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シナリオ詳細

World Glitch:雪月の野に、輝いて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 世界とは、高度なプログラムの下に生み出されたものである。
 そう考えたことはあるだろうか?
 メタ次元の話ではない――例えば、この世界が超人類によって作られたコンピュータ・ワールドであるとか、そんな話では決してない。
 例えば、花は咲き、枯れ、また花が咲く。
 例えば、水は流れ、溜まり、昇り、降り、また流れる。
 すべて周到に設計された、法則の賜物によるものだ。
 神の力を感じろと言っているわけではない。これを作り出したのが神であろうと偶然の産物であろうと、そんなことは関係ない。
 重要なのは、世界とは、このようなプログラムの制御下にあるという事だ。物理法則、魔術法則、そう言った高度なプログラムの下に作られているから、花は流れないし、水は咲かない。プログラムに反することは行われない、という事だ。そう、この世界は、幾重にも連なるプログラムの集合体で構成されている――と、仮定しよう。
 さて、本題。プログラムについて、多少の知識があるものなら分かるだろうだろうが、それが高度であれば高度であるにしたがい、切っても切れぬ関係にあるものがある。
 Glitch(バグ)だ。
 たとえばがん細胞――人間を殺す、やっかいな病気だ。あれは人間というプログラムに生じた、Glitchなのではないだろうか。正常に成長する細胞のプログラム、それに生じた切っても切れぬGlitchだと。
 何が言いたいのかといえば、つまり世の不条理や超常的な事は、Glitchなのではないか、という事だ。そして人間という一つのプログラムに、がんというGlitchが存在するのだから、人間という一個体にも、Glitchが存在するのだから、ならば世界にも――世界のどこかにも、Glitchが存在するのではないか――と言う仮定だ。
 そしておおむね、Glitchを排除することはなかなかに、難しい。

 ああ、君は昔々、遠い昔に、こんな文章を読んだことがあるかもしれない。私はこの文章はよく再利用する。というのも、どうにも――承前として、この話を理解していてもらいたいからだ。だからもしかしたら君は、昔、昔、私の書いた書物を読んだり、講演を聞いたことがあるのかもしれない――講演をした覚えはないが、酔った勢いで、どこぞの酒場で喚き散らしたかもしれない。
 話を戻そう。世界とは高度なプログラムの下に生み出された芸術作品であり、神(天才的プログラマ)の手によって生み出された。が、如何に神業を持ったプログラマとて、小さなGlitchは排除できない。プログラムが巨大で精緻であれば精緻であるほど、なにがなにに影響を与えるかなんてものは想像することはできない。例えばどうでもいい小国のいち市民の靴下が裏返って履かれていたせいで、遠い大陸の大国が亡ぶかもしれない。厭なバタフライ・エフェクトだ。
 さて、本題であるが。都市伝説として語られる内に、こんな話がある。
 幻想のとある大きな町。春先に、汗ばむような陽気の中、とある道端で、一人の男が『凍死』していた。
 男は突如として道端に現れ、現れた時にはすでに死んでいた。前述したとおりに凍死していたのだ。魔術師の氷の魔術でも食らったのか? いや、それなら瞬間的に冷凍死しているだろうが、この男は少なくとも『数日間は』『極寒の世界をさ迷い歩き』『飢えと寒さにより死亡した』ことが分かっている。そんなことがあり得るのか?
 調べてみれば、同様のケースが、幻想の国にて都市伝説として語られているのだ。ある日、誰かが消え、数日の後に、凍死体で発見される。ずっとずっと昔から、ごくごくごくごく稀に発生する、それ故に『都市伝説(うそっぱち)』として語られるそれは、しかし私の調べた限りは事実だ。
 幸いなことに、私はこの現象の『生還者』とコンタクトをとることができた。この生還者は、山林で木こりをしている男で、ある夏の日に行方不明になり、その三日後に全身を新鮮な雪でまみれさせて、村の入り口で倒れていたのだという。
「森を歩いていたら、気づいたら雪原に居たんだ」
 と、男は語った。まったくもって、青天のへきれきだったという。テレポートしたかのような、いや、何か世界の切り替え(ローディング)を失敗してしまったかのような、奇妙な感覚に囚われた刹那、彼は普段の森から、見たこともない雪原にいたのだというのだ。
「それから、三日三晩、さまよった。雪の中を。そうしたら、女の子が居たんだ。多分、女の子だと思う。真っ白で、人間じゃない容易に見えたが――そういうふうに見えた。多分あれが、世界の中心なんだ。雪原の、世界の。あれを壊せば、きっとあの世界は消えるんだろうって、本能的に思ったが――」
 俺は逃げた、と男は言う。
 あまりにも恐ろしかったのだ、と男は言う。
 男が逃げ出せたのは、奇跡だったのだろう。恐らく男は、仮死状態で放り出され――たまたま蘇生できたに過ぎないのだ。
 雪の女王が支配する、Glitchによって生み出された世界。私はこれを、『World Glitch:TYPE-Snow』と名付けることにした。

 ――『World Glitch:雪月の星に、輝いて』著.ヴェルゼ・クェイク――より抜粋。

●雪の世界へ
「妙な話なのですが」
 と、あなた達イレギュラーズへ、ローレットの情報屋の少女が言った。眼鏡をかけて、些かおどおどした少女である。新人なのだろう。些かたどたどしい。
「えと、幻想の、南部の方にある森で、人が消える、という話がありまして」
 なんでも。ここ数日、幻想南部のとある森に入った人が、消失してしまうという事件があったそうだ。
 原因は不明。生存者は無し――行方不明になったものは、数日後に凍死した状態で発見されるのだという。
 今のところ、まったく、神隠しのように消えてしまうそれを――。
「調査してほしいんです。雲をつかむような話ですけれど……」
 そう言った少女が、一冊の本を取り出した。『World Glitch:雪月の星に、輝いて』著.ヴェルゼ・クェイク。
「一生懸命類似の事件を探したんですけど、もしかしたら、これじゃないかなぁって。
 これ、オカルト本みたいな奴で。誰もまともに取り合ってないような、ほんと、誰も信じていないような奴なんですけど……」
 その、『World Glitch:TYPE-Snow』が、今回のケースに、ぴたりと符合していた。
 世界のバグ。Glitch。その結果生まれた、雪の世界と雪の女王、という世界の故障。
「えーと、一応、頭に入れておいていただけると、いいのかなぁ、なんて」
 あはは、と困ったように言いつつ、少女は言った。
 いずれにせよ。あなた達はこの県を調査しなければならないのだ。参考にする、と告げつつ、あなた達は件の森へと向かう。
 その森は、一見すれば、何の変哲もない『普通の森』だ。魔物の気配もない。精霊の類も。動物の気配はあるが、精々ノーマルな野生動物のそれだ。木々は青々と生い茂り、気温は春先のそれには充分以上に温かい。
 こんな場所で、凍死を? あなた達は疑問に思いながら、歩を進める。ふかふかと沈む草木の感触が、しかしある一点を境に、ふと『沈む雪』のそれに代わる。
 途端、世界が真っ白なものへと変わった。
 肌寒い……いや、刺すような寒さが、肌を叩く。びゅおうびゅおうという雪風が、あなたの耳朶を叩く。
 世界が。
 切り替わった。
 まるで、ゲームでローディングのミスが発生し、森エリアから雪原エリアにつながってしまったように――。
 世界が切り替わった。
 雪月の野に、あなた達がいる。
「これって……!」
 仲間の一人が声をあげた。貴方は頷く。あの、オカルトじみた本に書いてあった現象、世界のGlitch、そのままの現象だ!
「特異運命座標(イレギュラーズ)なら脱出は可能だと思うが、放っておいたら犠牲者が出る、という事だな」
 可能性を持つイレギュラーズなら、ここから生きて脱出することは可能だろう。だが、この現象をほうっておいては、他に犠牲者が出るという事であり……そもそも、この現象の解決こそが、あなた達の仕事なのだ。
「確か、世界の中心は、雪の女の子、という話でしたね」
 仲間の言葉に、あなたは頷く。
 ならば、この雪の世界を探索し、雪の女王を探し――倒さなければなるまい。
 あなた達は頷き合うと、雪原に一歩を踏み出した。
 空は白夜のようで、太陽みたいな月が煌々と輝いていた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲

 です。
 では、今回の現象、『World Glitch:TYPE-Snow』について、説明いたします。

●作戦成功条件
 『World Glitch:TYPE-Snow』の完全破壊。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●作戦状況
 作戦の目的は、『World Glitch:TYPE-Snow』の完全破壊となっています。『World Glitch:TYPE-Snow』の完全破壊には、コアである『雪の女王』を撃破する必要があります。
 『World Glitch:TYPE-Snow』は世界上書きタイプのGlitchです。ある一定のエリアを、コアの心象風景を投影したマップに書き換え、そこに迷い込んだ人間を閉じ込めて殺します。
 今回の『World Glitch:TYPE-Snow』のコアである『雪の女王』になった存在は、7歳の虐待死した少女です。彼女の寒い心象風景は世界にしみ出し、『World Glitch:TYPE-Snow』となりました――あなた方は、これを察していてもそうでなくても構いません。人語を介しますが意思疎通は不可能です。すでに死亡している存在ですので、慈悲なく破壊してください。
 作戦区域は心象風景世界である『広大な雪原』です。まず、コアである『雪の女王』を見つけ出す必要があります。『雪の女王』は生命であり、非生命であり、有機物であり、無機物です。あらゆるデータがごちゃ混ぜに積みあがったダストであり、様々な手段でのサーチが可能となるはずです。
 雪の世界は様々なランドマークがあります。しっかりとマッピングしていけば迷う事はないでしょう。また、あなた達は『事前に情報屋から『World Glitch:TYPE-Snow』の情報を得ていたため、ある程度の耐寒装備を用意しています』。凍死することはないでしょうが、あまり長々とこの世界にいることもお勧めしません。
 あなた達が森に到着した時は午後の早い時間でしたが、Glitchの能力により、周囲は常に『白夜』のように明るく感じるようになっています。周囲実時間が夜であろうと朝であろうと、常に白く明るい夜になっています。
 その他、留意する点はないでしょう。

●作戦目標情報
『雪の女王』 ×1
 世界上書きタイプのGlitch、『World Glitch:TYPE-Snow』のコアになる存在です。
 特徴は以下の通り。
  TYPE-Snowは非常に高い防御技術・特殊抵抗を持ちます。
  TYPE-Snowの攻撃は全て神秘属性です。
  TYPE-Snowの攻撃範囲は中~遠距離レンジを得意とします。複数範囲攻撃を行います。
  TYPE-Snowは至近~近距離レンジの攻撃面での穴があります。具体的には、このレンジでは単体攻撃しか行えず、
   威力も他の攻撃に比べてワンランク劣ります。
  TYPE-Snowは、毎ターンの初めに、攻撃用にアイシクルビット(氷片)を4体を生成します。
   この氷片はユニットとして生成され、非常にもろく、低威力の攻撃でも容易に破壊出来ます。
   この氷片は、縦横無尽に動き回り、強力な渾身の物理属性至近レンジ攻撃を行います。
   また、発生したターンに破壊せずとも、ターンの最後に必ず全て自壊します。
  TYPE-Snowの攻撃には、凍結系列、出血系列、重圧、のBSが付与される場合があります。


 以上。

 となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • World Glitch:雪月の野に、輝いて完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年05月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
レッド(p3p000395)
赤々靴
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
シラス(p3p004421)
超える者
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
彼岸会 空観(p3p007169)

リプレイ

●白夜
 大きな太陽のような月が、煌々と輝く。空は白く、暗く、夜でありながら、真昼のように明るい。
 朝でもない。昼でもない。夜でもない。厳密には白夜とも違うが、白夜、というべきか。白い、白い世界。
「まったく、噂通りで防寒着が荷物にならなかったのは良かったが」
 頬を叩く雪風に、『竜剣』シラス(p3p004421)は眉をしかめて、言った。
「最近はマジで寒い思いばかりしてるぜ! 何か呪われてるんじゃねえか?」
「深緑の異変でも、冬の王がかかわっていたせいで、確かに冬のような景色が広がっていましたね……」
 苦笑しつつ、『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は言う。「でも」と続けてから、
「この寒さは……深緑のそれとは、違う感じがします。なんというか、拒絶……? いえ、でも、なんだか複雑なような……」
「雪の女王、って奴か? なんたらかんたら、って奴」
「『World Glitch』っすね」
 そういうのは、『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)だ。
「以前、別の奴に遭遇したっす。あの時は、赤い世界、だったっすけど」
「DUSK、とか言ったか。報告書を読んだ記憶がある」
 顔をしかめつつ言うのは、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)だ。
「持ったものに寄生する、いつ生まれるかわからないバグ、だったと記憶している。
 そうか、御主が参加した依頼だったな」
 汰磨羈の言葉に、レッドは頷く。
「そうっすね。まさかまた、似たようなのが発生するとは思わなかったっすけど。
 今回のも……たかが噂なんて侮っていたら凍え死んでたっす……ぶえっくっしょい!」
「という事は……まぁ、この状況で疑うわけじゃないけど、わーるどぐりっち、って言う奴の仕業、で間違いないの?」
 『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)の言葉に、レッドは頷いた。
「おそらく。あの、世界が切り替わる瞬間の気持ち悪さ……あの時と同じと感じたっす」
「うーん、こうなっても、にわかには信じがたい……けど、わたしが子供の姿で召喚されたのもバグっぽいといえばそうだし、そう言えばカムイグラにバグ召喚された、なんて事件もあったよね。世界のバグ、意外とあるのかなぁ」
「マジかよ、どうせ飛ばすなら、海洋当たりの南国でバカンスにしてほしかったぜ」
 シラスが軽口をたたくのへ、ルアナは笑った。
「少し気持ちは分かるかも。それで、あの情報源の本がほんとなら、雪の女王、がいるんだよね?」
 ルアナの言葉に答えたのは、彼岸会 空観(p3p007169)だった。
「そうですね。書物に記載された世界のコアは、雪の女王……年端も行かぬ少女であった、と。
 筆者の調査によれば、コアの心象風景を、世界に上書きしているのではないか、とも……」
 空観が、辺りを見渡した。寒く、冷たく、誰もいない世界。
「……代替わりをしていないとするならば、どれほどの時間、コアの少女は、この様な世界で。
 いえ、既に死しているとの事です、何も感じないのかもしれません。ですが、これはあまりにも」
「そうだね、酷い……と、思う」
 伏し目がちにそういう『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)へ、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は、その手を優しく握った。真っ白な悲しい世界で、その体温だけが灯台のようだった。
「もしも、雪の女王に、まだ意識があるなら……助けて、あげたい。
 あの、助けるって言っても、その」
「皆、わかっていると思います」
 珠緒がそういうのへ、仲間達は頷いた。
「まぁ……もしそうだとしたら、わからんでもない。
 一方的な同情だったとしても、それが伝わらんとしても……こちらの気分を切り替える意味でも、そういう気持は必要だろうさ」
 汰磨羈がそういうのへ、珠緒が、そして仲間達が頷いた。
「それにしても、バグ……ですか。黒幕もいない、悪意もない、ただ『運が悪かっただけ』という現象……。
 黒幕がいた方が、よっぽどすっきりするのでしょうね」
「そうっすね。前の時も、結局は起きたことに対処するしかなかったっすから」
 レッドが言う。
「ひとまず、私たちも対処を始めましょう」
 シフォリィが言う。
「ああ、こうなっちまうまえにな」
 シラスが足元を示した。そこには、酷く青ざめた誰かの手首が転がっていた。いや、おそらくこの雪の下に、そこから先が埋まっているのだろう。迷い込んだ誰かは、こうして凍死する最期だという事だ。だが、しゅう、と空気が抜けるみたいな音がしたと思ったら、その手首が世界から消え失せた。
「消えた……もとの世界に放り出された、という事ですね」
 シフォリィが頷く。
「パンドラの加護のある珠緒たちイレギュラーズなら、おそらくは生きての脱出も可能だと思います。
 ですが、そうでない人たちは……」
「都市伝説の通り、暖かな場所で凍死している、って事になるんだ……」
 蛍の言葉に、仲間達が頷く。
「元々、依頼はこの事件の調査と解決です」
 空観が言った。
「これ以上の被害者を出さないためにも……行きましょう。幸い、あたりの風景には、目印になる様な大きな木や、朽ちた家のようなものがあります」
「随分とアンバランスっすね。子供の落書きみたいな」
 レッドの言葉に、汰磨羈は頷いた。
「心象風景か。どうせならば、幸せな景色を生み出せればよかっただろうに」
「それじゃ、行こうか、皆。
 くれぐれも、寒さにやられないようにね」
 ルアナの言葉に、仲間達は頷く。
 かくして白い世界を、一行は進み始めた。

●探索
 びゅおう、びゅおう、と正面から風が吹きつける。
 こないで、こないで、と叫ぶように。
 その雪風を正面から受け止めながら、一行は雪原の上をゆっくりと進んでいた。
「クソ、しかしひでぇな。まるでガキが泣き叫んでるみたいだ」
 シラスが顔を腕で隠しながら言った。進むにつれて、なんだか風圧は強くなっているような気がする。
「しかし……『声』は聞こえないな。流石にもう、生存者はいねぇか……」
 シラスが言うのへ、仲間達も沈痛な面持ちで頷いた。
「しかし、奇妙ですね。ランドマークとなる建物です」
 空観が言う。
「なんと言いますか……これまではまばらでしたが、徐々に、密度が濃くなっている気がします。より鮮明に、よりはっきりと……そうですね、この景色を生み出したのが子供、というのも頷ける」
 その言葉通りに、イレギュラーズ達が進めば進むほど、目印となる建物や植物などが多く設置されている。まるで、想いの中心へと近づくかのようだ。
「それにしたって、寂しすぎる光景だよ」
 俯瞰視点で上空から大地を見下ろす形で確認するルアナが言う。
「ボロボロの家、寒々とした木々……痛いとか嫌だって言うイメージ。なんだか……」
 コアの少女とやらの心象を、これでもかと見せつけるかのような。
「ふむ……そう考えると、実にむごい話だ。これが……幼い少女の心の風景だと?」
 汰磨羈はそう言いながら、すぐそばにあった小屋を覗き込んだ。荒れ果てた風景が底にある。酒瓶。割れた食器。転がった椅子。綿の飛び出たぬいぐるみ。
「……」
 汰磨羈は心底、嫌そうな顔をした。寒々とした光景から、少女がたどった人生が分かる様な気がしたからだ。
「二重できついっすね。ここに何とか逃げ込んだ人たちの痕跡も見受けられるっす」
 誇りについた足跡はまだ新しい。誰かがここに命からがら逃げこんで、そこで孤独な死を迎えたはずなのだ。今も森の何処かに、その死体は転がっているのだろうか……。
「しかし、奇妙ですね。この世界の物質は、色々なものが混ざり合っているような気配を感じられます」
 シフォリィが言った。精査した物体は、現実のそれとは微妙に異なっている様だ。
「やはり……現実的な空間ではないのでしょうね。雪の女王というのも……」
「もし、この世界が女の子の作りものなら……」
 蛍が言った。
「この強い風も、女の子の、近づかないで、って言う声なのかもしれない。
 すべてを拒絶してしまった、声……だったら、風が吹いてくる方に向かえば、もしかしたら……」
「冬の女王がいるかもしれない、という事ですね」
 珠緒が言った。
「何も目的無くさまようよりはいいと思いますよ。レッドさんのギフトもそうですけど、私も来た道には目印を残していますから、迷う事はありません」
 シフォリィが言った。
「遭難した時のセオリーは動かないことっすけど、今はそういう場合じゃないっすからね。
 無目的に動き回るのは避けたいっすが、でも他に手がかりも少ないのは事実っす」
 レッドが続ける。恐らく、無目的に歩き回っても、やがては『中心』に到達できるだろう。そのような奇妙な予感が、イレギュラーズ達にはあった。だが、それはきっと、イレギュラーズ達が倒れる寸前であるかもしれないし、そうなれば、『事態を解決する』という依頼の達成はできない。
「珠緒も、蛍さんの意見に賛成するのです。
 風上に向って、進みましょう。大丈夫です、マッピングも、ここまで完璧です。
 皆さん、それでいいですか?」
「もちろん!」
 ルアナが頷いた。空観も静かに頷いた。
「では、急ぎましょう。恐らく夜が明けることはないでしょうが、此方の体力まで無尽蔵……などと気の利いたバグではないでしょうから」
 その言葉に、仲間達は頷く。かくして、風のねっこに向って、イレギュラーズ達は歩き出した。果たして蛍の予感が正しかったかのように、『あたりの風景』がより鮮明になっていく。より直接的に、少女に何があったのかを教えてくれる。ありふれた、合ってはいけない悲劇。実父からの虐待は、やがて少女の命を奪った。
「……くそ、『声』が聞こえやがる」
 シラスが顔をしかめた。『人助けセンサー』が、かすかな、本当にかすかな、助けを呼ぶ声を拾った。シラスが顔をしかめたのは、それが、風の根っこ――この世界の中心から聞こえたからだ。
「助けを……呼んでんのか。死んでなお、拒絶してなお……」
 誰にも聞こえないようにシラスがそう呟くと、
「行こうぜ。中心は近い」
 仲間達に、そう言った。その言葉に、確信と共に仲間達は頷いた。やがて、ひときわ強い風がびゅおう、と吹いた刹那、イレギュラーズ達の目の前に、雪か、氷か、そう言ったもので作られた、幼い少女の像のようなものが現れた――。

●雪の女王
「雪で出来た……女の子っすか?」
 レッドが声をあげる。まさにその言葉通り、雪の少女、雪の女王が、そこにいた。
『来ないでって言ったのに。触らないでって言ったのに』
 女王が声をあげた。頭に響くような声だ。幼い少女の声だ。
「しけた面しやがって……どいつもこいつも嫌んなるぜ」
 シラスが複雑そうな表情でそういう。
『やめて、来ないで、汚さないで、捨てないで、殺さないで』
 きゅうぃぃ、と甲高い音が成った。同時、女王の周囲に、四つの氷片が生まれる。鋭い、鋭い、近づくものを切り裂く刃。
「やる気だぞ! 構えよ!」
 汰磨羈が叫ぶ。
「分かっておるな! あれが世界の中心……破壊しなければ、この世界は消えない!」
 それは、本能に訴えるような、そんな確信だった。その通りです、デバッガー。バグの処理を。世界(プログラム)の正常化を。
 氷片が、唸りをあげて飛び回る。鋭い氷片は、ナイフか、銃弾か、人を傷つける凶器となって、イレギュラーズ達へと迫る――。
「大丈夫だ、うちのエースはあんなかき氷より早い!」
 シラスが声をあげる――同時、珠緒はかけた。仲間達を導くように、その背に続けと促すように。連鎖的に行動した仲間たちがかける。珠緒の速度は、氷片のそれを上回る。
「てやあああっ!」
 ルアナは叫び、その刃を振るった。大剣が乱撃の如き振るわれ、氷片を次々と破砕していく。
『いや、来ないで、叩かないで!』
 砕けた破片が、ぎゅぅぃ、と巻き戻るように集まって、再び氷片を作り上げた。どうやら、無尽蔵に再生されるらしい。
「なるほど、限りなく再生される、か。
 ふふん、それがなに? 再生されたら、それも全部叩いちゃえばいいんでしょ!?」
 ルアナは不敵に笑うと、再度その体験を叩き落す! 飛び回る氷片を相手に、ルアナは身軽に、それを叩き落して回った!
「こっちは任せて! 多分、攻撃自体は鋭いと思う! うちもらしと、その子は任せたよ!」
「任せな、寒いのはもう勘弁だ。速攻で終わらす!」
 シラスがその手を振るう。魔力を帯びた手刀は、漆黒の呪力の刃を形成し、純白の雪の女王に黒き傷跡を残した。
『いたいいたい、いたいいたいの、おとうさん!』
「悪いな、俺はそんな歳じゃねぇよ!」
 反撃のように、ぶわり、と強烈な雪風が、シラスにたたきつけられる。正面から、シラスが吹き飛ばされるような一撃。ちぃ、と舌打ち一つ。
「威力自体は大したもんじゃない! ガンガンに張り付け!」
「相手の姿勢を崩します! 合わせて、阻害術式(BS)を打ち込んでください!」
 シフォリィが、その手を掲げた。ぼう、と雪風に負けぬほどに燃え盛る炎が、その手に顕現する。
「撃ち込みます……溶かしてみせます、あなたを包む氷雪ごと!」
 轟! 放たれた火球は途中で爆散し、花吹雪が如き炎乱を生み出す! 火華に包まれた女王が、じりじりと実を焼く炎に悶えるように鳴いた。
『やめて、熱い! 痛いの! 熱い!』
 泣き叫ぶような少女の声に、シフォリィはわずかに顔を歪めた。
「耳を貸してはダメっす! 前もそうやった奴もいるっすよ!」
 レッドが叫ぶ。シフォリィは頷き、決意に満ちた表情を見せた。
「終わらせる……こんな世界は!」
 シフォリィが再度、その手を振るう。じゅう、と火華に、女王の肌がとける。
『いたいいたいいたい!』
 ばぢばぢ、と周囲の雪が瞬く間に氷に変化する。ダイヤモンドダストの強烈なナイフが、シフォリィ、そしてイレギュラーズ達へと降り注いだ。鋭い氷のナイフが、イレギュラーズ達の肉を切り裂き、出血と同時に強烈な凍結攻撃をもたらす。
「大丈夫っす! ボクが寒さに屈しない活力みなぎる春を奏でるっす♪」
 レッドの頌歌が、その吹雪の音に負けぬ声で響く。ああ、春を、春を、幸せの時を。その声が、絶望の雪月の野に、強く輝く。
「畳みかけてください!」
 シフォリィが叫ぶのへ、
「了解だ! 珠緒、御主に合わせる!」
 汰磨羈が頷き、声をあげる。珠緒が駆けだすのへ、汰磨羈も続いた。
「珠緒も、安全装置を外します……あの子のためにも、速やかに……!」
 体が、血が、沸騰するをの感じる。エンジンに火をつけて、身体を血液という武器が巡る。
「藤桜剣・一ノ太刀――!」
「花劉圏・斬撃烈破『舞刃白桜』――!」
 剣閃・閃光・雷撃・桜花。交わる二つの刃、二つの剣戟。交差するように撃ち込まれた二人の一撃が、雪の女王を両側から切り裂いた――。
『どうして、どうして、どうして、どうして、どうして』
 ぐらり、と女王がのけぞる。ばち、ばち、とその身体がとけていく――。
『わたしは、うまれてきちゃいけないかったの?』
 いや、まだだ! 女王もまた、命を拾った。強烈な雪嵐(スノウストーム)が直線の嵐となって、イレギュラーズを狙う――。
「だめ! 貴女の相手は、ボクよ!」
 ばぁ、と桜花が散った。
 雪の園に、桜花が咲いた。
 雪月の野に、輝いて。
 桜花が、ひらり、輝いて。
『わたしはうまれちゃいけなかったの?』
 女王が尋ねる。
「ちがうよ、そうじゃない」
 蛍が言った。
『どうしてわたしをなぐったの? どうして私を汚したの? どうして私を殺したの?』
「ごめんね。ボクには、本当の意味で、あなたを助けることはできなかった――」
 でも、終わりの時はどうか、美しい桜の下で。
 強烈な一撃が、その時、蛍を殴りつけた。
 拒絶。絶望。苦しみ。哀しみ。懇願。願い。
 そう言ったものが叩き込まれたものなのだと、蛍は思った。
 すべては虚構。今更考えても詮無い事。
 もう死んでしまったものの残滓。亡骸の慟哭。
 それでも、受け止めなくてはいけないのだと。
「蛍さん――!」
 珠緒が叫んだ。だが、桜花の内に囚われた女王は、この時、瀕死だった。
 採るべきは、一撃。
 空観は、跳んだ。
「貴女は何故、この凍てつく世界を白夜としたのですか」
 迷い込んだ誰かを殺す為だけならば、視界を奪う夜で良かったはず。
 見つけて欲しかったのではないですか。
 虐げられ、頼れる者など居らず……。
 それでも、此処まで自分を探しに来る『誰か』を求めていたのではないですか。
 答えはない。
 でも、きっとそうなのだと。
 死者は何も語らない。残されたものから、生者が納得するしかないのだ。
「おやすみなさい。今度は、春の桜の下で」
 空観が、その刃を振るった。
 世界は、真っ二つになった。



 気づけば、イレギュラーズ達は、森のただ中にいた。戻ってきたのだと、訳もなく、そう理解した。
 ひらり、と、何かが舞った。小さな、雪だった。
「あの子の……」
 ルアナが、そう呟いて、手を差し出した。
 その掌の上に、雪は漂いて、そのまま水に溶けて、音もなくしみて消えていった。
 消えていった。
 まるで、バグなんて何もなかったかのように。
 世界は綺麗で正しいのだというかのように。
 きえて。
 消えていった。

成否

成功

MVP

ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとう

 。
 お疲れさまでした、勇敢なデバッカーの皆様。
 此度の現象、TYPE-Snowは除かれました。
 その発生確率は、人知の及ぶ外のこと。
 皆様が、またSnowと遭遇することは――確率的に、無いでしょう。

 それでは、別種World Glitchの発生に備え、待機をお願いいたします。

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