PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<13th retaliation>妖精門の守人

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●茨の侵攻
 額から流れた汗が、頬を伝う。
 息を零す度に眼鏡が曇る。限界が近い事を思い知らされているようで、不快だ。
「レザンさん……」
 杖を掲げるレザンの後方、一箇所に集まった里人たちが不安げな声を零す。それも仕方がない。もうずっと、明けることのない悪夢の中にいるような日々が続いているのだから。
 里人たちが遺跡を襲う者たちが現れた際に、立てこもるための保存食を普段から常備していたことが良い方向へと向かってはいた。……しかしその蓄えも残り僅かで、いつまでこうしていればいいのか、いつまでこうして耐え凌げるのかもわからない。
 レザンの背を、汗が流れていく。不快だ。終わりの見えない、苦しさだけが日に日に増していく。
 妻のミュスカは、居ない。彼女が帰って来ぬまま、どれだけの日数が経過したのか――地下のこの場所では知ることが叶わない。
 ミュスカとライラに言われて逃げてきたという里の者たちが大勢居た。その後に外へ助けを求めに行ったか、或いは最初に倒れたという里人たちのように――。
(いけない)
 気持ちを切り替えるように、レザンはかぶりを振る。愛しい妻は、如何なる状況であろうとも最善の道を選ぶことだろう。
「くっ……」
 魔術に対しては常に真摯に。沈着冷静に心を落ち着かせ、凪のように。
 そうあった筈のレザンに、焦りが生じている。
(あと、どれだけ保つだろうか)
 突如現れた茨が、里に侵入した日を思い出す。里人が倒れ、妻とライラの家族は里内を駆け回り、自分は遺跡を守るために遺跡へと向かった。守り人として守りの術を発動させ、背後に逃げてきた里人たち匿い、そうして耐えてきたレザンだったが――彼の足には、茨が絡みついていた。
 それはゆっくりと、這うように上ってこようとしている。守り人であるレザンを拘束し、封じ込めようとしているのだろう。
 レザンが倒れれば、この里は――。
 里人たちに余計な心配をさせぬためにも、不安を口には出さない。
(……フラン)
 あの子は、無事で居るのだろうか。
 最後にこっそりと幻想に姿を見に行ったのはいつだったろうか。
 確かあの時は、楽しげに男と歩いていて……。
(男……? あの男はなんだったんだ!? もしかして……いや、いや。フランはパパ思いの良い子だ。フランに限ってそんなはずはない。はずはないが……パパは許さないぞ、フランんんんんん!)
 レザンは力が抜けつつある体で、落とさないように杖を握りしめる。娘に直接問うまで、茨なんぞに屈する訳にはいかないのだ。
 杖につけたフラン人形が、笑顔のまま揺れていた。

●望郷
 大迷宮ヘイムダリオンからアンテローゼ大聖堂へと至ったイレギュラーズたちは、周囲に展開する敵部隊を撃破した。平常時は花咲く美しい聖堂の周りは雪で覆われ春らしさの欠片もなく、深緑をよく知る者たちの衝撃は計り知れなかったことだろう。
 しかし、である。森林内に入ることが叶った。ひとつずつ確実に、イレギュラーズたちは解決に向けて前進している。
(おとーさん、おかーさん。待ってて、今行くから)
 雪風に煽られる髪を押さえ、フラン・ヴィラネル(p3p006816)は西へと顔を向ける。彼女の傍らに居るウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)とハンナ・シャロン(p3p007137)も同じ方角へと顔を向けている。心に思うのは、同じ故郷『ノームの里』だ。
「大丈夫だよ、僕等も行く。誰の命も喪わせはしない」
「行こう、センパイたち」
 マルク・シリング(p3p001309)の声に「ああ」と同意したオルレアン(p3p010381)も口を開いた。他のイレギュラーズたちも、何があっても大丈夫だと視線で伝えてくれている。
「――シャハル」
「ああ、ライラもきっと無事だ」
 行こう。向かおう。――帰ろう。
 僕たちの、ノームの里へ。

GMコメント

 ノームの里への道が拓かれました。
 ごきげんよう、壱花です。

●成功条件
 レザンを見つけ出し、救う
 拠点の確保

●失敗条件
 25ターン以内にレザンを救えなかった

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●シナリオについて
 ウィリアムさんとシャロンさんとフランさんの故郷、ノームの里へ向かい、探索します。
 どんな危険が潜んでいるかはわかりません。纏まって行動したほうが良いでしょう。
 上部の探索を進めると、ライラとミュスカを含む数名の里人を見つけることが出来ます。いずれも眠っていますが、上部全ての探索を終えると、里をよく知っている三人は「少ないな」と思うかもしれません。
 ライラとミュスカを見つけて起こすことで状況の情報を得ることが出来ます。
 レザンが力尽きる25ターン以内に全ての探索を終える必要があります。

●フィールド『ノームの里』
 大樹ファルカウの西側にある、ツリーハウスを橋で繋いだ樹上街と地下の遺跡部分とで構成される小さな里。
 茨を掻い潜りながら樹の下に辿り着き、まずは樹上へと皆さんは上がる事になります。
 地下には遺跡――妖精郷の門(アーカンシェル)があります。

●茨
 謎の茨。棘に刺されるとダメージを受け、毒や痺れ、猛烈な眠気に襲われる場合があります。
 これの周辺には『茨咎の呪い』が漂っているようです。

●茨咎の呪い
 大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
 イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
 25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。

●聖葉
 アンテローゼ大聖堂の地下に存在する霊樹『灰の霊樹』に祈りを捧げて作られた加護の込められた葉です。
 多くは採取できないため、救出対象に使用して下さい。葉へと祈りを捧げる事で茨咎の呪いを僅かばかりにキャンセルすることが出来る他、身体に絡みついた茨から何の苦しみもなく救出することが出来ます。

 3枚の葉を与えられています。
 すべての人は救えませんが、大半の里人はレザンに守られています。

●ライラ・エシェル
 ウィリアムさんとハンナさんの妹。
 穏やかで心優しく、争い事を好まない、7人家族の末娘。
 上部のどこかで眠りについています。
 里の人たちの避難のために最後まで動き回っていました。

●ミュスカ・ヴィラネル
 フランさんのおかーさん。
 娘から手紙を貰い、20歳の誕生日を心待ちにしていました、が……。
 上部のどこかで眠りについています。
 里の人たちの避難のために最後まで動き回っていました。

●レザン・ヴィラネル
 フランさんのおとーさん。娘命の凄腕魔術師。
 冷静沈着、言葉数は少なめでありあまり他種族に好意的ではない雰囲気の男性。
 現状は、OPの感じです。茨が体に這ってきています。この茨は聖葉で祓えます。
 おとーさんを助けたら、魔術が使える人はお手伝いをすると良いでしょう。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が足りない時に活用下さい。
(ウィリアムさん宅は他家族さんも……等がありましたら、関係者枠を)

 それでは、お気をつけて。

  • <13th retaliation>妖精門の守人完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月23日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
純白の聖乙女
マルク・シリング(p3p001309)
シラス(p3p004421)
竜剣
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
恋屍・愛無(p3p007296)
獏馬の夜妖憑き
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
チャンスを活かして
ユーフォニー(p3p010323)
ためらいには勇気を
オルレアン(p3p010381)
特異運命座標

リプレイ

●帰郷
 聖堂周辺の吹雪から抜け出し、茨蔓延る森林を西へ、西へ。
 一行の先頭は、道案内も兼ねて『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)と『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)。『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)自身はどうしたってこういう時に気が急いてしまうから、仲間たちの勧めで守られるように道中は真ん中に在った。
「ここがフランさんの故郷なんだね」
 ノームの里に到着し、『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)がポツリと零す。
 里は不自然なくらいに静かだった。けれどこれは、今まで見てきた村々からも想像がついていたことである。やはり此処も、という気持ちが浮かんでくる。
 しかし、故郷を実際に目にした三人への衝撃は、当事者である三人にしか解らないことだ。『未来を願う』ユーフォニー(p3p010323)は気遣うような視線を三人へと向けた。
「……こんなに静かな里は生まれて初めてだよ」
 今の里のように静かなウィリアムの声に、ハンナとフランは浅く顎を引く。
 フランはツンとした痛みが鼻に感じた。瞳には水の膜が張り、視界がぼやけてしまう。
 けれど、まだだ。
 まだ、これから。
 やらなければいけないこと、やりたいと願うこと。
 救いたいと願い、皆の明日を願うのなら、時間を無駄にしている暇なんてない。
「それでは、手はず通りに」
「ええ」
「リーちゃん、よろしくね?」
 里に着いたらどうするかは、道中話し合っている。マルク・シリング(p3p001309)の声に、スティアとユーフォニーがファミリアーを呼び寄せ、三人でファミリアーを交換しあう。マルクが呼んだ鳥のファミリアーはスティアとユーフォニーへ、スティアも同じく鳥のファミリアーをマルクへ託し、ユーフォニーはドラネコのリディアに言い聞かせてからマルクへと託した。これで、何かあったらファミリアーに伝えれば、別の場所にいる召喚主へと伝わるはずだ。
「僕等はあちら側を回るから、ハンナたちは向こうを」
「ええ、シャハル。気をつけて」
「あたしたちは地下への入り口へ向かうね!」
 イレギュラーズたちは三つの班に分かれ、三つの聖葉を一枚ずつ持ち、ノームの里へと散っていった。

「ノームの里は、元は地下だけだったそうです」
 遺跡に興味を持った穴掘り屋達が住みついたのが里の始まりで、彼等が居着いて暮らしだし、地下だけでは手狭で不便であることから外へと出、暮らしやすさを求めて樹上での生活が始まった。フランの一族が住み、守りだしたのはいつからかわからないくらい、ずっとずっと昔の話だ。今では樹上の方がメインですねと小さく笑ったハンナは木々の気持ちを聞きながら里の中を駆けるように進んでいく。
 植物は、難しいことは解らない。人の違いも解らない。ただ『不安』という感情だけがハンナに伝わり、倒れた人々を見守るしか出来ない植物たちの気持ちに、ハンナの胸はぎゅうと締め付けられた。
「センサーにも反応はないな」
 それはきっと、意識がある者がいないという証拠。これまでの新緑の様子からも眠っているであろうことは推察できていたから、『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)はただ事実だけを確認するように口にした。
「ハンナセンパイ、此方にはセンパイの妹はいないようだ」
「エーちゃんで狭い場所も見てみましたが、写真で見せて頂いた方はいませんでした」
 仲間たちが樹上へと登る間に先に一飛びした『特異運命座標』オルレアン(p3p010381)とドラネコドローンを飛ばしたユーフォニーの言葉に、ハンナはやはりと応えた。
「あの子はきっと、奥へと行ったのでしょう」
 出入り口付近ではなく、最奥へ。
 人々に里に迫る危機を知らせ、その後も逃げ遅れている人がいないか見て回ったのだろう。あの子は強くて、優しい子だから。
 姉のその考えを肯定するように、奥へと向かうほどにライラのゴーレムたちが倒れていた。本来は同時に動かせないゴーレムを、少しの間だけライラは一度に動かせる。それだけ必死に、持てる力を全て使って、妹は里の危機に立ち向かったのだ。
(ライラ、あなたって子は……)
 その先は、本人に直接言うべきだ。
「少し迂回しますが、あそこから通り抜けできそうです!」
 茨に触れない道も、探して。
 触れそうならば、愛無が先に確かめて。
 そうして確実に、出来得る限り素早く奥へと歩を進めていった。

「うーん……おかしい」
「人がいない?」
「そう。そうなの」
 樹上ではないから確かな事は言えない。けれど、他の村のように倒れている人を見かけない。
 植物たちはただ『不安』のみを伝えてくる。ざわざわとさざなみのような音を立てる木の葉たちは、風だけが奏でるものではないように感ぜられた。その不安が、伸し掛かる。16歳の冬に空中神殿に喚ばれるまで、フランの世界の全てだった里。知らない場所なんてなくて、いつだってどこだって我が家みたいな場所のはずなのに。
(なんだか、知らないところみたい)
 不安に唇を噛み、杖を握りしめる。細かく仲間たちとやり取りをしてくれているマルクの声が途切れるのを待ってから、フランは里の成り立ちから普段の生活の話、そして里の下の遺跡の話をした。
「フラン、あの茨の奥に誰かが倒れている」
「本当!?」
「茨をどけよう」
「あっ、待っ……」
 シューヴェルトが茨を切り裂いた。
 それは、茨に敵対の意を示す行為だ。
 眠るように静かに身を横たえるのみだった茨たちが、イレギュラーズという異物に気付き、排除せんと動き出したのだった。

「ウィリアムの地元なんだろ? 行く先は任せたぜ」
「ああ、人が多く住んでいるのはこっちだよ」
『竜剣』シラス(p3p004421)の言葉に顎を引き、ウィリアムは静まり返った故郷を進んでいく。
(もし僕が里に居たら)
 どう、行動しただろうか。
 きっと異変に気付いてすぐ、人々を逃したり守ろうとしただろう。家族もきっと同じはずだ。祖父母と両親の逞しくも頼りになる姿を思い浮かべる。末の妹だって、きっとそうしているはずだ。あの子は誰よりも優しくて、芯の強い子だから。
 何かと五感を共有するということは、もうひとり分――マルクに至ってはその倍――の情報が入ってくるということであり、それは想像以上に脳への負担の掛かるものであるはずだ。例えそれが片目と片耳だけにしても、共有している間は脳が混乱を少なくするためにも術者の行動は単純である方が良いはずだ。
「あっ」
「おっ、と」
 その状態で植物の声を聞こえないかと耳を澄ませば、他が疎かになる。なにもないところで躓きかけたスティアを、素早くシラスが抱きとめた。
「ごめんね、ありがとう」
「気にするな。何か聞こえたか?」
「不安……ってことくらいしか」
 そうか、と見上げた木々はざわざわと揺れている。植物会話は植物の意思――感情を読み取るものである。けれどそれ以上の何かを得られないかと、藁にもすがる思いだった。
「この麻痺する感じ、厄介だな」
 チリチリと感覚が鈍る感じが煩わしい。
 顎に伝う汗を拭ってシラスが視線を向けるのは、この里にも当たり前のように蔓延る茨たちだ。
(これが全身に廻ったら)
 今は足が動いてくれる。手も動き、いつだって剣を握れる。けれど蝕む呪いに侵されてしまったら、きっと新緑の境界付近で眠っている村人たちと同じ状態になるだろう。
 ――急がねばならない。
 その思いは全てのイレギュラーズたちが胸に抱く思いだ。
「ウィリアムさん、あの方は」
「っ、ミュスカ様だ!」
「フランの……?」
 あの人が、フランが会いたいと泣きそうな声で告げていた母。シラスの記憶の母とは、当たり前だが全然違う。何より――優しそうだ、と穏やかに眠る表情を見ただけで、そう思ってしまった。シラスの母とは違い、きっと真っ直ぐに愛情の籠もった瞳で見つめてくれて、見守ってくれる人だ。あの人に育てられたからこそ、フランは真っ直ぐに育ったのだろう。
(母さん……)
 少し前に見た悪夢のせいか、気持ちが引きずられそうになる。それを振り切るように、シラスは剣へと手を掛けた。見つけたのなら、茨を回避せず最短ルートを。茨を切り払い、仲間を通し、戦っている間に起こすように仲間たちには告げてある。
「ミュスカ様……!」
 切ったことで活性化した茨をシラスが引きつけている間に、潜るように駆けたウィリアムが『聖葉』を手に膝をつき、どうか目覚めてと祈りを篭めて葉を翳す。スティアが見つけた旨をマルクへ伝えると、離れた場所で喜ぶフランの声をファミリアーが運んでくれた。
「……あら? まあ、どうしたのぉ?」
 そんな顔をして。
 開かれた天色の眸をぼんやりとさせたまま、ミュスカがウィリアムに手を伸ばし、その頬を優しく撫でる。張り詰めた表情の中に安堵が浮かぶ表情は、『あの頃』に戻ったみたいで。
「ミュスカ様、ライラは――里の皆は」
「……ああ、そう。そうだったわぁ。茨が突然里を覆いだして……人が倒れて……わたしはライラちゃんと一緒に皆を逃してぇ……」
 夢を見ているようにぼんやりと紡いでいたミュスカが、パチっと我に返ったように瞳を瞬かせた。
「フランは。フランは無事なの!?」
「無事だよ。私たちと一緒に来ているよ」
 意識が落ちる寸前の母の胸中にあったのは、遠い地に居る娘のことだった。
 少しお転婆で明るく、真っ直ぐに育ってくれた娘は、新緑に何かあれば危険を顧みずに真っ直ぐ飛び込んできてしまうかもしれない。もしそれで娘の命まで喪われたら――自分たちが助かるかどうかも解らず里人たちを避難させていたミュスカにはそれだけが気がかりだったのだ。
 娘がひとりで飛び込まずに今無事であるのは、きっと娘を支えてくれる仲間たちが居たお陰だろう。ありがとうと母の顔で告げたミュスカは目尻に浮かんだ涙を拭い、ふらつく身体で立ち上がる。
「皆、地下にいるはずよぉ」
「遺跡……ですか?」
「ええ。あの人が、きっと守ってくれているはずよぉ」
「――ッ、キリがないな。移動しよう!」
 小さく舌打ちしたシラスが叫ぶように仲間に告げ、ふらつくミュスカをウィリアムが支え、四人は茨を振り切り地上へと降りていった。

 きらりと光る何かを、色に詳しくなっているオルレアンの瞳が捉えた。里に住む者たちの髪色は似ている者が多く見分けがつきにくいが、違ったとしても救う対象には変わりない。
 全ての金色へと視線を向けて。
 そして。
「ハンナセンパイ!」
 湖のような静けさを纏うオルレアンの語尾が跳ねた。高い位置を飛んでいたオルレアンが示す指の先に、褥のように金糸を広げ横たわる人影。
 茨の奥に、ハンナとウィリアムの妹――ライラが倒れている。
「ライラ……!」
「……っ、茨が!」
 少し前に活性化しだした茨がぞろりと動く。ライラを取り込もうとするように、太い茨がその姿を隠していく。
「僕が先陣を切る。その隙に確保と撤退を」
 茨の毒は通常の毒とは違うかもしれないけれど、それでもきっと仲間たちよりはマシだ。眠気にだって、きっと。例えそれが抗えぬものだとしても、仲間が受けるよりかは。
オルレアンとハンナとでライラを抱え、近くに落ちていたぬいぐるみ――《ジャック・ワンダー》を彼女の大切なものだろうと推し量ったユーフォニーが抱えた。
 愛無が耐えている間に、引き返す。動かすとライラは苦しそうに眉を寄せたが、もう少しだからごめんねと声を掛けて。
「ユーフォニー様」
「はい! 伝えました!」
 蠢く茨が追ってこない場所まで逃げながら、ユーフォニーはライラを確保した事をマルクへ伝えた。ラグは生じるものの、その情報はマルクからウィリアムへと伝達される。

 仲間たちから齎された朗報を、マルクが告げる。
 その度にフランの胸には歓喜が溢れ、同時に泣きそうになってしまう。
(まだ、まだだよ)
 ライラも両親も、里を守ろうと懸命に動いてくれていた。だからフランも動かないといけない。だってフランは、里の子だから。前を向いて、前へ向かうんだ。
 茨が活性化したことにより戦闘を余儀なくされ足止めを食らったが、何とか振り切って『愛情』を探知して駆けていた。フランの家族は、いつだってフランを愛してくれているから。
「フラン、あそこか?」
「うん、そう!」
 幸い、地下への入り口辺りに大きな茨はない。そのまま飛び込めそうだ。
「殿は僕が。二人は先に」
 フランと、ファミリアーで逐次伝達を行っているマルクを先に行かせ、殿を務めたシューヴェルトは茨に気を配る。地上部の茨は活性化してしまったが、どうやら下層部の茨の動きは鈍いようだ。この地と、そして他の仲間たちからの情報で得た『フランの父が護っている』お陰なのだろう。
 フランは駆ける。探知なんていらないくらい、行き先は決まっている。
(おとーさんが居るとしたら、絶対あそこだもの!)
 一族の護る、大事な場所。
 里に異変が起きた時、父が必ず向かう場所。
 遺跡――妖精郷へと至る道(もん)。

「ハンナ……!」
「シャハル、こっちです!」
 スティアとシラスとミュスカには先に下層部へと向かってもらったウィリアムが駆けてくるのを見て、先に仲間たちを向かわせて護衛のために残ったオルレアンも地下へと向かって飛んでいく。
 眠るライラの頭を膝に載せたハンナは、兄も立ち会いたいだろうと待っていたのだ。仲間たちもそれを、赦してくれたから。
 ハンナが手にしている聖葉にウィリアムも触れ、ふたりで祈る。
 ――どうか、私たちの/僕たちの自慢の妹に目覚めを。
 柔らかに光る葉の下、兄と姉の祈りの下、末の妹のふたりによく似た色の瞳が開かれる。午睡を微睡むようにとろりとしたその色の焦点が合うよりも先に、ふたりの兄姉は同時に妹を抱きしめた。
「……? 兄様? 姉様?」
「嗚呼、ライラ。僕たちの優しくて勇敢な妹」
「おはよう、ライラ。あなたは本当に……私たちの自慢の妹です」
 長い眠りから覚めたばかりでぼんやりとしているライラは「兄様、姉様、おかえりなさい」と口にして、ふたりの腕の中で懐かしい心地のままに目を閉じる。
 ああ、どうか。これが夢の続きではありませんように。

 黃緑が、見えた。おとーさんはフランと一緒じゃないって嘆くけれど、フランはその色が大好きだ。
 杖が、見えた。くっついているぬいぐるみは恥ずかしいからやめてって言ったのに、おとーさんはやめてくれない。結構頑固なんだ。
 おとーさん。
 おとーさん、おとーさん!
 心がずっと叫んでいる。マルクよりもかなり先行してしまっているけれど、この気持ちと脚は、止められそうにない。
「おとーさん!!」
「――ッ、フラン……?」
 杖に縋り付くように立っていた男性が、顔を上げる。
 確かに目があった。
 抱きつきたい気持ちをぐっと堪える。
(おとーさんに……!)
 父に巻き付く茨に、苛立ちを覚えた。手で引きちぎってしまいたくなる気持ちを抑え、フランは大切に運んできた聖葉を取り出した。
「おとーさんを、たすけて」
 祈れば聖葉はまばゆいほどに光って、崩れて消えていく。
 それは、レザンに巻き付いていた茨もそうだ。
「……フランの、幻覚が見える」
「レザンさん、フランちゃんですよ!」
「フラン……」
 父の手がフランへ伸びる。抱きしめたそうにして、届く前にグッと握られた。今は未だ、やることがあるから。
「力を貸してくれるか、フラン」
 フランの後ろから駆けてくる、マルクとシューヴェルトの姿を視認している。娘を支えてくれる仲間が居てくれることをありがたく思いながら、力になってくれる人を連れてきてくれた娘に感謝の念を抱く。逞しい子に育ってくれたことが誇らしい。
「当たり前だよ、おとーさん!」
「僕らに出来ることなら、何なりと」
 追いついたマルクの言葉にレザンは鷹揚に頷き、そして魔術を扱えるものが居たら集まって欲しいと告げた。
「皆、すまないが地下のほうに来てほしい。特に魔術が使える者は急いできてくれると助かる!」
 シューヴェルトの声を、ファミリアーが仲間たちに伝えた。

●拠点
 レザンの茨を解いた後、全てのイレギュラーズたちが地下部へと集った。ミュスカが大半のイレギュラーズたちと一緒に現れた時は、里人たちと一緒に無事を喜び、フランも思わず涙を零してしまった。遅れてライラを連れたウィリアムとハンナたち三兄妹が現れると、里人の中から彼等の祖父母と両親が名前を口にしながら駆けてきて、兄妹全員を抱きしめ、家族の無事を祝いあった。
 レザンが言うには、遺跡の力を借りて、護りの術を掛けられるかもしれない、とのことだった。地下だけという限定的なスペースではあるが、上手くいけば茨の侵入を阻み、安全に過ごすことが可能なのだ、と。
 それはこの長い期間耐え忍びながら考え続けていたレザンと、後方で彼に守られることしかできないままでいいのかと里人たちが知恵を絞り続けてきた成果でもあった。今までレザンが使用していた護りの術を地下部全体に広げるためには、最初に莫大な魔力が必要となる。そのために力を貸して欲しいと告げる涼やかな顔に、イレギュラーズたちは異論など起きるはずもなく快諾の意を示し、そうしてレザンを手伝う者と里を見て回る者とに分かれた。
 愛無、スティア、ウィリアム、フランの四名がレザンを手伝っている間、シューヴェルト、マルク、シラス、ハンナ、オルレアン、ユーフォニーの六名は茨からの呪いが全身を巡らないように交代で地上に出てはやれることをした。
 地上で寝ている人たちを起こすことは叶わないけれど、ユーフォニーが取っていたメモを元に里人を家の中に寝かせ、必要な衣服や食糧等を家々から持ち出した。……本当はいつでも顔が見られる地下へと運びたいところだが、ひどく苦しそうにするものだから仕方がない。

「初めまして。マルク・シリングです。『黒狼隊』というギルドで、フランさんと仲良くさせていただいています」
 守りの術を下層部へ行き渡らせ、ふ、と空気が緩んだ頃、マルクはレザンの前に立つと礼儀正しく挨拶をした。
 すわフランにくっつく虫! と一瞬鋭い視線をマルクに向けるも、しかし彼は、レザンが幻想で見掛けた男性ではない。娘が日頃から世話になっていることへの礼を告げながら、真顔の下でレザンの脳はフル回転する。『隊』ということは他にもたくさん人が居るに違いない。
「……もしかして、フラン。その黒狼隊と言うところには他にも男性が……?」
 もしかしてフランが慕う相手が? いや、そんなことないよな、フラン。パパはお前のことを信じているぞ。
 レザンの瞳が痛いほどに感情を篭めて告げている。
 だが、悲しいかな。あなたの娘はとても察しが良かったり、恋愛マスターな訳ではないのである。どちらかと言うと……いや、はっきり言おう。鈍感である。

「うん、いるよ!」

 言葉に隠されたものを全く読めないフランは素直にそう告げ、無垢な瞳はにっこりと笑みの形を作った。
「フランんんんんんん!?」
「えっ、おとーさん!?」
 愛しい娘が落とした特大の爆弾に、レザンがバタンと後ろに倒れる。重なり続けた疲労に、急激な精神負担。それが止めを刺したのだ。
 父に駆け寄る娘を見て母はあらあらと微笑ましげに見つめ、その傍らで愛無もまた『わかるよ』と言いたげな表情で居る。我が子に悪い虫を近寄らせたくないという親心というやつだ。
(やはり我が子には、相応しい相手を選びたい)
 そもそも交際とか、まだ早いのだ。いくつになったって、例え100年経ったって、娘は可愛い娘なのだから。
「その、聖葉というものがあれば、里の皆は起きられるのかしらぁ?」
 頬に手を当てて首を傾げたミュスカに、イレギュラーズたちは新緑が閉鎖されてから自分たちが知ったこと、そして聖葉についてを説明した。
『聖葉』――アンテローゼ大聖堂の地下に存在する『灰の霊樹(アンテ・テンプルム)』に祈りを捧げて作られた加護の込められた葉は多く採取できない上、『茨咎の呪い』僅かに無効化するのみである。
 万能ではなく、数も少ない貴重な葉。まだ地上で眠っている里人全員は起こすことは出来ないと知れば、ミュスカとライラはしゅんと悲しげな表情を見せる。
「そう、そういうことなのね。つまり……この里に喧嘩を売る命知らずな方がいらっしゃるということね。それはどなたかしら」
「里(うち)に手を出して五体満足で済んだ奴はいないものね」
「ええ。ヴィラネルさん家はなかなかここを離れられないから、私達がお代を届けに伺いませんと」
 うふふとにこやかな笑みの下で物騒な事を口にする祖母と母の姿に、思わずウィリアムが笑顔で固まった。意見的には尤もなのだが、家族の――特に今すぐにでも乗り込もうとしている母の血の気の多さには感ずるものがある。
 里の下層部の安全は守られたとは言え、茨が侵入しないように誰かが交代で守りの術を行使し続けねばならないだろう。
 大人たちが話し合いを始めれば、暇になるのは子供たちだ。
「お疲れさまでした、リーちゃん、エーちゃん」
 ドラネコとドラネコドローンを労ってユーフォニーが声を掛けていると、里の子供たちが不思議そうに見上げてくる。排他的な新緑では、ドラネコを見るのも初めてなのだろう。
 触ってみますか? なんてしゃがみこんでから手を差し出して、はいっと何もないところから飴を出したように見せれば、いくつもの小さな瞳がキラキラと輝いた。
「おねえちゃんはおそとのまほうつかいなの?」
「ふふ。どうでしょう?」
 笑顔の魔法は成功したみたいだけれど。
 ノームの里に、少しずつ笑顔が戻っていく。
 その姿を見届けたオルレアンはホッと浅く息をつく。
(よかった)
 幻想種の彼等の笑顔に、心からそう思う。それは先日見た幻影に起因するものかもしれない。けれど、思考に沈むにはまだ早い。記憶も戻らぬ今、次にやるべき事を探しに、ひとりそっとノームの里を後にした。
(深緑は、必ず救わねばならない)
 そう、思うからこそ。

成否

成功

MVP

マルク・シリング(p3p001309)

状態異常

なし

あとがき

ただいま、おかえり、おはよう。
ノームの里、下層が拠点となりました。
聖葉は貴重なので、まだ全員は起こせませんが――いつかきっと、全ての人におはようを届けましょう。
「聖葉?待ってられないわね」とウィリアムさん家のお母様は乗り込みそうな雰囲気ですが。

村の地理を知っている三人、三枚の聖葉。だったので、きっと三班に分かれてくれるはず!と信じておりました。良かったです。
ファミリアーの交換、とても良かったと思います。

という訳で、3回に渡るノームの里への壱花便はおしまいです。
お疲れさまでした、イレギュラーズ。

PAGETOPPAGEBOTTOM