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シナリオ詳細

バーデン・スミスの銃。或いは、砂漠の博物館…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●バーデン・スミスの猟銃
 バーデン・スミス。
 ラサにおいては、知る人ぞ知る銃鍛冶の名だ。
 彼の造る銃は、それがライフルであれば、拳銃であれ、恐ろしいほどの精度と威力を誇るという。中でも彼が多く造ったのは猟銃だが、その精度と威力に目を付けた盗賊や傭兵の手にかかれば、一等優れた“殺し”の道具に成り代わる。
 商人、悪人、耕作人と生業を問わずバーデンの銃は数多の命を奪い去った。
 バーデン自身も、人が銃を手にすれば容易に他者を害することは理解していたはずだろう。
 武力を持てば、振りかざしたくなるのが人の性である。
 例えば、決闘の果てに相討ちとなったガンマン2人が、揃ってバーデンの銃を手にしていたという話もあった。
 ある商人は自衛のためにバーデンの銃を100も買い求め、ある土地では耕作人たちが領主の圧政に耐えかねてバーデンの銃を手に反乱を起こしたという。
 そんな商人や耕作人太刀の命を奪ったのも、バーデンの銃だというのだから皮肉な話だ。
 いつしかバーデンの銃は「呪いのバーデン銃」と噂されるようになる。
 持ち主の命を奪う呪われた銃。
 バーデンの銃は、所有者だけでなく近づく者を皆不幸にする。
 そんな風な噂をおそれ、バーデンの銃を手放した者は多かった。
 同時に、より強くバーデンの銃を求める者も大勢いた。
 やがて、バーデンは表舞台から姿を消して……今でもどこかでひっそりと銃を造っているという。
 さて……となれば、市場に撒かれたバーデンの銃はどうなったか。
 持ち主と共に地面の下に埋められたか。
 砂漠の砂に埋もれて朽ちたか。
 それとは知らずに、今も誰かが使っているか。
 或いは、大層な曰くを引っさげて博物館にでも飾られているかも知れない。

●曰く
 ラサの片隅。
 オアシスの街から、幾らか離れた古い砦の跡地に建った博物館。
 ガラスと大理石で組まれた外装と、博物館を守護する無数の砂人形。
 何のためかは知らないが、その頭部には石で出来た花の飾りが付いていた。
 砂人形がとくに厳重に守っているのは、博物館の入り口だ。
 狭き門には「何人も立ち入ることなかれ」と古い言葉で刻まれている。
「……どうりで閑散としているはずっすね」
 なんて。
 博物館の前に立ったイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は、額に浮いた汗を拭って呟いた。
 燦々と照りつける太陽の熱だけが汗の原因では無い。
 砦の壁面に同化するようにして配置された砂人形の存在も、イフタフの精神に負荷をかけ続けているのだ。それはある種の殺気と呼んでも良いだろう。それも「言葉の通じない存在」から向けられる無機質な殺気だ。
 例えば、何か1つでも砂人形にとってのタブーに触れたなら、即座に砂の弾丸を全身に浴びせかけられる……そんな予感がひしひしとして、どうにも落ち着かないのであった。
「博物館ってのは建前っすかね? 実際は、盗品や曰く付きのお宝の保管場所って感じっすか?」
 事前に調べたところによれば、博物館に並んだ品を細かに把握している者はいないという。
「……館主の名は“フェザリー”。禿頭の老人で、ここ数年の間、人前に姿をさらしてはいないみたいっすけど……今も生きてるんっすかね?」
 砂人形の視線から逃れるように、イフタフは数歩、後ろへ下がる。
 しばらくの間、博物館を眺めていたが……そこには一切、生き物の気配が感じられない。
 時折、渇いた風が吹き。
 門の向こうに見える庭を、砂人形が横切る姿がチラと見える。
「砂人形……ゴーレムみたいなものっすかね? どうにも遠距離から攻撃する手段を持っているみたいっすけど」
 そう言ってイフタフは、足下に転がる乾いた死体を爪先で突いた。
 全身を穴だらけにされた哀れな死体だ。
 装備品を見る限り、盗賊か何かのようである。
 おそらく、博物館に盗みに入ろうとした結果、砂人形に迎撃されて哀れな骸となったのだろう。
 盗人らしい末路と言えばその通り。
 何ら同情の余地は無いが……しかし、遺体は物を言わないだけで十分な情報を持っている。
 銃弾の類は転がっていないが、傷口には砂が張り付いている。
 つまり、砂の弾丸で撃たれた痕だ。
「それから【無常】や【不運】……足が砕けているのは【石化】でももらったっすかね?」
 哀れな遺体だ。
 特に腹部に空いた穴が大きい。
 特大の砂弾を撃ち出すような、大型の砂人形がいるのだろうか。
「しかしまぁ、一体どこの誰っすかね? 博物館に飾られている“呪いのバーデン銃”を破壊してほしい……なんて、面倒な依頼を寄越したのは」
 はぁ、と重たいため息を一つ。
 ピケットの中のしわくちゃになった依頼用紙を手に取って、イフタフはオアシスへと引き返した。調査の結果、分かったことをイレギュラーズに伝えに行くのだ。

GMコメント

●ミッション
博物館に侵入し「呪いのバーデン銃」を破壊すること

●ターゲット
・呪いのバーデン銃×1
銃鍛冶バーデン・スミスの造った銃。
ライフルや拳銃など多数作成したうちの1丁。
一見すればただの銃だし、実際のところ性能が良いだけのただの銃だが、それゆえ彼の造った銃は大勢の命を奪ってしまった。

・砂人形×15~
頭に石の花を乗せた砂人形。
少なくとも15体が確認されている。
動きは鈍いが、壁や地面に砂とかして散らばるなどするため隠密性は非常に高い。
また、1~2体ほど、他より大きな大型砂人形が存在している。

砂の弾丸:神中単に中ダメージ、無常、不運、連
 砂の弾丸による掃射。※大型個体のものはより高威力。

砂の罠:神近単に小ダメージ、石化
 砂による拘束。

●フィールド
ラサ。
砂漠の中にぽつんと佇む博物館。
かつては砦だったため、博物館周辺は高い塀で囲まれている。
入り口は狭いものが1つ。
壁面や塀の内側には、何体もの砂人形が配備されている。
博物館は1階建て。
大ホールと、幾つかの小部屋があるだけというシンプルな造りをしている……らしい。
なお、博物館の館主は“フェザリー”という名の老人らしいが、ここ数年は人前に姿を現していない。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • バーデン・スミスの銃。或いは、砂漠の博物館…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
ジン(p3p010382)
小鈴(p3p010431)
元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ

●ラサの片隅
 渇いた風の吹く砂漠。
 人の街から幾らか離れたその場所に、塀で囲まれた家屋が1つ。
 一見すれば廃墟のようなその建物は、驚くことに“博物館”であるらしい。
 “らしい”というのは、誰も館内を見たことが無いからだ。
 しかし、フェザリーという名の老人が管理人を務めており、イフタフの調べではラサ各地から集めた盗品や曰く付きの品ばかりが展示されているらしい。
「とりあえず……そこの哀れな死体の魂よ妾達に教えて欲しいのじゃ。おぬしがどうやって美術館に潜り込もうとして、そして死んだのかをのう」
 博物館の手前。
 立ち止まった『元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘』小鈴(p3p010431)が、砂に埋もれた乾いた死体へ問いかける。
 すっかりと水分の失われた肌。
 眼球は虫にでも食われたか。虚ろな眼下が呼吸を見つめる。
 身体中には無数の穴が空いていて、それが彼の死因であろうことは明白。
「うむ……うむ……なるほど。あっ、はい。え……あぁん?」
 ぶつぶつと死体に語り掛ける幼女とは、何とも不気味な絵面であろうか。
「何か聞き出せたか? 手掛かりになりそうな情報は?」
 おそるおそる、と言った様子でジン(p3p010382)は小鈴に声をかけた。しかし小鈴は、眦を吊り上げ、苛立った様子で足元に転がる遺体を指さす。
「こやつ“知るかチビ”とか言いよった! 価値の高い盗品がため込まれていると聞いて、盗みに入ろうとしたところ、気づいたら死んでおったそうじゃぞ!」
「やっぱりここは盗品の保管庫か或いは財産の置き場所……だとすれば警備ゴーレムがいるのも納得なんだけど」
 ものは試し、とばかりに『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は小石を拾って壁に向かって投げつけた。
 小石が壁にぶつかる寸前、ざらりと壁の表面が不気味に蠢き、砂で出来た腕が現れる。砂の腕は小石を地面へ払い落として、するすると壁の中へと戻った。
 否、砂の身体を薄くして壁に同化しているのか。
「あ! こやつ今度は“やめておけ、時間と命の無駄使いだ”などと笑っておる! 死人に口なしとは嘘っぱちじゃな! おい、エルス殿にリコリス殿、こやつ埋めてやるから手を貸してくれ!」
 死体を埋めるべく、小鈴と『v( ‘ᾥ’ )v』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)は砂に穴を掘り始めた。
 そんなことをしている場合ではないが、かといって無理矢理に塀を乗り越えるには情報が足りない。
「まずは安全の確保が優先ね。砂人形達は何を守ってこんな所にいるのかしら? 依頼の銃? それとも他に何かあるのかしら?」
 顎に手をあて『青鋭の刃』エルス・ティーネ(p3p007325)は思案する。小石に反応していた辺り、迂闊に塀に近づくだけでも危険が伴う。
 外部からの侵入は、何者であっても許可されていないのだろう。となれば果たして、博物館という呼び名さえ怪しいところだ。
 先に侵入を試みた者も、どうやら皆、死んでいる。
 大半は既に砂と化したか、虫や獣に食われたか。辛うじて人の形を残していた死体も、現在進行形で砂に埋められていた。
「何かの拍子に砂人形が小隊を襲うような事があっても面倒だ。疾く叩いてしまおう」
「『何人も立ち入ることなかれ』って言葉もありますし、侵入しただけで狙ってきそうですからね」
 塀の壁面を注視しながら『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)と『鏡に浮かぶ』水月・鏡禍(p3p008354)は数歩ほど後ろへと下がる。
 こちらに敵意を抱く何かの存在を、2人の目と直感は正しくそこに捉えたのだろう。
 そして、その数があまりに膨大であることも……。
「幸い時間に縛りはありません。博物館が建前のものであれば、土人形を含めて罠の存在もありそうですし、注意しましょう」
 砂の混じった風が吹く。
 風に踊る茶色い髪を片手で押さえ『特異運命座標』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はそう言った。

●バーデン・スミスの銃
 博物館の周辺を、ぐるりと一周。
 その間も、壁の中から何かに見られている気配は拭えなかった。
 結果、判明したのは砂人形の監視は館の全体に及んでいるという事実。しかし、その間も砂人形が襲い掛かって来ることはなかった。
「何が向こうの“ルール違反”なのかも調べておきたいな」
 正面入り口に戻って来たアリアは、壁面をじぃと注視する。
 1歩、2歩と塀へ向かって歩を進め……ついには手を伸ばせば塀に触れるという距離にまで辿り着いた。
 ざわり、と壁面で砂が波打つ。
 しかし、砂人形が襲って来ることはなかった。
 おそらく、壁に触れようとするか、館内へと侵入しようとする意志が無ければ砂人形は迎撃行為に移らない。
「……( ‘ᾥ’ )」
 ごくり、と唾液を飲み込んでアリアが塀へ手を伸ばす。
 その様子をリコリスは“( ‘ᾥ’ )ジッ”と目を見開いて見ていた。
 アリアの指が、塀に触れるその直前……壁面が蠢き、無数の腕が突き出してくる。
 しかし、その腕がアリアを掴むことは無かった。
 リコリスが、アリアの肩を掴んで背後へ引き倒したのだ。
「わっ! っぶな……っ!?」
「不意打ちが得意なんだ? 相手がボクでごめんね?」
 アリアを追って、壁から離れた砂人形へリコリスはライフルの銃口を向ける。
 銃声。
 火薬の臭いと火花が散って、1発の弾丸が放たれる。
 それはまっすぐ、砂人形の頭部から生えた1輪の花を撃ち抜く。花弁が散ると同時に、砂人形は、さらりと音を立てて崩れた。
 だが、砂人形の数は多い。
 1体、2体、3体……次々と壁から這い出して来るその様は、まるで死体から湧き出してくる蛆に似ている。
「この状況では持久戦は避けられまい」
 リコリスの頭上を飛び越えて、砂上に降り立つ黒い異形……愛無が空へ咆哮すれば、砂人形の視線がそちらへと向いた。
「此方の手数を減らすのは悪手だ。だが今なら入り口を壊して中に入れる」
 目や口の付いた尾を振り回し、爪の生えた拳を振るう。
 その度に砂が飛び散って、砂人形が形を崩した。
「僕ならばBSを無効化できるしな」
 砂の散弾が愛無の背中を撃ち抜くが、その動きが鈍ることはない。
 
 黒い髪を靡かせて、姿勢を低くしエルスが駆けた。
 手にした氷の鎌を一閃。
 木製の門を真っ二つに切り裂いた。
「こんなに砂人形を配置していたんですもの。きっとフェザリーさんにとって大切な場所だったはず……でもどこにいるのかしら?」
 倒れた門を飛び越えた先には狭い庭。
 侵入者を阻むためだろう。
 砂人形が整列している。
「ぬわー! こっち見とるぞ!」
「ここは僕が引き付けます!」
 慌てる小鈴を庇うように、鏡禍が前へ飛び出した。
 砂人形は腕を掲げて、一斉に砂の弾丸を鏡禍へ浴びせる。鏡禍は体の前で両腕を交差させ、砂人形の攻撃をその一身で受け止めた。
「それ、物理的な攻撃じゃろ? ならば……」
 光のベールを纏った小鈴が、鏡禍を追い越し駆け出した。砂人形の一部が小鈴へ襲いかかるが、その手は光のベールに阻まれ届かない。
 小鈴の後に続くのはマリエッタとジンの2人である。
 残る仲間たちは、鏡禍の引き付けた敵を鎌で切り裂き、銃弾で蹴散らす作業に尽力しているところだ。
 けれど、砂人形の数は一向に減っていない。
 今も館内のあちこちから、イレギュラーズの迎撃に集まってきているようだ。
「小鈴さん! 前に敵が!」
「分かっておるが……止まっては袋叩きに合うのじゃ!」
 エルスの忠告。
 小鈴の返答。
 進路を阻む砂人形の数は2体。
 伸ばされた腕が小鈴に触れる……その直前。
「退いて!」
 夜の闇を閃光が白に染め上げた。
「任せてちょうだい! 高火力をひたすら押し付けるだけの簡単なお仕事だもの!」
 砂人形の頭部を閃光で撃ち抜いて、そう叫んだのはアリアである。
 右手に剣を、左手に宝珠を構えた彼女はその場でくるりと身体を回し、残る1体の首を薙ぐ。
 開けた進路を小鈴とマリエッタ、ジンの3人が駆け抜けて……遂に一行は、博物館の正面入り口にまで到達した。
「鍵が掛かっていますね。少しお待ちを……内側から鍵を開けてきますので、包囲されぬように安全を確保していてください」
 正面入り口の扉へ向かって、マリエッタが跳び込んでいく。
 まるで水にでも跳び込むみたいに、彼女の身体が扉を通過し館内へと消えた。
 時間にして、十数秒ほど。
 カチャン、と。
 軽い音がして、扉の鍵が開かれる。
「先行して様子を見て来る。ちっとばかし耐えてくれ!」
 開いた扉の隙間へと、ジンが身体を滑り込ませた。
 気配を限界まで希薄にしている今のジンなら、砂人形の監視も掻い潜れるだろう。
 
 扉を潜った先にあるのは大ホール。
 その奥には、別の部屋へと続く扉が幾つか見えた。
 そして、幸いなことに館内に砂人形の姿は見えない。
「これで良し……っと」
 殿を務めていた愛無と鏡禍が館内へと転がり込んだ。
 それをを確認し、閉じた扉へエルスが氷を貼り付ける。鍵穴さえも氷漬けにしてしまえば、暫くの間、砂人形が館内へと入り込むことは出来ないだろう。
 これで幾らか時間も稼げる。
 その間に、目的であるバーデン銃を破壊すれば任務は完了というわけだ。
「しかし銃はどこにあるんでしょう。隠してあるのか、展示されてるのか……土人形が取り込んでいるのか」
 ホールに並んだ無数の品へ、マリエッタが視線を向ける。
 館内は暗く、近づかなければ何が飾られているのかさえも判別できない。となれば、ここから先は、1つひとつ自分の目で見て、バーデン銃を探さなければならないだろう。
「曰く付きの銃に動く砂人形、こんなのが置いてある博物館の館主さんがただの人間ってことはないんじゃない?」
 そう言ってリコリスは、壁にかかっていた絵画へと視線を向ける。
 原色を塗りたくったような不気味な絵だ。絵の下の方には“ベクシー”と誰かの署名があった。おそらくその絵を描いたものの名前だろう。
 その横にあるのは、棺に入った誰かのミイラだ。
 次に視線を右へずらせば、錆び付いた剣が壁に固定されている。
「武器って皆例外なく同じ運命なのだと思う。私の武器だって……数多の命を奪った……それは変える事の出来ない事実だわ」
 剣へと視線を向けたエルスがそう呟いて、何かを堪えるように声を震わせた。
 武器とはそもそも、何かを傷つけるためにある。
 そして、何かを傷つける度に、戦場で振るわれる度に、武器にも傷が増えていく。
 そう言う意味では、バーデン・スミスの造った銃は、武器としての使命を立派に果たしたということになるだろう。傷の1つもない武器など、誰も傷つけたことの無い武器など、武器としての役割を果たしているとは言えないのだから。
 そんなものは、美術品と変わらない。
 剣だ刀だと呼び名が付けられているものの、所詮は刃物。包丁と何ら変わらない。豚肉を切るか、人を斬るか……違いなんて、その程度だ。

 木製の台に乗せられた2丁のライフル。
 それこそが今回の目的であるバーデン・スミスの銃である。
「壊すのは忍びないですがお仕事です、次はちゃんと銃として最後まで存在していられたらいいですね」
 そう言って鏡禍はライフルへと手を伸ばす。
 一見して、ごくありふれたライフルだ。しかし、造りは良いものなのだろう。銃の専門家を自認するリコリスは、キラキラとした視線をバーデン銃へ向けている。
 鏡禍が持ち上げた銃へ、エルスが氷の鎌をかけた。
「きっとフェザリーさんにとって大切な場所だったはず……でもどこにいるのかしら?」
 一閃。
 鎌をひいて、ライフル銃を2つに断った。
 カラン、と乾いた音を立てて2丁の銃が床に転がる。
 これにて任務は完了だ。後は、表にいる砂人形たちを掻い潜って館から脱出すればいい。
「真面目な話、ここは本当に無人なのかのう?」
「曰く付きの銃に動く砂人形、こんなのが置いてある博物館の館主さんがただの人間ってことはないんじゃない?」
 小鈴とリコリスが言葉を交わし、ホールから続く幾つかの扉へ視線を向けた。
 と……その時だ。
「っ……何かいる!」
「うぉっ!?」
 鏡禍が警告の声を、次いでジンが短い悲鳴をあげた。
 轟音とともにジンの身体が宙を舞う。
 暗いホールの真ん中に、2体の巨人が……巨大な砂人形が立っていた。

●博物館からの脱出
 腹部を強く殴打され、ジンは血混じりの胃液を吐いた。
 倒れた彼にマリエッタが駆け寄って、腹部へと手を押し当てる。淡い燐光が辺りを待って、ジンの負ったダメージを癒す。
 口内に溜まった血を吐き捨てて、ジンはゆっくりと立ち上がる。
「……俺達の感知していない第三者の妨害、ってわけでもないか?」
「きっと、あれの用意をしていたのだと思います」
 ジンの問いに答えを返し、マリエッタは正面入り口を指さした。
 見れば、正面入り口は砂の壁に覆われている。
 
 砂人形が拳を振るう。
 跳び上がった愛無の胴を殴打して、床へ強く叩きつける。
 次いで、もう1体の砂人形が胴体部分より撃ち出したのは、直径30センチはあろうと言う砂の砲弾。
 直撃を受けた鏡禍が床を転がり、ホールの壁にぶつかった。
「ホールに窓はありませんが、奥の部屋にならあるはずです! 見取り図の通りなら、真ん中の部屋が館長室のはず!」
 ダメージを負った仲間たちへと回復術を行使しながら、マリエッタは部屋の奥を指さし叫ぶ。
 戦線に復帰した愛無はホールの右へ、鏡禍はホールの左へと駆ける。
「目標の銃は破壊した。撤退を最優先だ」
 砂人形の注意を引き付けながら、愛無は言った。
 黒く太い尾で、振り下ろされた砂の拳を受け止める。ざらり、と砂が飛び散って愛無の身体に降り注ぐ。本来であれば、それで敵の動きを封じ込めるのだろう。
 しかし、愛無は砂を払いのけながら、砂人形の腕を駆け上がっていく。

 空いたホールの中央を、小鈴とマリエッタ、アリアが駆け抜けていく。
「みんなも逃げよ! ここの人形を倒すことまでが仕事じゃないよ!」
 アリアが扉を蹴破って、管理人室へ転がり込んだ。
 その後に小鈴、マリエッタが続く。
 部屋の前に辿り着いたリコリスが、壁に背を付けライフルを構えた。
「あおーん! 狩りの時間だよ! なんちゃって!」
 銃声が一つ鳴り響く。
 放たれた弾丸が、砂人形の脚を射貫いた。

 片脚を失い、砂人形が転倒した。
 床に伏せた体勢だ。その顔面へジンが駆け寄り、頭部の花へと大上段から太刀を落とした。
 白銀の刃が、砂人形の頭部を断ち割る。
 ざらり、と崩れた砂人形だが……砂はまだ蠢いている。再生するのも時間の問題だろう。
 だが、再生には幾らか時間がかかるらしい。
「頭を潰せ!」
 痣だらけの鏡禍に肩を貸し、ジンは急いで奥の部屋へと逃げていく。
 
 砂人形の頭部を潰し、エルスと愛無が奥の部屋へと転がり込んだ。
 そこで2人が目にしたものは、椅子に座ったミイラである。
 小柄なミイラだ。
 髪は無い。
 どうやら老人……男性のものであるようだが、おそらくはこれが館長であるフェザリーとみて間違いないだろう。
 そんなフェザリーは、両手で淡く光る水晶球を抱えているようだ。
「これは……魔道具でしょうか」
「たぶん、砂人形を維持しているんだと思うけど」
 マリエッタとアリアの読みはおそらく正しいものだろう。
 そうとなれば、取るべき行動は1つだけ。
「これ、壊しちゃ駄目かの?」
 小鈴がそう呟くと同時、愛無の尾が水晶球を打ちのめす。
 ミイラは床に転がって、水晶球は砕けて散った。
 一瞬、強い光が部屋に瞬いて……。
 砂人形の気配が消えた。
 砂は砂へ……機能を失い、崩れ去ったのであろう。
 こうして、一行は無事に館を脱出することに成功した。
 フェザリーの遺体や、飾られていた盗品は近いうちに役人辺りが回収しに来るだろうか。
「しかし、依頼人はまさかバーデン本人とか言わんじゃろうか」
「どうでもいいよ。でも、バーデンの銃か。一度でもいいから、ボクの無銘と性能対決してみたいよね」
 なんて。
 暗い砂漠の真ん中で、小鈴とリコリスは言葉を交わす。

成否

成功

MVP

恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣

状態異常

鏡禍・A・水月(p3p008354)[重傷]
鏡花の盾

あとがき

お疲れ様です。
バーデン銃は無事に破壊されました。
また、博物館に蔓延っていた砂人形の掃討も完了しています。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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