、大したことないんだね!」
「ちがう。サキは余裕だ」
 繰り出される強烈な一撃を、ヒィロは受け止めた。衝撃に、く、と息を吐き出す。刹那、包丁が空間を切除するように振るわれ、サキ足のヒールを切り裂いた。
「お待たせヒィロ。『本物』到着よ」
 包丁の主、美咲が声をあげる。
「ミサキ。来てくれたか」
 サキが声をあげるのへ、ヒィロが不服気に声をあげた。
「それ、ボクのセリフ!」
「大丈夫? 下がっていて。あとは何とかする」
 美咲は、表情を変えずに、サキを見据える。疑問はある。疑念はある。だが、今は。
「口上があれば垂れ流せ。奪還ついでにその声――私が斬り捨ててやる」
 そう、魔眼が光を放つ。サキは喜ぶように、言った。
「そう、その声だ。サキに世界を見せていた、美しいカレイドスコープ――」
「それが遺言なら、素敵なものだね」
 美咲が、跳んだ。手にした包丁は空間断絶の端末。刃物ではない、そういう概念のものだ。振るわれた包丁が、サキを切り裂く。サキは跳躍した。同時、背後にあったソファが切り裂かれる。斬る。斬る。斬る。断絶する。すべてを。乱撃がサキを追い詰め、しかしサキは美咲の声を、吐息を、喜ぶように聞くのみだ。
「調子に……馬鹿にしている!?」
「違う。此度は、ミサキを確認したかっただけだ」
「そうかい、それで俺の地元を荒らされたんじゃ、痛い目見ても文句は言えんぜ?」
 ルカが奇襲の一撃を放つ! 巨大な剣を片手に振るい、まるで嵐のごとく吹き荒れる、暴風の刃! それはサキを捉え、受け止めたサキを床にたたきつける!
「……!?」
 流石のサキも、その一撃には耐え切れまい。が、そのまま休ませてやる気はない。美咲は斬撃を振るうと、サキの太ももを切りつけた。地ではない、黒い何かが、煙のように吹き上がる。
「チームワークは俺らの方が一枚上手みたいだな!」
 ルカが言うのへ、サキは頷いて見せた。
「そのようだ。サキはサキだから、そういうものは苦手だ」
 そういうと、サキは靴を脱ぎ棄てて、素足を晒した。ヒールを切り裂かれたブーツを持ち上げて、力強く放り投げる。ガシャン、と窓ガラスにつきささり割れて、その窓に向って跳躍。
「逃げる気――!?」
 美咲が叫ぶのへ、サキは静かに言った。
「ミサキに会うという、目的は達した。やはり、おまえの声は良い。また会おう、ミサキ」
 そのまま、窓から躍り出る。美咲が駆けだすのへ、イーリンが叫んだ。
「追いかけないで! 今はこっちを優先!」
「分かってるわ!」
 美咲はそういうと、傷つき倒れたヒィロに駆け寄った。
「応急処置はする……少しだけ、待ってて」
「うん、美咲さん……」
 そう言って、ヒィロは笑った。

●終幕
 リリリンの、鈴のような少女の声が響く。神秘的な圧力となったそれは、凝縮されて刃のように、イレギュラーズ達を切り裂いた。
「あの子、追い詰められれば追い詰めるほど、ってタイプよ!」
 イーリンが言うのへ、リリリンをカバーしていたサルヴェナーズが頷いた。
「ええ、中途半端な攻撃はかえって逆効果です」
 テレンス、リリリン、と抑えてきたロゼット、サルヴェナーズもまた、ダメージの蓄積は高い。タイマンで怪物と応対したヒィロほどではないが、それでも。
「こちらも魔眼を使います。隙をついて、一息の制圧を」
 サルヴェナーズの魔眼が輝く――刹那、リリリンが苦悩するように藻掻いた。強烈な幻想がその身に実体的なダメージを与えたのだ。イーリンが戦旗を振るう。その軌道にそって、斬撃のように顕現したソウル・ストライクの一撃が、リリリンの身体に突き刺さり、まさに斬撃のごとくその身体を断裂させた。あ、あ、と吠えたリリリンの身体が消える。
「お師匠先生、さすが……!」
 フラーゴラが褒めるのへ、イーリンが言った。
「よそ見しちゃダメ、テレンス、残ってるわ!」
「う、うん!」
 フラーゴラが頷き、ロゼットが抑えるテレンスへと飛び掛かる。ロゼットの光の羽根がテレンスを切り裂くが、巨躯なるテレンスはその一撃ではまだ倒れない様だ。しかしイレギュラーズの攻撃はテレンスを限界まで追いつめている。
「大丈夫、もう、解放してあげるから……!」
 フラーゴラがそういう。その手を獣のように開いて振るうと、その軌跡にそって、極小の炎の花吹雪の群が生じる。解き放たれた花吹雪はテレンスを撃ち抜き、それが触れる所から消滅させて見せた。穴だらけになったテレンスが、その存在を維持できずに、消滅する――。
「おわり、ね。
 ……他人の声でどうにか出来たとて、それは自分の声ではないでしょうにね……」
 エルスが言うのへ、仲間達は頷いた。
「首謀者は逃がしてしまったようですが――」
 サルヴェナーズが言うのへ、美咲が頷く。
「きっとまた、会う事になるよ」
 それは、確信めいた予感だった。
 今は静かになったホールに、イレギュラーズ達の姿だけが残されていた――。

成否

成功

MVP

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 被害者の三人は、どうやら声を取り戻したようです――。

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