PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Backdoor - Lost Garden:moonlight

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ORphan
 それはネクストに語られた『実在した』御伽噺だ。
 世界の何処からでも入り込むことの出来るバグのコミュニティ。九龍城と称した方が良いだろうその場所に三人のイレギュラーズが立っていた。
 MMOらしくパーティープレイの為に準備した『チーム』ロストガーデンの三名はこの地での調査を行う事と決めている。
「ダイジョーブか? ヒメ」
 ヒメと呼ばれたのは『himechan』空梅雨(p3x007470)であった。MMOに慣れず、忌避した己の外見や雰囲気を逸した容貌の少女は小さく頷く。
「dizyoubu」
「あ、ヒメが操作忘れたゼ」
 ほら、と指差す『雷陣を纏い』桃花(p3x000016)に『夜桜華舞』桜陽炎(p3x007979)は穏やかに微笑みかける。
「ヒメ、キーボードではなくマイクで自動的に音声が出力できますよ。設定してたじゃないですか」
「ん……ん。あ、あー……」
「はい、聞こえます」
「あ、良かった……。大丈夫です」
 長い水色の髪をふわりと揺らして頷いた空梅雨に桜陽炎がほっと胸を撫で下ろす。桃花は「早速おさらいだナ」と言った。

 ここ電脳廃棄都市ORphan(Other R.O.O phantom)は『サイバー九龍城』と呼ばれる程に乱雑にデータが積み上がっている。
 本来は廃棄されるはずであったデータやバグ。そうしたものが何の因果過去の地には蓄積され、世界に生まれるはずがなかった住民達の巣窟となっている。
 例えば、フィールド設定の際に使用されたテストデータ。膨大なテストサーバーで稼働していたワールド設定。それらは一度はサーバー上から消去され、『ネクスト』によって上書きされたはずであったが……どうしたことか、マザーも観測しない領域に塵芥として残ってしまったらしい。塵も積もれば山になるとも言うが其れ等は膨大に積み重なり、斯うして『電脳廃棄都市』と呼ばれるまでに進化した。
「それで、わたし達の目的はパラディーゾ『影歩き』から別たれたという『もう一人の自分』を討伐することです。
 パラディーゾ『影歩き』は――正直、存在している事も許せませんけれど……――それを感知できるそうですから……」
「成程。それでは『影歩き』と共に『邪神』を発見することが今回の目的なのですね」
 桜陽炎が呼ぶ『邪神』。それはパラディーゾとして本人データを使用されているヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)に混ざり込んでいる存在である。
 この世界ではパラディーゾであるヴァイオレットの影は微動だにせず、本来ならば潜んでいる影も今は沈黙した状況なのだ。
「ウソ――とは考えられません。『あの人』には嘘を吐くメリットもありませんから」
「寧ろ、桃花チャン達に手伝えって言ってるしナ。
 ヴィオはパラディーゾの独りに頼んで『延命措置』を手に入れてた。
 それは、もう一人の自分を殺すためなんだロ? ……協力してくれてたパラディーゾの『ドウ』も優しいが、独りじゃあどうにもならないってのがヴィオの結論か」
 桃花が一瞥したのは酒場のテーブルにゆったりと腰掛けて『ロストガーデン』一行を眺めているパラディーゾ『影歩き』であった。
 彼女と協力し、別たれた影を倒す。無論、此処がR.O.Oである以上その『影』は不完全な代物だ。
「今回は情報収集からですね。一先ずは彼女に話しかけるでいいですか? 宜しければリーダーが号令を」
「構わねーゼ。カゲちー」
「わたしも大丈夫……って、待ってくださ、ルルさ……リンディ……ああ、ちがう……モモ、サクラ! わたしはリーダーでは……」


 ORphanでの活動は比較的ゆっくり進んでいると言うべきだ。それも、練達を襲ったジャバーウォックの一件を含めたマザーの損傷率が故である。
 だが、パラディーゾの命は時限性とも言えた。全ての産みの親であったジェーン・ドゥが『消えた』事により、其れ等の命は終わりの時を待っていると言うべきだろうか。
 故に、パラディーゾ『ドウ』が探し求めた『赤い花』は多少の延命効果を齎したと言えるだろう。何時か死を迎えるパラディーゾ達にとって、その花は『個体差』がある効果をもたらしたという。
 R.O.O内でのデータ取得を成されたパラディーゾには効果が薄く、R.O.Oの外部より強制的にそのデータを取得されていたクリストによる『異例なログアウト阻止』によるパラディーゾにはより効果を与えている。
『影歩き』は後者であるが故に、同胞『ドウ』の気遣いに感謝しながら、自身から別たれた『邪神』を探しているのだという。
「アナタは知っているのでしょう? ワタクシから別たれたモノが何であるか。
 ……ワタクシはアレは『外に出てはならないもの』であると強く認識しています。故に、R.O.Oでも『そうしたモンスター』のように分類されているのでしょう。ええ、姿はワタクシですが、より強力なエネミーと言うことです」
「……モンスター」
 何とも言えぬ表情を見せる空梅雨の傍らで、桃花は「ヴィオみたいな可愛いモンスターってンなら、持って帰りたいナ」と軽口を言う。
「ふふ。それも良いかも知れませんね。ワタクシは只の占い師――其れの場所を大雑把に占うことは出来ようとも、『詳細』を知る事はできません」
「ならば、その場所まで近付きましょう。今回は討伐に至らなくとも。
 貴女がその命を続けてまで成したかったことです。……『後始末』を手伝わせて下さい」
 桜陽炎が膝を突き、恭しくその手を取れば『影歩き』はくすくすと笑った。

GMコメント

 夏あかねです。電脳廃棄都市ORphan。
 パラディーゾ『影歩き』さんから別たれた邪神探しシナリオです。発見し、様子を伺いましょう。

●目的
 『パラディーゾから別たれた邪神』の発見及び情報収集

●特殊エリア『電脳廃棄都市ORphan』
 Other R.O.O phantom。ネクストに語られる伝説都市『ORphan』。
 曰く廃墟の扉から、曰く地下道の封鎖壁から、曰く邪教徒の棺から、曰く海底神殿から――世界各地のどこかにひっそりと存在する入り口から、その都市は繋がっている。
 本来世界にあるべきでなかった都市。世界に生まれる筈のなかった住民。
 それはまさしく、バグのコミュニティであった――

 このエリアは『本来はR.O.Oには存在しない』筈の場所です。大規模なバグや消去されたデータが集積された空間となります。
 そんな我楽多塗れの町を歩き回りましょう。『影歩き』はある程度の場所を『占い』ますが、バグは日々集積され、街が変化を行う為、近づけていないようです。

●『邪神』
 便宜上そう呼ぶエネミーです。本来はヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)さんの一部である筈のそれはR.O.Oでは別たれて個別に行動しています。
 姿はヴァイオレットさんに酷似しているようですが、凶暴なエネミーと呼んでも差し支えはないと『影歩き』は言います。
 ここはR.O.Oであるため、本来の邪神や『空梅雨』さんの認識とズレがある可能性もあります。
 故に、『影歩き』は『空梅雨』さんとの認識齟齬を埋めたいとも考えているようです。それが、邪神討伐への更なる一歩ではないか、と。
 邪神の周辺に近付くと何らかの『目』が見ているような奇怪な感覚と、何らかの戦闘が行われることを影歩きは占いで示唆しています。
 ……どうやら、邪神が存在する故のフィールド効果のようですね。
 今回は倒せずとも、接敵することが目的です。倒すのは『邪神』の現状把握をした後での事となるでしょう。

●パラディーゾ『影歩き』
 ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)さんのパラディーゾの姿。
 クリストによるログアウト不可措置の影響を受けて生み出されたパラディーゾであったため、本来の姿で反映されています。
(デスカウントでのパラディーゾである場合はアバターの姿となっている筈です)
 性格も『クリストの思うヴァイオレットさん』が構築されているのか非常に享楽的で意地悪な蠱惑的な占い師としての側面が強いようです。同様に、『影』であった『邪神』は内容も秘匿されたエネミーであるかのように彼女と別たれて行動しているようです。
 皆さんに協力して『邪神』の大まかな居場所を占います。非戦闘スキルや聞き込みなどを駆使して邪神の場所を突き止めて上げて下さい。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。

  • Backdoor - Lost Garden:moonlight完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月22日 23時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

桃花(p3x000016)
雷陣を纏い
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)
不明なエラーを検出しました
ジェック(p3x004755)
花冠の約束
ファン・ドルド(p3x005073)
仮想ファンドマネージャ
空梅雨(p3x007470)
himechan
桜陽炎(p3x007979)
夜桜華舞
カノン(p3x008357)
仮想世界の冒険者
現場・ネイコ(p3x008689)
ご安全に!プリンセス

リプレイ


 我楽多が積み上がった空間には煩雑さに塗れていた。その空間でも微笑を絶やすことなく微笑んだ褐色の肌の美女は蠱惑的に笑う。
 彼女の笑みを眺め、信用に値する人物ではないと判断したのは紛うことなき『彼女の大元データ』と言えるプレイヤーが操作する『himechan』空梅雨(p3x007470)であった。
『影歩き』と名乗った占い師はAIが故意的にリアルデータを内在させたパラディーゾである。空梅雨はヴァイオレット・ホロウウォーカーを信用しない。空梅雨はヴァイオレット・ホロウウォーカーを善人であるとは考えていない。少なくとも『雷陣を纏い』桃花(p3x000016)が云う様な人物ではないと認識しているからだ。
「来て下さいましたか」
「……はい。呼んだでしょう」
 空梅雨は『影歩き』の云うことを信用していなかった。彼女の気配から『空梅雨(ワタクシ)が知る気配』を感じることはない。あの禍々しき狂気、自身をも飲み喰らわんとする影が存在しないのは確かであり、彼女が邪神と呼んだそれを探しているのは確かであろう。
「ええ。けれど、信用して下さったわけではないでしょう? だって、ワタクシですから」
 くすくすと笑った『影歩き』を前にして『夜桜華舞』桜陽炎(p3x007979)は「いいえ」と首を振った。
「貴女を信用していないわけではありませんよ。少なくとも私は貴女が嘘を吐いているとは思って居ません。
 ……ですが、貴女が危険であると判断した『邪神』が貴女の意識の外で何らかの影響を及ぼしている可能性はあります」
「ワタクシにそれを告げた理由は?」
「貴女と私達(ロストガーデン)が信用――いいえ、信頼にたり得る『協力者』となる為に」
 桜陽炎の硬質な声音に『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)はこてりと首を傾げた。
『『邪神』 姿 影歩き 同じ。 知性 無い? じゃ お茶一緒 無理?』
「ワタクシだけでなく、あの様なものと馴れ合いたいのですか?」
 てけりけり。ごにゃごにゃと言葉を並べたような縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧に影歩きはくすくすと笑った。『影歩き』が表面上の振る舞いを強調しているというならば、邪神も表面の力を映した可能性があるのではと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は考えていた。
 だが、影歩きの言い分は「ワタクシはアレは討伐しなくてはならない存在だと認識しています」というものだ。
「ええと……一先ずはパラディーゾの『影歩き』さんは私達にとっての依頼人と言うことで良いかな?」
「ええ」
「邪神……だっけ、姿はヴァイオレットさんに酷似しているのは事前情報(クエストテキスト)で知ったけど……。
 影歩きさんや本来の邪神ともまた違った感じなんだよね……? どんな感じなんだろう?」
 クエスト受注の画面を眺めていた『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)はむうと唇を尖らせた。
 影歩きと呼ばれたパラディーゾが縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の云うとおり『ヴァイオレット・ホロウウォーカー』と呼ばれた彼女の表面上のデータを反映しているとしたら。邪神も創作のテイストが多く入っている可能性もある。
「さあ、どうでしょう」
「ううん……一先ずは影歩きさんは空梅雨さんとの認識齟齬を埋めたいんだよね。空梅雨さんが知っている邪神とも何処か違っているから、それで討伐の方法なんかが分かると思っているって」
 ちら、とネイコが空梅雨を見遣るが彼女は未だ、硬い表情を崩すことはない。少なくとも、対話のためには桜陽炎が不安視する『邪神の影響』の有無を確認しなくてはならないだろうか。
「もう一人の自分、と言っても過言ではないパラディーゾから更に分かたれ新たな存在となるなんて、本当に未知に溢れてますよねっ!?
 複数の意味でとても気になりますが、どうあれスルーは出来ません。私も冒険者として、出来る限りの助力をさせて貰います!」
 己のデータで作成された『パラディーゾ』がORphanで活動している以上、『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)にとっても興味をそそる内容であるのは確かであった。
「果たして、パラディーゾから分たれた『邪神』はどういった存在なのか。バグと言う未知です。何があってもおかしくはない、と理解は出来ます」
 うんうんと頷くカノンは私慾であれど、もう一人の自分と呼んだパラディーゾの事を理解してやりたいと願っていたのだろう。
 そんな彼女のパラディーゾとの活動経験がある『花冠の約束』ジェック(p3x004755)はカノンの心境はよく理解していた。
「……じゃあ、いこっか。ヴァイオレットと同じような容貌の『エネミー』だね」
 小さな少女は雑多な街で情報収集しようとくるりと振り返った。カノンと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧と共に歩き出すジェックは塵が山を為したかの如く積み上がっていく雑多な街に飲み込まれる感覚を覚えた。


「さて、『邪神』の探索ですか。なるほど、電脳廃棄都市らしいお話ですね」
 これが『電脳廃棄都市』かと作り物めいた美貌の『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)はそう呟いた。
 傍らのネイコが不思議そうに周囲を見回し、ファン・ドルドが情報検知の役割を果たすこととなる。
「んじゃ、どっちから行く?」
 にんまりと笑った桃花はロストガーデンと呼ぶ空梅雨、桜陽炎との『ギルド』パーティーでの活動は久方振りだとやる気を溢れさせた。
「それもヴィオ探しする事になるのはちょっと前までは想像もしなかったナ! 呑気にやれる仕事じゃネーガ、楽しんでいこうゼ!」
「三人で動くのも久々……ですか。遊んでいられる状況ではありませんが、――ええ、いつかゆっくりと遊べるように心残りは解決していきましょう」
 穏やかに告げる桜陽炎に小さく頷いた空梅雨は『影歩き』はロストガーデンに同行して欲しいと申し出た。
「それでは私とネイコさんは彼方から。ジェックさん達はもう向こうに行くようですね。ロストガーデンは『影歩き』さんとの活動を宜しくお願いします」
「……はい」
 監視を兼ねているとじいと見遣る空梅雨の態度が軟化するのは難しいだろうかとファン・ドルドは肩を竦める。
 ヴァイオレットという娘が自身を善と呼ぶ存在であると認識していないことは誰もが理解していたからだ。
「それでは、活動を開始しましょう」

「ORphan 目立たない 楽」
 一定時間を経たら情報共有のために集合する。それまではこの雑多で煩雑な街での情報収集だ。歩き慣れやしないが何処かエラーとバグの集合体であるこの都市は縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧にとって居心地の良い場所と呼べたのだろう。
「……確かに、目立たないのかも」
 それでも情報の聞き込みはジェックとカノンがメインで担当すると告げれば、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は「はあい」と首を傾いだ。巨大なその体をくねらせてもそもそと歩く縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の傍でカノンは張り切ったように街を歩く。
「探索なら冒険者にお任せ、ですよ!」
 カノンは出発前に仲間達へと提案していた。本格的に探索を始めればロストガーデンが『観察』『監視』している影歩きの占いにばかり頼ることになる。そうなる前に出来るだけ活動域を狭めておかねばならないというのが彼女達の認識だ。
 一定時間事に集合、情報共有をして膨大にも程がある都市の探索エリアを狭めて行く。新たな探索範囲を決定する事は現時点で置いては何らかの騒ぎがあれば駆け付ける範囲で互いを補佐し合えるようにと云う冒険者ならではの危機管理であった。
「さて、探索の基本は足と目と勘、そしてコネです! 影歩きさんがふわっと占った範囲は大きいですから、そこから虱潰しにしましょう!」
「そう、だね」
 こくんと頷いたジェックはふと思い出す。
 ――影歩きが大体の場所を占ってくれるそうだけど……占いは邪神の力ではない、んだよね?
 そう問いかければ彼女は「ワタクシの力ですよ」と微笑んだ。どうやら彼女というデータを得た際に『占い師のヴァイオレット』『邪神憑きの娘』とざっくりとしたデータがパラディーゾとして取り込まれたのだろう。
 影歩きの占いが邪神の力に作用されている可能性もある。桜陽炎の示唆した『邪神の影響』が色濃く出る状況をジェック自身も警戒したのだろう。
「……大丈夫そうだとは言って居たけど、でも、あんまり影歩きに『占い』を使わせない方がいいかも」
「そうですね。影歩きさんと邪神が惹かれ合ってという可能性もありますし……占いを鵜呑みにするのも怖いですね」
『邪神 コッチ どう思う?』
「どう、でしょう。空梅雨さんの警戒を見ている限りだと……」
「享楽的に、攻撃してくる可能性はある――かも」
 三人は顔を見合わせた。勿論その可能性はある。何せ『ここはR.O.O』だ。命の軽さは皆が知っている。
 聞き込みをしましょうと歩き回る三人は住民達に声を掛けては『ヴァイオレット』の容貌に似た女が『影歩き』が通っていない場所でも目撃されたと聞いた。
「まあ、この街で誰かがいなくなっても気にされないし、その女が通った後に人の腕一本落ちてたくらい誰も気にしないよ」
「……それは、それで、どうなのか……」
 カノンとジェックが顔を見合わせれば縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は合点が言ったように『バグの街 すぐ 人居なくなる』と告げたのだった。


「さて、ネイコさん。何方から行きましょうか?
 邪神がヴァイオレットさんのパラディーゾから分かたれたとなれば、何かしらの性質を継承していると想定されます。
 文字通り、影を歩く・影に潜む、という能力があるとするなら、単なる視認では探り当てるのは難しいかもしれないですね」
「そうだね。クエストデータを見る限りだったら、此方を見てくると云うのはそう言う意味かも」
 何らかの眷属が潜んでいる可能性もあるとファン・ドルドが提案すればネイコも少しばかり悩ましげに唸った。
 相手を知りたいと影歩きに自己紹介をしたが何となく流されてしまってから、探索を開始した後のことである。
 ファン・ドルドからの提案は電脳廃棄都市の情報屋であるパトリシアのコネクションを利用であった。例えば、ジェック達が聞いた『腕の一本くらい落ちていても』という発言からも想像は易いが何らかの実害が都市にも出ているだろう。
「それが『邪神』と呼ばれているのかは分からないけれど、行方不明事件はアタシもよく聞くところだわ。
 まあ、こんな場所だもの。そういう事くらい沢山あるのでしょうけれど……酒場なんかじゃ、居なくなる奴が多すぎて得れる情報も少なそうなの」
 パトリシア曰く、行方不明になる者は多いこの都市では行方不明事件くらいは多発しているらしい。その中でも何かに見られているかも知れないと語った者はソレなりに居るようだ。現在聞き込みを行っている場所へと収束される目撃情報を齎してくれる彼女にファン・ドルドは感謝を伝える。
「凄い知り合いがいたんだね」
「まあ、こういうときのための能力ですから」
 何でも活かせる『モノ』は活かして行きましょうと笑ったファン・ドルドにネイコはこくりと頷いた。

 電子世界では空梅雨は自身が現実世界で得ている力は発揮できないと歯痒さを感じていた。だが、対人に特化したスキルを有しているのは確かである。
「このネーチャンと似たヤツ見なかったカ?」
 影歩きの手をぐいぐいと引きながら歩く桃花に「モモ!」と叱るように声を掛ける空梅雨はもう少し警戒をして欲しいと言うかのようである。
 占いを少しばかり駆使し――それも空梅雨にとってはあまり納得できたものではないが――邪神の位置を探るのも随分と様にはなってきた。
「『影歩き』チャンよォ~。なんで分離した化物を何とかしようとするんダ?」
「ワタクシだからでは?」
「いーや、自分の身が可愛いなら占った場所に近づかなけりゃ良いだけの話ダ。
 放っておいたって良いはずダ。口ではなんて言ったって……ここに住んでる他のやつや、パラ連中を守りたいんだロ?」
「ヒヒッ……ワタクシがそんなに優しいわけ」
 くすくすと笑う影歩きの声を聞きながら空梅雨は唇を引き結ぶ。
 彼女はあくまでも『ヴァイオレット』のコピーだ。『ヴァイオレット』自身は悪の性質を持ち、どのようなことを企んでいるかも分からない。不完全なデータであるならば――勘ぐらずには居られない空梅雨に影歩きはごまかし返答するが桃花はにんまりと笑う。
「そういうところ、ヴィオって感じで好きダゼ」
「……」
 彼女は自分のことをそう見ているのか。桃花の見たヴァイオレット。何となく居心地の悪さを感じる空梅雨に影歩きは「ワタクシも分別はありますから」と曖昧に濁して返した。
「……モモ! そんな楽観的な……ああ、もう! サクラも何とか言ってやって下さい、あの楽天家に!」
「ふふ、貴女に占いで導かれるのは、悪い気はしませんね」
「サクラ!」
 違うと分って居ても、だ。桜陽炎は空梅雨ににこりと微笑んでから桃花の傍らへと歩を進めた。前を行く二人を眺めて空梅雨は嘆息する。
「だからこそ――"私"は、力になりたいと思う」
 導いてくれるその表情と想いが。『私』に標をくれたあの日に被ってしまうから。
 葬列を辿る死者のように、穏やかな旅路だと彼女がパラディーゾとして認識していても。
 それでも、彼女らしいと感じてしまうからこそ憎めない。

 集合し――
「情報は集まったよ。……途中で、色々あったけど」
 ジェックの言葉に縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が首を傾ぐ。どうやら云うことを聞かぬ住民をちょっと脅してきたらしい。
 幾度目かの集合で探索エリアを絞って辿り着いたのは暗き伽藍堂のビルヂングであった。名は傾ぎ、判断することが出来ない雑居ビルの中で何かに見られる気配が幾つも存在している。
「こんばんは。良い月ですね」
 その声に聞き覚えがある。縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は『無数の何かに見られている感覚が集まった』とさえ感じていた。
 足下に伸びていた影が一つに集まり形を作る。ファン・ドルドとネイコは僅かに身構え、息を呑んだ。
「さて、私の剣が通じる相手なら良いのですが」
「……分からないけど、撤退くらいはさせてくれそうかな?」
 後日に本格的な討伐を行うならば此処では手札を引き出しておくに限る。ファン・ドルドの言葉に『彼女』はくすくすと笑った。
「まさか、戦うとでも? 構いません。ええ、ええ」
 足下から伸びる影がカードを象った。タロットカードを手繰り寄せる指先は美しく、迷うこともない。
「ワタクシは『悦楽(たのしい)こと』が好きですから」
 ずう、と伸び上がった影に赤い瞳が多く笑っている。褐色の肌に揺らいだのは美しい白髪。
 魔的な光を帯びたルビーの眸から零れ落ちたのは悍ましき血のような涙であったか。それを涙であると捉えたのは桃花だ。
「よぉ邪神チャ~ン! アイ・アム桃花チャンだぜ! 仲良くしようぜマイフレンド!」
 攻撃を食らった所でデスカウントが増えるだけ。そう構える桃花はある程度気軽に構えていた。
 対照的に空梅雨を庇うように立ったジェックは「あれ、空梅雨はどう思う?」と問いかける。
「どう、とは……」
「知っている邪神と、違う……?」
 空梅雨はジェックの問いかけがネイコが『話してみないと分からないことがあると思う』と告げたそれと同じであると感じていた。
「どう、でしょう。少なくともあれは……」
「……私達を倒す事を楽しもうとしていますね」
 カノンがじり、と一歩後退する。カードが投擲され、影に飲まれる。それは悪辣にも不運を呼ぶ。
「ヒヒッ――」
 笑う邪神の声を影歩きは静かに聴いている。それを睨め付ける眸は、何かを堪えるようである。空梅雨と同じ、此処で先走ってはいけないとでも云うかのような眸の強さ。
「レディ、貴女の目的は。何を為し――」
「破壊の衝動をご存じですか? ヒヒッ、ああ……壊れに来て下さるだなんてなんて僥倖!」
 ヴァイオレットの姿をしたそれは地を蹴った。タロットが剣を作り、血潮の如く魔力が溢れ出る。エフェクトの嵐の中で桜陽炎はちら、と後方を見遣った。
 見ている。空梅雨と縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧、カノンが。邪神の攻撃の全てを把握するように、息を潜めてみているのだ。
 此処で倒しきる事は目的としていない。攻撃の手を少しでも知れば良い。そこから推測を立てることは難しいことではない。
 邪神と呼ばれた彼女は快楽(ヨカ)った思い出を手繰る寄せるように破壊の衝動を誰ぞに向けて放つかのようだ。
 まるでそれは破滅衝動と呼ぶべき一つの倒錯。本来の邪神がどうであるかは分からないが、少なくともパラディーゾである『影歩き』が空梅雨にとって『まだまともにも思える存在』として態度を軟化させる相手であったように――邪神は、この場にいてはならぬエネミーとして確固たる存在感を放っている。
 ジェックが邪神の攻撃を受け止め、体に痛みを感じる。タロットより作られた剣を受け止めてデスカウントが堪ろうとも『情報を持ち帰る』事を目的としたメンバーは連携を取り、それから距離を取る。
「ヒヒッ――帰るんですか?」
「何れ相まみえるでしょう。アナタとワタクシはそう言う存在ですから」
「ええ、ワタクシだってアナタが存在することを『厭うている』のは確かですよ」
 邪神と影歩きの会話を耳にしてネイコは「どういう」と呟いた。だが、それ以上は語らぬまま影歩きは「今なら退けます」と退避路を指し示す。
「一筋縄ではいかない。だからこそ、情報を整理して策を練りましょう」
「ったくヨー。R.O.Oってやつは一筋縄じゃいかネーナ!」
 ぼやいた桃花に桜陽炎は「次回があります」と頷くだけだった。


「『影歩き(ヴァイオレット)』さん」
 恭しくそう呼んだ桜陽炎に空梅雨の肩が跳ねた。其方を覗き見れば彼は『現実』とは変わらぬ穏やかさで微笑んでいる。
「はい、なんでしょう?」
 蠱惑的に、悪戯に。まるで品定めでもするかのように笑うのは彼女ならではなのだろう。その笑みの作り方に空梅雨は覚えがあった。
 ――あれは、相手を確かめる笑みだ。笑顔での武装とも云える。
「導いていただいた分、全てが終わった時に少しでも時間が残るのでしたら――桜の下で、コーヒーでも如何でしょうか」
「ワタクシに?」
「ええ。導きへは、ささやかな恩返しです」
「……可笑しな事を仰るものですね」
 影歩きの唇が釣り上がる。「サクラ!?」と驚き一歩踏み出す空梅雨に「まあまあ、ヒメ」と笑った桃花は唇を吊り上げる。
「マァ、まだ『全て丸く収まって』はネーケド、桃花チャンも良いと思うぜ? な、ヴィオ」
 にんまりと笑った桃花にジェックはぱちりと瞬いた。邪神と影歩きと、それから空梅雨。空梅雨を気遣っていたジェックは随分と傷だらけだ。
 盾として前線に立ち邪神から放たれた黒い気配に身を焼かれた。だが、それでも良い。己が盾であり、接敵しても引くことが出来たのだから。
「良いのでは? どのみち、コレでは終わりませんしね。長い、後日譚になりそうですね」
 ファン・ドルドにカノンはこくりと頷いた。パラディーゾはもう一人の自分。だからこそ大事にしておきたかった。
「じゃあ、それって私も一緒に行って良いのかな?」
「アナタも?」
「アナタ、じゃないでしょ! ネイコ、現場・ネイコだってば!」
「……ああ、失礼。ええ、構いません。『此方の願い』を聞いて頂くのですから」
 悪戯めいた返答を返した影歩きにカノンは「快諾ですね!」と嬉しそうに微笑みを浮かべる。
「ええ、約束です。約束は、"次"へと至るためのもの。必ず終わらせるために――約束をするのです。
 死者を導くランタンの光にはなれませんが――ご存じですか? 数多の物語の中で"桜"は……願いが叶った時に咲くものでも、あるのですよ」
 微笑む桜陽炎の声を聞きながら空梅雨は息を呑んだ。その横顔を見詰める桃花は「ヴィオ」と呼びかけてからアバターである筈の彼女にリアルの姿を投影して口を噤んだ。

 ――あれは、どのような存在であれ、どのような世界であれ、存在してはいけない存在だ。
 ……この私(ヴァイオレット・ホロウウォーカー)のように。

成否

成功

MVP

桜陽炎(p3x007979)
夜桜華舞

状態異常

ジェック(p3x004755)[死亡]
花冠の約束
ファン・ドルド(p3x005073)[死亡]
仮想ファンドマネージャ

あとがき

 お疲れ様でした。
 Backdoor - Lost Garden:moonlightです。
 この後日談ですが、皆さんが辿り着いた彼女が誘う破滅がORphanにとって害であると『影歩き』は判断しています。
 皆さんの判断で、協力をしてあげてください。
 それでは、また。

PAGETOPPAGEBOTTOM