PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<13th retaliation>繋ぐ架け橋

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 永久の救いが訪れる時。鳴り響く鐘の音を聞くことが出来なくとも。
 終焉の時まで安らかであれと願う。
 嘆きと慟哭が木霊するこの世に、我が導きを。
 救いの手を差し伸べよう。

 ――――
 ――

 砂を孕んだ風が頬を撫でつけて、強い日差しがフードに濃い影を落す。
「ふぅ……ラサは暑いのね」
『籠の中の雲雀』アルエット (p3n000009)は日除けのフードを目深に被った。
 背中の白い翼はどうしても熱をため込んでしまうから、ラサを訪れる時ばかりは仕舞い込んでいる。
 それでも熱は籠もるもので、アルエットは額に汗を浮かべ酒場への道を歩いていた。
 途中、キャラバン隊が目の前を通り過ぎる。
「あっちは……深緑ね」
 深緑といえば、不思議な茨によって国自体が閉鎖されて、中に居る人々が眠りに落ちてしまうという緊急事態が発生していた。その深緑へ向けて走って行く荷馬車をアルエットは不思議そうに見つめた。
「アルエットさん」
 自分の名を呼ぶ声にアルエットは振り向く。
 そこには友人である『Vanity』ラビ (p3n000027)が手を振っていた。
「ラビちゃん! 久しぶりなの」
「はい。お久しぶり、です」
 ラビは情報屋として各国を渡り歩いている仕事柄、中々会う機会に恵まれない。今日も『仕事として』ラビから呼び出しを受けたのだ。

「早速ですが行きましょう」
 アルエットの手を引いて、近くにあった馬車へと乗り込むラビ。
 事情は馬車の中で話すということなのだろう。
「深緑が閉鎖されてしまったのは、しっていますか」
「うん、知ってるわ」
「じゃあ、妖精郷アルヴィオンから深緑内部への道が開いたのは?」
「そうなの?」
 ラビはこくりと頷いて、妖精の門(アーカンシェル)の直接ルートではなく、迂回ルートである『大迷宮ヘイムダリオン』を経て、アンテローゼ大聖堂の制圧に至ったことをアルエットに告げる。
「アンテローゼ大聖堂は無事なのね。茨みたいなのの影響が薄いのかしら?」
「はい。『茨棘』に関連する呪いの気配は薄いようです。大聖堂内部の霊樹の加護のお陰だそうです。その周辺の幻想種は少しずつ眠りから起こすことができるようになった、です」
 ラビは「でも、霊樹の加護が途切れる『外部』に出れば呪いは再び襲いかかってくる」と眉を寄せた。

「じゃあ、結構まだ危ないのね。でもそんな所に向かうってことは、事態の進展があったのかしら?」
「はい。アンテローゼ大聖堂から『茨咎の呪い』の打開。そして、『大樹ファルカウ』への進軍です」
 幻想種が多く棲まう大樹ファルカウを取り戻す。それも早急にだ。
「でも、茨はいっぱいまだ在るんでしょう? 進めるの?」
 走り始めた馬車がガタリと揺れる。
「進むには呪いを解かないといけません。先程お話しした。霊樹の加護――『聖葉』というものを使って少しずつでも行動範囲を広げて行く、です」
 襲い来る敵からアンテローゼ大聖堂を守り、呪いを打開する。
 防衛を主軸にするのであれば、おのずと進軍の進みは遅くなるだろう。
 圧倒的に人手が足りない事情。大量に人員を流入させる事ができれば――

「だから、私達は『ラサ』側からアンテローゼ大聖堂への道を繋ぎます」
 つまりは、同盟国であるラサからの援軍。
 霊樹の加護を使い、『外』から深緑を救うということだ。
「頑張ってハーモニアの人達を救いに行かなくちゃね!」
「はい。今回は以前、訪れた村を見回り、村の人達を避難させます」
「それって、敵とか来るって事よね」
「おそらく、救出することを良く思わない者から何かしらの攻撃は予想されます」
 邪妖精や大樹の嘆き、村人達の救出。やることは多そうだとアルエットは気を引き締める。
「一緒に頑張りましょう」
「そうね、みんな一緒なら、何とかなるわ!」
 アルエットとラビは馬車に揺られ、深緑とラサの国境へと向かった。


「あっ、……ラビちゃん! ラビちゃん! しっかりして!」
 アルエットは必死に友人の名前を呼ぶ。
 血だらけで昏倒していたラビはアルエットの声に気付き目を開いた。
 回る視界を擦って、ラビは目の前の『大樹の嘆き』に視線を上げる。
「すみません、意識を失ってました」
「大丈夫よ。ラビちゃんが盾になってくれたお陰で助かったわ。それよりも……」
 アルエットはラビを起こしながら村に現れた大樹の嘆きを睨み付ける。
「邪妖精だけじゃなくて、大樹の嘆きも発生してるのね」
「そのようですね……想定よりも数が多い、です」
 ラビは頭から流れる血を拭って、息を吐いた。
 されど、ここで引いてしまえば救える筈の命すら危うくなる。
「負けません――!」
 ラビの言葉にアルエットも大鍵をぎゅっと握りしめた。

GMコメント

 もみじです。アンテローゼ大聖堂へ向けてラサからの進軍です。
 まずは、眠っている人を救出しましょう。

●目的
・邪妖精、大樹の嘆きの撃退
・村人の救出

●ロケーション
 ラサと深緑の国境付近の村です。
 村は茨で覆われ人々は眠っています。
(以前の依頼でイレギュラーズが村人を家の中に避難させています)
 イレギュラーズが到着すると邪妖精たちが集まってきます。
 そこら中に茨があり、ダメージを受けますので注意してください。
 戦いは広場で行われます。

●敵
○『邪妖精』ナックラヴィ×10
 おどろおどろしい見た目の邪妖精です。
 馬の胴体に人の身体がついておりケンタウロスに似ていますが、表皮は真っ黒で滑っています。
 大きな赤い目が一つ。裂けた口は鋭い牙が並んでいます。

 強烈な体当たりや噛みつきの他、ある程度の距離まで触手のように身体を伸ばして攻撃します。
 毒や出血を伴います。

 他の村でも同様に人々が起き出した事を受けて、また楽しい狩りが出来ると興奮しています。
 深緑外縁部の村々を渡っていたようです。
 起き出した村人を狙う習性があります。

○茨
 イレギュラーズを飲み込まんと茨を伸ばしてきます。
 棘に刺されるとダメージを受け、毒や痺れになる場合があります。
 猛烈な眠気に襲われる場合があります。注意しましょう。

○大樹の嘆き×5
 無差別に人や建物に襲いかかる精霊や怨念のようなものが発生しています。
 眠っている村人達をも巻き込んで暴れています。
 倒すことで、彼らが抱える悲しみや悲痛な叫びも解放されるでしょう。
 範囲攻撃を主体に、戦場や村を動き回っています。

●村人たち
 家の中で眠っています。
 少女リシェナとその両親や他の村人達。
 自分で起きる事は出来ません。眠ったままになっています。
 後述の『聖葉』を使用することで起こすことが出来ます。

●『聖葉』
 アンテローゼ大聖堂の地下に存在する霊樹『灰の霊樹』に祈りを捧げて作られた加護の込められた葉です。
 多くは採取できないため、救出対象に使用して下さい。葉へと祈りを捧げる事で茨咎の呪いを僅かばかりにキャンセルすることが出来る他、身体に絡みついた茨から何の苦しみもなく救出することが出来ます。

●NPC
『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)
 神秘タイプ。回復や神秘攻撃を行います。
 メガ・ヒール、天使の歌、神気閃光、ソウルブレイク、魔砲を活性化したホーリーメイガスです。

『Vanity』ラビ(p3n000027)
 神秘型トータルファイターです。
 脚力を活かした攻撃を仕掛けます。
 普段のぼやっとした印象からは打って変わって無駄が無い動きです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <13th retaliation>繋ぐ架け橋完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
謡うナーサリーライム
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 深き森の道を抜けて、黒く蔓延る茨のその先。
 一匹の鷲が木々を縫うように上空へと飛翔する。その丸い瞳は下界の木々をよく見渡した。
 鷲の視界と繋がった光景に『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は顔を顰める。青々とした瑞々しい草木が黒い茨に覆われ、何処か元気を失っているように見えたからだ。
「今回のオーダーは、敵の撃破と村人の救出だな? ──承知した」
 想定よりも数が多かろうが、全部焼き払ってやるとレイチェルは、その身に宿す焔の熱を感じる。
「オーダーは必ず果たそうじゃねぇか」
「うん。眠っている人達の体力的な問題も不明だったし、救える人達は早く救ってあげたい」
 レイチェルの隣で道を侵食する蔦を剣で払うのは『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)だ。
「今回、『茨咎の呪い』の打開策が見つかったのはとても有益だね」
 ヴェルグリーズは預かった『聖葉』を見つめる。この仄かに光る葉はアンテローゼ大聖堂にある霊樹の加護が宿っているのだという。人々を眠りへと落す茨咎の呪い。それを打ち消す聖葉。
 僅かに開ける道筋に、ヴェルグリーズは希望を見出す。
「それを阻む者達がいるなら全力で討ち果たしてみせるよ」

『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はヴェルグリーズの言葉に赤い双眸を上げた。
「ひとまず深緑の中で拠点に出来る場所は確保出来たけど、深緑のなかで眠ったままの人達もいっぱいいるし、まずは助けられる人から助けていかないと。そのためにも人がたくさん入れるように、ラサからの道も確保しないとなんだよね?」
「ああ、そうだね。妖精郷から大聖堂までは繋いだけど、今度はラサからか」
 焔の背後から『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)の声が届く。
「外と内の両方から進み、道を繋げるというわけだな」
 手を広げた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が一歩先行し、注意深く周囲の音に耳をそばだてた。微かに聞こえる風が渦巻く音は村が近い証拠だろう。
「いいね、こちらからも進入出来るようになればもっと動きやすくなるだろう。故郷が一日でも早く元に戻るように頑張らないと」
 穏やかな性格のウィリアムから、焦りの色が見えてイズマは彼の肩を優しく叩いた。
「聖葉で呪いを解けるようになったのは確実な進歩だが、救うにはまだ足りない。のんびりとはしていられないが、必ず助ける……! だから、まずは一歩を確実にだな」
 ウィリアムは銀灰の瞳をイズマへ向け、大きく頷く。

 イレギュラーズは村の入口まで歩みを進め、中の様子を注意深く探りながら建物の影に隠れた。
 レイチェルの鷲はぎょろりとした目をしたナックラヴィと、大樹の嘆きの姿を捉える。
「敵はばらけてる。建物の外には村人は居ねぇみたいだから、集めて広い所で戦う」
「そうですね。村人の救助をする為には……やはり、邪魔となる敵性存在の排除が必要でしょう。先ずは無差別な動きをする大樹の嘆きから引き寄せ仕留めます」
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は的確に情報を分析し仲間へと伝える。
 邪妖精や嘆きも然る事ながら、この戦場を取り巻いている脅威はそれだけではない。
 アリシスはアメジストの双眸を『茨』へと向けた。これは普通の呪いではないのだ。
「成程、深緑を飲み込んだ時はこうして制圧したという所でしょうか。大樹ファルカウを媒介に咎の花たる茨を通して、恐らくは冠位怠惰の権能を振り撒いた……あの茨との接触は用心が必要ですね」
 茨の変化はあるのだろうか。アリシスは気を張り詰めて視線を巡らせる。

『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)は傍らのクララシュシュルカ・ポッケを撫でながら長い睫毛を瞬かせた。
「ナックラヴィ、同じ『妖精』でも、ワタシのクララとは正反対だわ」
 ぎょろりとした目をしたナックラヴィは見た目通り、悍ましく醜悪な獰猛さでイレギュラーズへと敵意を向ける。地面を蹴り上げる敵の音にクララが金色の牙へと変幻する。
「……よこしまなかたは、ご退場を。狩られるのはあなたたち、って。思い知らせて差し上げなくっちゃ」
 ナックラヴィがポシェティケトへと走り出せば、敵意に反応した嘆きが悲鳴に似た音を振りまき、制御不能になった躯体を左右に震わせた。
「ここに暮らすみなさんの、安寧への一歩。きっときっと繋げましょう」
 嘆きの暴走に巻き込まれ、音を立てて飛び散った広場の木々。これがもし、建物へと向かい、眠ったままの人が怪我をしてしまったら。『特異運命座標』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は、頭を過る想像に身を震わせる。
「本当にひどい状況……何とかしないと暮らしている人が困ってしまいますね」
 深呼吸したマリエッタは『緑(エメラルド)』の瞳を戦場へ向けた。
 きっと知らない記憶の中で、自分は戦った事があるのだろう。それも、この状況で冷静でいられる程に慣れている。感謝すれども、底知れぬ怖さがマリエッタの背を這った。


「ラビちゃん! アルエットちゃん! 大丈夫!?」
 焔の声が戦場に響き渡る。大樹の嘆きと対峙していた『Vanity』ラビ(p3n000027)と『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)は問題無いと焔に合図を送る。
「いっぱい出てきちゃったけど、この村の人達を助ける為にも何とかしないと! 皆で戦えばきっと大丈夫だよ」
 焔の心強い言葉にラビとアルエットはこくりと頷いた。
 レイチェルの脳裏に過るのは、かつての戦場。魔種によってアルエットの羽がもがれる瞬間だ。
「……アルエット。大丈夫か。あの時は、すまなかった」
「レイチェルさん、ずっと気にしていたのね。大丈夫なのよ。レイチェルさんのせいじゃないわ」
 自分の判断ミスだと自責の念に駆られるレイチェルにアルエットは優しい笑みを零す。
「戦場は何があってもおかしくない。だって、命を掛けて戦う場所なんだもの」
 アルエットの双眸が遠く何処かを見つめるように逸らされ。次の瞬間には元通りの光を宿した。
「今度こそ、俺が護り抜くから。絶対に」
 少女が護られるだけの小鳥じゃないのはレイチェルにも分かっている。されど。それでも嫋やかなアルエットが傷付くのは見たくないのだ。
「ありがとうなの。レイチェルさん」

 ――――
 ――

 アリシスはナックラヴィへ視線を上げる。
 手にした玲瓏なる槍に反射する陽光が、刻まれた文字を撫でた。
 彼女の足下から広がる魔法陣は、戦場を包み込み醜悪な見た目をした敵の魔力を吸い上げる。
 それはまるで死骸に群がる青き蝶の如く幻影を纏い、深き緑の森へ、鱗粉を散らしながら駆けていった。
 身に降り注いだ不可解な魂の虚脱に、邪妖精は腹の底から湧き上がる怒りをアリシスに向ける。
 一斉にアリシスへと牙を向けるナックラヴィ達。
 アリシスは彼らを効率よく手中に収めるため、弧を描くようにしなやかな肢体を踊らせ、仲間へと背を向けた。青き美しさを宿す槍から弾けるように現れた小さな妖精は、アリシスの目の前に迫るナックラヴィ目がけて大量の魔力を叩きつけた。一つ一つは小さな力なれど。寄り集まれば大きな力の奔流となるのだ。
 ナックラヴィから潰れた蛙のようなうめき声が発せられる。

 焔が張った灼神の領域は、戦闘の余波で巻き込まれるであろう建物を護っていた。
「こっちは大丈夫だけど、無差別に暴れまわってる大樹の嘆きを抑えておかないと、お家が壊されて中の人も危ないもん」
 この結界は直接的な攻撃された際には意味を成さない。あくまで余波から守る為のもの。
 だから、イレギュラーズが身体を張って守らねばならない。
「ほら! 早くしないとこの辺り全部燃えちゃうよ!」
 己の内側から溢れる炎で、焔は辺りに火を付けてまわる。この炎は彼女の内なる神炎の幻影だから実際に燃えているわけではない。されど、この村に出現した大樹の嘆きにとっては忌避すべきものだった。
 ――森が燃えてしまう。
 そんな叫喚が聞こえてくる。焦りと不安の声が焔にも伝わって来た。
 焔はイズマへと赤き双眸を向ける。
「やっぱり、火は彼らにとって禁忌のようだな」
「そうだね! このまま戦いやすい場所へ誘導しよう!」
 別の戦場では炎を物ともしない大樹の嘆きは居るだろう。されど、この戦場に居る彼等には『最も効果的』な手段であったのは間違いない。
 イズマは焔と連携し、彼女の挑発を抜けた嘆きを集中的に惑わす。
 焔が灯した神炎を手に目の前で振り回したイズマ。
「こっちだ! 俺を捕まえなければ森に火を放つかもしれないぞ?」
 意味を成さない言葉の羅列を発した嘆きは、イズマに向けて思った寄りも早く向かってくる。
 夜空を抱く鋼の細剣を携え、イズマは敵よりも一段速く移動し、戦場を広場に展開した。
「さあ、夜空響奏会(オーケストラ)を始めよう――」


 ポシェティケトはマリエッタから離れぬよう、僅かに前線から引いた場所で息を吐いた。
 マリエッタの的確な指示は、戦場を安定させイレギュラーズの優位な状況を作り出す。
 おっとりとした外見からは想像もつかないほど『戦い慣れて』いる様子に、ポシェティケトは不思議な感覚に襲われる。誰しもが事情を抱えているものだ。冒険者なら尚更。
 詮索はしないけれど、その才覚は味方に居る限り、とんでもなく頼もしい存在である事には違いない。
「クララ」
 傍らの妖精に力を貸して貰い、ポシェティケトは嘆きへと双眸を向けた。
 焔とイズマが惹きつけてくれた嘆きへ向け指を翳す。
 迷い森の霧は、深い灰色を纏い、嘆きの視界を覆った。
 妖精の鱗粉が霧に混ざり仄かに光るのと同時に、彼らの笑い声が何処かから聞こえて来る。
「ふふ、よそみなんかしちゃだめよ」
 愛らしい笑い声であればあるほど、不気味さが際立つのだとマリエッタは仲間の魔術に感心した。
 嘆きが苦しげな声色を出して藻掻くように暴れる。
「ヴェルグリーズさん、続けてください!」
「分かったよ」
 マリエッタの声に呼応したヴェルグリーズが、ポシェティケトの出した霧を割いて敵の視界に現れた。
「それだけの悲しみや怒りを抱えるのはひどく苦しいだろう?」
 陽光にヴェルグリーズの剣が光を孕む。
 輝銀の双眸は憐憫に満ち、目の前の嘆きに同情している様に思えた。
 人間の姿を取っている精霊種たる自分と、大樹の嘆きの違いはさほど無いように思えてならないのだ。
 世界が『ヒト』の枠に収めると定めたか、そうでないかの差違でしかない。
 そして、彼らは大樹から生まれた『悲しみ』の声だ。
 辛く苦しいと叫ぶ痛みから解き放つのが『別れ』を魂に刻んだ己の役目。
「しかし大樹の嘆きの声。霊術士として聞いてあげたいですね」
 マリエッタはヴェルグリーズと対峙する大樹の嘆きを見つめ僅かに眉を下げた。
「悲しくても、ここで起きたことを知って、次の悲劇を止めるために」
「ああ、そうなってしまった因果をこの刃で断ち切ってみせよう。穏やかに鎮まるといい」
 裂かれた断末魔がヴェルグリーズの耳に届く。
 何度も聞いた、最期の言葉を胸に、ヴェルグリーズは次の敵へと刃を向けた。
 ウィリアムはヴェルグリーズの悲しみを帯びた剣尖に目を瞠る。
 その在り方の美しさは、精霊種特有の物悲しさを表すのだろうと。
「さて、故郷を救う一歩だ……目の前で暴れている者達を静かにさせないといけないね。これ以上好きにはやらせない。一人残らず沈めてあげるよ……!」
 見た目の繊細さとは裏腹に、夜明けの虹(ウィリアム)は鮮烈なる光を放つ。
「暗き闇夜を切り裂くは、虹の調べ。爆ぜろ魔風(フルルーンブラスター)――!」
 至近距離からの、虹の閃光は戦場を暁に染めた。
 僅かに残った敵の残骸も、更なる輝きが塗りつぶして。
 遠く離れたレイチェルの鷲の視界には、地上が真っ白に映った。

 ――――
 ――

 この戦場には邪妖精の他にも茨の呪いがある。
 イズマは用心深くそれを細剣で切り裂き、タクトのように振るった。
 一瞬だけぐらついた視界に首を振ったイズマは叫び声を間近で聞く。
「起きて!」
 ポシェティケトの声にはっと顔を上げたイズマは自身が茨に刺されたのだと悟った。
 このまま地面に突っ伏してしまいたいけれど、スピーカーから目覚まし音を鳴らし耐えるイズマ。
「厄介だ。眠気に負けてはいけない。今、動けなくなったら、命が危ない。それに俺は助けに来たのだから……助けられず逆に囚われるなど許されない!!」
 イズマは強靱な意志で立ち上がり、ポシェティケトに大丈夫だと手を振る。

 マリエッタは己の指先をナイフで切り裂いた。
 そこから流れる赤き血を媒介に神域が形成され、仲間の力が跳ね上がった。
 これで準備は整った。憂い無く存分に戦えるのだとマリエッタは吠える。
「さあ、反撃の時間です、ここで……茨を払って悪夢を終わらせましょう!」
 マリエッタの激励にウィリアム達は口の端を上げ、口々に応じた。
 ナックラヴィは忌々しくイレギュラーズを見遣る。
 黒い肢体を揺らし、アリシスの白い肌へ傷を付けた。滴る鮮血を一瞥し戦槍を前へと突き出すアリシス。
 嘆きへの集中攻撃は功を奏した。早々に悲しみの連鎖を断ち切った仲間はアリシスの元へ駆け寄る。
 ナックラヴィを一手に引き受けたアリシスを支えたのは、マリエッタとポシェティケトだった。
「アリシス殿、待たせたね」
「いえ、問題ありません。想定内です」
 ヴェルグリーズがアリシスへと攻撃を仕掛ける敵の横腹を突き刺して、動きを止める。
 その隙をアリシスは逃さない。ここまでの戦闘はナックラヴィへのヘイトコントロールに重点を置いて立ち回ってきた。されど、それももう必要無い。仲間と共に集中攻撃で確実に撃破していく。
 折り重なる光刃を槍に宿したアリシスは、大きく息を吸い込んで紫の双眸を見開いた。
 空気が一瞬にして色を失う。
「断罪の秘蹟。生者と死者分かつ事無く、罪を滅する浄罪の剣(エンシス・フェブルアリウス)――!」
 輝剣が戦場を迸り、悪しき邪妖精が塵となって空気に霧散した。

「さあ、次は誰が灼かれたいんだ?」
 レイチェルは右手に走る呪印が熱を帯びるのを感じる。
 その身に宿す復讐の炎。それを表すかのように苛烈に燃え上がる赤。
「まだ足りねぇよな? お前らが愉しんだ分、俺らも愉しませてくれねぇと、な?」
 ナックラヴィの前身を焼き尽くす灼熱の怨嗟は、一度では止まらず再び敵を覆い尽くした。
 復讐鬼としての残虐な一面。
 相対する者に対しての容赦のなさは、裏返せば愛情の深さでもあるのだろう。
 護るべきものの為、自分を復讐鬼と定義して。レイチェルは突き進んできたのだ。
 ナックラヴィ如きの悪辣さで、敵う相手ではないのだ。
「折角目覚めた人たちを危険に晒すというのなら容赦はしないよ。何よりこの状況を楽しんでいるというのが許せない」
 ヴェルグリーズは剣を掲げ、ナックラヴィの前に立ち塞がる。
「キミ達に恨みこそ無いけれど邪魔をするというなら斬り捨てさせてもらうよ」
 剣尖が煌めき、黒き四肢の敵の胴に、刃が走った。
 うめき声を上げてヴェルグリーズへと牙を向けるナックラヴィ。
 それを打ち払い、その場から跳躍したヴェルグリーズ。一瞬を置かず、飛来するのはウィリアムの放った超絶なる魔力の光だ。
「まだだよ!」
 ウィリアムは焔に目配せして頷く。
「行くよー! これで終わりだー!」
 赤き炎を纏った焔が、槍と共にナックラヴィを貫けば、魂の輪郭が崩れ深き森の輪廻へと帰っていく。


「ふう、終わりましたね」
 マリエッタは安堵したように胸を撫で下ろした。
「ああ、村人の救出だな」
 レイチェルは鷲で周囲を警戒しながら、以前の報告書にあった事項を頭の中で思い出す。
「そういや……数人が消息不明なんだよな、この村。あの邪妖精は肉体じゃなくて生気を喰う筈。なのに、生気を喰らった後の亡骸が見付からないなら……不自然だな?」

 ポシェティケトは聖葉に祈りを込めて「おはよう」と村人の少女を起こした。
「もう大丈夫」
 ゆっくりと起き上がった少女はイレギュラーズを見て安堵の表情を浮かべる。
「眠ってた間の事は何か覚えてる?」
 イズマは少女に問いかける。何かしら情報が得られればと思ったのだろう。
「夢をずっと見ていたの。追いかけられる夢。とっても怖かったわ」
「そうなんだね。さあ、避難しよう」
「え? 村の皆は?」
 少女と両親を起こしたイレギュラーズは小さく首を振った。
 渡された『聖葉』は少数。今回で救出出来る人数は限られている。
「大丈夫、俺達が安全な場所まで送り届けるから安心して。少し家を空けることになるかもしれないけれど俺の仲間達も事態の解決に動いているから。きっとすぐに戻ってこられるよ」
 幻想国で眠っている全住民を救助するには、聖葉が圧倒的に足りないのだ。
 だからイレギュラーズは少女達だけでも先に避難をさせると判断した。
「ここからだと、ラサが近いからそっちへ一旦行こうか」
「必ず、皆を助けて。お願い!」
 少女の懇願にヴェルグリーズはしゃがみ込んで目線を合わせ、大きく頷く。
「約束だよ」
 ヴェルグリーズは少女と約束をして「行こう」と手を取った。

 アリシスは茨をじっと見つめる。
 黒い棘を触ってみれば強い眠気に襲われた。長く触れれば昏睡に落ちるだろう。
「……深緑の人々を昏睡に落としたものは、これか。唯の眠気とは思い難い……」
 これに呑まれたら、果たしてどうなってしまうのだろうか。
「まずは一歩、進めたかな。……この調子で頑張っていこう」
 ウィリアムは戦いの痕を見遣り、くるりと踵を返した。
 小さな歩みかもしれないけれど。確実な一歩には違いない。
 一つずつ積み重ねていけば、いつか故郷を救う道も開くだろう。

成否

成功

MVP

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 深緑を覆う茨打破に向けて一歩前進しました。
 MVPは上手く敵を引きつけた方へ。

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