PandoraPartyProject

シナリオ詳細

揺るぎなき黝簾石

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●家族がきえた日

 ――オンネリネンのとある部隊が、イレギュラーズに壊滅させられた。

 その情報は密やかに、しかし止まることを知らずアドラステイアへ染み渡る。しかし誰もがその情報でイレギュラーズに怒りを覚え、我こそは空いたオンネリネンの末席に連なり奴らを討伐せんと声を上げる。それは導いてくれる大人たちへのアピールでもあったし、ここで怖気付いて『裏切り者』の烙印など押されたくなかったから。
 そうしてオンネリネンとなった子供達は新たな部隊を作り上げる。彼らは子供でありながらも傭兵として確かな腕前を持つ者たちだ。大人びた顔つきをした子供達は、確実に成果を上げていく。
 時にはラサの行商を襲撃し。
 時には海洋で海賊のようなことをして金品を巻き上げる。
 彼らにとってはそれら全てが『正しい事』であった。外の世界での行いは須らくアドラステイアにいる家族たちの為になる。裏を返せば、ここで誰かが逃げようものなら皆が苦しみ、悲しむのだ。
 だが、外で活動するのならば気をつけなければいけない。オンネリネンの子供達はアドラステイアで行われる魔女狩りを免除される代わりに、各国で活動するイレギュラーズと相対する場合すらある。
 イレギュラーズは敵だ。仲間は――聖騎士も、この前壊滅したオンネリネンだって――1人残らず奴らに殺されている。捕まる訳にも、殺される訳にもいかないのだ。
(殺してやる)
(殺してやる)
(殺してやる……!!)
 姿を消した子供と縁の深い者もいた。そういう者ほど憎悪は強く、イレギュラーズに遭遇しても負かしてやると武の道を駆けあがる。

 家族のかたき。絶対に、許してなるものか。


●天義の情勢
「アリアさん、聞きましたか? 最近の天義なのですが」
「天義?」
 これなのです、と依頼書の1枚を見せてくる『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)にアリア・テリア(p3p007129)は覗き込む。そこに見えたオンネリネンの文字に彼女は小さく息を呑んだ。
「今、天義ではふたつの派閥が動いているのです」
 片や、この先必要なのは更なる厳罰体勢だと主張する保守強硬派。
 片や、これまでの過剰な厳罰姿勢が国家を揺るがしたのだと意識改革を進める現天義政府。
 『冥刻のエクリプス』事件より天義では後者が中心として動いていたが、直接的な被害が少なかった地方貴族たちは前者へ傾倒しているといった具合である。彼らにとっては今の天義政府こそ『不正義』なのだろう。
 実際、表沙汰になっていないものの、水面下で軍備増強が進んでいるという。このままでは双方がぶつかり合い、多大な被害を齎すことは必至だ。
「そんな……」
「確かに、被害がなければ実感も湧きづらいものだとは思うのです。とはいえ政府も放っておくことはできないので、ローレットに協力要請が来たのですよ」
 保守強硬派を束ねる貴族と対立しているのがロウライト家であり、かの家は傭兵団『風魔忍軍』へ保守強硬派の解体を要請した。イレギュラーズはその協力者となる、のだが。
「あちら側も、そう上手くやられてはくれないみたいなのです。オンネリネンの子供を使ってこっちを邪魔しようとしてるのですよ」
「オンネリネンは保守強硬派に雇われてる、ってことだね」
 そうなのです、とユリーカが頷く。
 オンネリネンは傭兵のようなものであり、アドラステイアへ送るための資金を積まれたならば確実に仕事をしてみせる。今回もその類なのだろう。
「その子供達を追い払えばいいのかな? 保護した方が良い?」
「保護できるならそれに越したことはありませんが、随分手練れのメンバーが多く揃っているみたいです」
 家族の絆を盾に取られている子供達だ。これまでの口ぶりからも、イレギュラーズたちのことを悪しざまに語られているらしい。手練れであればより手加減が難しくなるだろうし、下手に手を抜いた結果自害してしまった……などとなったら目覚めも悪い。
「ひとまず、今回は彼らの撤退を目標にしてほしいのです。気をつけて行ってきてくださいね!」

GMコメント

●成功条件
 オンネリネンの撤退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●フィールド
 天義の森林。真っすぐな道があり、その先にある町へ繋がっています。
 別部隊のイレギュラーズたちがそこへ依頼をこなしに向かう予定ですが、森の中に足止めのためオンネリネンが配置されているようです。
 道を外れて森に入ると、木々で視界が悪く、足場も整っていません。

●エネミー
・ディード
 オンネリネンのリーダー格。片耳にだけ耳飾りを付けた12,13歳ほどの少年です。両足が機械の鉄騎種です。
 本来は引っ込み思案な性格だったようですが、兄のように思う少年がオンネリネンに入隊したことで、自立するようにしっかり者になったそうです。尚、その兄は殉職しています。(と、本人は聞いています)
 瞬発力・機動力ともに恐るべき力を発揮しますが、攻撃は粗削り。力任せですが、勢いのままに振るわれる剣はより恐るべきものでしょう。【乱れ系列】【出血系列】等のBSが予想されます。

・ミロン
 オンネリネンの副リーダー的存在。15歳程度の少女で、ディードを弟のように思っています。狐の獣種です。
 どこまでも真っすぐで仲間や友達想い。その性格故か、精霊に好かれやすいです。
 召喚・使役魔術に長けており、精霊を使役して攻守ともにこなします。また、彼女が傷を負うたび【復讐】の効果が攻撃に乗ります。数値不明。
 特筆すべきは恐るべき魔力量でしょう。充填とMアタックを持つ彼女に枯渇の2文字はありません。

・オンネリネンの子供達×8(近接型)
 飛行種で構成された子供達。10~12,13歳ほどと思われます。いずれも【飛行】を持ちます。
 森の中を器用に飛び回り、奇襲を得意としています。幼いですが立派な傭兵です。いずれもイレギュラーズたちへ明確な殺意を抱いて向かってきます。
 得物は短剣を主として、手数で攻めてきます。ヒット&アウェイで攻撃してくるため、彼らを引き付けようとするなら工夫が必要になるでしょう。


●友軍
・イレギュラーズ×8
 別部隊のイレギュラーズたち。この先の町に用があります。
 十分戦える強さがありますが、彼らが受けている依頼の事を考えれば早々に森を抜けさせてあげた方が良いでしょう。

●ご挨拶
 愁と申します。未だにうっかりオンネリオンって書きます。オンネリネンです。
 オンネリネンが邪魔をしてくるようです。イレギュラーズの同志を先へ向かわせてあげましょう。
 それでは、よろしくお願い致します。

関連シナリオ:『<オンネリネン>救いをひとつ』https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7057

  • 揺るぎなき黝簾石完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 春の風が森の中を駆け抜ける。先の町へ向かうイレギュラーズ8名と、その護衛を請け負った8名は森の中を警戒しながら進んでいた。
「サクラちゃんの家が矢面に立つってなんだか珍しいよね」
 『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)がロウライトと聞いて思い出すのは彼女の祖父、ゲツガ・ロウライトだ。強烈な印象を持たせるからと言うことか、それ以外の人物の個性がそこまででもないということか。
 スティアは自然会話で誰かが通ったか確認しながら「どう思う?」と『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)へ問うてみる。
「お兄様のやり方が絶対に正しいと思うわけじゃない。……けど、アドラステイアを頼るなんてめちゃくちゃだよ!」
 アドラステイアこそ不正義の象徴だ。それを利用して正義を取り戻そうなどと保守強硬派は何を考えているのか。どのような理由にしても、やり方を認めることはできない。
(そっか、ロウライト家ってサクラさんの実家だっけ?)
 『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)は2人の会話で思い出す。彼女はギルドへの登録名こそ名前のみだが、そのルーツは天義にある。ロウライト家は、騎士としての功績で爵位と領地を賜ったのだ。
 とはいえ、花丸に政治のことはよくわからない。ただ、相反する2つの派閥がぶつかりあったなら――魔種とイレギュラーズがぶつかり合うのと同じように――無傷で済むわけもない。それに天義の派閥が対立すれば、犠牲になるのは罪もない一般市民だろう。
(アドラステイア……子供の集まる場所でしたか)
 『特異運命座標』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はこちらへ赴く前に目を通した資料を思い返す。強欲冠位の一件以降、新たな神を奉じる団体が興ったのだ。それが『アドラステイア』であり、保守強硬派が手を組んでいる『オンネリネン』はアドラステイアから傭兵として外へ出ている子供たちである。彼らは子供ながらに十分な戦闘力を持ち、資金をアドラステイアへもたらしているようだ。
 たとえ理由があって傭兵として出ているのだとしても、先にあるのは血濡れの道だ。それを止めるためにも、初めての依頼として選んだのだ。
「今のところ、それらしい気配はないようだが」
「奇襲を得意にしてるみたいだから、潜んでいるのかもしれないね」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)と花丸は優れた五感で周囲を観察するが、それらしい気配はない。このまま先の町まで仲間を送り出せれば良いのだが、そううまくはいかないだろう。
「ま、殺意も敵意もたっぷりなら重畳。いつだって売られた喧嘩は買ってあげるわ」
 そうでしょ? と片目をつぶって見せる『雪風』ゼファー(p3p007625)は敵意のありかを探す。足場の悪い森から飛び出してくるのか、それとも空中から滑空しての奇襲となるのか。いずれにせよ、エネミーサーチだけでは後手に回ることになるとゼファーは目視で怪しい影がないか確認する。
「――来る!」
 身の内に宿す因子がざわりと騒めき、『紅霞の雪』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)がはっと皆へ警告を発する。ほぼ同時にゼファーの脳内にけたたましい警鐘が鳴り響き、汰磨羈と花丸も木々が揺らされる音を聞いた。
「上だ!」
 木々の間からとびかかってくる子供たち。鈍い煌めきがマリエッタを捉える。
「マリエッタさん……!」
「っ、大丈夫です!」
 フラーゴラの焦りを帯びた声にマリエッタのそれが被る。一瞬ぎくりと体が強張ったが、自ら決めて進んだ道、選んだ依頼だ。こんなところで足を引っ張るわけにはいかないとマリエッタは確り地を踏みしめる。
 彼女の安否を確認したフラーゴラは、子供たちの急襲と同時に向かってくるオンネリネンを認める。その片方へとフラーゴラはアブソリュート・ゼロ・オラトリオを放つ。オーロラのごとき光が獣種の少女――ミロンへと降り注がれた。間髪入れず接近した彼女はその行く手を自らの体でもって阻む。
「オンネリネン、貴方達が悪だとは思わない。それでも、罪のない人を害し、傷つける事は許さない!」
「それなら、なかまを傷つけて殺すおまえたちを、ボクらは許さない!」
 ロウライト家伝来の刀を抜刀し、サクラはオンネリネンに切っ先を向ける。けれどその刃は殺すためでも倒すためでもなく、これ以上傷つけさせないためにあるのだ。しかし子供たちから帰ってくるのは同胞を殺されたという謂れのないことばかり。
 保護した彼らの仲間は生きているのだが、十中八九嘘を吹き込まれているのだろう。すべてはオンネリネンがオンネリネンとして動くため、アドラステイアの大人たちが子供たちを動かしやすくするために。
 負けられない。アドラステイアの思惑に、これ以上子供たちをもてあそばせてなるものか!
「私は天義の聖騎士、サクラ・ロウライト! 相手になるよ――オンネリネン!」
 サクラとともに動き出した花丸が、退く直前の子供たちへ挑発を仕掛ける。動いている以上、よほどの実力がない限り気配は殺せない。しかしそれが手も届かぬほど頭上にあるのならば、こちらへ接近してきたタイミングに仕掛けるしかないだろう。
 それをすり抜けて上空へ退避した子供たちを、不意に旋律が包み込む。その魔力を辿った先のスティアは、漏らすことがないようにとさらに旋律を広げていった。
(オンネリネンは私たちを先に行かせたくないみたい。やっぱり、保守派と手を組んでるんだ……)
 イレギュラーズたちを見る目は憎しみが込められているようだが、仲間を進ませる余裕もないほどの猛攻を見ればそのように指示されていることは間違いないだろう。背後にいるアドラステイアを考えれば、良からぬことを企んでいそうだと疑い深くもなる。
 内側から天義を崩そうとしているのか。それともこれはただの布石であり、まだこの後に策を残しているのか――。
「できたら保護してあげたいけど……」
「そう簡単にはいかないでしょうね。とはいえ、誰一人帰すつもりはありませんから……覚悟しときなさいな?」
 くすり。笑みを浮かべてゼファーが乱撃を放つ。苛烈かつ的確な得物の振り抜きに次いで汰磨羈の放つ雷撃が駆けた。
「加減をする気は更々無いぞ」
 流されるだけの子供から命を奪うほどの鬼ではない。生け捕りにされるのが嫌ならば、精々全力で抗ってもらおうではないか。
 一同が子供たちと相対する中、ミロンとともに地を駆けてきたディードは『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)の言葉に顔の表情を強張らせた。
 ――その耳飾りを見たことがある、と。
「あの子は……そう、ダッド君、だったかな?」
 アリアはとぼけたふりをして、先日保護された少年の名前を告げる。生憎ギフトで記録していられる期間は過ぎてしまっていたが、より濃い殺意を向けてくるようになったディードの態度を見れば、その関係は予想通りと言って良いだろう。
(リーダーが統率を放棄したら、連携も上手くいかなくなるかな?)
 あとはどれだけディードがアリアに集中するかにかかっている。彼の動きを警戒するアリアへ、マリエッタの魔術がかけられた。
「遅くならないうちに加勢しますね……!」
「うん! お願い!」
 マリエッタは頷き、続いてフラーゴラへも再生の魔術をかける。これで少しでも長く持ちこたえてくれれば良いが、何より一刻も早く他の子どもたちを抑えなければ。
 ためらいは一瞬。マリエッタは戦い続ける仲間たちのため、自身の生命力の一部を引き換えに仲間たちの能力を向上させる。
 より身軽に、より目が利くようになった一同の猛攻の合間、フラーゴラはミロンをそちらへ行かせないようにマークしながら花吹雪のような炎乱を飛ばした。極小のそれらが咲き乱れ、ミロンの肌を焼き焦がしていく。しかしミロンは動揺することなく自身へ守りの結界を張った。
「そう簡単にやられると思わないでよね!」
「それは、ワタシたちも同じ……それに、地の利はこっちにもあるよ」
 フラーゴラは空から狙ってくる敵にすかさず木の陰へ隠れる。ダン、と何かが木へ刺さる音が響いた。すぐさま得物を引き抜き空へ逃げようとした子供へ、サクラが驚くべき機動力で追いついて地へ攻撃とともに叩きつける。
「逃がさない……!」
「サクラちゃん、ありがと!」
 すぐさまスティアが旋律を奏で、魅了の音は悲しみの慟哭へ――呪いの歌へと響きを変える。花丸も畳みかけるように望む未来のために拳を突き上げた。
「冷静に、確実に進めましょう」
 マリエッタは皆へも強化魔術をかけながら、子供たちへ視線を向ける。血に濡れた道を歩ませたくない。無力に苛まれながらその生を閉じてほしいわけでもない。彼らの未来を無為に摘み取らないために、その未来がより良いものになるように働きかけたいのだ。
「私たちは、おまえたちを許さない!」
「そうだ! その首を全部刈って、アドラスアテイアに並べてやる!」
 わずか10歳かそこらの子供たちが吐き出す言葉とは思えない。けれど彼らはそう思うまでに『家族』が失われた事実を苦しんで、悲しんでいる。
 しかし汰磨羈はニィと笑うと、木行のマナを圧縮させる。殺意も敵意もおおいに結構。ならばこちらはそのものを狩り尽くす、本気の一撃を放つまで。
「存分に痛いから覚悟しろ!」
 雷撃、追って生じる熱衝撃波。ゼファーの槍が的確に子供の体を突く。少女は息を詰まらせた。
「生きる目的、指標があるってのは素敵で立派なことよ? 私も、あなたたちもそれは変わらないの」
 人間は目標があるだけでどんな無茶だって出来てしまうし、何処までだって強くなれる。それが他人に依るものであれば猶更だ。
(だから、アドラステイアもそれを利用しているんでしょうけれど)
 それが歪められ誤っていたものだとしたら。それはロクな結末に行きつかないのが、世の常なのだ。
 歌うように告げるゼファーに視線が刺さる。けれど急所を強打された少女は暫く戦線復帰することは叶わないだろう。
「――皆、距離をとるんだ!」
 その声に子供たちがはっとする。駆けだそうとしたディードはアリアの妨害に歯ぎしりをして睨みつけた。
「まだあっちを気にする余裕があるの? 絶対に行かせないよ」
「なら、殺していくだけだ」
 追い込まれれば追い込まれるほど強力になるアリアにとって、攻撃されるというのはある意味都合がよい。とはいえ、言われるままに多終えれるわけにもいかない。火力補助魔術をかけなおし、アリアは宝珠を掲げる。
 一方のフラーゴラもミロンを抑え、魔弾でもって攻め立てる。彼女の使役する精霊がフラーゴラを攻撃し、気力を削り取っていくが、仲間たちのほうへ向かないならとりあえずそれでも構わない。
 そんな彼女らに余裕といえるほどの余裕はなく、サクラはそれを横目に認める。
(早いところ合流しないと)
 とはいえ、優先すべきはこの先に進むべき仲間たちを無事に送り出すこと。サクラはオンネリネンたちにも聞こえるように声を張る。
「この程度なら私たちだけで十分! 任せて先に行って!」
 憎むべき敵に『この程度』などと言われたら神経を逆なでされるだろう。その予想通り、サクラはビシビシと視線を感じる。それをむしろ好都合だとサクラは振り返りざま神の祝福を宿した得物を振るう。ゼファーは確実に体力を削るべく自身へのダメージもものともせず、気による一撃を打ち付けた。
「強い……!」
「弱音はかないで! ここで負けないように鍛えてきたんじゃない!」
 まなじりを吊り上げる少女が唐突に痛みに悲鳴を上げる。見えない糸を操るマリエッタは少女の頬を濡らした血にぐっと息をつめながら、されどその手を止めることはない。
(あともう少し……!)
 自身へ福音を紡ぐスティア。オンネリネンの子供たちはだいぶ数が少なくなった。あとは花丸に任せても大丈夫だろう。その想いに応えるように、花丸の一手が苦難を破る。
「そろそろこっちは問題なさそうだ。先に行かせてもらうぞ」
 一足先にとミロンの元へ駆けだした汰磨羈。フラーゴラと相対する彼女はギッと汰磨羈をにらみつける。
「随分と憎まれ役になったものだな?」
「あら、心当たりがあるんじゃない?」
「いやさっぱり。こんな稼業だ、『謂れのないこと』ならよくあるし覚悟の上だが」
 へぇ、とミロンが低い声を出す。彼女は新たな精霊を召喚するとフラーゴラと汰磨羈へけしかけた。
 一方のアリアはその様子を見ながらも、自身へ大天使の祝福をおろす。粗削りな攻撃は、しかし当たればかなりの負担になる。追い込まれれば強くなるものの、倒れてしまっては元も子もないのだ。
 徐々にイレギュラーズたちが加勢してくる最中、フラーゴラは神気閃光で仕掛けながら声を張る。気力はもう尽きてしまった。だから、あとは思いでぶつかるしかない。
「ねぇ……ディードさんのこと。アナタはどう思ってる? 本当にやりたいことが、これなの……?」
 彼女はフラーゴラと相対しながらも、仲間である子供たちのことを気にして精霊の補助を向けていたようだった。そんな少女が復讐にばかり気を取られてしまうのだろうか。
(ワタシは恋に生きているけども……人生を復讐に捧げるってどんな感じだろう?)
 その感覚はよくわからない。きっとこの先も理解しえない――否。大好きなあの人がいなくなってしまった時、フラーゴラもまたその思いを理解するのかもしれない。
「ディードのことは大切よ。だから手を貸す。力になりたいと思う。それが仲間ってものでしょう?」
「なるほどな」
 汰磨羈がつぶやいたその背後からスティアが駆けてくる。フラーゴラの代わりにミロンを抑えたスティアは攻撃に耐えながら問いかけた。
「教えて! どうしてイレギュラーズを狙っているの?」
「狙ってる? 私たちの前に現れたのがあなたたちだっただけよ」
 あくまで邪魔をしてくるのはイレギュラーズではないか、とミロンは大規模な範囲に強風を巻き起こす。サクラはその風がやむと同時、月光剣で切りかかった。
「でも、私たちに憎しみを持ってるよね? 仲間を殺されたって言うけど、本当に全員殺されたの?」
「愚問だわ」
「私たちが戦った時は保護を申し出たり、殺さないように注意していたよ」
 事実を捻じ曲げられているのではないか――そういい募るスティアにミロンは鼻を鳴らす。それはそんなことがあるわけないという確信なのか、それともそういった思い込みであるのか、定かではない。しかしイレギュラーズの話をさらさら信じる気がないということは誰の目にも明らかだったろう。
 一方のディードもアリアから花丸が抑えを引き継ぎ、アリアは攻撃に専念する。けれど、その脳裏にはダッドの姿が浮かんでいた。
(生きてること、伝えたほうがいいのかなあ?)
 伝えれば何か変わるだろうか。悩む間にも汰磨羈が攻撃を繰り出す。しかし強靭な足によって切り抜けたディードは勢いよく武器を振り下ろした。
「一度、保護してある仲間達に会うといい。自分の目で見て、聞いて、確かめろ」
 そうでなければ考えることもできないだろう。まずは判断材料を集めなければ進めない。
 けれどもディードは憎らし気な瞳を汰磨羈へと向けた。
「保護? 一緒に拷問されて殺されるの間違いだろう!」
「こちらの話を聞く気はないみたいね」
 肩をすくめるゼファー。その様子を見てアリアはまず彼らへの洗脳を解く手段を探さねばと心に決める。
(此の子達の気持ちは屹度本物。だから否定なんて出来ないけれど――余計に其れを利用する大人の影ってヤツに腹が立つのよね!)
 小さく眉を寄せたゼファーの一撃が苛烈に決まる。受け身をとるもよろめいたミロンはディードへ目くばせした。それを受けたディードは指笛を鳴らす。
 途端、倒れていたはずの子供たちが一斉に空へと飛び立つ。戦う力は残されておらずとも、動くだけの力はあったということか――何より、殺さぬよう手加減していたのはイレギュラーズたちであるが。
 同時にミロンは精霊の力を借りて、ディードは持参の機動力で一気に撤退を始める。ゼファーは小さくため息をついた。
「負けたのなら、一寸くらいは言うこと聞きなさいな」
 まだ彼らが理解するのはずっと先。許すかどうかはその時の彼らが決めるのだろうけれど、こちらは思っているほど悪いことをするつもりもないのだ。
「……いつか、一緒に来てくれるでしょうか」
 マリエッタはあっという間にその姿を消してしまったオンネリネンたちを想う。説得の隙もなかったけれど、彼らが戦えば戦うほど世界に怨嗟は広がり続けるだろう。今ならまだ止まれるはずだ。
「きっとね。それに今はわからなくても、信じてもらえなくても……絶対に、助ける」
 サクラの決意に満ちた呟きが落ちる。まだこれから、オンネリネンの子供たちと――アドラステイアの子供たちと手を取っていけるはずだ、と。

成否

成功

MVP

マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

状態異常

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 先の町に向かったイレギュラーズも、無事依頼を遂行できたようです。

 それではまたのご縁を、お待ちしております。

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