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シナリオ詳細

聖騎士の鉄槌、砕く義憤

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●聖者斯くあるべし
「……酷(むご)い」
 レオナルド・エスポシトは、地面に散らばる肉片と血のシミを前に静かに十字を切った。手にしたメイスには血がこびりつき、散らばったそれらを彼が為したのは明らかだ。その状況で死体を悼むかのような言行を吐く者に常人は居ない。普通であれば、それは狂人の戯言か心をすりつぶした何某かの言葉であるはずなのだ。だから、老騎士として天義に於いてその勇名を馳せる――そして『ライトブリンガー』にあって優秀な古参兵である――レオナルドがその矛盾した言葉を吐くことに違和感があるのは否めない。だが、その理由も散らばる肉片と血から漂う匂いで知れよう。
 腐臭と薬物臭。如何に防腐処理を施せどもそれが死体を再利用したものであることは明らかだ。彼の述べる『酷さ』とは、死者を安らかに眠らせぬその思想に対してだ。
 死者は蘇らない。唯一絶対の法理法則として成立したそれを覆そうとする勢力は、天義にたしかに存在する。
 『イモータルレギオン』。「聖者復活の秘儀」というお題目で守旧派に取り入りつつネクロマンシーを究めんとする集団であり、ライトブリンガーと永らく敵対関係にある組織だ。
 にわかに勢力を増しつつある彼等の手勢を潰すことも、それを手引したり、あまつさえ死体を奪おうと暗躍する者達を(例え幼子の類であろうと)殺すことはレオナルドにとっていささかの罪悪感もない。
 例えそれが幼子であっても。
 死体の兵を隠れ蓑にして死体安置所に忍び込み、新たな『素材』を獲得しようとした一派が子供混じりであったなどとはとてもじゃないが思いたくはない。
「レオナルド・エスポシト殿とお見受けする。先頃、貴殿が辛くも取り逃した逆徒は我等がその背に手をかけた。然るに彼奴等を追い詰め、貴殿の聖鎚にて叩き潰すことを我等が主君は望んでおられる。それが逆徒への見せしめになる、と仰せ。ご同道を」
 逡巡に身を固くするレオナルドの前に、闇から男女の姿が垣間見える。無感情に吐き出された言葉とは裏腹に、彼等の全身からはここに居ない何者かへの殺意が垣間見えた。
「……何者か」
「封魔忍軍、とだけ。我等は任務の為に、貴殿は己が為す正義の為に動けば宜しい。我等は新たな秩序のため助力を惜しまぬ者也」
 怪訝な顔で問いかけるレオナルドに、代表して前に出た男はそう名乗った。
 彼等を殺すべきなのか? 断罪とはどうあるべきなのか?
 彼には未だ悩みが残されている。だが、きっと彼は決断にそう時間をかけることはあるまい。

●子供の背負う罪と罰
「クソッ、なんなんだよあのジジイ……! こんな話は聞いてねえぞ!」
 『オンネリネン』のひとり、セム・アルカレイドは世辞にもファルマコンへの忠誠が篤いわけではない。そして、彼等を派遣した『マザー』もそうあることを期待している様子が乏しかった。使い捨てにすることを前提に送り込んだ子供たち。賢しらに世界を知っているからこそ受け入れがたい者たち。教えを与えるよりも戦術と戦略を与えることで生き延びるか、より深い傷痕を残させることを期待する向きがあったのは否めない。
 然るに、オンネリネンを『買い付けた』勢力の計算違いがあるとすれば、今時任務に於いて戦闘慣れした彼等を凌駕する知識と容赦のなさ、そして戦力を有する者が投入されたこと。そして、『腐っても鯛』を地で行く天義新秩序側の戦力との邂逅。屍を前にした際の激高を見るに、自分たちは知らされぬままに虎の尾を踏まされたということだろうか?
「リーダー! ミラ、クレイグ、カーチスがやられた! 振り切ろうにもぴったり張り付かれてどうにもならねえ! 誘導されてるみてえだ……!」
「お前だけでも逃げられねえのかノーマン!」
 ノーマンの悲痛な叫びに叫び返したセムは、直後に視界に飛び込んできた奇怪な形の投げナイフを切り払い、飛び退る。すでに周囲を取り囲まれたことに気付くと、その人々の壁を割って現れた老兵に舌打ちひとつ。
「俺達は雇われただけなんだけどな……でも『アンタ達の神様』とは別口で信じてるタチなんで、それを理由に潰すってんなら文句は言えねえな」
「死者を安らかにしておけぬ輩が、旧き天義を尊ぶ者と手を組むとは。気乗りはせぬが、正義の為ならば――致し方なし」
 レオナルドがメイスを持ち上げる。得も知れぬ圧力を湛えたそれは、一瞬後に間合いを詰め、セムを頭頂部から粉々に砕くところだった。
「何が『旧き天義』だ馬鹿野郎。新しい秩序だなんだで子供を殺すってんなら、そんなもんゲロ以下の所業だろうが」
 だが、そのメイスが振り下ろされるより早く、封魔忍軍の包囲を抜けて現れたのはキドー(p3p000244)を中心とした8人の者達。何れもが自身の特徴を殺しているため、軽々にイレギュラーズである、と理解することは困難だ。
「正義の為に秩序を重んじる。それを悪しと嘯くなら、貴殿等も同罪と見做す」
「何が『同罪』だよ、目が泳いでるじゃねェか。そこの黒い連中! この爺さんを唆したんだろ? 酷いことしやがって」
 酷いこと。
 その言葉に、レオナルドの表情に迷いが一瞬、生まれた。

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『天義』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

 天義がいい感じにきな臭くなっていてオラわくわくしてきたぞ!
 というかこのタイミングでシナリオ出さなきゃ、うん、ね!

●成功条件
 封魔忍軍の全滅
 レオナルドの撤退

●失敗条件
 セム・アルカレイドの死亡
 オンネリネンの半数以上の死亡

●レオナルド・エスポシト
 『ライトブリンガー』所属の老兵。魔法の鎧による補助で健常者と変わらぬ振る舞いをしているが、実は下半身不随です。
 メイスによる強力な攻撃を主体にしており、物理攻撃力と命中が極めて高いです。
 また、地面を揺らすことで自分を中心とした広域に対してBSを付与、メイスの風圧による中扇の【飛】攻撃など、近くでゴリゴリに戦うと見せかけて割と多芸。
 倒すことは『技術的には可能』ですが子供達の生存とトレードオフになる可能性が高いためお勧めできません。
 そもそも子供達に対して正義を執行することに迷いが見られます。

●封魔忍軍×10
 リーダー格がいますが、どんぐりの背比べ程度の実力差。
 アフリカ投げナイフめいた投擲武器やムチ、脇差程度の長さの小刀や果は魔法など、『忍軍』の名に恥じぬ働きを見せます。連携もかなり取れています。
 警戒すべきBSは【毒系列】【無策】【狂気】【足止系列】など。

●オンネリネン×5(リーダー:セム・アルカレイド)
 友軍。とはいえ消耗しておりあまり戦力として数えられません。
 どうやら『イモータルレギオン』に対して拠出された戦力であったようで、初期数は10でした(失敗条件は現在数からのカウントとなります)。
 セムは現状でも多少は戦え、また、敵陣に穴を開ければあわよくば『ノーマン少年』は逃せますが、逃げられるとそれはそれで面倒なので保護して懐柔がよいでしょうか。

●戦場:天義の街中。
 封魔忍軍側も一般人を巻き込む意図はありませんが、かといって巻き込まないとは言い切れません。

  • 聖騎士の鉄槌、砕く義憤完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月14日 23時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
エマ(p3p000257)
こそどろ
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


「爺さんよ。最初に言っとくが、俺はネクロマンサーに味方する気なンざねェ」
「今まさに、死骸遣いの手先を守った君の言葉を信じろと? 面白いことを仰る」
 『最期に映した男』キドー(p3p000244)の言葉に、レオナルドは表情をピクリとも変えず、しかし明らかに怒気の孕んだ声でそう返す。
 周囲には封魔忍軍、背にはオンネリネンの子等。イレギュラーズが割って入った状況は決してゆっくり話を聞いてもらえる状況ではない。だが、ここで立場を明らかにする必要があると判断した。
「キャハハッ! ミルクとコーヒーのせめぎ合い♪ 何が正しくて何が間違ってるのか、誰が敵で誰が味方なのかわかんないねぇ? どっちだろうねぇ?」
「どっちが正しいかなんざ知らねーが、金になるなら万々歳ってカンジ?」
 『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)の言葉は情緒的でありつつも、この混沌の状況を正しく認識しているように思えた。どちらが正しいかというより、どう動くのが楽しいか、で判断される彼女に、正義と悪を説くのはお門違いなのだろうが。
 『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)はそれに輪をかけて実利的だ。払いの良い方、そして正義に反する方につく生き方。天義という国で実行するには綱渡りのそれを、彼女は平然と宣言している。
「……貴様等、ローレットか。守旧の徒、まして生命を涜す逆徒に手を貸すとはどういう心向きか」
「断罪と言って殺し合いを正当化するのが新しき天義の姿だと? 信仰とは、より善く生きるためや、罪との向き合い方を知るためにあるのではないのか! 逆徒だ断罪だなどと有無を言わせぬ姿は盲目で、まるで旧き天義そのものじゃないか!?」
「いい加減その『敵』『味方』を雑に塗り分けんの、止めてくれりゃあいいのにな」
「えひひ……いかにも天義の依頼、雇われって感じのお仕事ですね」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は封魔忍軍のひとりが漏らした言葉に思わず激昂で返した。レオナルドの苦しげな、しかし『やらねば』とメイスを握る態度に、オンネリネンの子等の追い詰められた状況に、平然と刃を向ける彼等の態度は新しい国家のありようを模索する者、とは認め難い陰湿さを覚える。それは『ゴミ山の英雄』サンディ・カルタ(p3p000438)も同感らしく、単純な二元論で話を終わらせようとする彼等に顔を顰めた。尤も、『こそどろ』エマ(p3p000257)からすれば相も変わらぬ『らしい国家性』にしか見えなかったのだろうが……。
「くくくっ、天義の連中も相変わらず、裏でこそこそするのが忙しいようで」
「この国は変わったのです。変わらぬことを続けようとする者、変化に乗じてあらぬことを行おうとする者達の蠢動こそ、『裏で蠢く』者でしょうに」
「だから、虫を潰すように子供も殺せるってのか!? 宗教狂いのマザー共より狂ってるぜアンタ」
 『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)の張り付いたような笑みから吐き出された痛烈な言葉に、しかしレオナルドは即座に反論する。その様子に声を上げたセムの目には重々しい憎しみの念が渦巻いており、先程見た惨劇をありありと想起させるものだった。保護対象なのだから怯えて背に隠れればいいものを。ウィルドがやや表情を歪めて彼を見、ついで仲間達を見た。どうしようもなく一触即発の状況で子供を如何に救うべきか、と。それと同程度には、レオナルドの人間性を目の当たりにしたことで、彼を口車に乗せるのは想定よりずっと簡単なのではないか――とも。
 なお、そんな個々の思索や状況判断よりも遥かに単純に、目の前にある興味を全てとする人種はいるものだ。
「ほうほう! 下半身不随でそれを魔防具で補助していると……!」
「それが、今の君に関係ある話だとは思えないが……」
 『A級賞金首・地這』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)はレオナルドの評判を道すがら知り得たのか、聖人としてあまりに数奇な彼の身の上に興味深げに目を輝かせた。脚に殊更に興味を抱く彼女にとって、相手が如何に珍しいかは言うまでもない。そして緊迫感の欠片も感じられないその態度に周囲の空気はしかし、警戒度を一気に増すこととなった。この手の相手は興味の対象を『どうにか』することに躊躇が無い。或いは禁術に手を染めようと。
「こ、こいつ大丈夫かよ……巻き添えで殺すつもりじゃ……!」
「嫌ですねー、仕事は仕事ですからそちらはきっちり守りますよー」
「仲間割れか? 舐められたものだな」
 オンネリネンの子等は彼女の所作に不安を覚え、封魔忍軍らはそのやり取り、そして今ひとつ煮えきらぬ態度のレオナルドの姿にどこか苛立ちじみたものを覚えた様子だった。
 イレギュラーズは『いつものこと』と割り切っている者が多いが、ローレットの『そうした』人種の知識に乏しい相手にはそうもいかない。そして、その冗談めかした状況が狙い通りであることにも。
「天義のテーブルマナーはよくわからないけど、こぼれたマシュマロで新しいスモアを作るのはそんなにいけないコトかしら?」
「少なくとも、嫌がる者の前でひけらかすのは天義でなくとも非礼というもの――」
 マリカの比喩表現は、聞き慣れた者でも理解に窮するものだ。だが、少なくとも真っ当な価値観を持つ者が眉を顰める類の行為だというのは明らか。不快感というより危機感への反射と言うかたちで、レオナルドは彼女にメイスを振り上げ。
「おやおや、噂に聞くほどの威力はありませんねぇ……何か迷いでもお有りですか? 私の仲間を痛めつけられるのは勘弁願いますが、話は伺いましょう」
 ウィルドが、その一撃を真正面から受け止めた。油断も手抜かりもないはずのそれを受け止める胆力、そして気魄。その意味を見誤る男ではない。
「爺さんよ。混沌では死者は絶対に蘇らない。完璧に見えてもよくできた紛い物だ。現世で紛い物を本物として扱うぐらいなら、地獄で蛸海賊や紫金歯ハゲのツラ拝むぜ!」
「そこまで明白に嫌っていながら、何故……!」
 キドーによる明け透けな依頼主へのヘイトに、レオナルドの表情に明らかな動揺が見て取れた。「仕事だからな」「金の為に決まってんだろ?」と返ってくる言葉は尤もなはずなのに、それにしたってこの状況は混沌としすぎている。
「子供は後回しだ、この厄介もの゛っ」
「人の世に忍ぶなら敵なら目を離さないことぐらい常識なんですけどねぇ。そんなに私達に興味ありませんでしたか?」
「いい脚ですねー。一太刀で切れない程度には鍛えているってことでしょーかー」
 封魔忍軍は弱卒ではない。どころか、この状況に駆り出された連中は上澄みですらあった。だが、ペースに巻き込まれたのが全て悪い。背後からエマに一突きにされ、正常な判断力を喪った者。ピリムの超速の一刀を辛くも凌ぐも、武器ごと深い傷を負った者。
 無論、その一合ですべて終わるならこれほど容易い依頼もなかった。
 全てが全て、己の本文を見誤る愚図だけだったのなら――。


「戦えないなら散らばんじゃねェぞガキ共!」
「馬鹿にするな! 俺達だってまだ」
「まだ、じゃねェよ。邪魔だっつってんの。巻き込みたくねえからそこから離れんなよ?」
 子供達を背にする形で立ちはだかったキドーに、子供の一人が気勢をあげる。が、ことほぎの鬱陶しげに放たれた言葉と、紡がれた監獄魔術の悪意の有様を見て、その言葉は瞬時に引っ込められる。それを受けてなお己の敵を見定めようとする、封魔忍軍の貪欲な戦意にも。
「天義は変わる。その未来を担う子供達を死なせるわけにはいかない……だから命を捨てるのはまだ早いよ、リーダー」
「二重三重にこの国を裏切ってる俺達にそれ言うのか? お人好しって言われない、アンタ?」
 イズマは先程怒鳴り返した時から、散発的に子供達に近づいてくる封魔忍軍を吹き飛ばし、距離をとらせるべく立ち回っていた。苛烈な攻撃に交えて子供達の立ち位置を確認し、キドーのもとに全員を確認した上で攻勢に転じた姿から、強い憂慮と決意のほどが伝わってきた。セムはそんな彼の姿勢を見て、その本質を瞬時に理解したのだ。
「い、今は関係ないだろう、そういう事は!」
「全くだ」
 イズマの言葉に短く応じた声の主は、流れるようにキドーの懐に入り、彼諸共に子供を毒牙にかけようと試みる。だが、それすら遅い。風を踏む様に現れたサンディがナイフを柄ごと掴み取ると、相手の刃を押し付けるようにして押し返す。自身も傷を負うが構うことか。
「子供ひとり殺すのに苦労する、ジジイの尻馬に乗らなきゃ何もできねえ。なら闇討ち以外に手はねえわけだ」
「私としても成長の余地のある脚を無惨に破壊されるのは本意ではねーですのでー、遠慮なくそちらの脚を貰っちゃいますねー」
 サンディの挑発に明白に苛立ちを示した男は、しかし次の瞬間、すでに両脚を喪っていた。意識さえも、だ。
 ピリムの斬撃の冴えもさることながら、宙に浮いたのを狙ってマリカの術式が叩き込まれたことも起因する。
「腐り落ちた果実に農夫の都合を考えろだなんて酷な話だわ♪ あっちもこっちも生者の都合でしかないのかもね……?」
「何を言って」
「ああ、あなた達の都合は正直どっちでもいいの♪ マリカちゃんは死者の『お友達』……ネクロマンサーだから❤」
 息絶える寸前、男はマリカの口から吐き出された事実に愕然とした。死霊遣いが、忌むべき天義の膿に成り変わる者が、よりにもよって。
「命を涜すか、下郎」
 レオナルドの目に明白な敵意が宿る。振るわれたメイスから放たれた風圧はさきの初撃の比ではなく、ウィルドを一瞬なり引き剥がすことに成功する。勢い、マリカめがけ振り下ろされたメイスはサンディにより弾かれ、互いに苦しげな表情を見せて距離を取る。方や無念さに、方や一撃の重さに。
(こっちの雇い主が明らかに倫理観ダメダメなので、説得の言葉が浮かばないんですよねぇ……子供達に罪はありませんから、残りは私『達』で片付けちゃいましょうか)
「オイオイ、ガキを狙うだけじゃなく一般人まで巻き込むつもりかよ!」
 エマは一連の流れと、レオナルドの怒りに一定の理解を示す。封魔忍軍の暗躍するような動きはたしかに碌でもないものだ。されど、心から嫌うネクロマンサーを堂々と名乗られ、あまつさえアドラステイアの手先を匿う自分たちがどう見えるかなど十分承知している。
 だから、それに輪をかけて一般人を口実にすることほぎの言葉には彼女も流石にあっけに取られた。言っていることは至極真っ当で、今のレオナルドの攻撃はそれすら見えていなかったように思えるが……ここで言うのか。
 レオナルドの目に赫怒の光が宿る。だが、イズマやキドーへ踏み込めないのは……やはり迷いあらばこそ、か。


「くくっ、私は口が裂けても善人などとは言えませんが……流れる血が少ないならその方が良いとは思いません? これから更生できるであろう幼子を、導きもせず殺すのは少々心がいたみませんかねぇ?」
「おうよく見ろよ、お前らが追い詰めたガキ共を。こいつらの後ろにいて、便利に動かしてるのは誰だと思う?」
「……君達は、その子等に更生の余地があると?」
 怒りに震え、メイスに込められた力は明らかに今まで最大のそれ。だが、レオナルドの目には怒りのうらに理性がある。問答無用にすり潰すことを拒む心の動きがある。
「オウよ。目の前に出てきた敵をただ叩き潰してるだけじゃ、旧い天義……死霊使いの戴冠魔種に踊らされてた頃とおんなじだぜ」
「レオナルドさん、貴方の迷いは正しい。何故なら子供達はイモータルレギオンではないのだから」
 キドーが肩を竦めると、イズマはオンネリネンの子等をちらりと見て首を振る。メイスを持つ手が僅かに緩む。「状況を整理しよう」と口にした彼の姿を見て、レオナルドはぐ、と喉を詰まらせたように唸る。だが、自分を導いた封魔はどうなる、と。
「あーっと、アンタを追い払う前に煩い連中を全員倒しちまったなあ! アンタが逃げてもしょーがないよなあ?」
「忍軍に話を通されると俺達に不便なんでな、捕まえるなり殺すなりしたぜ。……だからもう少し話を聞いてほしいモンだ」
 わざとらしく声を上げて顔を手で覆う素振りをしたことほぎをよそに、サンディはレオナルドにそう語りかけた。
「子供達を断罪してもイモータルレギオンにその罰は届かないし、子供達は彼ら自身の行いによらない理由で殺される事になる。そんなものは秩序でもなんでもない。子供達に未来を託すのは、大人の役割なんじゃないのか」
「ガキの今後なんざ興味ねェよなァ! でもまあ、領地の労働力も足りてねェ。そこの爺さんが殺さない、お前等が得を取るなら助けてやらなくもねえな!」
「……だそうですよ。これ以上やっても泥沼でしょう、どうします?」
 イズマの強い口調に、既に終わったかのように子供らをスカウトするキドー。その態度を見て、まだ戦うかとウィルドは問う。もはや、否やはあるまい。
 私は何も見なかった、と。無理で、そして強引にすぎる言葉を残してレオナルドは踵を返す。
 その背中がやけに小さく見えたのは、断罪と称し子供の命を奪った代価か、それとも……。

成否

成功

MVP

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!

状態異常

マリカ・ハウ(p3p009233)[重傷]
冥府への導き手

あとがき

 特大の地雷を踏み抜いてる気がするけど全体的に無事だったようです……あるぇ……?

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