永久なる氷でスケートを

オープニング

●覇竜領域にて
　覇竜領域デザストルは大陸南方の山脈に拠点を置く竜種の領域だ。
　国というよりは棲家といった方が適切でしょう。住民である人種『亜竜種』たちは領域（くに）と呼んでいる。
　竜種の住処であるという危険性から人類未踏の地ともされ、地理に関してはほとんど分かっていない。
　人間（人類）とは土台存在の異なる上位竜種の存在が多数観測されており、亜竜種と呼ばれる人種以外の混沌生命体は進んで此の山脈には近付きもしない。
　竜は自身の認めた勇者にのみ力を貸すとされているが、実際の所その観測例は殆どなかった。
　伝説や記録には極々稀に『竜を従えた勇者』の存在は記録されているのだが、実際の所それが可能であるかどうかは定かではなく夢物語であった。
　だが、絶望の青にて観測されイレギュラーズと敵対した『滅海竜』リヴァイアサン、練達で観測された『怪竜』ジャバーウォック等、その存在は夢物語ではない。
　そして……そのデザストルの亜竜集落フリアノンから地下通路を通ると、亜竜集落ウェスタと呼ばれる場所に到着する。
　ピュニシオンの森と呼ばれる深き森の近くに存在する地底湖周辺に集落を築いた水竜が始祖である集落だ。
　地底湖に繋がる湖には獣よけの魔法が施されており、許可なき者を決して通さないという、その場所だが……。
　そういう事情をさておけば、結構ウェスタの住人は気ままに暮らしてはいる。
　たとえ、その生活が常に死と隣り合わせのサバイバルだとしても、だ。

●永久氷結池
「前回のお昼寝みたいにウェスタの住人のお楽しみを勉強してみたいんだ」
「棕梠の嬢ちゃんを参考にするのはどうかと思うがのう……」
　この場には居ない３人娘の１人、棕梠のことを思い返しながら黒鉄・相賀は『竜剣』シラス（p3p004421）にそう返す。
　３人娘の中でも２人は放蕩癖があるが、その内の１人である棕梠は昼寝好きで、あっちこっちに昼寝スポットを持っている。
　正直、その辺りをウェスタの住人の参考にするのはちょっとどうかという部分があるが。
「しかしまあ、そうじゃのう。ウェスタの住人のお楽しみか……」
　相賀はしばらく考えるそぶりを見せると「ああ、あれがあったのう」と声をあげる。
「ウェスタの近くの水場に、永久氷の張っとる水場があるんじゃよ」
　どうにも池の下の方に何かがあるらしく、ちょっとやそっとでは割れないし溶けない氷が張っているのだ。
　それを利用して、ウェスタの住人のスケートリンクになっているのだという。
「最初は外から輸入しとったんじゃが、最近では作るようになっての。ほれ、こういうのじゃ」
　言いながら相賀が取り出してきたのは、確かにブレードのついたスケート靴だ。
　かなりデザインも凝っている……もしかすると一点ものかもしれない。
「ま、そういう場所なんじゃが……今の時期はワイバーンがちょっとばかりウロチョロしとっての。普通は危険なんじゃが、お主等なら問題ないじゃろ？」
「まあ、そうだな」
「よし、決まりじゃ！　靴はなければ貸してやるからの。頼んだぞ！」

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●楽しいスケートのために
「うーん、まっさらだな」
『竜剣』シラス（p3p004421）が青い空を見上げて、軽く伸びをする。
　今日は天気も良く、空にはまだワイバーンたちの姿はない。
「何これ寒ッ！　覇竜ってこんな所もあったのかよ。氷上の精霊ばりに滑るには、自分の身体を動かして温まってからじゃねーの。運動に丁度いい相手もいるみてーだしな！　ラッキーボーイ＆ラッキーガール！　ちゃっちゃとお邪魔虫を片付けちまおうぜ！」
『ラッキージュート』ジュート＝ラッキーバレット（p3p010359）もそんな声をあげるが……確かにもう春だというのに、此処は随分と寒い。
　その原因が、目の前の永久氷結池にあるのは……まあ、間違いないだろう。
「こんなところに天然のスケートリンクがあったとは。世界は驚きに満ちていますね」
「色々な場所があるんだねデザストル……集落ごとにも特色があるし、そこから離れた位置にもこんなに不思議な場所があるなんて」
『ファンドマネージャ』新田 寛治（p3p005073）と『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル（p3p000649）はそんな事を言い合うが……実際、永久氷結池のような場所は数は少ないが幾つか存在してはいる。
　だが、その全てがそれぞれ違う理由で「そう」なっていたりするので、本当に不思議な場所なのである。
　今アクセルたちが見ている永久氷結池も、冷気が漂ってくる程度には完全に凍り付いており……文字通りの「不思議」な場所だ。
　そんな場所をスケートリンクとして使用しているのだから、亜竜種たちも中々に図太いと言えるだろう。
「溶けない氷たぁ珍しいもんがあるな」
「スケートも楽しそうだけど、永久凍土の環境を作り上げている原因は何なのか……興味あるわね」
『竜撃』ルカ・ガンビーノ（p3p007268）と『狐です』長月・イナリ（p3p008096）も物珍しそうに永久氷結池を見つめる。
「スケートは聞いたことはあるがやったことはねえんだよな。砂漠生まれの砂漠育ちだから当たり前なんだが……ま、氷の上を滑るだけだろ？　ラクショーだろ！」
　おっと、何かフラグがルカに立った気がするが……さておいて。
「氷……綺麗です！　フィギュアスケート覇竜GP、と聞いたのでちゃんと調べてきました。私もあんな風に滑ってみたいです！　その前にワイバーン退治頑張ります！」
　誰だろう、そんな与太を『未来を願う』ユーフォニー（p3p010323）に吹き込んだのは。
　寛治しかいない。本当にあのファンドマネージャは。
「お、どうやら来たみたいだな」
　シラスの声に、全員がその方向に視線を向ける。真っ赤な身体のフレイムワイバーンが３体、此方に向かって飛翔してくる。
「じゃあ、打ち合わせ通りに！」
　イナリがルーンシールドとマギ・ペンタグラムを展開し、フレイムワイバーンを迎え撃つように走る。
　こちらに注意が向けば、酒解狂騒霧を発動させフレイムワイバーンの注意を引き付ければいい。
「スケートリンクが溶けて悲しい事になったら嫌だもんね、頑張りましょ！」
「おう、イナリちゃんが敵をまとめた所を皆でドカン！　短期決戦でカタを付けるぜ！」
　イナリにジュートもそう答え、アクセルも雲海鯨の歌を構える。
「できるだけ氷に影響がないように戦わないとね。あとでスケートで遊ぶことを考えても！」
　そう、フレイムワイバーンなどにはさっさとお帰り願わなければいけない。
「しかしまあ、こんな連中が飛び回ってる場所がまだ危険区域じゃないってんだから恐れ入る」
　イナリが引き寄せた敵にシラスの猪鹿蝶が炸裂し、寛治のラフィング・ピリオドがフレイムワイバーンに痛烈な一撃を与える。
「おっ、いい感じに引きつけられたな？　シャオラーーーーーッ！！！」
　千尋もフレイムワイバーンの背中に飛び掛かって背中にしがみつきDo or DieからのTop Downにもっていこうとする。
「ごめんね…でも火で氷が溶けちゃったらウェスタの皆さんもスケートできなくなっちゃうの。別のところで遊んでね……！」
　ユーフォニーのロベリアの花が炸裂し、ジュートがエーテルガトリングを放つ。
　完全に作戦がハマり、フレイムワイバーンたちは慌てたように千尋を振り落として空へと舞い上がり逃げていく。
　余程待ち伏せされて強烈な打撃を加えられたのが効いたのだろう、まだ戦闘する余力は大分あるだろうに「やってられるか」と言わんばかりの逃げっぷりであった。
「ま、深追いはしねえさ」
　振り落とされた千尋は、そうニヒルに笑って。
「どうやら腕に覚えのある方もいらっしゃるご様子。ならばここは、フィギュアスケート覇竜GPの開幕、というわけですね」
　何が「ならば」なのかは分からないが、寛治の提案によるフィギュアスケート覇竜GPの開幕である。

●フィギュアスケート覇竜GP
「練達のテレビってやつで見た事あるぜ、スケート！　お手入れブラシにジョイントパーツ付けて、氷の上をキュキュッと磨けば……ほぉら鏡みたいにピッカピカだ！　普段からコイン磨きのおかげで、何かをピカピカにするのは大得意だからな！　あとは丸い重り的なサムシングを滑らせるんだろ？　……え？　それはスケートじゃなくてカーリング？」
　ジュートがつーと氷の上を滑っていくが、さておいて。
「よし、まずは俺がやってみるか」
「石油王（ルカ）！　滑れるかー！？　滑り方わかんねえなら俺が教えてやろうか？　え？　必要ない？　やっぱり油田持ってる奴は違うな～！　憧れちゃうな～！」
　ルカは千尋に軽く返すとシューズを履いて、リンクへと降りる。
「よーするにテキトーに滑べりゃいいんだろ？簡単じゃねえか」
　履きなれねえ靴だが、そんな難しいわけでもねえ……などと言いながらルカは滑り出す。
「ほら！　へへへ、やっぱ簡単じゃねえか！」
　転ばないのは流石にルカといったところだろうか、絶妙なバランス感覚だ。
　良い感じにスピードに乗って滑るルカだが……バランス感覚と技術は別のものだ。
「……ところでこれどうやって曲がるんだ？」
　そう、エッジの使い方も分からなければ曲がる方法も分からない。
　ついでに言えば転ぶ方法も分からない。
　当然のように、ノリに乗ったスピードを落とす方法も分からず速度は上がりに上がって全速力。
　そのまま柵にぶつかり、ガヅンッととんでもない音をたててルカは悶絶する。
「があああ！！　くそ、なんつー耐久力が問われるスポーツだよ！」
　別にフィギュアスケートは耐久力は問われないし、今のルカのはスピードスケートじみていたがさておこう。
「くそ……ちょっと痛みが引くまで周りのやつらが滑ってるの見て学習するか」
「なら、次はオイラだね！」
　アクセルが思い出すのは、故郷である幻想の雪山内の凍った湖で遊んだことだ。
　雪山に住む『灰雪の騎士』スノウ・ダイン・スロウスのことを思い出せば、自然と滑りに感情ものっていく。
　翼を振るなどして反動をつけ、加速やバランスをとる手助けとしながら滑るアクセル。
　完全に勢いに振った、スピードで魅せる演技だ。
「やるじゃねえか」
　基本が間違っていなかった、とルカはアクセルを見て学習する。
　幸いにもアクセルはルカより基本を知っていたしスピード重視な点でも似ていたので、ルカはすぐにコツを吸収する。
「ははぁん。なるほど、そうやって方向転換するのか」
　アクセルの演技が終わった後、ルカは再度のチャレンジをする。
　見様見真似でも、徐々に滑れるようになっていく。まあGPでの優勝は出来ないだろうが、楽しむことは重要だ。
「ここらで一発挑戦……を！」
　興が乗ったルカはジャンプ回転して勢いのまま柵にぶつかってしまう。
　まさに痛打だ。とても痛い。
「がああああ！！」
　転がりながら仲間に救出されて、ルカは再び「見」に入ってしまうが……この痛みからまた学ぶだろう。
　そして、次は千尋だ。ルカの失敗を糧に学ぶものは多かった。
「よ～し俺は見よう見まねのスピードスケートごっこだ。行くぜ皆！　ついてこいオラァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーー………………」
「……って、千尋ーッ！？」
　ガヅンッとぶつかる音。どうして人は悲劇を繰り返してしまうのか。
　何もぶつかるところまで見様見真似でなくても良いのではないだろうか。
　悶絶する千尋をルカが優しい目で見ているのは「分かるよ」と言っているのだろうか。
　とにかくシラスに助けられて、千尋は無事に戻ってくる。
「まさか止まり方が解らないとはな。俺とした事が盲点じゃった盲点じゃった」
「ハハッ何だお前ら、スケートは初めてか？」
「やったことあるみたいに言うな」
「ガキの頃から結構やってたぜ」
　ルカにそう答えるシラスだが、ちゃんとした理由もある。
「何せ金のかからない遊びだ、スケート靴のままジャンプだって出来る。当時はこんな立派な靴ではなかったけどな」
　今履いている靴は覇竜製の最新モデルだ。当時のモノとはとてもではないが比べられない。
　だが、それは裏を返せば制限されたいたものが解き放たれるということでもあった。
「それをイレギュラーズとして場数を重ねた今の身体能力で試してみたい」
　まずはリンクに降りて、思いきり滑る。
　エッジが氷をジャッと削るが、すぐに元に戻っていく。
　まさにリンクとしては最高だろう、整備の必要がない。
「ああ、広くて気持ち良いな、最高だ」
　最高の整備が自動的になされる、充分な広さのリンク。
　なるほど、此処が遊び場になるのも分かるとシラスは思う。
「スケートってのはこうやるんだよ」
　そう、シラスには出来る。演技の組み立てをすることが。
　エキスパートレベルの舞踏、アクロバット、ステージ技術をフル回転で活用していく。
　エッジで氷を打ち鳴らしてリズムに乗ってからのスムーズな滑り出し。
　大自然のオーディエンスに見せつけるように両手を広げて体を反らす、その美しさ。
　スピードを上げて舞うようにサルコウ、アクセル、トゥループと繋いで……更にジャンプへと繋げていく。
「今の俺なら出来る、４回転だー！」
　そう、シラスが飛んだのは見事な４回転。とてつもない大技だが、シラスの言った通り「今」の身体能力であれば可能だったというわけだ。
「シラスさんすごいです……！」
　ユーフォニーも、その華麗さには目をキラキラとさせてしまう。
　自然と巻き起こる拍手に混ざりながら、寛治も思わずニヤリと笑う。
「純粋な技術点なら、私ではシラスさん達には及ばないでしょう。ですが、演技構成点との合計なら私だって負けませんよ」
　さあ、そして次に挑むはイナリだ。
「戦闘終了後のスケート、どうせなら最速を目指してみるわ」
　そう、技がなくとも速さはある。ならば、それを極めるのは当然の帰結と言えるだろう。
　ルカと千尋という結果もあるが。
「その秘密兵器が『加速用噴進弾』よ、スケートブーツに噴進弾を固定して点火、一気に加速する作戦だわ……勿論コースアウトすると大惨事になるから、スケートリンク場の真ん中に強固に杭を打ち付け、私の身体をロープで固定、直線移動してもロープに引っ張られて杭の周りをグルグルと旋回する様に小細工するわ」
　加速用推進弾。
　稲荷神が作った噴進弾（ミサイル） 対象物に固定する事で、その移動力を強化するが何故か爆発する弾頭入りで、数万分の一の確率で暴走し始め、移動力が数百倍になり、弾頭が大爆発する欠陥品であるらしい。でも、超低確率だから安心だ、とのことだが……どのあたりに安心要素があるのか、ロシアンルーレットでも同じことを言えるのか。ともかく冒険野郎ということだ。
「準備は整ったわ……最速の世界に勝負よ！」
（そういえば噴進弾のメンテナンスしてなかったわね……ま、いいか）
　良くない。
　大爆発したイナリがリンクに転がるが……やはりリンクは即時に直ったので安心である。
　そして次はユーフォニーの番だが、スピードジャンキー達とは違い、ちゃんと練習もしている。
「少し慣れてきたし、私もくるくるってジャンプできるかな……！　よしっ……せーのっ！」
　まあ、練習したとしてもジャンプは非常に難しい。
　練習も必要だし、才能も必要だ。ユーフォニーの才能の有無は、分からないが……少なくとも練習は足りていない。
「＿＿いっっったたたたた……うぅ……助けてミーちゃ〜〜〜ん！！！」
　ミーフィアは寒くて丸まっていた。ドラネコは実に自由である。」
「今度練習しに来よう……」
　シラスに助けられてユーフォニーが戻ると、最後は寛治の番だ。
　なんと寛治、混沌音楽祭記念メダルを持ってきている。
　何処からともなくBGMが流れる場合があるというこのメダル、寛治のリンクインに合わせて「Bravery Legion ～PandoraPartyProject Overture～」を流し始める。
　この壮大な曲を私のスケーティングで表現しようというのだ。
「フリースケーティングの規定４分よりはやや長い曲ですが……滑りきってみせましょう」
　ファンファーレに合わせてリンクを広く使う雄大なスケーティングで滑り出し、最初の主題に合わせて最初のジャンプは４回転サルコウから、曲の盛り上がりに合わせて４回転トゥーループ。
（曲が聴衆を掴む所にジャンプを重ねる……！）
　ピアノとハープの旋律に合わせてトリプルフリップからのフライングスピン、マーチングへの転調に合わせてリズミカルなステップを刻み、悲しい旋律に合わせてシットスピン。
　そして、ここから後半。一切の手抜きはない。
　フィナーレに向けて盛り上がる曲に合わせ、高難易度ジャンプを連続して飛ぶ。
　３アクセル２トゥーループ、３アクセル１ループ３サルコウ。そして曲の最後には一番高く飛び４回転アクセルでフィニッシュ。
「では、キス＆クライでお待ちしてます」
　完璧な構成だ。最後の最後までミス１つなくやりきった寛治に、流石のシラスも拍手を贈るしかない。
　フィギュアスケート覇竜GP。その初代優勝者の栄誉は……寛治に贈られたのだ。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

プレイングの比重で「流石だぜ皆さん……」と思いました。
フィギュアスケート覇竜GP、お疲れ様でした！

……ん？