シナリオ詳細
ドラネコをおいかけて
オープニング
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「おばちゃん、おはよ!」
「あらこーちゃん、おはよう。ご飯は食べたの?」
「うんっ!」
ぱたぱたと元気よく走ってくる少年にドラゴニアの女性は大きく手を振る。同じように振り返した少年は、女性の言葉に笑顔で頷いた。
子供が笑顔であれば大人たちも笑顔になる。子供とは不思議な生き物で、誰かと打ち解けるのだって早いのだ。
「おっ、鋼生じゃないか」
「おじちゃん、調子はどう?」
少年が駆けよれば、男性はニッと笑みを浮かべる。つられて少年もにかっと笑みを浮かべた。
彼――塊・鋼生の生まれた『塊家』は、フリアノンの里内に存在する設備を見て回り、整える役目を担っている。鋼生も齢10の幼い身だが、里長から里の困りごとを聞くなどして日々奔走しているのだ。
「こーしょー!」
その声にパッと振り返る。ああほら、噂をすればの里長だ。鋼生は元気よく、彼女の元へと駆けていった。
そんな彼はイレギュラーズにもフレンドリーで、にーちゃんねーちゃんと呼んで話しかけてくる。その勢いに驚く者も多いが、溌剌とした子供の姿に笑みを溢す者もまた多い。
しかし訪れたその日、元気な声が聞こえないことにチェレンチィ(p3p008318)はおや、と眉根を上げて。それから彼が話しかけてくることに慣れていたのだな、と気づく。
彼はフリアノン内外問わず、人と仲良くなることに長けているのだ。ドラゴニアの中には外から訪れたイレギュラーズたちを不安視する視線もあったが、それを己も知らない内に払拭していたのが彼である。姿が見えないのは珍しいが、今日もあちこち走り回っているのだろう。
「あなた、こーちゃんを見なかった?」
そう考えていたチェレンチィは、ドラゴニアからの問いかけに足を止める。確か、鋼生が良く話しかけている女性だ。いいやと首を振れば、彼女の表情がますます曇ってしまう。
微かな胸騒ぎ。胸の内に凝るそれを感じながらチェレンチィは口を開く。
「……彼に、何か?」
「姿が見えないの。そうしたら、みんな今日は見てないわねぇ、なんて言うのよ」
かくれんぼでもしているのなら、良いのだけれど。
そう呟く彼女の表情が晴れることは、当然だがない。チェレンチィがトゥィルグラザーで辺りを見回してみるが、その程度で見つかるなら彼女も苦労はしない。
「――おい、誰か来てくれ! 子供が外に出ちまった!」
どこを探したものかと考える2人のもとへ鋭い声が飛ぶ。その発信源であるドラゴニアは、自身らとは風体の異なるチェレンチィに目を留めた。
「『砂の旅人』じゃないか! ひとつ依頼を受けてくれないか。塊家の子供がドラネコを追いかけて外に出て行ったんだ」
男の言葉に女性は「こーちゃんが!?」と悲鳴のような声を上げ、顔面を蒼白にさせる。チェレンチィは彼が出て行った際の情報を男から引き出すと、女性を男へ任せて駆け出していった。
状況からして1人で向かうのは危険だ。誰か――イレギュラーズたちを集めて、一刻も早く追わなければ。
●
「まーてーよぉ!」
「ニャー!」
子供である鋼生は身軽で、しかしより小柄なドラネコ――猫にドラゴンの羽が生えたような姿だ――はもっと身軽である。大人では進みにくい岩場だって、鋼生はするすると間を通り抜けて行けるし、ドラネコに至ってはひょいひょいと岩の上を飛び移っていく。
故に彼らは、追いかけてくる大人すら振り切っての追いかけっこになっているわけなのだ。
しかしそれはいつまでも続くわけではない。岩場から飛び降りようとしたドラネコを、素早く回り込んだ鋼生が抱き留めて確保する。
「ニィー」
「もう逃がさないぞ。ほら、返してくれよな!」
じたばたともがくドラネコだが、残念ながら亜竜らしい戦闘能力はこれっぽっちもない。可愛さに全振りした亜竜なので。
角飾りを取り返した鋼生はめっとドラネコに言い聞かせる。まったく、犯人が分からなくなる前に逃走姿が見つかって良かったものだと顔を上げて――。
「やべ」
ようやく状況を把握した鋼生。フリアノンの集落が少し離れたところに見える。夢中になってドラネコを追いかけている内に外まで出てしまったらしい。そういえば途中、大人が賑やかに何かを言っていたような気がするが……?
(いや、まずは帰らないと!)
近頃はアダマンアントの襲撃・住民の連れ去りなどもあったのだ。こんなところに子供1人でいれば、アダマンアントに限らずモンスターや亜竜にとって格好の餌だということくらい鋼生とて理解している。
「いいか? しー、だぞ」
「ニャー?」
人差し指を口元に当てる鋼生に、ドラネコはなあに? というように首を傾げるものだから。こりゃだめかもしれないと鋼生は冷や汗をかきつつ、周囲に気を付けながら来た道を戻り始めた。
- ドラネコをおいかけて完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年05月29日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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フリアノンから出たならば、何も隔てるもののない空から日差しが降り注ぐ。気持ちの良い快晴――だが、『闇に融ける』チェレンチィ(p3p008318)は小さくため息をついた。
「鋼生の好奇心旺盛っぷりは相変わらずですねぇ……」
遊びたい年頃だろうに、フリアノンを毎日飽きもせずに駆け巡って人々の話を聞く。それは務めを果たそうとする立派な姿勢からだ、ということは分かっているのだ。分かっているのだが、人に迷惑をかけるのはいかがなものか。
「塊家のご令息が危機とあらば、私もそこそこ頑張りますよ〜」
かの家の方々を存じ上げておりますから、と『ONIGIRI』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)。
いなくなってしまった少年、塊・鋼生は里内の設備を見て回る役目を請け負った一族の子供だ。あちこちに顔を出しているので、フリアノンのやや外れで暮らしていたヴィルメイズも面識がある。顔を知り、人となりを知る者はフリアノンに沢山いるのだ。
(それに、お礼で美味しい食事が出るかもしれませんし)
少しばかりの打算があることくらいは許して欲しい。このまま見捨てたら後味が悪いともちゃんと思ってるから。
「ボクは少し先行しますね」
その気配を薄め、とんと地を蹴る。僅かばかり地面から浮いたチェレンチィは、うっかり亜竜の前へ飛び出さないよう注意を払いながら、チェレンチィは開く視界を取って移動し始めた。
後に続くのは地理に詳しいヴィルメイズ。その後ろを『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)がついていきながら、ふと首を傾げる。
「どうしたっスか?」
「いえ、当地の同胞……実は結構なトラブルメーカーなのでしょうか」
『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)の問いに返しながら、小さく唸るクーア。これは覇竜領域にも同胞たる存在がいたと喜んでいる場合ではなかったのかもしれない。
「ドラネコさんは気ままですから……」
苦笑を浮かべる『未来を願う』ユーフォニー(p3p010323)は普段を思い出す。束縛されない自由な姿は愛らしくあるが、今回は困ったものだ。危険地帯にまで進んでしまったのは、追いかけられるのが楽しかったのかもしれない。
ユーフォニーの言葉に思わず納得の表情を浮かべてしまったライオリットは「兎も角」と小さくため息をついた。
「このまま亜竜に見つかると面倒なことになるっス」
「ええ。同胞(ねこ)の名にかけて、救わない選択肢はないのです」
少年1人とドラネコ1匹。人探しにして猫探しの始まりである。
「それにしても、随分と悪路が多い」
『言霊使い』ロゼット=テイ(p3p004150)はゆっくりと障害物を越えて進んでいく。あくまで簡易的に
、かつこの依頼中くらいの一時的な時間でしか食べない代物だ。自由に青空を羽ばたくというほど格好良くは飛べない。
そう思うと羽の生えている動物は気楽で良い――共に依頼をこなすドラゴニアたちを見たロゼットは、否と心の中で否定した。
空を飛べるから気楽なわけではない。それは同時に、空に住まうものたちとも弱肉強食の戦いを繰り広げるということだ。地上と異なり、逃げも隠れもできない空を飛ぶことがどれほど大変か、ロゼットにはわからないが……なかなかに恐ろしい、とは思う。
「なるほど、これは通れないな」
『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は大きく道を塞ぐ岩を見上げた。ゴツゴツしているから、足をかけて上ることはできるだろう。視線を下ろせば、赤子が通れるほどの隙間が見える。子供では少しキツそうだ。
(越える為には岩の上へ身を晒すことになる……即ち、ルシュルシュに見つかりやすいという訳だ)
できることなら戦闘は避けて進みたいが、こればかりは亜竜たちの気分次第か。
「ドラネコさんの匂いがしますね」
「わかるのか?」
「いつも6匹のドラネコさんと一緒にいますから!」
ユーフォニーは自信満々にアーマデルへ笑顔を見せる。個体差はあれど、ドラネコの匂いに大きな変化があるわけではない。ドラネコはこの岩に身を擦り付けて行ったのだろうから、イレギュラーズたちが向かうのは向こう側だ。
ユーフォニーはエイミアたちに死角を見てもらいながら岩をリクサメに乗って越える。『お父様には内緒』ディアナ・クラッセン(p3p007179)はワイバーンになって後に続くと、広域俯瞰してこの先を見下ろした。チェレンチィが見えるが、あちらもまた広域俯瞰とギフトでこちらとその先を確認しているだろう。
(早く見つけてあげないと)
幸いにして、敵影は見つかっていない。戦いやすい場所に目星をつけながら、クーアはエネミーサーチしながら進んでいく。
「そちらはどうだ?」
アーマデルに聞かれた酒蔵の聖女は少年も猫も、亜竜も見当たらないと首を振る。空から見つけづらそうな、場所があればそちらで身を隠しながら進んでいるから、空を飛ぶ亜竜たちも気づいていなさそうだ。
(だが、こちらがこうも上手く進んでいると不安にもなる)
捜索対象が襲われている可能性もあるだろう。気を引き締めなければ、とアーマデルは正面へ視線を向けた。
どこまでも荒涼とした道が続いている。所々崩れたような部分が見えるのは、そこで人なり竜なりが戦闘を行ったのか。
目を凝らしたチェレンチィはそこにふと、動くものを見たような気がした。目を瞬かせれば、そんなものはなかったかのように足場の悪い道が続いているだけ。
けれどそこで目を凝らし続ければ――ほら。
「……鋼生?」
ちょろちょろと駆けていくそれは、岩の影から岩の影へ。何かを抱えているような気がしなくもない。
チェレンチィは亜竜に見つからないよう注意深く近づくと、今度は相手へ聞こえるようにその名を呼んだ。
それから、暫くして。
「………… にーちゃんみたいな、ねーちゃん?」
緊張した声音が、それでも小さく返ってくる。それからゆっくりと岩場の影から頭が見えて、明らかに安堵した表情を浮かべた。
「本物だ、良かった……!」
駆け寄ってくる腕のなかにはちんまり収まったドラネコの姿。追いかけていたそれはしっかり確保できたらしい。
「他にも仲間がいますから、まずは合流しましょう」
「うん」
「ニャア」
揃って返事する1人と1匹。後方でも広域俯瞰していた仲間が伝えたか、程なくして合流を果たす。
「鋼生さんもドラネコさんも、怪我はありませんか?」
「大丈夫! 亜竜にも会ってないよ」
ユーフォニーは元気そうな鋼生の言動にほっと胸を撫で下ろすと、後方にいるヴィルメイズを振り返った。お任せをとヴィルメイズが屈む。
あとは復路を行くだけだが、往路と同じように何事もなく――そうであれば願ったり叶ったりではある――とはいかないだろう。であらば、より応戦する力のある者が自由に動けるよう、鋼生たちを護るものが必要なのである。
ドラネコをかかえた鋼生ごと抱き上げたヴィルメイズ。いつもより高い目線に鋼生は目を瞬かせるが、ドラネコはさしたる興味もないように、ふわあと欠伸を漏らしている。そんな様子にロゼットはやれやれと肩をすくめた。
(ネコは認識した世界を信じているからね)
ここまで何事もなかったなら、何も起こっていないのだと思っているのだろう。いかに危険な場所であろうとも、ドラネコに害は生じていない。その平和な世界が平和であり続けるように、やれるだけはやるしかないだろう。
「お家で飼えたら楽しいでしょうね……」
「興味がありますか!?」
だいぶ慣れてきたなとドラネコを見て呟いたディアナ。そこへドラネコの飼い主でもあるユーフォニーが耳ざとく拾い上げる。あとでお話ししましょう、と熱意のこもった眼差しに、ディアナはしきりに目を瞬かせた。
●
チェレンチィが戻ってきて、亜竜の存在を告げたのは、復路を進み始めて暫くの事だった。
「ヴィルメイズさん」
「はい、後方におりますね~。余裕があれば援護しましょう」
ユーフォニーに頷くヴィルメイズ。その腕へひっしと鋼生がしがみつく。
前もって分かっていれば、不意打ちを受けることもない。一同は進みを邪魔する亜竜の前へ一気に躍り出て攻撃を開始した。
「恨みはありませんが、仕事ですので」
勢いのままに叩きつけられる雷撃。怒りの唸り声を上げたルシュルシュが一度高く飛び上がり、チェレンチィへと飛び掛かる。続けざまに襲い掛かって来たルシュルシュの群れに、アーマデルは不協和音を響かせた。
「飛ぶ鳥を落とすのはねこの特技なのです!」
続いてクーアが力強く跳躍。叩き落される鳥と、着地したクーアを追いかける鳥に向けてライオリットの一撃が大きく空気を、地面を震わせる。
「しかし、こう数が多いと厄介っスね」
「デカブツが出てくる前にとんずらするのがベターだね」
風が吹く。熱をはらんだそれをロゼットが生み出す傍らでユーフォニーの弓が力強く引かれ、そこから放たれる魔力が破壊的威力をはらんで群れへ飛んでいった。
「せめて、ディードルードと鉢合わせる前に離脱したいところかしら」
稀に見られるという大型亜竜の名前を呟きながら、ディアナはワイバーンの背をそうと撫でた。これから少しだけ危険な目に遭わせてしまうが、ここは踏ん張りどころだ。
「大丈夫ですよ、鋼生様」
ヴィルメイズは後方で新たな敵影を警戒しながら、鋼生を安心させるように言い聞かせる。ここにいるイレギュラーズたちは――自分よりもずっと――強いのだ。自分とて、鋼生に傷ひとつつけさせるつもりもない。
だが、望まれない来客にユーフォニーが声を上げ、ヴィルメイズは咄嗟に翼を広げて空へ飛ぶ。悔しがるようにこちらを狙っていたパウィーが睨みつけていた。
すかさずチェレンチィが飛び込みざま雷撃を叩きつけ、わずかに遅れて加速してきたライオリットが敵に肉体を粉砕するが如く、勢いのまま刀を振るう。
「流石に弱点らしいところは守られるっスね!」
キン、と甲高い音を立てて刀が弾かれる。爪で受け止めたパウィーはライオリットへ向けて突進し始めた。
「行かせないのです。こんがり焼かれてもらうのですよ!」
クーアの炎が迫るが、パウィーは止まらない――ライオリットを跳ね飛ばし、低空飛行していたルシュルシュまでも弾き飛ばすものだから彼らも怒り出す。
「見境がないね」
ロゼットの放った熱砂の嵐が2種の亜竜を纏めて閉じ込める。その隙に、ユーフォニーはライオリットへ回復を施した。
「まだ来るわよ」
ディアナの手元で昏い月が輝く。数が多い――だが、ルシュルシュも起こらせたことで同士討ちし始めたのは僥倖だ。ルシュルシュに攻め立てられたパウィーの隙を突き、アーマデルがその体を空中へと跳ね上げる。地面へ叩きつけられたパウィーは、しかしぐっと起き上がってギラギラとした目を向けた。
「まだやるのですか」
ため息混じりにクーアが肉薄していくが、亜竜もまた瞬発力では負けていない。ロゼットもその背中を追いかけ、パウィーに向けて手をかざす。生まれた偽りの火がかの表皮を炙った。
「っ……どっちも大概、しつこいっスね!」
ライオリットはその巨躯を空中でねじり、上空へと押し出す強い風に誘われてルシュルシュたちの群れから抜ける。そして体勢を立て直すと山をも揺らす竜の一撃を繰り出した。ユーフォニーの治癒が仲間たちの戦線を支えていく。
(専門の方には及びませんが……きっと、できます)
想いは力になる。力にするのがイレギュラーズだ。自身と仲間を信じて、ユーフォニーは大いなる天の使いが救済するように仲間を癒し続ける。
「これで――終いです」
チェレンチィのコンバットナイフがパウィーの喉元を貫く。カヒュ、と空気の鳴る音を小さく響かせて、パウィーの体からは力が抜けた。
「あとはあちらだけね」
ディアナはすぐさまワイバーンを駆り、ルシュルシュたちへ向けて昏き運命を引き寄せる。アーマデルの響かせる音色は規則正しく、まるで秒針が動くように――それは時として焦燥感を煽り立てる。
「おっと。こちらの方に手出しはさせませんよ」
ちょくちょくやってくるルシュルシュのちょっかいから鋼生を守るヴィルメイズ。戦闘が得意でない、などとは言っていられない。
「任せるっスよ!」
ライオリットが気づいて飛び込んでくる。幸い、当初に比べればそこまで数はいない。邪魔をされたルシュルシュがライオリットを睨みつける。
「しぶといのです……まだやりあうつもりですか?」
小さく息を吐きながらクーアが構える。ねこだから空を飛べぬわけではない。その身を地上へ引きずり落とすくらい、クーアにとっては朝飯前だ。
「このまま離脱する?」
こちらが撤退する手もある、とロゼットはシムーンケイジで足止めにかかる。だがしかし、このままでは執拗に追いかけて来そうなのも事実だ。
「あちらが撤退してくれるまでって感じになりそうですね」
チェレンチィが弱ったルシュルシュへ得物を向け、アーマデルが音色を響かせ亜竜たちを苦しめる。ぽとりとまた1体、力尽きたルシュルシュが地面へ叩きつけられた。
必死に治癒を行っていたユーフォニーは、ふと敵の攻撃がやんだことに気付いて顔を上げる。ルシュルシュたちはイレギュラーズを睨みつけ、イレギュラーズもまた負けじと亜竜たちを睨みつけていた。無言の攻防はさほどの時間を費やしたわけではなかったが――体感は長かったようにも思う。
「……帰っていくわ」
ディアナがゆっくりと降りてくる。ルシュルシュたちはもうとっくに空高く舞い上がって、点のようになっていた。
全く、面倒な戦闘ではあったが一区切りと見て良いだろう。一同は応急手当を手早く済ませ、再びフリアノンへ向けて進み始めた。
それから、また暫く――否、随分進んだところだった。
いささか強張った表情のチェレンチィが皆の元へ引き返してくる。また敵襲かと緊張を走らせた仲間たちへ、チェレンチィは人差し指を立てた。
「静かに。まだ気付かれていません」
先に立ち込めるのは鬱屈とした、重苦しい空気。他に空を飛ぶ亜竜もおらず、暖かな日差しが落ちる空間とは思えないほどのそれに、ドラネコも鋼生の腕の中へ顔をうずめ、小さく丸まってしまう。
(だが、襲ってこないなら戦う理由もない)
アーマデルはそっと視線をそちらへ移す。大きな影は岩場の向こう側であっても見えてしまうほどだが、動く気配はない。しかし微かに体が上下している様子を見れば、それが亡骸でないことは一目瞭然だ。
(あとはパウィーが紛れ込まないか、祈るしかないのです)
あれほど大型の亜竜にちょっかいを出すとも思えないが――先ほどの戦いを思えば、クーアは断言ができない。身の程知らずにもほどがあるが、万が一だって有り得てしまう。
静かに、ゆっくり、けれど急いで。イレギュラーズたちはディードルードの横を岩場越しに通り過ぎる。フリアノンはもう目の前だ。
「もう大丈夫?」
鋼生がそっとヴィルメイズに耳打ちする。彼はええきっと、と頷いた。
「ニャー」
ゴロゴロゴロ、と喉を鳴らすドラネコ。撫でるアーマデルも思わず口元が緩んでしまう。そんな光景にディアナも微笑みを漏らし、それから鋼生へと視線を向けた。
「ドラネコちゃん。守れて良かったわね」
「うん! ……あ、でも」
ぱっと満面の笑みを見せた鋼生だが、すぐさまその表情は曇ってしまう。
夢中になって追いかけたばかりに、フリアノンの皆を心配させ、イレギュラーズたちも危険にさらしてしまった。ドラネコだって、追いかけなければ外まで出なかったかもしれない。
「里のために一生懸命頑張れるのは、鋼生の素敵なところですよ。今度からは冷静になることも覚えましょう」
その言葉に鋼生はぱっとチェレンチィを見上げる。それから目をぱちぱちと瞬かせて、うん! と大きく頷いた。
「おれ、里を回ってくる! まずは皆に顔見せて大丈夫だったって言わないとな!」
まだ戻ったばかりだから、鋼生が帰ってきたことを知らない者もいるだろう。いってらっしゃい、という言葉が彼の背に投げかけられる。
その背中をドラネコも追いかけようとして――しかし、その前にユーフォニーが立ちはだかった。
「行ってはいけませんよ? ちょっとだけお説教です!」
「ニャー!」
「あっ逃げてはダメです! ダメですってばー!!」
――それから暫く、フリアノン内を駆けまわるドラネコとユーフォニーの姿が見られたそうな。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
無事に彼らを連れ戻すことができました。ドラネコもほんのちょっぴり反省したみたいです。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
塊・鋼生を無事にフリアノンまで届けること
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気をつけてください。
●フィールド
フリアノン周辺の山岳地帯。
鋼生の詳細な位置は不明ですが、幸いにして目撃情報から方角は割り出せており、その方角の道はさほど入り組んでいません。子供は隙間をすり抜けられますが、大人は岩の上に登って乗り越える必要があるような道になっています。足場も悪いので注意が必要です。
●周辺に出没するエネミー
・パウィー
中型程度の亜竜です。空を飛べない代わりに足が発達しており、獲物を逃さないよう聴覚に優れています。
その瞬発力、および攻撃力は心してかかる必要があります。牙や爪による攻撃の他、仲間を呼び寄せる鳴き声を上げます。防御技術は比較的抑え目です。
非常に気性が荒く、他の亜竜も乱入してきたならば巻き込んで戦闘となるでしょう。
・ルシュルシュ
小型の亜竜です。空を飛び、群れで行動します。視力に優れており、動く地上生物を逃しません。
個々の攻撃力はそこまででもありませんが、EXAに富んでいます。翼で打つ攻撃の他、かまいたちを起こしての遠距離攻撃も行ってきます。【スプラッシュ2】を持ちます。
群れの数が減少すれば、体勢を立て直すべく撤退していくでしょう。
・ディードルード
稀に出没する大型の亜竜です。禍々しい力を蓄えており、存在するだけで運気が悪くなりそうな雰囲気を持っています。ただし、危害を加えなければ牙を剥きません。
あまり詳しい事はわかっていませんが、出来る限り刺激を与えないことを推奨します。
●NPC
・塊・鋼生
チェレンチィ(p3p008318)さんの関係者。フリアノンに住まう幼い少年です。
里内の設備を見て回る塊家の人間として、勤めを果たそうとしていますが度々好奇心に寄り道することも。今回は角飾りを盗んだドラネコを追いかけるのに夢中だったようです。
多少の自衛はできるかもしれませんが、ドラネコを抱えた状態かつ彼の実力ではあっという間に倒されてしまいます。いち早い保護が必要になります。
●ドラネコ
亜竜集落をトコトコ歩いてるかわいい亜竜。
大人になってもサイズは猫程度。可愛さに全振りした結果戦闘能力を失った、可愛さで世の中を渡る亜竜。
猫にドラゴンの羽が生えたような姿で、色や模様は千差万別。
鳴き声は「ニャー」です。
●ご挨拶
愁と申します。
無事に鋼生(とドラネコ)を連れて帰りましょう!
よろしくお願い致します。
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