シナリオ詳細
<覇竜侵食>伏竜奪取
オープニング
●囚われの
――ほれ、あの近くに綺麗な川が流れとる小さな集落があったじゃろ?
酒が美味い? そう、そこじゃな。
その集落の側でな、良い香りの草が生えとるそうじゃぞ。
行ってみてはどうか――と笑った小さな友の姿に「そうじゃな」と返したところで、『天駆雷王』鳳・天雷(ほう・てんらい)の意識は浮上した。
「――ッ」
最初に覚えたのは違和感。そして窮屈に身体を丸められた、居心地の悪さ。揺れ――どうやら何者かに運ばれているようだ。
(ああ、そうだ。そうであった。儂はあの集落で……)
最近訪れた『外』の者との出会いで香術に惹かれるようになった天雷は、外の酒を土産にやってきた飲み友にその話をしたところ、とある小集落付近で採れる香草の話を聞いたのだ。
それから暫くして、その小集落から割りかし近いペイトについでに顔を出して飲み友に「今から行ってくる」旨を告げ、帰りに寄っておくれと背中に声を聞きながら出掛けた訳だが――まさかその小集落で『蟻』に襲われるとは、運のない話である。
(先に捕らえられておった同胞は逃げられただろうか)
天雷は大きく動かぬよう気をつけながら、視線を巡らせる。
どうやら天雷は狭い何かの中に閉じ込められているようで、不透明で固いそこからは外の様子は薄っすらとしか見えない。爪を立ててみようとしたが、刺さりもしなかった。
(ペイトに寄ったのは正解じゃったな)
集落が襲われれば情報が入りやすい地位に居るペイトに住む友に、行き先は告げてある。屹度今頃『派手な男が大立ち回りをした』と情報が入り、なんじゃと!? と柳眉を逆立てている頃だろう。
(儂は待てば良い。じゃが――)
はて、救援が来るまでどうするか。
小集落では同胞を逃がすために立ち回ったが、蟻――複数体の『アダマンアント』相手にひとりで立ち回っても敵わないことは知っている。目覚めたことが知られれば、『食糧』を安全に運ぶためにアダマンアントたちは再度天雷の意識を奪うだろうことも察しが付く。
だから天雷は気を揉んでも仕方がないなと、狸寝入りを決め込むことにしたのだった。
●
三大集落に迫る規模を誇っていた亜竜集落イルナークが滅びた。
襲撃者は、アダマンアントという種である。
三大亜竜種の里長等が会議を開くが――アダマンアントの動きはあまりにも早すぎた。イルナークを襲うだけでは満足せず、その豊富な戦力を使い地上のモンスターや亜竜を襲撃し始めたのだ。
これを放置すれば、他の亜竜集落もイルナークの後を追うことになるだろう。
そうして、事態を重く捉えた三大亜竜集落からローレットへ、大規模な駆除依頼がもたらされたのだった。
「主ら、主ら。主らがローレットから来てくれた者たちじゃな?」
亜竜集落ペイトへと辿り着いた『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)たちの元へとピュルルルと飛んで来た『綵雲児』瑛・天籟(p3n000247)が「めいどというんじゃろ? 見慣ぬ恰好じゃからすぐにわかったぞ」と口にした。
「おほん! わしはペイトの天籟じゃ。ちと急ぎで事にあたって欲しいゆえ、手短に言うぞ?
あの蟻ども……アダマンアントに動きがあった件は聞いておるかの?」
「駆除依頼だとはお聞きしておりますが、仔細までは」
「それはまだだ。何があったんだ?」
リュティスと『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3n000247)の言葉にそうかそうかと頷いた天籟は説明していく。
知恵の回るクイーンは、先だってのイレギュラーズたちの活躍からモンスターや亜竜の襲撃に失敗したことから、もっと簡単に『食糧』を得る方法を閃いたのだ。
「彼奴ら、わしら亜竜種の小集落を狙いだしおったのじゃ」
イルナークよりも抵抗が少なく、モンスターや亜竜よりも弱く――しかも、それなりに『質』も保証されている『亜竜種という食糧』。小集落は恰好の餌場であった。
そしてつい今しがた、ペイトから程近い小集落が襲われた。
その集落で『食糧』――亜竜種数名と一般的な食糧を確保したアダマンアントであったが、とある男の立ち回りにより捕まった亜竜種は難を逃れた。しかし代わりに、『より質が良い』と思われたその男が捕まってしまったのだ。
「男の名は、鳳・天雷。わしの飲み友じゃ」
「え?」
「なんじゃ、知り合いかの?」
「ええ、知っているわ。最近会ったばかりだもの」
思わず声を上げた『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)へなるほどのぅと返した天籟は急いでいる為それ以上口にはしないが、彼等の出会いを本人から聞いているのだろう。
「わしが助けに行きたいところなんじゃがの、わしは里長の側から離れられんのじゃ」
天籟は里長の師匠であり、護衛でもある。いつアダマンアントが襲って来るかもわからない状況にあっては、里や里長から離れることはできない。
「いってくれるかの?」
「勿論よ!」
「ああ、任せておけ」
「ご用命、承りました」
天籟は返る頼もしい言葉に、頼りにしておるぞと呵呵と笑った。
- <覇竜侵食>伏竜奪取完了
- GM名壱花
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年05月02日 21時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●働きアリたち
荒野と呼んでいい程に緑が乏しい土色の大地を、三つの影が進んでいく。大きな荷物を抱えてえっちらおっちらと歩んでいく姿は、働き者の運び手と言えるものだろう。――ただし、その運んでいる『荷物』が、奪ったり攫った物や人でなければ、の話だが。
彼等は襲撃者にして、強奪者。そして、亜竜種という人間種を糧にしようとしている、人類の忌むべき敵である。
「アリさん、みーっけ」
高い岩場からアダマンアントを目視した『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)が、額に手を当てながら尾を立てた。此処からこうして見下ろすと、彼等は小さなアリに見える。けれどユウェルは、彼等がそれだけではないことを知っている。
先日もアダマンアントたちに遭遇したばかりのユウェルが「ほんとにもうどれだけいるのかな!? 勘弁して欲しいんだけど!」と口にすれば、彼女とともに接敵した記憶も新しい『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)と『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)と『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の三人も揃って顎を引いて同意を示した。嫌になる程体は硬く、顎は岩をも易易と破壊する程に強靭、そして繁殖力もある……と言う厄介な相手だ。
「先日よりも数が少ない、ということは少数精鋭なのだろう」
その数体で集落を襲って亜竜種を相手取る事が出来、そして妨害があろうとも帰巣出来る自信がある程度には。
しかしベネディクトには、彼奴らに対する確固たる自信がある。これまでの戦闘経験により見切って避けることも、当たったとしても軽減することが叶うことだろう。故に、引き付け役を買って出る。
「もう、天ちゃんったら無茶するんだから!」
ぷくと片頬を膨らませてみせる『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)だが、その実天雷の無茶にはそれほど怒っている訳ではない。香草を取りに行くのなら声を掛けては欲しかったが、彼の仲間を救った行動は勇気のあるものだからだ。
「ン。天雷 アレカナ 思ウケド……」
「ええ、そうね」
一番大きな『荷物』を運んでいる蟻を指差し告げる『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)にジルーシャがすぐに頷き肯定する。此処からでは硬質化して琥珀のように見えている荷物の中身の判断はフリークライにはつかないが、ジルーシャやリュティスには超視力で見えているのだろう。リュティスも「ご主人様」とベネディクトに声を掛け、特に気に留め置くべきアリを伝えている。
「集落の仲間を助けた英雄をアリの餌にする訳にゃあいかねえな」
「ええ、弱肉強食が自然の摂理とはいえ、亜竜種が容易く狩れると学習される事も、食糧を持ち去られる事も好ましくありません」
「沢山の集落が食糧不足となれば、それを補うために他の集落が食糧を渡すこととなり――亜竜集落全体の問題にもなりかねませんからね」
それに、亜竜種の味を覚えられたりしても困る。
パシリと拳を打ち鳴らしてアダマンアントたちを見据えるルカの傍らで『星読み』セス・サーム(p3p010326)と『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)も生真面目そうな表情でそう言葉を紡いだ。
被害はなるべく最小限に。それが全員の目指すところ。帰す場所の集落は、天雷を助け出せば解ることだから、早急に助けてしまおうとイレギュラーズたちは顔を見合わせあった。
「今回も頼りにさせて貰うぞ、ルカ、リュティス」
「はい。お任せ下さい。ご主人様」
「アテにしてるぜ相棒!」
イレギュラーズたちは高い岩場から離れ、アダマンアントたちに見つからないように静かに、慎重に彼等との距離を詰めていった。
●奪取!
「見エタ。伝エル」
アダマンアントたちに近寄れば、彼等が抱えている荷物の中身が薄っすらと見えるようになる。ハイテレパスで『天雷、聞コエルカ』と問えば妙に面白がっていそうな声が返ってきて、「天雷 無事」と仲間たちに告げてからフリークライは『今カラ救出作戦 開始。衝撃アル ハズ 備エテ』と伝えた。
『――ギ?』
その直後、アダマンアントの一体が足を止めた。
それに気がついた他の二体も足を止めて周囲を覗えば、何故最初の一体が足を止めたのか解ったのだろう。見晴らしの良い大地に人影が見えたため、警戒しだしたのだ。
それはイレギュラーズにも言えることだ。
三体のアダマンアントたちの見目に違いがないことを確認する。見目の違う――それだけではなく、戦闘に特化したかなりの戦闘力を有する個体も確認されているため、敵の姿かたちに気を止めるのも重要だ。情報は必ず、イレギュラーズたちや亜竜種たちの武器となることだろう。
「ちょっとアンタたち、アタシの友達を返して頂戴な!」
「そいつはお前らの餌にするにゃあ上等すぎるぜ!」
やいやいと啖呵を切ったジルーシャとルカにアダマンアントたちはギチギチと顎を鳴らし合うが、すぐに彼等の視線はマントを払いながら宣言する騎士――ベネディクトへと引き寄せられる。
「彼を返して貰おう、それに皆の食料もな。アダマンアント、お前達の好きにはさせんぞ」
『ギギギ――!』
『ギィ!!』
顎をギチギチと鳴らしながら怒りを含ませたような鳴き声。
アダマンアントたちの意識がベネディクトへと向けられた瞬間、イレギュラーズたちが動き出す。
まずはアリたちの持つ”荷物”から。幾つも生えている脚の一対で抱えている荷物の中で一等大きな――亜竜種の男が中で身を折り畳んでいるのが薄っすらと見える其れを狙い、ルカが駆けていく。援護しますと彼に告げたリュティスも伴に駆け、黒いシックなスカートが翻るのも気に留めること無く標的のアダマンアントの前脚へ舞うように一撃を与えた。
すぐさま礼をするようにひらりと後退するリュティス。彼女が空けた場所に、ルカ縫うようにするりと入り込む。
「ったく、頼りになりやがる。お前は大したメイドだぜリュティス!」
ハ、と笑いながらの三撃からなる殺人剣を叩き込めば、『ギ……』と短く鳴いたアダマンアントの手から粘液がカチカチに硬化した塊が取り落とされる。
どすんと地に落ちたそれは筋肉質で大柄な成人男性が入っているだけあって相応に重く、イレギュラーズたちが奪取すべく移動させるよりもアダマンアントの前脚が伸びるほうが早い――が。
「そうはさせません」
「ちょっとごめんね!」
「ちと乱暴にいくが勘弁してくれよな!」
アダマンアントを遮るように纏わりつくような砂嵐と、のたうつ雷撃が駆け抜け阻害し、大きなハルバードを振った少女がクラケットのように天雷in硬化した粘液を転がし遠ざける。其れを更に、ルカが勢いを利用して放り投げた。
「アリさんたちにあげるごはんはないからね! ほらほら、いくよ!」
「天ちゃん、大丈夫!?」
ユウェルが連撃で切り込んでアダマンアントを引き剥がしていき、散るばかりととなった砂嵐をかき分けたジルーシャが駆け寄った。
そうして離された天雷とアダマンアント。その間にはすかさずイレギュラーズたちが入り込み、幾つもの剣を創りあげた綾姫が柵のように剣を並べ、アダマンアントたちを牽制する。
『天雷 痛ミ無イ?』
『ああ、大事無い、が――』
「尖った岩とかで叩いたら割れたりしないかしら!?」
よくは聞こえないが、不穏なことを口にする友人の声が聞こえる。
儂のためにも落ち着いて欲しい。
「いえ、それでは衝撃と音が天雷さんに響きすぎるかと」
綾姫はそう言うと小刀を創り、天雷に触れぬように気をつけて突き立ててみる。
「!? 硬い、ですね……」
アダマンアントたちが安全に獲物を巣へと持ち運ぶために施した『梱包』は固まり、硬化している。『儂の爪でも刺さりもしなかった』と分厚い壁越しめいたくぐもった声が微かに聞こえ、イレギュラーズたちは顔を見合わせた。
きっとアダマンアントたちには、何か策があるはずだ。
『ギギ、ギ……!』
息のあったリュティスとルカの攻撃と、押し切っていくようなユウェルの連撃。近接して攻めてくる彼等が煩わしいのか不満げにカチカチと顎を鳴らしたアダマンアントがビシャッと酸を吐き、扇状に飛び散った酸が地面を焼いて嫌な匂いのする煙をあげさせる。
「あれが使えますでしょうか?」
セスが白く細い指先で煙を指差し、ジルーシャと綾姫が顔を見合わせた。あれならきっと、いける。
荷運び等のために固める粘液を吐き出すのならば、それを溶かす手段も彼等は有している。外敵の居ない安全な巣へと持ち帰ってから酸を吐き、上手に溶かすのだ。
『儂のことは後にして良い』
『ワカッタ。モウ少シ 待ッテイテ』
「天雷 待ツ言ッテル。スグニ終ワラセヨウ」
「ええ。天ちゃん、もうちょっとの辛抱よ!」
食糧の方も、リュティスとルカとユウェルが上手いこと立ち回りながらアダマンアントたちから少し遠ざけてくれている。
「では、早急に終わらせられるよう、励みましょうか」
食糧に酸が飛ばないようにもう少し離そうと駆けていった綾姫の背を護るように、蛇のような雷撃が戦場を駆け抜けた。
「よぉアリンコ共。覚悟は良いな。良くなくても知った事じゃねえけどな!」
食糧や天雷を気にする必要がなくなったルカが、力任せにぶっ叩く。
何度もギチギチ鳴らされる顎や、更にそれが奏でる不快な大音量の鳴き声。
身体の硬さも、体力の高さも、全てが煩わしい――が、そんなものは関係ない。そういうものを全部捻り潰すためにルカは鍛えてきているし、仲間たちの盾となっているベネディクトとてそうだ。被害が最小限に抑えられるよう、そして仲間たちが攻撃に集中できるようにと攻撃を躱し、躱せぬ際は最小限に抑えられるよう耐えている。勿論、すぐに回復に強い仲間たちが動いてくれると信じているからこそ、それが出来る。
「一体、仕留めました」
大きくスカートを翻し、舞を収めるように着地したリュティスの静かな声。よくやったと言う誇らしげな主の声と響く口笛に足を止めてしまわぬように気をつけて、不届きな『お客様』に最大のおもてなしはまだ続く。
「邪魔はなさらぬように」
「硬いというお話ですが……この一刀は、防げますか!」
幾度も放たれるイレギュラーズたちの攻撃に耐えてきたアダマンアントの外骨格が、バキリと嫌な音を立てる。硬い骨格に守られた内側は、脆いのだろう。最後に耳をつんざくような鳴き声を上げ、アダマンアントが絶命していく。
不快な音の後に、歌が響く。福音が届く。
立ち上がるための力と、呪縛を断ち切るような力を与えられ、イレギュラーズたちは屈さず得物を構え続けた。
侵略者には、略奪者には、罰を与えねばならない。
簡単に奪われはしないことを、武で持って教えねばならない。
この先、ひとりでも多くの亜竜種が生き残れるように、イレギュラーズたちは信念でこれを貫くことだろう。
「あと一体! せんぱい、やっちゃって!」
「お前らは中々強いが……相手が悪かったなァ!!」
ユウェルの連撃後、息をつく間も無く迫るルカの殺人剣。
最後にギ、と短く鳴いて、アダマンアントは地へと倒れこんだ。
「やったな」
最後の一体に剣を突き立てて戻ってくるルカへ、ベネディクトが片手を上げる。
パンと澄んだ乾いた音がふたりの頭上で響き、仲間たちは戦いが終わった安堵に胸を満たした。
「リュティスも、相変わらずの良い働きだ」
「勿体無きお言葉をありがとうございます」
ご主人さまあってこその私です。
丁寧にお辞儀を返すリュティスの表情は静かに。
けれど、主の期待に応えられた喜びを静かに湛えたものであった。
●大団円
「呵呵! 世話になったな!」
倒したアダマンアントから酸を採取して量に気をつけながら掛けてやれば、カチカチに固まった粘液の下から何だかとても派手な大男――天雷が姿を現した。フリークライのハイテレパスによって外の状況を知ることが叶っていたため状況確認の必要もない様子の天雷を、綾姫は思わず見上げてしまった。
「その、なんですか……随分大きい方ですね……」
にっかりと笑みを返す天雷は、綾姫とは頭ふたつ分ほど離れていそうな程の大男。身体を屈めていた状態でもそれなりの大きさであったが、手足を悠々と伸ばす姿は綾姫の想像以上に大きかったようだ。ついつい見上げてポカンとしてしまった綾姫はハッと我に返り、仲間たちに「増援はなさそうです」と報告を告げる。アリは穴を掘って近づくことも多いため、警戒をとかずにいた一同の顔にもあたたかな笑みが灯った。
窮屈さから開放されて身体のあちらこちらの関節をしきりに動かす天雷に、力強く地をヒールで踏みしめたジルーシャが近寄っていく。
「もう! 天ちゃんったら! 本当に心配したんだから!」
「すまぬな」
掛けた心配がデコピンひとつで済むのなら安いものだ。避けること無く友の心配からのデコピンを甘んじて受け止め額を擦る表情は、窮屈なところから出られたことも相まってか実に晴れ晴れとしたものだった。
「天雷 怪我 治療スル」
「ああ、そうか。そうじゃな。よろしく頼む」
状況が状況だったから気には止めていなかったが、集落の立ち回りの際に天雷も小さな怪我を幾つか負っている。イレギュラーズたちの方が消耗しているが、盾役となり一等細かな負傷の見られるベネディクトは「彼の優先を」と天雷を手のひらで示し、自身はリュティスから手当を受けていた。
「食糧は固めたままの方が運ぶのに適していそうですね」
綾姫がじっくりと確認したところ、アダマンアントたちが運んでいた一般的な食糧は多少の攻撃なら耐えられる硬度で守られていたため、こちらへの被害もないようだ。アダマンアントが施した梱包というのが少し癪ではあるが、バラけさせるよりは持ち運びに困らない。綾姫の言葉に、仲間たちも賛成の意を示した。
「ねぇねぇ天雷。この食糧どこから持ってこられたか知らない?」
「こちらの食糧は集落のものでよろしかったでしょうか?」
ユウェルとセスの言葉が重なって、思わず顔を見合わせるふたり。
ふは、と吹き出すように笑った天雷は軽く手を振って。
「おお。食糧も無事か。それは助かる。重ね重ね、感謝するぞ。
じゃが……儂は此処が何処か掴めておらん。ペイトから、で良ければ案内しよう」
何せ天雷は道中の意識が無かったため、今いる場所が掴めていない。イレギュラーズたちも報告のため、そして天雷自身もイレギュラーズたちに頼んでくれた友に顔を見せるため、ペイトには一度戻る必要がある。きっとそこでも小さな雷が落ちる事だろうが、それも甘んじて受けようと天雷はまだ痛むと額を撫でて笑った。
「そういう訳じゃ、ジルーシャ。集落へ食糧を届け終えたら、共に香草採集なぞどうじゃ?」
案外タフな天雷からの誘いの言葉に返るのは、勿論――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
食糧と天雷の奪取、成功です。
ペイトで待っている天籟も、天雷が救った集落の人たちも、とても喜ぶことでしょう。
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
覇竜全体シナリオをお届けします、壱花です。
●成功条件
天雷の救出
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●シナリオについて
浚われた天雷を救出しましょう。
天雷は、足を抱えて身体を折った状態で固められた粘液内に閉じ込められ、運ばれています。少ししか身じろぎ出来なくて、とても窮屈な思いをしています。他の一般的な食糧も同じように運んでいますが、明らかに大きく、薄っすらと体格の良い派手な男の姿が見えるので、見れば解ります。
アダマンアントの殲滅は成功条件に含まれませんが、逃せばまた集落や亜竜種を襲うことでしょう。亜竜種は敵勢から『食糧』と認識されました。敵は妨害があることは織り込み済みで、諸共餌とするつもりです。
また、他の一般的な食糧の被害状況も成功条件には含まれません。ですがそれらは、亜竜種の集落から奪われたものです。
●フィールド
見晴らしの良い荒野のような場所でアダマンアントに追いつきます。
足元はゴツゴツとした固い土質で、それ以外に特徴はありません。
●アダマンアント×3体
滅茶苦茶硬い外骨格のアリ(全長2m)。
基本攻撃は、かなりの強度の顎による噛み砕きと酸性の液体を飛ばして攻撃。獲物を生きたまま捕らえるために、顎を鳴らして【麻痺】【封印】【魅了】【不殺】の音も発します。
遠方の食料を集めに来る個体なだけあってか、体力も高めのようです。
●鳳・天雷
フリアノン近くの集落に棲んでいる放浪癖のある亜竜種で、派手好き・新しいもの好きな男性。性格も名前も似ている天籟とは好き飲み友。
最近出会った外の者(ジルーシャさんのこと)の調香が気に入ったため、それを酒の席で天籟に話したところ香料になりそうな香草の話を聞き、後日とある小集落へと出掛けたところで襲撃にあいました。派手に立ち回り、浚われそうになった一般亜竜種数名を逃しています。
アダマンアントに起きたのがバレると面倒くさそうなので、逃げる機会を待ちつつ狸寝入り中。
それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。
Tweet