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シナリオ詳細

暴かれるべき『悪夢』の闇

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 『冥刻のエクリプス』事件。
 国家の在り方を劇的に変えたこの1件は、天義の人々の在り方まで大きく変えた。
 とりわけ、中枢部の意識改革は大きく、現状は更生、社会復帰を念頭に置いた施策を行っている。
 ただ、そんなやり方に異を唱える者達がいた。

 中枢の力が完全には及ばぬ地方では、各地の有力貴族らが改革を行う中枢に異を唱える保守強硬派が力を蓄えている。
 天義の地方貴族、アリスター・ジョン・ブリストルもその一人。
「大義とは一体……」
 普段から頭を抱え、片頭痛餅であるアリスター。
 その周囲には、桜色の鎧を纏う女性聖騎士達。凛々しくも美しい彼女達は神事に携わるアルスターの護衛に全力を尽くす。
 それらにやや鼻を伸ばしていたアリスターだったが、同じく近場にいた白銀の鎧を纏う子供達には見下すような視線を向けて。
(こんなガキどもの力も借りねばならんとは……)
 彼らはオンネリネンの子供達と呼ばれ、独立都市アドラステイアから派遣された選りすぐりの部隊。
 ただ、天義の在り方から外れた存在の力を借りること自体、アリスターは是とはしていないらしい。
(我々が中枢に至れば、真っ先に排除してやる連中だがな)
 とはいえ、今は天義中枢の連中を目の敵としているのはアドラステイアも同じはず。一時的な協定に過ぎないとアリスターは自らに言い聞かせて。
(軍備増強が最優先。その為に金をかき集めんとな)
 口元を吊り上げ、アリスターは女性聖騎士を引き連れて自室を出ていったのだった。


 幻想ローレット。
 現状、主だって取り沙汰される話題は覇竜や深緑の事案が多いが、各地からも様々な話題が聞こえてくる。
「現状の天義から、よからぬ話を耳にしています」
 『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が集まるイレギュラーズへと話すのは、天義の話。
 『冥刻のエクリプス』事件を契機とし、保守強硬派である地方貴族らが中枢の推し進める施策に異を唱えている。
 曰く、「事件の原因は中央政府が不正義を見過ごしたことにこそあり、必要なのは不正義への迎合ではなく更なる厳罰姿勢である」とのこと。
「『不正義の中央政府は打倒すべし、天義に再び真なる正義を』……地方貴族はそう考えています」
 とはいえ、そうした考えは現状の天義にあって少数派。
 彼らも今は爪を研ぎ、水面下で軍備増強をはかっている。
 そんな貴族の中に、アリスター・ジョン・ブリストルという名の男がいる。
 彼は自身の領地を中心に神事や祭事などを行う位の高い神官である。時に中央にも出張して祭儀などを取り仕切っているという。
「その評価は富裕層に偏っている印象があります」
 地域でも有力者として名を馳せているアリスターの仕事ぶりはまずまずといったところだが、地元民からは彼の悪評も漏れ出てくる。
 まず、所々で言葉の端々で自画自賛、慇懃無礼な態度をとることがあり、加えて金銭に執着する態度もかなり目に余っていたようだ。
 富裕層はともかく、貧民層には非常に受けが悪い。
 そんなアリスターは『冥刻のエクリプス』事件を契機として、さらなる悪評が聞こえてくるようになる。
 まず、私兵として聖騎士や傭兵を配備し始めたこと。いずれも若い女性や子供ばかりというところもまた悪評を大きくする要因となっている。
 女性らは聖騎士とあって国から派遣されているが、傭兵はアドラステイアから派遣されたオンネリネンの部隊。この辺りにきな臭さを感じさせる。
 どうやら、オンネリネンは保守強硬派を束ねる異端審問官モーリス・ナイトメアが斡旋していると言うが、その為には少なからず資金を要するはずだ。
「資金集めはかなりあくどい手法で行っているといいます。それに、軍備増強の為、武器などの貯蔵も……」
 それらを白日の下にさらせば、アリスターは現体制に不義を働いたとされ、失脚するはず。
 アリスター自身もそうだが、保守強硬派保守強硬派の勢いを削ぐことにも繋がるだろう。
「彼の悪行を暴くべく、ナイトメア家と対するロウライト家が封魔忍軍に探りを入れさせています」
 封魔忍軍は保守強硬派の解体を目的として活動しているが、高い能力を求められる故に少数での活動を余儀なくされている。
 彼らと協力することで効率よく成果を上げられるはずだ。
 できる範囲で情報を提示するアクアベルだが、さすがに完全な情報とはいかない。実際に自分の眼で確認する他、邸宅で働く給仕や、聖騎士、子供達を懐柔してからの情報入手も有効な手段となるだろう。
「これまでも様々な事件を解決してきた皆さんです。今回も成果を上げられるよう期待しています」
 そう話を締めくくり、アクアベルは丁寧に頭を下げたのだった。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 <封魔の攻勢>のシナリオをお届けします。

●概要
 アリスター邸宅へと潜入、彼の悪事の実態を暴くことが目的です。
 邸宅は3階建て。地方ですが、金に物を言わせて新築したようです。
 邸宅は凵の字を描き、正面からみて奥まった棟の中央にアリスターの自室があります。周囲に女性聖騎士らへと部屋を与え、給仕やオンネリネン部隊の部屋は1,2階に割り振られています。
 資金繰りの帳簿、武器保管庫などが見つかれば動かぬ証拠となるでしょうが、下手に飛び込めば聖騎士やオンネリネン部隊と交戦することになります。
 潜入のタイミング、手法、聖騎士、子供達の対応などによって、状況は大きく変化しますので、話し合いの上で邸宅へと潜入していただけますよう願います。

●敵
○アリスター・ジョン・ブリストル
 天義出身、40代男性。
 神官職に就いており、現状は戦力増強など、中央政府打倒の為に活動しているようです。
 潜入のタイミングによっては屋敷を留守にします。

○ルイズ聖騎士隊×10人
 隊長ルイズ以下、桜色の鎧を纏う女性ばかりの騎士達。
 様々な花を散らしながら繰り出す斬撃は思わず見とれてしまうほどの美しさです。
 任務とあって、アリスターを守護しています。正義を掲げる彼女達は何とか説得したい相手ですが……。

○オンネリネン・コーディー部隊×10人
 各地へと派遣される傭兵部隊。
 ローレット・イレギュラーズは敵だというマザーの教えによる影響を強く受けたアドラステイアの子供達です。
 イレギュラーズを強く敵視し、攻撃を仕掛けてきます。
 また、彼らは普段聖獣も連れてはいますが、貴族邸宅の守護とあって、別行動させる部隊員に預けて待機させているようです。

・リーダー・コーディー
 部隊を率いる13歳の少年。まだ成長しきっておらず、まだ小柄な印象を受けます。
 各地で結果が残せぬ部隊もいる中、着実に成果を残している部隊長です。
 獲物は両手長剣。素早さを活かして切りかかってくる他、凍気を操る術も持ち合わせており、斬撃と共に遠方まで凍り付かせてくることもあります。

・部隊員×12体
 9~13歳の男女。
 半数が短剣、小剣や格闘といった至近武器。もう半数が弓、投げナイフ、魔力放出主体の遠距離攻撃を行います。

●NPC
○封魔忍軍×3名
 20代青年ハルマ、10代少女ナツ・アキナの計3名。
 潜入捜査などに長けている他、なかなかの戦闘能力を持ち、忍術や暗殺術も備えております。
 基本的にイレギュラーズと同調して行動してくれますが、命の危険に陥った場合はその限りでない為、敵部隊の身を案じるならば彼らの行動にも注意が必要でしょう。

○邸宅の給仕など
 アリスター邸宅で働く給仕。多くは女性です。
 日々の仕事に精を出す彼女達も、何か知っていることがあるかもしれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 暴かれるべき『悪夢』の闇完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ


 天義の地方、アリスター領へと至ったローレットイレギュラーズ。
 皆、それぞれ、思うことがありながらもこの領地に足を踏み入れる。
「先の大戦で消耗したのに、また争いを起こそうとしているなんて……」
 『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は天義の人間だからこそ、保守強硬派の動きに戸惑いを見せる。
 『冥刻のエクリプス』。天義における大いなる変革。
「あんなに大きな変革があったのに、未だにそれを不正義だと言う勢力が残ってるなんて。……と、思ったのだけれど」
 『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)はそこで少しだけ唸って。
「よく考えれば、人の心なんてそう簡単には移ろわないものよね」
 国が滅んでなお、価値観に縛られた人もいるルチアはそう自嘲する。
「正義に不正義、それに宗教……。同じ国の人間でも主義主張が違えばこうも争い合おうとするのね」
「対話での解決の道はなかったのかな? 貴族達の争いに民を巻き込むことになるのがただ悲しいね」
 覇竜の地を出てまだ間もない『炎の剣』朱華(p3p010458)はわからないと首を横に振ると、スティアが疑問を投げかける。残念だが、抗争が無くならないからこそ、歴史は繰り返すのだろう。
「だから、そんな争いが始まる前に終わらせないとね!」
「ええ、成されているかもしれない悪行を放っておく事なんて出来ないわ」
 その為にも、悪行の証拠を見つけ出さなければならない。スティアは今回の依頼目的について再確認すると、争いの理由を理解できぬ朱華は間違いなく行われている悪事を暴くことに同意していた。
「こういう胡散臭い奴はその裏側を捲ってやりたくなる」
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)もまた、今回の依頼に強い意欲を見せるが、動機は問題の貴族が悪事を働いているだけではない。
「そもそも、目的の為に子供まで利用するなんて俺が許せねえ」
 中央政府を打倒する戦力増強の為、オンネリネンの子供達まで雇う貴族に、ジェイクは怒りすら抱いていた。


 さて、地方貴族アリスター・ジョン・ブリストルの暴くべき悪事は大きく2点。
 あくどい手法で行われるという資金繰りの帳簿。そして、その資金によって集められている武器の保管庫だ。
「上手く隠したつもりかもしれませんが……秘密というのは、どこからか漏れるものなのですよ」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が言うように、アリスターがいくら自身の領地、邸宅へと隠そうとしても、悪事の全てを隠しきれるものではない。
 メンバー達はその痕跡を集めるべく、事前準備を進める。
 例えば、『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は霊……酒蔵の聖女に協力を仰ぐ。
「無理はしなくていいが、可能なら捜索を手伝ってくれ」
 うまく、助けを得られたのはいいが、相手は高位の神官。霊的な対策も講じられているだろうと、アーマデルも慎重になっていた。
「あの封魔忍軍が味方でござるか」
 また、『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は後方に控える黒装束の男女に視線をやる。
「これは同じ忍びとして、余り恥ずかしい所は見せられぬでござるな」
 依頼内容とは別に、咲耶は協力者に頼もしさを感じながらも、紅牙忍術継承者としての力量を示すべく気合を入れていたようだ。

 インスタントキャリアを使う『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は、隊商や流れ人に従事している丁稚になりすまし、それとなく市井の噂を集める。
『なあ、聞いたか』
『ああ、またとんでもない額の報酬をガメたらしいぜ……』
 領地内での神事も取り仕切るというアリスター。それをいいことに、領地民から相当量の金銭を巻き上げているようである。
(アドラステイアの傭兵が街に出ているかもしれない)
 会わないよう気を付け、サンディは特定キーワードに注目する。
『あんなに大量の火薬とか魔法媒体とか、何に使うんだろうな』
『祝祭の花火にでも使うんじゃないか?』
(火薬……)
 アリスターが熱心に仕入れていうという物品は、サンディの気になるところ。
「少しいいかな」
 サンディは話をしていた商人らに接触し、それらの物資について詳しく聞き出す。

 ジェイクはアリスター邸宅付近にて気配を遮断して身を潜める。
 そして、邸宅で働く給仕、使用人などを目にすればそれとなく接触を試みる。
「え、あっ……」
「おっと、すみません」
 物陰から現れるジェイク。給仕や使用人の多くは女性であり、彼の姿に色めき立つ。
 戸惑う相手にジェイクはなにげない会話から入る。
 普段から、雇い主に気を払いつつ仕事する女性達をジェイクは人心掌握術を使いつつ労う。
「皆様の給仕あってこそ、アリスター殿は神事に集中できるのでしょう」
 相手を尊重しつつ、アリスターも褒め称えるジェイク。彼は自分が決して敵でないと心象を抱かせ、信用を得る。
 少しずつ心を開く女性に対しても、ジェイクは焦ることなく1枚1枚、丁寧に皮を剥ぐようにして情報を集めていく。
 ……やがて、ジェイクは人目のつかぬ場所へと女性を誘導して。
「戦争でも始まるのでしょうか? 各地で武装蜂起をしているという噂をよく耳にします。私は心配で」
「そうならなければよろしいのですが……」
 少なからず、女性は戦争の可能性があることを感じており、今後の仕事にも不安を抱いている。とりわけ、不祥事と思われる主人の動向に。
 ジェイクは慌てず、主人に関するスキャンダルや出かける日時。そして、武器の保管場所や帳簿の場所など、彼女の知る限りの情報を聞き出していく。
「あくどい資金稼ぎには恨み辛みがつきもの」
 続いて、邸外にて身を顰めるアーマデルは酒蔵の聖女に警戒を頼みつつ、さらに邸宅、ヒトに憑いて彷徨うものを中心として霊を集める。
「ヒトは大事なものは身近な……普段いる場所の近くに隠したがる、異変を感知しやすいからな」
 霊の情報によれば、アーマデルの睨んだ通り、執務室の傍に入ることのできない空間があるという。
 さらに、錆などの被害を受けづらい地下室も密閉されており、並の霊では立入もできないとのこと。
「やはり、対策はされているか」
 ともあれ、目星をつけ、アーマデルは足早にその場を離れていく。
 そして、最大限顔が利くよう、持ち前のスキルを強化していた寛治。
 まず、出入りの商人は最近のアリスターの購入物、借入金、そして取引日を確認し、取引記録や帳簿の控えを借りていた。
「明日には必ずお返ししますよ。万一発覚しても何者かに盗まれた事にすれば、貴方に類は及ばない。そして貴方はこの小切手を手に入れる、極めて低リスクで、ね」
「どうぞ、お納めください」
 さらに、賄賂を渡し、人心掌握術も。ファインドマネージャーである寛治は交渉術に長けており、相手も警戒心を解いてしまう。
 続き、郵便屋。こちらは送り主を聞き出すことで、アリスターとつながりのある人物を探る。ここで、保守強硬派の名前があれば、日付もチェックだ。
 さらに、寛治は邸宅の設計者にも接触していた。
 この邸宅は新築であることに目をつけていた彼としては、とりわけ念入りに情報を聞きたい相手。
「私のクライアントがあの素晴らしい屋敷を気に入り、同じような邸宅を建てたいと。そこでお話を伺いに来たのです」
 その技術を賞賛しつつ、寛治は内部構造を聞き出す。個別に誰の部屋か。そして、武器を隠すのに適した地下室の有無、規模、場所について。
「よろしければ、図面を一日貸していただけませんか? 勿論、無料とは申しません」
 寛治はここでも白紙の小切手を賄賂として手渡す。
 建築設計者は小さく微笑み、図面と引き換えにそれを受け取ったのだった。


 外で動くメンバーがいる一方、邸宅に潜入するメンバーも。
 スティアは騎士見習いを装い、聖騎士の訓練に参加していた。
「魔力を籠めて素振りだ。集中を乱すな」
「「はっ! はっ!」」
 武器に魔力を籠める聖騎士達は、その魔力ば暴発しないよう集中し、素振りを行う。
(今の時代は淑女でも身を守る術を身につけておくべきだよ)
 将来を考え、体験したいと考えていたスティア。
 基本、鍛錬がウエイトを占めるが、簡単な神聖術や治癒術なども行うところが聖騎士として求められるところ。
 鍛錬を体験しつつも、スティアは今回の依頼も忘れてはおらず、聖騎士達へと問いかける。
「どうして聖騎士になろうと決意したの?」
 理由は様々。代々聖騎士であったり、身近な人を守る為であったり、自身の騎士道を貫く為といった人も。
「なら、少し話しない?」
 騎士道精神に溢れる者なら言葉を尽くせばわかってくれそうだと、スティアは小隊長ルイズに目をつけていた。
 次にルチアだが、こちらはオンネリネンの子供達と接触する。
「極秘裏に動いているティーチャー、ルチア・アフラニアよ」
「は、はい」
 マザーの考えに共鳴を見せるルチアは「ディダスカリア中層通行手形」を提示することで証明すると、リーダー、コーディーを始めとした子供達は顔を見合わせる。
「現状、先方から預かっている任務について確認したいのだけれど」
 ルチアも視察、活動確認といった事由で訪れることを口にするが、猜疑心の強い子供達はルチアの正体を疑っている様子。
 子供達は差しさわりない形で、アリスターの私室や執務室、地下室などの警備を任せられていることを伝える。
(これ以上は難しい……か)
 ローレットを目の敵にしている子供達だ。ある程度有用と思わせる情報のみ得たルチアは、演技がバレる前に撤退することにしていた。

 亜竜種の種族特徴である角や翼を隠し、人間種として振舞う朱華はインスタントキャリアもあって新しい給仕として、潜入していた。
 給仕は邸宅の掃除や食事などが基本業務とのこと。
「アリスター様の下で働くことになったけど、私、大丈夫かな」
 しばらく淡々と仕事をこなす朱華は休憩時間に、同じ給仕達に不安を吐露する。
 給仕達も周囲を見回し、聖騎士や子供傭兵の姿がないことを確認して。
「そうね……」
「うん、そう感じるのも仕方ないかな」
 アリスターの良からぬ噂は働く女性達の耳にも入ってくるらしい。
 知人の神事で寄付金を全て懐に収めたとか、業者に圧力をかけて激安の料金で経費を浮かす……といった話。
 一度堰を切れば、噂話は止まらない。
「折角だから、もう少し聞いておきたいのだけれど」
 合間に、朱華は給仕として立入可能な場所なども聞き出す。その際、彼女はハイセンスも働かせて騎士や子供傭兵に怪しまれぬよう警戒を怠らぬようにしていた。
 咲耶も新人の使用人に変装して邸宅へと潜入する。
 使用人は執務補佐、備品などのメンテ、接客応対等職務の内容が幅広いこともあり、屋敷を移動する。
(訝しまれれば、それまででござる)
 印を結んで気配を殺す咲耶は、耳を澄まして周囲の警戒を怠らない。
 その状態で、彼女は物質透過で気になる場所へと侵入、一見で視認できぬ場所は透視でチェック。
 執務室の隣に帳簿らしきものが収められた棚があり、見たものはしっかりと瞬間記憶する。
 さらに、アリスターが保守強硬派と思しき来客と話をすれば、その会話を盗み聞きできるか確かめる。
(さすがに防音対策は万全でござるか)
 残念ながら、それを聞き取ることはできなかったが、それでも日に数度程度関係者と接触があるらしい。
 そこに通りがかる聖騎士。咲耶はすぐさま透視で無人の部屋を見定め、物質透過でそこへ移動して切り抜けていた。

 メンバーの行動による影響からか、邸宅内からピリつくような空気が感じ始める。
(頃合いね)
 給仕をしていた朱華がそっと外に出ると、事前に示し合わせていた集合場所に皆集まっていた。
 そこは、一通り噂を集めたサンディが押収結構の為、馬車……ストレイシープを置き、逃走できるようにと準備していたのだ。
「大丈夫……かな?」
「疑われてるだろーけど、まだ動いてねーな」
 邸宅の様子を窺うスティア。ただ、サンディは動き出す様子はないと判断し、準備を進める。
「執務室傍の隠し部屋に帳簿、地下室に武器……間違いなさそうですね」
 寛治は皆の情報を合わせ、その存在がほぼ間違いないと確信していたのだった。


 その日の夜。
 警戒態勢が強まる状況だが、アリスターは神官の集いがあるとのことで、邸宅を留守にするらしい。
 昼に怪しげな人物が嗅ぎまわっていたという話もあってか、警戒態勢は強まっている。
 ただ、アリスター不在という状況は好機。このタイミングを逃すことなく押収を決行することに。
 正面から陽動にと飛び込んだのは、スティア、サンディ、ルチア、朱華、アーマデル。
「止まれ! ここが天義神官アリスター殿の邸宅と知っての狼藉か!」
 率先して現れるのはルイズ聖騎士隊。
 タンク役となるスティアは亡霊を呼び寄せ、それらの慟哭によって聖騎士らを強く引きつける。
「ここの領主は本当に民のことを考えて行動しているのかな?」
 疑わしきはアリスター。富裕層にのみ評価されるこの男は至福を肥やすことしか興味がないと語る。
「知ったことを……!」
 そんなスティアの呼びかけに、隊長ルイズが少し苛立ちげに剣を振るう。
「――問うわ。貴方達が仕えるアリスターに正義はあるのかしら?」
 続けて、朱華が問いかけながらも、炎の剣を振りかざす。
「くっ……」
「揺らぐのであれば下がってなさい!」
 次の瞬間、朱華は近場に迫る聖騎士へと乱撃を見舞い、桜色の鎧を赤く染めていく。
 それらの攻撃から外れたオンネリネンの子供達。その数は半分ほどだ。
「騙してごめんね」
 彼らにはルチアが一言謝る。
 一撃で倒れる相手ではないだろうと、彼女は子供達へと至近距離から神秘の極撃を打ち込む。
「ローレット……!」
 相手もこちらの素性に薄々感づいていたらしい。
 家族の、仲間の敵と教えられた相手と対するこの上ない機会だと、子供達は思いっきり短剣、小剣で切りかかってくる。
 さらに、両者を纏めて捉えたサンディ。 
(潜入班が忍び込む時間を作りたいが……)
 明らかにオンネリネンの子供達が足りないが、今は彼らが邸宅内に行かぬようショットガンを連射し、相手の足を止める。
 加えて、広範囲に放たれる弾丸は毒に侵し、動きを鈍らせる。相手の布陣を大きく乱し、時間稼ぎができるはずだ。
「それはお前たちの言う『正義』に適うことなのか?」
 アーマデルは子供傭兵を指し示しながらも、英霊残響を聖騎士らへと聞かせる。
 オンネリネンの子供達の存在、そしてそれと与する保守強硬派。
 実態を知れば、聖騎士らはこのままではいないとアーマデルは疑わない。
「思う所は何もないのか?」
「……っ」
 明らかに、聖騎士らの切っ先は鈍り始めていた。

 一方、潜入班はジェイク、寛治、咲耶と封魔忍軍3名。
 封魔忍軍らも知ら調べをしていたようだが、ほとんどその動きを感じさせなかったのはさすがだ。
「まさかその日の夜に決行とは思わなかったがな」
 闇の帳に潜むジェイクは暗視と感覚を頼りとし、仲間と裏口から忍び込む。
 咲耶は忍軍女性2人と上階へ。
 途中、オンネリネンの子供3名が待ち伏せしていたこともあり、咲耶達はその排除に当たる。
 手早く黒い顎をけしかける咲耶は一気に相手の体力を削り、気絶させる。その咲耶の手腕もあってか、忍軍2人も気絶に留めていたようだった。
「急ぐでござるよ」
 目指すは執務室隣の隠し部屋。咲耶は一気に進行し、証拠となる帳簿の押収に動く。
 ジェイク、寛治、封魔忍軍ハルマという男性のみで地下室へと向かう。
 身を潜め、足音を立てずに移動するメンバー達を、オンネリネン・部隊長のコーディー他2名が探す。
「必ずここを狙ってくるはずだ!」
 何気ない壁に仕掛けられた地下室。すでにその階段への道は調査済み。
 オンネリネン部隊をスキルによってやり過ごしつつ、ジェイク、寛治らは地下室への道へと向かう。
 階段を下りた先には重い扉。ジェイクはそれを十徳ナイフで開錠しようとする。その間の護衛は他2人に任せ、意識を手先に集中させる。
 ……カチャリ。
 扉を開けば、火薬の臭いが漂い、強い魔力持つ魔力媒体となる石、玉などが厳重に保管されていた。
「大変なものを見つけてしまいました。どうしましょう~?」
 それらを手に取る寛治。傍のハルマも頷き、一通り確認する。
 ただ、開いたばかりの扉はオンネリネン部隊を招き入れてしまう。
「おのれ、侵入者め!」
 地下室へと飛び込んだコーディーだが、再び気配を消した3人を見つけ出すことはできなかったようだ。

 正面の陽動も続く。
 聖騎士、オンネリネン部隊を相手取る間、サンディは余波で建物が傷つくよう意識して立ち回る。
 そうなれば、雇い主の手前、向かってくる相手にサンディは雷撃によって聖騎士を攻め立てる。
「貴方達の正義はどこにあるの? 誰を守るための剣なのかな? もう一度教えてくれないかな?」
 スティアもまた攻撃を行う。皆が平等になるのは難しい。だからと言って貧しい人を見捨てていい理由にならない。そう良心に訴えながら。
「私は……」
 聖騎士ルイズも雇い主の噂については耳にしていたのだろう。それだけに、彼女の信念が揺らぎ、攻撃の手は止まる。
 傍ではルチアが体力を回復すべく聖体頌歌を響かせ戦線を維持するが、朱華は体力を回復させつつ、向かい来る聖騎士の意識を刈り取る。
 一方で、オンネリネンの子供達の攻撃は激しさを増す。
「……危ないと思ったら降伏してくれ」
 アーマデルは戻らなかった子を保護していると話し、説得も行い、なおも英霊残響によって攻撃の手を止めようとする。
「生きていれば別の道を選ぶ事も出来る」
 そこに潜入班が駆け付ける。相手方が半壊していた状況もあり、イレギュラーズは満足に動けぬ彼らから距離をとり、その場から撤退する。
「「…………」」
 オンネリネン部隊も聖騎士も黙っていたが、その理由は大きく異なる。
 オンネリネン部隊は逃がしたイレギュラーズに強い敵意を抱き、聖騎士は雇い主に正義があるのかと疑念を抱く。
 戻ってきた邸宅の主は何があったか、護られるはずの聖騎士らに詰問されることになるのである。


 数日後、イレギュラーズらが見つけた証拠品によって悪事が明るみとなったアリスターは聖騎士に連行される。
 しばらく、ルイズが領主代行として仕事し、中枢から派遣される新領主を待つことになりそうだ。
 依頼主を失ったオンネリネン部隊が引き上げる際、ローレットには並々ならぬ敵意を見せていたのが気がかりではあったが……。
 ともあれ、メンバーもまた任務を果たし、帰還することに。
 その前に、アーマデルは協力してくれた霊に感謝し、往くべき処へと向かうのを見送り、帰路についたのだった。

成否

成功

MVP

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは悩みましたが、聖騎士に良心を訴えかけた貴方へ。
 今回はご参加、ありがとうございました!

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