シナリオ詳細
<タレイアの心臓>雨と嘆き
オープニング
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雨が降っている。
止まない雨が降っている。
心の中に、あの日の止まない雨が降っている。
(姉さん――)
心からの笑顔を見せてほしい。辛い思いをしなくて済むようにしてあげたい。苦しめる奴らから解放してやりたい。
彼の願いはただ、姉の幸せのためにあった。
そのためには、奴ら(イレギュラーズ)を殺さなければ。そうして姉の手を引いて。誰もいない場所まで逃げてしまおう。世界だって手の届かない場所まで逃げたなら、きっとずっと幸せでいられるから。
幸いにして、この深緑は魔種のおかげで静かさが満ちている。眠らせる程度とは生ぬるいと思うが、抗われない分事を成すには容易い。
先日まで共にいたウォーカー、クオン=フユツキの姿はそこにない。クオンは魔種たち、そしてイレギュラーズたちの動きを察して動き出している。
しかし彼までそこへ加勢することはなく。むしろ『注意を引いてくれるなら動きやすくて丁度良い』。
冷たい雪が彼の肩に触れて、ふわりと滑り落ちていく。終わりの見えない冬のなかに、1人分の足跡が続く。
(いつかは、姉さんもわかってくれる。だから僕は今できることをするんだ)
姉がもう苦しまなくて済むように。この世界を断罪するために。
体の軋む音には耳を塞いで――処刑剣を手に、彼は往く。
●
「シキさん、間に合ったのです! 弟さんの手がかりを見つけました!」
「本当かい!?」
がたっと音を立ててシキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が椅子から立ち上がる。『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は深く頷くと、シキが飲み物やらを避けたテーブルに羊皮紙を広げた。
今、イレギュラーズは深緑奪還に向けていくつかのピースを獲得している。絶対的な拠点である《アンテローゼ大聖堂》、イレギュラーズへの協力を惜しまないと決めた聖域《玲瓏郷ルシェ=ルメア》、『咎茨の呪い』の解除用宝珠である《タレイアの心臓》――など。
それでもファルカウへの進軍は容易でないだろう。冠位魔種が待ち受けているだろうそこへ、ただ進むだけで勝利を掴むことは難しい。
故にイレギュラーズたちはファルカウ攻略作戦を開始せんと準備を進めていた――のだが、シキがユリーカに頼んだ情報はそれに遠からずとも近からずであった。
「弟さん……ザクロさんは、別行動を取っているみたいです」
「別行動? クオンさんもいないってこと?」
はい、と頷くユリーカ。薄紫色の髪を靡かせる青年が、ファルカウと別方面へ向かう姿が目撃されたと言う。そこに黒髪の男はいなかったそうだ。
(1人で何をしに行ったんだ……?)
考え込むシキ。自分たちに仇なす世界を断罪するのだと言っていた彼であるが、具体的に何をするのかは示していなかった。だがしかし、魔種側につくのであればイレギュラーズの不利益になることはわかる。
「向かった方向は……この辺りでしょうか」
地図のある一点をユリーカが指さす。この辺りは集落が点在し、未だ保護の手も回っていないはずだ。
「……行かなくちゃ」
何をしようとするにしても、止めなければ。話をしなければならない。
シキはこの件も依頼として回してもらうよう告げると、共に行ってくれる仲間がいないかローレット内を見渡した。
そうしたシキとローレットの行動は、彼にとって計算外のことだった。
静かに事を終えるはずだったザクロは、現れたシキとイレギュラーズたちに瞠目して、それからいつもの――貼り付けたような――笑みを浮かべる。
「姉さん。僕を捜したの?」
「勿論さ……大事な弟のことだからね」
まだ2人とも得物には手をかけない。それでも世間話をする空気とは程遠く、ピンと張り詰める。
「……一緒には、いてくれない?」
「……いたいよ。でも、そのためには要らないモノが沢山ある。それに」
ザクロは一瞬、泣き笑いのような表情を浮かべて。
――姉さん、まだ僕と一緒には来てくれないでしょう?
処刑剣へ手をかけるザクロ。同時にシキたちも得物へ手を伸ばすが、直後一同を何かが襲う!
「なんだ……っ!?」
「――間の悪い」
飛び退きながら急襲者の正体を探ろうとするイレギュラーズ。処刑剣で急襲を防いだザクロはいち早く察し、小さく眉を寄せた。
それはヒトに近い形をしていた。それは泣いているようだった。それは哭いているようだった。
四肢は植物の蔦のように伸びて蠢き、咲く花は冷気を纏って周囲の温度を下げていく。その涙は――この最中にありながら、魅せられてしまいそうで。
「大樹の嘆き……!?」
シキは目を瞠りながらザクロと大樹の嘆きの様子を伺う。
ザクロを止めなければならない。だが、大樹の嘆きも捨て置けない。
集落もほど近いこの場所で、混沌とした戦闘が始まろうとしていた。
- <タレイアの心臓>雨と嘆きLv:35以上完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年06月05日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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ざざ、と複数の飛び退く音と共に雪の上に跡がつく。そうして大樹の嘆きからもザクロからも距離をとった『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)はため息をついた。
「こういう状況でもなけりゃ、雪見酒と洒落込むんですがの」
「HAHAHA! そいつぁまたのお楽しみだな」
呵呵と笑う『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)。楽しそうな笑みを浮かべた彼はちらりと『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)に視線をくれる。
「そったはそっちでケリをつけな。ミーには関係ないが、せいぜい邪魔者くらいは蹴散らかしてやるからよ」
「うん。頼んだよ」
「できるだけ早く戻ってきますけえ」
貴道、そして支佐手が。さらに他の仲間たちも頷く。不意に飛来した影から飛び退けば、地面に積もった雪が衝撃で飛び散った。
「あらぁ、お姉ちゃんに剣を向けるの?」
悪い子、と呟きながら『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が掌に向けてふっと息を吹きかける。ひらりと舞った氷の花弁がザクロの方へと流れて――。
「……!?」
込められた魔がザクロを縛り、暗闇へ突き落とさんとする。息を呑んだザクロは間一髪でそれらから流れるも、目の前に立ち塞がった人影を見て足を止めた。
「……前も言っただろう。私の仲間は傷つけさせないよ、ザクロ」
「姉さんは騙されているんだ。ねえ、僕のことは信じられない?」
ザクロの言葉にシキはくしゃりと顔を歪める。
信じられないわけがない。信じたい。けれど、同じくらい信じたいものもあるから。
「大丈夫よぉ。シキちゃん、私もついているわ」
「……うん」
後方からかかる声に頷いて、息を吸った。大丈夫、1人じゃない。
あぁ、と漏らす吐息は冷気のように冷たく。伸びた蔦には小さな蕾がいくつも存在し、少しずつ成長していく。
「悪いな、今日は先約があるんだ」
ここで時間を取られている暇はない。『竜剣』シラス(p3p004421)は素早く肉薄し、蔦の伸びる一角を手刀で斬り払っていく。
大樹の嘆きはたったの1体だが、その手足となる蔦は長く伸びている。油断をすればすぐさま背後を取られてしまうだろう。
「ラッシュ&ラッシュだ、HAHAHA!」
疾風怒濤の踏み込み、そして拳撃が蔦を打ち破っていく。大樹の嘆きの涙を見たところで心が揺らぐことも惑わされることもない。これは敵、自分たちが倒さなくてはいけないもの。
「援護します」
『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)の天星弓から素早くいくつもの矢が放たれる。ぱりん、と氷の花が砕ける音が響いた。
「アア、ア――」
大樹の嘆きが呻き声をあげる。痛いのか、苦しいのか、はたまた異なる感情か。その声に呼応したように蔦がゆらめき、鞭のようにしなってあちこちで暴れ回った。
「おう、どこ向いとるんじゃ! わしがこの森、全部焼いてしまうぞ!」
支佐手の振るった巫術用の剣が蛇神を招び出す。雷を纏うそれは、木々を巻き込むようにしながら大樹の嘆きへ迫っていった。
「正に混沌。正に狂宴。……そう呼ぶに相応しいひと時になりそうですね」
「まあ何はともあれ、やるべきことは変わらないさ」
『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の言葉に『無名偲・無意式の生徒』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は肩をすくめた。お邪魔虫を早々にどうにかして、ザクロの元へ加勢に向かわねば。
マニエラは動ける限りの最大限で、仲間たちの能力を底上げしていく。早急に、確実に。この場を切り抜けるために必要な力を。
そうして力を得た仲間たちが蔦を蹂躙していけばらそこを再生されまいとアッシュの放った気糸の斬撃がさらに切り刻んでいく。
(切ってもらった口火を、絶やさぬように)
大樹の嘆きとて無敵ではない。足を奪い、守りを崩し、血を流し続ければいつかは倒れるもの。その嘆きを聞きながらも手を緩めることはなく――。
「――アッシュ、小金井!」
マニエラの声にはっと我に返るアッシュ。正純も似たようなもので、目を見開いて状況を確かめようとしているようだ。
「あの奇妙な涙のせいだ」
大樹の嘆きを指すマニエラ。ほろほろとこぼれ落ちる涙にまた魅せられそうになって、アッシュは頭を振った。
仲間達が戦う間も、シキとアーリアはザクロを逃さぬよう対峙する。
「ねぇ、ザクロ。本当に……一緒にはいてくれないんだね」
「姉さんが、僕と一緒にいてくれないのなら」
何が楽しくて姉弟で戦わなければならないのか。けれど戦わなければならない理由が2人ともに存在する。
同じ処刑人の血筋だ、技術は折り紙付きと言って良い。ある程度は戦い方も、得手不得手も理解している。
ただ、イレギュラーなことはと言えば――シキが処刑剣ではない得物で戦っていること。そして、シキの後ろにはアーリアの存在があることか。
「ザクロ、よそ見してる暇はないよ!」
牽制攻撃を仕掛けるシキ。本気で傷つけたいわけではない。だからシキはザクロなら確実に受け流せるだろう攻撃を仕掛けていく。
「姉さんこそ……手加減している余裕なんてあるんだね」
ザクロが肉薄する。処刑剣の重い斬撃をいなしたところへ、アーリアの投げキッスが真紅の花吹雪と共に飛ぶ。
(ここで手を緩めるわけにはいかないわ)
彼とて苦しんでいるだろう。苦しくて痛くて悲しくてごちゃ混ぜになって――それでも、私たちに譲れないものがある。
「ここで、何をしようとしていたんだい」
「世界への復讐だよ」
問いかけへさも当然と言うように答えるザクロ。その答えにシキは眉根を寄せる。それは具体的にここでどうこうしようというものではない。
「皆殺してしまえば、姉さんを煩わせるものはなくなる。傷つくことだってないんだよ」
「殺す……?」
「……それは、この周辺の集落の人を、ということかしらぁ」
さしものアーリアも表情を険しくする。美人がそのような顔をすれば凄みが増すものだが、ザクロは動じない。
「『まずは』ね。抵抗がないほうがやりやすいだけだよ。そうでしょ?」
「ザクロ、」
なおも言い募ろうとしたシキにザクロが肉薄する。これ以上は聞きたくない、とも言いたげに。
大樹の嘆きの足元へ、硫化水銀の燃え盛る真紅の沼を出現させた支佐手。水霧の立ち込める中、手にした鏡から溢れた泥より腐った手伸び上がる。それは大樹の嘆きへ向けて手を伸ばし、追いかけるように出てきた死者が今にも咲こうとしていた氷の花を握りつぶした。
(……あの氷の花、何やら嫌な感じがします)
咲くたびに周囲の温度が下がってくるような、そんな気がする。吐いた息が白く色付き、消えていくのは初めからだっただろうか。ここまで肌に空気が刺さるのは、大樹の嘆きが乱入する前からだっただろうか。
大樹の嘆きを引き受ける支佐手は既に満身創痍だった。可能性(パンドラ)も燃やして、それでもまだ――大樹の嘆きは、止まらない。
けれど確実にダメージを受けているのも確かである。呪いを帯びた一撃を受け、大樹の嘆きが操る蔦は再生しない。最も、蔦は無数に生えているから多少減った程度だが、手数の違いは重要だ。
「一気に畳みかけるぜ!」
シラスの手刀が的確に、本体の急所めがけて繰り出される。1撃目は残る蔦で防がれたが、シラスの攻撃はそれだけにとどまらない。穿つように叩き込まれる攻撃に大樹の嘆きが苦しみの声を上げ、それが森に響き渡る。
「頭に響く……っ!?」
「皆、固まって!」
ぐわんと頭を思いきり揺らされるような不快感。顔を顰める正純に、マニエラが叫ぶ。立て直しから真っ先に飛び出していったのは貴道だ。
「コイツを耐えられるかな?」
最小限の素早いウィービングから繰り出されるフック。嵐のような大連打に大樹の嘆きの体が後退する。
荒ぶる大樹の嘆きを四方八方から攻め立てるイレギュラーズたち。彼らを支えるマニエラはクェーサーアナライズで仲間たちが出し惜しみなく技を連発できるよう言霊を放つ。
「しかし、多いですね」
無数の矢を射ながら、未だに蠢く蔦がある。正純はふうと小さく息を突きながら蔦と、そこに咲く氷の花を狙う。
だが不意に横から迫って来た蔦が草陰から飛び出した。はっと瞠目するも、躱しきるほどの余裕は無い。
(ならば――狙い、撃ち抜くのみ!)
襲われたらひとたまりもないだろう。ならば倒れるまで撃ち続けるのだと、正純の瞳が迫る蔦へ照準を定めた。
蔦が正純を貫くより、わずか早く。それは正純自身が手繰り寄せた運だ。地面へ縫い留められた蔦は力を失くし、その後に続こうとしていた蔦もまた無数の矢が仕留める。
「……あなたは、壊れてしまっているのですね」
気糸の斬撃を放っていたアッシュは、泣いて暴れる大樹の嘆きに小さく目を細めた。
この周囲はイレギュラーズが破壊した箇所より、大樹の嘆きが破壊してしまった箇所の方がはるかに多い。防衛機構として生み出されておきながら――それを、制御できない。
ないているのは、悲嘆のためか。痛みのためか。それとも、守るべきものを破壊してしまう絶望か。
(其の声は、其の表情は、あまりにも)
アッシュは小さく、唇を噛んで。
「それなら、壊れたあなたを、破壊します」
その光は、宵闇を切り裂くように。軈て燃え尽きる箒星のような弧を描いて、大樹の嘆きへ飛んでいく。真っ直ぐに飛来したそれは、銀色の尾を残しながら大樹の嘆きの胸元へ吸い込まれ――そのまま、背中まで貫いた。
「……おやすみなさい」
大樹の嘆きの瞼が落ちる。呻き、なき声を上げていた唇は最期に吐息を漏らす。
それ以上――嘆きが聞こえることは、なかった。
●
「アーリア、」
「私はまだ大丈夫よぉ」
アクアヴィタエを使ったアーリアが肩越しにウィンクする。
シキを庇うように前へ出たアーリアへ、ザクロの攻撃は容赦がない。的確な攻撃は瞬く間にアーリアの体力を削いでいくが、だからと言ってここを退くわけにはいかないのだ。
「私も"お姉ちゃん"だから」
耳元でぶん、と処刑剣が風を唸らせる。半身ずらして避けたアーリアは掌を空へ向けて。
「だからね、一緒に居たいって気持ちが解るわ。でもね――"きょうだい"が誤った道に進みそうなら、それを正すのも姉の役目よ」
酩酊させるような花吹雪がザクロを取り巻く。彼の表情が苦し気に歪められた。
「アーリアさん!」
正純の声だ。次いでシラスが駆けつけてくる。
「話は済んだか?」
「始めたら手加減はできないぜ?」
にぃと好戦的に貴道が笑う。傷だらけではあるが、それでもまだ闘志全開だ。
マニエラはアッシュと正純にも付与魔術をかけ、さあとザクロを見る。
「数の有利と気力の有利、そろそろ決めていこう」
相手取るイレギュラーズの数が増え、それもシキたちとは違って手加減なしの者たちだ。処刑剣で攻撃を受け止め、いなすザクロも防戦を強いられる。
「耐えてみせろよ、HAHAHA!」
貴道の力強いフックが響き渡り、ザクロの体が防ぎきれずにたたらを踏む。仲間を支援しながらマニエラは彼の様子を見た。
(この状況でも、殺意に満ちているんだね)
シキ以外は何としてでも殺してやるという瞳だ。よほど彼女の事が大切なのだろうし、その想いに対して理解はできる。
だが、彼はシキにも大切な人が――それも、ザクロ以外にいるだなんて、気付いてもいないのだろう。彼がそれに気付くのはいつになるのか。
(同じ家族で争い合うのは、辛く、苦しい事なのだと……)
兄妹の記憶は、正純に無い。けれどそれは知っている。シキをこれ以上苦しめさせるわけにはいかない。
魔性を纏いし一撃を手元から放ちながら、それにと正純は瞳を眇めた。
出発直前。シキから齎された情報によれば、彼は病気であるのだという。ならばここで無理をする利点はないはずだ。早々に退いてもらおう。
処刑剣の斬撃を潜り抜け、背後へ回り込んだアッシュは美しき銀の一振りを握りしめる。そこに込められた熱と光がザクロの服を切り裂いて――。
「――え?」
目を見張ったアッシュから勢いよく距離を取るザクロ。
赤を見た。けれど血ではなかった。あれは。あの、煌めく赤は。
距離を取ったザクロへシキが執念深く肉薄する。瑞刀と処刑剣がぶつかり合い、硬質な音を立てた。それはすぐさま離れて、続けざまにシキが黒の斬撃を放つ。
(ザクロは、こちら側には来ない)
それでも願ってしまうんだ。君が隣に居てくれることを。一緒に笑って、時に泣いて、共に過ごしてくれることを。それは君も同じはずだろう?
「ザクロ……一緒に、いたいよ」
「――駄目だよ、姉さん」
ザクロの処刑剣が盾のように斬撃を受け止める。彼は、困ったように笑っていて。
「限られた時間だから、僕は姉さんを幸せにするために、出来る限りのことをするんだ。信じられないなら、待っていてよ」
いつしか、雨が降っていた。
小雨からあっという間に豪雨となって、積もっていた雪すらも解けて混じっていく。
その雨に気を取られていた、一瞬の間に――ザクロは、消えていた。
「……ここが集落みたいだね」
暫くして雨が上がり、集落の様子を見に行こうと言いだしたのは誰だったか。
きょろりとシキはあたりを見回す。同じように見回したアーリアは、まだ救出の手が入っていない集落であることを知った。
それ以外は至って変哲のない――なにも、ない。ただの集落というべきだろう。そんな場所で殺戮を行おうとしていた実弟を思うと、シキの表情が曇る。
(わざわざクオンさんと別行動までして……?)
本当にそうなのだろうか。けれどイレギュラーズが間に合わなければ、ここは血の海になっていたかもしれない。それはザクロによるものかもしれなければ、先ほど倒した大樹の嘆きによるものだったかもしれないのだ。
「……どうか、顔を上げて。屹度、機会はあるはずです」
アッシュがそんなシキにそっと声をかけた。
ザクロはイレギュラーズの前から逃亡した。なれば、いつか全てを決する日がくるはずだ。それが今日、この場でなかっただけだから。
「どうせまた直ぐだろうさ。縁は簡単に切れるもんじゃない」
「……そう、だね」
安心させるようにシラスは微笑む。切っても切れない、腐れ縁のようなものだ。案外シキが思っているよりも――シラスが想像するよりも、ずっと早く再開の時が来るかもしれない。
「他にも集落はあるみたいですから、一応確認しましょうか」
「いいぜ、敵がいたらミーが吹っ飛ばしてやるよ、HAHAHA!」
正純の言葉に貴道が掌へ拳を打ちつける。そんな姿を見ながら、アーリアはある方向を見上げた。
「……きょうだいは、仲良くありたいわよね」
瞑目して、妹のことを思い出して。それから――。
「アーリア、何かあったかい?」
「……ううん、なんでもないわぁ。さ、次の集落にもいきましょ!」
シキの声かけに目を開けたアーリアは、皆の元へと駆け出していった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
ザクロは負傷し、撤退しました。
またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
ザクロの撃退
大樹の嘆きの撃破
●情報精度
このシナリオの情報制度はBです。不明点もあります。
●フィールド
迷宮森林の中。木々により足場や視界はやや苦労するかもしれません。
雪が降っており、より厳しい寒さを感じます。また、ほど近い場所に複数の集落が存在します。
●エネミー
・ザクロ
旅人で、シキ・ナイトアッシュさんの関係者です。
彼は世界を憎んでおり、シキさん以外を殺戮するつもりです。今回はクオンからイレギュラーズが動き出す話を聞き、敢えて別行動を決めたようです。
戦い方は処刑剣を用いた至近~中距離レンジの物理アタッカー。EXA・CTに優れており、次点でEXFと命中が高いです。
大樹の嘆きは基本的に無視したい……ようですが、向こうから仕掛けてくるため完全に無視はできないようです。
・大樹の嘆き
永き時を経たいずれかの大樹が放出した防衛機構。無差別攻撃を行うモンスター。深緑の脅威に対抗しようとしているようですが、このまま放置すれば近隣の集落へ被害を及ぼします。
女性体の四肢が植物へ変質し、そこから無数の蔦が伸びて手足の代わりとなっているようです。開かれた瞳からは常に涙が流れており、【混乱系列】【恍惚】の判定が毎ターン存在します。
手足となる植物には不定期に氷の花が咲き、増えるごとに体感温度が下がります。一定まで下がると、上記BSに何かしらの判定が加わります。
攻撃手段としては蔦による物理攻撃の他、声(なき声)による神秘攻撃が可能なようです。
止めるためには倒す他ありません。
●ご挨拶
愁と申します。
ザクロと大樹の嘆きと三つ巴の戦いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
●『夢檻』
当シナリオでは<タレイアの心臓>専用の特殊判定『夢檻』状態に陥る可能性が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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