その宝石に、祈りを込めて

オープニング

●覇竜の宝石
　宝石。いや、宝石に限らず様々な石に人々は魅了され、身に着けて来た。
　単純に財産としての価値はさておいて、何故「石」は人を魅了したのだろうか？
　美しさ？
　希少性？
　確かにあるだろう。そういうものもあるだろう。
　しかし、それ以前の原初の感情がある。
　何か不思議な力がありそうだ。
　いや、あるに違いない。
　実際にそういうものがあるからこそ、人々は石に様々な願いを込める。
　その願いは数あれど、大体の人は石に幸せを願う。
　守り石。そういった呼ばれ方をしたりもするが……それは覇竜でも同じだ。
　人の命の価値が軽く、スナック感覚で亜竜種を襲うモンスターや亜竜の闊歩する覇竜領域デザストル。
　この場所では、そういう場所であるからこそ「守り石」の概念が強く現れる。
　実際に力持つ石などというものは、非常に少ないが……そんな事とは関係なく、覇竜の人々も石に願いをかける。
　それは指輪であったり、髪飾りであったり。
　あるいは……ペンダントといったような形で加工される。
　実際の効果はさておいて、覇竜の石には外の世界以上に強い何らかの願いが込められていることだって、少なくはないのだ。

●１つのペンダント
「このペンダントのことなんだが……」
「ああ、それか」
『竜剣』シラス（p3p004421）は『フリアノンの酒職人』黒鉄・相賀（p3n000250）の反応に軽く驚く。
　最近忙しそうにしている『鉄心竜』黒鉄・奏音（p3n000248）が中々捕まらないから聞いてみたのだが、まさか何か知っているとは思わなかったのだ。
「知ってるのか？」
「知ってるも何も、それの職人を紹介したのは儂じゃからのう」
　青い石の入った、細かい細工の……鎖の切れたペンダント。
　それは、１人の亜竜種の少女のものだ。
　亜竜集落イルナークの襲撃時に行方不明になり、アダマンアントの巣の中でペンダントが見つかった少女サンゴ。
　どうにもそれらしき姿を見かけた「かもしれない」という報告は幾つかあるものの、確たる証拠は何１つとしてない。
　生きているかもしれない。死んでいるかもしれない。
　ありとあらゆる可能性は可能性でしかなく、だからこそシラスは拾ったペンダントからサンゴという少女、あるいはペンダント自体について調べを進めていたのだ。
「そのペンダントを作った職人自体は、死んどるよ」
「そ、うなのか」
「ああ。こういう場所じゃからの。ワイバーンにあっさり殺られよった」
　つまり、そこからサンゴという少女について辿る手段は消えた……というわけだ。
「じゃが、その宝石を仕込んだ職人なら生きとるよ」
　亜竜集落ペイトの周辺で宝石を掘り、それを磨き売る事を生業としている宝石職人の男。
「ま、行ってみるとええ。どんな願いでソレが作られたかくらいは分かるじゃろ」
　もっとも、危険な場所だ。
　何かトラブルが起こる事だってあるだろう。
　悩みを抱えていることだってあるだろう。
　だが、それを解決できれば……相応の礼だって、あるだろう。

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●地下洞窟へ
　暗い地下を、発行する『竜剣』シラス（p3p004421）が照らす。
　あらゆる場所に無限に明かりを設置しているわけでもないので、まさに的確な措置だが……こんな場所を歩いているとアダマンアントのことを思い出してしまう。時期的にそれは仕方ないことと言えるだろう。
「アダマンアントの例を待つまでもなく、ワイバーンに殺されたなどの話が平然と出る辺り、やはり覇竜は過酷な土地なのです」
『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル（p3p003529）がそんなことを言うが……実際、覇竜領域デザストルとはそういう場所だ。
　昨日笑っていた者が今日には居ない、今日友情を深めた者が明日は話すら出来ない。
　そんな話がゴロゴロしている。人がこの場所では最下層にあることは、外での歴戦の経験のあるクーアだからこそよく理解できてしまうのだろう。
「何の戦果も得られずに帰るのも癪なのですし、折角ですから宝石だけでも頂いて行きたいのです。その前にまずは目下の障害を除くところから。アレも充分に強力な相手なのでしょうが。この先覇竜で戦う数多の強敵のことを思えば、今更大蛇一匹に負けてはいられないのです！」
「亜竜っていうのに竜というよりは蛇な見た目をしているのもなんなんでしょうね……まだあまりこの地には足を踏み入れてはないですけど、亜竜っていうのがわからなくなりそうです」
　クーアの大蛇、という単語に反応し、『割れぬ鏡』水月・鏡禍（p3p008354）がポツリと呟く。
　ワイバーン、ワーム、ドレイク……亜竜の形も強さも様々だが鏡禍の疑問は当然といえば当然だろう。
「ともあれ、このままにはしておけませんし追い払えばいいんですよね？　頑張ります」
「それに……もちろん女の子ですから宝石には興味ありますとも！　それを邪魔するくそでか亜竜には興味無いですけど……さっさとぼこって宝石掘りにいっぱい時間使っちゃいましょう！」
『可愛いもの好き』しにゃこ（p3p008456）もやる気満々だ。
　腰に提げるタイプのカンテラに暗視（弱）を併用したハイセンスによる周囲の確認。可能な限りの注意をしていた。
　宝石……そう、これから行くのはその採掘現場だ。
　そして、とある少女の持っていたペンダントの宝石を用意した職人の救出でもあった。
「サンゴさん。うちはまだ探してますからね。そんなこんなでシラスさんの調査はまさに渡りに船。うちにも一枚噛ませてもらいますよっ」
「サンゴちゃんって確か、奏音ちゃんの友達の子だろ？　イルナークの調査の時は、俺もまだ弱っちくて巣穴の調査に踏み出せなかったけどよ。手がかりを探るチャンスが巡って来たのはラッキーだぜ。次への希望を、ぜってー掴む！」
　サンゴ。今はシラスが持っているペンダントの持ち主のことを思いながら、『ワクワクハーモニア』ウテナ・ナナ・ナイン（p3p010033）と『幸運の女神を探せ』ジュート＝ラッキーバレット（p3p010359）は思いをはせる。
　サンゴの生死は未だに不明……つまり、生きている可能性だってあるのだ。
「今回はペンダントに宿した意思……想いの調査と、宝石採掘体験ですね。覇竜にも、いえ、覇竜だからこそ、危険を承知の上で一人集落から離れた工房を作る職人もいます。サンゴさんは、そんな職人さんに加工を頼んだのですからきっと特別な想いが宿っていることでしょう」
「宝石に願いを込める、という文化はポピュラーなものですが、それが覇竜領域以外の国ばかりでなく様々な異世界でも共通しているというのは非常に興味深いですね。国や世界が異なっても宝石に込める意味が似通っているものもあったりして練達に存在する様々な世界に関する記録を見比べているだけでもとても面白く例えばですね……え、長い？　そうですか……」
　ペンダントにこめられた想いは分からない。だが、何かしらを知ることはできるだろう。
　風花（p3p010364）と『紫晶銃の司書竜』劉・紫琳（p3p010462）はそんなことを言い合って。
「それにしてもアダマンアントの巣で見かけた少女の持っていた宝石ですか。直接騒動の手掛かりになる情報が得られずとも、関係が深いと思われる少女について知ることで何か糸口が掴めるかもしれませんね」
　サンゴという少女のことが分かれば、今後何かの役に立つかもしれない。
　勿論立たないかもしれないが……今のところシラスの持つペンダントは、その唯一の繋がりでもあった。
「今更確認することでもないですけど、集落を作っていたとしても覇竜は危険と隣り合わせでして。だったらいっそ、自身の命運を天に任せて気に入った場所で好きなだけ創作意欲を満たす方が有意義だって考え方があるんですよね……」
　風花がそんなことを呟くが……イーザもあるいは、そうした１人であるのかもしれない。
　どうであるにせよ、無事であればいい。誰もがそう思いながら洞窟を歩いて……そして。重たい何かが動く音を、耳にした。
　亜竜ロックイーター。全長８ｍを誇る巨大な蛇の姿が、そこにあったのだ。
「ふぉぉ……あれがロックイーター……大っきいですね！！」
　思わずウテナがそう漏らす程度には巨大な姿。
　しかし、引く理由は何処にもなかった。

●宝石に籠めた想いを
　クーアと鏡禍が、ロックイーターをブロックするべくその真正面へと向かう。
「あの巨体が私一人で止められるものかはわかりませんが……流石に二人がかりならやれるはずなのです」
「大きいみたいですが馬鹿でかい巨人ですら足止めしたことあるんです、それに比べたら小さく見えますね」
　２人でロックイーターを引き付けるべく動くことで、盾役を務めようというのだ。
「護りより攻めの方が得意ではありますが、護りをこなせない訳ではなし。耐久はともかく、ねことしてメイドとして速度には一家言あるのです。迅速果断なる盾役の流儀、お見せするのです！」
　そんな２人と同じ側に入らないように注意しながら、シラスは拳を握る。
　接敵した場所によっては誘導が必要だと思っていたが、幸いにもこの採掘場らしき場所は広い。
　わざわざ別の何処かに誘導する必要もなく、問題なく散開できていた。
　それはロックイーターのストーンブレスを警戒してのことであるが……とにかく、あとは作戦通りに動くだけだ。
「あまり戦闘を長引かせたくない。早々にダメージを重ねて退散願おうか」
　接近し放つのは鬨の撃。気焔を上げた突進の勢いのまま放たれる一撃はロックイーターの硬い外皮を貫いて。
　摂理の視を発動させたしにゃこのラフィング・ピリオドが放たれる。
「このままみんなで散開しながら戦っていきましょう。まとまって挑んだら範囲攻撃で一掃されちゃうかもですからね！」
　リトルワイバーンに乗ったウテナはそう叫びながら、ダブルクリメーションを発動する。
「やっちゃってください！！ㅤ燃やしちゃえ燃やしちゃえ！！」
　放たれる業火はロックイーターを焼いて、そこにジュートがファントムレイザーを放つ。
「Hey,今日の俺はマジだ。死にたくなけりゃさっさと逃げな！」
　そして別方向からは風花が五十頭百手秘儀典の魔力を魔弓礼装に番え放つ。
　ロックイーターは単体、今のところ他のモンスターが乱入してくる気配はない。
　それでも、気を抜くつもりはなかった。
「採掘場が良い餌場であることは理解しますが……人に被害が及ぶならばお引き取りいただくほかありません」
　飛行する紫琳もハイロングピアサーを放ち、仲間の援護射撃をするべく立ち回る。
　採掘場の広さを理解した上で立体的な機動を含めた攻撃は的確で……ロックイーターは、恐らく自分が出てきたのであろう穴を潜って何処かへと去ってしまう。
「おお、アレを撃退したのか。流石じゃなあ」
　と、そこに１人の老人がヒョッコリと姿を見せる。
　壁に開いた穴と、開け放たれた頑丈そうなドア……どうやら、あの場所が簡易工房であり、この老人が宝石職人イーザであるようだった。
「礼といってはなんだが、宝石を仕上げてやってもよいぞ。そこで自分で掘るのが条件じゃがの」
「磨いてほしい宝石があれば自分で採ってこい、と。肉体労働は得意ではないのですが……」
「儂のような職人の技術料がタダなんじゃ。相当な報酬じゃと理解してほしいのう」
　紫琳は頷くと、たくさん置いてあるツルハシの１つを手に取る。
　そうであれば、欲しいものは決まっている。藍玉。妹の名前の元になったアクアマリンの宝石だ。
（航海の安全を祈る願いが込められると聞いたことがありますが……。我儘で気まぐれで捉えどころのない妹ですが。何もせずふらふらと私の仕事の邪魔をしたりしていた妹ですが。私と時を同じくして特異運命座標となった妹の安全を祈るとか、まあそのくらいのことはしてもいいでしょう。姉として）
　どうにも見てみれば、キラキラと光る輝きの中には紫琳の欲しがっている輝きもあるようだった。
「石ってどこ掘りゃいいんだ？　折角なら土産にしたいがド素人でね」
「私も折角ですから掘り出しておきたいのですが……これ、掘る段階で色とか判別できるのでしょうか？　折角ですので桃色とか橙とか焔色とか、そういうのが欲しいのです」
「色によるのう。たとえばほれ、赤ならそこ。青ならあっちじゃ。桃色は……ああ、あそこにあるのう」
　シラスとクーアは頷きながら、適当な場所を掘る。
「体力ならある、ツルハシでも何でも振るってやるぜ。自宅に飾れそうな適当な大きさの宝石を狙いたいとこだな」
　そして風花も、紫の輝きを見つけてツルハシを振るう。
　宝石は小さな物を二つ探すつもりだが……用途は飼ってるドラネコ用。お揃いの装飾品に嵌め込むつもりであった。
「炭鉱での依頼を受けてるせいか、鉱石掘るのにちょっと慣れてきたよな。ツルハシを担ぐ姿もサマになってきたっつーか。それじゃ早速、効率よく掘ってきますか！」
「せっかくですからうちも掘ってみましょうか、石。よし、リトルワイバーンさんはつるはし持て……ませんよね。でもうちがんばる！」
　ジュートとウテナもツルハシを振るうが、やはり中々に難しいものだ。
「よわよわですが、なんとか掘りますよ。為せば成るって偉そうな人が言ってました。掘ったものを指輪にしてもらいましょう。うち頑張った」
「採掘ターイム！　しにゃ、ピンクで綺麗な奴が欲しいんですけど！　ローズクォーツ……でしたっけ！？あんな感じのがいいです！　ってかこの洞窟にあるんでしょうか？とりあえず掘ってみます！ピッケル使えばいいんです？」
「うむ、ちなみにピンクはあっちじゃな」
「おお、感謝です！」
　しにゃこもツルハシを振るうが、やはりかなりの重労働だ。
「うわぁああ……もうしんどいです！どこまで掘ったら出るんです……？　綺麗な宝石の裏にこんな苦労があるなんて……そりゃあ学生には手が出ない値段な訳です。もうピッケル振りすぎて手に豆ができそうです！　これ以上頑張ると汗とか筋肉とかで可愛くなくなっちゃうので撤退です！　お小遣い頑張って溜めて買います……！　あ、でもせめて加工してる所は見てみたいです！原石が綺麗なる瞬間とか絶対可愛いので！」
「金に頼るな。掘れい」
「ぎゃー！」
　そうしてしにゃこが頑張っている横では、鏡禍もよたよたしながらツルハシを振るう。
　狙っているのは、赤い宝石だ。
「高価な宝石でなくてもいいんです、好きな人に『無事でいてほしい』って願いを込めて渡したいんです」
　そうして手に入れたのは黒地に赤い色の入った石。
「なんだか僕の黒い鏡面と彼女の赤い髪みたいで気に入りました。これをお願いしたいなって思います」
　そうして各自が欲しい宝石を掘り出し終わると、イーザは工房でそれを磨き始めるが……その合間を見ながら、シラスは話しかける。
　聞きたいことは決まっている。
　サンゴという少女についてだ。イーザが知っているから……というのも、此処に来た理由の１つだ。
「あの事件の被害者の持ち物一つが何の役に立つというわけでも無いだろうがこれも縁だ。知れることは何でも知っておきたい……あのデカブツを退けた駄賃ってことでさ、聞かせてくれよ」
「大したことは知らんぞ」
　イーザは言いながら、宝石を磨き続ける。
「あの子に磨いたのは、青い宝石じゃった」
「コレか？」
　シラスが出したペンダントを見て、イーザは頷く。
「正しく。お前が何故それを持ってるかは聞かんが……それは竜角石と言っての。磨き方によって基本色が変わる石なんじゃ。他にも様々な要因で見た時の色が変化するが……それにあの子が込めた願いは『永遠』じゃった」
「永遠……」
「こういう場所では尊くも空しいものじゃのう。ま、永遠の友情……ともなれば、それは美しいものじゃが」
　なるほど、永遠にも色々ある。永遠の友情もまた、１つの永遠なのだろう。
「サンゴさんは、どういう方だったのでしょう？」
「儂から見れば普通の子じゃったよ。友達を大切にして、その願いを石に籠めるような子じゃからな」
　ウテナにそうイーザは答えるが……そんなペンダントが落ちていて、今シラスの手にある。
「この石に何か特別な力が宿ってたりとかは？　目撃証言を聞くに、ちょっと様子がおかしかったみたいでさ。頼むよ、どんな情報でもいい。……心配なんだ。か弱い女の子を、危険な巣穴に独りぼっちで居させる訳にもいかねーからさ！」
「なんぞ事情はありそうじゃが……そいつはただの石じゃよ。ちょっと不思議に色を変えるだけの、ただの石じゃ。それ以上でもそれ以下でもありゃせんよ」
　ジュートに、イーザはそう言って首を横に振る。
　確かに、このペンダントに特別な力が何もないことはシラスもすでに知っている。
　友情を大切にしている、普通の亜竜種の子。
　ならば、きっとこのペンダントも大切にしていただろう。
　いつか、シラスの手からサンゴに返す日も来るだろうか。
　僅かに重要性を増したペンダントを手に、シラスはそんな「いつか」を考えていた。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

シラスさんの持つペンダントに、本依頼で手に入れた情報が加わりました！