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シナリオ詳細

<Celeste et>天際と境界

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 この世界には無数の伝説がある。
 伝説、伝承、物語。全てを知識として蓄えていることこそが『ホライゾンライブラリ館長』クレカにとっての命題であった。
 己とは何か。命とは何か。己はどこから来て、何処へ帰って行くのか。
 コアが鶸色に輝こうとも、クレカは『マスター』の元に戻ることはない。
 世界に認められた機械仕掛けの人形は、夢を見るように『境界』に揺蕩い続ける。
 揺蕩い続けて――そうして、双子の境界案内人(ホライゾンシーカー)に背中を押された。

「ねえ、クレカ。空に『アーカーシュ』と呼ばれる伝説の浮遊島があったそうだよ」
「ねえ、クレカ。それは分厚い雲に覆われていて、魔王様が住んでいると言われていたそうよ?」
「ねえ、クレカ。その島に辿り着いたイレギュラーズが冒険をしているそうだよ」
「ねえ、クレカ。ノイスハウゼンの上空のあの島に一緒に行って地図を埋めてみるのはどうかしら?」
 カストルとポルックスは夢見るようにそう言った。
 クレカの胸にはぽかりと空いた空洞がある。比喩ではなく、本当に。何かが埋め込まれていたはずの動かないぶりきの心臓。
 それが僅かな軋みをあげた気がしたのだ。
 その場所には無数の機械仕掛けの人形が居て、何時の時代のモノであるかも分からずとも静かに佇んでいるらしい。
「君の心を満たすには足りない?」
「あなたの心を震わすには足りない?」
 双子は問いかけて、背中を押してくれた。

 ――いいえ、いいえ。とても、興味がある。ただ、とても怖かった。
   止まってしまったぶりきの心臓。
   錆び付いた手足を整えてくれたマスターももういない。
   そんな時を止めたような私が、彼らの様に新しい場所に冒険に行って良いのか、って。

「「いいんだよ。クレカ。君(あなた)だって気になっているだろう(でしょう)?
 『時代遡行装置アーカーシャ』――その名前に似たあの浮島に、奇妙な予感を感じているから!!」」


 00:00:00:00:00

 カラカラカラカラカラ――――停止します。

「ここまで、来てくれて有り難う」
 境界図書館。その内部にまで迎えにやってきたイレギュラーズはちょこりと座っている秘宝種・クレカと向き直った。
 彼女は鉄帝国南部の町ノイスハウゼンの上空に発見された伝説の浮遊島『アーカーシュ』について興味を持ったらしい。
「これは時代遡行装置アーカーシャ。境界図書館で新しく発見された機械。
 過去を追体験できる装置。時空ダイブを行って、過去を見ることの出来るもの……。
 それから、空にあるのがアーカーシュ。鉄帝国の伝説の浮遊島。
 名前が似ているし、アーカーシャを『コントロール』してて、話を聞いて、思った」
 もしかすると、それは共通する何らかではないのか、と。
 境界図書館からは余り外に出ることのないクレカではあるが、今回は調査に同行させて欲しいのだという。
 未知だらけのアーカーシャだ。『お荷物』になる事は理解した上での頼みであるらしい。
「危険、識ってる。けど……私ならアーカーシャとアーカーシュの共通点が分かるかも。
 皆の『データ』を見せて貰った。遺跡の古代兵器? 古代装置? あれは、アーカーシャに似てる」
 この装置が『アーカーシャ』と名付けられたのはクレカや双子の命名ではなく、そうであると刻まれていたからだそうだ。
 指差すクレカは「もしかすると、これは大空のものだったのかも」とアーカーシャを撫でた。
「……本音、言わないとダメってフロックスが言ってた。
 私も、行ってみたくて。イレギュラーズになったけど、私はここに引き籠もっているから。
 皆との冒険の経験が無い。だから、連れて行って欲しい。外は怖いところだと識っているけれど、少しだけ」
 何らかのイベントが絡まずに境界から踏み出す一歩。
 それが彼女にとってどれ程のものであるかは計り知れない。

 ――天空に存在する浮遊島。アーカーシャに似た『古代文明』。
 秘宝種(きかいじかけ)の自分が親近感を覚えるゴーレム達の姿。

「一緒に、よろしくね」

GMコメント

 クレカちゃん、アーカーシュへ征く。

●目的
 クレカにアーカーシュの古代遺跡を見せてあげましょう。
 +襲い来る敵勢対象の撃破

●フィールド
 アーカーシュに存在する古代遺跡です。石やセラミックのような硬質な素材で出来ており、古代種のねぐらになっているようです。
 深部へは赴かず、遺跡内部に存在する『魔道装置』らしきものをクレカは確認したいそうです。
 どうやら『アーカーシャ』と『魔道装置』に奇妙な関わりを感じているようですが……。
 遺跡地下部(内部)には『魔道装置』があるのは確かなようですが、その他は何があるのか分かりません。
 どの様な光景になっているのかは定かではありませんが……古代種を撃破した後に探索してみても良いでしょうね。

●エネミー
 ・古代獣『ギガレックス』 *3匹
 大きな鶏さんです。とてもタフで攻撃力が高く獰猛です。爪やくちばしに毒を持ちます。
 ご家族(番+雛)で存在し、背後にはギガレックスの雛が存在しています。
 皆さんのことを餌であると認識しているのか古代遺跡に立ち入った時点で「餌が来たぞー!」の勢いで襲いかかってきます。倒して下さい。

 ・古代兵器
 セレストアームズ(近接型) *3
 セレストアームズ(遠距離型)*2
 遺跡に眠っていたゴーレムです。ギガレックスを倒した後、探索時の障害となります。
 防衛機構の代わりに設置されていたようです。
 遠距離型は遺跡の上部に存在し、近付くことを拒むように近接型が護衛を行っています。
 遠距離型は非常に火力が高く、恐ろしい銃撃を行います。近接型は素早い突撃を行いながら遠距離型を庇います。

●同行NPC『クレカ』
 秘宝種の少女。境界図書館の館長であり時空遡行装置アーカーシャのコントロールを行っています。
 彼女は何らかの予感を感じて同行を申し入れました。戦闘は余り得意ではありません。戦えないと言うよりも戦闘慣れしていないという印象です。

●特殊ルール『新発見命名権』
 浮遊島アーカーシュシナリオ<Celeste et>では、新たな動植物、森や湖に遺跡、魔物等を発見出来ることがあります。
 発見者には『命名権』があたえられます。
  ※命名は公序良俗等の観点からマスタリングされる場合があります。
 特に名前を決めない場合は、発見者にちなんだ名が冠されます。
  ※ユリーカ草、リーヌシュカの実など。
 命名権は放棄してもかまいません。
  ※放棄した場合には、何も起りません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <Celeste et>天際と境界完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
ロト(p3p008480)
精霊教師
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

リプレイ


「――なるほど重畳!
 イレギュラーズ生活も慣れればそれなりに楽しいでありますよ。特異運命点座標の心得その1、習うより慣れよであります」
 そうでしょうと手を差し伸べた『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)を前にして、彼女は不安げに声を震わせた。
「一緒に旅をしても大丈夫か、不安。足を引っ張りそうだから」
「レディのエスコートくらいはこなしてみせてこその騎士だからな。今回は任せてもらおうか」
 安心してくれと微笑みかけた『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)に彼女は小さく頷いた。
『境界図書館』、それは果ての迷宮で発見された『様々な世界を覗き見ることの出来る』世界の境界。揺蕩う地。その地から外に出る事を望まなかった秘宝種の少女、クレカは鉄帝のノイスハウゼンの上空――厚い雲が払われ姿を見せた浮遊島アーカーシュへと踏み入れていた。
 アーカーシュに興味を抱いた理由は、彼女が操作を行う権限を有する時代遡及装置アーカーシャとアーカーシュに『奇妙な関連』を感じたのだ。
(――鳥籠ともいえる境界からでる初の外、並ならぬ気持ちを抱いて来たのかなと思うっす)
『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は緊張したようにエッダの手を取ったクレカへと微笑みかける。
「ボクからも改めて、一緒によろしくっす!」
「うん……」
 こくりと頷いたクレカを微笑ましそうに眺めていた『心優しきオニロ』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は「予感がしたんだよね?」と問いかけた。
「うん。不思議な、気持ち」
「アーカーシャとアーカーシュ……似てるかも? 同型装置?
 クレカさんが見ればわかるかな。古代遺跡の事も含めて、すごいわくわくする! 僕もできる事を頑張るよ!」
 まだまだ冒険に慣れていない彼女をエスコートするのも『先輩』の役目。不安ならば自身等が支えてみせると微笑めば、クレカはゆるゆると頷いた。
「謎を解くためにこのような場所まで出向くとは。初めての冒険がクレカさんにとって良い物となれば良いのですけど」
 護衛はお任せ下さいと背筋をぴんと伸ばして答えた『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)にクレカは「あの」と下げていたバックから小さなアクセサリーを取り出した。
「クレカさんは、はじめまして、でしょうか。同じ秘宝種として、いつかお会いしたいとは思っていました。
 貴方が為したいことがあるのなら、お手伝いさせていただきます。……それから、それは花、ですか?」
 クレカの手許を覗き込む『抱き止める白』グリーフ・ロス(p3p008615)はクレカが握った鉄製の花を眺めてふと瞬く。
「これは、おまもり。皆と冒険をするから、持ってきた。普段は、図書館の部屋の宝箱に大事に錠を掛けて置いてある。
 故郷の花……名前は知らない。この世界のものじゃないとおもう。花言葉だけ、知ってる。『君に、幸あれ』」
「素敵な花ですね」
 頷いたグリーフにそう言ってもらえたことが嬉しいと表情筋の変化が乏しい少女はこくこくと勢い良く頷いた。
「さて、クレカさん。征こうか。アーカーシャとアーカーシュ……境界……。
 境界の秘密が分かるかも知れないなんて、実にとても興味深いね。しっかりと調査をしようか」
『精霊教師』ロト(p3p008480)に『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は「アーカーシュ、アーカーシャ」と言葉を並べてふと物思う。
「アーカーシャ……私の知る限り、虚空や天空を意味する言葉だね。アーカーシュがそれの訛だとしたら、安直だが意味は通る、かな……。
 それはさておき、自らの知らない景色を見てみたい……その気持はよく分かるとも
 今日は冒険の先達として、クレカに同行しよう。
 それから……この冒険の間は、クレカを守りつつ、アーカーシャに関わる一人の専門家としても意見を仰ぐ――というのはどうかな?」
 Win-Winの関係になるだろうと笑ったゼフィラに「宜しく、みんな」とクレカは大きく頷いた。

 ――止まってしまったぶりきの心臓に油を差すのは何時だって『人間』なのだ。
   命が躍って、私をダンスホールの中心にまで連れ出してくれる。それが妙に、心地よい――


「――って来て早々、なんか大きい鶏が襲い掛かって来たっすー!?」
 ぎゃあ、と叫んだレッドは咄嗟に撃破すべきかと身構えた。赤い鎧のドレスに身を包み、弾丸の御守を揺らがせた『靴』の娘は「あっ!」と声を漏す。
 飛び込んできたのは雄鶏か。威嚇の声を上げ続けた雌鶏の後ろに雛がちょこちょこと歩いてくる。
「古代獣って大きい……というか、家族なんだね。そっか、両親は子供のための餌として僕たちを……」
「ぞっとしない話ではあるけれどね」
 保護の結界を張り巡らせていたヨゾラの傍でロトは肩を竦める。ロトは教師としてクレカが知らないことは何でも教えてやりたかった。
「戦う?」
 問うたクレカは肩掛け鞄の紐をぎゅうと握りしめる。戦闘に慣れていない彼女は身構えたのだろう。
「無用な殺生はしたくない。必要な殺生もあるのは間違いないけど……。
 クレカさんみたいな情緒が育っていない子供の前では……特にしたくないかな」
 首を傾げたクレカにエッダはこほん、と咳払いをした。
 イレギュラーズの考えは何時の所、定まっている。『殺さず』という選択肢が目の前には横たわっているのだ。殺さず倒しきれば問題は無い。
「さて、どうするでありますか? この場合、雛だけ逃がすはナシでありますよ。人間を敵視する獣が増えるだけであります。
 またこの子も野生の中でたった一頭生きていくというのは大変に過酷なことであります――全部生かすか、全部殺すか」
 エッダは真っ直ぐクレカを眺める。レッドが戸惑ったのは、ヨゾラが言う通り『家族』だったからだ。
 オリーブは毒を孕んだ攻撃を行うギガレックスの前へと立ってから、その巨体を受け止める。極まった鉄騎種の肉体は惜しげ無く巨大な鶏を受け止めた。クレカ自身の護りはグリーフが固めてくれている。
「あーもう! 縄張りに入った闖入者なボクらが悪いっすけどアッチ行ったっす! シッシッす!」
 クレカが結論を出すまでは、レッドは「啄み痛ッ痛ッ」と叫びながらもその命を奪う事は無かった。
「――貴女はどうしたい? 心得その2、自分で決断し、責任を持つであります」
「わ、私は……」
 責任を持つ、事には慣れていない。『マスターの指示を受けて生きてきたと言う認識がインプットされている』クレカは戸惑うようにブレンダを見遣る。
「命を奪う必要はないが大人しくはしてもらわねば先に進めんな。さくっと片付けてしまおうか。どうする?」
「私は……」
 服の裾を握りしめてから、無表情であった秘宝種の少女は「無力化、するのはだめ? 追い払うだけ」と呟いた。
「構わないとも。ならば、クレカの意見を尊重しようか」
 白い花の装飾を施した機械式義手が魔力を手繰り寄せた。叩き込まれたのは蹂躙の殲滅頌詩。
 弾丸の進撃におっかなビックリ『グエエ』と鳴いた巨大な鶏の至近距離へと飛び込んだブレンダは多重に残像を産み出す程の手数で果敢に攻め立てる。
 吹き荒れる風が、燃えさかる焔が、その二つを慣れたように握るブレンダはギガレックスの命の終はここではないと囁いて。
「邪魔をしたのは悪いが手を出す相手は選ぶことだな。命が惜しくば大人しくしておけ」
 無駄な殺生はしたくない。『クレカ』という秘宝種は『人間』のように成長してきたわけではない。
 彼女は境界に揺蕩った特別な存在だった――彼女がこの世界に認められ、世界は『秘宝種(レガシーゼロ)』を受け入れた。機械人形は、命について詳しく無くとも命を奪う恐ろしさには心が向いた。
「……逃がしても、いいの?」
「そうっすねえ、この世界に住む者の平穏を乱す侵略者にはなりたく無い気持ちもありますし
 ……皮肉にも旅人っすけど、それに親を失った子はこの先生きてはいけないっすから……」
 レッドは肩を竦めた。ヨゾラは二人の会話を微笑ましそうに眺めながら、星空の竪琴シュテルンナハトを掻き鳴らした。その響きは、命を奪うことはない。
「冒険に障害はつきものだけれど、必要ないなら殺すことも無いだろうしね」
 ゼフィラの支援に頷いた後、オリーブは「遺跡内部には何かありますよ」と目を眇め、内部より響いた駆動音に供える。
「クレカさん、物影に隠れるか誰かの後ろにまわるっす!」
「こちらへ」
 レッドの声に直ぐに頷いたのはグリーフであった。クレカを護る専門として、その肉体を盾とするグリーフに「ごめんね」とクレカは目を伏せる。
「いいえ。誰しも最初は恐ろしいものでしょうから」
 グリーフがクレカの守備に回ったことを確認してから、オリーブは勢い良く前線へと飛び出した。セレストアームズは防衛機構――つまりは、個々で倒しきらねばならないのだ。
「一機ずつ着実に落とします」
 竜をも穿つ勢いでの攻撃を叩きつけたオリーブを前に、遠距離型の相手を引き受けていたブレンダはくるりとエッダを振り返る。
「2人でアレの囮をするわけだが……とちるなよ?」
「お任せあれ。ほーれこっちゃこい」
 攻撃能力が高く、被害が拡大する恐れがあるならば出来うる限りその攻撃を逸らすことこそがエッダとブレンダの狙いである。
 二人に遠距離型の攻撃が向いている間に、オリーブの一撃を防がんと飛び込んだ近接型がキリキリと駆動する音を響かせる。
「支えは任せてくれ!」
 エッダとブレンダを支え続けるためにロトが選んだのはその回復であった。チームプレーを行えばどの様な敵であれども倒せる可能性が生まれる。その姿をしっかりとクレカに示しておきたかったのだ。
 クレカを庇うグリーフは満身創痍の姿は見せず、普段通りであり続けることを意識した。幸いにして、ロトとゼフィラのサポートがそれを容易にしてくれる。彼女の期待に応えるためならば万全の準備をしておきたかったのだ。足下の不安から始まり全ての危機を払ってやることこそが先達の在り方だ。
「なんのこれしき、へっちゃっらっす!」
 近接兵器に向けてレッドが張ったのは神秘魔法の最大火力。魔道書の一端が宙に浮き上がれば、文字列が燃え、魔力弾と変化する。
「早くクレカさんに探索させて上げなくちゃね!」
 ヨゾラは唇を小さく動かした。それは呪言と変貌し、空間を捻じ切らんとする。
 ざりざりと音を立てて遺跡内部を擦るように移動する近接兵器に弾幕を放ったゼフィラが「そっちだ!」と声を掛ける。
 頷いたはオリーブであった。上質な素材で作られた長剣は飾り気なくともオリーブにはよく合っていた。
 慣れ親しんだ武器に込めたのは『対城技』と称される鉄帝国の武技。大仰な音を立て機械兵器が崩れ去る。
 フリーで動き回っていた一体の上を飛び越えてレッドが近接を担った機械兵器を打ち倒す。残骸と化した其れを痛ましそうに眺めるヨゾラの呪言は歯車の雨を降らせた。
「凄い」
 呟いたクレカはイレギュラーズの戦闘をまじまじと眺める機会はあまりなかったのだという。ロトは「憧れるかい?」と柔らかな声音で問う。
「護ってくれるグリーフに、沢山の事を教えてくれたみんなに、改めて思う。
 わたしも、こうやって『外』を冒険することが出来れば、もっとこの世界を知れるかな」

 ――錆び付いたのは、怖かったから。ひとりぼっちになってしまったと、そう感じたからだった――

 クレカの呟きにグリーフとロトは顔を見合わせてから頷いた。屹度、知る事は出来る。
「心得その3、信頼できる友を作るべし。あるいは他人をうまいこと利用するべし。
 どちらを選ぶにせよ、待っているのは対等な仲間との協力であります。……なかなかどうして、これが楽しくて――さ、トドメでありますよ相棒」
 エッダがくすりと笑えばブレンダは肩を竦める。了解と小さく返して振り下ろした剣が全ての防衛機構を無力化する。
 仲間との協力。
 仲間と呼んでも良いのだろうか、とクレカはイレギュラーズの姿を眺めやってから「すごいね」と素直に称賛を送った。


「勇者アイオンがかつて魔王倒しに空に来て……勇者が果ての迷宮に挑みに地下に行った……。その名残りだったりするかもしれないっすね」
 繋がりがあるとしたら空と地上は元は一つだった、なんてと首を捻ったレッドに「浪漫小説みたいだね」とヨゾラは返した。
 遺跡内部を探索する足は少しばかり急いている。ゼフィラは「急ぎすぎないように」とクレカに声を掛けてから、遺跡内部の作りやアーカーシャそのものに類似した点がないかと問いかけた。
「魔導装置を見つけたら、何とか作動できないか試したいものでありますね。後、深部への橋頭保あたりも確立出来たらと……楽しくなってきたでありますね」
 実に心が躍る状況だと告げるエッダにオリーブは「鉄帝国にとっても進歩になりそうですね」と頷く。
 秘宝種であるクレカの背を眺めてグリーフはふと物思う。彼女と自分は同じなのか、それとも違うのか。真白の景色に漂うにように、グリーフは本来の個を求めているかのような感覚だった。
「……私達に通じる何かが、あるのでしょうか。私は、どこからきたのでしょうね。本当の私は、誰なんでしょう」
 呟いたグリーフにクレカは、そっと言葉を重ねた。
「私と、グリーフは、違う場所から来た……と思う。秘宝種は、作られた存在だから。
 あなたにとっての『おとうさん』『おかあさん』が見つかれば、いいのに」
「クレカさんはご両親についてご存じなのですか?」
 クレカは少しばかり切なそうに目を細めてから「マスターは、ずっと遠く。わたしは、特別だったから」と呟いた。
「クレカさん! こっち!」
 おいでと手招いたヨゾラは「これがそうじゃない?」と指差した。アーカーシュ内部に存在した『魔道装置』にヨゾラは魔術師として興味津々であった。
「どうかな……何か、感じ取れた事とか気になる事はある?」
「ええと……」
 覗き込もうとしたクレカにブレンダははっとしたように手を伸ばした。長けた感覚が何らかの存在を察知したからだ。
「待った。――何か居るな」
 振り向いたブレンダの足下にぴょんと飛び出してきたのは一角を有するウサギであった。それは魔道装置の周りをぴょんぴょんと飛び回る小さな精霊のようである。
「それは精霊だね。……この魔道装置を護っていたのかもしれない。アーカーシャを作動できるクレカさんなら精霊に気に入って貰えるかも」
「……偶然、波長があっただけかもしれない、けど」
 良いのかな、とロトに問いかけたクレカは不安げだ。「何かあっても護るさ」と背を押すブレンダにロトは「強いイレギュラーズが多いからね」と頷いて。
 ゆるゆると精霊の頭を撫でたクレカに精霊は応えるようにしてその『魔道装置』を起動した。

 00:00:00:00:00

 カラカラカラカラカラ――――

「――同じっすね」
 境界に存在する時代遡行装置アーカーシャと、同じ。レッドの呟きに息を呑んだゼフィラは「何かが表示される」と目を瞠った。
 それは文字列だろうか。文字列は勢い良く濁流のように流れ落ちて消えて行く。クレカかその文字列をまじまじと眺めてから振り向いた。
「わかった」
 文字が消え去り、しんと静まりかえった空間でクレカはゆっくりと振り向いた。
「……現代人はこの浮遊島をアーカーシュと呼んでる。
 けど、厳密には古代人が住んでいたいくつかの浮島であり、『アーカーシュ文明』とでも呼ぶべきもの。他の島はたぶんぜんぶ落ちた。
 だから『時代遡行装置アーカーシャ』は――この文明の一つ。刻まれていた銘が『アーカーシャ』だったから、私はそう呼んでいた」
 嘗ては無数に存在した浮島には文明が存在してた。
 それは長い歴史の中で『落ちていった』。島がどうして浮かんでいるのかは分からない。
 ただ、この地に栄えていた『文明』が存在したことを――そして、精霊達は『他の島が落ちていった』事をこの魔道装置に記録していたのだという。
「……秘宝種(きかいじかけ)の私だから、似ていた誰かが使ったアーカーシャと波長があったのかもしれない。
 下に転がっている古代の残骸は、アーカーシュ文明のモノ、だったのかもしれない」
「嘗ては栄えた文明……でありますか。それは実に興味深い。空と地上――案外元は一つだったかも知れないでありますな?」
 レッドを振り返ったエッダはそう笑った。謎多き『アーカーシュ』。
 ブレンダの見た精霊は霧散し、消え失せていく。「どうして」と呟いたヨゾラにクレカは『魔道装置』から手を離してから俯いた。
「あの子は、残滓だった。……遺跡は精霊を使役する古代の都市。遺跡の精霊は司っていた装置の破損によってエラーを起こしているから――」
 あの一角の兎たちの『本来の姿』も何処かで暴れているのかも知れない。
 天より落ちた欠片が境界図書館に存在したのは偶然だった。
 それでも、この冒険でアーカーシュについて新たな発見があった。
 クレカは「この空から落ちた秘宝種(なかま)もいたのかな」と呟いて、日が暮れる前に帰ろうと遺跡をゆっくりと後にした。

成否

成功

MVP

エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 クレカにとっては物珍しい冒険でした。これから、クレカも外に出る機会が増えてくるかも知れません。
 その時はどうか仲良くして上げて下さい!

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