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シナリオ詳細

<13th retaliation>死がこの身を抱こうとも

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 大樹ファルカウ――そこへと進むための橋頭保は多いに越したことがない。
 そこで、ローレットは拠点となる霊樹の里を探していた。
 今回向かう先は、情報屋によれば誓いの霊樹と言うらしい。
 なんでもごく一部の幻想種達の間で『その木の下で愛を誓えば霊樹の祝福で幸福な生活が約束される』と話題になったのだとか。
「ここでノエルを見たという目撃証言があるんです……一緒に行っても良いでしょうか」
「ユニスお姉さん……ノエルお兄さんのこと諦めてないんですね」
 キルシェ=キルシュ(p3p009805)が言えば、ユニスが小さく頷いた。
「分かりました、ルシェもお手伝いします!」
「ごめんね、焔ちゃん……」
 少しばかり消沈気味にエルリアが言う。
「え、っと……ど、どうしたの?」
 言い淀んだ様子だった彼女の口から洩れた言葉に炎堂 焔(p3p004727)が困惑していると、エルリアはそっと1つの鉢植えを取り出した。
「持ってきてもらったこれのことなんだけど……」
 そう言ってエルリアが取り出したのは、ドーム状の容器だった。
 その中には一本の白百合の花が咲き誇っている。
 大きなプランターに植え替えられているようだ。
「これ、なんだけど……花じゃなかったよ。よくわからないけど、ね。
 詳しくはこれを見て……」
 エルリアが取り出したのは1枚の羊皮紙だった。
「これ……それのスケッチだよね? ええっと……」

 ――親愛なる私の妹へ。結論から書くわ。これは花じゃない。
 これはただ『百合の花』の形を作っただけの魔術。
 効果を調べるのは危険だけれど、アナタはきっと調べようとするだろうから、
 先に調べておいてあげたわ。
 これは空間に対して『改竄』を試みる魔術。
 大地に植えれば一定の土地に全く別の常識を『植え付ける』でしょうし、
 人に植えればその人の力を必要以上に強化することも可能でしょうね。
 そんなことをすれば、いつまでも『人』が保つはずはないでしょうね。

(……これ、ウェンディちゃんが書いたんだ。
 ……そっか、ウェンディちゃんの時の記憶はエルリアちゃんには残らないから……)
 焔はエルリアへ宛てたその手紙の差出人を察しがついていた。
「それが本当のことなのか分からないし、ちょっと怖いんだけどね。
 でも、なんだかちょっとだけ分かってた気がするんだ。
 私が焔ちゃんと再会した時も、行った覚えのないところにいたし……」
「そうだね。でも大丈夫だよ! ウェンディちゃんも、エルリアちゃんを守ってくれるはずだから!」
「ウェンディ……それが、お姉ちゃんの名前なんだね」
「うん。そうだよ。……ありがとう! 2人とも!
 もし同じ光景にあったら、覚えておくね」
(人が保つはずない……もしもノエルお兄さんもだったら……
 うぅん、悪いように考えちゃだめ!)
 羊皮紙を見たキルシェは嫌な予感を振り払うように頭を振ってそれに続いた。


「――ねぇ、ノエル。どういう事なの?
 どうして、あいつらは全員、外に出てるのかしら?
 いいえ。それ以前に、どうしてレヴァンティンはあんなに容易く死んだのかしら?」
 じっとりとした声は女のもの。
 ノエルの首筋に添えられたのは、その女の細腕だ。
 暗闇に満ちた空間の中で、黄緑色の髪が揺らいでいる。
 5年もの間、ずっと見てきたもの。
 逃れたくとも逃れられぬその姿はあの日から何も変わっていない。
「知らないよ、知るわけないだろ……師匠」
「いいえ、嘘ね。嘘でしょう? どうせあの子でしょう――あの、幻想種の娘。
 貴方は昔からそうだものね。あの時も、貴方はあの子を庇ったもの。
 ノエル? 今から私が何をするつもりか、分かってるかしら?」
「……分かるわけないだろ、面倒くさいな」
 零れ落ちた溜め息を受けて、師匠はその手に力を込めた。
 ギュッと締まった首に咳が零れた。
「契約を覚えてるかしら? ノエル」
「――――忘れるわけがないだろ」
 首を抑える腕を握り、声を出せるだけを何とか持ち上げれば。
「そうよね~。私はあの娘――たしかユニスと言ったかしら?
 あの娘に手を出さない。その代わり貴方は私に従順である。
 ――けれど、今回の件はどうかしら?
 貴方……あの娘のために、手をまわしたんじゃない?」
「証拠なんてないだろ。それを調べるあんたじゃない」
 ノエルが言い返せば、女がギュッと首を締め上げた。
「げぇっ――うぅ……かはっ――」
「えぇ、そうねぇ。面倒だもの。
 そういう面倒くさいことを全部あなたに押し付けてきたの。
 ……けれど、『証拠なんてなくてもいい』でしょう?」
 景色が霞み、意識が途切れていく。
 聞こえる声が遠く、力が入らなくなって――ノエルの意識は完全に闇に消えた。


 あぁ、面倒くさい。僕は今、どうなってるんだ? 意識が保てない。痛みは感じない。
 けれど、どうしようもなく『何か』を失なったような、そんな気持ち悪さがぬぐえない。
 身体が何かに押し潰されそうになっている気がした。
 ざらり、ざらりと這いずるそれの一匹が、視界に入ってくる。
 白い蛇だ。いっそ美しい白い蛇。
 ――あぁ、そうか、僕は、切り捨てられたんだな。
 ――拙い……ユニスに、知らせ、ない……と。
 ――あぁ、でも。眠気が……くそ……
「――ノエル! 今助けるから、そこで待ってて!」
 声。
 誰の者かもわからぬ声。
「――――」
 自分が何を言っているのかすらわからないまま――目の前が暗くなっていく。


 白蛇が黒髪の幻想種を覆い隠していく。声をかけて前に出よう――とした時だった。
 不意に景色が変わる。景色は一気に夜へと変質し、突如として現れたのは燃え盛る城壁だった。
 その門の前に、1組の男女が立っている。
 男の方は騎士を思わせる。
 赤い鎧に身を包み、黄金の柄には青玉が嵌められ、真紅の刀身が照らされている。
 女の方もまた、戦士を思わせた。
 青色の甲冑に身を包み、青白い炎の翼を生やす。
 その手には青炎の揺蕩う大盾と雷を纏う長剣が握られている。
「こんな光景がいきなり現れるはずないのよ……ここも、そういうことなのね」
 キルシェは辺りを見て、最後に騎士を見た。
 倒さねばノエルの下へたどり着けない――それだけはたしかだった。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】紅蓮の騎士&青の乙女の撃破
【2】ノエルの救出

●フィールドデータ
 燃え盛る城壁をバックにした謎の空間です。
 天気こそ夜なものの、城壁の発する炎が辺りを照らしてくれています。
 なお、城壁は登れません。
 また、何故か『茨咎の呪い』が漂っています。

●エネミーデータ
・『■■に死す』紅蓮の騎士
 灼熱に燃え盛る城壁を背景に立つ騎士です。
 亜竜種及び竜系の旅人は彼が持つ大剣を見て異様な威圧感を覚えます。
 騎士風の装いに違わず、真っ当に堂々と立ちはだかってきます。

 基本的に大剣を用いた近接単体戦闘ですが、炎を剣身に纏って放つ中扇、遠貫攻撃も用います。
 【追撃】【火炎系列】【乱れ系列】【出血系列】【致命】などのBSが予想されます。
 また、亜竜種や竜系の旅人への攻撃時に【弱点】を発動するパッシヴもありそうです。

・『■■に死す』青の乙女
 紅蓮の騎士の横に立つ鎧を着た女戦士です。
 どことなく神聖な雰囲気すら感じます。
 大盾と剣を装備している姿に違わず、盾役のような役割もこなします。

 剣を用いた近接戦闘の他、大盾によるカウンター攻撃、美しい歌声で注意を惹く【怒り付与】などを行ないます。
 また、炎や雷に由来する魔術も用いるようです。
 【火炎系列】【痺れ系列】【怒り】【反】【自カ至】などが考えられます。

・師匠
 ノエルの師匠、魔種です。
 何らかの事情により、ノエルを切り捨てた様子。
 現在の居場所は不明ですが……?

・『叛服の百合』
 この空間の何処かにあると思われる、この空間を作り出している百合の花です。
 城壁か、或いはエネミー事態に埋め込まれているか……はたまたそれ以外か、どこにあるかは不明です。

●NPCデータ
・ノエル
 ハイライトの薄い黒髪の幻想種の青年です。非常に消耗しており、瀕死状態です。
 まるでそこに『何か』があったかのように、腹部にぽっかりと穴が開いています。
 恐らくですが、あまり時間をかけすぎると普通に死にます。

 白い大蛇が体中を這いまわって下敷きにされつつあります。
 異様な眠気に襲われています。

・ユニス
 深緑のある集落でレンジャーを務める幻想種の少女。
 皆さんよりはやや格下ですが、自分の身を守り戦闘に参加するだけの力はあります。
 レンジャーらしく短刀による近接戦闘、弓による遠距離射撃が主体です。

・エルリア・ウィルバーソン&ウェンディ・ウィルバーソン
 焔さんの関係者。植物学者にして樹木医。同行していません。
 『叛服の百合』が茨のような『その姿を取った魔術ないし魔法』の類であると解明してくれました。

●『茨咎の呪い』
 大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
 イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
 25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。

●『聖葉』
 アンテローゼ大聖堂の地下に存在する霊樹『灰の霊樹』に祈りを捧げて作られた加護の込められた葉です。
 多くは採取できないため、救出対象に使用して下さい。
 葉へと祈りを捧げる事で茨咎の呪いを僅かばかりにキャンセルすることが出来る他、
 身体に絡みついた茨から何の苦しみもなく救出することが出来ます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <13th retaliation>死がこの身を抱こうとも完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月16日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
玉ノ緒月虹 桜花(p3p010588)
神ではない誰か

リプレイ


「では第一矢、戦の口火を切ります!」
 謎の空間の内側に足を踏み入れた『神ではない誰か』玉ノ緒月虹 桜花(p3p010588)は静かに矢を番える。
 集中力を研ぎ澄まし、全霊を以って矢を放つ。
 それはウサギが跳ねるような月光の放物線を描き、青の乙女へ向けて飛翔する。
 一条の矢は奇襲となり青の乙女の首筋を掠めた。
「来訪者ですか」
 女の眼がゆっくりとイレギュラーズのいる方へ向いた。
(夢の世界……だとしたら何故呪いが発動しているのでしょう。
 現実側で呪いを発生させる何かが私たちの傍にいるから、こちらにも干渉しているの……?)
 それはこの世界の違和感。クラリーチェの知る限り、『眠りの世界』と『茨咎の呪い』は同居しない。
 いや、そもそも夢なのだから現実世界の存在である呪いが関係するのもおかしな話。
 ――だが、それを考えていてはあの青年は今にも死ぬだろう。
「ユニスさん。ノエルさんの救助の際には、一緒に来てくださいますか?」
 葬送の鐘を握る『永訣を奏で』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)はそっと近くにいるユニスへ声をかけた。
「……私も言っていいのでしょうか? お邪魔になるぐらいなら……」
「きっと、ユニスお姉さんの言葉を聞いた方がお兄さんも頑張れると思うの!」
 ユニスの問いに答えたのは『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)だ。
「今助けます! ユニスお姉さんを悲しませたくないなら、ユニスお姉さんを悲しませないためにノエルお兄さんも頑張って!
 大切な人を失う悲しみを、これ以上ユニスお姉さんに与えないで!」
 キルシェはユニスへとそう告げたまま、そのままノエルの方へも向いて続ける。
 それもまた、聞いているのか怪しいが、それでも声をかけることを忘れられようか。
「ユニスお姉さん、白蛇さんがノエルお兄さん押しつぶしちゃわないように威嚇できますか?
 出来るならノエルお兄さん守ってあげてください」
「え、えぇ……やってみるわ……」
 そう言ってユニスが矢を番え――しばしの沈黙。
「……ごめんなさい。難しいわ。ノエルまで傷をつけてしまうかも」
「分かりました! でしたらみんなと一緒に青騎士さん倒すお手伝いお願いします!」
「それなら……ええ、やってみます」
 申し訳なさそうに首を振ったユニスに直ぐに別の案を告げれば、頷いてくれた。
「眩しいですね。まるで昼のような――
 ……茨咎の呪いといい、嫌な感じがします」
 眼帯さえ貫く眩い灼熱の城壁を見据え、『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)は呟いた。
 不思議なのは、それほどの明るさを発するほど燃え盛る城壁が存在する空間であるというのに、気温はまるで暑くないことか。
 最高速度で走り抜けた先、鎧を着た青の乙女と視線を合わせる。
 眼帯を外し、露わになった蛇の如き眼が輝きを放つ。
 視線を合わせまいというのか、大盾に隠れんとしたが、遅い
「こちらです。あの赤い騎士を守りたいのでしょう? 私を逃せば、食らい尽くしてしまいますよ」
 囁きは蛇の如く絡みつき、意識を縛り付ける。
 青の乙女は自らに剣を立てたのが見える。
 痛みで挑発を掻き消さんと言うのだろうか。
「幻術の類……なるほど、恐ろしい人のようですね」
 青の乙女が警戒するように盾を押し立てる。
 その頃、『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は既に動き出している。
 サルヴェナーズにも匹敵する高速で駆けだしたシフォリィは、そのまま騎士の方へ。
 その身に暗き波動を纏い影の如く踊り、橙を纏った漆黒の剣身が鋭く伸びた。
 計6度に刺突が、短く鋭い金属音を奏でた。
「お前達があの魔女の言っていたローレットか。
 それに、なんという速さだ。連撃と速度、共にすさまじいものがあるな。娘、名を何と言う」
 シフォリィの連撃を受け止め、騎士が感嘆と共に目を輝かせる。
「名乗る必要はないでしょう。これは誉ある戦いではないのですから」
 騎士の剣と競り合う中、シフォリィはノエルの事を思い起こす。
(この空間を作り出した存在の夢が姿をとったものならば、
 その黒幕はノエルさんをあのような姿にした相手なのでしょうか)
 不可思議かつ不自然な情景は夢の世界のそれにも等しい。
 更に速度を上げんとするシフォリィに少しだけ驚いたように目を見張り、次いで嘆くように目を細め――刹那、腹部に痛み。
 蹴られたと気づいた時には、眼前に剣があった。

(幻術の類とも違う、けれど本当は今見えるその形ではないもの
 空間、概念の改竄。つまり、あの時の仕掛けと恐らくは同じ……)
 『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)が思い起こすのは、ノエルやユニスと初めて会った時の事。
(先程空間が変化したタイミングからすると、術を起動させたのは彼ではなく……)
 蛇に覆いかぶされつつあるノエル――彼が術を起動させることはまず不可能だろう。
 ちらりと視線を向けるのは空間の変化と共に姿を見せた二体。
(彼の『師匠』の手駒なのは間違いなさそうだけれど、正体は何とも言い難い。
 些か気になるものがありますが、悠長に探っている時間はありませんね)
 浄罪の剣を射出し、青の乙女の方へと走らせながら、アリシスの静かな思考は進む。
(生産系メインの俺じゃあ人は救えない、回復スキルも今はない、なら少しでも早く敵を斬るしかないな)
 そう思考する『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)の視線はシフォリィと競り合う騎士の握る剣に注がれる。
( しかしあの騎士の剣……なかなか凄そうだな……武器のだいたいの力は妖精武器として、鍛冶屋の鑑定眼でお見通しだよ)
 竜殺しの剣――伝承ものの業物のように見える。
(可能なら倒したあとに入手してコレクションしたい物だな……)
 自らの周囲を氷の結界で守りながら、一気に肉薄。
 鮮血を抱く大鎌を以って一閃――その勢いのままに短剣を投擲。
 騎士がそれに反応して短剣を握りしめるのと同時、魔力で引っこ抜いて、今度は鎌でもう一閃。
「ノエルくん!? どうしてこんなことに……それにこの空間、またあの百合のせいなの?」
 蛇の下へと押しつぶされゆくノエルを見て止めた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はこの空間に足を踏み入れて都合何度目になるか。
 この空間を生み出す側であった彼が倒れていることを思えば状況が変わったであろうことは容易に理解できる。
「とにかく今は早くノエルくんを助けてここから脱出しないと!
 その邪魔をするんだったら容赦はしないよ!」
 カグツチを構えて出力を上げながら突っ込んでいく。
「私を相手に炎とは――面白い、やってみせなさい」
 大盾を構えた青の乙女が炎を引く焔の刺突とぶつかり合う。
 大盾に揺蕩う青炎と焔の放つ紅蓮が交じり合い、爆発を起こして柱のように天へ伸びた。
「これは……久しぶりに会えたと思ったらずいぶん困った事になっているね。
 『師匠』とは決別したという事なのかな。まあ、詳しい話は助けてから聞けばいいか」
 驚いた様子こそ見せぬものの、『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は静かに杖を構える。
「さて、誰だか知らないけどそこの騎士達は退く気は無いのかな?」
「――悪いが、それは出来ぬな。この身が果てるまで、通さぬというのがあの魔女に命じられたことよ」
「……結構。それでは押し通るとしよう」
 その問答はウィリアムとて想定の範囲内だった。
 一気に走り出す先は、ウィリアムに答えた騎士ではなく青の乙女の方だ。
「――ッ!」
 近づくウィリアムの杖の先に集束する魔力に息を呑んだ青の乙女が咄嗟に防御態勢を取り――荒れ狂う暴威が爆ぜる。
 跳ね上げられた大盾、そこへウィリアムは一歩前に出ると、余波となった魔力を刃に変えて斬りつけた。
「ノエルさん。今お助けします。……もう暫くの間、耐えてください」
 クラリーチェは直ぐにノエルへと声をかける。クラリーチェは送るものだ。
 それが自然の摂理としての死なのであれば、鎮魂歌の一つでも手向けよう。
 その魂が安らかに眠り行くのを見届けよう。
 ――けれど。茨の呪いに囚われ、蛇の下に埋もれて死ぬのは、あまりにも速すぎる。
「……貴方は、まだ死ぬべきではありません。どうか気を強く持ってください」
 鐘の音が鳴る。幻想たる福音の音色は、蛇の下に埋め尽くされつつある青年に届いているのか分からない。
 それでも、修道女は緩やかに鐘を鳴らす。
「赤の騎士、青の乙女……貴方達は誰なんだ?
 貴方達が何を思い、何故戦うのか、できるなら教えてくれないか」
 細剣を握り走った『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は肉薄と同時に青の乙女へ問う。
「私達は既に死したもの。御伽噺にもなれぬ者……」
 青の乙女は平然と告げ、大剣を合わせてくる。
 対してイズマの握る細剣は揺らめき、軌道を変えて刺突を放つ。
 夜空の如き黒と星々の如き粒子を携えた刺突は魔力を弾丸のようにして真っすぐ戦場を裂き、青の乙女を――紅蓮の騎士を諸共に強かに撃つ。
「呼び起こされた以上、剣を振るうのみ!」
 返す刀で振るわれた斬撃が一閃。青き雷光が前衛のイレギュラーズを薙ぎ払う。
(……どういう意味だ?)
 それを細剣で防ぎながら、イズマはその衝撃に顔をしかめた。

「――っと、俺狙いか!」
 氷のバリアで一瞬の遅れを取り戻し、本体を合わせて剣を防いだのはサイズだった。
 本体――鎌から感じ取れる衝撃は強烈なもの。
 確かに合わせて勢いを殺したはずなのに、衝撃に体勢が崩れた。
(すごい衝撃だ……)
 身体を起こそうとしながらに見た時、騎士の剣が再び振り抜かれた。

「青の乙女には悪いですが、顔位は狙わない様に撃ち抜かせて貰います」
 桜花は森林を縫うようにして走り抜けると矢を放った。
 放たれたる三本の矢、月光を思わせる美しき闘志を帯びた矢は鋭く、さながら剣の刺突を思わせる。
 それらを受けた乙女から返すように斬撃。
 桜花はそれを何とか受け流す。

「ユニスお姉さん、よろしくお願いします。ルシェはちょっとだけ前に行きます!」
 キルシェは少女の矢が空を走るのを見届け、自らを奮い立たせるようにして前に走り出す。
 進み出たキルシェは杖を立て、祈りを捧げた。
 祝詞は魔力を帯び、願いは癒しに変わる。
「ノエルお兄さんも含めて、絶対に誰も死なせないわ!
 BSだってルシェがいる限り直ぐに消して見せるんだから!」
 覚悟を乗せた歌が戦場に穏やかに響き渡る。
「貴女を自由にはさせません。
 先にこちらを何とかしなくてはならないはずですよ」
 囁くように告げたのはサルヴェナーズ。
 囁き声は魔性を帯び、幻術となって青の乙女の脳を揺らす。
「蛇の女、私を自由にはさせないと、そういうことですか」
 青の乙女の視線がサルヴェナーズの方をしっかりと向いた。
「そうです、私は蛇……貴女を呑む蛇――」
 続けたるは蛇眼が輝いて、蒼の乙女を魔術へと追い立てる。
 呼び起こされるは幻影の蛇。
 汚泥より溢れ出た無数の大蛇が青の乙女へと食らいつく――きっとそんな光景が見えているはずだ。
「どのみち排除しなければならない存在なら、
 邪魔されて撹乱されるより真っ先に倒す方が都合が良いというもの。
 手早く討ち取りましょう――エンシス・フェブルアリウス」
 アリシスは空を掻く浄罪の剣を走らせた。
 真っすぐ戦場を駆ける剣のを見た青の乙女がその手に握る大盾を構えた。
 閃光の剣は雷光の稲光を纏い、炸裂した大盾の内側に浸透し、持ち主を侵す。
「くっ……ですが――」
 その身を痺れさせながらも、乙女は前へ一歩進み出る。
 その視線がアイシス――ではなく、騎士の方へ向いた。
「フリート様。支援いたします」
 その瞳が真っすぐこちらを見ている。
 剣を振り上げた青の乙女が一閃。
 青白い雷光を伴った長剣は真っすぐ前衛を貫く。
「~~~~」
 続けて響いたのは戦場すべてに響き渡るような歌声だった。
 美しく明朗な声で語られる歌は勇士を称え、鼓舞するような歌だった。
 美しい声はなぜかどうしようもなく聞きほれる。
「綺麗な歌だけど、パルスちゃんに比べたら!!」
 そこへと駆けるは焔が振り抜いた紅蓮。
 烈火を払い、撃ち抜かれた火焔が跳ねるようにして青の乙女を捉えた。
 槍は蒼の乙女の胴部を貫いて、炎が上がる。
「貴方に騎士を助けて貰っちゃ困るんだよ!」
 引っこ抜いたカグツチを再び振るえば、再度の刺突。
 対して青の乙女が盾を構える――しかし切っ先に集められた炎は盾を這い、そのまま乙女の身体を貫いた。
「なんと……護るではなく、避けるべきでしたか……」
 守りを超えられたことに驚いたように、青の乙女が目を見開いた。
 続くウィリアムは一つ呼吸を入れる。
 その身を包む神秘を杖の先端へ集め、放った魔弾がまばゆく輝き、眩んだ眼が乙女の歌声の響きを打ち消した。
 放物線を描いた魔弾は防御態勢を取った青の乙女の盾に触れる瞬間に独特な軌道を描いて跳ねると、そのままその身体へと炸裂する。
「――押し通ると言ったからね」
 一歩前へ。肉薄したウィリアムは杖の先に風を纏って叩きつけた。
 炸裂する暴風に煽られて微かに大盾の動きが揺れ動き、破壊の旋風が騎士の鎧身体を切り裂いた。
(御伽噺にもなれぬ者……よくわからないな。そういえば、ここは愛を誓う霊樹だったな)
 イズマは乙女の言葉を脳裏で考え続けていた。
「もしかして……貴方達もかつて霊樹で愛を誓った者なのか?」
 それは何となく――本当に何となく思い浮かべた言葉だ。
 ――返答はない。だが、一瞬だけ青の乙女が動いたように見えた。
 それこそ、見間違えたのではないかと錯覚するほどの一瞬だった。
 その反応に違和感を覚えつつ、愛剣に膨大な魔力を称え、刺突一閃。

「盾さえ除ければ、そう重い装備で固めないでしょう」
 桜花は仲間達との乱戦を突くように矢を構えれば、限界まで引き絞った。
 再び放った三本の矢は、各々が放物線を描きながら青の乙女へと降り注いでいく。
 それの一本目は蒼の乙女の身体に突き立つが、残りの2本は撃ち落とされてしまう。
「――さきほどからちょこちょこと……」
 既に動き出していた桜花は青の乙女の視線と交わったのを感覚的に理解した。
「――炎よ」
 青白い炎の弾丸が真っすぐにこちら目掛けて飛んでくる。
 それに返すように、桜花が放った矢が、青の乙女の肩辺りを撃ち抜いた。

 キルシェは前を行くメンバーへの支援が十分だと判断した時、直ぐに杖を横たえるようにして握りしめた。
 それは人々への祈り――けれど、ほんの少しばかりの攻勢を願う祈り。
「お願いします、此処に眠る人達、精霊さん。ノエルお兄さんを助けるために力を貸してください」
 それに応えるように、周囲から光が溢れだしてキルシェの周囲を取り囲む。
 美しき声で伝う巫女の願いにこたえるように、光の粒子たちが一斉に青の乙女めがけて走り抜ける。
 乙女を包み込んだ光の粒子はそのまま彼女の身体の中へと融け込んでいった。


「……フリート、様。
 ごめんなさい……私はここまでのようです」
 打ち込まれる猛攻を大盾と身のこなしで対処していた青の乙女が遂に膝をついた。
「貴方達……お見事です。
 ――フリート様に会う前であれば、あるいは味方にだってなれたでしょうね」
 小さく笑った青の乙女の身体が白百合の花弁に返事で破裂して地面に散った。

「――娘。お前はたしかにこう言ったな。この戦いに誉などないと。
 ――そちらがそうであるというのなら。これもまた、文句はあるまいな」
 青玉が光り輝き剣身を覆ったかと思えば、剣身自体も真紅の輝きを増していく。
「――これこそは金色の竜。財貨に眩み蒙昧に至り、毒の上で眠り、呪いに浸る」
 謎の詠唱を始めたその男に――その剣に、シフォリィは全身から嫌な汗が溢れだすのを感じた。
(これを受けるわけには……!)
 増幅する魔力、剣を上段に振り上げるその姿を見て、シフォリィは思わず後ろへ跳び退いた。
 その魔剣はシフォリィの身体を絡めとるように捉え、真紅の閃光が辺りを埋め尽くす。
 至近距離で受けたそれは竜の息吹のようであり、振り下ろされた竜腕のようにも思えた。
「誉などない。……故にこそ、我はヒルトの為にお前らの一人……いや、より多く潰さねばならん」
「そうなる前に、一気に片を付けさせてもらいます。
 私は、強くならなくちゃいけないんです。――貴方に負けてなどいられないのです」
 シフォリィは自らを奮い立たせるように声を上げた時、騎士の剣が見えた。
(先程まではなかった罅……)
「お前の言う通り、誉などない……愚かな戦いだ」
 騎士が言う中、シフォリィは走り抜けた。
 自らの出しうるすべてをかけて繰り出す神速の剣を罅めがけて撃ち込んだ

 サルヴェナーズは身動きを封じられた騎士の下へと最速で辿り着いていた。
「それでしたら、あの乙女に自由にさせなかった私を狙うといいでしょう」
 蛇眼を輝かせたサルヴェナーズの双眸を騎士が真っ向から見ている。
「彼女はこんなものを受けていたのか……」
 魔術を受けてなお、騎士の声は落ち着いていた。
 それに気づいたサルヴェナーズは前へと進み出ていく。

 それに続くように焔が走る。
 弾丸を思わせる軌道で駆け抜けた焔は、そのまま刺突を叩きつけた。
 奇跡は燃える流星の如く。騎士の剣が合わせるように動き、互いの身動きを牽制する。
「今のうちに行って、ユニスちゃん!ノエルくんを早く助けてあげて!

「あぁ、僕達で引き受けるよ」
 残る魔力全てを注ぎ込む勢いで練り上げるウィリアムが騎士の下へと進み出たのはそんな時だ。
「……なるほど、あの蛇の下に何かあるのか」
 その呟きをウィリアムは聞き逃さなかった。
(この騎士も僕らと同じように何かしら別の物を見てるのか……でも、倒さないと進めないんだ。
 ――押し通るとは、さっきの乙女に対してだけじゃない)
 全霊で振り抜いた魔杖の突きは魔力の奔流を生み、壮絶な威力に騎士が目を見開いた。
「――こんなものを、ヒルトは受けたか……恐ろしいな!」
 そういう騎士の口元が血に濡れていた。

「そろそろ弱るか倒れて頂けたら助かるのですが」
 桜花は静かに呟き、心を落ち着かせる。
 ゆっくりと矢を引き絞ると、意識を集中させる。
 射線は通っている。狙うべきは前を行く仲間達の補助。
 引き絞った矢に意識を集中し、ビョウと放つ。
 放たれた矢は勢いよく戦場を走り、騎士の鎧の関節めがけて走り抜けた。

「お待たせいたしました。もう大丈夫ですよ。
 霊樹よ、彼に加護をお与えください」
 クラリーチェはノエルの下へたどり着くと、眼を閉じて祈りを捧げる。
 聖葉が輝き、彼の周囲にいる蛇がそれを嫌うように下がっていく。
 それはまるで聖葉を受けた茨のような動きだった。
「これで……」
「――ろ、――ス……」
 ノエルの声。霞んだ瞳で、青年が顔を上げている。
 零れるようなその言葉をクラリーチェの耳は確かに聞き取った。
 その視線はクラリーチェの後ろ、安堵した様子のユニスを見ていて――
『逃げろ、ユニス……』
 確かに聞こえた声。
「ユニスさん、下がってください!」
 普段なら落ち着いているクラリーチェが声を上げた。
 その声とどちらが速かったか。ユニス目掛け、1匹の白蛇が飛び掛かる。

「やはり、そう来ましたか――ッ!」
 咄嗟に動いたのは、そうなるのを念頭に置いていたアリシスだ。
 しなりを上げた蛇の尾がアリシスの身体を強烈に叩きつける。
 愛杖がビリビリと軋み、手が微かに痺れた。
(何という重さか!)
「あら~助けた瞬間なら、油断してると思ったんだけど~バレてたかしら?」
 蛇が驚いた声の割に、呑気な声を上げる。
「この威力……蛇どころの話ではありませんね。やはり、あなたは……」
 半身を上げた蛇としか見えないソレの本質が蛇ではないことをアリシスは直ぐに理解した。
 自身の防御技術を駆使してもその尻尾の一撃は油断ならない。
(やはり魔種……この様子では……ここから出た頃には追うことは難しいかもしれませんね)
「うぅん……これは面倒くさいわねぇ。まぁ、いいか。このままここで永遠に彷徨ってくれていると嬉しいわ。
 それでも超えてきたのなら――その時はまた会いましょう、イレギュラーズ。
 その時があったとしたら――えぇ、面倒だけれど、私が相手となりますから」
 そう言った刹那――蛇の姿がほろり、ほろりとほどけていく。
 白百合の花弁を思わせて舞い散ったそれは、地上に落ちて黒く変色して消滅した。
「今更聞いても愚問かもしれない。それでも……教えてくれ、何故戦うんだ?」
 イズマは青の乙女へも問うたことを騎士と視線を交えて問う。
「まさに愚問だな。愛した女を殺した者共に一矢を報いず何が戦士だというのだ」
「……例え仮初の存在だと仮定しても、そうだろうな」
 答えはまさに愚問だった。
 握りしめた細剣が青白い雷光を纏う。
 優れた踏み込みそのものに魔力を乗せた雷光の一閃が騎士を包み込んだ。
「見事なものだ、ローレット……さぁ、行くがいい」
 斬り伏せられた騎士が静かに笑うと、そのまま騎士もまた百合の花弁となって破裂する。
「あっ……剣も花弁に変わったか……」
 その光景にふと我に返ったサイズは、花弁に変じた物が騎士だけではなく、剣も含めてであることに気づく。
「コレクションにしたかったな……あの剣まで含めてあの騎士を作っているモノだったか」
 少しばかり嘆息してから顔を上げる。
「あとは……この呪いを解かなくては我々が出る事も呪いを避けるのも叶わない。一体どこに……」
 呟く桜花が視線を巡らせる。
「……あっちからノエルくんの血の匂いがする」
 ハイセンスで茨から救出されたノエルの臭いをかぎ取った焔が言えば。
「――あれか」
 それは城壁の方角。そちらを見たサイズは、炎の城壁――その一箇所を見た。
「なるほど――そこですか。私に見えないもの等、殆ど無い!」
 桜花の放った矢は真っすぐに走り、城壁の一点を撃ち抜き――空間が割れた。
 罅いった空間は、やがて百合の花弁に変わり崩れ落ちた。
 割れた空間の向こう側、そこには寄り添うような2本の霊樹がある。
 交じり合うように重なり合うようにしながらも、そのせいで互いの成長を損なう――そんな霊樹だった。


「ノエルお兄さん……百合の花の事、何でも良いから教えてください。あれは何です?」
 戦いが終わった後、キルシェは応急処置を施された後のノエルへの下へ駆け寄っていた。
「あれは……あの花は師匠が作った魔術だよ。
 一定の空間や物に干渉して、そこを弄繰り回す性悪な魔術。
 おかげで僕は反転だっけ? あれはしなくて済んだけど……」
「師匠……そうだ。あの女が何を企ててるのか、知ってたら教えてくれないか?」
 イズマが問えば、ノエルは処置された場所を抑えながら起き上がり、少しだけユニスを見て。
「師匠はこの国――というか、この国に住んでる幻想種をこの国に住めなくしてやりたい……んだと思う。
 あの女の魔種としての実力は冠位に遠く及ばないけど、無限に近い寿命を使い、時間をかけてこの国を住めなくする。
 多分、そういうことをしようとしてたんだよ」
「どうしてそこまでして……」
「師匠は……ずっと昔、この国で研究者をしてたらしい。
 でも、その研究の成果を当時の親友に奪われてね。
 挙句の果て、盗作を試みたのは師匠の方にされたらしいよ。
 で、師匠はもうどうでもよくなって……魔種になった」
「ふむ……そこまでのお話を纏めてみますと、貴方を攫った理由もユニス様を狙った理由も分かりませんが……
 その辺りもお聞かせいただけますか?」
 アリシスの問いも当然のことだろう。
「……言っただろ? 当時の親友に研究の成果を奪われた――って。
 師匠の……あいつの研究の成果を横取りしたのが、ユニスのご両親――正確に言うとお母様、なんだ」
 言いにくそうに目を伏せたノエルはさらに続ける。
「最初、僕を攫った理由は知らないけど、さっきユニスを狙った理由は分かる。
 僕と師匠が結んだ契約が無効になって、狙えるようになったんだと思う。
 僕は師匠に対して絶対服従、あの人の研究を動かす手伝いをする。
 ――その代わり、ユニスに対してだけは絶対に手を出さない。
 そういう、約束だったんだけど……君達(ローレット)に、ちょっとだけ手助けしたのがバレてね」
「ふむ、なるほど……契約の代償が、それですか?」
「うん、僕が魔種とずっと一緒にいても反転しなかった理由は、単純でね。
 無理矢理あの百合で呼び声そのものを聞いてないことにしてたんだ。
 限界が来て、ここ数ヶ月は何とか耐えてた程度、だけどね」
「そもそも、あの百合は何なのでしょうか。
 あそこは眠りの世界とよく似ていましたが……呪いがあちらの世界にも通じているのは他では見た覚えはありません」
 クラリーチェの言葉にノエルは傷が痛み始めたのか少しばかり大きく呼吸をしながら小さく頷く。
「……あの百合の花は、師匠が大魔種の権能を借りて疑似的に再現したものなんだ。
 強制力や範囲、それ以外にもいろいろと大魔種の権能に遠く及ばない。
 それでも『現実を書き換え空間や概念を改竄させる魔術』としては完成してる。
 でも茨の呪いみたいな上位の権能は改竄できないだろうから、
 あくまでそれっぽく上から情報を書き加えてるだけ――だと思うよ」
 そこまで言うと、ノエルは深く息をして目を閉じ――それっきり、眼を開けなかった。
「……眠ってしまわれたようですね」
 クラリーチェが言えば、幾つかの安堵の息が聞こえてきた。

成否

成功

MVP

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女

状態異常

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)[重傷]
白銀の戦乙女

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
MVPはシフォリィさんへ。
貴女の封殺がなければ騎士の抑え込みは場合によっては成立しなかったでしょう。

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