シナリオ詳細
[404 Not Found] 00358-α
オープニング
●404 Not Found
――この依頼書は後に消失する。
これは貴方達の記憶にだけ残る物語。
●あの日の事
泣き叫ぶのを期待したのだ。
生娘の様に。泣いて叫んで助けを求めて……それなのに。
「お父様。私の事はお気になさらず」
この、領主の娘は――
「それよりも一掃を。彼らを潰せば、この街は必ず安定へと向かいます!」
取引の場で。何一つ臆する事無く、全てを台無しにして。
「お父様ッ!!」
場を一喝するような。響く声がとても耳障りだったから。
「こ、の女ァ!」
逃げ帰ったアジトにて思わず殴り倒す。短い呻き声がその口から洩れるが、相も変わらず目は生きて。
男達を睨みつける。彼女はクレア。ある貴族のご令嬢だ。彼女の父は幻想にしては珍しく――不正を憎み。街に巣食う悪を討伐しようとした、所謂かな良識のある貴族であった。
だからこそ警備の隙を突き、娘を攫って。領主への脅しにせんとしたマフィアもどきがいたのだが。
「無駄な事はやめとけ。人質を傷つけたら、向こうさんはもっと躍起になるぞ」
「しかしボス……!」
「いいから下がってろ。外を見張っとけ」
ボス、と呼ばれた年配の男は外への扉を親指で指し示す。そう。失敗したのだ脅しは。
人質を見せつければ竦むだろうと思ったのだが。その人質は自らを鑑みるなと言い放って、舌を噛んで自ら命を断とうとした。それ自体は寸での所で防ぐことに成功したのだが――まぁ無論。取引なんてお流れになる有様で。
「やってくれたな。俺としては最悪、金との引き換えで新天地、てのも考えてたんだが」
今となっては全て無意味か。
「さて、どうしたもんかねぇ」
猿轡を噛ませたクレアを目の前に。思考の飛び交う煩い外を眺めて。
ボスはこの先の展開を考えていた――
●突入出来ず
「なぜだ! なぜさっさと突入しない!!」
同時刻。追跡が成功した憲兵はマフィア共のアジト付近へと展開していた。中の様子は不明だが、先のトラブルでてんやわんやしている事であろう。突入するのならば今すぐ行うが吉なのだが。
「しかしですね。こちらは頭を欠いているんですよ領主様。俺達じゃ中々タイミングが掴めなくてですねぇ」
「お前たちの隊長の事ならば、先日麻薬取引の罪で逮捕しただろうが……今更何を!」
「だからそれは何かの間違いだと思うんですよ」
あの人はこの街の憲兵を長く勤めているベテランだ。そんな筈はないと下卑た表情を浮かべながら、憲兵の一人は領主へと言葉を紡ぐ。あの人がいてくれれば救出作戦も楽になるのだが、とも。
「領主様はどう思われますか? ねぇ。あれは間違いだったとは思いませんか」
「き、貴様らッ……!」
「いや。このまま突入してもいいんですがね。しかし――お嬢様の身の安全が確保できないやも」
腐敗とは、悪とはどこにでもある。外にも。内にも。
時間が無駄遣いされている。領主にとって信の置ける部下は少なく。それでも腐敗は正されねばならぬと断行した改革だったが――ここに来て急いだ弊害がついに来たか。このままでは『最悪』のパターンが訪れてしまわないとも限らない。
だからこそ――彼は――
●ローレット
「君達に依頼したい」
ローレットへと駆け込んだ。なるべくならば内の事は内で始末を付けたかったが、そうも言ってられない状況だ。ここは、手の借りる事が出来る外部を頼る。
「承りました。では、目標はお嬢様の救出ですね?」
受け付けたのはギルオス・ホリス(p3n000016)だ。腐った憲兵。潜むマフィア。
如何様にして令嬢の救出に動いたものか……そう、思案を巡らせていた――のだが。
「いや、違う」
領主は。
「我が娘――クレアを『殺害』してほしい」
確かに、そう言い放った。
「……なんですって?」
「クレアが殺害されればそれを大義名分に街の腐敗を大規模に粛清できる。外に向けての言い分も立つ。悲劇が起これば感情的に市民も賛同してくれる事だろう。街は、清くなる」
それは間違いではない。実際、そういう効果は見込めるだろう。だが、それは。
「それとこの依頼では君達が『ローレットである』という事は隠して遂行してほしい。あくまでもこれはマフィア共のトラブル……そうだな。別組織も便乗してきた際の抗争で偶然クレアが死亡した、と言うような流れでもいい。とにかく『偶然』である事が重要だ」
「『御身が関わっている』事は隠したいと――成程。ですが、一つ確認を」
「するな」
ギルオスの言に、領主は即座に返答を。
「何も確認するな。分かっている。これは外道の所業だ。分かっている。だがそれでも……街を一刻も早く清くするにはこれが最善なのだ……! 亡くなった妻も、この街が清くなる事をずっと願っていた……!」
確実に、簡単に救える手段があるのならばそれでも良かった。だが現実はそうではない。この取引に屈する事。あるいは憲兵の要求に屈するのも駄目だ。悪に一度でも首を垂れればまた起こる。あるいはクレアがまた攫われれば同じことの繰り返しで――いやそもそも――クレアが攫われたのはもしかすれば内部に手引きでもあったのでは――
「死ぬば、一番都合がいいのだ」
あらゆる不安要素を排除でき。あらゆる未来が切り開ける。
「いつか必ず罵りは受けよう。それでも今の最善の為に、私はこの依頼を提案する」
「……成程。御覚悟確かに頂戴しました」
綺麗事だけで世界は回らぬと。まぁそういう事もあるだろう。世界としても。依頼としても。
宜しい。宜しい。ならばそういう依頼も受けるのがローレットだ。
「早急に手配を行います。吉報をお待ちください」
「あぁ。頼む」
はたして『吉報』であるかは知らねども。
強く。固く握り締めた拳から血が流れている事には――気付かぬこととした。
- [404 Not Found] 00358-αLv:2以上完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年08月16日 21時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●殺す意思
例えば彼女を救う道が、どこかにあったのならば。
「――道も違ったのであろうが。しかし、かような道はここに無く」
正義の為に子供を殺す。なんとも愉快な思考のみ、と『蠢くもの』ショゴス・カレン・グラトニー(p3p001886)は喉の奥にて嗤いを呑み下す。あぁなんたる無情か。なんたる喜劇か。面白くてとてもとても素面になれぬ。
されどよい。これなら我慢も不要。遅い、屠り。喰らうのみ――と。心猛々しく。
「……時間も無いきに。行くとすっかのぉ。しかしなんとも、あぁ……」
胸糞悪いことやが。『人斬り』不動・乱丸(p3p006112)は吐息一つ。
己は人斬りであるが故にこそ、誰ぞを斬れというのならば斬ってみせるが。さて。いやしかし。彼は木偶人形に非ず。親が子を殺すなどという依頼の本質を察すればこそ――胸中に渦巻くモノはあるもので。
それでも、やらねばならぬと歩を進める。
息を。足音を殺して闇夜の中で潜める殺意。向かう裏口。ショゴスと、乱丸と。
「じゃあ――こっちの『役目』を果たしていくとしようか」
『鳶指』シラス(p3p004421)の三名にて。裏口側の憲兵へと奇襲をかける。
不吉なる囁きを皮切りに。ショゴスの毒霧が蔓延。耳と、鼻より吸い込んだ激痛が憲兵らを襲えば。
「な、なんだ! お前ら何者――」
その首筋に、刃がめり込んだ。
「只の通り魔。人斬りじゃきぃ」
気にすんない。一刀両断、乱丸は敵の首を飛ばす。
さすれば、嗤い泣きしている道化の如き仮面が視界に映る。なんだこいつらは、と憲兵の一人が思えば気付く気付く。サイバーゴーグルにフードで身を隠しているシラスにも。
敵襲。マフィアの仲間か? 瞬時にそのような思考が駆け巡り――で、あるからこそテレパスにて連絡を取る。視線が向かう先は正面側。憲兵本隊。
「なんだと……裏口に敵が? チッ! 仕方ない増援に行くぞ! 何人かはここに残れ、裏口の敵を片付けたら……やむをえん。突入するぞ!」
慌ただしく駆け抜ける。外から敵勢力の攻撃があるなど完全に予想外だったのだろう。この場に五、いや四人の憲兵を見張りとして残して他が裏口へと向かう。領主より隊長の事で条件を引き出したがったが――事態が動いてしまったのなら仕方ない。裏口側が片付き次第内部に突入して……
「やれやれ、浮足立ちすぎだね。別れるにしても四人だけ置くのは中途半端だろうに」
瞬間。林の奥から正面側へ、一筋の閃光が突き走った。
空を裂き、木々の針穴を抜け、葉を撃ち抜き――直撃する。
数多を穿つ魔弾。それを放ったのは『彷徨う焔』フォリアス・アルヴァール(p3p005006)である。
「隊長とやらがいないからかね……ま、こっちとしては都合のいい限りだ。始めよう」
「いや――しかしこんな事までしないと駄目だなんて。腐敗を粛清するのって大変なんですねー」
直後、頭巾を被って顔を隠す『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)と仮面を身に着けた『トリッパー』美音部 絵里(p3p004291)が敵陣に向かって走り抜ける。
裏口は陽動だ。三名で引き付け、五名で正面を突破する。その為に。
「ま、私は『お友達』が増えて嬉しいですけど。むふー」
――敵を即殺する必要がある。可及的速やかに。
絵里は手の平を己が八重歯で一閃。さすれば舞い散る血が形作られ――刃と化す。血蛭。握りしめるレイピア状のソレを用いて憲兵を襲撃。そしてそれを支援する形でアオイの魔力弾が追撃を。
「娘の死を火種二、町を綺麗にしてやろうっ――てカ? ハ、ハ。成る程、確かにそれは合理的な考えだナ」
小さく呟くは『自称、あくまで本の虫』赤羽・大地(p3p004151)だ。誰ぞには聞かれぬ様に。ただの独り言であるかの如き呟きを置き去って。往くは、携えるは殺傷の魔力。
放つ。それは霧状となって敵らへと。
「……依頼人の奥底。本心までは俺には図りかねるけどな。要望なら、叶えるまでだ」
「そうだな。安定のための犠牲――世の中は理不尽に満ちてるもんだよなァ。だが望みを託されたのなら、叶えるより他はねぇ」
と、大地の言の直後に『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)も言葉を紡ぐ。彼女もまた外套のフードに、暗視ゴーグルを身に着けて。
憲兵と、そして扉を見据える。己らが往くべき場所を。悪を成すべき場所を。
「……ま、汚れ仕事には慣れてるぜ?」
己はそう歩んできたのだから。
暗視ゴーグルの下に見える口の端は上がっていたが――さて。
見えぬ目は、如何な感情の色を秘めて居た事か。
●外と内の闘争
外がテレパス込みで騒がしい。どうもトラブルがあったようだが……
「……全員警戒を続けろ。少なくとも味方じゃあねぇだろう」
家の中に立て籠もるマフィア集団は怪訝な表情をしながらも罠の設置を続けている。
憲兵と戦闘しているから味方? いやいやそういう訳ではないだろう。
「チッ、まぁなんでもいい。扉は厳重に閉めてあるんだ。まだ少しばかり時間稼ぎは――」
出来るだろう、と思い扉に視線を向けたと同時。ボスは見た。
閉めてあったはずの鍵が。今、何の抵抗も無く解錠されて――
「悪いな。その辺りは対策済みなんだよ」
レイチェルだ。魔術的、あるいは特別に厳重な要素が込められた鍵でもない限り瞬時に開ける事の出来る技能。ワイズキー。更に、併用した足音を殺す忍び足で近寄ったが故か。マフィア側は接近に気付くのが遅れたようで。
「やぁこんばんは――では、お元気で」
「ぬ、ぉ! 迎撃! 迎げッき!」
気付き、叫んだボスの肩を――フォリアスの銃弾が穿った。
同時に一斉に室内へと雪崩れ込む。準備されていた簡易的な矢が扉を突破したイレギュラーズへと襲い掛かるが、比較的早期に突入したが故にこそだろう。威力、数と共に大した事は無い。強引にぶち破って、中へと進む。
「行くゾ。罠はまだ残ってそうダ、警戒はそのままに、ナ……!」
ここで手間取っている訳にはいかないのだ。外にはまだ多くの憲兵がいる。無傷のマフィアも家の中で待ち受けていて、排除すべき敵の数はまだまだ多い。だからこそ。
「どけヨ――用があるのはお前らじゃねーんだかラ」
「地下への入り口を。早いとこ見つけとかねーと、後がめんどいぞ」
急がねばならぬ。大地の構える巨大レーザーガンによる射撃が加わり、背面を警戒するアオイの癒しの力が味方へと渡れば戦う体制は盤石だ。鍵を開けたレイチェルもまた戦闘に加わり、魔術式を展開。狼の牙の如き闇がマフィアを襲う。
されど。一方のマフィア側も不意を多少突かれたような形に成ったが、死ぬ訳にはいかぬと応戦を開始する。ライフルによる射撃が。ナイフによる接近戦が仕掛けられて。
「むむむ……さっきの憲兵から合わせて相手の数の方が明らかに多いのです。むぅー」
口を膨らませる絵里。まぁ仕方ない事でもある。マフィアも憲兵も全て打ち倒そうとすれば二十はいる。流石に数の差は歴然としており、一人一人が頑張ればなんとでもなる――という状況ではないだろう。
ならばどうするか。そう。『頑張らねばならない』のである。ただそれは一人ではなく。
「『皆』と一緒に――頑張らないと!」
なのです! 自らに肉体再生能力の再付与を果たした彼女は、視線確かに。往く。
血の刃が敵の血を吸い、己の血を吸い上げて。刺して吸って刺して吸ってそれでもここに。
特別な意味での『お友達』の為に。
「む。っふっふーさぁまだまだあと少しあと一歩みんな纏めておッともだちー」
死線の先を、見据えている。生死を超えたその先を。
そして窓の外では――また別の攻防が白熱していた。
「ハッ! やはり儂はこっちの方が性にあっちょるのォ。ほぅらどしたぁ! そん程度か憲兵様とやらはァ!」
振るう業物。闇夜の中にて激突する刀と剣。
罪なき女を斬るよりも腐っている連中を斬る方が己らしいと――乱丸は吠えながら相対する。胸中に渦巻く感情を吹き飛ばすかのように。あるいは当てつけるかのように。
「人斬りとしての生き様――とくと見せちゃろう! 覚悟しておくきに!」
更に纏う炎。赤き目が、炎と共に闇夜の中に確かに存在していた。されど先述したように数の差がありすぎる。乱丸は気概と共に奮戦するも流石に傷を負う事をやむなくされ始めていた。
「全く、こっちに来すぎだろ……チッ、突破して家の方に行けるかな……?」
とはいえ味方の援護がない訳ではない。機動に優れるシラスが、魔術礼装を片手に林の中を駆け抜けて。
振るう魔術は治癒の力。対象は無論、乱丸だ。
出来れば憲兵五人では手古摺るという印象を与えておきたかった所だが――流石に表側からの増援も込みとなり十人近くの数となった憲兵を相手にするのは些か以上に分が悪かった。陽動という目的自体は十分以上に果たせているが。
ショゴスもまた、防御優先の戦術へと変更している。それは。
「中が事を果たせば挟撃に転じれる――そうなれば万々歳。されど、それまでは」
耐え忍ぶも重要か、と。移動と、そして体術から繰り出される飛ぶ斬撃にて敵を迎え撃つ。
とにかく囲まれない様に足は止めないのだ。傷を負わぬ様にした戦いが、生存を長引かせる。
「だけど、埒があかないなこれは……!」
言うはシラスだ。このままでは所詮じり貧である。そして依頼の目的は憲兵との戦闘ではなく『かの者』の命であれば。
進路転換。林の中を駆け回っていたシラスが目指すは、アジトの方へ。
内部へと強引に突入を図るのだ。こうなってしまえば己で往くしかない。闇夜に紛れ、優れた機動で憲兵をなんとか振り切ろうと大きく回り、回り――そして。
「ぉお!」
速度を保ったまま跳躍。強引に窓をぶち破って――中へと侵入した。
●たった一つの命
アオイは見た。シラスが窓をぶち破って中へと侵入する様を。
そして一階でライフルを持ち迎撃していたマフィアの一人が、すぐさまシラスへ銃口を向けるのを。だから。
「さ、せるかよッ! ッ、らぁ!!」
反射的に紡いだ魔法陣の形成の方が――僅かに早い。
輝く陣。放たれる魔力弾。集中された攻撃による、撃ち抜くマフィアの顎。
その意識を奪い取った。ライフルに掛けられた指が絞られず、崩れる様が目に映って。
同時。物陰に潜んでいたナイフを持ちし男が一気にアオイへと距離を詰めた。
狙う首筋。振り抜かれる一閃。白刃が、命を刈り取ろうと――
「するには早いねぇ。残念だが、それは届かせない」
した、時にフォリアスの拳が男の顔面へと叩き込まれた。
格闘だ。狙撃が得意な彼ではあるが、別に接近戦が出来ない訳ではない。めり込ませる拳。間髪入れずに入れる肘が敵の鳩尾へと叩き込まれれば『くの字』を描く様に相手の身体が崩れて。
「下手に抵抗しないでくれよ。苦しんで逝かせるのは」
裏の首筋辺りに添えられる銃口。そのまま引き金を絞り上げれば。
「――心が痛むからね」
頬に付いた返り血を親指で払った。
「おのれ……お前ら何者だ! 俺らどころか憲兵まで敵に回して……!」
「ハッ。『どこの組織の回し者だ』とでモ?」
ボスの言に反応するは大地だ。さて、ローレットなどと名乗る訳にもいかないので。
「まぁ『通り魔』だとでも思って頂ければー あ、でも大丈夫。すぐにみんな『お友達』になれますからねー? こわくないですからねー? やったーばんざーい」
「チィ、気狂いめ! このままやられてたまるかッ!!」
机の陰に身を潜めていたボスがヤケになったか。身を起こし、構えるライフル。
対して跳躍するは絵里だ。お友達。お友達。死者の念を『そう』とする彼女にとっては、大量に増えそうであるこのような機会など『絶好』としか考えられず。
放たれる銃弾。抉る腹部。
されど微塵も臆さず飛びつくようにボスに接近した彼女は血の刃をその首に突き立てて――横に抉った。
「よし――こっちも片付いた。後は目標を探そう」
さればレイチェルが。逃げ出そうとしていた最後の一人を闇の爪で追い立てて。場の収束を確認する。
後は外の憲兵がこっちに来る前に『事』を済ませる必要がある。罠がまだ残っていないかある程度慎重に動きつつも探索を急ぐ。ここか? 別の場所か? 地下への入り口は――と探していれば。
見つける。石で造られた地下へと続く道のりが。
「罪も何もない令嬢様を殺すっつーのは気持ちのいいもんではねーが……ま、コレも仕事だ」
悪いが、死んでもらうより他は無し、とアオイは言う。思う事……何もない訳ではない。境遇を想えばこそ浮かぶこともある。だが『それはそれ、これはこれ』だ。
響く足音。地上よりも幾何か冷たい風が頬を撫でて。そして。
いた。地下で縛られた、クレアだ。
イレギュラーズ達を訝しんでいるようである。それはそうだろう見るからに憲兵の姿ではない。しかし先程見たマフィアたちでもなく。では目の前の彼らは一体? まさか、私を――
「……悪いが、サヨナラの時間だ」
救いに来たわけではなさそうだ。レイチェルのその言葉に、クレアは己が現状を察する。
結局、処刑人が変わっただけなのだと。しかし、サヨナラの時間? なぜこの場で殺すのだろうか。捕まえるでもなく上の抗争を待つでもなく、確実に死を下す必要性がなぜ――
「…………」
その様をレイチェルと共に探索したシラスは見ていた。自分を殺そうとする者が一体誰なのか――そこまで気付けるか? いや気付け。君はきっと賢い。だから気付け。自分を殺しに来たのが。
父親の手の者だと気付け。
「あぁ……」
自身の周囲を闇が包む。あと三秒か。二秒か。自分が生きていられる時間は。
仰ぐ天はつまらない天井だ。空も見えやしない。だから瞑る。目を、世界を。そして。
「…………ぉかあさん」
そのままもう、目が開かれる事はなかった。
「……終わった。行くか」
レイチェルは短く。それだけの言葉を呟いた。
他に何か語るべきだったろうか。残す言葉は――残された親父サンは後悔しないのか――いや。そんな言葉は未練を残すだけだ。何よりも、正体は明かせないのだから。未練を残させてはいけない。己らは奪いに来たのだ。ここには何一つとして残してはやれないのだから。
せめてとして出来る事と言えば一撃で終わらせるのみ。
「……チぇっ、期待したのとはちょっと違ったね」
一方。立ち会ったシラスは別なる感情を抱いていた。
本来ならば取り乱す事を期待していた。潔いまま聖人の如く死ぬ様など期待していなかった。その観点から言うとあれは及第点にすら届きそうにないが。
瞑った目尻には力があった。
唇を確かに噛み締めていた。強くはない、されど確かに、ほんの微かだが彼女は。
『生に縋っていた』
死を覚悟していたのは嘘ではないだろう。されど『父からの刺客』という事に思考が届いたか。希望が完全に失われたことによる発現。人の子たる一面という事かもしれない。
「――もう少し、分かりやすい感情の方が好みなのだけど」
かといって必要以上に殺しの時間を引き延ばすのはまた別の話。
まぁいい。この微妙な心境の捌け口は上にまだいる。
依頼は果たしたのだ。後は少しばかり――好きにやらせてもらうとしよう。
●幕への道
「さて――後は逃げ道を用意しなくてはね。裏口の加勢に行こうか」
「これデ『娘の復讐に燃える領主』の完成っつー訳カ。街の改革が推し進むんだナ」
レイチェルとシラスが地下へ向かったと同時刻。フォリアスと大地はこちらへと幾らか向かってきている憲兵の気配を捉えていた。流石に近い。殺害完了まであと一歩時間を稼がねば。
「づ、ぉぉお! 幾らなんでも加勢無しにはもう辛かのぉ! と、ぉ? こっちはもう終わったんか!?」
「――辛うじてな。今頃、終わらせる頃だろう」
傷を負いながらもなんとか合流を果たした乱丸に、アオイが答える。
アオイの視線は地下へ通じる階段へと。さすれば乱丸は全てを察したように手を合わせ。
「……すまんのォ。これも仕事じゃ。恨むんならこんな事を依頼した奴を恨むんじゃ」
言葉を告げる。供養の様に。それは彼の優しさ故の言葉か。
「あんまり時間はなーいですがー……んーふふふ。おっともだち・おっともだち」
と、それはそれとして絵里が収取するは――この場の残留思念だ。
それは彼女のギフト。思念だけを収集する故、別段会話する事は出来ない。それでも彼女は楽しみだ。『お話』が出来るのだから。
何? 矛盾? いいやこれらは何一つ矛盾してなどいない。少なくとも。
「むふーふふふ。楽しみー」
彼女の、中では。
「さて。そろそろ殺害は終わったか。ならばさてさて……」
そしてショゴスもまた合流を果たす。すぐさま憲兵らとの戦闘が再開されるだろうがその前に。
「確保しておきたいものだな。愚生が……そう髪でも」
クレアの一部を。確かに殺したのだと、そういう証拠の為に。
いや、違うか。証拠は証拠であるが、それが主なる目的ではない。ショゴスの、狙いは。
「貴様の指示通りに仕留めてやった」
良かったな。良かったな。貴様の掲げた。
「正義の大勝利だ」
と。そう、依頼主に告げてやりたいのだ。道化師を見る子供の様に。
愉快な愉快な笑みを浮かべて――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
404 Not Found
――お探しの依頼は見つかりません――
GMコメント
お世話になります。新人の茶零しです!!!!!!!!
ちょっと不思議な依頼となっております。
排他処理等はありません。よろしくお願いします。
■依頼達成条件
クレアの殺害。
ローレットである事を名乗らず依頼を完遂する。
■戦場(マフィア・アジト)
周囲は林に包まれています。時刻は夜間。かなり薄暗いです。一般人の影は無し。
二階建ての普通の一軒家ですが、構造上地下室も存在しています。
表口・裏口があるようです。また、クレアは地下室に囚われています。
建物内の具体的構造は不明ですが、複雑な造りにはなっていないでしょう。
全ての扉・窓には鍵が掛かっています。何らかの技能がない場合強引に破る必要があるでしょう。
■憲兵側×15人
全員が『テレパス』を所持しています。
剣を持った前衛が12人。弓を持った後衛が3人の編成です。
総じて戦闘能力はそこまで高くありませんが、数は脅威です。
表口側に10人。裏口側に5人それぞれ配置されています。
クレアの確保を狙っていますが、即座に動く気配はありません。
場を離れた領主が『隊長』とやらを解放するのを待っているようです。そんな予定は勿論ありません。
■マフィア側×5人
憲兵側の包囲を抜けようと隙を伺っています。全員が一階に集中しています。
戦闘能力は、個々人で言うと憲兵側よりは少し高いようです。
しかし数の差がありすぎます。マトモに戦えばマフィア側は全滅するでしょう。
・ボス
【腹芸】・【ハッキング】の非戦技能を持ちます。
憲兵側のテレパスを感知して動きを伺っているようです。
取引が失敗し、後はどうやって生き残るかを考えているようです。
・部下×4人
【罠設置】の非戦技能を持ちます。何らかの簡易的な罠で造っているようです。
時間が経てば罠は段々と増えていくことでしょう。
憲兵の突入が遅い事を訝しんでいます。
が、これ幸いとばかりに迎撃態勢を整えています。
■クレア
戦闘能力はありません。
地下室で囚われています。辿り着けさえすれば殺害は容易です。
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