シナリオ詳細
誰も呑んではならぬ
オープニング
●天然酒の噂
覇竜領域デザストルには、それがあるという。
人の手を加えず、全て自然が作り出す伝説の酒。
とある岩山の洞窟の奥で、一滴ずつ零れ落ちる、その酒。
1年かけて、ようやく酒瓶に1本。
それ程に貴重なその酒は微かな甘口で、呑めば覇竜の大地の持つ力の大きさを知るという。
だが、何しろ1年に1本だけという酒だ。
盗難を防ぐために限られた者しかその洞窟の場所を知らず、出来た酒は酒守によって「活躍した者」にこっそりと授けられるという。
亜竜集落の里長達ですら、呑んだ経験は数えるほど。
そう、こればかりは権力でも腕力でもどうにもならない。
何しろ酒守たる黒鉄・相賀がそれを許さない。
誰かに渡す時期もバラバラの為、いつ出来るかすらも分からないのだ。
いつも人知れずその酒は出来て、人知れず誰かの手に渡る。
そういう酒であり……覇竜広しと言えど黒鉄・相賀だけがその酒を用意できる。
だが、その「名前」だけは知られていた。
瓶に巻かれたラベルに書かれた、その伝説の酒の名は。
竜涙。まさにその出来る工程と、覇竜という場に相応しい名前であると言えるだろう。
●覇竜天然酒「竜涙」
「で、これがその竜涙の瓶なんじゃがな」
「言い値で買い取りましょう」
「落ち着かんか」
小切手を取り出す『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)を相賀が瓶でゴンと叩くと、寛治はハッとした表情になる。
「この音、重さ……空ですね?」
「うむ。これはただの瓶じゃからの。来年用じゃ」
「ちなみに所有権はお幾らで」
ゴン、と瓶で叩かれる寛治。そういう話ではないらしい。
「そうがっつかんでも、今年のはお主等にやるわい」
では、どういう話なのか。
相賀のことだから、ただでくれるという話ではないだろう。
「実はじゃな、この竜涙。1年分を集めとるせいか完成が近づくほどに香りが強くなっての。モンスターを引き寄せるんじゃよ」
特に寄ってくるのはグルメなサイクロプスだ。
やはりグルメなせいか良い酒も分かるらしく、この時期になるとフラフラと引き寄せられてくるのだ。
その体躯で呑めるほど取れるわけでもないのに、洞窟の中に手でも突っ込まれたら一年分が台無しになってしまう。
そこで例年であれば相賀が頑張っていたのだが……。
「ま、今年はお主等もいるしのう。色んな活躍を鑑みれば、得て当然じゃろう?」
グルメなサイクロプスを追い返して、最後の一滴が瓶の中に落ちるのを見守る。
そうしたら、今年の「竜涙」を楽しむことができるというわけだ。
幸いにもグルメなサイクロプスは、ある程度ダメージを与えれば諦めて帰ってくれる。
「しかし……その最後の一滴というのは、どのように判断するのですか?」
「うむ。酒を嗜む人間なら匂いで分かる。その一年分の完成となる一滴が落ちた瞬間、まるで花開くように香りが変わるからのう」
勿論、それを見極める事が出来るのは酒に詳しい者……具体的にはよく酒を嗜む者達だろう。
竜涙を完成させる、最後の一滴。それが落ちたことを見極め、瓶を回収する。
新しい瓶のセットは相賀がやってくれるが、完成した竜涙の今年分は寛治たちのものだ。
「どうじゃ、やる気の出る話じゃろう? 取り分も好きに決めてええぞ」
ちなみに、ちなみにだが。
竜涙に余計な香りやアルコール分が混ざるのを防ぐため、現場に向かう者は前日から酒を抜かなければならない。
勿論酒の持ち込みも禁止だ。
厳粛な気持ちで竜涙の完成を見守る。
そういう仕事なのだ。
- 誰も呑んではならぬ完了
- GM名天野ハザマ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年03月26日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●爽やかに厳粛に
デザストルに、爽やかな風が吹く。
酒の香りなど一切感じない爽やかな朝だ。
今日この場に集まった者は一切のアルコールの香りはなく、此処には一滴のアルコールもない。
たとえ此処に体内のアルコールを完全に検知できる仕組みがあったとして、全員の体内からは全く検出されないだろう。
「寛治が即座に小切手を取り出す程の酒か。なるほど、相当な美酒である事は間違いなさそうだ。ふむ……実に楽しみだな」
『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の思考も非常にクリアだ。とても健康的な朝を過ごしている。
「幻の天然酒なんてそんなの飲んでみたいに決まってるのだ! 遠呂智ちゃんにも脅されたし……」
「幻の天然酒、竜涙! 酒飲みとしても是非とも飲んでみたい逸品! なのでヘルミーネちゃんに(無理矢理)お願いしてついてきたわ! フフフ、何でもするって言ったものね? という訳で私もここで傍観させていただくわ、相賀翁」
『何でもするって言った』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)もまた、前日から酒を抜いている清廉な身体だ。
傍らには草薙 遠呂智も一緒にいるようだ。こちらもしっかり酒は抜いている。
今日に挑む為の準備はバッチリというところか。
「この為に前日は断酒してきたのだ! ……お陰で寝つきが最悪だったのだ……だけど、そんなのも竜涙の一杯の為なら何のその!」
おっと、身体の機能に色々問題がありそうだがさておいて。そんなヘルミーネを期待の視線で『未来を願う』ユーフォニー(p3p010323)も見ている。
(日頃のお礼に、相賀さんに竜涙を飲んで欲しい。もし多めに頂けたら少しミーちゃんたちと飲んでみたい、のんだくれホイホイに引っかかる人がいるか試したい。やりたいことはいっぱいありますが……まずはアーリアさんがお酒を飲んでしまわないように全力で止めます! 止めたら竜涙を分けてくれるそうですし、もふもふ好きのようなのでミーちゃんたちを抱っこしてもらって、気を紛らわせてもらうのもいいかもしれません♪ ヘルミーネさんと独り占め反対同盟を組みましたし、皆さんに行き渡るよう頑張りますよ……!)
おっと、どうやらヘルミーネとユーフォニーはタッグを組んだようだ。仮にこのチームをマシンガンズとしておこう。命名に特に意味はない。
一方、『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)も燃えていた。
「名前を出したらおかーさんに絶対取ってこいって言われたので頑張って竜涙を手に入れたいと思います! 手に入れないと修行でぼこられそうだもん!!! やだー!」
何やら切実だ。是非頑張ってほしいところだ。
「ほう、伝説の酒の完成を見届ける機会が得られるとは。酒の所有権を巡って激しい戦いが起きそうだが、それを見るのも良いか」
「エルは、お酒が飲めないので、香りがない炭酸水と、お猪口を用意しました」
『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)と『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)は、そんなことを言い合う。
何とも穏当な会話だ。余裕というものが垣間見える。
「俺も今回はプロレス観戦予定なんだが、そのナッツは何処で手に入るんだ? 相賀殿」
「エルもおやつとおつまみ用に、匂いがないナッツをたくさん持ち込みました」
「ほっほっほ。儂のはスターナッツと言っての。此処の特産品じゃが……後で分けてやろう」
黒鉄・相賀ともそんなことを言い合って、実にほのぼのとしている。
さて、では此処で酒と縁深き超人2人を見てみよう。
1人は『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)。
「――今日の私はJK。いえ、昨日からよ、そう未成年だからお酒なんて飲めませんし? タピってフルーツ大福と台湾からあげと飲むわらび餅しか勝たんし? お酒とかわけわかめでまいっちんぐ~」
うわキッツ。
JKアーリア・スピリッツ28歳。
ゆるふわへべれけお姉さんで大体酔ってるし、そもそも元の性格的に素面でも大差がない。
色々と適当でゆるい。とはいえそれなりに大人、意外としっかり、悪いお姉さんな面もあるらしい。
そんな未成年のJKアーリア・スピリッツ28歳。
28歳。
JK。てゆーか、マジやばくない???
アーリアの惨状に周りが皆、きまZ。
うわキッツ。
「うっぷ。ハァ、ハァ、心頭滅却明鏡止水!! この日の為に習得した苦行で我慢……! 何だか最後数時間は相賀さんに新田さん共々縛られていたような――ウッ頭が!」
大丈夫だろうか、このJKアーリア28歳。
洗脳が解けた末期の改造人間みたいなことを言っている。
さておいて『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はどうか。
優秀なファンドマネージャだ、きっと体調管理も万全なことだろう。
ほら、今日も眼鏡がキラリと光っている。
「くっ、何やら孤立無援四面楚歌な状況のようですね。今からでも入れる保険ありませんか? くそ、考えろ、考えるんだ新田寛治! まだだ、まだ活路は……!」
なんだろう、急に予期せぬ世界経済の煽りを受けて乱降下する相場を目の当たりにしたかのような顔をしている。
ともかく、その作戦を思いつくまで寛治には時間が必要なのだろう。
だからこそ、やってきたネオサイクロプスはまさに千載一遇のチャンスに見えたのだ。
「グルメネオサイクロプスさん今日もご苦労様です。ここには美味しいものは特に何も無いですが、どうしてもというなら鉛玉をご馳走しますね。目が大きくて狙いやすいですね。はい、ラフィング・ピリオド2連発」
いや、そんなことはなかった。
言外にさっさと帰れと言っている。
「いつもすみませんね。お気をつけてお帰りください」
口でも言った。さっさと帰れ感が凄い。
「とにかくまずは竜涙を守らないと。第一試合、VSサイクロプスよぉ!」
「え、ネオサイクロプスさんに対してもプロレスですか……?!」
空いた甕を殴ってゴングを鳴らすアーリアにユーフォニーがそんな当然なことを言うが、安心してほしい。
これが通常運行である。
「あ、相賀さんは巻き舌でリングインのアナウンスよろしくねぇ」
「西ィ~、アーリアの海ィ」
「よいしょお! って違うわよ! 何処で習ったの相賀さん!」
ともかくアーリアとユウェルがリングインである。
いや、それだけではない。汰磨羈がロープから……飛んだ! 誰だロープ張ったのは。
「何はともあれ、まずはこのサイクロプスを追い払わねばな? 盃も持たずに手で呑もうとするような、風情のふの字も分からぬ輩に味わわせる訳にはいかぬ! ――ということで!」
リングインした汰磨羈が、叫ぶ。
「ROUND1、ファイッ!!」
そんな汰磨羈が狙うのは、サイクロプスの脛やふくらはぎだ。
そこを只管に、ローキックで攻撃する……そんな戦術だ。
「ローキックは格闘技の基礎オブ基礎! ただ只管に、打つべし! 打つべし! 今、私はローキックの鬼となる! その足が生まれたての小鹿のようになるまで蹴り倒してくれるわぁーッ!!」
そしてなんとベネディクトも見事な縦回転からのリングインをきめる。
「俺は凶器、もとい武器を使っての何でもありのプロレスだぞ」
おっと、甘いマスクにダーティファイト。初手から凶悪ファイト宣言だ。
初手は絶刺黒顎をネオサイクロプスの向う脛にダイレクトアタック、中々躊躇いのない凶器攻撃だ。
「攻撃をするだけでは味が無いからな、来い、ネオサイクロプス!」
だが流石にプロレスラー、相手の攻撃を受け止める準備も出来ている。
いや違った、プロレスラーじゃなかったかもしれない。
「お前の攻撃を俺が受け止めてやろう! だが、覚悟をして貰おう。その怪力を受けたこの俺の次の攻撃は、より強い威力となってお前を襲うだろう。この俺の執拗な向う脛狙いに果たして耐えきれるかな?」
向う脛狙いの貴公子ベネディクト、中々強烈な宣言だが……そこにロープからぴょーんと飛んだエルがネオサイクロプスにビンタからの首筋にチョップをする。
「サイクロプスさん、ごめんなさい。このお酒は、渡せません」
「竜涙を狙う奴はシスベシ、慈悲はないのだ!」
そこに魔狼ガルムちゃんに乗って目の位置まで簡易飛行したヘルミーネがネオサイクロプスの目を狙いフェンリスヴォルフを打ち込んでいく。
さあ、その間にユウェルは助走距離を確保していた。
「ロープがないからできないと思ったか! アーリアせんぱいの用意してくれたロープの反動を利用して、助走から翼を使った飛行で勢いを増して……あたーっく!」
おっと、どうやらロープはアーリアの燈想糸繰によるものだったようである。
そしてユウェルがネオサイクロプスの頭に一撃を喰らわせに行く。
「これぞ竜式トペ・スイシーダ! そのまま倒れちゃえー!」
「いつも申し訳なくなるけれど、今回もごめんなさい……!」
そんなことをユーフォニーが言ってしまう程度には激しいプロレスで。あまりにも意味の分からない怒涛の連撃に、ネオサイクロプスも思わず逃げていく。
「花開くが如き芳香――それが、ROUND2のゴングだ! アッ、すごくイイ香り……っ☆」
「むむむ! わたしの超聴覚が最後の一滴が落ちる音を察知! うおー! 第二ラウンドー!」
「メインイベントの第二試合、イレギュラーズバトルロイヤルよぉ!」
だが、気付けば相賀がいなくなっていて。
汰磨羈とユウェル、アーリアがダメな明鏡止水を発動しながら洞窟の中へ駈け込んでいく。
そう、今日はこれからが本番なのだ。
「すごぉい☆」と叫んでいる汰磨羈の姿は……激しい戦いを予感させていた。
●今こそ呑むべし、呑むべし
「アイ・アム・マスク・ザ・ファーーーーンド!」
謎のレスラー、マスク・ザ・ファンド。
決して新田寛治とかいう優秀なファンドマネージャではない。
(とはいえプロレスと言えば組んず解れつ。ユーフォニーさんやエルさんにそんなことをしたら犯罪です)
アーリアならギリ大丈夫かちょっと考えている辺り、女性陣に「マスク・ザ・ファンド特攻」とかがつきそうな気はするが、リングは平等だ。
「こはターゲットをセクハラフリー素材のたぬきちこと汰磨羈さんに絞ります。集中攻撃で倒されるまで、組付き次第触りまくってやる! キャッチ・アズ・キャッチ・キャン!」
「最初の障害となるのはやはり御主か、寛治!」
「寛治などというイケメンは存じませんね、マスク・ザ・ファンドです!」
「フフフ。今日の私を、かつての私と同じだと思うなよ? あの時みたいに、乳を鷲掴みされるような事はアーーーーッ!?」
「今更気にすること無いじゃないですか。胸を鷲掴みにした中なんですから」
「お、おのれ、このセクハラ大魔神めっ!」
ちなみに色っぽい意味ではなくある依頼でバイクにタンデムした際、射撃時の姿勢保持に利用した過去があるらしい。
だからどうした官憲さんこっちです。
「わわわわ、仙狸厄狩さんが、大変な事に、なってしまいました」
エルがいきなりの惨状に叫ぶが、オクトパスホールドに移行しようとしているマスク・ザ・ファンドの後ろに回り腰をがっしと掴む。
「皆さん。エ ル ご と 刈 っ て く だ さ い!」
なんたる自己犠牲精神か。
「いきます、ボーアンドアロー! これだけは覚えてきました。私、弓使いなので!」
そこで即座にユーフォニーがエルごとマスク・ザ・ファンドにボーアンドローをかけていく。中々の地獄絵図だが友情のなせる業だろう。
その美しい姿にアーリアとユウェルは頷く。
「まず新田を潰すわよ!」
「おっけーですよ、アーリアせんぱい!」
「あのマスクマン、放っておいたら「これはプロレスというれっきとしたスポーツ、これも必要な技なのです」なんて眼鏡クイーしてセクハラし放題! 女子皆で新田さんを潰し――たまちゃーーーん! ああ、なんてこと……たまちゃんがあられもない姿(確定ロール)に!」
「たまきせんぱーーーい!!!」
「えっ」
掟破りのヒール技(確定ロール)をアーリアとユウェルから受けた汰磨羈が裏切られた猫のような顔をしたが、さておいて。
「犠牲は無駄にしない! アーリアせんぱい、いきましょう!」
「勿論! あれをやるわよ!」
ちなみに汰磨羈はその瞬間猫になって脱出した。諸共狩られそうな予感があったのだ。
アーリアとユウェルが前後からマスク・ザ・ファンドを囲み、アーリアが寛治(眼鏡)にラリアットを正面から極める。
「わたしもフライング尻尾ラリアット! 空中戦は亜竜のたしなみ! 尻尾は身体の一部なのでせーふ! せーふです!」
そしてユウェルがタイミングを合わせて背後から尻尾ラリアットを極めて。
寛治(眼鏡)は空を舞い、ナッツを食べていたベネディクトの顔にスチャッと装着される。
ベネディクトは、その眼鏡をクイッとさせて。
「さて、伝説の覇竜天然酒「竜涙」は果たして誰の手に渡るのか。皆で分けるのか、それとも一人だけの手に渡ってしまうのか。これは展開が楽しみですね」
「うむ。今のところまだ動いていないヘルミーネ組の作戦が気になるのう」
「本日、スペシャルゲストは酒とプロレスには一言ある黒鉄・相賀をお呼びしております。因みに、相賀殿は誰が勝つと思われますか?」
「どの選手も粒揃い。予測は非常に難しいが、此処はアーリア選手のガッツに期待したいのう」
「ありがとうございます。さあ、試合はまだ序盤にして熱い展開! これは見逃せません!」
「お主、実は結構面白い男だったんじゃの?」
「順当も順当に行くと、俺の予想だと新田かアーリアが酒に対する欲望は飛び出ている様に思うのだが果たしてダークホースは現れるのか。今回の戦い、そこにも注目です」
ベネディクトの素なのか寛治の本体と噂される眼鏡のせいなのか……議論は必要そうだ。
「取られない様にヘルちゃんが竜涙を死守するから後は皆で新田ちゃんをフルボッコにするのだ! 勿論独り占めしないと誓うのだ!」
「儂が持っとるから心配ないぞー」
「まさしく優勝カップというわけですね」
眼鏡をクイーとさせるベネディクトにヘルミーネが「ぐわー、信用ねーのだ!」と叫ぶがバトル中の選手にトロフィーを渡す者は居ないと、そういうことである。
「あっ眼鏡イケメン……」
「……アーリアせんぱいがなんか一人できゅんきゅんしてる……って、こんなことをしている場合じゃない! 残りのみんなも倒して竜涙はわたしがもらうのだー! うおー! DDT! ムーンサルトプレス! フィニッシュホールドは尻尾も使ったユウェル・スペシャル(吊り天井)!!!」
「流石にかわいこちゃんに技をかけるのなんて……いえ、貴重なお酒の為! 私は修羅になるわぁー!! 腕ひしぎ十字固め! コブラツイスト! ジャンピングフライハイアーリアエクスプロード!」
「ぎゃーなのだー!」
ちなみにヘルミーネの最優先目標の新田(眼鏡)はすでにリングアウトしている。
「マスク・ザ・ファンド? 知らないレスラーですね」
だがマスク・ザ・ファンドではない寛治がそこにリングイン。
そう、覆面を外せば別人なのはプロレス界では常識なのだ!
こんな感じの興業が自分の領土の闘技場でやっているから知っているエルも頷いている。
「見よう見まねの四の字固め! バック何とか! 何とかボディアタック!! 何にでも本気ってこの前学びました!」
「なんの、オクトパスホールド! ドラゴンスリーパー! サバ折り!」
そうして戦いは、より超次元へ……。
「ゴングが鳴るまで試合は終わらない!!!」
ちなみにゴングなどない。
用意してないから。
そして結果として全員KO……故に解説として残っていたベネディクトが暫定優勝者となり、その権利により覇竜天然酒「竜涙」は全員に均等に配られることになった、のだが。
「私の分の酒は猫サイズの容量で済ませられるという事は、その分だけ寛治に与える分も確保できるという事。セクハラは許さぬが、彼も立派に仕事をこなした身。この酒を味わう権利はあるだろう? まぁ、貸しにしとくさ。今度、美味い飯を奢ってもらうから覚悟しろ?」
「ええ。丁度良い店も知っています。後日連絡しましょう」
そんな汰磨羈と寛治の一幕があったり。
「うめーのだ!」
「嗚呼……竜涙最高ね!」
ヘルミーネと遠呂智もじっくりと楽しんで。
「……ふぅ。大丈夫、もう味は瞬間記憶したから一生余韻で楽しめるわ……ふふふ」
「わたしは飲めないしおかーさん用の1合分だけあればいいよ」
アーリアとユウェルがそんな譲り合いをしていたり。
エルが炭酸水を飲んで、ふにゃふにゃほんわりほわりとしていた。
「なんだか大人な気分に、なったような気がするって、エルは思いました。エルは、大人になって、お酒が飲める日が、とっても楽しみに、なりました」
「フッ……」
その様子をベネディクトは見ながら、軽く笑う。
「中々楽しい一日だったな、相賀殿」
「うむ。実に良い一日じゃった……ところで、此処に去年の分の竜涙があるんじゃが」
何処かで、第3のゴングが鳴ったような……そんな気がした。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
マスク・ザ・ファンドが「ま」行の変換予測候補の最初に来るようになった天野の気持ちも考えてください!
ちなみに「かんじ」って打つと普通に「寛治」が一発変換されますからね!
ほんとにもう、みんな大好き!
ありがとうございました!
GMコメント
覇竜天然酒「竜涙」を手に入れるまでは誰も酒を呑んではいけません。
そして「竜涙」は瓶1本分。どう分けるか、分けないのか。
皆様の自由です。ライバルを排除しても怒られません。酒の席の話でござる。
ただ武器は使うのやめましょうね! 拳もだ。知ってんだぞ、拳が武器の人達が私の想定以上にいるのは。
酒の席でプロレス技以外が許されると思ってんですか?
というわけで、独り占めしたい人はプロレスで競り勝ってください。
リングがルールだ。
・グルメなネオサイクロプス
覇竜領域デザストルを闊歩する強大なモンスターのうちの1体。
1つ目の巨人で、その辺で引っこ抜いてきた巨木を槍に加工しています。
攻撃方法は突き刺しと連続突き、踏み潰し。
ある程度ダメージを与えると諦めて帰っていきます。
●黒鉄・相賀(くろがね・そうが)
亜竜集落フリアノンで酒職人を営む亜竜種の老人。
それなりに戦えるらしいのですが、今回はついてきてくれます。
気の良い酔っ払いに見えますが、概ねその通りです。
義理には相応の友好を、不義理には相応の冷徹さを返してきます。
あと酒争奪戦には参加しないそうです。
匂いのないナッツを齧って観戦予定です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
地図通りのルートに沿っている限り、想定外の事態は絶対に起こりません。
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