PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<spinning wheel>硝子作りの月夜に吼える

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「妖精郷から、ファルカウの中心へ?」
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は告知された情報を見ながら首を傾げた。
 深緑が謎の茨によって封鎖されてから少しの時間が経っている。
 茨の内側に踏み込まんとすると睡魔におそされ、命を奪わんとばかりに侵入者を拒む。
 その不自然なる存在はイレギュラーズの調査によって、徐々にだが植物ではなく一種の魔術の類であることも判明しつつある。
 そんなところへ齎されたのは、妖精郷にて姿が確認された怠惰の魔種――ブルーベルの存在だ。
 怠惰の大魔種とも密接な関係性があるとの推察さえあるその存在は、妖精郷に住まう妖精たちへ深緑側に行かない限り危害が加わらないようにしたのだという。
 そのことを知ったイレギュラーズは妖精郷へ到り、女王へある取引を持ち掛けたのだという。
 即ちは、妖精たちを危険から護る代わり、大迷宮ヘイムダリオンを踏破してファルカウの麓へ到る侵入経路を提供してほしい――と。
「この方法なら、ファルカウの下まで行けるかも! そしたらあの人を助けるヒントもあるのかな?」
 スティアの言葉に反応したのか、水色の精霊がふわり、ふわりとその周囲を回る。
 精霊の言葉こそ分からないものの、意図ぐらいは流石に分かる。
「スティア!」
 声を聞いてスティアが振り返れば、誰かが飛んでくるのが見える。
「オデットさん? どうかしたの?」
 真っすぐに飛んできたオデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は少しばかり呼吸を整えた。
「私、もっとその子と話をしたいの。良いかしら?」
 そう言ってオデットが目配らせしたのは、スティアの肩――そこに揺蕩う小さな水色の光。
「この精霊さんと? うん、いいよ」
「ええ、その子について、もっと知りたいの」
 スティアの肩に浮かんでいた水色の光が、ゆっくりとオデットの前へ出る。
「そういえば、あの時は挨拶してなかったわね。
 オデット・ソレーユ・クリスタリアよ。よろしく」
『こんにちは……私に何か、御用ですか?』
 対話を試みれば、驚いた様子の声が響く。
「貴女の事を教えてほしいの」
『私の事? でも……』
 精霊がスティアの方を窺うような様子を見せる。
「その子の事が気になるの?」
 オデットが言えば、何となく肯定したような雰囲気があった。
「そういえば、貴女が守っていた人は誰?」
『ヴィオレットは友達。私の大切な友達よ。
 あの子が眠っちゃってから仕方ないの……だから、あの子を助ける方法を教えてほしいの』
 精霊はオデットに縋るように言うと、ふわりと浮かぶ。
 オデットはスティアへ精霊の言っていたことをそのまま伝えれば。
「あの人はヴィオレットっていうんだね。うん! もちろん! あの人には、私も聞いてみたいことがあるから!」
 亡き母によく似たあの幻想種。
 何となく、自分の知らない母とのことを聞いてみたくなっていた。
『――ありがとう』
 それは、通訳する必要もなく、スティアにも届いていた。


 大迷宮ヘイムダリオン――その中を進んでいたイレギュラーズは、通路のような場所を抜けた先にて立ち止まった。
「あれ? これ、どうなってるの?」
 周囲を見渡せど、辺りは漆黒に包まれている。
 オデットは恐る恐るながら一歩前に出てみた。
 カツン、というガラスにも似た音が鳴り、反響していく。
 反響の長さからするに、思いのほか広い空間に出たことだけは分かる。
『――――ゥ』
 一瞬、何か音がした。
 それは、何かの鳴き声のようで、或いは息遣いのようだ。
「……何かいるみたい?」
 スティアは小さく声を出した。
 敵対勢力――魔種や邪妖精の可能性を考え、少しばかり声を落とす。
 その時だ。不意に周囲に光が差した。
「あれって……月じゃない?」
 オデットは空を見上げて指をさした。
「ほんとだ! すごく小さいけど、多分、月だよ!」
 顔を上げたスティアも頷いた。
 新月から月面が少しだけ顔を出したあたりか。
 次いで、視線を下へ向ける。
 微弱な光に照らされたその空間は、開けた場所が広がっている。
「不思議……踏んだらやっぱりガラスか大理石なのに、目の前に広がってるのは平原にしか見えないわ」
「うん、開けた原っぱと、小川、それから……お墓があるよ」
 頷いたスティアは辺りを見渡して小川とそれから朽ちかけた墓標の並ぶ墓場を目に移す。
『ァァアアアア!!!!』
 不意に、女の絶叫が反響して響き渡った。
 ぎょっとしてそちらを見ればそこには人影――いや、人の形をした影がある。
「――あれは」
 人と比して、かなりの長身だ。2、3mほどはあろうか。
 ずんぐりとした体躯は丸まっていて、全身が体毛に覆われている。
『フゥ――フゥ――アァァ!!』
 そいつが、空へと吠えた。
 天へ向けて吼えたことで、影が狼のような顔をしていることを把握して――なるほど、どうやらあれが邪妖精の類であろうと察しを付けた。
 咆哮に応えるようにして、周囲の影から複数の影が姿を見せる。
 それは闇に溶けるような漆黒の犬のように見える。
 ただただ、闇のなかに見える赤は瞳と口の中の色か。
 それらを引き連れるようにして、人型の存在、一歩こちらに歩み寄る。
 ずるり、ずるりと何かを引きずる音がして、鎖が軋む音が続く。
 よくよく見れば、狼のような顔には額辺りに一本の角が生えている。
『クラウ、クラウ、クラウゥゥ――――ァァァ!!』
 女の哭くような絶叫が、狼の顔から聞こえてきた。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 <spinning wheel>では2本ほど参ります。

●オーダー
【1】ヘイムダリオンを突破する。

●フィールドデータ
 視界に広がる光景は小川と草臥れた墓石の散見する平原ですが、
 踏みしめると硝子や大理石を思わせる硬い感触があります。

 また空に月が浮かんでおり、ターン開始時に1日分ずつ月の満ち欠けが進みます。
 三日月(3T)、上弦の月(7T)、十三夜、十五夜のタイミングでルーヴェストの強化が行なわれます。
 一方、下弦の月(20T)以後、急速な弱体化が起こります。

●エネミーデータ
・『女狼柩』ルーヴェスト
 2、3mほどありそうな人狼を思わせる邪妖精です。
 痩せぎすの身体と鋭利な鉤爪、獰猛な牙を持ち、額辺りに1本角を生やしています。
 片手で重そうな棺桶を引きずっています。

 強靭な物神攻、EXA、命中を持ちます。
 【邪道】【出血系列】【麻痺】【致命】【HP吸収】のBSの攻撃を用います。
 攻撃範囲は至近~近接を主体とします。

 上記スペックに加え、ターン経過により以下の特性を発動する『月の魔力』を持ちます。

三日月:柩を振り回して中扇、中範、自域範囲を攻撃可能にするパッシブスキル【三日月】が発動します。
    この柩には【泥沼】【体勢不利】【崩落】を与える可能性があります。

上弦の月(7T):上記に追加してパッシブで反応、回避、抵抗を強化するスキル【上弦の月】が発動します。

十三夜:上記に追加して【反】【復讐】を発動するパッシブスキル【十三夜】を持ちます。

十五夜:上記に追加してパッシブで【再生】【充填】【攻勢BS回復】を得る【十五夜】が発動します。

十六夜:【上弦の月】を打ち消す【十六夜】スキルが発動します。

下弦の月(20T):【十六夜】を除く『月の魔力』を打ち消すパッシブスキル【下弦の月】が発動します。

・ブラックドッグ×5
 漆黒の毛並みと紅の瞳をした大型の犬型の邪妖精です。

 そこそこ高めの反応速度とHP,物攻が特徴的です。
 ブラックドッグはルーヴェストと異なりターン経過による強化が生じません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <spinning wheel>硝子作りの月夜に吼える完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月06日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し
浅蔵 竜真(p3p008541)
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
九重 縁(p3p008706)
戦場に歌を

リプレイ


 黒犬たちの遠吠えが戦場に反響する。
 それはさながら会話のようであり、警告のようであった。
「月とか相性最悪もいいところなんだけど……」
 踏み入れた戦場に改めて思う『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は太陽の妖精である。
 そう言った意味では完全にアウェーと言える。
(……でもここを抜けないとあの精霊の願いは叶えられない。
 私も馬鹿よね、サイズにさんざん落ち着けって言ってるのに精霊が絡んだら熱くなっちゃう)
 視線の先で浮かぶ精霊を見て、ふるふると顔を振り、ぺちぺちと頬を叩いて。
「やってやるわ。深緑を目覚めさせて、眠ったままのヴィオレットも行方不明の妖精も救う!」
 それで、なんてことない顔をして、また無茶するんだからって叱るのだ。
 それだけは言葉に出さず、胸に秘める。
 視線の先、オデットが気にかける『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は既に臨戦態勢にある。
(ヘイムダリオン……相変わらずな状態だな。
 前よりも危険になってる気がする……のは、俺の気のせいであってほしいが……)
「いや、邪妖精が沢山出てくる時点で危険度は比べた所で意味ないか……。
 邪妖精は妖精の敵……全て斬滅して見せる! 妖精鎌サイズ……妖精の安全の為に全力を尽くす!」
「一面の野原に、空にぽっかりと浮かぶ月。幻想的で美しいけれど、そればかりではありませんね」
 空を見上げた『月下美人の花言葉は』九重 縁(p3p008706)はまだ本のわずかな月明かりを見上げた。
「迷宮って言っても、ただの迷路みたいに通してくれる訳じゃないんだね」
「何だか変わった場所だね。
 ヘイムダリオンは前に通ったときもそうだけど、迷宮という感じがあんまりしなくて……」
 『毒亜竜脅し』カナメ(p3p007960)に頷いたのは『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)だ。
「向こうのあれも魔種が作り出した敵だったりするのかな?」
「あれは邪妖精みたいだけど……どうなんだろ」
 ずるりと棺桶を引く邪妖精らしきものと周囲の光景にカナメが首を傾げれば、アレクシアも同じく。
「嫌な組み合わせだよね」
 大柄な人狼を見据えてそう応じた『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は言う。
 月に人狼――如何にも相性の良さげな、こちらにとっては嫌な組み合わせだ。
「少しでも状況を動かす為に今できることをやらないと……そのためにもまずはファルカウの麓に到達しないとね!」
 自らを鼓舞するように言ったスティアの周囲をふわりと水色の精霊が飛び、そっと身を隠す。
(精霊さんとも約束したし、ヴァイオレットさんが眠りから目覚めたら聞きたいことはいっぱいあるから絶対に助けなきゃ!
 それに、お母様も喜んでくれるような気がするから……)
 呼応するように、握るセラフィムが羽根を広げた。
「人狼、ワーウルフってやつか。だがあの棺桶はなんだ? ただの棺ならそれでいいが……あれが本体っていう可能性もなくはないか?」
 愛刀に手を置いた『刺し穿つ霊剣』浅蔵 竜真(p3p008541)も、その邪妖精のただならぬ姿に違和感を持つ。
「ま、どっちにしたってここは通らなきゃいけないんだから、倒すだけだよね♪」
 カナメはすらりと愛刀を抜いた。
 微かな月明かりを浴びて赤黒い刀身が光を反射する。
「えぇ、先を、後を征く仲間のため、そしてその先にある深緑と、まだ囚われたままの人々のため! 立ち止まるわけには行きませんとも!」
 同意して縁は愛機へ飛び乗った。
 片手にマイクを握る文字通りのヴァイオレットカラーなウサ耳ロボットはマイクロフォンを設置するようにして地面へ突き立てる。
「なかなか厄介そうな相手だけど、この先に深緑があることを考えれば、ここで負けるわけにはいかない! 絶対に通してもらうよ!」
 アレクシアも頷けば、魔力を循環させていく。
(ン。不思議 場所。フリック 墓守。
 墓場 騒動 不本意ダケド。
 待ッテテ。平穏 取リ戻ス)
 迷宮の中、忘れ去られたような墓場に『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は思いを馳せる。
 墓守として草臥れた墓標を見過ごすわけにはいかないのだ。
『スベテ、スベテ、クイツクス!!』
 人狼が咆哮する。
 それに応じる黒犬たちが跳ねるように動き出した。
 一斉に飛び掛からんとする黒犬たちの前へ躍り出たのはカナメだ。
「牙と爪が、深くまで入って……うぇへへ、イイよおいで♥ カナに、もっとじゃれついて♥」
 突然姿を見せた女性に驚きながらも、半ば反射的に黒犬たちが襲い掛かってくる。
 それらすべてを受けながら、カナメは嬉しそうに笑っていた。
「カナメくん、ブラックドッグはお願い! 行くよ――」
 アレクシアは術式を構築すると、それを足元に叩きつけた。
 人狼――ルーヴェストの足元へ浮かび上がった魔方陣には小さな黄色の小花が開いている。
 一斉にルーヴェストの四肢を、胴を絡めとらんと茨が殺到していく。
『ォォォォ!!!!』
 締め上げられた狼が天へと咆哮を立てる。
 同時、サイズは既に動いていた。
「負けられないんだよ!」
 握りしめた血色の鎌が鮮やかな光を帯び、振り払われた斬撃を血に染める。
 真っすぐに駆け抜けた2枚の斬撃は、2度に渡ってブラッグドッグの身体を強烈に切り裂いた。
「暴れられると困るからね!」
 スティアが生みだした終焉の花が、ふわりと浮かび上がる。
 それはくるくると回りながらルーヴェストの頭上まで飛んでいき、ほろり、ほろりと一枚ずつ花弁が落ちていく。
 降り注ぐ花弁に触れて、ルーヴェストの身体が引きつったように動き出した。
『オォォォォ!!!!』
 激昂するが如き唸り声を上げたルーヴェストは真っすぐにアレクシアめがけて突撃していき、鋭利な鉤爪を持つ腕を振り抜いた。
 しかしそれはアレクシアの障壁の耐久度を超えることはない。
 苛立ったように喉を鳴らしたルーヴェストが今度は大口を開けて食らいついてきたが、それでもまだ障壁が軋むだけだ。
「まずはブラックドッグからだな……一匹ずつ確実に対処せねば」
 竜真の視線に黒犬の一匹が映る。
 刹那、竜真は手を添えた愛刀を振り抜いた。
 最速の居合抜きにより放たれた審判の一刀がそのブラックドッグに大きな傷を入れる。
 だがそれだけでは終わらせない。
 振り抜いた先、刀を握り、返すままに振り下ろす。
 聖光纏いし斬撃が美しく月夜に閃いた
「夜だって関係ないわ。熱砂の嵐はいつだってここに来てくれるもの」
 どこからともなく姿を見せたその精霊はルーヴェストめがけて飛翔すると、その周囲を何重にも旋回を繰り返す。
 やがてそれは砂嵐となり、ルーヴェストへと重くのしかかる。
 その砂の圧迫に、ルーヴェストの動きがますます鈍りつつあった。
「ファーストナンバー! いきますよぉ!」
 突き立てるようにして支えたマイクロフォンから縁の声が響く。
 アップテンポで繰り出されたその曲は仲間達の精神力を鋭く研ぎ澄ませる応援の一曲。
 そのままアンコールとばかりに自身の溢れる生命力を力に変えて歌いあげれば、それは癒しとなって仲間の耳を打つ。
 連撃を受けながら悦んでいるカナメを見ながら、フリークライが魔術を行使する。
「回復 任セテ」
 鋼の巨人は静かに言えば術式が起動し、周囲が温かな緑色の光に包まれる。
 その刹那、物静かで優しく温かな音色が幻想的な福音となり光の中にある仲間の傷を癒していく。


 月明かりが満ちていく。
 戦場を見下ろすものが綺麗な曲線を描く三日月へと移り変わった時だった。
『ゥォォオォォン!!!!』
 ルーヴェストの遠吠えが戦場に響き渡り、その四肢が筋肉質に膨れ上がる。
 それを間近で見たのはアレクシアだ。
 筋肉量の増加に伴い、ただでさえアレクシアをすっぽり覆いつくしかねなかったルーヴェストの体格が、さらに大きくなっている。
「なんだか、強化されたみたいだね……!」
 舞い散る花弁をルーヴェストへ向けて走らせれば、その筋肉質になった体の一部に突き立ち、浸透していく。
「こんな戦場だし、やっぱりそうなるよね! アレクシアさん、気を付けて!」
 スティアは姿の変わった邪妖精に思わずつぶやいた。
 言いつつも、視線はブラックドッグへ。
 その只中へ踏み入れば、セラフィムの羽根が刃となって周囲にいるブラックドッグに傷を入れる。
 神聖は呪いとなって黒犬に縫い付けられた。
 ルーヴェストは棺桶を手繰ると、自身の周囲へ思いっきり振り回した。
 シンプルな質量と遠心力を加えた横殴りの棺桶が、アレクシアの身体を強く叩きつけられた。
「く――ぅ! まだまだ――負けない! 絶対に、勝つんだから!」
 一つ呼吸して、溢れる魔力を自身の魔力障壁へ注ぎ込む。
 衝撃にひびが入った障壁障壁を、白き花が覆いつくしていく。
「私が隙を作るわ!」
 棺桶を手繰って振り回したルーヴェストからやや離れ、オデットはそう言うや空中に魔方陣を浮かび上がらせる。
 計4つの陣は一斉にルーヴェストの方を向いて照準を合わせ、毒を、炎を、旋風を、雷光を放つ。
 それらを棺桶で防ごうとしつつも、多重に向けられる魔術に唸り声が上がる。
「どんどんいきますよぉ!」
 反響する戦場に縁の歌声が響く。
 落ち着くバラードによって冷静さを取り戻し魔力や息を整えたかと思えば、ポップな一曲で元気を取り戻させる。
 歌姫の一曲一曲は戦場にて際立っている。
「ン。大丈夫 支エル」
 フリークライは小さく肯定の意思を示すと、温かな光を放つ。
 福音をもたらす幻想の音色は鋼の巨人より温かな優しい風に運ばれて仲間の傷を癒していく。
「どうしたの? 大丈夫だよ、おいでおいで♥」
 カナメは恍惚な表情を浮かべながらブラックドッグを手招きする。
 ある犬は吼え、ある犬は身を低くして唸り、ある犬は勇気をもって飛び掛かる。
 その瞬間、カナメの手に握られた赤黒き妖刀が滑る。
 流れるように走った軌跡に見舞われた黒犬はくぅんと情けない声を上げた。
「オデットさん!」
 サイズはルーヴェスト相手に戦う仲間達に視線を向けた後、再びブラックドッグへ向かっていく。
(なるべく早く、こいつらを狩りつくす!)
 再びの連撃は血色の軌跡を三日月夜の戦場に映え映えと照らし出されていた。
 手負いのブラックドッグを見下ろし、竜真は上段から真っすぐに愛刀を振り下ろす。
 鋭い連撃を見舞い、一旦納刀して、ふと一息ついた。
「さて、あと何匹だ……」
 ざっと視線を巡らせてブラックドッグの数を数えれば、一番近くにいた個体を次に定め、刀に手を置いた。


 月が満ちるたび更なる加護を受けていくルーヴェストの攻撃はすさまじいものがあった。
 だが満月を越えた直後から、その動きは明確に下がりつつあった。
 そうして最後、月の魔力は潰えていく。
「貴方の月は隠れてしまったようですね。ふふ――私で我慢して下さい?」
 ルナ・ヴァイオレット――紫色の月たる縁がその内側で微笑めば、ルーヴェストは唸るばかり。
「さぁ、ラストアンコール、聞いて下さいね!」
 ウインクして余裕を見せてから、きっと最後の一曲となる者を歌い始めた。
 苛烈な猛攻撃を耐え忍んだのはアレクシアであり、カナメであった。
 パンドラの光が花弁となって咲き誇り、アレクシアの身体を包み込む。
「ごめん、カナメくん……あとはお願い!」
 アレクシアに入れ替わってルーヴェストの前に立ったカナメはその猛攻を受け入れていた。
 いな、寧ろ恍惚としているというべきか。変わらぬ調子のカナメに、ルーヴェストは怯えたように呻く。
「うぇへへ……耐久戦最高~♥ また来たら同じこと出来るかなー?」
 その様子を知ってか知らずか、カナメはゆらゆらと揺れながら笑っている。
「待たされた分だけのストレス、ここでぶっ放す!!!」
 爆ぜるように飛び出したのはサイズだ。
 圧倒的な速度となり、紅の彗星となったサイズは、慣性を味方にルーヴェストを切り裂いて、そのまま刃に魔力を揺蕩わせる。
「深緑に取り残されているはずの妖精を救う為にも俺は絶対に止まれないんだよ!」
 全霊を込めた紅き閃光が、ルーヴェストを上段から切り開く。
「ここまで耐えきれたんだ……頑張って、押し切ろう!」
 スティアは声を上げると、ルーヴェストの背後へ回り込む。
 終焉の花は咲き乱れ、セラフィムの破片は戦場を彩り、ルーヴェストを取り囲んで押しとどめる。
 振り返りざま、殴りつけてきたルーヴェストの攻撃も、さほどいたくはない。
 幻想の福音を以って舞い散る天使の羽根による自己回復で十分事足りる程度であった。
「相性は悪いけど、月明かりだって私の力になるのよ」
「私の魔法を見せてあげるわ。いち、にぃ、さん、よん」
 戦場に浮かぶはオデットが築き上げた4種の魔術。
「なんてね。別に友達の力を借りなくてもいいのよ?
 多段攻勢となる魔力砲撃が一斉に放たれれば、それは戦場を覆いつくさんばかりの代物となってルーヴェストを包み込んでいった。
 悲鳴のような遠吠えが眩く輝くルーヴェストの方から聞こえてきた。
 その集束を待つことなく、竜真は走り出す。
「消えるといい。棺とともに大地へ。光の下から還るときだ、人狼」
 肉薄し、痩せぎすの巨躯の懐へ。
 全霊を以って振り払う審判と聖光の連撃。
 美しくも激しい斬撃の終息に、ほぼ無理矢理に刀を構えなおす。
 青白い光が充足し、溢れだした頃、一気に振り抜いた。
 その眩い閃光はルーヴェストの腹部を大きく断ち割る。
 それと同時、月が失せて戦場が静寂に包みこまれた。


 戦いが終わった後、フリークライは走り出そうとする仲間達に少しばかりの時間を貰っている。
「ン。戦闘 荒ラシテシマッタ分 オ詫ビ」
 墓守として、草臥れたままの墓標など見過ごせるわけがなかった。
 他の面々にも手伝ってもらいながら、掃除を綺麗に掃除していく。
 ついで、邪妖精も妖精式の作法で弔った後、今度こそアンテローゼめがけて動き出す。
「死ネバ ミンナ 星。ミンナ 花。ミンナ 命。オヤスミナサイ」
 そう告げたフリークライの言葉はその戦場に消えていった。
「不思議な月だったな。
 あれもあの人狼のために迷宮が用意した舞台装置だったりするんだろうか」
 その道すがら、竜真が思いはせた呟きを答えられるものはいない。

成否

成功

MVP

カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
MVPはカナメさんへ。

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